貧乳派団長とリンゴちゃん   作:やーなん

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・・メンテがいつまで経っても終わらないから書き終わってしまった。





キルタンサスの初陣

 ブロッサムヒル外郭。

 

 リリィウッドの原生林から移動してきた騎士団はそう呼ばれる場所に野営地を構えていた。

 

「さて、今回の任務は我らのスポンサーの依頼により、この周辺の害虫掃討の指令を賜った。

 この辺りは害虫の出現が頻発しているが、本格的な討伐隊を組まれたことは少ない。

 そのあたり分かる者はいるか?」

 団長は周りを見渡しながら問うた。

 

「三国の国境線が集中しているからです」

 花騎士の一人がそう答えた。

 

「その通りだ。

 花騎士は本来、国に属する存在だ。

 国家防衛の際には強制召集されるし、帰属や忠誠を求められる。

 現在、花騎士の活動に国境は薄くなったが、かつて花騎士は国ごとに活動する存在だったという。

 国家に属する以上、国家に縛られるのも花騎士だ。

 ここは三国の国境線が集中するため、問題を起こさない為か騎士団の駐屯が許されず、補給も難しいという難所の一つだ」

 団長は苦々しげに語った。

 

「我らが各国にこの場所の滞在が許されたのは、三日だ。

 その間にこの周辺の害虫どもを駆逐する」

 三日、それも掃討戦という難しい戦闘をこの少数で行えという。

 明らかに無茶振りだった。

 この辺りは森もあるし、広さもかなりある。

 最低でも百人規模の騎士団で行わなければ、まともな戦果を得ることも難しいだろう。

 

「とりあえず、この森林部から害虫どもを蹴散らすのが作戦目標となるだろう。

 何か質問はあるか?」

「はい、この規模の部隊でこの森を制圧するのは難しいと思うのだけど」

「キルタンサスか、確かにそうかもな」

 私の発言を、団長は肯定した。

 

「この地は街道に隣接している為、害虫どもが巣食うと街道が脅威に晒されてしまう。

 定期的な駆除は必要なのだが、先の理由からこの国は散発的に害虫を散らすことしかできなかった。

 ――だが我が隊はこの作戦は、もう三度目になる」

 団長はにやりと笑った。

 

「我々の部隊はこの周辺専門の駆除業者と化している。

 かつて二度の作戦で大きな効果を上げているので、お前は安心してこちらの指示に従えばいい」

 彼は自信満々にそう語ったが、他の面々の表情はなぜか曇っていた。

 

 

「では私が例の役目を引き受けよう」

「おお、いつもすまんな。

 偵察班はクロユリの退路の確保と可能ならば害虫どもの大まかな数や位置を頼む」

 唯一いつも通りの無表情のクロユリさんが名乗り出た。

 団長もそれを了承し、偵察班に指示を出す。

 

 

「作戦の決行は明日となる。

 各自、それまで英気を養うように」

 最後に団長はそう締めくくった。

 

 

 

 

 

 

 

 部隊は異様な雰囲気に包まれながらも、すぐに翌日になった。

 

 私はサクラさんの部隊に配属になり、今日がこの部隊での初陣だ。

 今日は戦闘があるからか、みんなの表情は硬かった。

 

「サクラさん、どうかしたんですか?」

 そんな中、サクラさんはいつもの笑顔に陰りが見えた気がしたのだ。

 

「ううん、なんでもないわ。

 ただ、この空気は慣れないな、と思って」

「サクラさんほどの人でも、戦いの前は緊張するんですか?」

「緊張しない戦いなんて無いわ。

 ダメね……もっとしっかりしないと」

「そうかもしれないですけど、そんなに無理されても困ります。

 サクラさんはこの部隊の顔なんですから」

 私がそう言って励ますと、サクラさんは首を横に振った。

 

 

「この部隊の顔は私じゃないわ」

 サクラさんはそうして、クロユリさんの方を見やった。

 その視線を追った時、団長がリンゴを伴ってやってきた。

 

 

