でもあのくらいのロリさになるとどちらかというと保護欲が湧くと言うか。
もうちょっとこうね、いい感じのロリっ子をお願いしますよ運営さん!!
『VS偽リンゴ団長その1 初動 』
襲撃予告日当日、午前10時。
騎士団長たちのアクアシャドウが現れ、襲撃の予告をしてきたことは既に花騎士たちに知れ渡った。
リリィウッドを守る為、この国に居る団長たちは可能な限りの戦力をかき集めた。
「それで、団長さんの様子はどうかしら?」
「ダメです。昨日からずっと『銅鉢、銅鉢が……』ってうなされています」
「そう、やはり無理そうかしら」
その日のサクラは珍しく表情が優れなかった。
いや、リンゴ団長の部隊の花騎士たちはほぼ全員の表情が硬かった。
昨日の水影団長の襲撃の際に彼女たちは団長の動きを封じられ、何もできなかった。
緊急の措置として、現在は臨時でナズナ団長の判断を仰ぐことになっているが、彼女らの表情は緊急事態に何もできなかったが故に曇っているわけではなかった。
「団長さんに、私たちは勝てるのかな……きっと無理だよ~」
そして一番テンションが低いのは、キウイだった。
彼女は今回の敵に自分たちの団長のアクアシャドウが相手と知り、ずっとこの調子だった。
「団長さんは私たちの戦い方とか強みも弱みも全部知ってるもん。
その上で滅ぼせるって言ってるんだからもうダメだ、おしまいだぁ~」
陰鬱な表情のキウイを誰も諌めないのは、彼女の言っていることが自分たちの思っていることの代弁だからだった。
「そうね、団長さんが昔言っていたわ」
それを否定せず、リンゴと話していたサクラはみんなに向き直る。
「自分は害虫がこんなことをしてきたら嫌だ、と言うこといつも考えているって。
多分、害虫を最も上手く運用できるのはあの人以外いないでしょうね」
戦いの基本は相手が嫌がることをすることだ。
単に数で押すだけでも十分厄介な害虫が、戦略や戦術を駆使する。まさに悪夢だ。
「団長さんが悪意を持って害虫を扱えば、私たちはひとたまりもないかもしれない」
サクラの言葉に、皆が脳裏に普段の団長の姿を思い浮かべる。
害虫に対して悪魔のような所業で勝利しつづけてきたあの男の背中を。
そのおぞましいまでの発想と頭の回転は、彼女たちに勝利を齎し続けてきた。
「だけど、彼が率いているのは私達じゃないわ。
団長さんが今まで勝てたのは私達があの人を支えてきたからよ、違うかしら?」
「そうですよ!! たとえ団長さんが害虫を従えてきたって、私達みたいに動けるはずありません!!
私たちは本物の団長さんに鍛えられた本当の部下ですよ!!
私たちが勝てると思わなきゃ絶対に勝てませんって!!」
不敵に笑って見せるサクラに、リンゴも皆に奮起を促した。
「そうですよ、団長さんなんてどうせ私たちが居ないとダメダメなんですから!!
