貧乳派団長とリンゴちゃん   作:やーなん

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ヘナちゃん来ませんでした!!(半ギレ
二編書こうと思いましたが思いのほか長くなったので一遍だけになりました。
今回は例のIFストーリーの続きです。



短編連作 IF編その1

『ドツボに嵌る女王』

 

 

 かりかりかり、と湖底の王城のとある執務室の中では、ペンが走る音のみが奏でられていた。

 

「ふぅ、これで仕事は一段落か」

 そう言って書類から顔を上げ、肩を落とす男が一人。

 かつてリンゴ団長と呼ばれていた彼は、愁いを帯びた表情で窓の外を見る。

 

 この湖底の水中都市は、地上では見えない幻想的なその姿に憧れる者も多い。

 だが実際に生活してみれば、人によって向き不向きが存在する。

 

 まず幻想的な景観と言えば聞こえがいいが、昼も薄暗く地上の人間と比べてこの水中都市の住人の活動時間が異なることが多い。

 そして真上には水で覆われていることもあり、ある種の閉塞感に襲われることがある。

 長期滞在しにきた他国の貴族がその半分の期間で引き上げると言うことが続出していることを考えると、所詮この地は物珍しさに過ぎないのだ。

 

 かつての楽園も蓋を開ければこんなものである。

 そしてこの男も、水中都市での生活に合わない人間の一人だった。

 とは言え、全くこの国に合わないかと言えばそうでもなく。

 

「くくく、さて今日はどんな子に粉かけようかな。

 いやぁロータスレイクの女の子は凹凸がハッキリしてるから素晴らしいよな!!」

 そんな感じで彼なりにこの国をエンジョイしていたのだが。

 

 

「団長!!」

 彼が起伏の少ない女の子ときゃっきゃうふふを想像していると、ノックもせずに彼の執務室のドアをぶち破る勢いで入ってくる女性が居た。

 

「おや、これはこれは。麗しの我が婚約者さま。

 帰国なされていたのですね」

 その女性とは、先日彼と婚約したこの水中都市の女王ハスだった。

 そんな彼女がちょっと尋常じゃない表情で彼の元にやってきたのだ。

 

「ああ、せっかく婚約したのだから、小まめに戻らねば変な邪推が生まれよう」

 こんな風になッ、と言って彼女は彼に紙束を突き付ける。

 

「なんですか、これは」

 彼はそれを受け取って、その紙束に目を落とす。

 それは、害虫討伐に関するデータだった。

 ただ大して重要ではない、国民に騎士団がどのような成果を挙げているかを公共の場に張り出しておくような代物だった。

 

「これが、どうかしましたか?」

「裏を見てみよ、裏を!!」

 はて、とハスの剣幕に押されて紙束を裏返すと、そこにはこんな文章が書かれていた。

 

 

 

 §§§

 

 

 夜の帳に包まれた寝室の中で、男は獣欲のままに女王をベッドへと押し倒した。

 数多の障害をその策略で打ち破り、ようやく手にした極上の女を前に、男はぎらついた視線を女王に向けた。

 

「くっくっく、漸くお前を俺の物に出来るな」

「卿よ、私はお前のものにはならない」

「口ではどうとでも言える。

 今夜は朝までお前が誰の物か、たっぷりと体に刻んでやろう!!」

「やめてくれ!!」

 身動きの取れぬ格好のままの女王は男を拒絶しようとするが、如何に魔力の差があれど、この至近距離では体格差の方が有効だ。

 

「うッ、く、うぅ」

 女王は男の望まぬ唇を受け入れざるを得なかった。

 彼女の清廉な涙が、シーツの染みとなる。

 

「俺はお前を利用し、この国の王となる!!

 そしてこの俺を蔑ろにした人間たちに復讐をする!!

 そうしてこの世界のすべてを手にするのだ!!

