貧乳派団長とリンゴちゃん   作:やーなん

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最近色々とまいっていたので、リハビリ的な投稿です。
お待たせしました。



短編連作 イベント編その3

『 悪党と脇役 』

 

 

 リリィウッド、ミズ回廊地下。

 地底に出現した無数の群体型の害虫、ミズウォルム攻略のための最前線の拠点に各騎士団の最精鋭が集っていた。

 

「諸君!! これより我らはこの惨めな虫けらを踏み潰しに向かうことになる!!」

 当然、そこにはリンゴ団長の姿があった。

 彼は他の団長たちの先陣を切る切り込み隊長であり、彼に付き従う花騎士も各国のそうそうたる面子だった。

 彼が激励する花騎士たちは、しかし怪訝そうにする者もいた。

 それもそうだろう。だって彼の横には、生きたまま串刺しにされた一番小さなミズウォルムの個体が無力化され見せしめにするようにしていたのだから。

 

「いいか、覚えておけクソ虫ども!! 

 この顔だ、この俺がお前たちを殺しに向かってやる!! それを全てに知らしめておけ!!」

 リンゴ団長は力なく蠢くことしかできないミズウォルムの個体に向けてそう怒鳴り散らすと、リンゴから短剣を受け取ってえぐるように刺しはじめた。

 先のマザー討伐戦に参加できなかったからか、その力の入りようも見て取れる。

 

「この俺が、貴様ら虫けらどもに恐怖を教えてやる!! 

 貴様らがどれだけの数いようと、たとえ地上を滅ぼしつくしても!! この俺が最後の人間になったとしても、お前らを滅ぼすことを決してあきらめたりはしない!!! 

 覚えておけ化け物、俺と、俺たちがどれだけ生き汚いか見せてやるよ!!」

「団長さん、この害虫は毒が強いのであまり……」

「わかっている」

 リンゴが心配そうに団長にそう言うと、彼はあっさりと短剣を一閃してその個体を殺した。

 すぐさまリンゴがまき散らされる毒素を浄化しはじめた。

 

「俺と共に生きて帰ると言う者だけ付いてこい!!」

 リンゴ団長が血の付いたままの短剣を掲げそう叫ぶと、各々の花騎士たちが呼応するように声を上げた。

 

 

「相変わらずだなぁ、リンゴ団長……」

 その様子を、キンギョソウは呆れたように見ていた。

 

「うーん、正直止めようかなぁ、と思ったケド、そのままやらせて正解だったね♪」

「あ、フリチラリアさん」

「いえーい、キンギョソウちゃん、ちーすちーす!!」

 ダブルピースしながらテンション高く彼女にやってきたのは、今回の討伐戦の総指揮官であるフリチラリアだった。

 

「まあ、最初は雑巾みたいに絞って生き血を全部抜いてやろうとしてたみたいだけど……」

「やっぱり止めた方がよかったかな♪」

 流石に害虫がため込んだ毒素を拡散させる真似はしなかったようだった。

 

「ま、あれがあの人なりの戦いの儀式みたいなものみたいだし、邪魔したら悪いと思ったのよね~」

 と、軽い調子の割にフリチラリアはリンゴ団長の本質を見抜いていた。

 あれは誰よりも己を叱咤激励しているのだ、と。

 

「フリチラリア様、こちらに居られましたか」

 そこに、チューリップ団長が現れた。

 

「あッ、チューリップちゃんたちのところの団長ちゃーん♪ 

 たしか君って後方支援担当だったよね、どうしてここに?」

「精鋭部隊が切り開いた地下への経路の保持と輸送経路の下見の為です。

 この戦い、ナイドホグル同様数日で終わるとは思えないので。つきましてはそれについて報告をと」

「うんうん♪ そういう慎重なところをプロテアちゃんが買ってるんだよね!! 

 それよりも、こうして直接話すのは初めてだよね!! 

 あたし、一度でいいからあなたと話してみたかったの♪」

「きょ、恐縮です……」

 彼女の軽いノリに付いて行けないのか、チューリップ団長は苦笑いだ。

 

「でもま、今はそんな感じじゃないねー♪ 

 一人で来たわけじゃないと思うけど、用事を済ませるのならちゃんと護衛を揃えてね♪ 

 それじゃ、私はキンギョソウちゃんをほっぽりだしてセダムちゃんといい感じになってるあの人に突撃してくるねー♪」

 フリチラリアはそう言ってキンギョソウにウインクすると、しゅたたたっとキンギョソウ団長の方に走り去っていった。

 

「やれやれ、軽いノリの花騎士は結構いるけど、あの人には慣れそうないなぁ」

 チューリップ団長がその後ろ姿を見てぼやいた。

 

