あれから金チケも出ましたし、そろそろ良いでしょう。
先の戦勝から、二週間ほど経ったリリィウッド。
多国籍遊撃騎士団の団長たちは、いつも通りそれぞれの活動を行っていた。
「……あれ、どうしましょう」
「どうしようもあるまい」
そんな風にいつものやり取りをするサクラとクロユリ。
二人の視線の先には当然、リンゴ団長が居た。
「へっへへ、綺麗に磨いてあげるからねー」
彼は虚ろな目で、なぜかリコーダーを布でピカピカに磨いていた。
「団長、あれどうしたの?」
「ほら、この間の戦いで色々越権行為したじゃない?」
「それで責任問われて上層部から謹慎一か月されたでしょ」
「今日で二週間目、これであれとは」
「それくらい知ってるわよ!!
なんで楽器なんか磨いているのかってことよ、演奏会でもするのかしら」
「じゃあ、私が聞いて来ましょう!!」
モブ四人の会話を聞いていたリシアンサスが、陰気な団長に特攻を試みた。
「団長さん!! どうしてリコーダーなんて磨いているんです!?
何やら吹いたりしたりしてないみたいですけど!!」
「ああ、リシアンサスか」
彼は虚ろな視線を彼女に向けて、張り付いたような笑みを浮かべた。
「実は先日、アマ公から楽器が女の子になって花騎士になったって話を聞いたんだ」
「は、はぁ?」
「だからこう、俺も楽器を大切すれば見事なロリっ子になってくれるはず。
どんな子になるのかなぁ、リコーダーならリコちゃんかなぁ、えっへっへ」
それを聞いたリシアンサスは、踵を返し。
「団長さん、パープルチューリップさんの所に行った方がいいです」
と、漏らした。
完全に危ない人だった。
「ねぇ、ご主人。一緒に遊ぼうよー」
反応の芳しくない団長をイヌタデが揺するが、彼は左右に揺れるだけだった。
「もう、団長はリンゴちゃんに任せましょう」
「でもあいつはロータスレイクの連中が来るキャンプとやらの引率に抜擢された時に大量出血して診療所だぞ」
「だから、団長も診療所に送るのよ」
団長相手には結構容赦のないサクラだった。
「そうだ、ロータスレイクに行こう!!」
すると、団長は突然立ち上がりそんなことを言い出した。
「よーし、俺、あの国の騎士団長になっちゃうぞー。
まだ見ぬロリっ子に会いに行くんだ」
「またそんなこと仰ってるんですか」
そんな世迷いごとを言っている団長の元に、アイリスがやってきた。
「あなたの放浪癖には私も手を焼かされていますので、遠慮してほしいところです。
そう言うわけで、謹慎中でもできる仕事を持ってきましたよ」
「しごと……?」
「ええ、よろしくお願いしますね」
そうして資料を団長に押し付けるアイリスだった。
§§§
「本日はどうしました?」
レッドチューリップは、目の前の患者に問いかける。
「胸の動悸がずっと激しくて、息苦しいんです」
「他には?」
「ある人のことを考えると、心臓が張り裂けそうになるほど切なくなるんです」
「なるほど、それは病気ね」
「病気ですか?」
「ええ、病気よ。そう!!」
レッドチューリップはダンと立ち上がってこう言った。
「――――恋の病よ!!」
「やっぱりそうかなぁ!!」
チューリップ団長も立ち上がり、ぐにゃっとだらしない表情でそう言った。
「なにこの茶番……」
微妙に不機嫌そうなイエローチューリップが二人の猿芝居を見てそうぼやく。
「はあ、またやってる……」
ホワイトチューリップは幾度となく似たようなことをやっている二人に呆れていた。
なお、パープルチューリップは我関せずと読書中である。
「苦しい、苦しいなぁ、もうやんなっちゃうくらい苦しいなぁ。
もうこれ、愛なんていらないなんて言う気持ち分かるわぁ、苦しすぎて死んじゃうわぁ」
だらしない表情のまま、この世に不幸なんて無いと言わんばかりの態度の団長。
「ああ、こうして離れている時はこうしてあの人の花を見ていないと呼吸も出来ないよ。
思わずリリィウッド中の花屋から買い占めてきちゃったし!!」
と言って、彼はさっきからずっと抱いている結晶化されたプロテアの花をうっとりと見つめた。
ちなみに、診療所の庭には所狭しと生花の植木鉢が並べられている。
無駄遣いのむの字も無かった男がこれである。
元老院から帰ってきてからと言うもの、この二週間ずっと彼はこの調子だった。
「でも別に恋人になったってわけじゃないんでしょ?
