『団長の誕生日』
「はぁ……」
我らがリンゴ団長は、物憂げに溜息を吐いた。
「どうしたんですか、団長さん!!
せっかくの誕生日なのに溜息なんて吐いちゃって!!
あ、もしかして夜のパーティのお料理が楽しみ過ぎて待ちきれないとか!?
楽しみですよね、普段私達花騎士がお誕生日パーティしている余裕なんてあんまりないですけれど、団長さんなら話は別ですからね!!
お誕生日は祝う方もハッピー!! 祝われる方もハッピー!!
もう世界中の人たちが毎日誰かの誕生日を祝ってたらもうずっと幸せなんじゃないんですかね!!
私なんて自分の誕生日じゃないのにウッキウキですよ、ウッキウキ!!
それに誕生日にサクラさんの特製ケーキを食べれるなんて、本当に団長さんは幸せ者ですね!!
私もちゃーんとプレゼントを用意しておきましたから、期待しておいてくださいね!!」
リシアンサスの開幕マシンガントークが、彼の憂鬱の全てを物語っていた。
「いいよな、お前らは」
団長は宿舎の多目的室で現在進行形で自分の誕生日パーティの為に室内をせっせと飾り付けをしている部下たち見渡していた。
「どうかしたんですか、団長さん。どこかお加減でも悪いんですか?」
「いやね、プルメリアちゃん。
俺みたいなおっさんになると、純粋に若い連中のように誕生日を楽しめなくなるのよ」
「そう言うことを気にしていると、損ですよ団長さん」
椅子に腰かけ溜息を吐いて項垂れる団長の頭を撫でるプルメリア。
「だってよ、君らは良いよ? 世界花の加護で個人差はあれど老化はゆっくりだし。
でも俺みたいに30を超え始めると節々の衰えを感じざるを得ないんだよ」
いつまでもお肌ピチピチなのは良いけどさ、と団長はぼやく。
「この間、定食屋で揚げ物の盛り合わせの定食を食ったんだがな。
少しして胃もたれで吐きそうになったんだ。若い頃は幾ら脂っこい物食べても平気だったのに」
「そう、なんですか……」
「この間の健康診断で、お酒を控えるように言われたしよ。
このままじゃ肉も食うなって言われるのも時間の問題だぜ!!
そうなったら一体何食べてけばいいんだよ!!」
この世の無情を嘆く団長に、流石のプルメリアも苦笑いだった。
「もう生まれる前からやり直したい。
プルメリアちゃん、俺のママになってよ……」
「団長さん、最近お疲れなんですね~。
今日はお誕生日ですから、疲れなんて忘れるぐらい楽しみましょう」
「スルーされたぁ」
そんな感じでめそめそし始める団長。
この男の誕生日パーティの準備をしているのに、周囲の部下たちはこの人邪魔だなと思い始めていた。
「そうだ」
何やらゾンビみたいな足取りで、多目的室に備えられている本棚から雑誌を取り出す団長。
その中身を開いて、ふんふんと頷くと。
「ちょっと馬車に
「ちょっと!! 何言ってるんですか!!」
何かバカなことを言い出したので、リシアンサスが止めて彼の持っている雑誌に目を向けた。
『ナロー』という、連載小説専門の雑誌だった。
「団長さん、自分から馬車に撥ねられても神様は手違いでしたーとか言って蘇らせてはくれませんよ」
「うぐ」
「ましてや世界花の意志とかに接触して、超絶魔力を授かって勇者にもなれませんよ」
「あう」
「そもそも、街中での馬車の出して良い速度って決まってますし、馬車の通っていい道も花騎士の詰所がありますし、あんまり現実的じゃないですよね、このお話」
彼女は団長が広げていた雑誌のページに書かれている話を見てそう言った。
「くっそ、リシアンサスのくせに。ファンタジーに夢見ないでどうするんだよ」
「私のくせにってなんですか、私のくせにって!!」
「最近やってた『ふしぎおとめ』のセレクションガチャのピックアップにキンギョソウちゃんを差し置いて出てる時点でお察しだろ」
「悪かったですね、変わってて!!」
「悪かぁない。体は好みだ」
「身体だけですか!!」
「あ、いや、性格が変わってた方が味があって良いかもな」
