貧乳派団長とリンゴちゃん   作:やーなん

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皆さん、今年もよろしくお願いします。
先日の金チケにて手に入れたあの子が登場します!!



ドリームランドクエスト

 花騎士の能力は多岐に渡るが、彼女らの持つ力の中で特殊な固有スキルの持ち主は案外少ない。

 それはすなわち、替えの利かない能力だ。

 

 ほぼ完ぺきな不老長寿でさえ、稀少であるが複数人が有している。

 

 その点で言うと、ニゲラという花騎士の持つ力は他に誰かが有しているなどとは聞かない。

 その能力とは、他者の夢の中に入り込み、ある程度の改変や深層心理の記憶を呼び起こしたりすることだった。

 応用もかなり効く能力で、他人を別の誰かの夢へと連れて行くことさえ可能だった。

 彼女はそれを利用し、情報屋として花騎士の副業がてらに働いていた。

 

 その能力について、最近その力目当てに接触してきた紫色の魔女がその危険性について説いていた。

 

「私の力、そんなに危険なの?」

「ええ、とても恐ろしい力です」

 年末の魔女の集会にしれっと紛れ込んでいたその彼女は、薄く妖艶に微笑みながらニゲラに語る。

 

「普段からその力を常用しているあなたがその危険性を分かっていないのは、あなたの善性ゆえでしょう。

 悪用しようとすれば、幾らでも悪用できるのですから」

「悪用は、してるよ。

 他の人の記憶を探ったりしてるもの」

「ええ確かに。ですが、その程度である種の後ろめたさや罪悪感を感じているのですから、それはあなたの人の好さの表れでしょう。

 ですが覚えておいてください、夢の中に入り込めるということは、その人間を容易く支配することが可能だということを」

 それを聞いたニゲラは、心底驚いた様子だった。

 内気な彼女にはそんなこと想像したこともなかったのだろう。

 

「夢とはその人間の深層心理の表れ。心の奥底の願望の発露。

 そこに触れ、かき乱せるあなたの力は、それこそ悪魔にでも天使にでも成れるのです」

「……天使にも?」

 それは、ニゲラにとって意外な言葉だった。

 何せ、彼女の二つ名は「茂みの中の悪魔」である。ちなみに、この異名に関して彼女の能力は一切関係なかったりする。

 そして自分の背中に天使の羽が生えている姿を想像して、すこしだけにやけた。

 

「ええ、私は夢の中だからこそ、その人の心の傷を癒し、痛みを和らげることが可能なのではないのか、と考えているのです。

 いえ、きっと可能でしょう。夢の中の出来事は、当人が認識しているよりずっと大きなことなのですから」

「だけど、それって結局、その人の心を操ってることにならないかな」

 それを聞いた彼女は、ニゲラの弱気な言葉をくすくすと笑った。

 

「そんな難しいことは必要ありませんよ。

 ただ貴女が夢に出て行って、話し相手になるだけでも十分その役割を果たせるでしょう。

 夢の中でしか話せないことも多いでしょうし、話さねば整理のできない事柄も多いのですから」

「……話し相手になるだけ……」

 それは、思いのほかニゲラにとってハードルの高いことだった。

 彼女が知り合いの花騎士と友達になるのに一苦労したのは記憶に新しい。

 

「夢を介した治療に興味があるのでしたら、今度は診療所の方にお越しください。

 子細について話を詰めましょう」

「……うん、分かった」

 彼女も花騎士なんて割に合わない仕事をしているのだ。

 そういう方向で力を使うのもやぶさかではなかった。

 

 

「ちょっとちょっとニゲラちゃん!!

