貧乳派団長とリンゴちゃん   作:やーなん

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今回はいろんなことを詰め込んだので、長めになりました。
だいたい七千文字前後で投稿するんですが、今回は一万文字超え。大盛りです。




ナナカマド無双

「はぁ……」

 その日、我らがリンゴ団長はリリィウッドの騎士団支部にある己に割り当てられていた執務室で書類仕事をしていた。

 もう数時間ぶっ続けで、時刻は真夜中に突入していた。

 

「団長さん、ファイトですよ」

 リンゴがアップルティーを入れて持ってくると、彼はくわっと彼女の方を向いた。

 

「リンゴちゃん、同士リンゴちゃんよ。

 元気の出るおまじないを頼む」

「えッ、ああ、あれですか、任せてください!!」

 リンゴは部屋の中央に移動すると、スッと片足を少し上げ、足に掛かったスカートをゆっくりと際どい感じに上げていく。

 ちょっと恥じらっている感じを演出するのがミソである。

 

「よっしゃ、やる気出た!!」

 流石公式脚線美人、団長のやる気は即座に回復した。

 

「これが終わったらぐっすり寝て、明日の午後にはキャッチ&リリースをする約束ですからね!!」

「分かっている、俺が目ぼしい女の子をナンパして引き留め、リンゴちゃんが近くで観察するというコンビネーション……。

 その名もキャッチ&リリース!!

 このリンゴちゃんが考案した高度で新しい女遊びのお蔭で、ここ二か月における不純異性交遊率は驚異のゼロ!!

 ……そう、これは遊びであって、断じて浮気とかではないのだ。もう二度と出会ったその日にベッドインはしないのだ」

「うう、団長さんが失意を乗り越え、成長してますぅ」

 感動の涙を流すリンゴちゃん。

 アホな二人であった。

 

 そんな二人の平穏は、しかしながら突如として破られることになる。

 

 

「た、大変よ、団長さん!!」

 切羽詰った様子のキルタンサスが執務室に飛び込んできたのである。

 

「って、え……」

 ちなみにその時の状況は、リンゴがスカートの裾を上げた先ほどの姿勢のまま、涙をぬぐっていた。

 非常に誤解を招く状況だった。

 

「さ、最低……」

「ちが、違う、違うんだ!!」

「(き、キルタンサスさんの軽蔑しきったジト目、さ、最高です!!

 普段は見られないこの冷めた表情、ツンデレ対比3:7における研ぎ澄まされたツンを超えた痛みを伴う視線!!

 こ、これが彼女の『屈折した魅力』!?

 むはッ、むっは、むっはぁー!! 超絶たまんねぇですよぉ!!)」

 誤解を解くのに五分ほど時間を要したのは言うまでもない。

 

 

 

 

「なんじゃこりゃあ……」

 それが団長とリンゴの感じた心境の全てであった。

 

 二人が連れてこられたのは、花騎士の仮宿舎である。

 仮宿舎と言うだけあって、申請書を出して一定の期間使う騎士団の共有物であるが、使うのがほとんどブラックサレナ部隊ばかりなので、ここ半年以上借り続けていても問題が無かった場所である。

 

 それが、別の建物に変貌していた。

 いや、それは正確ではない。

 

 古ぼけた洋館のような、見る者に寒気を覚えさせる外観になっていたのである。

 上空にはこの周辺だけ雷を纏う雲が渦巻き、この仮宿舎だけ別世界の様な様相と化していた。

 

 

「誰か、俺に説明してくれ……」

 彼がそう言うと、ブロッサムヒル出身の仲良し四人組が泣きながら縋り付いてきた。

 

「私たちもわかりません!!」

「突然、ああなって、私たち全員追い出されて!!」

「私はお化けの声を聴きました!!」

「このままじゃ寝る場所もありません!!」

 余程怖い目にあったのか、いざと言うときは頼りにしているのか。

 団長は四人纏めて抱きしめてよしよしと慰めた。

 

「で、お前たちもこのホラーハウスと化した仮宿舎から追い出された、と?」

「面目有りません」

 代表してサクラが頭を下げた。

 彼の部下のほぼ全員がここに揃っていた。

 

「いや、こういうのは専門の花騎士じゃないと対処できまい。

 問題は、なぜ何の変哲も曰くも無い仮宿舎が季節外れのお化け屋敷になったかだが……ランタナ!!」

「あうぇ!?」

 名指しで呼ばれたランタナは、しかし心当たりがあるのか両手の指の先を突き合わせてもじもじさせていた。

 