「今わかりました、団長さんは私の敵だと!!」
「お? 来るか? いいぜ、薄い本的な意味のハッピーエンドに送ってやるよ、ダブルピースしながら幸せですぅとか言わせてやんぞおらぁ!!」
「セクハラには断固とした行動を取りますよ!!」
取っ組み合いを始めた二人だったが、すぐに団長だけ多目的室から追い出された。
「こんな時代じゃ~、手間暇かけても~、かけなくても~、最後には一緒くた♪
それでも違いが分かる人が居ます~、そう信じて丁寧に作りましょ~♪」
一方、厨房ではリンゴが特製アップルパイをオーブンに投入していた。
彼女は他の料理が得意な面々と一緒に今夜のごちそうを作っている最中だ。
「おーい、つまみ食いに来たぞー」
そこに、追い出されたばかりの団長がやってきた。
「あ、団長さん!! まだちょっと掛かりますー」
「夕食時には間に合わせられると思いますので、待っててくださいね~」
厨房はサクラを中心に10人近くが忙しそうに準備をしており、日頃の訓練の賜物か大きな料理屋のように各々役割分担が割り振られ効率よく調理していた。
勿論、団長がつまみ食いに入れるような隙間はなかった。
「つまみ食い? しょうがないなぁ、だんちょは。
少しだけ、ランタナを食べてもいいよ」
「仕方ない、適当に時間を潰してくるわ」
「ちょっと、無視するなー!!」
己にラッピングを施したような恰好をしたランタナが食器の準備をしてる手を止めそんなことを言ったが、団長これを華麗にスルー。
「年頃の娘を持った父親ってこんな気分なのかな」
奇妙な疎外感を感じながらも、団長は宿舎を外へと出た。
団長はどうしようかと考えていると、視界の隅に見慣れた黒色を見かけた。
「何やってるんだ、クロユリ」
「明日の討伐の準備だ」
彼女はそっけなくそう返した。
クロユリは荷台に乗せて持って行く物資や道具の点検や整備をしていた。
「中の雰囲気は慣れないか?」
「ああ、正直、な。
そう言うお前は主役のくせに外に油を売りに行くのか」
「ああ、どっかの女の子の所に転がり込もうかな、ってな」
その冗談めかした団長の言葉に含まれたニュアンスを察したクロユリは、彼の方を見やる。
「自分を祝う席に出ないつもりか?」
「ここでお前に会わなかったらそうなっただろうな」
団長は軽薄に笑いそう答えた。
言葉面だけなら最低だったが、クロユリはその笑みにどこか影を感じた。
「この歳になって誕生日を祝われても、な。
かさばらない簡単な食い物でもくれれば十分だったんだが」
団長は思わず持ち出してしまった雑誌のページを見下ろす。
「クロユリ、お前はもし一度死んで蘇れたらもう一度花騎士になるか?」
「馬鹿馬鹿しい質問だな。
死んだら、蘇りなど無い。それで終わりだ」
クロユリは淡々とそう答えた。
その返答を聞いて、団長はにやにやと笑み浮かべた。
「なんだ、気持ち悪い」
「いや、味が有るのも良いが、お前ぐらい淡白なのが俺の性に合ってると思ってな」
気味悪そうにしているクロユリの横に団長は並んで、積み荷を漁り始める。
「一度まともじゃなくなると、そいつはもう二度とまともに戻れなくなる。
俺も時々、あいつらが眩しく感じるのさ」
「…………」
「お、ビーフジャーキーみっけ」
「おい」
クロユリは半眼になって団長を睨むが、彼は既にそれを
彼女は無言で責めるが、彼は彼女の目の前にビーフジャーキーを差し出した。
「こんな寒い中、一人仕事している報酬だ。食えよ」
「最終確認をするサクラにはお前が勝手に食べたと言うからな」
「げッ、マジかよ」
表情を歪ませる団長を尻目に、クロユリはその手からビーフジャーキーを奪い取り、齧り始める。
スープに放り込んで柔らかくすること前提の強い塩気を感じつつ、もしゃもしゃと硬い肉の歯ごたえを味わう。
食事をすることが生きている実感ならば、この長時間噛まなければならない硬い肉の塊をそのまま食べると言う行為はそれだけ生きている実感を感じ取れるのかもしれない。顎が痛くなるのはご愛嬌だ。