 その為の第一歩として、お前に俺の子を産んでもらおう!!」

「ふ、ふふ……」

 己の野望を語る男を、しかし女王は涙を流しながら嘲笑うように笑った。

 

「残念だが、それは不可能だ」

「なに?」

「もう既に、我が胎には新しい命が芽吹いている。

 そう、お前以外の男のだッ!!」

「何だと!!」

 男は女王の告白に、彼女を貪ることを忘れて起き上がった。

 

「誰だ、誰の子だッ!!」

「お前もよく知っている男だ。

 私たちは愛し合っているのだッ、貴様が間に入る余地などどこにもない!!」

「アイツか、ふざけた真似を!!」

 激怒した男は、しかしにぃと顔を残忍に歪めた。

 

「面白いことを思いついたぞ、奴をお前の目の前で無残に処刑してやろう!!」

「なんだとッ!?」

「そんなこと出来ないとでも思うか?

 もう既にこの国の権力を掌握した俺が!!

 くはははは、お前は俺の手から逃れられんことを明日教えてやろうではないか!!!」

 

 

 ~~~中略~~~

 

 

「かはッ!?」

 城下町の広場に、血が迸る。

 

「ちッ、間男が。手こずらせやがって」

 公衆の面前で己の野望を邪魔した相手を決闘にかこつけ斬り殺した男は、相手を足蹴にしながらそう吐き捨てた。

 

「――――ッ!!」

 愛する男の名を叫び、その骸に駆け寄る女王。

 その姿を見て、男は嗜虐心を見たして残虐に笑う。

 そして、悲しみにくれる女王を手繰りよせ、その耳元でささやく。

 

「最後の情けだ、お前の腹の子は俺の子として育ててやろう。

 だがその後は、分かるな?」

「おのれ、この悪魔め。

 覚えておけ、我が怒りと憎しみは必ずやこの子に受け継がれるだろう!!

 そしてこの子が立派に成長したあかつきには、この地上に貴様の居場所があると思うな!!」

 その憎悪を受けて、男は笑う。

 

 これが、この世界に巻き起こされる災禍の、ほんの一幕であることになろうとは、人々は知る由も無かった。

 

 

『愛憎は湖底より』第二章第三節、完。

 

 

 

 §§§

 

 

「ああ、やっぱり愛憎劇で復讐ものっていうのはありきたりでしたかねぇ」

「そう言うことを言っているのではない!!」

 わざとらしく見当違いなことを言う彼に、ハスは声を荒げた。

 

「どう見ても卿と私をモデルにされている内容の話を、卿が書いているのだ!!

 そしてなぜこんな物が、市井にまで流布されている!!」

「いやぁ、最初は暇つぶしに報告書の後ろに書いた奴を消すのを忘れて出しちゃったんですがね。

 それを律儀に両面を印刷して出しちゃったらしく、続きを書けって皆が言うもんだから」

「くッ、物語として普通に続きが気になるのが悔しい!!」

「陛下からも休みやるから続きをって」

「父上まで何をしているんだ!?」

「ハス様からも仰ってください。

 最近ようやくハス様の婚約が成り、国王陛下もすっかり安心しきって肩の荷が下りたと言わんばかりの御様子で、もう既にベビー用品まで設える始末でして」

「気が早すぎる……」

 そんな父親の行動に眩暈を覚えつつ、そんなに心配させていたのかと責任感を感じながらも、彼女はキッと彼を睨んだのだが。

 

「それはいけませんね」

 と、ハスに付き従う花騎士カキツバタが真剣な声音で言った。

 

「せめてお召し物だけはわたくしが選ばせてもらえるようにしないと」

「何を言っているカキツバタ!!」

「も、申し訳ありませんハス様!!

 ですが、ご成婚後のハス様のお召し物を選ぶのは、わたくしめの人生の楽しみのひとつとしていましたので!!」

「そんな年老いた執事長みたいなことを言いおって……」

 この国の女王に締め上げられる側近の花騎士の図だった。

 