 またアルテミシアとエニシダちゃんが喧嘩しちゃって!!」

 話が終わると、最近仲良くなったブルーエルフィンが慌てた様子でこっちに駆け寄ってきた。

 

「……また?」

 よくも毎回飽きないな、とニゲラが思っていると、いつの間にか紫色の魔女は姿を消していた。

 

 

 

 §§§

 

 

 

「練習がしたい?」

「うん。私お喋りとかあんまり得意じゃないから」

「では丁度いい実験台、いえ、患者がいますので、彼で試してみましょう」

「彼?」

「ええ、それで、例えばですが、夢を介して深層心理へと干渉することは可能でしょうか?」

「うーん、記憶を夢に呼び起こして探るくらいはしたことはあるけど、そこまでは。

 あまり心の奥底に踏み込むと、私でも危ないし。

 でも、深層心理の心象風景を夢として見せることは出来ると思う」

「では、それで」

 

 

 

 その彼の夢の中は、枯れ果てたベルガモットバレーのような場所だった。

 コダイバナ周辺のように乾いてひび割れた大地であり、無数の谷が存在していた。

 

「うわぁ」

 ニゲラは下を覗き込んで眉を顰めた。

 谷底には川が流れていた。だがその川の色は赤黒く、何かの肉塊みたいなものが流れていた。

 

「深層心理を映し出した心象風景の夢の中へとやってきましたが、やはりこのような場所になっているのですね」

 ニゲラに同行しているパープルチューチップは、予想していたようにその様子に眉ひとつ動かさない。

 

「行きましょう」

「うん」

 彼女の先導に、ニゲラは続く。

 ニゲラの方が勝手知ったる夢の中であるというのに、まるで彼女もこの場所を熟知しているようだった。

 

 夢の中に距離の概念は無い。

 目的の場所はまるで向こうからやって来たかのように現れた。

 

 そこは谷の中に突き出ている不安定な支柱に支えられた周囲に不釣り合いな豪華な屋敷だった。

 その場所へはボロボロのつり橋で繋がっている。

 谷底は当然肉塊の川が流れている。踏み込むには躊躇う場所だ。

 

「……」

「大丈夫、だよ」

 少々尻込みしているパープルチューリップに声を掛けると、二人はすぅっと屋敷の前に異動していた。

 

「そうでした、ここは夢の中でした」

「うん、ここに常識なんてない。私から離れなければ大丈夫」

 二人は屋敷に入ろうとしたが、その前に立札が存在した。

 

『胸囲80以下、またはCカップ以下の女性のみ入館可能。

 見た目が幼ければ子細問わず』

 

 それを見たパープルチューリップは、またこの人は、と言うような表情になった。

 幸い、二人はこの条件にあてはまるようで、あっさりと中に入れた。

 

 

「むっははははははは!!」

 中から馬鹿笑いが響く。

 

 屋敷の内部は一言で言えば、ハーレムだった。

 一人の男が巨大なベッドに寝そべり、その周囲に胸が控え目の女性たちが周囲に(はべ)っていた。

 

「フルーツをどうぞ」

「君の口移しで食べさせてほしいなー」

 女の子が金属の皿に乗ったフルーツの山盛りを差し出すと、男はそんなことをのたまう。

 両腕に美少女を抱いては、色んなところをまさぐってセクハラしていた。

 これ以上無いほど分かりやすい欲望の権化だった。

 

「さ、最低……」

 ニゲラが思わずそう呟くくらいに下劣な光景だった。

 

「ここは彼の欲望と理性の部屋。

 見た目こそハーレムですが、恐らく彼はここの誰も手を出してないでしょう」

「そうなの?」

「言ったでしょう、ここは欲望と理性の部屋だと」

 パープルチューリップが周囲を見渡すと、そこにはハーレム御殿に似つかわしくない執務机が置いてあった。

 その後ろに壁には騎士装束が立て掛けられている。

 この部屋が彼の欲望と理性だとするなら、理性は一角程度だった。

 

 すると、理性の領域にあるドアからリンゴが書類を持って現れた。

 

「団長さーん、そろそろお仕事しましょ」

「もうちょっと待っててくれよ、というかリンゴちゃんもこっちに来いよ」

「それは魅力的な提案ですけど、私はそっちに行けないんです」

 リンゴは残念そうにそう言った。

 本物ならもっとオーバーに悔しがりそうなものだが、このリンゴは彼の理性の化身だった。

 