「先日のバカ騒ぎの件だが」
「うん? 雪合戦がどうした?」
「違う、年始のあれだ」
「ああ、あれか」
「私が死んだと思ったくらいで、なぜ命を自ら断とうとした」
「お前は俺の部下だろ。自分の部下が自分の目の届かない場所で死んだら、それは俺の責任だ。
俺に今生の未練なんて、うん、まあ、あんまり無いしな」
驚いたことに、あの突拍子もない行動は彼なりにちゃんと理屈が有ったようだった。
「……さっきの質問の答えだが」
「うん?」
「一度死んで蘇り生まれ変わったとして、そのことを認識していたとしよう。
――――お前は死ぬ前のことを無かったことに出来るのか?」
それがクロユリの答えだった。
「なるほど、確かに馬鹿馬鹿しい質問だった」
この雑誌のページの小説の主人公は、平凡な男の子だった。
この少年は力を得たという理由で戦うことを選んだ。
勿論、力には責任を伴うだろう。
だが彼は分かっていなかったのだ。戦わないことを選べるということが、どれだけ幸福であるかを。
戦えば戦うほど、誰かと幸福を分かち合えた時間を失っているというのに。
「明日も戦うぞ、次の日も、その次の日も。
俺たちが失い続ける分だけ、他の誰かが失わずに済むんだからな」
「ああ」
二人の隣り合う手は、一月下旬の寒さから身を守るように、硬く握り合っていた。
『雪原の王』
「うわーん、団長さーん!! 負けちゃいました~!!」
「おうおう、よしよし」
団長は雪まみれのリンゴを抱き留めると、雪を払いながら頭を撫でた。
この日、リンゴ団長たち一行はナズナ団長が取り仕切るウィンターローズの雪祭りの警備の手伝いとしてやってきていた。
それほど大きな祭りではないのにリンゴ団長たちが手伝っているのは、団長がこの国出身だからだろう。
彼の部隊は雪原や雪山での過酷な戦場でも戦えるように十分な訓練を積んでいる。
最近ではバブルロータス下での戦闘を想定した訓練も視野に入れているほどだ。
そんな彼女らを一チーム刺客として雪合戦大会に送り込んだ団長だったが、どうやら敗北の憂き目にあったようだ。
「まさかリンゴちゃんたちを負かせる連中が居るとはな。
今年はナズナ団長が運営に携わってるだけあって一味違う。
最初は何でこんな小規模な祭りを盛り立てるのかと思ったが、面白くなってきたじゃないか」
「面白いも何も、私たちはもう負けちゃってるんだけれど」
少し悔しそうにしながら、リンゴと一緒に出場したキルタンサスはそう言った。
「何言ってんだ、お楽しみはこれからだぜ」
団長はそう言って、とても楽しそうに笑った。
嫌な予感が隠せないキルタンサスの予感は、勿論的中した。
………
…………
……………
「それでは、これにて雪合戦大会を閉会します」
マイクを持ったナズナが会場に集った参加者たちに壇上からそう告げた。
此度の大会は害虫の乱入によって得点を記録したボードが紛失する騒動もあったが、大団円となって幕を閉じた。
――――筈だった。
やはり人の熱気が害虫を呼び寄せるのか、とナズナ団長は来年の警備を考え直してながら閉会の様子を見ていた。
彼はそこで、おや、と気付いた。
リンゴちゃんのチームが、閉会式に参加していないと言うことに。
そこに、彼らは現れた。
イベントのエピローグ特有の和やかな雰囲気をぶち壊すその声と同時に、爆音が会場に鳴り響き、視界が真っ白に染まる。
何らかの魔法によると思われる爆風に巻き上げられた雪風に、誰もが顔を腕で
風が止むと、ナズナが立っていたはずの壇上に、何者かが立っていた。
「ドーモ、皆さん!! 此度の雪合戦、実に見事だった」
壇上に現れたその男は、この祭りの出店で売っている子供用のお面を付けているだけで、正体はモロバレだった。
「な、何やってるんですか、リンゴ団長!!」
爆風で檀上から落っこちたらしいナズナが、驚愕してそう声を張り上げた。
「リンゴ団長? だれそれ?