「や、やだなぁだんちょ。

 毎回毎回私ばっかりトラブル起こすわけないじゃん」

「そうだな、俺もそう信じているよ。

 本当にお前じゃないのなら謝るが、もしそうなら今のうちに吐け。

 だが後でそうだと発覚した時は、わかるな?」

「私が原因ですごめんなさーい!!」

 ランタナはあっさり白状して五体投地した。

 

「うッ、うえぇ、うわぁぁああん!!」

 そして、彼女は堰を切ったように泣き出した。

 どうせ嘘泣きだと周囲は見ていたが、数分経っても泣き止まない。

 これはマジだと悟った周囲と違い、団長はずっと真剣な表情のまま黙って泣き止むのを待っていた。

 

「大丈夫ですよ、誰もランタナちゃんを責めませんから」

 プルメリアが彼女を抱き起すと、赤く腫れた目を擦り、ランタナは項垂れた。

 

「ペポはどうした。

 こんなことできるのは彼女を置いて他にいない」

 この場に居る彼の部下は、ほぼ全員揃っている。

 ペポを除いて、全員揃っている。

 

「うぅ、話すと長くなります……」

 冷徹な団長の視線を受けて、ランタナは話し出した。

 

 

 

 

 

「よいしょ、っと。そろそろ置き場所に困ってきたなぁ」

 この日、ペポは自室に飾っていた人形やオモチャの手入れを終えると、一息ついた。

 

 彼女の部屋には、一般人から見れば怖気の走る様な曰くつきの物品が所狭しと置かれていた。

 霊と話せるペポは、専門家にも手に負えないという代物を引き取って、話し相手になることで供養し、鎮めていたのである。

 

 世間話をしたり、愚痴を言い合ったり、と凶悪な悪霊とされる相手でも、ペポはお友達感覚で接する数少ない相手らしく、霊は大抵が寂しがり屋だったりするのでみんな大人しくしていたのだが。

 

「うっぽぽーい、私は、私を召喚!!

 ランタナでペポにダイレクトアターック!!」

 突如、部屋を開けてランタナが登場し、ペポにダイビング。

 

「うわッ、ランタナちゃん!?」

 体勢を崩したままペポはランタナともみ合って壁に激突。

 その直後、真上にあった曰くつきの物品が飾ってあった棚に衝撃が伝わり、いくつかが床に落ちてしまった。

 

 ぱりん、がちゃん、がっしゃーん。

 血の涙を流す着せ替え人形は胴体と下半身が別々になり、柔らかいはずのテディベアが鈍い音を立てて首がモゲ、持ち主に不幸を(もたら)す鏡が割れた。

 

「あ、な、なんてことを!?」

「あッ、ごっめーん。後で弁償するから許して?」

 てへぺろ、と軽く謝るランタナだったが、ペポには見えた。

 霊たちが激怒していることに。

 

「うえッ、そんなに怒らなくてもいいじゃんかぁ」

 がくがく震えるペポに、彼女が怒っていると思ったランタナは、その時気付いた。

 

 ペポが見るからに邪悪なオーラを纏っていたことに。

 そして、彼女は人形めいた笑みを浮かべ、血の涙を流しながらこう言った。

 

 

 『痛かったよ、ランタナちゃん』

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ!!」

 ホラー耐性の無い花騎士の一人が悲鳴を上げた。

 

「つまり、ペポは悪霊に取り憑かれているというわけか」

 団長はそう締めくくった。

 誰もそれを笑えない状況だった。

 

「よし、助けに行くぞ」

「あ、団長さん、おひとりで行くつもりですか!?」

「止めるなリンゴちゃん、男にはやらねばならない時があるんだ」

 そう言って団長が仮宿舎の玄関に手を掛けた瞬間だった。

 

「うおぉぉ!!」

 団長はすぐに逃げ帰ってきた。

 

「いや、違うんだって、あのドアノブ、なんか生物的な感触だったんだよ!!

 ビビるだろ、普通ビビるだろう!?」

 何の為に格好つけたんだ、という視線に晒されながらも、団長は必死に弁明した。

 

「おい、クロユリ!!