どんなに上手く害虫を使ってきたってどうせ私達には勝てませんよ!!」
そんな二人にあっさりと感化されたリシアンサスが声音をあげてそう豪語した。
「そうね、私たちのことを団長は知り尽くしているかもしれないけど、私達だって団長さんの戦い方を知り尽くしている。
練度なんて期待できない害虫たちなんて、物の数じゃないわ」
キルタンサスが拳を握ってそう言った。
「うーん、でもなぁ」
「ランタナちゃん、水を差しちゃダメだよ」
それでもやっぱり表情が曇っているランタナを、ペポは止めた。
わりかし思考回路が似ている彼女は、いや彼女以外の誰もが分かっていた。
獅子に率いられた羊の群れは、羊に率いられた獅子の群れに勝ると。
害虫じゃ練度が期待できない? じゃあゲリラ戦に徹するわ、といつもの笑みを浮かべる団長の姿がここにいる全員が想像できていた。
それでも、戦う為には始めから負けるつもりで挑むわけにはいかないのだから。
そして、彼女らは久々に団長不在のまま行動を開始した。
11時30分。
彼女たちはリリィウッドの城下町周辺ではなく、北東の無垢なる森林区へと移動していた。
「あの~、どうして私たちはリリィウッドじゃなくて森の中を進んでるんですぅ?」
あまりこの周辺をよく知らないリムナンテスが先頭を歩くサクラに尋ねた。
ナズナ団長の判断により彼女たちは単独行動を許されていた。その方が一番良いと、彼が判断した。
「私が団長さんなら、リリィウッドを効率的に滅ぼすならまず水源に毒を撒くからかしらねぇ」
「やっぱりそうしますよねぇ……」
昔をよく知るリンゴが嘆息するようにそう呟いた。
そう、この先にはリリィウッドの大きな水源が存在する。
「エレンベルクの樹海方面ではない理由は?」
クロユリがもう一つの大きな水源について尋ねた。
「単純に遠いからかしら。あっちの水源は国境をまたいでフヴァの氷結湖まで遡るし、それに巡回中の部隊に害虫の不自然な動きは見られなかった。
団長さんなら害虫の毒を使うはずだし、そう言った種類の害虫を見たり動いた様子は無かったみたいだから」
「なるほど、妥当だな」
「ええ、妥当なのよねぇ」
この後の展開を予測しているサクラの様子を察し、クロユリはそれ以上何も言わなかった。
「よう、早かったなお前たち。十五分前行動とは感心感心」
かくして、無垢なる森林区の水源にて彼女たちは出会った。
リンゴ団長のアクアシャドウに。
「サクラ、流石だなお前。お前なら絶対にここに来ると思っていた」
「そこまで計算づくの陽動でしょう?」
賞賛されたと言うのに、サクラは少しも嬉しそうにせずにキノコに腰掛ける偽リンゴ団長にそう答えた。
「陽動? 違うな必要な手順を踏んだだけだろう。
話しを次に進める為に必要なフラグを回収したのだ。
お前たちは俺がここで毒を撒くか否かを確認しにきた。
そして俺はこいつらの――――」
偽団長は背後に控えている害虫を示した。
「毒を撒くのにしくじったと言う口実が出来るわけだ」
「団長さん、貴方は本当にリリィウッドを滅ぼそうとしているんですか?」
「え? いきなりその核心突いちゃう?」
偽団長はにたにたと小馬鹿にするように返した。
「見て分からないか? ちゃんと滅ぼそうとしてるじゃないか」
「その害虫一匹の体液を絞り出したところで、水源を完全に汚染できるとは思えませんから。
花騎士の部隊が浄化に来て終わりです」
「それでも最低限の戦術的な役割を果たしている。
そして俺は次の手を打つ必要がある。悪いがこのゴミ片付けておいてくれ」
「待ってください!!」
後ろの害虫をポンと叩いて背を向ける偽団長を、リンゴが引きとめようとした。
「残念だが、今お前たちは俺とは戦えんのだ。
俺と戦うためのフラグが未回収だぞ。大人しくイベントが進むのを待ちな」
「逃がすと思うのか?」
「昔からよく教えているだろう? 戦いにおいて負けない為には、負けると分かっている時に戦わないことだ。
だから俺は今、お前たちと戦わない」
偽団長はクロユリにそう返すと、水源の中に飛び込んだ。
それと同時に、大人しくしていた害虫が動きだし、直後クロユリに斬り捨てられた、
「くそ、逃げられた!!」
「もうすぐあちらでも戦いが始まるわ。
残してきたランタナちゃん分隊が心配だわ、みんな、戻りましょう」
サクラの指示に従い、最小限の人数だけを警戒の為に残して彼女たちは退却を開始した。