っていうか、この調子じゃ業務に支障が出てるんじゃない?」
「そうだね。でも別に俺はそれでもいいんだ!!」
面白くなさそうにしている次女に、団長はそう返した。
「真実の愛ってのは、見返りを求めないって言うだろ。
俺はそれで別にいいのさ!!」
あはははは、と爽やかな笑顔で彼は言う。
気取ってるのではなく、彼はそう信じているのである。
「じゃあ、その人に恋人が出来たら?」
「へ?」
意地悪のつもりでそう言った彼女だったが、当人はそんなことまるで想像していなかったとでも言うように固まってしまった。
「…………そりゃあ、喜んで身を引くよ」
一転してこの世の終わりみたいな表情になって彼は声を絞り出す。
「その、時は、白姉さん、……後の、ことは、全部任せる、からね……ぐすん」
ぽたりぽたり、と両目から涙を流しながら団長はホワイトチューリップにそう言った。
「わ、悪かったわよ」
思わぬマジ泣きに、意地悪を言ったイエローチューリップも思わずドン引きだった。
「ううん、良いんだ黄姉さん。
姉さんのお蔭で、俺がいかに浮かれてたか分かったよ」
団長は涙を拭うと、おもむろに窓へ近づき、開けた。
「わかってるな、お前たち。
あの人に悪い虫が近づこうものなら、俺の許可なんていらない。排除しろ」
「もう既に彼女専門の護衛チームを交代要員も含め配備し、キリンソウ様と入念な打ち合わせを済ませています。
彼女が盾となり、我々は影となり、万事抜かりなく警護しております」
「あと、情報操作もしておけよ。
彼女の陰口が一つでも俺の耳に入ったら、お前らその日の夕食はサンドイッチだ。覚悟しておけ」
「お任せを」
姿を見せない『番犬』の返事に、団長は満足げに頷く。
「よし、これでオッケーだよ姉さん!!」
「重いわよ、あんたの愛は重いの!!」
イエローチューリップは思わずそう言った。
世にも珍しい彼女のツッコミである。
「違うよ、ここまでしてあの人を振り向かせられるなら俺も納得できるってだけだよ!!」
と、彼は弁明したが彼女はそれを全く信用した様子はない。
「でも羨ましいわね。
全力で誰かを愛することができるなんて。
私もそう言う人が早く現れないかなぁ」
「姉さんは早く腰を落ち着けてください」
ほぅ、と熱っぽい息を吐く長女に対し、末妹は溜息を吐くのだった。
「空気がうまい!!」
元気爛々なチューリップ団長は、スキップしながら出勤する。
「身体が軽い!!」
勿論ご近所から変な目で見られているが、もうここ最近ずっとこんな感じなので、またか、と言った様子である。
「素晴らしい!! これが、愛に目覚めた感触というものかッ!!」
ルンルン気分の彼は、この世の春を謳歌していた。
ただ単に本当に好きな人が出来たというだけで。
「こんな幸せな気持ち初めてだ!!」
騎士団支部に着いても、上機嫌な彼に誰も触れようとしない。
今の彼が余りにも面倒くさそうだったから。
「もう何も怖くない!!」
鮮やかなまでに死亡フラグを立てながら、自分の仕事場にやってきたチューリップ団長。
当然ながら、彼は自ら設置した特大の地雷を忘れていた。
「おはようございます、団長さん」
「おっはようございます、プロテアさ~ん」
そして待望の御人がやってくるのをそわそわしながら待っていると、いつも通りにプロテアは書類を持ってやってきた。
彼女は、それはもう居心地の悪そうな様子で、おずおずと彼のオフィスに入ってくる。
誰だって自分と同じ名前の花が植えられた植木鉢だらけの部屋に、好き好きオーラ全開の男が待ち受けていれば、入りにくいことこの上ないだろう。
プロテアにしても、これなら以前の嫌味っぽい彼の方が慣れていた分ずっと接しやすかったに違いない。
「こちらが今日の分の書類です」
「うん……ありがとう」
「…………」
うっとりと幸せそうにこの僅かな時間を噛み締めている彼に、このままではいけないと分かっていても彼女は何も言えなかった。
「あ、今日これ作って来たんだけど、これよかったら食べてね!!
