貧乳派団長とリンゴちゃん   作:やーなん

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しばらく振りに乗りが良いので次も投稿。
もっと花騎士の知名度上がれば言うことなしなんですが…。

とりあえず、ネタが続く限りは続きます。



クロユリの述懐

 雑踏の中を歩む。

 屋台の並ぶ祭りの中は人々の笑顔で満ち溢れていた。

 

 親子連れ、友達同士、恋人同士。

 誰もが笑顔で、楽しみ、満たされていた。

 

 そんな中で、私は場違いか、と一人ごちる。

 唐突な休暇でやることも無く、暇つぶしに祭りに来てみれば己の辛気臭さに嫌になる。

 帰ろう、そう思った時だった。

 

 

「クロユリ!!」

 雑踏を掻き分け、見覚えのある顔が出てきた。

 

「ゼラニウムか」

「うん、クロユリも来てたんだね!!」

「ああ、急に休暇となってな」

 私の前まで歩み寄ってくると、彼女はこちらに笑いかけてくる。

 

 私とゼラニウムの関係は、……どうなのだろうか。

 知り合いか、友人か、それとも仲間なのか。

 

 少なくとも、戦友ではあった。

 

 

「とりあえず、場所を移そう。

 ここじゃ話も出来ないしね」

「好きにすればいい、どうせ私はやることなど無いからな」

 私がそう言うと、彼女はさらに笑顔を深くした。

 

 

 

 

「聞いたよ、活躍しているんだってね」

 まずはお互いの近状を教え合うこととなった。

 

「私は私のすべきことをしているだけだ。他人の評価など知らない」

 私の戦果を我が事のように喜ぶ彼女に、私はぶっきらぼうにそう答えた。

 事実、興味など無かった。

 私は一匹でもいいから害虫どもを殺せればそれでいい。

 

「……」

 すると、ゼラニウムは驚いたように私を見た。

 

「どうした、なんだその表情は」

「ううん、ただ、いつも死に急いでいたクロユリが、自分のすべきことをしている、なんて言うから驚いちゃって」

「なんだ、私がおかしいことでも言ったか?」

「違うの、クロユリってあんまり他の人と戦おうとしないじゃない?

 だから花騎士として役割を自覚して戦うことを無意識に認めていることがうれしくて」

 彼女はそう言って優しく微笑んだ。

 

「本当はね、私と最後に一緒に戦ったすぐ後にクロユリがあの部隊に送られたって聞いて、気が気じゃなかったの」

「捨て駒部隊か」

 皮肉るように、私は所属する部隊のかつての呼び名を口にした。

 

「流石に国も、私の単独行動は目に余ったらしい」

 個人がいくら強くても、できることは限られる。

 しかし、個人の行動で大勢の人間の行動をかき乱すことはある。

 

 私の場合、結果的のほかの部隊の作戦行動の邪魔をしてしまったというわけだ。

 

 

「どうせ死ぬなら効果的に死んでほしいようだったからな」

「クロユリ……」

 ゼラニウムは唇を噛んで眉を顰めた。

 

「だけどクロユリは今も生きている。

 それどころか、すごい戦果を挙げてるって評判だよ。

 ねぇ、教えて。あの部隊でどんなことがあったのか」

「……良いだろう」

 これは私にとって恥部だが、ゼラニウムに対しては今更だろう。

 

 

「あれは私が初めて所属した部隊が壊滅した時だ」

 私は思い返す、あの日のことを。

 

 

 

 

 

 

 外出しようとすると必ず雨になる人間が居るらしいが、私の場合はそれが他人の死であるらしかった。

 

 私は幼い頃に家族、友人、そして住む場所を害虫どもによって奪われた。

 そんな私が花騎士としての力を得たのは必然だったのだろう。

 

 だが准騎士として初めて配属された部隊が、たまたま害虫の巣を刺激してしまった。

 押し寄せる害虫の群れ、味方の怒号と悲鳴。

 私は見習いだった為、後方に配置されていたから戦うか逃げるか、選ぶ猶予があった。

 

 なんだその顔は……当然、私は戦う選択をしたさ。

 壊滅し、逃げ惑う味方が殺される中、仲間が逃げる僅かな時間を稼ぐため戦い続けた。

 

