貧乳派団長とリンゴちゃん   作:やーなん

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今日の話は何だかメタ多めに。これもきっと暑さのせいですね……。
33連したのに嫁ネリネちゃんが来ない……ピックアップ仕事しない……。

どうして来てくれないんだ、ネリネちゃん!!
私はただ、純粋にネリネちゃんの胸板をねりねりしたいだけなのに!!

あ、そうだ、虹チケは前々から気になってたあの人にしました。
今回二つ目のお話ではっちゃけて貰います。


短編連作 追憶編その9

『団長と愛犬』

 

 

「はぁ、なんで世の中ってのは書類仕事が無くならないんだろうな」

「仕事ってそういうものですからねー」

 我らがリンゴ団長は、害虫討伐の報告書を作成していた。

 暇さえあれば害虫をぶっ殺したい団長は当然のように煩わしそうにしていた。

 

「ねぇねぇご主人、今日は午後からお休みだから遊んで遊んで!!」

 そんな時に執務室に突入してきたイヌタデへの対応というのは、大抵の場合はこうだった。

 

「うるせぇ!! 他の移動力アップアビ持ちと一緒にイベントマップ周回でもしてろ!!」

「そんなぁー」

 団長の塩対応にとぼとぼと踵を返すイヌタデに、彼は何を思ったのか。

 

「おい、待て」

「あ、やっぱり遊んでくれるの!?」

 へなへなになっていた犬耳っぽくはねてるイヌタデの髪がぴんと立ち、嬉々として振り返る彼女に団長は笑顔でこう言った。

 

「サクラも連れてけ。周回用鈍足パーティにあいつは必要だ」

「うわーん、ご主人のバカー!!」

 まさに鬼畜の所業である。

 半泣きになりながら退散するイヌタデを見て、団長はにやにや笑っていた。

 

「団長さーん、流石にそれは可哀そうですよ」

 流石のリンゴも、この行動には苦言を呈した。

 

「報告書なら私がやっておきますから、イヌタデちゃんと遊んであげたらどうですか?」

「良いんだよ、多少雑に扱われた方があいつは悦ぶから」

「それならそれで扱い方ってものがあると思うんですけど……」

「わかったわかった、それじゃ報告書はリンゴちゃんに押し付けて、俺は犬っころと遊んでやることにしますかねーっと」

 そう言って立ち上がる団長は、そこでふと昔を思い出した。

 

「まあ、偶にはかまってやってもいいか」

 

 

 ………

 …………

 ……………

 

 

「よーし、皆ぁ!! よく集まってくれたぁ!!」

 仮宿舎前の手狭な敷地にみかん箱を置き、その上に立つランタナは彼女の前に集まった面々を前にして満足そうにしていた。

 

「なにしてるの、ランタナちゃん」

 そこを、たまたまがっくりと肩を落としたイヌタデが通り掛かった。

 ランタナの目の前にはこの部隊で花騎士のオトモをしている動物たちがどういうわけか集結していた。

 勿論彼女の妹もお行儀よく座っているので、気になって声を掛けてみたのである。

 

「ふっふっふー、よくぞ聞いてくれました!!」

 ランタナはやや大仰な身振り手振りで、こう言い放った。

 

「これはッ、ランタナの決起集会なのだぁ!!」

「決起集会?」

 そもそも決起集会という単語すら理解できないイヌタデは、ランタナの奇行に首を傾げた。

 

「ランタナは最近思いました。だんちょは私のこと蔑ろにしてね? と」

 彼女は腕を組んで目を瞑り、俯きながらここ最近の自分の扱いを懐古する。

 

「って言うか、自分が主人公だからって調子乗ってるよね?

 もう既にこの小説一応完結ってことになってるんだから、潔くこのランタナに主人公の座を渡すべきじゃね?」

「そ、そんなこと無いと思うけど……」

「そもそも、作者がこの小説を書き始めた切っ掛けがこのランタナの開花実装だというのに、虹版の開花実装の時は何の音沙汰もないってどういうことなの!?