「ごめんなさい、団長さんがこの通りでして。

 ご要望がおありでしたらまたの機会におねがいします」

 リンゴは礼儀正しく二人に一礼した。

 

「ダメだね。彼はこっちを認識してない」

 ニゲラが団長に近づいて手を振るが、何も反応を返さない。

 

「認識されないのなら、話しようが有りませんね」

「ぶっ叩けばどうにかできると思うけど……」

「それでは本末転倒でしょう」

 ニゲラならこの場所に干渉できるのだろうが、ここは彼の深層心理の深い場所だ。

 そんな繊細な場所に手を加えれば、どのような弊害が起こるか分からない。

 

「いったん退散しましょう」

「そうだね」

 夢の中には夢の中のルールがある。

 深層心理の風景なら、尚更だろう。それが一見どんなに下らなく見えても。

 

 

 

 二人が荒野を探索していると、枯れ木の森が現れ始めた。

 

「あ、家がある」

 ニゲラが指差す先に、小さなみすぼらしい家がぽつんと建っていた。

 

「行ってみましょう」

 二人がドアの前に立ち、パープルチューリップが呼び鈴を鳴らす。

 

「……ああ、客か」

 ドアを開けて顔を出したのはクロユリだった。

 彼女は二人を見てあからさまに気を落としていた。

 

「突然の訪問をお許しください。

 あなたはここで何をなさっているのでしょうか」

 彼女は夢の中の、深層心理の住人だ。

 あのリンゴのように何かしらの役割を持っている筈なのである。

 

 

「何をしているかだと? 旦那の帰りを待っているのさ」

「旦那?」

「あっちの方で女を侍らせているダメ男のことだ」

「ああ……」

 ニゲラの中で夢の主の株が急降下している音が聞こえるようだった。

 

「中に入ってもよろしいですか?」

 更に彼の心理に踏み込むために、紫の魔女はそう申し出た。

 

「ああ、構わない。だがその代わり、頼みを聞いて貰う」

「頼みですか?」

「旦那をここに連れてきてほしい。

 ここは奴にとってとても重要な場所なんだ。なにせ、奴の記憶の根幹となる場所だからな」

 それを聞いた二人は顔を見合わせて頷いた。

 

 

 外から見てその家は小さかったが、中は博物館のように膨大な絵が飾られた場所だった。

 そこには彼の思い出の一つ一つが絵として保存されているようだった。

 

 これを一つ一つ見て回るだけで気が遠くなるような時間が掛かりそうだったが、そこは主治医、パープルチューリップはあっさりと一番重要だと思える場所を探し出した。

 というより、彼にとって重要な記憶の絵はそれだけ巨大なようなのだ。

 

「これは……」

 その中でひときわ巨大で、壁一面にも及ぶ絵のタイトルは『十二人の花騎士』とあり、花騎士たちが押し寄せる害虫の群れに立ち向かっている様子が描かれている。

 

「1,2,3、……あれ、この絵って十一人しか居ないよ」

 ニゲラが指摘する通り、その絵には害虫に立ち向かう十人の花騎士と、それに背を向ける団長、そして彼が抱えるクロユリだけが描かれている。

 まさか騎士団長は花騎士に数えられまい。

 

「……」

 その意味を察したパープルチューリップは痛ましい表情になった。

 

「笑えるだろう、この絵を一番知られたくないと思っている私にこの場所を守らせているのだからな」

 二人が振り返ると、記憶の番人の化身たるクロユリが立っていた。

 

「悪いが、そろそろ出て行ってくれ。

 他人に長居されて気持ちのいい場所じゃないからな」

「ええ、少なくとも私のここに来た目的は達せました」

 行きましょう、とニゲラはパープルチューリップに促されて記憶の博物館を後にした。

 

 

「さて、頼まれごとをされてしまいましたね。

 どうすれば彼をこちらに連れてくることができるでしょうか」

 別に無視したって当人に大した影響はないだろう。

 だが、それを無視できるのなら花騎士などやっていない。

 

