貧乳派団長とリンゴちゃん   作:やーなん

46 / 113

今回は大分はっちゃけました。

※この小説のリンゴちゃんは、団長の悪影響をかなり受けております。
皆さんの手元にある、またはこれから来るだろうリンゴちゃんは、各々の好きなように愛でてください。




ニゲラの夢渡り:リンゴ編

「はぁ……」

「どうしたの? 疲れているの?」

 ここ最近、色々な人間の夢の中に入り込んでいるから疲れているのかと、ニゲラはパープルチューリップを気遣った。

 

 

「いいえ、相変わらず世話の焼ける人だな、と」

「ああ、この子の団長さんだっけ?」

「見てください、この荒れようを……」

 パープルチューリップが示すリンゴの深層心理の最表層は、豊かな草原だったはずなのに所どころ大地が割け、リンゴちゃん御殿は朽ち果てた廃墟となっていた。

 

「ここって確か、前は独占欲があったところだよね」

「人の心は移ろいやすいモノ。

 少し前まで重要ではなかった感情がふとした切っ掛けで意味合いが変わることなどよくあることです」

 そう言ってため息を吐く。

 この程度の乙女心を理解しないからこれまで問題を起こしまくっているのだ、と言いたげだった。

 

「さて、今回は私たちが背中を押しても無駄でしょう。

 いささか不本意ですが、当事者を呼びましょう」

「ああ、うん、彼の夢と繋げるんだね。わかった」

 これまでいろんな人物のリンゴ団長のイメージを見てきたニゲラは、あんまり気が進まなさそうだった。

 

 

 そうして最表層を地続きで歩いて行くと、見覚えのある荒野と谷が見えてきた。

 リンゴ団長の深層心理へとやってきたようだ。

 

 しかし、例のハーレム御殿のある橋の前と、離れたところに二つの集団が対峙している。

 お互いの集団の先頭に、それぞれサクラとウメが立っている。

 

「あの」

 ニゲラが手短なところに居る方であるサクラに話しかけようとしたが。

 

「あなた達、敵ね?」

 現実では滅多に見られない険しい表情のサクラに敵意を向けられた。

 彼女の部下らしき花騎士の集団も、同じように敵意を向けてくる。

 

「お前たち、こっちだ、こっちに来い!!」

 二人が困惑していると、橋の前に陣取っているウメが手招きしてくる。

 こっちでは話も出来ないと二人がそちらに行くと、ウメは嬉しそうな様子で出迎えてくれた。

 

「よく来てくれた二人とも」

「これは一体どのような状況なのですか?」

 流石のパープルチューリップも、サクラに敵意を向けられる理由が分からないようで、ウメに尋ねた。

 これは彼女にしては動揺している方である。

 

 

「うむ、同士たちよ。

 我々は神聖貧乳軍親衛隊、あちらの邪悪な巨乳軍団の侵攻に対して団長を守護しているという状況だ」

「…………」

「…………」

 二人はウメの口から飛び出したとんでもないアホな言葉に思考停止した。

 

 

 ぎぎぎ、と両者の胸囲を見比べてみれば、ウメの部下は全員胸が薄く、サクラの部下はみんな胸が大きかった。

 二人がウメの陣営に歓迎され、ウメの陣営から敵視された理由は言うまでも無かった。

 

「……ねぇ、もう帰らない?」

「それはとても魅力的な提案ですが、それでは彼女が可哀そうなのでは?」

「…………」

 ニゲラは心底嫌そうだったが、何とか不満を飲み込んだ。

 彼女もなかなか人が良い。

 

 

「ウメちゃん、そこを退いて!!」

「いいや、退かんぞ。学生時代から密かな努力をしていた横でぶくぶく成長しよってからに!!