 水着ペポの実装の時は活動報告で発狂してたのに!!」

「ま、まあまあ、それくらいにしておこうよ」

 ペポちゃんって大変なんだなぁ、と思いながらイヌタデは怒りに燃えるランタナを宥めた。

 

「つまり何が言いたいかと言うと、ランタナを主人公にすべき、そうすべきってこと。

 ペポだって主人公になったんだからランタナも主人公になったっていいじゃない。自由ってそう言うことだと思うの」

「そ、そうかなぁ……」

「イヌタデちゃんだって、最近だんちょからの扱いが雑になったと思わない?」

「ッ!? 思う思う!!」

「でしょでしょ? 私達、友達になれると思うんだ!!」

 そう言って、ランタナはイヌタデの手を握った。

 

「うん、うん!!

 ボクもイベントマップ周回以外にもお役に立てるもん!!」

「よっしゃぁ!! 一緒に反逆じゃー!!

 だんちょに、ランタナがこの小説の原点だって教えてやるじょ!!」

 こうして、二人の間に厚い友情が築きあげられた。

 後にランタナがハロウィンに裏切られてあっさり崩壊するくらいには厚い友情である。

 え? 時間軸的にランタナの知ってる情報に矛盾がある? 知らんな。

 

「なにやってるんだ、このバカどもは」

 そして屋内から出てきた団長が、二人と動物たちの騒ぎを目にした。

 

「だんちょを発見、よし皆、一斉にかかれー!!」

 ランタナが号令と共に動物たちと一緒に飛び掛かった!!

 

「わっぶ!? バカ、止めろ!!」

 流石に団長も、この一斉攻撃をさばける筈も無く。

 

 

「わかった、わかったから、もう止めろって!!」

 ランタナと小動物たちに揉みくちゃにされ、ダウンした団長は降参を宣言した。

 

「一体何がしたいんだお前ら」

「せっかく虹版の私が開花したってのに何もなしとかおかしいじゃん!!

 ランタナはだんちょに主人公の座をようきゅーする!!」

「ランタナの開花? ああ、コイツついにジョバったなってことしか覚えてなかったわ」

「ジョバったって言うなぁ!!」

「主人公の座だろ? はいはい、そんなんで良ければくれてやるよ」

「口約束だけじゃなくて、ちゃんと検索タグにも記載して貰おうか!!」

「はいはいわかったわかった」

 団長は服の汚れを払いながら立ち上がり、そんな風にランタナの要求に応じた。

 

「むぐううううぅぅぅううう!!」

 しかしそんなおざなりな対応がどうにも彼女は気に入らなかったようだった。

 

「やっぱり主人公なんていいから私と遊べ、構え、可愛がれーー!!」

「ふぎゃ!?」

 ランタナにダイブされ、再び地面にダウンする団長。

 

「ボクもボクもーー!!」

「げふッ」

 そしてその上に今まで見ているだけだったイヌタデも飛び掛かった。

 くぐもった団長の声が今彼のおかれている状態を示していた。

 

 そして更にその上にランタナ達が集めた動物たちが殺到する。

 団長の手は助けを求めるように空へと延びていた。

 

 

 

 

「お兄ぃ、この子飼いたい!!」

 リンゴ団長、将来そう呼ばれる少年は妹が真っ黒な子犬を抱えていることに気付いた。

 

「なんだお前、その汚い犬は」

「うちの納屋に迷い込んでたの。寒そうだし、お腹すいてるかもだから、飼ってもいいよね」

「俺じゃなくて母さんに言えよ。

 俺は嫌だからな、面倒を見るのは。

 まあ、どうせお前になんて犬は飼えないと思うけどさ」

 彼は高をくくっていた。いい加減な妹に、生き物を飼うことなどできないと。

 

「私が面倒を見るもん!!

 名前だって、ノワールって決めたんだから!!」

「黒いからノワールって、安直だなぁ」

 

 そして思いのほかあっさり、家族からその子犬を飼う許可は降りた。何でも、妹の情操教育には良いとかで。

 勿論、彼の妹が面倒を見ることを条件に。

 

 妹は時々餌やりを忘れたり、たまにしか散歩に行かなかったりだったが、母親がノワールを可愛がっていたこともあり、元が野良犬にしてはマシな生活を遅れたのだろ。

 勿論、四六時中鎖に繋がれるという、自由を対価にした安寧だったが。

 

 彼は、宣言通り一切の世話をしなかった。

 どうせ飼うのなら猫の方がよかったし、世話をするのも面倒だった。

 