「……そうだ、他の人を連れて来るなんてどうかな」

「どういうことです?」

「他の人の夢から彼に近しい人を連れて来るの。

 同じ夢の住人なら無理なく接触できるし」

「それは可能なのですか?」

「うん、夢と夢を繋げればできるよ」

「なるほど、人間は深層意識の中で繋がっていると言います。やってみましょう」

 それなら悪影響も少ないだろう、とニゲラの提案に彼女も賛成した。

 

 

 

 

 §§§

 

 

「ここって、違う人の夢だよね」

「ええ、恐らく」

 団長の夢から辿って近しい人物の夢へとやってきた二人だったが、辿りついたのは似たような屋敷だった。

 ただ、周囲は荒廃しておらず、穏やかな草原ではあった。

 そして、屋敷の前の立札には、『リンゴちゃん御殿』と書かれていた。

 

 二人がドアを開けると、今度は団長とリンゴが大きなベッドに寝そべって多種多様な美女美少女を侍らせていた。

 団長はセクハラを繰り広げてるし、リンゴちゃんは女の子にちやほやされていた。

 

「なんで二人はこんなに似通ってるの……」

「似たような精神構造をしているのでしょう」

 パープルチューリップはそうバッサリ切り捨てた。

 と思っていた二人だったが。

 

「団長さん、今日もいろんな女の子がいっぱい来てくれましたね」

「ああ、とても良いことだな、やっぱり女の子は最高だぜ、リンゴちゃん」

「それでそれで、どの娘が団長の一番ですか?」

「そりゃあ勿論、リンゴちゃんだろう」

「わぁ、嬉しいです団長さん!!」

 そう言ってリンゴちゃんは団長の腕に抱き付いた。

 その光景を見たパープルチューリップは、おや、とわずかに表情を変えた。

 

「やっぱり団長さんは必ず私を選んでくれますよね!!」

「ああ、なんたってリンゴちゃんは俺の半身みたいなもんだ。

 リンゴちゃんの後には誰も居ない。俺にとって君が最後の補佐官さ」

「えへへ、嬉しいです」

 団長がリンゴを腕に抱くと、いつの間にか周囲に侍っていた女の子たちはベッドを離れていた。

 

「リンゴちゃん可愛い!! 流石俺の天使!!」

「団長さんこそ私の最高の団長さんです~!!」

 がしっと抱き合う二人。

 だがそれは、訪問者二人には空虚なものに見えた。

 男女の友情が成立する云々ではなく、これが一人芝居だからに他ならないからだろう。

 

「独占欲、こんなところにしまいこまなくてもいいのに」

 ニゲラはドアを閉じて、ぽつりと呟いた。

 

「彼女に頼むのは止めましょう」

「そうだね」

 二人はリンゴの夢を後にした。

 

 

 

 §§§

 

 

 次に二人がやってきたのは、ファンシーな世界だった。

 

 カボチャやお菓子で出来た家の町、地面はケーキのスポンジ、空の雲は綿菓子、川に流れるのはジュースと言った具合だ。

 そしてその中心には巨大なお菓子のお城が建っていた。

 お菓子の王国、そう表現するしかない場所だった。

 

「何とも可愛らしい場所ですね」

 パープルチューリップは周囲を見渡してそう言った。

 試しに道のデコレーションされているカスタードホイップクリームらしき物を指で掬って舐めてみる。

 

「……どうしたの?」

「これ、マヨネーズです」

「うわぁ」

 顔を顰めるパープルチューリップ。

 見渡す限りのクリームらしきデコレーションは、全てマヨネーズなのだろう。

 それを想像したニゲラも胃がもたれそうになった。

 ファンシーな世界は思いのほか高カロリーのようだ。

 

「それにしても、人が居ないね」

「人かどうかはわかりませんが、ネズミにクマやイヌを足したような二頭身の住人は沢山いますね」

「ううん、そうじゃなくて、人間が居ないなぁって」

「無茶苦茶に見えても無意味なことはないはずです。

 それが心と言うものですから。つまりそういうことなのでしょう」

 二人はお城へと足を運ぶ。

 

 

「はーっはっはっは!!