「くッ、カキツバタまでこの有様かッ」

 ハスは彼女を話すと、吐き捨てるようにそう言った。

 そう、ここ最近の水中都市はハスの婚約が決まったと言うことでどこもかしこもお祝いムードだった。

 

 外を歩けば、ハス様ご婚約記念と題して安売りセールをしている店ばかり。

 若いカップルは彼女と結婚する日時を合わせようとする者が続出し、結婚式場は嬉しい悲鳴を上げていると言う。

 王城の貴族は結婚式のお祝いに何を送るかで躍起になっており、彼らに売り込もうと世界中から商人が頻繁に出入りしている。

 その経済効果は数百億ゴールドを記録し、現在も上昇中である。ロータスレイクが鎖国して以来の好景気と言えよう。

 

 ハスの幸せを第一にしている、と言っていたカキツバタもそんな空気に充てられたのか、すっかりこんな調子だった。

 当然、ヤケクソ気味に彼と結婚してやると勢いで言ったハスも、冷静になれば自分に置かれている状況がいかに好ましくないか思い知らされた。

 

「だからもっと大事になる前に手を打ちたかったのに。

 肝心のハス様は花騎士の活動で他国に行ってしまうし」

 そしてこんな状況を引き起こした元凶にさえ、こんなことを言われてしまう始末だった。

 

「し、仕方がないではないか!!

 私も祖国がこんなことになっているとは思っていなかったのだ!!」

「自分の国の状況を把握していないのに、よく女王を名乗れますね?」

「う、ぐぐぐ」

 返す言葉も無いのか、ハスは憎らしげに彼を睨むだけしかできなかった。

 

「プライドがあるのは分かりますが、このままだと状況は更に悪くなりますよ。

 ハス様もハッキリと己の態度を示すべきでしょう。

 嫌なら嫌と言うなり、腹をくくるなりするなら」

 そう言う彼の言葉からは、既に諦念の色が滲み出ていた。

 状況は既に彼の手から離れていると言っていいのだから。

 

「こ、これ以上、悪くなるのか?」

 ハスは相手が憎い相手だと言うのも忘れて恐る恐るそんなことを言う。

 

「正直申し上げまして、ハス様は女性としての美しさに大変溢れていらっしゃるのですが、結婚してお世継ぎを儲ける対象としましては、個人的にはその気にならないと言いますか」

 そんな男の身勝手な言い分に、ハスの脳裏に次のような未来が思い浮かんだ。

 

 王族の義務の一つに結婚があるのは、要するに次の世代に血を残す為である。

 それが出来ない人間は、歴史上往々にして冷遇されている。

 とは言え、その対象は主家の女王であるハスではなく、入り婿の彼になるだろう。

 

 彼とて女王の伴侶として生物的に不適格の烙印を押されるのは嫌だろうし、その判断が周囲からなされるのは最低でも五年から十年は必要だろう。

 その間にハスの女としての旬は過ぎ去り、晴れて独身になれてもバツイチと公的な書類に記載されてしまうことになる。

 

 その先にハスが望む結婚なんてものがあるかどうかなど、子供でも分かる理屈である。

 それが彼とハスの想定する最悪の状況である。

 

「マズイ、本当にマズイ……」

 見る見るうちに真っ青な表情になっていく、この国の女王。

 

「だから最初のうちに俺の提案を受け入れていれば、まだ傷は浅かったものを」

 その提案というのは、彼が適当に不祥事を起こして婚約を解消すると言うものである。

 とは言え、それを出来る段階を既に超えていた。

 

「今から何とか出来ないのか?」

「都合の良い事仰いますね。

 ところで、ハス様は母君とお会いになられましたか?」

「ん、ああ、母上とは帰国するたびになるべく顔を見せるようにしているからな」

「では母君の世話係に、見知らぬ人物が居ることにお気づきになられましたか?」

「んん? 確かに新しく世話係が増えていたようだったが」

