貧乳派団長とリンゴちゃん   作:やーなん

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いろいろご意見ありがとうございます。
需要がある様なので決心がつきました。
返信は当該記事に行います。また、R版は投稿の際は活動報告でお知らせします。





師と弟子

 照りつける太陽が、まだ夏が終わっていないことを告げている。

 

 灼熱の陽光は永遠に地上を焼き続けるかのように思える暑さも、バナナオーシャンなら尚更である。

 

 

「くっそ、せっかく痴女の国に来たのにビーチにも行けないなんてやってらんねぇな」

「どこが痴女の国ですって?」

 ペポが横合いを歩く団長を軽く睨んだ。

 常日頃からランタナの好意? に晒され散々な目に遭っても友達を続けていられるほど心が広い彼女でも、故郷を痴女の国扱いされるのは聞き捨てならないらしい。

 

「この間の団長同士の会合で、偶々カサブランカ様に会う機会が有ったんだが……」

 そう言って団長はペポに目を向けると、彼女はそっと目を逸らした。

 流石にあの格好は擁護できないらしい。

 

「カサブランカ様ですかぁ、素晴らしいですよね。

 王族ながら花騎士として活動もしていらっしゃりますし。

 ところで王族ということは舞踊も嗜んでいらっしゃるはず!!

 ちょっと踊ってもらえたらそのまま天国まで逝っちゃいそうですよね!!」

 暑さにやられたのか、みんなの前だというのに団長とリンゴは語り合いを始めた。

 

「ああ、勿論棒を中心に回ったりするやつな。

 更に踊りながら脱いだりしたら最高だ。そう思わないか?」

「全くですよ!!

 あの幼さが残る容姿であの出るところは出ているボディ、反則ですよねぇ。

 それであの裸よりエロチシズム溢れる格好で跳んだり跳ねたりしたらどうなっちゃうんでしょう……」

「ぶるんぶるんするんじゃないのか?

 その為にはもうちょっとボリュームが欲しいところだが」

「あ、やば、想像したら鼻血が……」

「王族侮辱罪でしょっ引かれればいいのに」

 アホ二人を見てそう吐き捨てるキルタンサスだった。

 彼女もだいぶ遠慮が無くなってきている。

 

 

 本日、リンゴ団長率いる部隊は観光地として有名なラカタンビーチ……ではなく、その近隣の森へと害虫退治にやってきていた。

 

 木々に覆われた森の中は海からの風もあり意外に過ごしやすいのだが、戦闘準備を整えた集団にそれは当てはまらない。

 

「いいよな、お前たち花騎士は。

 世界花の加護で気温の変化に耐性があるんだから。

 こちとら長袖長ズボン、厚手のサーコートの中には鎖帷子とシャツ着込んでるんだからな!!」

「そう仰られましても、この暑さじゃ気休めですよ」

「この超人め、お前が言っても説得力無いわ!!」

 このうだるような暑さの中、眉ひとつ動かさず笑みを湛えるサクラに団長も恨めしげに言った。

 

「おいクロユリ、大丈夫かお前?」

「問題ない」

 と、答えたクロユリだったが、クールな性格だからと言って状況がクールと言うわけでもない。

 彼女は相も変わらず真っ黒な服装なのだから。

 

「我慢しないでこっちの白い服きてシロユリになっちゃえよー。

 どうせその恰好のままだと思って俺とリンゴちゃんが一緒に選んできてやったのに」

「余計なお世話だ」

 団長は彼女のイメージに全くそぐわない可愛らしいデザインの服をチラつかせる。

 彼女は意地でも着ないつもりのようだ。

 

「残念ですね、せっかく買ってきたのに」

「どうせ私にはそんな服似合わない」

 残念そうにするリンゴを気を使ってか、そのように言ってクロユリは首を振った。

 

「バーカ、あえて微妙に似合わない服装にしたんだって。

 お前の髪に合わせるなら白の服なんて選ばんさ。

 だけどそのギャップっていうの? 着てみたけど違和感? そう言うのが良いんだって!!」

「そうですよ、いつも黒一色の格好の人が急に極端な配色の服を着るギャップ!!