 偶に家にあるジャーキーを与えて、お手をさせる程度の距離感だった。

 

 

「団長さん、手紙です」

 やがて少年は大人になり、騎士団長になった。

 家を離れ、王城に勤めていた彼に実家から手紙が来た。

 

「悪い、一時間で戻る」

 手紙を読んだ彼は、急いで実家に戻った。

 彼が実家に辿りつくと、十数年間いつも家の前の小屋に住んでいたノワールの姿が無かった。

 

「病気で、お医者さんはもう助からないって」

 久々に会った妹は、悲しげにそう答えた。

 彼の母親も、何も手につかない様子だった。

 

「……そうか」

 団長は、少しも悲しまなかった。

 彼にとってノワールは自分の家の前に住まわせてやっている、番犬程度でしかなかったのだ。

 

「そうか、もうダメなのか」

 彼の言葉を裏付けるように、ノワールはその日の午後には亡くなった。

 雑種だった為、正確な年齢は不明だがもう既に寿命が来ていたのは明白だった。

 この時、命を取り留めても多少遅いか早いかの違いでしかなかっただろう。

 

 だから彼は十数年付き添った同居人に対し、少しも悲しまなかったし、惜しいとも思わなかった。

 ただ、もう少し遊んでやればよかったな、と一度だけそう思った。

 

 

 

「そーれ、パス!!」

「いよっしゃ、このランタナがゴールを決めてやる!!」

 イヌタデからボールを受け取ったランタナが、キックの態勢に移った。

 

「来いやオラァ!!」

 団長はゴールの前で中腰になってシュートに備えた。

 

「どおおおりゃあああぁぁぁ!!」

 ランタナの鋭いシュートが炸裂し、ボールは真っ直ぐとあらぬ方向へ飛んで行った!!

 

「あーあ、ボール無くなっちまったぞ、どうすんだ」

 ボールが無くてはホットボールは出来ない。

 彼方へ消えていったボールの行方は絶望的だった。

 

「うーん、仕方ない、ペポで遊ぶか!!」

「良いのかよそれで」

「実はとっておきの、ペポに何でもしてもらえる魔法の言葉あるんだな、これが」

「えッ、マジかよお前最高かよ、よしそれで遊ぶぞ、来い、イヌタデ!!」

「い、いいのかなぁ、それ……」

 二人を引き連れ、次なる遊びに向かう団長は、ふと思った。

 

 犬の言葉が分かるらしいイヌタデならば、もしかすれば分かったのではないのだろうか。

 かつて、自分たちの家族だったノワールが幸せだったのか否かを。

 

「うん? どうしたの? ご主人」

 そう思ったが、無意味な感傷か、と団長はそれをすぐに忘れることにした。

 死者への感傷は人間だけで十分すぎるのだから。

 

「いいや、今お前が楽しいのならそれでいい」

「だったらボク、もっと違う遊びがしたいな!!」

「そうか、じゃあペポ遊びはまた今度にしようぜ」

「えー、まあいっか!! じゃあ次は何して遊ぶ!?」

 

 その日、団長は二人と、その後ランタナが巻き込んだペポと、ついでに暇そうだった面々と、書類仕事を終えたリンゴと遊び倒した。

 少なくとも、もう二度と、あんな些細な後悔しないようにと。

 

 

 

 

『恐怖の暗黒黒魔術!? 怪盗ナイトシェード絶体絶命!!』

 

 

「ふーむ、なるほど」

 マロニエは薄暗い書庫で多くの記録を読み漁っていた。

 彼女の座る机には、古い記録が積み重なっている。

 どれもこれもいま彼女が居る家の歴代当主が書き残したモノだ。

 

『自縛伝 真なる快楽』

『我が愉悦と蜜なる蝋』

『露出の真髄』

『私がなぜ略奪愛、他人の妻に惹かれるのか?』

『少女懐妊録』

『嫁を召喚しようとしてみた』

 等々。

 

「……全くもって興味深いな」

 人に寄ってはタイトルだけで敬遠しそうな書物を、彼女は次々と読破していく。

 

「客観的に特殊であると判断される性的嗜好がここまで魔法を独自に発展させられるものなのか」

 これらはただのド変態どもの手記ではなく、単純な快楽じゃ満足できなくなって魔法を併用して色々と試行錯誤や工夫を凝らしてより高いエクスタシーを求めようとする内容ばかりだった。