要らなかったら捨ててもいいから!!」
「は、はい。ありがとうございます」
お弁当包みを手渡され、退出するプロテア。
「どうしましょう……」
廊下に出て、プロテアは呟いた。
勿論お弁当のことではない。大本の方である。
あの日からというもの、彼の好意は日増しに強くなっているのを感じていた。
そのうち偶像崇拝じみた領域にまで入り込むように思えるほどである。
「でも結局、未来を変えた歪みは無かったのでしょ?」
幼馴染のリカステにそのことを相談したら、彼女はそのように答えた。
プロテアの予言は覆すと悲劇が起こると言うものだった。
あれから二週間経った今でも、悲劇らしい悲劇は起こっていない。
これまでの予言を覆した結果が偶然だったのか、それともまだ来ていないのか。
絶対に悲劇が起こる、と言えるほど試した訳でもないし、実験するかのように試せることでもない。
「別に彼も無理に迫るつもりはないんだし、良いんじゃないのかな」
「でも、それは何だか不誠実な気もするし……」
「確かにねぇ、相手のスタンスは明確だから、振るにしても受け入れるにしても、こちらがどうするか明らかにしないのはフェアじゃないかも」
このまま何もしなくても、それはそれで問題ないのかもしれない。
彼は勝手にプロテアに奉仕していれば満足なのだから。
だからこそ彼の好意に付け込み、それを甘んじて受け続けるのは不誠実と言うことなのだが。
「私は思うのだけれど、予言を変えた反動は確実に起きているんじゃないかって」
「どういうこと?」
「もし仮に、私が将来政争か何かで敗れて、地位が失墜したとしたら?
もっと言えば、私が害虫との戦いで命を落としたら、彼はどうなると思う?」
「それは……」
その先は、リカステにも二の句が継げなかった。
その結果は余りにも明白だったからだ。
「もし前者なら、彼はとんでもないことをしでかすかもしれない。
後者なら、彼は騎士団長として多くの花騎士を無謀な戦いに駆り立てるはずだわ」
どちらにせよ、その規模はプロテアに以前訪れた悲劇とは比べ物にならない筈だ。
愛に狂った人間ほど、それを失った時に何をしでかすか分からないのだから。
「私は怖いの。私の予言が、人の心まで狂わせてしまうものなのかもしれないということが」
「プロテアちゃん……」
考え過ぎだ、と言うのは簡単だ。
だがプロテアの予言は彼女の人生を左右する出来事をピンポイントで運んでくる。
それだけは偶然と言えないほど、確かな事だった。
「でも、一番重要なのは、予言とか歪みとかそう言うのじゃなくて、プロテアちゃんがどうしたいかじゃないの?」
「うん……」
「何をしたって、後悔はついて回るものよ。
だから、プロテアちゃんがしたいようにすればいいのよ。
私もキリンソウも、オトメギキョウちゃんも、それを間違いだなんて言わないわ」
「……そうよね」
親身になってくれるリカステの言葉に意を決したように、プロテアは立ち上がった。
「私、ちゃんと団長さんとお話してみるわ」
「それでいいと思うわ」
リカステは笑みを浮かべ、どうか彼女に幸あらんことを、と心の内で願うのだった。
§§§
「ありがとうございます、リンゴ団長。
正直、色々と手が足りなかったもので」
「気にするなって、どうせ暇だったんだ」
リンゴ団長は、ハナモモ団長の元で彼の手伝いをしていた。
「まだ難民支援事業は始まったばかりで、護衛の手配もままならなかったものですから。
チューリップ団長に任された以上、彼に頼ってばかりなのもあれですし」
組織運営なんてやったことの無い彼には、まだ小規模の組織を運営するのも手に余っているようだった。
「僕の部下も経験が浅い者ばかりですし、正直不安でいっぱいだったんですよ」
「若いうちは失敗してナンボだ。
とはいえ他人に迷惑を掛けるのもあれだ、フォローはしてやるさ」
「はい。プロテアさんも手伝ってくれてるんですが、彼女もこちらにばかり掛かりきりになれませんし」
「彼女に熱を上げてる男もいるらしいしな」
「あはは……」
チューリップ団長がプロテアに惚れ込んでいるという話は、二日も経たずに騎士団内に知れ渡っていた。
なにせ、騎士団支部内にも至る所にプロテアの花の植木鉢が設置されているのだから。
「失礼します。お茶をお入れしますね」
二人の作業中に部屋に入って来たのは、ベルゲニアだった。
実用性より見た目重視のゴシックメイドドレス姿の彼女はティーセットの乗ったお盆を持っていた。
「よお、ベルちゃん。久しぶりだな」
「あ、……」
ベルゲニアはリンゴ団長の姿を目にすると、驚きを露わにして硬直した。
「おお、可愛いねそのドレス。
脱がしにくそうな服ほどひん剥きたいものだが」
「それは、どうか勘弁して頂きたく存じます」
「ははは、冗談だって」
リンゴ団長は軽くそう言ったが、ベルゲニアの方はぎこちなく笑みを浮かべるだけだった。
「二人とも、お知り合いだったんですか?