 新たな魅力を発掘ですよ!!」

「海の中に蹴飛ばせばその茹だった頭も冷えるか?」

 暑さで彼女も気が立っているのか、実力行使への警告がいつもより早かった。

 

「相変わらず連れないなぁ」

「またまたぁ、それが良いからちょっかい掛けてるくせに」

「リンゴちゃんもそういうの大好きなくせにぃ」

「えへへ。わかってるじゃないですかー」

 にやにやと笑いながらお互いに肘で小付き合う似た者同士だった。

 

 

「暑さで灰になる、ハイになる、最高にハイになる!!!

 うりぃぃぃいいいいい!!!!」

「やばい、ランタナがおかしくなった……いや、今更か」

 ごごごごご、と擬音が付きそうな謎ポーズを取るランタナ。

 ちなみに背後霊はペポのお友達が担当している。残念ながらペポ以外は見えていないが。

 

「いったん砂浜の方に出て休憩をはさむぞ。

 ついでに良いことを思いついた」

「良いことってなんですか?」

 ペポが持ち前の霊感から来る直感で嫌な予感を感じ取ったのか、団長に尋ねた。

 

「バーベキューだよ」

 団長はにやりと笑ってそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 当然ながら、彼らはバーベキューの準備をしていた訳でもなければ、食材すら生ものは持ってきていない。

 

 ではどうするか?

 団長は言った。

 

「現地調達だよ」

 と。

 

 

「うーん、もうちょっと風を送れー」

「は、はい!!」

 団長の指示により魔法の風が送り込まれ、たき火がバチバチと火花を散らす。

 

「いやぁ、焼けるのが楽しみだなぁ」

「あの、団長さん」

 恐る恐る、ペポが彼に声を掛けた。

 

「うん、どうした?」

「それ、本当に食べるつもりですか?」

 ペポはゆっくりとたき火の上に吊るされたそれを指さす。

 

 

 ――――それは、アリ型害虫の幼体だった。

 

 

 

「いやさ、害虫ってあれだろ?

 死ぬと粒子になって消えるじゃないか。

 前々から思ってたんだよ。連中ばっかり俺たちの仲間を食うくせに、こいつらは死体も残らない。

 これって不公平だよな? だから試しに生きたまま焼いて食べてみようかな、なんて思ったんだが……なんだよみんな、冗談に決まってるだろ」

 彼は後ろを向いて、害虫を食べさせられるのかと戦々恐々としていた面々にそう言った。

 

「俺が害虫を腹の中に入れたいなんて思うわけないだろ。

 こいつは今回の餌だ。せいぜい悲鳴を上げて、森の中の害虫どもを呼び寄せてくれないとな」

 団長は熱さでもがき苦しむ害虫の幼体を棒で突っつきまわして弄ぶ。

 

「もっと風を強くしろ。

 たき火の煙で窒息させるなよ。火あぶりの死因は大抵が窒息だそうだからな。

 それに気を付ければ生きたまま弱火で数時間は焼けるそうだ」

 団長はベロニカの著書を引用しそう述べた。

 その狂気に満ちた残虐な行いに、誰もが口を挟めない。

 

「おら、さっさと悲鳴を上げろ!!

 こんなクソ暑い中、何時間もお前のような虫けらに時間をかけるつもりはないんだからな!!」

 と、棒で叩くが元から弱っていたのか、幼体は弱弱しく痙攣するだけだった。

 

「ちっ、これだから幼体は脆くて役に立たん。

 手間を惜しんで幼体で妥協したのが悪かったか。仕方がない、殺すか」

 そう言って、団長が剣を抜こうとしたその時だった。

 

 

「止めてよおおおぉぉぉ!!!」

 砂浜の向こうから、ダッシュで何かが走ってきた。

 

「この声、アマ公か?」

 彼がそう口にすると、その何かは吊るされた害虫の幼体に飛びついて、砂浜を転げまわった。

 

 

「おい、何をしているアマ公。

 それは虫けらだぞ。と言うか体見せてみろ、やけどしてるかもしれん」

「それは大丈夫……じゃなくて、なんでこんなことするのさ!!」

 憤慨して立ち上がったのは、花騎士オンシジュームだった。

 

 彼女を見て多くの花騎士が驚いた。

 面識は無くても、前回のフォスの花嫁に選ばれたのは他でもないこの娘だったからだ。

 

「いいからそれから手を離せ、熱くなってるからやけどする」

「私のことはいいの!!