 ようこそ、お客人!! 私はこの国の王様、キング・ランタナだぁ!?」

 王城に入ってみると、いきなり謁見の間だった。

 そこには玉座に座る王様っぽい恰好をしているランタナがいた。

 

「キング……クイーンじゃないんだ」

「細かいことは気にしなーい。

 それより何か用かな、私は今春発売予定の『ランタナ無双』の出演交渉で忙しいんだけど」

「今春発売予定なのにまだ出演交渉段階なんだ……」

「延期数回の末にクソゲー評価は間違いなしですね」

 二人はランタナ時空に汚染されている!!

 

 

「ほうほう、だんちょを奥さんの所に連れ出したいから連れてきてほしい、と」

「うん、お願いしたいんだけど」

 かくかくしかじか、と二人は事情を説明すると、キングランタナはうんうんと頷いた。

 

「ところで、ここって夢の中。そして今日は初夢の日。

 つまり夢の内容は実現するってこと!!

 ちょっと協力してくれたら全然オッケーだよ!!」

「協力ってなにをすればいいの?」

「ふっふー、それはね……」

 ランタナはにやりと笑った、

 

 

 その後、ランタナ城の壁に二つの横断幕が垂れ下がった。

 

 『祝 ランタナの別バージョン実装!!』

 『祝 ペポの開花実装!!』

 

 

「よし、いい出来だ。ちらッ。

 これで、チラッ、実装確実だね、チラチラッ」

 ランタナは何かを非常に意識しながら満足そうにうなずいた。

 それを手伝わされた二人はげんなりしている。

 

「そうだ、実はこの国にはある問題を抱えててさ」

「話の流れからしてそっちが本題ですね」

「やりたかっただけなんだね……」

「深刻な食糧問題なんだよね、だからちょっと食料の調達を手伝ってほしいんだ」

 二人の無粋なツッコミを無視してランタナは要件を言った。

 

「ちょっとペポの所に行きたいんだ」

 

 

 

 

 §§§

 

 

 

 暗闇の中でペポは、実際の姿より幾分幼い姿のペポは(うずくま)っていた。

 抱えた膝に顔を押し付け目を塞ぎ、耳を塞いでいた。

 

 先ほどから彼女には無数の雑音が聞こえていた。

 どれもが彼女を忌避する声だった。

 幽霊を招きよせる力を恐れる声。

 それを恐れる故に自ら他者を遠ざけ、それを不思議がる同年代の知り合いたち。

 

 友達は幽霊だけ。

 一人で話している変な奴として白い目で見られる声。

 悪循環。

 

 

「なにをしてるのさ、ペポ」

「ランタナちゃん?」

 親友の声に、彼女は顔を上げる。

 

「私、だんちょのお嫁さんになるんだよ。祝ってくれないの?」

 彼女は実物よりも幾分かいい感じに成長し、花嫁衣裳の親友の隣にはよく知る人物が立っていた。

 まさに彼の好みのど真ん中と言った容姿だった。

 

「これからはペポにかまってあげられないけど、頑張ってね!!」

「待って、待ってよランタナちゃん、行かないで!!」

 悲痛な声を挙げるペポだが、親友は一度さえ見たことの無い表情でこう言った。

 

「あのさぁ、ペポ。もういい加減分かってるでしょ。

 団長さんが私にいろんなことやらせるの、私が一人前になるためだって。

 なのにどうしてペポは私にばっかり頼るの?」

 それは、(あざけ)りの表情だった。

 ペポが想像する、ペポの恐れの化身たるランタナは、溜息と共に話を続ける。

 

「私を放っておけない? 他に居場所が無いだけでしょ。金魚の糞じゃあるまいし。

 私知ってるよ、私なんかよりずっとペポの方が幼いって。

 ほら、自分の姿を見てみなよ。お姉さんぶってさ、私よりちっちゃいじゃん」

 自分を指して、想像上のランタナは言う。

 

「ち、違うもん、ランタナちゃんのうそつき!!」

「何が違うの? 何が嘘なの? 本当は全部わかってるくせに。

 ほら、団長に言ったらどうなのさ、ランタナちゃんを私から取らないでって!!