 今こそこの恨みを晴らしてやろう!!」

「うん、実は知ってたけど、私も教官も見ない振りしててごめんなさい、でもそれとこれは別よ!!」

「巨乳は人に非ず!! 地上から害虫ともども滅ぼしてくれる!!」

「ゼラニウム神の加護ぞあるわ!!」

 恐らく団長の記憶の一部から作られた二人は、ぽろっと二人の秘密を洩らしながらお互いの集団を率いてぶつかり合う。

 

 

「今のうちに中へ入りましょう」

「うん」

 団長の葛藤を示しているだろう、アホな戦いを無視して、二人はハーレム御殿の中へと向かった。

 

「うーん、どうしようどうしよう。

 リンゴちゃん、どうして夜逃げなんか」

 中では、ガウン姿の団長が右往左往して困っていた。

 

「サクラに頼るべきか、でもリンゴちゃんに逃げられたから探すの手伝ってなんてみっともないこと頼めないし。

 でもあいつのことだからきっとすぐに気取られる。どうしよう、どうしよう」

 どうやら外の葛藤の様子はそういう事らしかった。

 

「大変不本意ですが、リンゴちゃんの為に私たちが手伝いましょう」

「おお、本当か!!」

 パープルチューリップがそう言うと、彼は涙ぐんで縋り付いてきた。

 

「頼むよ、リンゴちゃんに見捨てられたら、もう俺は死ぬしかない!!」

「……分かりました」

 本当に身投げでもしかねない勢いで言われて、二人も冗談ではないと悟った。

 

 

「じゃあ、彼女を探しに向かうよ」

 ニゲラがそう言うと、三人はリンゴの深層意識へと向かった。

 

 

 

 §§§

 

 

 

 リンゴの深層意識にある場所は、リリィウッドの街並みだった。

 しかし、どうやら町中は浮かれているようだ。

 

 ニゲラはもう手慣れたもので、町の状況を飛んできたチラシといったような媒体として入手した。

 

「ええと、害虫根絶記念式典?」

「彼女の願いが形となった状況なのでしょう」

 花騎士の内面をいくつか踏破してきた二人は、彼女らが害虫の存在を認めていなかったり、既に滅ぼした後だという形で何度か登場したのを覚えている。

 この状況そのものに見るべきものはないと、思っていた二人だったが。

 

 

「なんだ、あれは!!」

 その時、住人達が空を指差す。

 

 二人も顔を見上げると、真っ黒な黒い渦が上空に存在し、リリィウッドの街並みを覆っていた。

 恐るべき光景だったが、似たようなパターンを何度か見てきた傍観者二人に動揺は無い。

 これからの光景を見届けようと待っていると。

 

「う、うわああぁぁ!!」

 同行していたリンゴ団長に、空から謎の光が降り注いだ。

 

「だ、団長、大丈夫!?」

 まさかリンゴの内面から攻撃を受けるなどと想像もせず、ニゲラは驚いて彼の元に駆け寄った。

 

 

「うくくく、そうか、それが君の望みか……」

「……団長?」

「団長だぁ? 誰それ」

 謎の光を受けて(うずくま)っていた団長が立ち上がる。

 

 

「我が名は貧乳魔王、このスプリングガーデンに新たな秩序と混沌を(もたら)す者だ」

 如何にも魔王っぽいマントと装束をまとった団長は、邪悪な笑みを浮かべそう言った。

 

 

「…………」

「こういうパターンですか」

 唖然としているニゲラと、興味深そうにその様子を観察しているパープルチューリップ。

 

「ちょりあー」

 団長改め貧乳魔王は両手からビームを発射し、近場に居たモブ四人組に照射した。

 

「き、きゃー、なにこれぇ」

「む、胸が、小さくなって」

「に……憎い、巨乳が憎い」

「巨乳、滅ぼす……」

 四人は胸囲が薄くなり、正気を失ったかのように暴れ始めた。

 

 

「…………」

「…………」

「た、大変、……団長、どうしてこんなことを!!」

 またこんな展開なのか、と二人は楽しそうに笑ってる貧乳魔王を見ていると、遅れて現場にリンゴがやってきた。

 

「くくくく、団長? 否、異世界のパゥワァで俺は貧乳魔王に生まれ変わったのだ!!