 そしてその何割かはそのまま高みへ逝きすぎ、昇天している。

 最終的に、男ってバカだな、と結論付けられるだろう記録の数々だった。

 

「マロニエ様」

 彼女が振り返ると、影のように陰気な老齢な家令が静かに立っていた。

 

「宜しければ、今日もお部屋を用意いたしましょうか」

「ああ、申し訳ない。

 今日も読み耽ってしまった。もうこんな時間か」

 時計を見て見れば、時刻はもう既に一般人は誰も外を出歩かないだろう時間だった。

 彼女は少々申し訳なく思いつつ、その厚意に甘えることにした。

 

 ここ数日、休暇を取ったマロニエの生活はこの書庫への入りびたりだった。

 寝食を忘れて読書に没頭する彼女は一応客人として迎えられており、この家の使用人たちは色々と世話をしている。

 

 

「もう、衛兵に補導されるとかバカじゃないの!?」

 家令に連れられ、書庫を出るとマロニエの耳に知り合いの声が届いた。

 それと同時に、失礼ですが少々お待ちください、と一礼して家令が屋敷の玄関口に出向く。

 彼女は興味が惹かれてこっそりと付いて行く。

 

「お帰りなさいませ、ご当主さま、キンギョソウさま」

「ああ、うむ……」

 家令が出迎えたのは、この家の当主であるキンギョソウ団長だった。

 今現在のマロニエの上司である。

 彼は何やら仰々しいマントを纏い、色々と気合の入った格好をしていた。

 

「ちょっと聞いてよ、家令長さん!!

 この人、夜中の公園で夜遊びして衛兵に連れていかれたんだってさ!!」

「まあまあ」

「私、詰所でこの人がうちの騎士団長ですって説明するのがどれだけ恥ずかしかったかわかる!?」

「くッ、貴族だからと、騎士団長だからと、普通に解放されるこの国は間違っている!!」

「じゃあ私呼ばないで朝まで拘置所に居ればよかったじゃないのさ!!」

 圧倒的、圧倒的キンギョソウの常識人っぷりであった。

 外見から少々痛い人扱いな彼女だが、内面はしっかり普通の常識人なのだった。

 

 そんな彼女の叱責の声に釣られてか、屋敷の奥から団長の妹たちがぞろぞろと出てきた。

 

「ところでお兄様、首尾はどうでしたの?」

「ちゃんとあの小娘を泣かせてきたんでしょうね?」

「あの子たちの悔しそうな表情を思い浮かべるだけでたまりませんわ!!」

「早く早く!!」

 サドっ気のある四姉妹に囲まれる団長。

 そんな四人を見て、微妙な表情になるキンギョソウの胸中は如何に。

 

「すまない、妹たち……」

 団長は悔しそうに拳を握りしめ、血反吐を吐くようにこう言った。

 

「リアルくッ殺せ展開には至らなかった!!

 我が実力の低さが恨めしいッ!!」

 何言ってんだこいつ、と蔑みに満ちた視線を送るキンギョソウと、悲鳴を上げる四姉妹。

 

「そんなっ」

「お兄様が敗れるなんて!!」

「やはり花騎士二人相手では……」

「こうなったら私達も」

「まあ落ち着け、四人とも」

 しかし団長は妹たちを安心させるように笑いかけた。

 

「此度は我が暗黒黒魔術の真髄を発揮せずに終わった。

 しかし次は事前準備をしっかり行い、先祖伝来の究極召喚魔法であの二人に真の闇の支配者は誰か教えてくれようぞ!!」

「キャー、お兄様格好良い!!」

「やっぱり怪盗より吸血鬼の方が格好いいに決まってますわ!!」

「さすがお兄様ですわ!!」

「さす兄!!」

 そして妹たちに煽てられ、悪役っぽく高笑いを上げ始める団長。

 だが、彼らは一歩引いた位置で冷めたジト目を向けるキンギョソウの視線に気づいた。

 

「くッ、危うく吸血鬼と呼ばれた悪鬼の血筋が暴走するところだった……」

「血が、血の浸食が……」

「はぁはぁ、もう少しで悪意に呑まれるところでしたわ」

「呪われた我が血がうずく……」

「えーと、えーと、う、うずく~」

 咄嗟に誤魔化そうとする五人だったが、キンギョソウはずいっと彼らに近づいた。

 