「おはよう諸君、これから作戦開始となる。

 正直眠いので手短に済ませる。

 害虫どもを誘き寄せて、迎え撃つ。以上だ」

 団長の示した作戦は実にシンプルだった。

 だが、具体的に誰が陽動に出るかなどの説明は一切無かった。

 それどころか、団長は欠伸をして眠そうにしていた。

 

 なにやってんのよ、と私は思ったが、その時気付いた。

 この部隊の誰もが緊張の最中に居ることを。

 

 

「あぁ、眠すぎてやる気が出ないな。

 誰か歌でも歌ってくれたら目が覚めるかもしれない」

「団長さん、私が歌いましょうか」

 下らない茶番を繰り広げる団長だったが、リンゴの表情は真剣そのものだった。

 

「うん、そうだな曲目はあれが良い」

 団長は顔を上げて、言った。

 

 

 

「害虫どもの悲鳴が聞きたい」

 

 

「連中の悲鳴と金切声が聞きたい」

 ゾッとするような低い声で彼はそう言った。

 

 リンゴがクロユリさんに目配せすると、彼女は馬車の裏手から縄で口が閉じられた麻袋を引っ張ってきた。

 彼女はそれを団長の前まで持ってくると、縄を解いて中身を蹴とばした。

 

 それは、縄でぐるぐる巻きにされたトンボ型の害虫だった。

 

 

 クロユリさんはもぞもぞと蠢くそれの腹を思いっきり踏みつけた。

 キシャアアァァ、と害虫の悲鳴が鳴り響く。

 

「良い歌声だ、おかげで目が覚めた」

 少しも表情を変えずに団長は縄を引っ張り上げて害虫を起き上がらせると、おもむろに薄羽をむしり取った。

 更に害虫の悲鳴が上がる。

 

「虫けらの分際で空を飛べるとか何様のつもりだ。

 お前たちは地べたを這いずり回るのがお似合いだよ」

 力任せに、乱暴に、団長は次々とトンボ型害虫の羽をむしり取っていく。

 

 それは子供が無邪気に虫の羽をむしり取るのとは違う、明確な悪意に基づく行動だった。

 

 

「さて、と」

 一通り羽をむしり取って満足したのか、団長はすっきりした笑みを浮かべてこう言った。

 

 

「ちょうどいい楽器が手に入った。

 どうせだから害虫どもに聞かせてやろうぜ」

 私はこの時初めて、彼に恐怖した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ベロニカ大先生の害虫を殺さず悲鳴を上げさせる本~!!」

 まるでサンドバックか何かのようにつるし上げた害虫を、団長は狂気じみた内容の本を朗読しながら棒で殴りつける。

 その度に害虫の悲鳴が鳴り響く。

 

 そうしてすぐに森の方からざわめきが鳴り始めた。

 森の暗がりの奥から、無数の害虫がこちらを見ていた。

 

 普段、害虫の感情など見て取れない私にも分かった。

 ……彼らの怒気を。

 

 

「おい見ろよリンゴちゃん、あいつら怒ってるぞ」

「そうですね」

 普段意気投合しているリンゴも務めて無表情でそう返した。

 

「おい見ろよ、ランタナ。あいつら怒ってやがるぜ」

「う、うん……」

 普段おちゃらけた言動の目立つランタナもドン引きしていた。

 

「知ってるか、ペポ。

 あいつら仲間意識とかあるんだぜ、虫けらの分際でな」

「……はい」

 ペポは哀れなものを見る目で団長を悲しげに見つめていた。

 

「虫が仲間意識とか、笑えるとは思わないかサクラ。

 つまりあいつらにも感情があるってことだ。

 こんな笑えること、そうそうないぜ」

 サクラさんは何も返さなかった。

 ただただ無理して笑顔を浮かべていた。

 

 

「連中はどんなことを考えて、俺たちの仲間や人々を喰らっているんだろうな、キルタンサス」

 私は何か言おうとして、口の筋肉がひきつって動かないことに気付いた。

 私は目の前の害虫の群れよりも、この男こそを恐れていた。

 

 

「クロユリ、お前はどう思う?」

「決まっている」

 クロユリさんは黒塗りの剣を引き抜くと、吊るされた害虫の腹に剣を突き刺した。

 ぐりぐりと捻じ込むように、切っ先が埋まっていく。

 

「こんな風に、楽しそうに、笑いながら!!