 俺はこの力でこの世界の巨乳を根絶してくれよう!!」

「そんな、私はおっぱい大きい子も大好きなのに、どうしてそんな酷いことを!!」

「悪いなリンゴちゃん、かつて同士だった者よ。

 かつての同士のよしみで君は見逃そう。だが立ち向かってくるというのなら、容赦はしない!!」

 そう言って、貧乳魔王は空へと飛び立っていった。

 そして、上空から手当たり次第、住人に貧乳化ビームを撃ちまくっている。

 

 

「私が、私が団長さんを止めないと……」

 リンゴがそんな決意に満ちた表情をしていると。

 

「遅かったか……」

「あなたは、チューリップ団長さん!!」

 さらに遅れて駆けつけてきたのは、チューリップ団長だった。

 

「リンゴちゃん、彼は異世界からの怪光線によって魔王になってしまった。

 対症療法でしかないけど、対抗策を持ってきた」

 妙に用意の良い彼に、なにやってんだ、的な視線を送るパープルチューリップ。

 彼は懐から箱に入った黄金リンゴを取り出した。

 

「それは、私の魔法の触媒」

「これを改造し、パワーアップさせておいた。

 これを天に掲げ、叫ぶのだリンゴちゃん、ゴールデンアップルパワー・アンテシスメタモルフォーゼ!! と」

「は、はい!!」

 リンゴはチューリップ団長に言われるがままに触媒を手に取り、それを天に掲げる。

 

 

 

「ゴールデンアップルパワー・アンテシスメタモルフォーゼ!!」

 その瞬間、触媒の黄金リンゴが輝き、リンゴが光に包まれる。

 

 すると、リンゴの服装が光ったりなんだりして、開花礼服に早変わりした。

 

 

「こ、この衣装は……凄い力を感じます!!」

「いいかリンゴちゃん、貧乳魔王の怪光線に当てられた彼女らは胸囲を失って正気を失ってしまっている、つまりだ」

 チューリップ団長はもったいぶって一拍おいてこう言った。

 

「胸を揉んで大きくすればいい、そうすれば正気に戻る。」

「むっはぁ!! 超やる気出ました、リンゴちゃん、やります、めっちゃ頑張ります!!」

 目を輝かせてリンゴは欲望全開のままガッツポーズを取った。

 

 

「ふっふっふ、やっぱりこうなったわね」

「リンゴちゃんならそうするわよね」

「あなたが逆らわないのなら、誰が逆らうってもんだし」

「容赦はしない……」

 そして、それを待っていたかのようにモブ四人組がリンゴちゃんを取り囲む。

 

「かっしーちゃん、ゆーちゃん、レリっちちゃん、ラムりんちゃん!!

 あなた達まで……えへッ、これは皆さんを正気に戻すため、戻すためですからね……」

 表情だけ見ればどっちが悪役か分からないが、手をわきわきさせるリンゴちゃん。

 

 そうして、戦いの火ぶたは切って落とされた。

 

 

 

 

 §§§

 

 

 

「……くッ、強い」

 当たり前の話だが、四対一ではどんなに優れている者でも防戦一方にならざるを得ない。

 

 いかにこの四人がモブとは言えども、リンゴ団長の元で修羅場をくぐり続けているラスボスの親衛隊レベルのモブだ。

 その実力、連携を知り尽くしているリンゴが単独で自分が勝てるとは、彼女は思えない(・・・・・・・)

 

「このままではマズイ!!」

 戦いの様子を見守っていたチューリップ団長が歯噛みする。

 

「リンゴちゃん!! こうなったら切り札だ、フラワーナイトフォームアップを使うんだ!!」

「なんですかそれ!!」

「その触媒には、他の花騎士の、しかも巨乳の!! 花騎士の力が込められている。

 奴らは貧乳ゆえ、巨乳属性の力に弱い!! 奴らは巨乳を恐れるが故に貧乳にしているのだから!!」

「じゃあ、私のおっぱいも大きくなるんですね!!」

「え、いや、それはほら、力を借りるだけって言うか……」

「そうだろうと思ってましたよ!!」

 そう叫びながら、リンゴは一旦四人から距離を取った。

 

 

「フラワーナイトフォームアップ・モミノキ先輩スタイル!!」

 リンゴがそう叫ぶと、一瞬にして彼女の姿を光が包み込むと、まるで花騎士モミノキのような装束を身に纏っていた。

 そしてその手には、彼女が使用している槍があった!!