「一体公園で何しようとしてたの~~!!」

「ぐわぁ、我が眷属に我が祖先の悪霊が乗り移ったか!!」

 ぐわんぐわんと彼女に体を前後に揺すられ、成すがままにされる団長。

 

「キンギョソウ様、もうそれくらいに」

「はぁはぁ、本当に今日みたいなのはこれで最後にしてよね!!」

 老いた家令が宥めはじめると、漸くキンギョソウも手を放した。

 

「ご当主様、マロニエ様をお待たせしているのでそろそろ」

「ああ、うむ。彼女も飽きないな」

「ええ、それはもう熱心に」

 話しがマロニエのことに移ったので、様子をうかがっていた彼女は皆の前に現れて疑問を口にしてみた。

 

「ところで、団長さん。前々から気になっていたんだが」

「なんだ、叡智の探究者よ」

「この家の血筋の人間が代々変態的性癖を発現するようになったのは記録で確認できる限り現存する最古の手記からおよそ2500年前から明らかだ。

 なので、幾ら数百年前のご先祖様が悪逆非道を働いたからと言って、彼に自分たちの性癖の責任をそれを盾に押し付けるのは道義的ではないかな、ってあれ?」

 中二発言にマジレスするマロニエは、団長とその妹たちが涙目になってぷるぷると震えていることに気付いた。

 

「どうしたのかな、五人とも?」

「いいよマロニエさん、もっと言ってやって」

 首を傾げるマロニエに、キンギョソウは拍手を送るのだった。

 

 

 

 ………

 …………

 ……………

 

 

 二日後。

 

「ワルナスビ様、また奴から手紙が届いたですぱ!!」

「よし、今日こそやっつけよう!!」

 そんなこんなでお馴染みの怪盗コンビは指定された時間と場所へと出向くと。

 コウモリの群れと共に団長扮する吸血鬼のお出ましである。

 

「くっくっく、のこのこと現れたな怪盗ナイトシェード!!

 貴様らとの因縁もそろそろ終わりにしてやろう!!」

「それはこっちのセリフですぱ!!」

「ふわっはっはぁ!! どちらが真の闇の支配者か教えてくれる!!」

 今日は前回の反省を生かしてちゃんと人気のない城下町の外である。

 

「今日はお前たちに助けが来るとは思わぬことだ!!」

「お前相手に助けなんて必要ないすぱ!!」

「くくく、その減らず口もこれまでだと思うと寂しさを禁じ得ないな。

 さあ、刮目するがいい!! 我が暗黒黒魔術の究極奥義を!!」

 彼が大仰に両手を上げてそう宣言すると、さささっと近くの森の中へと消えていった。

 

「あッ、逃げたよ!!」

「逃がさないすぱーー!!」

 二人が団長を追って行くと、なにやらぼんやりと明るい場所が見える。

 彼もそこへと向かっているのか、二人も見失うことはなかった。

 

 すぐに二人は木々の開けた場所へとたどり着いた。

 

 

「よし、魔力の充填は十分であるな」

 そこにはあらかじめ用意しておいた魔法陣が淡く魔力の光を放っていた。

 

「くはははは!! 今日はこの間のように長々とした詠唱は必要ない!!

 ちゃんと事前に儀式と呪文は済ませ、あとはこちらで発動のトリガーを引くだけだ!!」

 とても嬉しそうに説明する団長に、流石の二人も警戒を露わにする。

 花騎士にも武器や動物などを召喚して攻撃するスキルを持っている者もいる。故に召喚魔法を軽く見たりはしないのだ。

 

「さあ、異世界よりいでよ、書物にのみしかこの世界に存在しない、屈強なる本物のオークよ!!」

「ちょっと待って」

 いよいよ彼が召喚魔法を発動しようとしたその時、横合いからそんな声が聞こえた。

 

 三人がそちらを見ると、草むらからマロニエが飛び出してきた。

 

「どうせ異世界から召喚をするのなら、もっと学術的に意味のあるモノを召喚すべきだと私は思うんだが!!」

 そして空気を読まずそんなことを言いだした。

 