『VS偽チューリップ団長その1 大戦果 』
その日、リリィウッドの城下町では至って普段通りの人々の営みが行われていた。
彼らは昨日喉元にまで害虫が迫っても、アクアシャドウが現れたとしても、更に彼らに襲撃を予告されても、何事も無かったかのように生活していた。
害虫が侵入する騒ぎはいつものことであり、避難しようにも彼らに逃げ場所など少ない。
何かあったら花騎士たちが守ってくれる、という感覚の麻痺の元に、彼らはいつも通りに日々を過ごす。
「本当に、バカな連中だよね。危機は目の前に迫っているってのに」
そんな城下町の広場の噴水の中から、変わらぬ日常を謳歌し続ける人々を嘲笑う声が発せられた。
そして、ばしゃり、と噴水に溜まっていた水がひとりでに立ち上がる。
その光景を見ていた人々は、誰かが水の中に潜っていたのかと錯覚した。
だが、違った。
「どうも、皆さん。いつも本物がお世話になってまーす!!」
本物のアクアシャドウを見たことのない人々であろうと、その水の体を持つヒト型を見ればそれが何なのか伝聞の情報だけでも理解した。
「あ、アクアシャドウだッ、アクアシャドウが出たぞーー!!」
誰かの叫び声と共に、その事実を認識した人々はパニック寸前で逃げ惑い始めた。
「えー、まだ何もしてないのに逃げるなんて、俺ちょっとショック……」
「おい誰か、花騎士を呼んできてくれ!! 早く!!」
「ちょいちょい、そこの衛兵さん」
事態を認識した衛兵たちが逃げる人々の盾になるべく現れた偽チューリップ団長を槍の切っ先を向け、救援を呼ぶ。
「ねえ、このアクアシャドウ、チューリップ団長じゃない?」
「アクアシャドウって花騎士の姿をしてるんじゃなかったの!?」
「どんな姿をしてたってアクアシャドウには変わりないだろ!!」
女衛兵たちは恐怖に槍の切っ先を震わせながら仲間と言葉を交わした。
「まあ、そうだよね。それが普通だよね」
その対応に嘆息しながら、彼はゆっくりと笑みを浮かべる。
「おい、そこのお前たち。誰でも良いからプロテアさんを呼んで来いよ」
「は、はぁ?」
「い、いくらチューリップ団長の姿だからって、プロテア様を呼んでくるわけないでしょ!!」
「というか、仮にも呼べる立場じゃないっていうか……」
「言うこと聞かないと害虫をここの皆にけしかけるよ? ほら、早く」
偽団長の脅しに、衛兵たちは涙目になって動けなくなった。
もう殆どの住人達が逃げたとはいえ、出店の屋台などの裏に隠れている商人など、幾人かの人影は見えるのだ。
「はぁー、つっかえないなぁ。
殺すよー、殺しちゃうよー、プロテアさん呼ばないとヒドイことするよー」
「お、お前なんか花騎士の皆さんが来てくれればすぐにやっつけてくれるもん!!」
そんな若い女衛兵の強がりを、偽団長は心底可笑しそうに笑った。
「君さー、もうちょっとマシな強がりを言えないの?
残念だけど、花騎士に俺は殺せないよ。絶対にね。
しょうがないから待つよ。彼女に情報が伝わるまで、遅いか早いかの違いでしかないんだから」
にやにや、と彼は怯える衛兵たちを眺め続けるのだった。
そして偽チューリップ団長が城下町の広場に居座って、プロテアが出てくるように要求しているという情報は僅か三十分で彼女に伝わった。
「みなさん、大丈夫ですか!!」
親衛隊の三人を伴い、彼女は息を切らせて広場へと駆けつけてきたのだが。
「へぇ~、アクアシャドウの体ってこんな風になっているのねー」
「見て見てお肌艶々よ、羨ましいわー」
「やめてよ二人とも……」
偽団長はチューリップ姉妹の上二人にいじくり回されていた。
「あのー、お二人とも何をしているんですか?」
「え? 何って、調べてるのよ。アクアシャドウを」
プロテアの問いかけにイエローチューリップは当然のように答えた。
「ええと、お二人が捕えたという認識でよろしいんですか?」
「うーんそれが、ちょっと面倒なことになってて」
レッドチューリップが困ったような表情で、偽団長のほっぺたから手を放す。
そんな怖い者知らずな二人を衛兵たちや住人は恐ろしげにしながら遠巻きに見ていた。
「……どういうことですか?」
「ああ、プロテアさん、ようやく来てくれた」
チューリップ姉妹の対応に辟易した様子の偽団長はプロテアの姿を認めてホッとした様子を見せた。
「少し、話をしませんか?