 後で知ったが、逃げ延びた仲間はたった一人でそれも重傷を負い、部隊の窮地を伝え息絶えたそうだ。

 私の死神振りもここまで来ると笑えるほどだ。

 

 私は戦い続けたが、救援が来ないことなど端から知っていた。

 なにせ、駐屯していた花騎士ほぼ全てが出払った掃討作戦だったからな。

 

 近くの町の部隊が救援に来ても、それは軽く一日は掛かるだろう。

 万事休す、絶体絶命というやつだ。

 

 

 だが、来ないと思っていた救援はやってきた。

 それは偶然町の騎士学校の教導にきていたという教導部隊だった。

 

 教導部隊だ、当然彼女らは大勢でもなければ一騎当千の猛者でもない。

 だが彼女らはたった十数名で、十倍近い害虫どもと戦った。

 ……その姿は今でも忘れられない。

 

 彼女らは町を守るため死力を尽くし戦い、そして全滅した。

 その後、害虫どもは町まで押し寄せてきたが、国は国家防衛宣言を発令し、学生の花騎士や元花騎士を総動員して何とか害虫たちを追い払った。

 

 ……私か?

 勿論生き残ったさ、彼女らを指揮していた団長に連れられてな。

 

 その戦いで悟ったよ。

 私は死神なんだと。

 

 私が出歩けば周囲に死が訪れる、とね。

 

 その後、私は騎士団を辞して一人で戦う道を選んだのはお前は知っているだろう?

 

 なに、これでは以前聞いた話と同じだ、と?

 そうだな、確かにそこまでは以前話した通りだ。

 

 だが、ここは正直当時の私はそこまで価値のある話では無かったんだ。

 

 

 私が騎士団を辞した時、私をあの戦いの場から連れ出した団長がやってきてこう言ったんだ。

 

 

「お前はこれからどうするつもりだ、クロユリ」

 彼は憔悴しきっていた。

 短期間でかなり痩せたように見えたし、頬もこけていた。

 目は真っ赤に充血し、十歳以上老けて見えた。

 私はこう答えたさ。

 

「どうするもこうするもない、私はこの戦いで思い知ったよ。

 私は死神だ。傍にいるだけで他人に死を齎す死神だったんだ。

 私はこれから一人で戦う。仲間なんて、居るだけ邪魔だったんだ」

 ……そんな顔するな。私だって自暴自棄になりたくなる心境だったんだ。

 

「彼女たちにお前を託された俺はどうなる」

「それなら、私を助け出した時点で終わっているだろう」

「彼女たちはお前を助けてあげてと言った。

 それはどこまでの範囲だ? あの戦いまでか? それともこれからの戦いもか?」

 彼は責任を取らされ、教導部隊の団長を解任されていた。

 だからだろうな、何をすればいいか分からず、わざわざ私にそんなことを言いに来たのは。

 私が死神ならあの時の奴は幽鬼の類だったのだろう。

 

「何を考えているのか知らないが、どの道同じだ。

 私に関わればどうせ死ぬだけだ。私は死神なのだからな」

 私は彼を拒絶した。

 他人のことを気遣えるような心理状態でなかったのは私も同じだったからな。

 すると、奴はこう言ったのさ。

 

 

「死神……そうか、死神か。

 わかった。お前が死神だと言うのならば、俺はお前が振るう鎌を用意しよう」

「なんだと?」

「鎌を研ぐ者も血糊を拭く者も用意しよう。

 川を渡るなら船を用意し、漕ぎ手は俺が務めよう。

 導く魂の数が多く手が足りないと言うのなら、共に黄泉路を歩む死神の群れを率いてお前を元に駆けつけよう。

 だから、お前はそれまで死ぬなよ。死神が死ぬとか笑えないからな」

 

 

 

 

 

「と、そんな感じでそいつとは別れ、別の道を歩んだ」

「それで、それで!!」

 ゼラニウムはなぜか目をキラキラさせて続きを促した。

 

「私は捨て駒部隊にいると、奴がやってきて再会を果たした。

 あの部隊は酷いもので、問題児を集めたというのも頷けるほどだった。

 奴が来るまでの団長も酷い奴で、何か問題が起これば部下の所為にして罵倒するような輩だったな。

 愛想を尽かした私はやはり一人で行動することにした。

 そうするようになってすぐ、そいつは戦死したらしい。

 害虫が押し寄せ、他の花騎士は奴を見捨てて逃げたらしいな。

 代わりにやってきたのがあいつだった」

 私は当時を思い出して、笑いが込み上げてきた。

 

