貧乳派団長とリンゴちゃん   作:やーなん

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本当ならコミケの日に上げたかったお話。





波乱のコミフェス 前篇

 スプリングガーデンでも最大の栄華を誇るブロッサムヒルの堅牢な城壁に群がるように、無数の影が蠢いていた。

 しかし今日という日に限って、それらは人々に脅威をもたらす害虫たちではなかった。

 

 今日は年に二度の同人文学の祭典、コミックフェスティバルの日だった。

 コミック、と銘打たれているが、マンガに限らず自身のオリジナルの詩集や絵画などの創作物、様々なファンアートを個人、サークル規模で発表、販売する最大級の場となっている。

 

 最初こそ偏見、忌避の目で見られていたこの催しだが、回を重ねるごとに参加者も増え、風物詩となって人々に受け入れられるようになった。

 今では町の中で開催することが不可能な規模と相成り、会場の大部分は町の外側で行われることとなっていた。

 しかしそれでも、参加する人々は絶えることは無かった。

 

 そもそも町周辺は常駐する騎士団が常に巡回しており、どの町でもかなりの安全が確保されているのだ。

 当日も害虫の襲撃に備え、かなり力を入れた警備がなされていた。

 

 

 

 

「うわぁ、すごい人が並んでるよ……」

 緊張した面持ちでハナモモ団長はコンパクトに整理された長蛇の列を眺めていた。

 今日の警備は彼と彼の部隊も参加していた。

 彼らが感じる熱気は夏の暑さだけではないだろう。

 

 人々は暑さ対策をして、もう既に数時間も並んでコミフェスの開催を待っていた。

 その事実を目の当たりにして、自分はマネできないなぁ、と思うのだった。

 

「団長さん、ぼーっとしていますけど、ちゃんとお水を飲んでいらっしゃいますか?」

「あ、うん、大丈夫だよ」

 横合いから花騎士ハナモモが彼を気遣いそう言葉を掛けた。

 

「暑いのなら、中に戻った方がよろしいかもしれませんわ。

 こちら側で行うのは参加者の皆さんにトラブルが起きないか見回るばかりですし。

 初めてこの催しを警備する私たちが出てもお役にたてませんわ」

 と、彼女は(もっと)もらしいことを述べたが、さっきからハンカチで汗をぬぐう手が止まっていない。

 暑さと熱気に辟易しているのは彼女もらしかった。

 

「……うん、そうだね、そうしよう」

 他数名の花騎士たちも、二人の意見に大賛成だった。

 

 

 そうして彼らは本会場、通称西側へと足を運ぶ。

 内部も魔法による空調が効いているとは思えない暑さだったが、直射日光を浴びるより数倍マシだろう。

 

 本会場は多目的ホールを貸し切って使用し、中は商会・騎士団が構えるブースとなっている。

 各店は薄壁で区切られ、開催時間に向けて各々最終段階へと進んでいた。

 

 

「もっとこう、血糊とか飛び散る感じで、そうそう!!

 いいね、雰囲気出てるよ!!」

「もっと魔界の瘴気で染め上げよ!!」

 彼らが自分たちの騎士団が出店しているところへ行くと、キンギョソウ団長が己の補佐官や部下たちと一緒に内装の総仕上げをしていた。

 店内はおどろおどろしい雰囲気となっており、周囲から思いっきり浮いていた。

 

「これにて儀式を行おうぞ」

「え、ちょっと待って団長さん。

 こっちの方が可愛いよ」

 店内を飾る装飾品としてクリスタルスカルを取り出したキンギョソウ団長だったが、己の部下が取り出したのはデフォルメされたドクロの置物だった。

 

(アギト)を開く者よ、耄碌(もうろく)したか?

 此方の方がより儀式の完成度を高められるだろう」

「女の子に向かって耄碌とか言わないでよ!!

 いいや、絶対こっちの方が可愛いからお客さん来るって!!」

 他の花騎士たちのどっちでもいいわ、という表情が彼女たち心境のすべてを物語っていた。

 

 似た者同士のように見えて、微妙にかみ合っていない二人だった。

 販売物は二人の趣味か、ドクロの小物グッズや団長の詩集や分厚い小説と同じくらい分厚い設定資料集だった。

 

 今あの二人に関わると面倒そうなので、ハナモモ団長たちはそっとその場から離れた。

 

 

「よーし、こっちは準備万端かな、ってこら、黄姉さん!!