 

「む、むっはぁ!! まるでモミノキ先輩に包まれてるみたいです!!」

「一気にたたみかけるんだ、リンゴちゃん!!」

「はい!!」

 チューリップ団長の指示に、リンゴが飛び出す。

 その手に持ったモミノキの槍で、どういう理屈なのか先ほどの苦戦が嘘のように前衛三人を圧倒する。

 

「うぎゃあ!」

「や、やられた……」

「やっぱりネームドキャラには勝てなかったよ……」

「無念……」

 いともたやすくリンゴは四人を撃破した。

 

 

「か、勝ちました……えへへ」

 慣れない運動で膝に手を突いたリンゴが顔を上げると、決して表に出せない表情をしていた。

 

「これは治療、治療だから、しかたないですよね」

 そうして、お楽しみを始めるリンゴちゃん。

 

 

「しかしこの勝利は、彼女に訪れる苦難の一歩に過ぎなかったのである。

 第一話、「変身!? リンゴちゃん」 完。」

 最後にカメラ目線でチューリップ団長はそう言った。彼は博士ポジらしい。

 

 

 

「ええと、つまりこれは、【変身願望】ってことかな?」

「そう言うことでしょう。

 自分の力で超えられない困難を、他者の力を借りて乗り越えたのですから。

 とは言え、良い服を着たい、可愛くてキレイなお化粧をしたい、変身願望は女性なら誰でも持っているものです。

 問題は、彼女が異物であるリンゴ団長を取り込んだように見えたのですが、どうでしょうか」

「うん、ちょっと待って」

 ニゲラは目を瞑って、リンゴの状態を探り、眼を見開いた。

 

 

「どういうこと、これって彼女と団長の夢が同調しているの?」

「何が起きているのです?」

「分からない、何が起ころうとしているのか、予想も出来ない」

「団長の様子からして、悪い事が起こっているようではないようですが、いざとなったら元に戻せますか?」

「こんなこと初めてだから……でも、団長さんの方が影響を与えようとして、リンゴちゃんが抵抗している? よく分からない」

「心理の深淵は未だ果てなき、ということですか、面白い」

 二人はそのまま色々と考察をしながら、下の階層へ向かって行った。

 

 

 

 

 §§§

 

 

「第二話、「強敵!? 貧乳四天王登場!!」 始まるよ。」

 その階層に降りてきた二人に、チューリップ団長が迫真の表情でそう言った。

 

「これって魔法少女モノになるのかな」

「おや、そういうのに興味があるので?」

「アルテミシアがもう魔女っ娘は古いってエニシダを煽る為にマンガを読み込んでたから」

 そんな他愛もない話をしていると、リリィウッドの広場に変身済みのリンゴちゃんがやってきて、暴徒と化した人々を鎮静化させていた。

 

 

「こっちの子は柔らかさと大きさのバランスが素晴らしい、こっちの子は未だ将来性を感じさせる初々しさが堪らないです。

 むは、むっは、女の子のおっぱい揉み放題とか最高です!!」

 傍から見れば倒れて動けない女の子の胸を揉みまくっているという凄まじい構図だったが。

 

「さぁて、次は誰かなぁ」

 リンゴが次の獲物もとい犠牲者を探そうとすると。

 

 

「ふっふっふ、随分と調子がいいみたいだね、リンゴちゃん」

「その声は、ランタナちゃん!!」

 リンゴは振り向くと、彼女の同僚たちが並んでいた。

 