 団長はずっと前からわかってたよ、私たちの関係が健全じゃないって。

 でも無理やり引き離そうとしなかった。優しいよね」

 それは、深層意識での自傷行為だった。

 だが、自分の中の気持ちを整理する為に必要な痛みだった。

 

「私知ってるよ、私が団長とぬるま湯みたいな関係を続けているうちは彼はランタナちゃんに絶対に手を出さない。

 それでランタナちゃんを守ってる気になってるってね!!」

「止めてよ!!」

 恐れの化身は、いつのまにかランタナから本来のペポの姿へと変わっていた。

 恐怖、恐れ、その具現に、幼いペポは成す術など無い。

 

「団長さん、気が多いもんね。

 どうせ成長したら飽きられるし捨てられるもんね。

 私が理想の美少女だって? どうせ誰にでも言ってる言葉だよね!!

 あなたなんて誰でもいい誰かの一人なんだよ!!」

「もうやめてってば!!」

「止めないよ、私はあなたなんだから、本当に止めてほしいならそうすればいい。

 でもそうじゃないのは、あなたが分かってるからでしょ」

 だが、それを受け入れるにはペポはまだ幼かった。

 ここは虚飾が通じない深層意識。

 悪夢は続く。

 

 

「ランクアップ、ランタナチェーーンジッ!!!」

 そう、自分一人なら。

 

「喰らえ、私の別バージョンは虹レアで実装しないでねキィィーーック!!!」

 ランタナのドロップキックが決まり、ペポの恐れの化身を蹴り飛ばした。

 

「詫び石、はよ(横暴」

 意味不明なキメ台詞と共にランタナはキメポーズを取った。

 

「ふん、ペポをいじめるとは不届き千万。

 ペポをいじめるなら、私を通してもらおうか!!」

「ら、ランタナちゃん!? なんでここに居るの!?」

「あれ、何だかちっちゃいなペポ。これ以上ちっちゃくなったらだんちょの射程範囲外になっちゃうよ。

 ま、いいや!! こんな暗いとこなんて面白くないじゃん、私の国に行くよ!!」

 困惑するペポの手を引いて、ランタナは走り出す。

 

「ランタナちゃん……」

 今のペポは小さいからか、自分の手を引く親友の手や背中が大きく見えた。

 いつの日か、孤独から救ってくれた時のように。

 

 

「料理長!! 新鮮なペポを捕まえてきたよ!!」

「よっしゃ、さっそく調理するべ」

「え……」

 ファンシーなお城に連れてこられたと思ったら、板前姿の団長がやってきて、ペポをお鍋に放り込んだ。

 

「砂糖、しょうゆ、みりん~♪」

 お湯を注がれ、調味料を入れられ、煮込まれるペポ。

 

「じゃーん、ランタナ合衆国名物、ペポの甘煮だぁ」

 そうして皿に盛り付けられたペポが訪問者二人の前に出された。

 

「……」

「……」

「……」

「あれ、食べないの? 天ぷらの方が良かった?」

 微妙な沈黙が流れる三者の空気など知らぬと、ランタナは不思議そうにその光景に首を傾げた。

 

 

 

 §§§

 

 

「はい、だんちょ。ロリペポの甘煮の御裾分けだよー!!」

「うぇ!? マジで、でかしたぞランタナ!!」

 ハーレムでガウン姿の団長は、三人がかりで持ち運ばれたペポ料理に歓喜して飛び上がった。

 

「うーんでも、これを食べるのはもったいないなぁ」

「……」

 調理されたからか、それとも全てを諦めたからか、無反応のまま死んだ目で皿に盛られているペポ。

 

「そうそう、奥さんが呼んでましたよ」

「なに? そう言えばあいつにはいつも苦労を掛けているな。

 偶には良いものを食わせてやるか」

 なんて涙ぐみながら言う団長。

 なぜか感動するランタナと、白けた表情の残り三人。

 

 

「ただいまー」

 えっちらおっちらと今度は枯れ木の森の小屋まで行くと、団長は中に入ってテーブル席に調理済みペポを置いた。

 