俺、冬の精霊。その名も、ジェネラルフロスト!!」
彼はそう名乗った後、とってつけたようにひーほーとか言った。
ナズナも、大会の参加者たちも、皆ぽかんとなった。
「そして、俺こそが雪合戦の王!!
誰もが俺に負けるのを恐れ、二度と戦おうとしない!!
その俺が讃えよう、今回の大会実に見事だった」
そして彼は両手を広げ、大仰に言った。
「そう、あまりの程度の低さに笑ってしまいそうだったぜ!!!」
一瞬、誰もが彼が自分たちを
「害虫の乱入? 得点板の紛失? 大会続行不可能?
それで二チーム同時優勝? おいおいおい、お手て繋いでみんな仲良く一緒にゴールって、この大会ってのはいつから幼年学校のかけっこみたいになってんだ?
だったら全員優勝で良いだろ、馬鹿馬鹿しい」
だがその声音に含まれる怒気に、誰もが何かを言えなかった。
「チーム戦が出来なくても、代表者一名で決着を付けるとかやり様はあっただろうに。
こんなちっぽけの大会の為に遠路はるばると遠くの国から来てもらった者には本当に申し訳ない。
こんな無様な結果に終わるならもうやらない方がマシだ。
この国は、クリスマス以外に特に何もイベントの無い静かな国でいい」
その言葉には普段全く自国への愛国心を見せない男の、少ない愛着だったのかもしれない。
「無論、雪合戦は遊びだ。だが、いい加減でやってもつまらないだろう?
真剣に雪合戦をしたいという者は、俺について来い。
本当の雪合戦を教えてやろう。そして、もし俺と、俺の部下に勝てたのなら」
団長は少々間を開けて、こう宣言した。
「――――この雪合戦王の称号をくれてやる!!」
歓声が挙がった!!
場は彼が既に支配していた。
彼が雪原の方へと歩き出すと、大会参加者たちはぞろぞろと彼に付いて行く。
「ど、どうしましょう、団長さん!!」
困惑気味のナズナは己の団長の判断を伺った。
だが、やっぱりあの人には敵わないなぁ、とナズナ団長は苦笑して肩を竦めた。
そして、審判は必要だろう? と言って彼もまた皆の方へと歩き出した。
基本的にノリのいいスプリングガーデン民の非参加者の観光客や一般参加者たちも、面白そうだ、と言ってその後に続く。
すっかり閑散となった広場で、もー!! と、ナズナは感情を爆発させていた。
………
…………
……………
「お前たちの対戦相手、即ち俺の可愛い部下たちを紹介しよう」
村を出たすぐそばの雪原には、お面を付けた異様な集団が待ち構えていた。
「ブロッサムヒルの猛吹雪!!
我が右腕、ブロッサムブリザード!!」
「うふふ、皆よろしくね~」
彼女を見た花騎士たちは、ああこの悪ふざけはあなたも参加しているんだ、という表情になった。
「凍らせて食べると美味しい!!
我が左腕、アップルシャーベットちゃん!!」
「みなさんどうもー」
アップルシャーベットちゃん……一体誰ンゴちゃんなんだ……!!
「こちらのコンビはバナナオーシャンに吹く雪風という意味(適当)でサンタナと、ジャックフロストの親戚のパンプキンフロスト!!」
「いえーい!!」
「なんなのこのノリ……」
「雪原の白い死神!!
見た目は黒いが気にするな!! ホワイトリーパー」
「…………」
「リリィウッドが生んだやべー奴!!
危険あるところに現れる、スノーボールシューター!!」
「あ、私の紹介は飛ばして良いです……」
「雪原を駆ける我が猟犬!!
お前たちの喉元を食いちぎるは、このアイスオルトロス!!」
「えへへ、何だかみんな楽しそうだね」
「わんわん!!」
「ロータスレイクの新しき爆風!!
雪合戦は爆発だ!! スノーボンバーちゃん!!」
「雪玉もどっかーんするですぅ!!」
「先日我が隊にやってきました新入りちゃん!!