 それより早く冷やさないと……そうだ!!!」

 思いついたら即実行。

 オンシジュームは海の中へと飛び込んでいった。

 ざばん、と水柱が立った。

 

「はぁ、相変わらずあまっちょろのアマ公だな」

「ええと、団長さん、お知り合いなんですか?」

「ああ、俺も出身はウインターローズだからな」

 リンゴにそう返すと、後ろから少なからず驚きがあった。

 

「そうだったんですか? てっきりブロッサムヒルかリリィウッド辺りかと」

「なんで驚かれるんだよ」

 意外そうにしている花騎士たちに、団長は不満げだった。

 そうしたやり取りが終わると、海の中からびしょ濡れのオンシジュームが戻ってきた。

 

「ねぇ、誰か手当てできる人居ない!?」

 彼女がそう言うと、部下たちは団長の顔色を窺った。

 

「こいつの好きにさせろ。どうせ言っても聞かんからな」

 団長が顎をしゃくってそう言うと、数名の花騎士が彼女の元へと向かった。

 

 

 

 

「もう大丈夫だからね」

 木陰の下に幼体を幼体を寝かすと、オンシジュームは立ち上がった。

 幼体から彼女の体が離れたその瞬間、団長は護身用の魔導拳銃を引き抜き――――。

 

 

「おやめなさい」

 引き抜こうとして、途中で腕を掴まれ止められた。

 

「お久しぶりです、デンドロビウム師匠」

「無茶な戦いばかりしていると聞きましたよ、お馬鹿な我が弟子」

 

 

 

 

 

「デンドロビウムー!! 私あの子たちと一緒に遊んでるからー!!」

「わかりました、あまりはしゃぎすぎないように」

 浜辺から水着姿のカトレアが手を振っていた。

 

「まさかお嬢まで来ていらっしゃるとは」

「外出許可が出たのですよ。

 最近は害虫退治も行っているので」

「それは良かったですね。

 お嬢ならそう遠くない日にあの鳥籠から出られるでしょう」

 団長とデンドロビウムは、カトレアが彼の部下と戯れる姿を木陰から眺めていた。

 

 

「サクラの件、世話になりました」

「私が行った方が良かったでしょうか?」

「ご冗談を」

 ビーチボールをしているのか、カトレアのスーパーノヴァシュートが炸裂。

 轟音と共に砂浜に巨大なクレーターができた。

 

「憎しみは捨てきれませんか?」

「正義感や義務感だけで戦える人間が居るとでも?」

「それでは長く戦うことはできませんよ」

「うちの騎士団のカウンセラーも言っていました。

 あなたは急ぎ足で登っている階段から足を踏み外して死ぬだろう、と」

 ランタナのレインボーバーストサーブが炸裂。

 着弾の衝撃波で十人以上が吹っ飛んだ。

 

「分かっているのですか?

 あなたの死ぬ時とは、あなたが共に戦う部下たちが死に絶えた時ですよ」

「……」

「貴方が階段から転げ落ちる時、後ろを走る彼女たちも一緒に転げ落ちるのです。

 それを良しとするのなら、あなたは何も学んでいない。

 あなたとその部下を死地に送るために、私はあなたを弟子にしたわけではないのですから」

 ビーチは混沌の坩堝と化していた。

 また誰かの必殺技が炸裂し、砂柱が立った。

 

「だけど、止まる事なんてできませんよ。出来るはずもない。

 そうしたら俺はどんな顔をして彼女たちに……」

「死者の無念は生者の身勝手、などとは言いませんよ。

 あなたの気持ちは少なからず私も覚えがある。

 あなたは昔の私に少しだけ似ている。一番の違いがあるとすれば、私は愛を知り、あなたは愛を失った。

 失った物は取り戻せませんが、もう一度手を伸ばすことぐらい許されるはずでは?」

「そしてもう一度失う恐怖に怯えろ、と?」

「少なくとも、害虫をいたぶって気を紛らわすよりよほど健全で人間らしいでしょう。

 失う悲しみや恐怖より、得る喜びや楽しみが勝ってしまうのが人間だと、あなたは既に知っているように思えます」

「そうかも、しれませんねぇ……」

 団長の視線は最早ルールも敵味方も関係なくボールを奪い合う部下たちに向けられていた。

 彼の口元に笑みが浮かんでいるのは、錯覚ではないのだろう。

 

 