「そう、我ら貧乳四天王。貧乳魔王さまに忠誠を誓うものだぁ!!」

 ランタナを初めとする彼女らはそれぞれポーズを取る。

 

「†漆黒の刃†クロユリ!!」

「デンジャラス・ニシキギ!!」

「カボチャ姫・ペポ!!」

「最強無敵・スーパーランタナ!!」

「そして、貧乳魔王に唯一存在を許されし巨乳にして、巨乳を圧する者。巨乳魔人サクラ!!」

 当人たちは他人が見ればお嫁にいけなくなりそうな露出度の高い格好とポーズで、名乗り口上を上げる。

 

「我ら、貧乳四天王!!」

「五人いますけど……」

「四天王が五人いるのはお約束なんだって」

 と、ランタナは何を当たり前のことを、と言わんばかりの表情でそう言った。

 

「この全属性に対応し、スキル発動率1.8倍、攻撃力60%アップ、レイド、回復にも対応した完璧なガチパーティに勝てるかな!!

 どこかの誰かが発動率1.2倍持ってないせいで常時二倍じゃなくて見栄えが悪いけど、まあ挑発回避盾として役立ってもらうからいいか!!」

「……しくしく、ガチパーティだと真っ先にはずされるの自分のくせに」

「……いいなぁ」

 親友に貶され涙目のペポと、そんな危険が多そうな彼女を羨ましそうに見るニシキギであった。

 

 

「……頼む、リンゴ、後生だ。早く私たちを倒してくれ」

「クロユリさん!?」

「この格好は正直キツイと、させた本人も思っている……」

 と、悪の女幹部っぽい露出度の高い服装のクロユリは言う。

 

「うふふ、私以外の彼女たちは元々貧乳!!

 しかし、貧乳魔王さまの力は巨乳を小さくするだけでなく、元々貧乳の子たちに更なる力を与えるわ。

 この精鋭を前に、いかなる力を得たあなたと言えども、勝てるわけがないわ」

「サクラさんはそれでいいんですか?」

「……うッ、リンゴちゃん、……ええと、私のコスモが持ってるうちに私を倒して!!」

 リンゴの問いに、片手で顔を抑えサクラはアイビーの真似をして誤魔化した。

 

「分かりました、皆さんを正気に戻す為に、私頑張ります!!」

 そして、リンゴと貧乳四天王との戦いが幕を上げる!!

 

 

 

「ぎゃふん!!」

 が、一瞬でぼろ雑巾になるリンゴだった。

 

「いやぁ、悪いね。こういう時こそ空気呼んでスキル事故起こして上げたかったけど、この戦いスタミナ消費90なんだよね!!」

「少し前まで最新のクジラ艇任務とかって運ゲーでしたもんね……げふ」

 そんな一昔前のあるあるネタの無情さに敗北するリンゴだった。

 

「お約束ならここで、っふ、お前など殺す価値も無い、とかなんとか言って私たちが退散してリンゴちゃんの修行シーンとかに移行したりするんだけど、そろそろ巻きに入るから別パターンで行くからよろしく」

「別パターン?」

「魔法少女が追い詰められたらあれでしょ、イヤァ、ボーン!! って隠されてた真の力が目覚めるってお約束」

 そんな身も蓋も無いことも言うランタナだったが、彼女はふざけている様子はなかった。

 

 

「早く、真の力に目覚めてよ」

 真剣に、見定めるようにリンゴを見下ろし、ランタナは言う。

 

 

「……そんな、私にそんな力、ありませんよ」

「それが出来ないのなら、何のための魔法少女なの?」

 地面に這いつくばるリンゴに、ランタナは問いかける。

 

「彼女の【変身願望】は自信の無さに起因するもの。

 いくら彼女たちが団長の影響を受けているとはいえ、ここは彼女の世界。

 望めば相手がなんであろうと蹴散らせるのに、それができない、殻を破れない。

 踏み出すことを恐れている。勝てないと思い込んでいる」

 その恐れの形がこの光景だった。

 少なくともパープルチューリップはそのように解釈した。

 