「チューリップ団長、あなたは確か地上で物資の管理してたんじゃなかったっけ?」

「あー、うん、そうなんだけど、ちょっと俺の我がままっていうか」

「我がまま?」

「うん、悪いけれど、キンギョソウちゃん。

 誰かあの不思議生物と意思疎通できる人呼んでくれないかな?」

 

 

 

「教えてくれ、なんで俺なんだ? どうして俺なんかをこの世界に呼び寄せた」

 ここはミズウォルム討伐戦の最前線拠点。

 その場所は精霊マニュの村である。

 チューリップ団長は小さな精霊たちに跪いて顔を近づけ、訴えかけていた。

 

 生憎通訳として最も適しているヒガンバナは現在調査の為不在で、マニュたちは何かを伝えようとしているが、意思疎通は困難だった。

 

「あれ、キンギョソウさん、チューリップ団長さんや皆さんも、何をしているんですか?」

 傍から見れば異様な光景だった。

 なので、たまたま通りかかった伝令役のスコップちゃんが目を見張るのも当然だった。

 

「あ、スコップちゃん。うん、まあ、ちょっと取り込んでてね」

 キンギョソウは言葉を濁した。

 実のところ、この王室付きの文官だと言う彼女とキンギョソウは初対面ではなかった。

 

 彼女にとって思い出すも忌々しい団長の補佐官になった時の事件*1

 の頃から割と長い付き合いだった。

 当然彼女がどういう組織に所属しているのかも。

 

 キンギョソウは懐古する。

 そう言えば、チューリップ団長と初めて会ったのもその頃だったのだ。

 

 

 

 §§§

 

 

「ここが我が屋敷だ」

 団長に連れられ、彼の実家に連れてこられたのはあの事件のすぐ後だった。

 

「わぁ、魔女とか住んでいそう」

 幽霊屋敷とまでは言わないが、なんだか陰鬱な印象を受けるお屋敷だった。

 しかし、というか、キンギョソウは目を輝かせていた。

 

「趣きがあるであろう?」

「正直ちょっと心惹かれるかな……」

 不本意な理由でここに来たことだけが、彼女の胸中を占める不満の正体だった。

 

「ああ、黄昏の時が訪れる前に告げよう、我が屋敷に潜む四つの我が化身には気を付けることだ」

「はぁ?」

 突然妙なことを言いだす団長の真意を尋ねることもできず、彼はさっさと門を開けて屋敷の中へと入っていく。

 

「あ、ちょっと待ってよ!!」

 なんでこんなことになったのだろう、とキンギョソウは思いながら彼を追従していく。

 

 無論、それは思い出すまでも無いことだった。

 彼が家の者に会わせたい、と言うからしぶしぶついて行くことになったのだ。

 この男はすっかりキンギョソウの実家の方まで手回ししているらしく、彼女の婚約を祝う手紙が実家から届いた時にはしばらく開いた口がふさがらなかった。

 その上、彼女が知らぬ間に自分の両親に挨拶を済ませていたようなのだから、キンギョソウも若干諦めが入っていた。

 

「おかえりなさいませ、御当主様。キンギョソウ様」

 陰気で老齢な家令の男に出迎えられ、反射的にキンギョソウも挨拶を返した。

 

「爺や、伝えていた通りだ」

「はい。あちらにお部屋を用意しておきました。

 これからはこの屋敷を我が家と思ってお使いください。

 そして私たち使用人にも何なりとお申し付けくださって構いません」

 そう言って、最敬礼で老人はキンギョソウにそう告げた。

 

「あ、ありがとうごさいます……」

 本当にこのひとは貴族なんだなぁ、と彼女が思い知る瞬間だった。

 花騎士にも貴族の地位を持つ者は少なくないが、使用人を連れている人間など稀も稀なので彼女らの高貴な身分を実感できることはあまりなかった。

 

 そして、それは食事の用意が出来ていると言うので食堂に入って席に座ってすぐのことだった。

 

「ふふふ、あなたが我が兄上を誑かしたという花騎士ね!!」

「お兄様が認めたとはいえ、この家の者たちが認めるとは思わないことね!!」

「そうよそうよ!! その程度の魔力でお兄様の伴侶を名乗るなんておこがましいわ!!」

「お兄様は私たちらのよー!!」

 ささっとドアの奥からいかにも意地悪そうな表情をした四人の姉妹が現れた。

 ああ四つの化身ってそういう、とキンギョソウは半眼になって彼女らを出迎えた。

 