あ、同郷でしたっけ?」
「そうだな。同郷の花騎士は大体把握している。
彼女は一回口説いていてたんだが、あの時はヒメちゃんに追いかけ回されて大変だったぜ」
「その節はご迷惑をおかけしました」
「気にするなって」
そう言ってから、リンゴ団長は彼女に向かい合った。
「意外かい? 俺がここに居ることが」
「ッ、いえ、決してそのようなことは……」
「俺は君たちに責められる覚悟はしてきたんだけどな」
彼はどこか悲しげに、戸惑っている様子のベルゲニアにそう言った。
「あの、どういうことです?」
「そうだな、君には言っておくべきだろう。
俺が以前、査問に掛けられたってことは聞いているだろう?」
「はい……」
それは有名な話なので、ハナモモ団長は頷いた。
「一般的には俺の戦い方が過激だからだってことになってるが、本当は違う。
そのことも査問委員会で聞かれたが、重要視されなかった。
あの話の真相は、そんなことじゃなかった」
「…………」
ベルゲニアは端正な顔立ちを固めたまま、彼の話を聞いていた。
「ここで言う難民たちの村を我が物顔で闊歩する害虫たちを、俺は害虫討伐の帰りに見かけたんだ。
住人達はどこかに逃げており、血の臭いもしなかったが、あの様子ではしばらく村には戻れないのは明白だった。
地図を見てその村がどこにもないのを確認し、俺は村を助けに行こうと進言する部下たちを諭した。
あの村を助けることはできない、お前たちを無駄死にさせられない、とな」
「どうしてですか?」
「タブーだったのさ。
団長たちの間で、ああ言った国が見て見ぬふりをしている村に干渉するのは。
俺は町に戻り、部下達から責務放棄として上に訴えられた。
数日後、俺は査問委員会に出頭を命じられ、本当に難民の村に干渉をしていないか、何十回も執拗に問い詰められた」
そのことを思い出しているのか、リンゴ団長は顔を顰めていた。
「俺の戦い方なんて、最初に軽く問われて以来一度も聞かれなかった。
お国はああいった難民たちの村に余程触れたくないらしい」
団長の言葉に、ベルゲニアも何度も彼らのことを国に訴えても動いてくれなかったことを思い出した。
「その時の村は、害虫の巣が近くにあり、戦闘が有れば害虫を呼び寄せてしまう場所にあったと聞きます。
当時花騎士となって間も無かった私とヒメ様は、そのことを知らず無思慮にも憤った覚えが有ります。
それがどんなに、浅はかだったかも知らずに」
「気にするな。誰しも現場で経験しないと分からないこともある。
俺の事例を知って、自分たちが失敗しなくて良かったじゃないか。」
目を伏せるベルゲニアを、リンゴ団長は肩を叩いて慰めた。
「そんなことが……。
でも、それじゃあこの事業も危ないんじゃあ」
「そこは上手いこと、チューリップ団長が何とかしてくれたらしい。
要は国に非難が行かなければ、連中はどうでもいいのさ」
「…………」
それを聞いたハナモモ団長は、複雑そうな表情になった。
「チューリップ団長殿には本当に感謝しています。
私達が私費で援助するには、どうしても限界がありましたから」
最初は単なる善意だったかもしれない。
だが、彼らと接しているうちに、彼女も、ヒメシャラも、他人事では無くなっていたのだ。
「罪滅ぼしってわけじゃないが、我が愛すべきお嬢様に手紙を送ったところ、後援者になってくれるとお返事が来た。
この事業をこの国だけじゃなく、他の国にも広げて行けるように出来ればいいな」
リンゴ団長はそんな風に展望を口にする。
彼の心の中に突き刺さっていた棘を、引き抜く為に。
「……そうですね!!」
悔恨を吐き出した二人に、ハナモモ団長は強く頷いた。
§§§
「団長さん、せっかくですからお昼をご一緒しませんか?」
「え? 本当? するする!!」
プロテアはその日のうちにチューリップ団長を昼食に誘った。
すっかりチョロくなった彼は一も二も無くそう返事をして、ほいほい付いて行く。