 言うまでも無いことだが、ツッコミどころが多すぎて来訪者二人は傍観に徹している。

 

 

「リンゴちゃん、彼女たちは花騎士として格上ばかり。

 ならば、花騎士の力以外のもので戦えばいい」

「花騎士の力以外で?」

 後方から助言をするチューリップ団長の言葉に、リンゴは顔を上げる。

 

「だけど、その力を使えば君はもうこの世界から居られなくなるよ。

 その力を使うことは、この世界では禁じられていることだからね」

「それでも、私は団長さんの為に戦います」

 決意に満ちた表情で、リンゴは立ち上がる。

 

 そして、黄金の林檎を取り出し、齧り付いた。

 その直後、眩い光がリンゴの体からあふれ出す。

 

 

「ゴールデンアップルパワー全開!!」

 凄まじいエネルギーが迸る。

 

 彼女の周囲は焦土と化し、四天王も町も消え去った。

 

 

「その力は、団長をあのようにした人間の本性を暴く禍々しき欲望の力。

 それを解き放った以上、この世界に居場所はない」

 虚空から、チューリップ団長の声だけが響く。

 

「へ、ふへ、へへ、これで、団長さんと同じ力を持っているのは私だけ、私だけです」

 どこか歪な笑みを浮かべ、リンゴは空を見上げる。

 

 空中に浮かぶ魔王の城が、彼女を招いている。

 

 

 第二話、完!!

 

 

 

「雲行きが怪しくなっていきましたね。

 例の【独占欲】はこっちに来ていたとは」

「次から次へと新しい設定が出てきて、なんというか滅茶苦茶だね」

「理路整然としてる夢の方がおかしいでしょう」

「それもそうだね、……次で最後だよ」

 

 

 

 §§§

 

 

 

 最終話「最終決戦、さらばリンゴちゃん!?」

 

 と言ったテロップが二人が降り立つと同時に流れた。

 二人は軽くそれをスルーすると、空中に浮かぶ魔王城へとリンゴを追って進む。

 

 

「待っていたぞ、リンゴちゃんよ」

 貧乳魔王ことリンゴ団長は、玉座で彼女の到着を待ち構えていた。

 

「気付いているか、君はもう俺と同じものになってしまったんだぞ」

「…………」

「心のどこかで疎ましがっていた俺の可愛い部下達を排し、心の底にある己の醜さのままに行動している。

 さて、俺の元にたどり着くにはまだ一人排除せねばならない者がいたな、来い」

 不気味に黙ったままのリンゴに語りかける魔王は、手を横にやり手招きした。

 

 

「私こそ、貧乳魔王の申し子にして、この契約書にてこの災厄を招いた者よ」

 現れたのは、リンゴの見覚えのある証明書を手にしたローレンティアだった。

 

「この契約書が有る限り、私は災厄の源から彼を通して無限の力を得られるわ。

 でもこれを得る権利はあなたにもある。勝負よ、リンゴちゃん」

「はい」

 しゃく、しゃく、とリンゴは黄金の林檎を芯のみになるまで齧り尽くす。

 

 戦いは一瞬だった。

 

 難なく証明書を奪い取ったリンゴは、その書面を見下ろし、ローレンティアの名前がサインされていたところを、指で擦って黒い染みにしてしまった。

 

 その作業を終えたリンゴは、まるで百億の金銀を得たような、楽園にたどり着いたような、恍惚と安らぎに満ちた表情をしていた。

 

 

「ローレンティアを下したか、リンゴちゃん。

 どうだろうか、この世界の半分を君にやろう。だから俺と共に世界を征服するのだ。

 どの道、その力を使った君は俺と同じ存在になり、この世界に赦されない者となったのだから」

「最初から……」

 リンゴは、彼を見上げて柔らかく笑う。

 

 

「最初からそう言ってくれれば、私もそうしたのに」

 乙女のように儚く、淫魔のように淫蕩な、それは堕落に満ちた笑みだった。

 

 ぽとり、と芯だけとなった黄金の林檎が魔王城の床へと落ちた。

 

 

 

 最終話、完!!