 お前も一緒に来いよ、お前死神だろ!! ああいうの得意だろ!!」

「残念ながら私は生者専門らしいから無理だ」

「お願いだよ、流石に一人は無理だよぉ」

「ええい、しがみつくな!!」

「仕方が有りません……」

 女の子にしがみつく見苦しい男から目を逸らし、リンゴは決意した。

 

 

「救援を呼びましょう。専門家にお任せするんです!!」

 決して可愛い女の子が来ればいいなぁ、なんて下心は無かった。多分。

 

 

 

 

 

 

「うわぁ、これは酷い……」

 偶々夜勤で出ていた為に、呼ばれてきた花騎士ギンリョウソウはホラーハウスと化した仮宿舎を見上げてそう呟いた。

 

「無数の幽霊たちが遊び回っている。

 原因らしい悪霊たちの影響だと思うけど、こんなに酷いのは初めて見た」

「ふぁぁ……眠いよぉ」

 感情の起伏の少ないギンリョウソウですら戦慄しているというのに、もう一人の方は欠伸をして目を擦っている。

 

「どこがホラーハウスなの? 普通の騎士団宿舎じゃない」

 と、このおどろおどろしい雰囲気を一切感知していない、悪魔祓いの一族なのに霊感ゼロの花騎士ナナカマド。

 彼女は寝ていたところを叩き起こされたらしい。

 

「どうにかできそうか?」

 神妙な表情で、クロユリに抱き着いたままの団長が問う。台無しだった。

 

「わからない。けどやってみる」

「ねぇ、明日モモさんに任せようよぉ、私眠いよぉ」

「取り憑かれた人が居るんだから、やらないとダメだよ。戻ってこれなくなっちゃうかもだし」

「あぁ、うん、そうだよね」

 ギンリョウソウに諭されて、パンと頬を叩いて気合を入れるナナカマド。

 

「話はまとまったか? 行くぞ、クロユリ!!」

「私が居ても足手まといだろう。もちろん、お前が居てもだ」

「俺は行くぞ、ペポが取り残されてるんだ。

 ペポの窮地にただ待ってるなんて、男が廃る」

「だんちょ!! 私も行くよ!!」

 団長の雄姿に、ランタナも声を上げた。

 

「私がペポを助けにいかないと、始まらないしね!!」

「おう、付いて来い」

「団長さん、私も付いて行きますよ!!」

 と、更にリンゴも志願した。

 

「団長さんの行くところ、たとえ火の中水の中スカートの中!!

 というか私もお二人のお近くに居たい!!」

「ああ、分かるわ。

 見ろ、ギンリョウソウちゃんのあの常時ジト目を」

「すんばらしいですよねぇ!!

 あの儚い雰囲気に裏打ちされた美しさ、大好物でぇす!!

 リンゴちゃんはどんな死地でも地獄でも、美しい方々の為ならえんやこら、です!!」

「流石我が同士、我が半身よ!!

 共にペポを取り戻しに行くぞ!!」

「はい、頑張りましょう!!」

「私に抱き着きながらやるな!!」

 そう、この一連のやりとりは、団長がクロユリに抱き着いたまま行われていたのだった。

 

 

「だ、大丈夫かなぁ」

「そう。私は嫌いじゃないけど」

 不安そうにしているナナカマドと、リンゴ団長と似た境遇からか妙にシンパシーを感じているギンリョウソウだった。

 

 勿論、大丈夫ではなかった。

 

 

 

 

 

「あれ、何だか変わった素材のドアノブだね」

 と暢気な言葉で先陣を切るナナカマドがドアを開けて、五人はホラーハウスと化した仮宿舎に突入した。

 

 仮宿舎内部は時間も真夜中ということもあって真っ暗だった。

 魔法灯の明かりも心もとない。

 お約束の通り、入ってきた扉はひとりでに閉じた。

 開けようとしても、当たり前の権利のように開かない。

 

「なあ、ここに部屋なんてあったか?」

「いいえ、無かったと思いますけど」

 入ってすぐ真正面に団長は存在しない筈の部屋を見つけて確認したが、リンゴも知らないという。

 この建物の構造上、その先に部屋はあってはならない筈だ。

 

「こ、これは、幽霊屋敷特有の物理的に存在しない部屋では!!」

「入ってはダメ、そこから悪意を感じる」

 そのドアに手を掛けようとしたランタナに、ギンリョウソウは待ったを掛けた。

 

「え、ここにドアなんて見当たらないよ?