その名も、ジャンピングデスサイズ!!」
「どうもー、って私だけ雪も冬も関係ないんかーい!!」
「赤いのが居れば、緑のもいる!!
実は俺、食べれないんです。グリーンシャーベットちゃん!!」
「え、そうだったの!? やっぱり私のこと嫌いだったの!?」
「どうにも酸味がなぁ、あ、君のことは嫌いじゃないからね? ね?」
「ごほん。えーと、あれ、どこまで紹介したっけ? まあいいや、以下省略!!」
彼のその言葉にあからさまにホッとした様子の彼の部下達。
「ルールは簡単だ。
ここにちょっとしたダメージを肩代わりしてくれる護符がある。
参加者はこれを体の見えるところに付けてくれ。花騎士の投げる多少本気の雪玉一発ぐらいならちょっと痛いぐらいで済む。
これの効力を発揮している間は発光しているから、それが失われれば脱落だ。
これは俺たちも付けているから、遠慮しなくて良い。こっちもするつもりはないがな」
そう言って、彼は長方形の護符を参加者たちに配った。
「無論、雪玉を武器などで撃ち落とすのは無しだ。
ああ、雪玉を雪玉で撃ち落とすのは有りな。ここ重要。
そしてお互いの勝利条件だが、君らは俺を脱落させれば勝ち。俺らは君らを全滅させれば勝ち。
ルールは以上だ、簡単だろう?」
彼の提示したルールは確かに簡単だった。
だが、彼我の人数差は倍近い。
それでもこの男は、自信満々にお前たちを全滅させると言ってのけた。
彼のルール説明を見ていたナズナ団長は、面白いがこのルールは大会では採用できないな、と呟いた。
チーム戦で脱落が有ると、当然両者共に誰かを集中攻撃をするだろう。
そうなると序盤で勝敗が決しやすくなるので、今回の大会では採用されなかった。
そこまで考えて、ナズナ団長は気付いた。
これは演習なのだ、と。
「じゃ、俺たちは向こうで待ち受けているから、10分後に開始な」
彼はそう言って、部下を引き連れ雪原の向こうへと歩いて行った。
去り際に、意味深にナズナ団長に視線を向けたのが、その推測は確かなのだと示すものだった。
だが結局のところ、彼は己の役目を忠実にこなすことを選んだ。
「さて、俺ならここまで面子を潰された上に挑発されたら目に物見せてやるところだが」
「どう出るでしょうね、団長さん」
「団長じゃない、ジェネラルフロスト様だ」
彼は大会参加者たちを待ち受ける最終点検をしながら、己の右腕とそんな会話を交わした。
「ふんふん、……どうやらナズナ団長さんは運営に徹するみたいです」
「そうか、じゃあプランAのままで行くぞ。予定通り、あいつらを殲滅する」
ジャックフロストの親戚ことパンプキンフロストのお友達が偵察してきた内容を上司に伝えると、彼は若干つまらなそうにそう告げた。
「ずるっ、オバケに偵察させるとか」
「と言うか、なんで今までやらなかったのかな」
「団長さん、オカルトに頼らない派だったかららしいよ」
「でも去年のハロウィンにあんなこと言われちゃねぇ」
先日の出来事がいかに彼に衝撃を与えたのか、それなりに付き合いの長い四人組は察して余りあるのだろう。
「総員、位置に着け!!」
彼の号令に、全員が一斉に己のすべきことをすべく移動し始めた。
「いやぁ、ここの部隊はマジパネェって聞いてたけど、マジでハンパないね!!」
年末年始に仲良くなって、彼に引き抜かれてきた新入りの初陣がこれだった。