「あれ、俺の母親です」

 諦めに満ちたその声音から、ハスの聡明な頭脳は何が起こったのか察した。

 

「陛下の計らいで、婚約者の家族が離れ離れなのは心苦しいと、うちの母親と妹がこっちに住むことになりましてね。

 その際に手持無沙汰になるだろうとうちの母にはハス様の母君の世話役とは名ばかりの話し相手になったそうなんですが、どうやら二人は意気投合してしまったらしく」

 彼としても、家族の面倒を見て貰っているんだから、今更下手なことできないのだろう。

 

 それ以前に、彼には少なくない軍権が渡されている。

 その暴走を防ぐために、彼の親類を手元に置こうとするのは冷徹だが王として正しい判断だと未だ甘さを捨てきれないハスは父親の手腕に舌を巻く。

 無論、この男もそれを承知で家族を差し出した。まあ彼女らは彼女らで楽しんでいるが。

 

「うちの母親は、世話好きでコミュ力だけはありますからね……」

「世の中、不思議と歯車がかみ合うように出来ているのだな……」

 外堀が埋められているのは自分だけではないと悟り、ハスも行き場の無い感情を持て余し視線が虚空を彷徨いだす。

 母親に心配を掛けて強く言えないのはお互い様だった。

 

「ことここに至っては結婚は避けられないでしょう。私も、貴女も、今更四の五の言えないのですから。

 もっと建設的な話を致しましょう」

「そうです!!」

 ハスに締め上げられダウンしていたカキツバタが復活した。

 

「団長閣下、ハス様の何がいけないのでしょうか。

 ハス様はわたくしの色目を抜いても素晴らしい女性ですが」

「その閣下って呼び方はやめてくれよ。

 いや、次期国王やら婚約者殿よりかはマシだが」

「いえいえ、閣下はすでにこの国の然るべき地位におられますので、それに相応しい呼び方があります!!

 それより、お答えください。ハス様とお世継ぎを儲けられない理由を」

 カキツバタはずいぃと彼に顔を迫らせそう言った。

 彼は視線を横にずらす。むすっとした表情のハスが見えた。

 

「ま、まあ、建設的な話ってのは他でもない世継ぎの話だが。

 国王夫妻に子供が出来ないってのも体面が悪い、かといって若い二人が王族の中から養子をとるのももっての外だ。

 だからとりあえず正統な後継者を用意せにゃなりません。

 とりあえずそれだけ作ったら、お互いに好き勝手やりましょうってことで」

 仮にも自分の子供のことに関しての話だと言うのに、自分優先のド畜生の提案だった。

 

「王族にも愛人なんて居て当たり前ですし、ね?」

「団長閣下、ひとつ心に留め置いてほしい事が有るのですが」

「なんだ、カキツバタちゃん」

 何やら不穏な空気を感じ取った瞬間、彼はカキツバタの帯刀している剣の切っ先を喉元に突き付けられた。

 

「貴方がハス様を幸せに出来ねば、貴方を殺して私も死にます」

「カキツバタ、宮中だッ」

 カキツバタは数少ない王城内でも帯刀を許される人物だ。

 ただ彼女が女王の信任厚いと言うだけでは帯刀は許されない。

 そんな彼女が王城内で乱心すれば、一族郎党斬首までありうるのだ。

 だからハスは慌てて彼女を止めた。

 

「ハス様を泣かせた日は夜道に気を付けてくださいね」

「お、おう、肝に銘じておく」

 この女マジだ、と全身に脂汗を浮かばせながら彼は頷く。

 なお、この時のカキツバタが一体どのような表情、声音でそんな一連の行動を取ったのかは、読者の皆様の想像力にお任せする。

 

「それで、団長閣下はハス様の何がいけないのですか?」

 そして何事も無かったように話を戻すカキツバタを見て、後に彼は双子の姉妹であるアヤメとの血の繋がりを感じざるを得なかったという。

 