 みんな何言っているの?」

「確定か」

 ナナカマドの反応を見て、団長は確信する。

 心霊現象を知覚できない彼女は、逆説的に幽霊探知機になっていた。

 しかし、このままでは入ってこないと幽霊は思ったのだろう。

 

 しくしく、というペポの鳴き声が聞こえ始めたのだ。

 

 

「……どうする?」

「行くしかあるまい。確認しない訳にはいかないからな」

 ギンリョウソウは、渋顔の団長に確認を取り、ドアを開けた。

 中は、何もない殺風景な小部屋だった。

 ただ、意味深な赤い染みが中央に存在していた。

 

 ギンリョウソウは先んじて部屋に入り、しゃがんでその染みを確認した直後だった。

 

 ごごごごごごごご、人間に反応できない速度で両側の壁が押し寄せてきたのだ!!!

 

「あれ、しゃがみこんでどうしたの?」

 悲鳴を上げる暇も無い面々に対して、ナナカマドが彼女に近づいた。

 二人纏めて押しつぶされると思いきや、どういうわけか壁はナナカマドを押しつぶせないらしく、低いうなり声らしきものを立てている。

 

「いいから、こっちこい!!」

「あ、うん」

 ナナカマドは言われるがまま、ギンリョウソウを連れてその場から離れた。

 二人が離れると、その部屋は初めからなかったかのように消えていた。

 

「いきなり殺意高すぎないか……」

「ごめん、私も引っ張られてた」

 冷や汗を掻く団長と、間一髪で助かったギンリョウソウは安堵の息を吐いた。

 

 そうしていられたのもつかの間だった。

 ドンドンドン!! と、何かが迫ってくる音が聞こえた。

 

 一行がそちらの方を見てみると、超巨大なテディベアが凄まじい勢いで、重量感のある音を鳴らしながら跳んできたのである。

 

「ナナカマドバリアー!!」

「え、ええ!?」

 咄嗟にランタナがナナカマドを盾にした。

 彼女は咄嗟に手を差し出すと、両手に何かを掴んだ。

 

「もう、大げさだよ。ただのテディベアじゃん」

 と、手にした普通の大きさのテディベアを掴んで、ナナカマドは笑いながら振り返った。

 きっと彼女には、巨大なテディベアが押し寄せてきたなんて感じてなかったのだろう。

 ただ、彼女の場合、霊感ゼロの代わりに霊からの干渉も一切受け付けていないようだった。

 ギンリョウソウの眼から見ても、そのテディベアは瘴気に近い呪詛を垂れ流しているのに、ナナカマドは平然としている。

 

「あれ、でも何だかこのテディベア、変な感触がするね。

 何だか本物のクマの子供みたいっていうか……」

「そのまま抑えておいて」

 ギンリョウソウは不思議そうにしているナナカマドの手にしたテディベアに、次々と御札を張り付けていく。

 

 テディベアが御札だらけになって、その上で布で包んで縛り上げた。

 

「これが噂の呪いの殺人テディベアかな。

 一家五人を惨殺、霊媒師十人がかりで抑え込んだっていう。

 まさか最高レベルの御札十枚と聖骸布をいきなり使わされることになるなんて」

「なんだか知らんがヤバイ代物だってことはわかった」

 もぞもぞと蠢く布の塊を見下ろし、団長は深く触れなことにした。

 

「リンゴちゃん、怖いなら無理しなくてもいいぞ」

「いえ、大丈夫です、団長さん」

 さっきからずっと静かなリンゴを心配した団長だったが、彼はおもむろにナナカマドの背後に回り込んで、スカートを捲った。

 

「きゃ、きゃー!! 何するの団長さん!?」

「俺は見てないから勘弁してくれ!!

 それはそうとして、お前は誰だ」

 その言葉に、ハッとして全員がリンゴの方を向いた。

 

「お前が本物のリンゴちゃんなら、ナナカマドちゃんの純白のパンツに反応しない訳がない!!」

「しっかり見てんじゃん!!」

「正体を現せ!!」

「うふふふふ……」

 団長が偽リンゴの正体を看破すると、彼女は邪悪な笑みを湛えた。

 

 すると、彼女の背後に古ぼけた鏡が現れた。

 その鏡はリンゴの背中を映さねばならぬはずなのに、鏡の中のリンゴは正面を向いてあろうことかひとりでに動いていた。

 それはまるで、こちらに助けを求めているかのように鏡を叩いていた!!