訓練の厳しさにへとへとになりながらも必死にへばりついて、それでなお全体の練度が足らぬと本日の彼女の役割は大将の護衛となった。
「何と言うか、自分の才能の無さを思い知らされるというか、その、やっぱり、私みたいな落ちこぼれは要らなかったりする?」
彼女の視線は引き抜かれてから今日まで間近で見続けてきたこの男の右腕に向けられていた。
同胞に才能の化け物とまで言われるその才覚に、己のコンプレックスが刺激されたのだろう。
「いくら努力しても、追いつく気がしないか?」
「え、……うん、まあ、そうかな」
「良い事を教えてやろう。努力とは、才能の一部に過ぎない。
本当に才能の無い者は、努力する事さえ許されないのだからな」
俺がいくら頑張っても花騎士になれないのと同じようにな、と彼が笑うと、彼女は口を
「本当は私もわかってるんだよ? 世の中には花騎士に成れずに普通の騎士身分で仕方なく警備隊に所属している人もいっぱいいるし。
……私はまだ恵まれている方だって」
「ならくだらないことをぬかすな。
お前も花騎士なら、自分は特別なのだとその無い胸を張れ。花騎士はただそれだけで人格と能力が保証されたエリートなのだとな」
「うん。って、誰が無い胸やねん、やかましいわ!!」
「俺はそれくらいがベストなんだがな」
「褒め言葉だった!?」
二人が漫才を繰り広げていると、大会参加者の花騎士たちが群れを成して押し寄せてきた。
「そして、真に戦いに勝つために必要なのは、エリートでも天才でもない。
それを今示そう、さあ、やれ、お前たち!!」
彼の号令と同時に、蹂躙が始まった。
団ちょ……フロストジェネラルに挑まれた花騎士たちは、無論無策で挑もうとしたわけではない。
試合開始まで10分と言う長めの猶予は、彼女らに与えられた作戦会議の時間だった。
毎回騎士団長自ら戦いに赴くのはリンゴ団長くらいなので、各々が必然的に現場での状況的判断を求められることが多いのだ。
そして、簡単な協議の結果、それぞれ組んでいたチームの面々で一塊になって横に広がる陣形で相手の攻撃を分散させ、正面から撃ち合いダメージレースで勝利する、という順当な物だった。
数で勝っているのだから、変に奇策に頼るより数で押すのはむしろ当然だった。
「まあ、これですんなり勝たせてもらえるとは思えないですが」
これらの基本に忠実な作戦を立案したのはパープルパンジーだった。
まだ准騎士以前の見習いの意見を採用してくれる辺りが花騎士たちが良い意味でゆるい所だった。
「なーに言ってるんだよ、うちの妹の考えた作戦なら全然大丈夫だって!! 数もこっちが多いんだしさ!!」
「ふふっ、そうね。今度こそ皆で活躍しましょうね」
このッアホ姉ーズはッ、とパープルパンジーは楽観的な姉たちに内心吐き捨てたくなった。
しかし、彼女らは相手がいかに高い練度を誇る集団か知らないので、自分がしっかりせねばと思い直すのだった。
だが、順当に行けば勝率が高いのも事実だった。
何せ相手は遮蔽物がない平原で、大将は堂々と立って彼女らを待っていた。
先ほど紹介をした時より人数が少ないが、奇襲とは来ると分かっていればどうにでもなる。
そう、順当に行ければ勝てる戦いだった。
「皆、この辺りはマズイよ、引き返して!!」
その時、そう叫んだのは、今回の大会で同率優勝を果たしたチームの一人、花騎士ビバーナムだった。
まさしくそれを合図にしたかのように、雪の中から対戦相手達が飛び出してきたのだ!!