こんなところじゃあれですし、あの建物でなんてどうです?」
そう言って彼が指示したのは、元老院の会議場だった。
「その要求を、聞かねばならない理由がありません」
「プロテアさん、俺が何で害虫の一匹も連れずに敵の本拠地のど真ん中にのこのこ現れたと思いますか?」
彼は楽しそうに彼女にそう言いながら持っていた物を提示した。
それは水でできた手鏡だった。
「こんなこと、害虫にされたことないでしょう?」
おそるおそるプロテアがそれを覗き込むと、そこにはここではない別の場所が映っていた。
その場所は、小さな女の子がロープで木にくくりつけられ、クワガタ型害虫のハサミで今にも首が引き千切られそうな様子を示していた。
当然、その少女は恐怖に引き攣った表情をしており、目元には涙が乾いた跡が見えた。
「こ、これはッ」
「まあ要するに、人質ですね。
俺は他の団長たちと違って出来損ないでろくに害虫を操れやしないんですけどね、こうやって一匹ぐらい『待て』をさせることぐらいできるんですよ」
プロテアの表情が驚愕からこわばり、怒りに推移していく様子を楽しんでいる偽団長は、にやにやと笑いながらそう語る。
「こんなこと、止めてください」
「やめろって言われて止めるなら犯罪は無くなりませんって。
ちなみに、この害虫は俺が制御しているわけで、俺が消えれば本能ままに行動するでしょう」
「そうじゃありません。
あなたが、偽物と分かっていてもあなたがこんなことするのが私は悲しいんです」
「情に訴えても無駄ですよ、俺は敵としてきてるんですから」
若干プロテアから目を逸らして、偽団長はそう強く言い含めた。
「さて、テロリストと交渉しないのは基本中の基本ですが、プロテアさんはどうするんです?」
「……いいでしょう、ですが建物の中にいる人間を避難してからで構いませんね?」
「どうぞ、俺も静かな方が都合がいいし」
偽団長は得意げに笑みを浮かべ頷いた。
それから更に三十分後、二人は元老院内にあるサロンでテーブルを挟んで向き合っていた。
プロテアの背後に親衛隊の三人がいるだけで、周囲に誰も居ない。
チューリップ姉妹の上二人は、さり気なくプロテアに「一応こっちは任せて」と長女が言ってから去って行った。
「プロテアさんも甘いですね、敵の要求を呑むなんて。
俺の本物ならきっとキツイダメだしをしますよ」
「政治家は人ですから。目の前の誰かを見捨てるような人でなしに務まるとは思ってませんし」
プロテアは偽団長の挑発的な物言いに、やんわりと笑って返した。
「…………ほかの水影たちにはある程度目の前の人間の心を読めるらしいんですが、生憎俺にはそういう技能が備わっていないのが残念ですよ」
「私は、貴方が何をしたいのかわかりません。
こんな風に私たちを脅し、己の弱さまでアピールしてまで交渉の席について、貴方は何が望みなんですか?」
「厳密に言うなら、もう既に俺たちの作戦上の目的と俺の望みは叶っているんですよ」
「というと?」
彼女の問いに、偽団長はプロテアたちを指差す。
「そこそこ強い花騎士が三人と、すごく強い花騎士が一人。
そんな人たちが俺みたいなザコ相手に戦線を離れて立ち往生している。これって俺のスペックからすれば大戦果だと思いませんか?」
「その上、今頃チューリップさんたちが人を集めて人質を探している頃でしょう。
アクアシャドウが害虫を操れる範囲は限られているそうなので、そう遠くはないと」
「あれ? そういう事俺の前で言っちゃっていいんです?」
「だって、ハッタリでしょう? 人質なんて」
プロテアは微笑んだままそう言うと、偽団長は目を細めた。
「多分害虫を一匹だけくらいなら操れるってのも嘘。
こうして私たちの懐に入り込んであることない事喋って混乱させるのが目的と見ましたが?」
「わかりませんね。
あなたがそう思うのなら、どうして俺を元老院の中まで招きいれたんです?」
「今の話の根拠が、私の勘とそうであってほしいという願いでしかないからです。