 気が強そうな長女と次女、まだ幼さの残る三女とまだまだ小さい四女という組み合わせである。

 全員が怪しげなローブ姿と言ういでたちである。

 

「どうせあなたは、二日も待たずにこの屋敷から逃げ出すわ!!」

「くくく、我が家の深淵に触れて正気で居られるかしら……」

「まったく、見ものだわ!!」

「なのらー!!」

 と、言い放った四人はスクラムを組んで、やった言えた、とか、一度でいいから言ってみたかった、とかキャッキャキャッキャとし始めた。

 濃いなぁ、とキンギョソウは自分のことを棚に上げてそう思った。

 

 そうしていると、メイドが料理を運んでくる。

 

「ええ、なにこれぇ!?」

 目の前に運ばれてくるメニューの数々を見て、キンギョソウは目を見開いた。

 

「ふっふっふ、今日は兄上が帰ってくると聞いて私たちが食事の準備をしたのよ!!」

「くくく、見るがいい!! この暗黒の瘴気に満ちた料理の数々を!!」

「思い知るがいいわ、これが我が家の食事なのよ!!」

「お兄様~、私もてつだったのー」

 そう言って顔に片手を当てたりして怪しげな笑い声を漏らす四人が作ったというメニューがこちら。

 

 悪魔の供物風心臓に見立てた黒チキンのサラダ。

 魔女の窯に煮たてたっぽい濃厚グリーンスープ。

 無駄にリアルな頭蓋骨に見立てた肉巻き料理。

 なんか怪しげなクリスタルのような見た目の飴細工。

 

「すごいすごい、このドクロ料理すごいリアリティだね!! 

 こういうリアル系の感じ私は作ったことないけど、どうやったらこんな風に作れるの!? 今度教えて!!」

「「「「え……」」」」

 予想していた反応と違って目が点になる四姉妹。

 ……この後、滅茶苦茶仲良くなった。

 

 

 

 §§§

 

 

 それから度々、団長……ではなくその妹たちと交流したり料理したりしている内に、何度か彼の屋敷に訪れていることになるのだった。

 そんなうちだった。彼女が後のチューリップ団長を見かけるのは。

 

「え、団長さん、取り込み中なの?」

「はい、申し訳ございません。これからお客様とお会いになられますので」

「せっかく可愛いドクロクッキーが焼けたから差し入れしようと思ったのに」

 そのように家令の老人に言われて、そう言えば、とキンギョソウは見覚えのない青年がメイドに応接間に通されているのを偶然見かけたのだ。

 

 仕方がないので、彼女は団長の私室に置いておこうと四姉妹と焼いたクッキーを皿に乗せた。

 無駄に凝ったり設定を付けたりする料理が大好きな四姉妹が新しいお菓子作りに挑戦している調理室を抜け出し、彼女は偶然応接間の前を通りかかった。

 

「うーん、気になる……」

 と言うのも、彼女が見かけた青年というのが、どう見てもこの屋敷に来るようなタイプの人間にはみえなかったのだ。

 ちょっとだけちょっとだけ、と言い訳をしながら彼女は壁に耳を当てて耳を澄ませた。

 

 その頃、応接間の中ではこんな会話が繰り広げられていた。

 

 

「そろそろ、話してはもらえぬか?」

「……」

 団長と、青年が相対して早五分ほど経っていた。

 

「…………その、あの」

 青年はどこか挙動不審で、まるで話すのが慣れていないよう調子で言葉を何度も詰まらせていた。

 

「どうか落ち着いてほしい。

 あらかたの事情は紹介状に書いてあった。

 我や、そして国もそちらを手荒に扱ったり、肉体の自由を奪うようなやり方はしないし、させはしない」

「……あなたは、信じるって言うんですか?」

「信じるとも」

 若干俯いて疑い深そうな視線を向ける青年に、団長は頷いた。

 

「そもそも、あの害虫どもも異世界の産物だ。

 時折異世界から物品がこの世界に流れ込んだりもする。人間がそうだとしてもおかしな話ではない」

「……そう、ですか」

「千年前にこの世界を救った勇者も、このリリィウッドの偉大なる賢人エダを初めとした賢人たちも一説にはこの世界の人間ではなかったのではないか、とあるほどだ。まあ、資料が少ないが故でもあるが。

 他の誰が信じずとも、我は信じよう」

 不安そうに変わった視線に、団長はそう断言した。

 