「一度子供でも作って、腰を落ち着けてみてはいかがでしょう。

 何も立ち止まれと言っているわけではありません。自分の力を何のために振るうのか、確認する場所があれば己を見失うことも無くなる筈です」

「貴女がそうであったように、ですか?」

 彼女は答えず、慈しむような笑みをカトレアに向けた。

 どうやら向こうはどれだけ巨大な水柱を作れるかという遊びになったらしい。

 水しぶきがこちらまで飛んでくる。

 

「師匠の言う通りかもしれません。

 害虫どもなんていくら無残に殺しても面白くも何ともない。

 可愛いロリっ子とイチャコラしたい、最初はただそれだけだった筈なのに」

「あれ、伝わりましたか?」

「師匠も俺自らロリっ子を作れとは、レベルが高い……」

「……意思疎通とはこんなに困難なものだったのですね」

 デンドロビウムは呆れて溜息を吐いた。手の施しようのない重病である。

 なので、方向性を変えることにした。

 

「自分の娘にパパって呼ばれるところを想像してみてください。

 自分の好きな子の面影が残る幼子がとたとたと駆け寄ってきて抱きついてくるところとか」

「……うっひょぉ!!! 捗ってきたぁ!!」

 この男はもしかしたら自分の娘に手を出すのでは、という懸念を抱いたが、流石にそれは無いだろうと信じたいデンドロビウムだった。

 

「というか、師匠はママになってくれないんですか!!

 俺、師匠くらいなら全然いけるんでどうです? と言うかその年でその容姿とか花騎士って本当にさいこ――」

「ふんっ」

 特大の水柱が上がり、デンドロビウムが一人勝ちした。

 

 

 

 

「あなたも誰かを育て、成長していく姿を見る喜びを知っているでしょう?

 であるならば、頭の隅にでも留めておいてください」

「仰せのままに……」

 海中から這い上がってきた団長はそう言った。

 

「ところで、聞きましたよ。

 なんでもアマ公の奴、幼虫を飼っているそうで」

「不満ですか?」

「いえ、ただあなたは優しくも厳しいのだな、と」

 上着を脱いで、彼は服を絞る。じゃばじゃばと海水が滴り落ちる。

 

「子供の情操教育には、犬を飼うのが良いらしいですね。

 犬は子供にいろんなことを教えてくれる。

 命の大切さ、世話をする大切さと難しさ……そして最後には、死の意味を身をもって主人に伝える。

 あれもそれと同じでしょう?」

 彼はそれをしっかりと理解していながら、あのような行動に出ることができる。

 だからこそより狂気的で、より悲惨だった。

 

「害虫が人を襲わないのは親から餌を得られる幼虫の段階だけだ。

 幼虫が成長し大きくなり、力関係が逆転した時、そいつは牙を剥くだろう。

 犬だって主人を侮ればそうするんだから、害虫がそうしないわけがない。

 ただでさえ、連中は成体になれば凶暴性が格段に増すんだからな。

 そしてその時にこそアマ公は思い知るだろう。いかに自分が甘っちょろいかを」

 そこまで言って、彼はため息を吐いた。

 あの少女の、多くの人に愛されたまぶしい笑顔が曇ることを悼んでいるのだ。

 

「……オンシジュームもいつまでも子供のままでは居られません。

 ですが彼女たちの仲睦ましい姿を見ていると、残酷なことをしてしまったとも思います」

「そればかりは仕方がないのでは?

 あいつは言い出したら聞きませんからねぇ」

「害虫との終わりなき戦いに疑問を持つ花騎士も居ます。

 それ自体は仕方がないことです。害虫との戦いは千年も続いているのですから」

 だが二人はそうして害虫に情けを掛けて死んだ者を何人も知っていた。

 

「あいつの優しさは美徳だ。太陽の如き美徳だが、同時に危うい欠点でもある。

 あいつが現実に直面した時に、あいつの優しさを損なわないようにしないといけませんね」

「ええ、そうですね」

 無邪気に皆と遊んでいる彼女を見ながら、二人はその笑顔に癒されていることを自覚するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




オンシのあだ名の由来、オンシジューム→オレンジ→甘橙→アマ公
自分は彼女に恵まれているのかノーマル版よ嫁版両方もっているのですが、彼女の無邪気さは心汚れた自分には眩しすぎますねぇ。

さて、R版の初回は誰が良いだろうか……。


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