「奴も何か問題を起こしてやってきたらしい。

 お前一人か? 鎌は? 船は? 死神の群れはどうした、と笑ってやったよ。

 奴は苦し紛れに、お前がここにいると聞いてわざわざ来てやったんだ、と言っていたがな」

「クロユリぃ……」

 ゼラニウムはなぜか頭を抱えていた。

 

 

 

 

 

 

「あの頃を思い出すと、こうして団長さんと二人でお祭りを歩くなんて想像もできませんでしたねぇ」

「まあ、あの頃はなぁ」

 団長とリンゴの二人は、穴場だというスポットを歩いていた。

 この辺りに陣取っているのは住人達ぐらいなもので、そこまで混み合っていないようだった。

 

「リンゴちゃんが来てくれた時は、天使が来たのかと思ったよ。

 俺一人であの状況の改善は不可能だったからな」

「私は美しい女の子が使い捨てにされる部隊があるって聞いて、居ても立っても居られなくなっただけですよ。

 私の力なんて微々たるものでした」

 と、二人は昔を懐かしんだ。

 

「それで、団長さんはどうしてあの部隊にいらしたんですか?」

「あぁ、うん。ちょっと、な……」

 団長はあからさまに言いよどんだ。

 

「教えてくださいよ、私と団長の仲でしょう」

「……そうだな。当時俺が指揮していた部隊にな、トリカブトちゃんってロリ可愛い訳有り系美少女がいたんだが」

「マジですか!? どんな子なんですか!!」

「それはまた後でだ。話を進めるぞ。

 なぜか彼女に妙に懐かれてな、一直線で大人の関係になったわけだが、それが他の連中に目撃されてなぁ」

「えっ、そんなに幼かったんですか?

 団長さん、幼い子には手を出さないって言ってたのに」

「違う、あれは合法ロリだから良いの。

 単に野外プレイをせがまれて、それをよそ様に見られたってだけだ」

「………」

 リンゴの白い目が団長に突き刺さった。

 

「一応大事にはならなかったんだけどな、俺は左遷を喰らったわけだ」

「想像以上にひどい理由でしたね」

「言うなよ、反省しているんだ」

「ディプラデニアさん」

「おい、やめろ。人のトラウマを刺激するな。

 そりゃあ安易に手を出して死ぬほど後悔したけどさ!!」

 団長は涙目になってリンゴちゃんに赦しを乞うた。

 似た者同士でも、異性は異性なのだ。

 

「でもあれは大聖母プルメリアちゃんが居なかったらきっと刺されてたよなぁ……。

 むしろ俺のママになってくれないかなぁ……」

「はぁ、現実逃避しないでくださいよ」

 イジケ始めた団長に、流石のリンゴも溜息を吐いた。

 

 

「団長も私もいろいろ手を尽くしましたけど、方針を変えようってことになったんですよね」

「……ああ、まずは心を閉ざした団員からではなく、それらを解きほぐす環境を作ろうってことになったな」

「だから初めに、サクラさんを呼んだんですね」

「そうだ。彼女らはなぜ心を閉ざしたのか?

 捨て駒同然の環境での極度のストレス、団長に対する不信感、それらにメスを入れる為に、サクラは適任だった」

「花騎士の中の花騎士を捨て駒になんてしようなんて思えませんし、説得力抜群でしたもんね」

「ある程度改善できたら原隊に戻って良いって言ったのに、未だに居てくれるしな。

 本当に頭が上がらんよ、サクラには」

「補給などの組織的な運用をする為に、多国籍遊撃騎士団に編入したのもその頃でしたね」

「何から何まで他人任せで、男としては辛いところだよ」

 しかしながらそれがこの世界における男性の役どころであった。

 

 

「それにしても、当時の部隊環境でよく上もサクラさんの異動を許してくれたものですね」

「実際の所、俺もどうやったかは知らないんだ。

 俺の師匠の卒業祝いに、何がほしいか、って訊かれて保留って答えたままだったんだけどよ。

 あの時サクラか貴女がほしいって書いた手紙を送ったら、見事サクラの奴を持ってきやがったんだ、どういう人脈してんだあの人」

 団長は懐から差出がウインターローズの手紙を取り出した。

 中を開くと一言、

 