 

「あッ、これ、私が割っちゃった鏡だよ!!」

「同士リンゴちゃんを返せ!!」

「うふふ、何をしたって無駄よ。

 私の感覚は彼女と繋がっている。この体が死ねば彼女も死ぬの!!」

「ぐッ、これでは手が出せない……」

 偽リンゴの言葉に、ギンリョウソウが歯噛みする。

 

「仕方ない、この手は使いたくなかったが……」

 と言って、団長は偽リンゴを背後から捕まえる。

 

「この体は正真正銘彼女のよ、捕まえたって意味が無いわ!!」

「おーい、リンゴちゃん。聞こえてるかー?

 今から除霊(意味深)するから、見ておけよ」

「えッ」

 そう言って団長は偽リンゴの体をまさぐり始めた。

 

「ちょ、やめッ」

「げぇっへっへ、こういうのも新鮮で良いな。

 おら、そこの鏡の前に手を付けろや、おらぁ!! 新しいプレイの実験台にしてやる!!」

「ひ、ひぃ!!」

「あ、すぐ済ませるから、ちょっと向こう向いてて」

 と、呆れている三人に対して団長はそう言うと、彼は除霊(意味深)を開始した。

 

 

「おらぁ、もっと動けや!!」

「ひーん」

 ぱんぱんぱん!!

 

「がはは、グッドだ」

「ひんひん」

 どびゅ!! どびゅ!!

 

「さて、第二回戦だ!!」

「も、元に戻すからゆるしてぇ」

「あん? 当たり前だろ。

 そうだ、お前便利だからこれからも使ってやるよ。

 さーて、次はだれで試そうかなぁ」

「い、いやぁ!!」

 

 

 

「霊の消失を確認しました……」

 事が終わり、すっかりただの鏡になってしまったそれを確認したギンリョウソウはそう言った。

 

「なんだ、どっかいっちまったのか。面白い道具だったのに。

 まあ、こっちで極楽に逝けて満足だろうさ」

 この物言いに、ちょっとだけ悪霊に同情したギンリョウソウだった。

 

「だ、団長さーん、怖かったですよぉ!!」

「よくぞ戻ってきた、同士リンゴちゃんよ!!

 悪霊も俺たちの友情パワーには敵わなかったようだ……。

 ……で、どうだった? 鏡越しに自分が犯されるプレイは」

「……すごく興奮しました。あ、腰が立たないんで背負って貰えます?」

 ひし、と抱き合うアホ二人。

 随分とイカ臭い友情だった。

 

「とりあえず、元凶らしい悪霊のうち二つはなんとかできたけれど」

「まだ呪いの着せ替え人形が残ってるんだっけ?」

 若干顔が赤いナナカマドがギンリョウソウの言葉にそう被せた。

 

「うん、それがペポに取り憑いた奴だと思う」

「……どうにかできると良いけど」

 不安げなランタナの表情は悪い、霊気に当てられているようだった。

 

「大丈夫? おぶってあげる」

「あ、うん、お願いします」

 団長はリンゴちゃんへの除霊(意味深)により彼女を背負っているので、ギンリョウソウがその役目を買って出た。

 

「シルバーのドラゴンの背に乗って~♪」

「全然余裕そうじゃねーか」

 そんなやり取りをしている団長とランタナを横目に、ギンリョウソウは何かに気付いた。

 

「えッ、ペポのお友達? 信じられない」

「ペポの友達がどうかしたの?」

「それが、ペポの友達だっていう人魂が現れて。

 とんがり帽子をかぶってる子なんだけど……」

「あッ、それペポに聞いたことがある。

 たぶん間違いなく、ペポの友達だと思う」

「幽霊の友達とか、信じられないけど、そこまで言うなら……」

 こうして一行は、ペポのお友達の案内に従うのだった。

 

 

 

「うーん、身動き取れないよぉ」

「ペポ、ペポなのかお前?」

「その声は、団長さん!?」

 ペポのお友達に案内された物置部屋に、確かにペポは居た。

 

 ただし、それは両手に乗るくらいの大きさの、妙にディティールの凝ったペポを模した人形だった。

 