「ちょっとちょっと、急にどうしたのさ」

 それに驚いたキンギョソウも、後から草むらから現れた。

 

「二人とも、どうしてこんなところに居るの?」

 思わず素に戻ったワルナスビが二人に問うた。

 

「いやぁ、ちょっと怪しげな儀式をするって言うから」

「異世界から召喚する魔法に興味が有ってね。

 魔法の発動にかなり魔力が必要だと言うし」

 ちょっと恥ずかしそうに言うキンギョソウと、臆面なくそう言うマロニエ。

 

「それで、だ。どうせ召喚魔法を試すなら、かの勇者が異世界人であったという学説の検証をしたいので、それに関連する物を召喚してほしいのだが」

「そう都合よくかの勇者に関連する物を召喚できる保証はないぞ。

 それにこの召喚魔法は人道的理由で人間を召喚できないようになっている」

「くッ、いまこの時ほど人道的という言葉が恨めしいと思ったことはないよ!!」

 それでいいのか、と誰もが思ったがマロニエは一見してふるゆわ系お姉さんに見えて花騎士でも十指に入る変人だと言うことを思い出していた。

 

「それなら、仕方がない。

 勇者に関連しそうな資料で構わないから召喚してくれないか?」

「いいや、協力には感謝するが何を召喚するかまで指図される覚えはない!!

 屈強なオークだ!! 今日こそ我は目の前でくっ殺展開が見たいの!!」

「勇者!!」

「オークだ!!」

「勇者!!」

「オーク!!」

 土壇場で言い争いを始めた二人だったが、団長はこのままでは埒が明かないので、待機中だった召喚魔法を発動させた。

 魔法陣の光が輝かんばかりに強くなる。

 

「あッ」

 勝手に魔法を発動されたことに気づいたマロニエは、魔法陣の中心に人影が陽炎のように揺らめいているのを見た。

 

「ふははははは、見るが良いナイトシェード!!

 これが貴様を屠るべく異界より招いた勇壮なるオークの姿だ!!」

 団長の言葉通り、輪郭を帯びていく人影は人間のそれではなかった。

 

 背丈は二メートル半を優に超え、横幅は女性二人並んでも足らないほどの巨体だった。

 猛々しい角の生えた兜と全身を包むマントの中には甲冑と、そして尋常じゃないほど発達した筋肉が伺える。

 肌の色は黒に近い灰色で、何よりもその顔には真っ赤な双眸と人間ではありえないほど伸びたキバが並んでいた。

 そしてその背には、実戦で使用していると思われる人間の胴体ほどの幅のある巨大な剣があった。

 

 そのあまりにも勇壮な姿に、呼んだ本人も花騎士たちもぽかんとなるほどだった。

 どう見てもいかがわしい書物に登場する、やられ役のオークとは一線を画す怪物だった。

 

 異世界から現れたオークは、眼下の人間たちを確認すると、口を開いた。

 

「我こそは一族の部族長にしてオーク族の勇者なり!!

 この世界の未知なる闘争を求めて、次元の彼方より召喚され仕ったッ!!」

 一応召喚された自覚はあるらしく、彼はそのように宣言した。

 

「勇者だってさ、よかったね」

「ああ、うん……」

 キンギョソウにそう言われ、思わずうなずくマロニエ。

 団長も、彼女も、違うそうじゃない、と思った。

 

「それで、我が闘争の相手は誰だ?」

 オークの勇者を名乗る彼は、この場に四人も麗しい女子が居るのにも見向きもせず、ストイックに召喚者である団長に尋ねた。

 

「ああ、うむ、そうだな……」

 もし彼に、倒した女性を辱めますか? なんて聞いたらそのまま背中の大剣で叩き斬られることは明白だったので、団長は言いよどんだ。

 まさか自分の趣味の為に呼んだとは言えないだろう。

 

 しかし、そんな彼に意外なところから助け舟がやってきた。

 

「害虫だ!! 害虫の襲撃だぁ!!」

 森の外から、そんな衛兵の叫び声が聞こえたのである。

 

「丁度いい、我らの敵が来たようだ!!」

 取り繕うように、団長はそう言ったのだった。

 

 

 