「我が家にも、異界より人や物を呼び寄せる呪文や儀式が伝わっている。

 そして来れたということは戻れると言うことでもある。完全な一方通行など、現実的に考えてありえない」

「俺には自分が置かれているこの状況そのものが現実とは思えないんですが……」

「仕方あるまい、お互いに常識が違うのだ。

 どこまで力になれるかはわからぬが、貴殿が呼び出された詳しい状況を教えてほしい」

 団長がそのように尋ねると、青年はぽつりぽつりと少しずつ話し始めた。

 彼の話はまとまりが無く、混乱していてよく覚えていないと前置きしただけに取り止めのないことばかりだった。

 

「なるほど、菌輪を見たのか?」

 しかし、団長は僅かな情報だけでも十分だと言うように納得したふうに頷いた。

 

「貴殿をこの世界に招いたのは、精霊の類だろう」

「精霊、ですか? そんな存在が実在するんですか?」

「するとも。花騎士の中には自らの魔力で精霊を錬成する者もいる。

 数は少ないが目撃例もあるし、そもそもこの世界に住む我々の祖先が精霊だというのは通説だ」

「ああ、動物の耳を持った人を見ました。そういう人たちは、つまりある種の先祖返りだと」

「強大な魔力の持ち主に、稀にある症状だな。そう言う見方も、確かにあるだろう」

 この一連の会話で、団長は若干目を細めた。

 

「要するに、俺はチェンジリングとか、神隠しとかそういう類に巻き込まれたってことですか?」

「その単語の意味がお互いに共通しているというのならば、な」

「俺も、あくまで伝承の中の話ですけど、妖精が踊った場所にはキノコが円状に生えているということを聞いたことがあります。そんなことは有りえないって思っていました」

 その話を聞いて、やはり、と団長は思った。

 この青年は思ったより思慮深く、教養がある、と。

 

「もしよければ、だが」

 団長はそのように前置きし、好奇心からこう言った。

 

「貴殿の故郷の話を詳しく聞かせてはもらえまいか? 

 こう言ってはなんだが、それを協力の対価としよう」

「本当ですか!?」

「ああ、別の世界の話などめったに聞けるものでもないしな」

 そう言って、団長は少し待っていてほしい、とメモとペンを取りに応接間を出ようとした。

 そうして廊下に出た彼は、慌てて通行人を装うキンギョソウの背に向けこういった。

 

「盗み聞きとは、良い趣味とは言えんぞ」

「な、なんのことかなー? それより団長さん、クッキー焼けたけど食べる?」

「ふむ、丁度茶請けを探していたところだ」

 やれやれ、ととぼけてそっぽを向くキンギョソウに苦笑し団長はクッキーの皿を受け取った。

 

 

 それからと言うもの、団長と青年は度々合うようになった。

 

「猿が祖先? そちらの世界では何故そんな通説がまかり通る?」

「うーん、俺も良くはわからないんですけど」

 時にはお互いの常識について。

 

「絶対俺と同郷の人間が近い過去に居ましたって!! 

 エトゥ神殿とか、名前聞いた時思わず吹き出しちゃいましたもん」

「うーむ、思ったよりこの世界とそちらの世界は結びつきがあるのやもしれん。

 文化的連続性や発祥不明の風習が各地で見受けられるのもそう言った可能性が高いだろうな」

 時にはいろいろな考察をしたり。

 

「で、実際のところどうなのだ? あのチューリップ四姉妹とは」

「だから姉さんたちとはそう言うのじゃありませんってば!!」

 時には下世話な話もした。

 そうして二人は、友になった。

 

「また変な話をしてるのかな……」

 笑い声が聞こえる団長の私室の前にしてお菓子を持ってきたキンギョソウはそう呟いた。

 彼女がお菓子を届けようとドアをノックしようとした、その時だった。

 

「あの、団長さん」

 明るい雰囲気だった室内は打って変わって、青年が真剣そうにそう言った。

 

「俺、姉さんたちに恩返ししたいと思うんですけど、どうすればいいでしょうか」

「ふむ……それは良い心がけだ。彼女たちも喜ぼう」

「だけど、今俺にできることなんて、全くないですし。何か、良い考えとか無いですかね?」

「焦る必要もあるまい。そう急く必要など、ないのだからな」

「まあ、それもそうなんですけど」

 会話が一区切りついたところで、タイミングを逃したキンギョソウが改めてドアをノックするのだった。

 

 その日だった。

 キンギョソウが団長に言われて、城の宿舎に帰る際に手紙を騎士団の事務所に届けてほしいと言われたのは。

 

 そのすぐ後だった。

 青年が、士官学校に入ることが決まって、その挨拶にやってきたのは。

 彼女は悟った。すべて、この男の手回しだと。

 

「団長さんの外道!! 悪党!!」

「どうした、藪から棒に」

 本当に挨拶だけして玄関から中に入らず帰って行った青年を見送った団長の背に、キンギョソウは罵倒を浴びせかけた。

 

「どうしたもなにも、団長さんでしょう!! 