『近日中にそちらの仕事ぶりを伺いに行きます。デンドロビウム』

 と、書かれていた。

 

 彼女の笑顔を想像して、団長の体がぶるりと震えた。

 

「……勘弁してくれ、師匠」

 それはまるで親に学校で抜き打ち授業参観をする、と宣言された子供のようにリンゴは見えた。

 

 

 そんなこんなでもうすぐ花火も始まろうとしている時間となった。

 しかし何やら害虫が出現したらしく、なにやら慌ただしい。

 

「私たちも助勢した方が良いでしょうか?」

「俺は休暇と皆に宣言した。

 住民に危機が迫ったり、国家防衛宣言でもされない限り、俺は休日には働かないことにしているんだ」

「確かに、今更私たちがしゃしゃり出たところで、指揮系統が混乱するだけですもんね」

「味方の仕事を信じて待つのも連携の一つだ」

 などと二人は話していると、リンゴが遠目に誰かを見つけた。

 

「あっ、クロユリさんですよ、団長さん。おーい!!」

「どうせだから一緒に花火でも見るか」

 そう言ってそちらに団長が目を向けた瞬間、彼の体が全身に電撃を受けたかのような衝撃を受けた。

 

 ぎぎぎ、と横を向けばリンゴも驚愕の表情をしていた。

 そんな感じで二人が立ち往生していると、リンゴに呼ばれたクロユリが二人の元へとやってきた。

 

「どうした団長。害虫が出たそうだが助力に行くのか?」

「えっ、この人がクロユリの団長さんなの?」

 そしてクロユリは当然、ゼラニウムと同行していた。

 

「なんだあれは、どうすればいいのだ!?」

「お、お、お、落ち付きましょう、深呼吸、深呼吸、素数を数えるんです……!!」

「っひっひっふぅ、っひっひっふぅ、南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏……」

「団長さん、それ全然違います!!」

 二人は混乱している!!

 

「えーと、どうしたの?」

「あ、ああ……気にするな、こいつらの病気のようなものだ」

 全てを察したクロユリは、諦念(ていねん)染みた境地に至った。

 

 

「り、リンゴちゃん、どどど、どうしたい?」

「わ、私は団長に代わりまして、死地へ赴きます!!」

「よし分かった、行け!!」

 団長は思いっきりリンゴの背中を押した。

 

「うわっ、どうしたのいきなり!?」

 バランスを崩し前のめりに突っ込んできたリンゴを、慌ててゼラニウムは受け止めた。

 彼女の人知を超えた神秘の塊にリンゴの顔が埋まりこんだ。

 

「は、はへぇ……」

「どうしちゃったの、本当に」

 肩を掴んで引き離すと、至極の表情のままリンゴは気を失っていた。

 遅れて彼女の顔に一筋の赤色が彩られた。

 

 

「う、うおぉ!! 同士リンゴちゃんの仇ぃ!!!」

 混乱の余り、団長も自ら敵地へ突貫した。

 

「え、え、え? うわぁ!?」

 そして一番混乱しているのはゼラニウムだっただろう。

 

「あの、なんだかわかりませんけど大丈夫ですか?」

「あ、あへぇ~」

 ゼラニウムは自らに突っ込んできた挙句、気絶したいい年した成人男性を嫌な顔せず介抱しだす。

 

 しばらくして二人は目を覚ますと。

 

 

「リンゴちゃん、どうだった?」

「真理を得ました。今なら悟りの境地へ至れそうです」

 鼻血をだばだば流しながらキリッとした表情でリンゴは言った。

 

「あぁ、俺もこの年になってようやく分かった」

 団長は遠い目になって遥か彼方を見つめ出した。

 

「巨乳は敵じゃないんだなって……」

 

 

 

 

「こ、個性的な人たちだね」

「ただ馬鹿なだけだ」

 呆れるようにそう言ったクロユリだったが、その口元に笑みが浮かんでいたことをゼラニウムだけが気付いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ちなみに、持っていないので登場できませんが、団長がウサギノオに遭遇するとアイデンティティが崩壊してさらに意味不明な行動を取るでしょう。
彼にとって、ロリ巨乳とか幻想の産物なのです。

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