「敵襲!! きゃあ!!」
全員、奇襲が来るのは覚悟していた。
だが彼女らが突っ込んできて、彼女らが手にした白い棒状の物体で近接戦闘を挑んでこようとは誰が予想してただろうか。
「ちょっと、団長さん!! あれって反則じゃないですか!!」
奇襲により早々に脱落させられたイベリスが、近くでその様子を見守っていたナズナ団長に抗議の声を挙げた。
しかし、ナズナ団長は首を横に振る。あれは反則ではない、と。
なにせ、彼女らが手にした棒状の物体は、“雪玉”を魔法か何かで連結させた代物だったからだ。
これは武器だと相手が言い張れない程度の耐久度しかないが、それでも一撃必殺の道具としては有用だった、
とっさに投げて対応してきた花騎士たちの雪玉をそれで打ち落とし、そのまま一撃で彼女らを脱落させ、混戦に持ち込んだのだ。
撃ち切った雪玉を補充しようとも、足元の雪は事前に水を撒かれていたのかカチカチに凍っていてそれも出来ない。
矢の無い弓兵が接近戦で剣士に勝てるはずもない。
このままではマズイ、と花騎士たちが距離を取ろうとしたのは当然のことだった。
そんな彼女らを襲ったのは、長距離狙撃だった。
敵の本陣からスリングショットで雪玉を飛ばす者が居て、遮蔽物が無いと言う有利は逆手に取られてしまった。
「こ う な っ た ら 正 面 突 破 っ す !!」
最低限の雪玉を確保した面々は、ジャーマンアイリスのその作戦に乗るしかなかった。
彼女らの勝利条件は、敵の大将を倒せばいいのだから、全員で一塊になって決死の特攻に出るのも急場にしては悪い作戦ではなかったのだ。
唯一問題があるとすれば、それが相手の想定の範囲内と言うことだろうか。
「どっかーんですぅ!!」
被害を度外視して一直線で敵の本丸に向かう彼女らの真上に、雪玉の砲弾が落ちて炸裂した。
「ず、ずりぃ、です」
雪玉榴弾に吹っ飛ばされたパープルパンジーは、呻くようにそう呟いて脱落した。
「情けないなぁ、お前ら。こっちのただ一人すら脱落させられないとは」
やたら芝居がかった口調で、死屍累々の雪原に立つお面の男は嫌味っぽくそう言った。
戦いは終始一方的で、数の有利など全く意味が無かった。
そりゃあ、こんなダーティな男と、二度と雪合戦をしたいとは思えないだろう。
「これが拠点が無いと言うことだ。
これが補給線が無いと言うことだ。
これが地の利が無いと言うことだ。
これが味方との連携が杜撰だと言う事だ。
これが十分な物資が無いと言うことだ。
これが敵の情報が無いと言うことだ」
ナズナ団長はそれを聞いて、いつぞやの会議を思い出した。
これが貴方がかつてのコダイバナで見たものですか、と彼は呟いた。
十分に個々が強いはずの花騎士たちが、一方的に蹴散らされていた。
「戦いの勝敗とは、事前の準備の段階で90%が決している。
残りの9%を埋めるのが努力であり、残りの1%以下を埋めるのが才覚なのだ」
この有様では雪合戦王の称号はやれんな、と彼は笑う。
そして、彼はナズナ団長を見やる。
「お前が指揮を取れば、多少はマシだったものを」
そう言う彼に、ナズナ団長は首を横に振ってこう言って肩を竦めた。
万全の状態のあなたに挑む愚は犯せない、と。
「八十点だな。
次に生かせる敗北が出来るようになって、ようやく一流の指揮官だ。
上手に勝つより、上手に負ける方が遥かに難しい。負け戦にこそ、その指揮官の真価は問われるものだ」
そう言って彼はナズナ団長の肩を叩くと、むっはっは、と笑って部下と共に去っていく。
「お前は俺のようになるなよ」
その背に、ナズナ団長は頭を下げた。
その後、しれっとリンゴ団長たちは戻ってきて、会場の片づけを手伝っていた。
「もう、皆さん、みーんな行っちゃうんですから!!」
ぷんすかしながらナズナは先に一人で片付けをしていて、リンゴ団長に文句を言いたげだった。
何気に、彼らの派手な外での戦いが一般人にうけて盛り上がっていたのも彼女は不満だったのかもしれない。
「まあまあ、そう怒るなって。
次にヤバイ仕事があったら俺たちがやってやるからよ。
害虫の巣だろうと、コダイバナの城の中だろうと、な」
「ホントですか~?」
二人も想像すらしていなかったことだが、この会話のほんのひと月先に伝説の巨大害虫の体内突入を彼らはする羽目になった。
この国は静かで何も無い国でいい、と言ったリンゴ団長には皮肉な話だったと言えた。
前回の続きですが、展開を三パターンぐらい考えていて、遅くなりました。
無駄にシリアスにしてしまうのが私の悪い癖。今回は息抜きです。一月つっても、もう三月ですがね!!
とはいえ、次回はもう決まったのでなるべく早めに投稿したいです。
では、また次回!!