「さあ、遠慮なく食べてよ。
俺のや姉さん達と同じものだから、変な物とか入ってないし」
二人は適当なところに腰掛け、お弁当を開けた。
「(ま、負けた……)」
その瞬間、プロテアは猛烈な敗北感に襲われた。
さくらでんぶでハートがあしらわれているようなこともなく、普通に配色のバランスが取れた一般家庭にありがちなお弁当だった。
まさか女子力で負けようものかと、打ち震える彼女だった。
「どうしたの? 嫌いな物でも入っていた?」
「いいえ、そうではなく……」
プロテアはコホンと咳払いした。
「団長さん、お話が有ります」
「うん? どうしたの?」
「そうですね、まずは先日仰りたいと言っていたことを聞かせてくれませんか?」
「先日? なんのこと?」
「この戦いで生き残ったら、って言っていたヤツです」
彼女がそれを尋ねた瞬間、団長の笑顔にぴしりとひびが入った、ように見えた。
「…………どうしても聞きたいの?」
「はい」
彼がこうなる前に言っていたことなので、話の切り口に最適かと思ったが、地雷を踏んだようだった。
それでも、プロテアは迷わなかった。
「……三年前、俺が騎士団長になって日が浅かった頃。
丁度俺はこの町の警備任務に就いていた。大きな害虫の群れが出たとかで、先輩たちも出払っていた。
そんな時、ある元老院議員とその一族が主催したパーティの会場に害虫の群れが現れたと報告が来た」
「それって……」
プロテアは息を呑んだ。それは余りにも覚えのある出来事だったからだ。
団長は淡々とした様子になって、語り続ける。
「その会場は郊外だったけど、毎日警備の部隊が通るような、まず害虫が出てくるような場所じゃなかった。
俺は突然の害虫の出現に、部下の招集に手間取った。
その結果は、全滅だった。俺が部隊をまとめて駆けつけた時には、害虫どもはパーティの料理を漁ってやがった」
その時の光景を思い出し、団長は怒りに打ち震えていた。
「その後、犠牲を出しながら連中を追い払って思ったよ、俺にこの仕事向いてないって」
「だから、後方に専念しているんですか?」
「呆れるだろう? こんな臆病者が騎士団長だなんて」
彼は涙で目を潤ませてそう言った。
「俺がもっとうまくやっていれば、彼らを逃がすことができたかもしれない。
遺族を、天涯孤独の身にしなくて済んだかもしれない」
「…………」
「失望したなら、遠慮なく言ってください。
俺のところで働きたくないのなら、それでも構いません。
だけど、どうか、陰からあなたを支えることを許してください」
彼は深々と頭を下げて、彼女にそう言った。
「……そう、だったんですね」
それが、彼の負い目。
未熟ゆえの、無能ゆえの、失敗の経験。
どう考えても、害虫に襲われたという報告が来た後に駆けつけたのならどう足掻いても間に合うはずないのに。
「よかった」
「え?」
だからこそ、彼にとってその言葉は予想外だった。
「その害虫の襲撃は、私の所為だと思ってました。
友達を助ける為に、予言を使った代償だと」
「そんなわけ……」
「――――貴方の所為でもあったんですね」
その責めるような言葉とは裏腹に、彼女は柔らかく笑っていた。
「絶対に、赦しません」
「……はい」
「だから、どうかその罪業を私と一緒に背負ってください。
私のことが好きだと言うのなら、私のことを正しく見てください」
「それ、って……」
「まずは、お互いのことを知る段階から始めましょう」
「…………」
その日の午後、何やら血迷ったらしいチューリップ団長が、恋人ができた、と放送で喚き散らして夕刊の表紙を飾った。
最近のはシリアスが続いたせいか、評価が上下してました。
そしてついに赤バーじゃなくなりました……まあ、読んでくれる人が増えたのもあるですし(震え声
元々身に余る評価でしたし、作者は強い子……低評価受けても泣きません。
……ちょっとキウイちゃんからのんちゃん借りてくりゅぅぅぅーーー