「あれ、クロユリの奴どこいったんだ?」

「愛想尽かして出て行ったんじゃないの?」

「そんなまさか、まさか……」

 あっけらかんと言うランタナの言葉に、震える団長。

 

「おーい、クロユリー、帰ったぞー、居るよなー、俺を見捨てないでくれー!!」

 情けない声を叫びながら博物館の奥へと消えて行く団長。

 ランタナは先にペポを食べるのか食器を用意している。

 

 すっかり夢の世界の奇天烈さに閉口していた二人は、顔を見合わせて団長の後を追った。

 

 

 

 

 §§§

 

 

「おお、クロユリ、こんなところに居たのか」

 クロユリは、あの『十二人の花騎士』の絵の前に立っていた。

 だが、その姿を近くで見た団長は立ち止まった。

 

「……まさか夢の中でお前に会うとはな」

 彼女は振り返ると、そんなことを口にした。

 そこで遠巻きに見ていた二人は気付いた。

 彼女は何かしらの役割を持った団長の精神の一部ではなく、正真正銘本物のクロユリの精神体だった。

 

 恐らく自分の夢から地続きでやってきたのだろう。

 団長の近しい人物と夢を繋げたから、そう言うこともあるのだろうか。

 

 

「見るな、それを見るな」

 震えた声で、団長は言った、

 

「もう遅い」

 クロユリは首を振り、再び正面の絵を見上げた。

 

「そうだったのか、もう一人あそこには居たのか」

 悲しげに、痛ましげに、彼女は呟いた。

 

 

「お前の子なら、必ず花騎士になるだろうからな。

 これがお前の悲しみと怒りの根源か」

「皆もあいつだけは残れって言ったのに、あいつは聞かなかった。

 自分一人だけの体じゃないってのによ」

 吐き捨てるように、そうしないとやってられないと言わんばかりに、彼はそう言った。

 

「将来も約束していた。式場だって決めてたし、指輪だって送った。

 だが全て、全てあの虫けらどもが台無しにしやがった!!」

 団長は窓の外を見やる。

 外は、血の海となり赤く染まっていた。

 

 

「俺は誓った、奴らに俺と同じ苦痛を与えてやると!!

 どんなことをしてでも、奴らを苦しみ抜かせて殺し尽くしてやると!!」

 団長の悲痛な叫びが、記憶の博物館に響いた。

 

「悪魔に魂を売ってでも? 生ぬるい!!

 俺は俺自身が悪魔となってでも奴らを駆逐してやると決めた!!

 俺が生きている限り、奴らに安寧など無いのだと教えてやろうとな!!」

「ああ、私も共に行こう」

「……悪いな、付き合わせちまって」

「私が決めたことだ」

 

 

 

 

 §§§

 

 

 

「ふわぁ、酷い夢を見た気がします……」

「私は凄く楽しい夢を見たと思うよ!! 多分!!」

「……当分煮物は食べる気になれないよ」

 翌朝、食堂で顔を合わせたペポとランタナはそんなことを言い合っていた。

 

「クロユリは居るか?」

「何か用か?」

 団長が顔を出すと、待ち構えていたかのようにクロユリが応対した。

 

「お前に話がある、あの時のことだ。ちょっとついてきてくれ」

「ああ、わかった」

 団長はどのような心境の変化か、現実世界で彼女に胸に秘めていたことを話す決意ができたようだった。

 

 

「どうやら効果は有りのようですね。

 これからも治療にご協力ください」

 その様子を、窓から遠巻きに見ていたパープルチューリップは、どこか満足げに頷いた。

 

「うん、今日のお昼寝は気持ち良さそう」

 ニゲラは久々に良い事をしたと、新年最初の笑みを浮かべたのだった。

 

 

 

 

 




RPG並にたらい回しにされるという二人の話でした。

本当は大規模作戦の話を書こうとしたんですが、構想段階で面白くなかったので没になりました。

皆さん初夢は何を見ましたか?
そしてもう一度、今年もよろしくお願いします。

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