「うーん、強いて言うなら、何も悪いところが無いところがダメというか」

「と、言いますと?」

「ほら、物語で男と女が普通に出会い、普通に告白し、普通に付き合い、普通に結婚するとする。

 そんなの、金返せってレベルで面白くないだろう?

 つまり俺は、思いのほかあっさりと予定通りハス様と婚約で来てあっけなさ過ぎて実感が無いと言うか、張り合いが無いと言うか、燃えないと言うか、達成感が無いと言うか」

「要するに、ロマンが足りないと言うことですか」

「一言で表すならそうなるな」

 リアリストのくせしてこういう所だけウィンターローズ出身らしいことを言う彼だった。

 

「私は卿の情動を満たす人形ではないのだが」

「だってハス様と婚約したって言うのに、貴族の誰からもハス様を掛けて決闘だーとか無いんですもん」

 婚約者の苦言に、彼はそんな子供じみたことを言う。

 

「ハス様こそ、他国へ行って見初めた相手とかいらっしゃらないんですか?

 そいつと駆け落ちでもしてくださるのなら、俺としてもやりがいがあるんですが」

「笑えないことを言うな!!」

「あ、そうだ、ナズナ団長なんてどうです?

 あいつなら身も心もイケメンで、望まぬ結婚から女王を救い出す勇者の末裔って感じが実に良い」

「卿は戦友だった彼を斬り殺したいのか!!」

 ハスは彼の執務机の上の紙束を指差しそう批難した。

 

「安心してください。俺はハス様の初夜の時点での処女性とか気にしませんから」

「…………」

「ハス様、宮中です、宮中!!」

 無言で魔力を練り始めたハスを、羽交い絞めにするカキツバタ。

 

「放せッカキツバタ!!」

「落ち着いてください!!」

「卿に分かるかっ!! こんな男と結婚しなければならない私の気持ちが!!」

 しばらく揉みあって、何とかハスは落ち着いた。

 

「失礼しました、言い方が悪かったですね。

 確かにハス様は美しく、賢く、優れた花騎士だ。

 いえ、綺麗で賢い女性が好きだっていう童貞丸出しのチューリップ団長や、そういう気高い女性が屈辱の表情を浮かべているのが堪らないって言うキンギョソウ団長ならそれで十分なんでしょうが」

「知り合いの知りたくない情報を知ってしまった……」

 彼と違って、まだまだその二人と顔を合わせるハスは気まずそうな表情になった。

 

「貴女は泥土に咲く蓮の花のように穢れを知らない。

 高貴で、俗に塗れておられない。まるで眠り姫様の像のように」

「つまり、近寄りがたいと言うことか?」

「いえ、率直に申し上げるなら」

 彼は一瞬だけ躊躇ったが、結局口にした。

 

「――――エロくないのです。色気が足らないのですな」

 

 

 

 §§§

 

 

「あの男め、好き勝手言って。女王を何だと思っているのだ!!」

「まあまあ」

「何がまあまあだ!!」

 彼の執務室を出て、廊下を歩きながらカキツバタはハスの癇癪を宥めていた。

 

「わたくしには、団長閣下の仰ることが何となく分かります」

「なに?」

「ハス様は公人として、色目抜きに素晴らしい方です。

 多くの民たちの為、花騎士としても害虫と戦っておられます。

 民たちはその姿を見て、ハス様を尊敬し、慕っておられるのですが」

 カキツバタは嬉しかった。

 あの男が婚約相手と言うのは少々不安だったが、人々は誰もがハスの婚約を祝い、浮かれている。

 それだけ彼女が自分の治める人々から慕われている証拠なのだ。

 

「しかし、それはあくまで公人として国家に身を捧げる女王としての御姿です。

 団長閣下にとって、ハス様は民たちと同じように公人としてしか映っていないのでしょう」

 それは、ハスの公と私を知っているカキツバタならではの意見だった。

 

「確かに、あの男は平民出身だが……」