「ふん!!」

 この辺りに出没する害虫は、巡回する騎士団の合間を縫って現れるはぐれ害虫が多く、縄張り争いに負けた雑魚ばかりである。

 そう言った連中が徒党を組んで城下町に押し寄せてくることはままあった。

 

 正直ここにいる花騎士四人だけでも十分に対処可能だった。

 だがいざとなったら手助けしようなんてことを忘れてしまうほど、オークの勇者の戦いぶりは凄まじかった。

 

 恵まれた圧倒的体格から繰り出される大剣の一撃は、通常の武器をものともしない害虫をあっさりと叩き切っていた。

 魔力の類を一切感じさせることなく、単純な物理攻撃力で相手をねじ伏せていく。

 強い、重い、早い。その単純な強さと、巨体に似合わぬ俊敏さを攻撃速度に全振りし、被弾を恐れず全てを攻撃に回していく。

 

「うおおおぉぉぉ!!!」

 やがて、ボルテージが高まったのか、邪魔なマントを脱ぎ捨て守りを無視して害虫を切り伏せ始めた。

 まるで嵐のような暴虐、その雄姿から接近戦をするのを誰をも躊躇うだろう、圧倒的な破壊の連続。

 全てを闘争に委ねるその姿は狂戦士そのものだった。

 

「この程度か。これならまだ魔界アリの方が手ごたえがある」

 そうして、三十匹程度の害虫の群れ瞬く間に一蹴したオークの勇者は大剣についた血糊を一振りで払った。

 

「む、もう時間か、次呼ぶ時はもっと戦いがいのある相手を用意しろ」

 彼の周囲の輪郭がぼやけはじめると、数秒でその存在はこの世から掻き消えた。

 召喚魔法備え付けの、安全の為の自動送還機能だった。

 

 時間にして10分程度。彼の存在していた痕跡は、害虫の死骸が残されるだけだった。

 彼の脱ぎ捨てたマントさえも、この世界から失われたのである。

 

「あ、あれと戦わせる気だったの?」

「正直すまなかった」

 涙目になっているワルナスビとラークスパーに、団長は恐縮したように素直に謝った。

 どう低く見積もっても極限指定害虫レベルの怪物だったのである。

 そして戦いの末に敗北し、くっ殺せ、と言ったらそのまま普通に首を刎ねてただろう。

 絶対にそうするだろうストイックさが彼にはあった。

 

「うーむ、異世界のオーク族の文化についてぜひインタビューしたかったものだが」

「この人はぶれないなぁ」

 あんな化け物を見た後でも、暢気に好奇心が先行するマロニエを見て、キンギョソウは呆れと共に一種の感心を抱くのだった。

 

 

 つづく

 

 次回予告。

 辛くも異世界のオークの魔の手から逃れた怪盗コンビ。

 しかし、恐るべき吸血鬼の策略はまだ終わってはいなかった。

 負けるなナイトシェード!! 団長はやっぱり懲りてないぞ!!

 

 次回、『裏切りのスクワイア!?』

 二人の絆は、吸血鬼の策略に打ち勝てるのか!?

 

 乞うご期待!!

 

 

 




解説
・オークの勇者
花騎士におけるお隣、『千年戦争アイギス』の敵キャラ。
凄まじい攻撃力と、HP半分以下になると攻撃速度二倍、移動速度二倍という難敵。
まともに相手するにはしっかりと対策が必要。遠距離で嬲り殺すのが吉。
アイギスにおけるオークは魔王軍の主力だったと言われるほど精強な種族で、ゴブリンとか女の子を攫って母体にするなんて設定があるくせに種族的に超戦闘民族。
主人公である王子の仲間の女の子を捕えた時も、果たし状を渡して送り返してくるなどお前らオークとしてそれでいいのかってぐらい戦いや強さを求めることにに対してストイックな連中。絶対出る作品間違えている。
勿論、オークだけしか出てこないこのイベントは当時過去最高の難易度を誇った。


皆さんはこの暑さのなか、いかがお過ごしでしょうか。
先日、私の家で飼っていた犬がこの暑さにやられて亡くなりました。
私の子供の頃から家で飼っている犬で、約15歳くらいだったので寿命でもあったのでしょう。
私が世話してたわけではないのですが、やはり団長のようにもう少し遊んであげればよかったなとは思います。
読者の皆さんも、本当に熱中症にはお気を付け下さい。
それでは。
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