「これって、私が去年ペポの誕生日にプレゼントした、ペポちゃん人形じゃん!!」

「ケーキ屋のマスコットみたいに言うなよ」

「ペポ、こんな姿になっちゃうなんて……」

 おいおい、と泣きながらペポちゃん人形を抱きしめるランタナ。

 

「え、なに、その人形から何か聞こえるの!?」

「素人の私たちにも聞こえるのに。本当に霊感ゼロなんですねぇ」

 疑わしげに皆を見るナナカマドに、ちょっとだけ同情するリンゴだった。

 

「ふむふむ、どうやらあのままじゃ心まで乗っ取られるから、ペポさんの魂をこの人形に入れて避難したらしい」

「正直半信半疑だったが、本当にペポに幽霊の友達がいたんだな」

 ギンリョウソウはランタナが落ち着くまで、団長と待つことにした。

 

「とりあえず、ペポの安全がある意味確保できたのは大きい。

 元凶の呪い人形を何とかして、早く元に戻してやろう」

「ちょっと待ってください!!」

 しかし、それに待ったを掛けたのがペポちゃん人形だった。

 

「あの子は普段おとなしい子なんです!!

 いつも私の愚痴を聞いてくれてて、だけど、前の持ち主に酷い事されて、それを恨んで悪霊になって……棚から落ちたショックで、ちょっと悲しみがぶり返しちゃっただけなんです!!」

「だけどそれで生者をこんな目に遭わせる理由にはならない」

 温情を示そうとするペポに、ギンリョウソウは淡々と、シビアにそれを否定した。

 

「彼女はあなたの優しさを無下にした。

 供養し、大切にしていたのに、身勝手に、感情のままにふるまい始めた。

 それが悪霊なのよ。己の理性や感情を制御できないのなら、そこに善悪なんて関係ない」

「確かに、ランタナは切っ掛けに過ぎない。

 もしかしたら地震か何かでも、遅かれ早かれ同じようなことが起きたかもしれん。

 今回の一件は一概に誰が悪いかなんて言えんが、少なくともお前の管理の甘さ、霊に対する危機感の薄さは改めるべきだろう」

「そう、ですね……」

 寂しそうに、悲しそうに、ペポはそう言った。

 今回の原因たる悪霊も、彼女の友達に違いないのだから。

 だが、何かの弾みで銃を乱射する友人は、友人足り得ないのである。

 人間なら心の病院に閉じ込めるしかないように、幽霊なら封印するしかないのだ。

 

「友達なら、悪いことしたら悪いって教えてやらないとな」

「……はい」

 そう言ってペポちゃん人形を手に取って、団長は言った。

 そして彼は何を思ったのか、それをひっくり返した。

 

「ふむ、なるほど」

「って、なにしてるんですか!!」

「なにってほら、フィギュアとかじゃ一番作り込みが気になるところだろう?」

「勿論、一番凝りました」

 悪びれも無くのたまう団長に、ドヤ顏で言うランタナ。

 

「すげぇな。お、これ脱がせられるぞ」

「やめてぇ!!」

「ズルいです団長さん!! 私にも貸してください!!」

「おいランタナ、帰ったら他の奴のも作れよ」

「もう、しょうがないなぁ、だんちょは。

 帰ったらランタナちゃん人形をプレゼントしよう!!」

 なんてやり取りを見て、この人たちは緊張感が長続きできないのだろうか、とギンリョウソウが思ったその時であった。

 

 ナナカマドを除く全員が怖気の走る感覚に、総毛だった。

 

 

 『ユルサナイ……』

 

 

 

 その声を聴くまでも無く振り返った面々は、血の涙を流しながら人形めいて笑うペポが入り口の前に立っているのを目にした。

 

 『ドウセ、手足ヲ引キ千切ルクセニ!!』

 

 『ドウセ、床ニ叩キツケテ笑ウクセニ!!』

 

 『ドウセ、最期ハ暖炉ニ投ゲコムクセニ!!』

 

 呪詛を吐きながら、一歩ずつ近づいてくる彼女の異様さに、霊感の無いナナカマドさえも後退る。

 邪悪なオーラが世界を浸食しようとしていた!!

 

 

「う、うおおおぉぉお!!

 ペポの体を返せぇええええ!!!」

 それは無謀か、はたまた勇猛か。

 ランタナが恐れを振り切り、悪霊の取り憑いたペポにダイビングタックルを試みた!!