「ハス様も団長閣下も、此度の婚約を公的なモノとして捉えておられないから、お互いに悪いところにしか目が行かないのではないのですか?」

 忠臣にそのように諭され、ハスは思い返す。

 

 彼の語ったハスに求めているものは、全て公人として恥ずべきものばかりだ。

 しかし、それは同時にハスが個人としてしたいことを問うていた。

 

 自分に公人として接するハスを私人として接する相手から奪いたいという歪んだ欲望も、そう言った理由なのかもしれなかった。

 そう考えたハスにとって残念なことに、それは半分正解だったが、もう半分は単純にその方が彼は楽しく、背徳的な方が情動が燃えるからなのだった。

 要するに、性癖だった。

 

 

「おや」

「あッ」

 廊下を歩いていたら、鏡があった。

 否、鏡ではなく、カキツバタの双子の妹である花騎士アヤメだった。

 そして、彼女が侍るこのロータスレイクの半分、水上都市の女王たるヒツジグサも居た。

 

「これはハス様にカキツバタ。

 文章ではお祝い申しあげましたが、改めてハス様のご婚約、我が主に代わってお祝い申し上げます」

 相変わらず人形のように冷たく、キッチリとアヤメは一礼した。

 

「そう言えば今日はこちらに用が有るのでしたね。

 ところで、ヒツジグサ様のご気分が優れないようですが……」

 カキツバタはムスッとした様子で口を開く様子の無いヒツジグサを見やる。

 

「ああ、これはハス様が自分より先に婚約してしまったことに拗ねているのです。

 かねてよりヒツジグサ様はハス様より先に結婚するのだと息巻いておりましたので」

「アヤメッ」

「文句が有りますのなら、そのような淑女にあるまじき振る舞いはおやめくださいませ。

 だから女性として敗北を許すのですよ」

 と、アヤメはまだ幼さの抜けだせない女王に苦言を呈す。

 勿論、結婚の遅い早いで女性の優劣は決まったりはしないが、二人は王族、それも女王である。

 

 女王と言う役職として、早く結婚して世継ぎを残すという役目が有るのなら、それは女王としてハスに遅れたことになる。

 何かと競いあってきた二人の女王だったが、これはなかなかに決定的である。

 

「気にすることは無いぞ、アヤメ。

 なに、ヒツジグサにもすぐに良い人が見つかるさ」

 ここぞとばかりにドヤ顏でハスは敗者の傷に塩を塗り込む。

 その姿を、背後に控えているカキツバタは哀れなものを見る目で見ていた。

 

「もっとも、我が婚約者より優れた男を伴侶にできるとは思えぬがな!!」

 尚、性格や性癖は考慮しない。

 言っていて悲しくなるハスだったが、そこはライバルの手前隠し通した。

 

「むうぅぅぅ!! 見てなさい、ハス!!」

「それではハス様、これにて失礼します」

 肩を張って歩き去っていくヒツジグサをアヤメを追って行く。

 

「虚しい勝利でしたね」

「言うな、気にしてる……」

 

 そして、読者の皆様方には言うまでも無い事であるが、この二人の女王とあの男を取り巻く関係がこのままで終わるはずも無かった。

 

 そう、なぜなら、我らが団長はハスよりヒツジグサの方が好みなのだから!!

 

 

 

 

 

 

 




好感度イベント1で寝取られたなら、好感度イベント2で寝取り返せば良いじゃない(リンゴ団長並感
ネタバレになるので特に言及しませんが。

今回は書いていて楽しかったです。
ハス様を不憫なキャラにしていくスタイル。
今回のイベントはあの女王二人の巨大風船がいきなり出てきて笑ったのは私だけじゃない筈。

IF編はネタが続く限り、書きたいときに書かせてもらいますね!!
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