 

 ハッピーバッドエンド!!

 めでたしめでたし。

 

 

 

「斬新な結末だったね」

「黄金の林檎は、禁じられた果実。主に性的に不道徳であることの象徴。

 彼女にとって黄金の林檎とは、彼のことだったのでしょうね。

 さしずめ、【禁断の果実】と言ったところでしょうか」

「……二人の同調も終わったみたい。

 私たちは精神世界での馬鹿げた痴話喧嘩を見届けさせられただけだったね」

「とはいえ、それも切っ掛けが必要だったのでしょう。

 面白いモノも見せて貰いましたし、その一助となれたのならば良かったとしましょう」

 精神の変革が最後まで進んだのを見届けた二人は、あるべき場所へと戻っていく。

 

 魔王と悪堕ちした魔法少女が、抱き合っているのを見ることなく。

 

 

 

 

 §§§

 

 

「ふあぁ、うーん、良く寝た。

 はあ、今日はリンゴちゃんに謝らないとな」

 翌日、一日悩んだリンゴ団長は朝起きると伸びをした。

 

 そして、違和感に気付いた。

 

「うん、あれ、俺の手ってこんなに細かったっけ?」

 しかも子供の時のように肌が白い。

 彼が疑問に思っていると、両手が勝手に動いて両目を擦った。

 

「ふぁぁ、もう朝か、あれ?」

 彼の口が勝手に動き、自分の思考にない言葉を吐く。

 

「え、なんで体が勝手に……リンゴちゃん、俺だ、団長だ!! えッ、なんで私、声が勝手に……違う、俺が、俺がリンゴちゃんの中に居るんだ!!」

 彼はベッドから転がり落ち、姿見の前に這い進む。

 そして、鏡に映る自分の姿は、リンゴそのものだった。

 

 まるで、一人の体に二人の心が同居しているようだった。

 

 

「なッ、なんなんですかこれぇーー!! 俺が知りたいわッ!!」

 

 この二人にして一人の状態は、ニゲラが何とかするまで丸一日ほど続いた。

 その間にこの一人で二人に何があったかは、また別の話である。

 

 

 

 

 

 





秘密の花園

【変身願望】
自分が別の何かに変わりたいと言う欲求や願望。
女性なら誰でも持っていて当然のものだが、リンゴのは己の自信の無さからくるものである。

彼女は傍から見れば美少女なのに、自分にその自覚が無いし、他者より容姿が劣っていると思い込んでいる。
彼女が美しく可愛い女性を観察するのも、羨望から来るものなのだろう。
ただ、そう言ったものが好きなのは純然に彼女の趣味である。

【独占欲】
何か、または誰かを自分のモノにして独占したいという欲求。
彼女の独占欲の根幹にあるのは、小さな嫉妬である。

自分に自信の無い彼女は、自分に掛けられる賞賛などの言葉をどこか信じきれない。
誰かの心が離れるのならば、その前に占領してしまえばいい、という心理。
本来、表に出すほど大きな感情ではなかったようだが、自分にとって唯一無二である居場所が脅かされる可能性があると知り、発露したと思われる。

【禁断の果実】
主に性的なモノに関する不道徳や快楽の、リンゴはその隠喩とされている。
この場合、彼女が彼から受け取った悪影響などを示している。

知恵を得ることは無垢ではなくなる事であり、賢くなることは狡猾になるということである。
つまり、生きるということは穢れることであり、どのように穢れるかも人間性である。

彼女にとって、団長との出会いは禁断の果実を口にすることであり、趣味嗜好の似ている二人はお互いに穢れ合い、堕落しあう共犯関係にあった。
堕落とは罪であり、二人の絆はその共犯関係によって育まれたと言っても過言ではない。

ちなみに、この二人がどのように堕落しているかは、同作者のR版を参照のほどを。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。