だから少しでも本当である可能性がある以上、人手を割いて探させる必要合が有る。
なにより――――」
プロテアは目の前の策士を正面から見据えた。
「貴方をこの建物に釘付けにできる」
「俺を? 随分と臆病が過ぎるんじゃないんですか、プロテアさん」
やや呆れた様子を見せる偽団長を、プロテアは真顔になってこう続けた。
「私は団長たちのアクアシャドウが現れたって聞いた時、一番恐ろしいと思ったのが貴方でした。
軍略に長けたリンゴ団長でも、明晰な頭脳と魔術を多く収めたキンギョソウ団長でもなく、こうして敵の目の前でも冷徹に自分のできることを最大限にし続けようとする貴方が怖い」
「…………」
偽団長が彼女の背後の親衛隊の三人に目を向けると、彼女たちはプロテアに賛同するように何度も頷いていた。
「そんな貴方を、私たち四人だけで抑えられる。大戦果じゃないですか」
意趣返しのように少し笑みを浮かべたプロテアがそう口にした。
「ふふッ」
僅かな沈黙の後、偽団長はおかしそうに笑った。
「よかった。俺のオリジナルがベタ惚れするだけはある」
「ところで、もう一つの目的とは何なんですか?」
「わかりませんか? こうして貴女と話すことですよ。俺はずっとあなたに興味が有った」
偽団長は心底楽しそうに笑っていた。
「さあ、不毛な足止めのし合いを始めましょうか」
『VS偽キンギョソウ団長その1 恐怖 』
時刻は午前11時。
「皆の者、心配を掛けた」
騎士団支部の医務室で呪いに苛まれて寝ていたはずのキンギョソウ団長が酷く顔色が悪いまま姿を現したのだ。
「団長さん、呪いは大丈夫なの!?」
この建物にいる花騎士はほぼ出払っており、数少ない待機組だったバラが彼に駆け寄った。
「ああ。我に掛けられた呪いは比較的軽度のものだった故にな。
何とか自力で解呪してみせた。話しは聞いている。大分体力は消耗したが、なに指揮には影響あるまい」
「そんな、無理してはダメよ」
「わかってくれ、バラよ。我は貴族としてなさねばならぬ責務があるのだ」
自分をいたわる彼女を押しのけ、ふらふらの団長は玄関へと向かう。
「そんな状態でどこに行くつもりなの!?」
「部下たちが待っているのだ、あ、だが、皆はどこに居る? まずは指揮所に顔を出さねば」
「ああもうッ、こういう所で抜けてるんだから!!」
仕方なく、バラは彼に肩を貸しながら指揮所に向かうことにした。
「ううう、すまぬ。呪いを解くのに多大な魔力と体力を消耗してなければ……」
口惜しそうに団長は一歩ずつバラと共に歩いて行く。
「でもしょうがないわよね、キンギョソウさんの最後の仕事になりそうなんだものね。良い所見せたいわよね」
「……ああ、あれは今度引退するからな」
「長い間待たせてたらしいじゃない、これぐらい、キンギョソウさんの苦労に比べれば何ともないはずよ、頑張って」
「ああ……」
バラは賢明に団長を励ましながら、ゆっくりと時間を掛けて指揮所へとたどり着いた。
仮設された指揮所の周囲はもうバタバタしており、連絡の為の人員が行きかっていた。
二人が中に入ると、団長たちとその副団長や補佐官たちが揃い踏みし、これから襲撃に来るアクアシャドウの対策を練っていた。
「皆の者すまない、到着が遅れた」
「キンギョソウ団長!? 大丈夫なんですか!!」
お茶汲みをしていたナズナが彼の登場に驚き、駆け寄った。
「ああ、問題ない」
「もう調子が悪いなら来なければよかったのに」
遅れてやってきたキンギョソウも、団長の元へとやって来てそんな風に言った。
「我はこの国の貴族ゆえにな。こればかりは譲れぬよ」
「そっか、ところでバラさん」
キンギョソウはバラに目を向けた。
「私の引退の件、聞いといてくれた?」
「え? ここで? ええ、聞いておいたけど」
彼女の質問になぜか困惑するバラだったが、一応頷いていた。
「特に何も言われなかったんだよね?」
「ええ、まあ」
「そうなんだ、それじゃあ――――」
次の瞬間、キンギョソウはナズナを横に突き飛ばし、背負っていたハンマーを団長に向けた。