 切り刻み、引き潰し、引き千切っているんだ」

 クロユリさんは薄笑いを浮かべたまま、内側から害虫を切り裂いた。

 

 血飛沫が舞う。

 害虫が絶命し、粒子になって霧散した。

 

 

「隊旗を掲げろ」

 団長がそう命じると、花騎士の一人が丸めていた旗を立て掛けた。

 赤地に黒百合が刺繍された、旗だった。

 

 私はどうして彼女がこの部隊の顔なのか、漸く理解した。

 

 

 

「寝起きにはシャワーが一番だ。

 俺は連中の血の雨を所望する。

 この血染めの黒百合を、害虫どもの血で染め直せ!!」

 害虫の群れが此方に殺到するのと同時に、団長はそう声を挙げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「殺せ、殺せ、殺せ!!

 刃で切り刻め、鉄槌で叩き潰せ、槍で突き穿て、魔法で消し飛ばせ!!」

 団長の怒号が戦場に轟く。

 

 強い。

 私は己も拳を振るいながら戦慄した。

 各々が自分の役割を理解し、精密な魔道具のように行動している。

 

 私が切り込んで害虫を殴り飛ばせば、残心の隙を狙う他の害虫に他の花騎士が切り込む。

 他の花騎士が攻め込めば自然と私もその隙を埋めるように動いてしまう。

 後衛の花騎士も前衛を援護し、さらに穴を埋めていく。

 特にサクラさんの援護は格別だった。

 

 そうしてお互いを守りあい、かばい合い、背中を預け合う。

 それが前後左右に四組、花騎士の名の通り花弁のような陣形で私たちは害虫の群れの中に咲き誇っていた。

 

 個人が個人を守り、班ごとに班を守る。

 連携と言う攻撃の守りによって、害虫のつけ入る隙を見せない。

 瞬く間に害虫たちはその数を減らしていく。

 

 

「第一波は凌いだか。

 負傷者は居るか?」

「第一班、負傷者無し!!」

「第二班も同じく!!」

「第三班もです!!」

「第四班も言わずもがなです」

 各班長の報告を聞き、団長は頷いた。

 

 わずか数分の戦闘で、二倍の人数の騎士団が半日を掛けて行うだろう数を倒したというのに、彼は眉ひとつ動かさなかった。

 

「ならば息を整えて、次に備えろ、来るぞ!!!」

 仲間をやられて激怒しているのか、害虫たちが次々と森から押し寄せてくる。

 

「偵察班の報告通り、あの森は害虫どもの巣窟と化していたか。

 森ごと焼き払うって選択を取れないのが騎士団のつらいところだよな」

 害虫の巣の攻略は、国家レベルの作戦だ。

 対して、私たちは一部隊のみ。

 普通なら自殺するようなものだ。

 本来ならここで応援を要請するのが常識的な判断だろう。

 

「予定通り、今日中に駆除するぞ。

 なに、前回より少ない。楽なもんだ」

 だというのに、誰もが負ける気がしないという表情だった。

 

「一匹残らずぶち殺すぞ。

 連中の悲鳴が散って行った同胞たちまで届くようにな」

 そして、団長は赤い隊旗を振りかざした。

 

 

 

 

 戦いも佳境へと入ってきた。

 連戦に次ぐ連戦だが、この程度で根を上げるようなら花騎士ではない。

 負傷を受ければすぐに隊長護衛と入れ替わり、リンゴが応急手当をして戦線に復帰していく。

 

「足りない、足りないぞ!!

 こいつはまだまだ血を飲み足りないと言っている!!

 クロユリ、お前はどうだ!!」

「まだだ、まだだ、まだだ!!

 殺す、もっと殺す、全て殺す!!!」

 その中でも、獅子奮迅の働きをしているのがクロユリさんだった。

 

 血飛沫によって染め直される隊旗を背後に、次から次へと害虫を切り殺していく。

 やがて、害虫たちを統率していると思われる大型のカマキリ型の害虫が現れた。

 

 

「連中に呪いの意味を教えてやれ。

 呪詛を込めて、恋するように殺意を刻め!!