 勝手に商品に触らないでくださいよ!!」

「なによ、そんなに怒らなくてもいいじゃない」

「以前、重病者に勝手に検証前の薬使おうとしたこと、俺忘れてませんよ」

「あれは別に危険なものとか入ってなかったわよ」

 そのすぐ近くで、チューリップ団長とイエローチューリップが店を構えていた。

 店構えは至って普通だが、置いているのが怪しい薬品類なのはどうなのだろうか。

 

「いつも言ってるじゃないですか、うちのような個人経営の診療所なんて、訴えられたら賠償金で一発で消し飛ぶんだって!!」

「もうその話はもう終わったじゃない」

「じゃあ不安の種を増やさないでくださいって。

 全くもう、売り子をお願いしたかった赤姉さんはどっか行っちゃうし、白姉さんは仮設診療所の方だし……。

 はぁ、誰かうちの部隊の子にお願いして売り子頼めばよかったかなぁ」

「そうか、仮設診療所の方に行けばよかったのね」

「行かせませんよ」

「じゃあなんで私に頼んだのよ!!」

「黄姉さんを見張るために決まってるじゃないですか!!」

「二人とも、うるさいですよ」

 あわや言い争いに発展しかけたところ、横のカウンセリングコーナーと銘打たれた怪しげな店からパープルチューリップが現れ、仲裁に入った。

 

「あ、紫姉ちゃん……姉ちゃんも黄姉さんに言ってやってくれよ」

「あなたの言い分もわかるわ。ここは間を取りましょう」

 パープルチューリップはそう言うと、おもむろに己の姉に近づいた。

 そして、その手を彼女の服の内側へと差し込み始めた。

 

「あ、ちょ、くすぐったいって!」

 そうすると出てくるわ出てくるわ、怪しげな色の薬が入った試験管が山のように。

 

「こんなものかしら。

 はい、姉さん、これを持って熱中症患者を探しながら赤姉さんを呼んできて。

 多分今頃、本会場の男性を物色し終えて外の行列を見て回ってる頃だと思うから」

 と、熱中症用と張り紙が貼られた大きめのカバンを押し付けた。

 

「あ、こっちはうちに戻るまで没収ね」

「む、むぐぐぐうぅぅぅぅ」

 実験用の薬を根こそぎ取り上げられ、歯噛みするイエローチューリップ。

 こうしたひと悶着の末、ここの開店準備は終わったようだった。

 

 ハナモモ団長?

 彼ならイエローチューリップの姿を見た直後に回れ右していた。

 

 

「あ、ナズナさんだ」

 防衛本能のままに別の場所へ向かうと、開店準備を進めているナズナを発見した。

 

「ナズナさん、ここは何を売るんです?」

「あ、ハナモモ団長さん。ここの商品はこれですよ」

 と言って、ナズナは四角い箱を取り出した。

 一か所だけ手を突っ込む小さな穴が開いている。

 

「これは、くじ引きですか?」

「はい、上から一等の虹賞、二等の金賞、銀賞、銅賞、残念賞となっています。

 景品は人気順にまとめた花騎士の限定写真集、サイン色紙等々です。

 一回500ゴールド、5000ゴールドで十一回できます」

 ハナモモ団長は思った。えぐい商売だと。

 

「ちなみに封入率はどれくらいなんですか?」

 後ろに種類別に積まれた写真集と色紙を見ながら彼は尋ねた。

 

「虹が0.5%、金が3%って感じですね」

「悪いことは言いません、もっと安くするか当たりを増やしましょう、ね?」

 急に悪寒がしてハナモモ団長はそうせがんだ。

 それは数多の団長の無念と怨嗟の声が次元を超えて彼に言わせたのかもしれない。

 

「……むぅ、仕方がありませんね、金を6%にしましょう」

 その言葉を聞いてすぐ、ハナモモ団長はその場から逃げるように立ち去った。

 

 ……この世界の闇の一端に触れたハナモモ団長だった。

 

 

 

 

 

 一方、その頃。

 我らがリンゴ団長はというと。

 

 

「えー、諸君。我らは今日と言う吉日にこの会場を警備する任務を拝命したわけだ。

 諸君の中には疑問を持つ者も居るだろう。誰かいるか?」

「はい」

「キルタンサス」

 おずおずと手を挙げた彼女を団長は目を向けた。

 

「この部隊って、警備とかそういうのってやらないんじゃないんですか?」

「確かにその通りだ。

 なので、こちらのやり方で警備を行う事となる。

 無論、害虫を見つけ出し、強襲し、蹴散らすのだ」

 団長は目の前に整列する花騎士たちにそう宣言した。

 

「はい」

「ペポ。どうした」

「ええと、よく知らないんですけど害虫が必ず来るってわかるんですか?」

 ペポが疑問を口にした。

 良い質問だ、と団長は頷いた。

 

「あの憎き害虫どもは、どうやら人間が熱中するものに興味を示す習性なのか性質なのかは分からないが、そういった傾向があるのは皆の知るところだろう。

 コミフェスも例外ではなく、毎年のように害虫どもは現れる。

 今回の作戦は我が騎士団の別部隊や他の騎士団との合同任務となる。

 我らの仕事は味方が害虫と交戦し始めた横合いを殴りつけるというものだ」

「住人の避難はどのように行うのでしょうか?」

「しない、やるだけ無駄だ。

 ここに集まった連中は、それぞれ色々な物を賭している。

 逃げろと言ったところで逃げるなら苦労はしない」

 それを聞いて、質問した流石のサクラも絶句した。

 