 

「ぎゃふん!?」

 が、あっさりと謎の力によって弾かれた。

 そして、周囲が異様な空間に様変わりしていく。

 

「こ、これが一族の皆が言っていた悪霊!!

 やった、私ようやく悪霊が見えたよ!!」

「これはもう見えてるとかそう言うレベルじゃないぞ!?」

もうペポの周囲から黒い靄のようなものが吹き出し、顔の様なものまで具現化していた。

 

「周囲を自分の都合のいいように書き換えている? なんて化け物!?」

「あ、ちょっと待って、一族伝来の退魔の呪文を唱えるから」

「これ、そんなの効くのかよ!?」

 何だかマイペースに古めかしい巻物を取り出したナナカマドに、団長も焦りで声を荒げた。

 

 『ウギャアアアアアアアアアッァァァ!!!』

 

 

 ところが、ナナカマドが何やら霊験あらたかそうな呪文を唱え始めると、悪霊は苦しみだし、異様な空間は嘘のように元に戻り始めた。

 

「ッ!? 今だ、御札を!!」

「うん!!」

 苦しみだす悪霊に向かって、ギンリョウソウが魔力の籠った御札を投げつける。

 御札は次々と吸い付くようにペポに張り付き、やがて黒い靄のような何かがペポの体から出て消失した。

 

 からん、と消失した靄から手足や首がバラバラになった着せ替え人形が落ち、床に散らばった。

 

 それを機に、仮宿舎を覆っていたおどろおどろしい雰囲気が消え去っていくのをナナカマド以外は感じていた。

 

 

 

 

 

「いやぁ、これで一族の皆に胸を張って悪霊を退治したって言えるよ!!」

 仮宿舎を出ると、ご機嫌の様子でナナカマドはそう言った。

 部隊の面々も、彼女らの姿を見て歓声を持って出迎えた。

 

「ああいうの相手してるとか、お前ん家……出る作品間違えてないか」

「あ、でもお父さんならピザとストロベリーサンデーを食べながらで、ちゃちゃっと終わらせてたかも。

 私もお父さんみたいにスタイリッシュに悪霊を倒せるようにならないと!!」

「ああ、うん、お前ん家だけは絶対に敵に回さんわ」

 魔境はバナナオーシャンだけじゃなくて故郷にもあったんだなぁ、と思う団長だった。

 

「ううぅ、やっと戻れたぁ」

「ペポ、あのお人形はちゃんとお墓を作ってあげよう」

「うん、そうだね。そうしようか」

 ペポは親友の優しさに、憔悴していた顔に笑みを作った。

 

「大変だったけど、何とかなってよかった」

「ええ、なんだか凄い体験をした気がします」

 疲れ切っているギンリョウソウとリンゴ。

 実際凄い体験をしていた。

 

 

「え……?

 団長さん、私のお友達が悪霊の霊気を受けてパワーアップしたとかで、伝えたいことがあるそうです」

「うん、なんだ?」

 ペポがその視線を今出てきた仮宿舎の方へ向けた。

 団長も釣られてそっちを向いた。

 

 仮宿舎の壁一面に、血文字でこう書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ペポを裏切ったら ユ ル サ ナ イ からね

 

 

 

 

 

 

 

 

 団長が卒倒した為、その翌日、ブラックサレナ部隊は急遽休業となった。

 

 

 

 

 




この話の書くに当たりナナカマドのキャラクエやりましたが、この子の一族だけ世界観違くね? となった次第。ホントはギンリョウソウがメインの話だったんだよ。
そう、たとえ彼女の父親が魔剣と二丁拳銃をぶっ放す、大好物がピザとストロベリーサンデーの男だろうと、私は驚かない自信があります。

ちなみに今回のホラーハウスのギミックとか元ネタが有ります。
開幕迫りくる壁とか、座ったままの姿勢で襲ってくるテディベアとか。

今回のリンゴちゃんの淑女度、原作を100%なら70%ぐらいだろうか(自己採点


次回予告

花の種類は全種類で二十万種以上、ということは最低二十万人は花騎士が居るってことでは?
それだけ居れば十人十色、花騎士だけじゃなくとも人間は色々。

美しく咲き誇る花騎士も居れば、彼女らの脇に添えるように目立たず咲く可憐な花もある。
次回、『脇役たちの茶会』

脚光を浴びぬモブたちよ、愚痴を言い合う時だ。

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