 刃の接吻をくれてやれ。

 刺突の抱擁を持って、愛欲のままに死を(もたら)せ!!」

 血染めの旗が、振られるたびに喜ぶようにはためいている。

 

 

「はあぁぁぁぁ!!!!」

 一瞬の隙を見つけ、横切る害虫たちを切り裂きながらクロユリさんは大型害虫の首を切り落とした。

 

 

 

 

 

「よーし、みんなよくやった。

 流石は俺の愛すべき部下たちだ」

 森林部の掃討を終えて、全ての班を招集すると団長は皆を労った。

 害虫の親玉を倒した後は、掃討戦が待っていた。

 

 森の中を連携して、一匹残さず害虫を駆除した。

 こればかりはどうしても時間がかかる。

 朝に戦闘が始まり、時間はもう昼過ぎである。

 

「先ほどアカシア隊から物資の補給があった。

 酒も経費で落としたぞ、全員今日は奢りだ。

 それぞれ疲れを落とした後、今日は無礼講だ。飲んで飲んで飲みまくるぞ!!」

 団長のその言葉に、疲労の色濃い皆の表情も明るくなった。

 

 あれよあれよという合間に皆は汚れを落とし、遅めの昼食を取ることとなった。

 そこでは大量のワインが惜しみなく振る舞われた。

 昼間から酒を飲むのはこの部隊くらいだろう。

 

 昼食は祝勝会の様相を呈してきた。

 酔ってとんちんかんな行動に出る面々を、団長は咎めなかった。

 

 

「団長」

 その様子を少し離れた位置から見ている団長に私は話しかけた。

 近くでリンゴが酔い潰れて眠っていた。

 

「どうした、キルタンサス。

 別に異動したいっていうなら止めないぞ」

「別にそうじゃないわ」

 私は首を振った。

 確かに今日は大戦果だろう。

 だが、いつまでもこんなこと、続けられるはずがない。

 

 

「俺は俺のやり方を変えないぞ。

 付いてこれない者は全て置いてきた」

「あなたは害虫が憎いの?」

 私はあえて核心を問わず、そう言った。

 

「もうとっくにそんな段階は過ぎている。

 俺にとって連中を殺すのは、日常みたいなもんだ」

 そう言った団長は、力なく首を振った。

 

 

「俺は何でもするぞ。

 連中を根絶やしにする為なら。

 そう誓った。だから無理についてくる必要はない」

「馬鹿にしないでよ」

 私は眉を顰めてそう言った。

 

 実際のところ、彼のような人間は珍しくない。

 花騎士は陽気で明るい人も多いが、害虫を憎む花騎士は何人も知っている。

 そしてそういう人たちは、すぐに居なくなってしまう。

 

「放っておけるわけないじゃない、あんたみたいなの。

 あれくらいで縮こまるほど弱くないわ」

 きっと、みんなもそうなのだろう。

 

「あなたは私にふさわしい団長で居ればいいのよ」

 私はそこまで言って、急に気恥ずかしくなって表情を隠すように踵を返した。

 早足で皆のところへ戻ろうとすると、後ろからこんな声が聞こえてきた。

 

 

 

「聞こえたか、リンゴちゃん」

「はい、私のツンデレセンサーに反応して急遽目が覚めました」

「うむ、やっぱり」

「ええ……」

 

 

 

「「やっぱりツンデレは最高だ!!」」

 

 ……ぶっ飛ばしてやろうか、この二人。

 そう思って振り返ると、団長とリンゴがこちらを見ていた。

 

 

「ようこそ、多国籍遊撃騎士団、通称……」

 リンゴは風にはためく隊旗を見上げた。

 

 

 

「――――『ブラックサレナ』へ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





本来ならもっとギャグとか挟みたいんですが、どうも私が書くとシリアスになってしまう。
実は日常とかコメディとかは苦手なのです。

需要があれば続きます。

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