「このお祭りの警備は初めてだけど、そんな凄まじいものだったのね……」

「お前地元だろ、知らなかったのかい。

 まあ、サクラとは縁遠い催しだから仕方がないかもしれんが」

 思わず頬を掻く団長だった。

 

 

「これまでの傾向として、まず開催直後にハエ型害虫“テツ・ヤグミ”の群れが押し寄せてくる。

 カマキリ型害虫“2ナミ”も数に任せてダッシュで向かってくるから気を付けろ。

 もう既に連中は付近に集まっていることだろう。

 我が隊はまずこれを強襲し、撃滅する。

 以後散発的な襲撃を他の部隊と共同し撃退することになる。

 最終目標として、恐らく親玉だろうイモムシ型大型害虫“テン・ヤイバー”の討伐を目標とする。

 こいつは背中に十本の刃が生えており、『テーンバアァァイ』と鳴くので一目瞭然だ」

「こいつら、一体何しに来てるんだ……」

 完全にパターンが分析され、対応がマニュアル化までされているというのに懲りずに向かってくる害虫を、クロユリは理解できないと言うように首を振った。

 

「わからん。

 だが、連中は奪った販売物で他の害虫と取引のようなことを行っていると聞いたことがある。眉唾な噂だが。

 まあ連中の社会構造など興味無い。見つけ次第皆殺しだ」

 そう結論付けたところで、団長は大きく咳払いした。

 

 

「そこで、だ。

 一部の害虫には非現実的な服装をしている者に反応する傾向が見られるらしい。

 誘蛾灯ではないが、それで一般人に被害が抑えられるならば利用しない手はない。

 この重要な任務を、クロユリ。お前に任せたい」

「……聞くだけ聞いてやろう」

 クロユリ他二十名ほどの冷たい視線が団長に突き刺さったが、彼は気にしない。

 

「ふふっ、じゃんじゃじゃーん!!

『魔法花騎士ナノハナ』に登場するライバル花騎士、フェイジョアちゃんの衣装だぁ!!!」

 ばん、と彼が取り出したのは、黒いレオタードにマントを取り付けた際どい代物だった。

 

 ……クロユリは無言で剣を抜いた。

 

 

「あ、おい、やめろ、これは俺の私物じゃないぞ。

 こういう衣装を作るサークルから借り受けてきたんだ」

「ではそれ以外を切り刻むとしよう」

「ちょっと待て、待てってば!!

 フェイジョアちゃんの武器って大鎌だったりするんだ、死神っぽいだろう?

 更に彼女もツインテだ、ほら!! お前しかいないって!!」

「言いたいことはそれだけか?」

「それにほら、彼女も貧乳だし――ごほっ!?」

 無慈悲な蹴りが団長の鳩尾に突き刺さり、彼は悶絶した。

 

「では善後策と行きましょう。

 サクラさん、こういう服もあるのですがどうでしょう」

「あらぁ、まあ、かわいい!!」

 リンゴが取り出したのは、フリフリ過多なピンクのエプロンドレスだった。

 

「私、これ来てみたいです。良いですか、団長さん?」

「待て、サクラには『カードゲッター チェリー・ブロッサム』の主人公の衣装を……」

「団長さん、流石にあの衣装はサクラさんには似合わないかと」

「ちっ、やはりか。あと数年早ければ――」

 その直後、一瞬サクラの姿がぶれるとなぜか団長は昏倒していた。

 

「恐ろしく速い手刀、ランタナじゃなきゃ見逃しちゃうね」

「お前それ、死亡フラグ……がく」

「えー、団長が熱中症の為、補佐官である私が指揮を引き継ぎます。

 とりあえずはですね、予定されている場所にて待機となります。

 開催時間まで残りわずかな時間となりましたので、サクラさんの準備が整い次第、迅速に行動いたしましょう」

「私はどこで着替えればいいかしら?」

「あ、こちらに専用の更衣室があります」

 

 そんなこんなで、コミフェスの開催が間近へと迫っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




なお、ナノハナちゃんはアブラナちゃんと何の関係もございません。
また、今後フェイジョアちゃんが出てきても、同名の別人と言うことにしておいてください。
元ネタの方はお察しください。

ところで、そう言う格好をしている二人を想像したところ、脳内に邪神が降臨してこう言いました。

女神?「団長、聞こえますか……。
書くのです、R版を書くのです……」

邪な感情に支配されそうになったところ。

小悪魔?「だんちょ、R版ってなぁに?」

と、自分の自制心が発揮され、雑念を振り払いました。
やはり巨乳は敵(白目

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