 あの人に士官学校に入学させるように仕向けたのは!!」

「仕向けた、と言うのは人聞きが悪い。

 我は親戚に手紙を送っただけだ、見どころがあるやつがいる、とな。

 実際にその話を受けるかどうか、決めたのはあ奴だ」

 団長は悪びれもせずキンギョソウにそう返した。

 

「友達なんでしょう!! 

 その人の善意に付け込んで、戦場に放り出そうなんてどうかしてるよ!!」

「それはどうであろう?」

 怒れるキンギョソウに、団長は鼻で笑ってこう言った。

 

「あれが恩返ししたいと言うのは本心だろう。

 だがその実、迷っているのだ。理由が欲しいのだよ。帰らないですむ理由を」

「そんなわけないじゃん!! 

 仮にそうだとしても、あの人は戦いの場の鉄火場には似合わないよ!!」

「そうかもしれん。だが我は思った。これは使えるかもしれぬ、と」

 団長はどこまでも打算的で、冷徹に先を見据えていた。

 

「それに、何も手を差し伸べぬとは言っていない。

 しばらくは様子を見るつもりだ。いきなり死地に行けなどとは言わない」

「そんなの、当たり前じゃん」

 キンギョソウにはわからなかった。この男が何を考えているのか。

 どうして仲良くなった友人を、なんの力も持たない、何の覚悟も責任も、その必要もない人間を崖から突き落とすような真似ができるのか。

 

 まったく、分からなかったのだ。

 

「……もしあの人が戦場で死んじゃうことがあったら、私は団長のこと見損なうからね」

「ふッ」

 そのキンギョソウの言葉に、団長は自嘲気味に笑った。

 まるで自分は見損なって当然な人間であるとでもいうような、そんな寂しそうな笑みだった。

 

 不承不承の補佐官の役割だったが、彼女は続けることにした。

 この男が、どうしてあんなことをしようと思ったのか、知るために。

 

 ずっと何年もキンギョソウはこの男の補佐官を続けている。

 

 

 

 §§§

 

 

「結局、何にもわからなかったわね」

「別に期待してなかったよ。彼らが呼んだのかもわからないし」

 イエローチューリップが、どこか慰めるように自分の団長の肩に手を置いた。

 

 団長とマニュたちの対話は、ものの数分程度だった。

 それ以上は時間を取っていられない、と彼は己の我儘を終わらせた。

 

「所詮、感傷だしね」

 或いは何も聞きたくなかったのかもしれない、キンギョソウは彼の背中を見てそう思った。

 マニュたちは何かを伝えたがっていたが、非常に大雑把で理解できるものは居なかった。

 

 キンギョソウも自分の団長のところに戻ることにした。

 彼女たちの部隊の仕事はマニュ村の防衛で、作戦本部にあった。

 その指揮所の片隅で、彼女の団長と星詠みであるセダムは額を突き合わせて星図の解釈をめぐって論争している。

 二人とも真剣で、セダムを知る花騎士は彼女がこうしている姿を見ると驚くと言う。

 そこにプロテアも加わり、今後の戦況を有利にすべく話し合っている。

 

 キンギョソウはついこの間まできっぱり止めていた天体観測をまた始めた理由を察せぬほど鈍感ではない。

 

「わぁ、プロテアさん!! こんなところで奇遇ですね!!」

 そこにやってきたチューリップ団長が、プロテアを発見しテンションマックスになった。

 

「我が比翼よ、布陣はこのままでいくとナズナ団長に伝えてくれ」

 別の意味でやかましくなった指揮所に呆れていると、キンギョソウに団長が指示書を持って話しかけてきた。

 

「頼んだぞ」

「わかってるって」

 ────何だかんだで、今もキンギョソウは彼の補佐官を続けている。

 

 

 

 

 

 

*1
R版「ある二人の馴れ初め」参照




チューリップ団長が団長になった経緯の裏話的な話でした。

水影編は四話で済まそうと思ったのですが、最終章の内容もやりたかったので五話に拡張する予定です。
別の話を書いてたのもありますが、こっちの続きがだいぶかかってしまいました。
最近仕事にも行けないような状態が続いていたので、執筆する気も起きなかったのですが、久々にこうして書いてやはり私はこうやって書いていないとダメだと思い知った次第です。

この間偶然バカンスサクラさんが出て、これが執筆再開のきっかけになったわけです。
あ、ついでにこっちでもアンケートを試したいので、よければどうぞ。
それではまた次回!!

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