「お前は、偽物だ!!」
そう、叫びながら。
からん、とナズナの悲鳴と彼女が持っていたお盆から水差しが床にぶちまけられる。
静寂が指揮所の中を支配した。
「……ほう、なぜわかった」
たった今まで苦しそうにしていた団長――――、否、偽団長はつまらない演技を止めてにやりと笑った。
バラが信じられないと言った表情で後ずさる。
「だって、貴方の本物みたいなあんぽんたんが、私が引退するぐらいで正妻として結婚してくれるわけないでしょ」
ヒドイ理由だった。それでもすごい説得力だった。
「なるほどな」
どろり、とまるで本物同然の外見をしていた偽団長は、絵の具が垂れ落ちるかのように色彩が失われていく。
そして透明な水の姿を取り戻した。
瞬時に花騎士たちが偽団長を取りか囲む。
「よく分かったな、我が入れ替わりを画策すると」
「いやぁ、あなたが敵に回ったら絶対にそうするだろうなぁって思ってたから。
アクアシャドウは心が読めるらしいし、バラさんには本当のことは教えないでおいたんだ」
「我としても、正直このままことが済めば興醒めであった。
変装はばれるのを込みでなければな。もう少しもったいぶりたかったが、タイミングとしては丁度いい」
偽団長は指を鳴らした。
「え、ええ!?」
すると、突き飛ばされ倒れていたナズナが謎の力で引っ張り上げられ、偽団長の腕の中に納まった。
「私、人質ですかぁ!?」
涙目になってナズナが叫ぶ。
同時に、ナズナ団長が怒りを露わにして立ち上がった。ナズナを放せ、と。
「残念ながらそれは出来ぬな。この女は我らが有効活用させてもらう」
視線で花騎士たちをけん制しながら、偽団長は得意げに笑う。
「ねえ、一つ聞いても良い?」
そんな彼を、キンギョソウが見据えながら問う。
「よいぞ、我の正体を見破った褒美だ」
「じゃあさ、教えてよ。
昔、団長さんは自分は安易で下らない悪事なんてしないって言ったんだ。
悪と、邪悪は違うって。なら、こうして正体を暴かれてナズナさんを人質にするのって、恥ずかしくないの?」
周囲はもっと他に聞く事あったんじゃ、という顔になったが、キンギョソウも、問われた偽団長も真剣そのものだった。
「恥じる必要などない。
これは我が為す大悪への一歩である」
「大悪?」
同じ言葉を返すキンギョソウから目を逸らし、偽団長は他の団長たちに目を向ける。
その視線に団長たちは、正確にはこの国の団長たちは怯えたように震えた。
「我らが糧とするのは、恐怖の感情!!
それによって縛られ、我らは力を増す!!
なればこそ、我は本物の我のしたくてもできなかった大悪を為す影の存在!!
さあ怖れよ、恐れよ、畏れよ!! 吸血鬼の末裔が、祖先より多くの恐怖と爪痕をこの国に、この世界に残そう!!」
芝居がかった口調で、偽団長はとても楽しそうに語った。
「お前たちが恐れる以上の恐怖と悪を我は齎そう。
では、この場はこれまでとしよう」
人質を伴った偽団長は、悠々と水差しから零れた水たまりからストンと穴でも落ちるかのようにナズナと一緒に消えてしまった。
くそッ、とナズナ団長がテーブルに拳を落とす。
怒りに血が上った彼だったが、しかしすぐに落ち着こうと息を整える。
ナズナの奪還の為の部隊編成を考えようとすると、彼の視界に怯えた子供の用に縮こまって見えるこの国出身の団長たちが見えた。
普段の自信に満ちた様子は見る影も無く、まるで蛇に睨まれたカエルのようだった。
「つ、ついに、この日が来てしまったのか」
「あの方を敵に回すなんて……」
ナズナ団長は、なぜ彼らがここまで彼を恐れるのか分からなかった。
ただ彼に一つ分かることが有るとすれば。
今回の戦いは一筋縄ではいかない、と言うことだけだった。
ちょっとした予告を先日活動報告に乗せました。
一番上の奴ですね。まあ最近あまり書いてないのですぐに分かると思いますが。
先日職場でちょっと打撲をしてしまい、大したこと無かったんですが皆さんも怪我には十分注意してくださいね!!
それでは!!