牙狼 機戒ノ翼   作:バイル77

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第二話 「嫉妬」

時間は前後して――1日前

 

IS学園の倍率、それは日本中の女子の数と等しいといっても過言ではないだろう。

軽く見積もっても倍率数千、いや、倍率数万の狭き門なのだ。

 

この狭き門を突破して、入学できる人間は一握り――多くは失敗し涙を流す。

――時にはその涙さえ【陰我】となるのだ。

 

 

「どうして…なんでよぉっ…!」

 

 

とある一軒家の一室――室内には受験勉強に使った資料や問題集などが散乱しており片付けられていない。

その部屋のベッドの上でとある少女が涙を流していた。

 

彼女はIS学園を受験した――筆記試験はクリアしたが実技試験で結果が出せず、不合格通知を叩きつけられたのだ。

滑り止めで他の高校には合格していた――受験の失敗から数ヶ月引き篭もり続けているため不登校であるが。

何よりも彼女にとって納得できない事があったのだ。

 

 

「何で私が駄目で…篠ノ之箒は入学できるのよぉ…っ!」

 

 

彼女は【篠ノ之箒】――IS開発者である【篠ノ之束】の妹の同級生であるのだ。

自身は狭き門に挑み砕けた――だというのに篠ノ之箒は開発者の妹だからと言う理由でIS学園に入学しているのだ。

 

これには納得できない――身内贔屓もいいところではないか。

自分以外にも納得できない受験者はいるはずだ――そんな時であった。

 

 

『…お前はその篠ノ之箒が許せないのか?』

 

 

部屋に底冷えする低音の声が響く。

 

 

「だっ、だれっ!?」

 

 

自分の部屋には自分以外誰もいないはず。

 

 

『お前は篠ノ之箒が許せないのか?』

 

 

再び声が響く――室内に散らばっている【参考書】が黒い靄の様なモノを上げていた。

恐怖を感じつつも、ベッドから降りて参考書を拾い上げる。

 

 

『お前はその女が許せないのか?』

 

「…ええ、そうよ、私は許せない、身内贔屓で私の夢を踏みにじったあの女だけは…っ!」

 

 

拾い上げた参考書から響く声に少女は答える。

 

 

『よかろう』

 

 

参考書から声が返ってくると、黒い靄が少女の目、耳、口から体内へ入り込む。

声にならない声を上げる――そして黒い靄は全て彼女の体内に入り込んでしまった。

 

 

「…許さない、絶対に…」

 

 

参考書を少女は放り投げる――彼女の瞳には人ならざる色が浮かんでいた。

 

 

―――――――――――――――

IS学園 生徒会室

 

 

本音を救出した凌牙は教員である織斑千冬――彼女は凌牙の事情について知っている――から学生寮の門限を越える許可を得て、生徒会室にいた。

室内には当事者の凌牙と本音、その姉である【布仏虚】と生徒会長【更識楯無】が来客用のソファーについていた。

先程の戦いで着ていた黒のロングコート――【魔法衣】を脱いで、男子用制服姿となった凌牙がソファーに座る、その隣に本音が座る。

 

 

「全く…一年のクラス対抗戦が終わって、転校生が凌牙君含めて三人とか言うとんでもなく忙しい時期に…まさか学園内、しかも教員が【ホラー】になるなんて…【エレメント】の浄化はちゃんとしてくれてるのよね、凌牙君?」

 

「やってますって、しかし何分数が多くて…浄化して次の日に何個もエレメントができるなんて聞いたことがないですよ」

 

「それだけここには【陰我】が溜まりやすいという事ですね…お嬢様」

 

「学園の外は他の騎士の方々にお願いしてますが…最悪手が回らない場合は別の騎士を要請します、同じ管轄で強い騎士だと…【烈火騎士】とか」

 

「【彼】かー…まあ、仕方ないけど転校生って話になるのも厄介なのよね」

 

 

凌牙、楯無、虚が現状を把握する為に話し合っている――それをぽかんとした表情で本音は見つめていた。

何故姉や当主である楯無様が彼と普通に会話できているのかが理解できなかったのだ。

 

 

「ちょっ、なんでお姉ちゃんやたっちゃんかいちょーは普通に会話してるのっ!?」

 

 

取り乱した本音の様子に虚と楯無が顔を見合わせて苦笑する。

 

 

「本音、アナタにはまだ伝えてはいなかったですね」

 

「私達【更識】と【布仏】は代々【魔戒騎士】をサポートするよう言いつけられているのよ、ね、凌牙君♪」

 

 

テーブルに置かれていた紅茶に手を伸ばしていた凌牙が驚いている本音を見つつ答える。

 

 

「先輩方には何度かお世話になってるのさ…さて、どこから話すかな、まずは俺達【魔戒騎士】についてか」

 

『フォローは私がしてあげるわ、凌牙』

 

「助かる」

 

 

腕輪のラルヴァに答えて、凌牙が語りだす――【魔戒騎士】についてを。

 

 

魔戒騎士――それは古より魔界より現れて人を喰らう魔獣【ホラー】を狩る戦士達のことである。

彼らは【守りし者】として、人々をホラーから守る存在であり、その存在は表向きには秘匿されている。

だが現代における全世界の政府には秘密裏にだがその存在は周知されており、ホラー討滅への活動資金もでている。

 

凌牙はその魔戒騎士の1人であり、IS学園がある【赤の管轄】に属する魔戒騎士であること。

番犬所――魔戒騎士を束ねる協会の様な存在――から【IS学園に現れるホラー討滅】の指令を受け、生徒としてここに転入したこと。

 

【陰我】――邪念が溜まったオブジェをゲートに魔獣 ホラーが出現すること。

そしてここ数年、ホラーの出現率が高まっていること。

IS学園は【陰我】がたまりやすい場であり、凌牙が【エレメント】を浄化していてもホラーの出現率が劇的に高まっていること。

 

ISでは決して【ホラー】を倒すことは不可能なこと。

そして――魔戒騎士は【IS】に搭乗が可能であることを本音に伝えた。

 

 

様々な情報に困惑していた本音だが最後の――魔戒騎士であるならばという情報に目を見開く。

 

 

「えっ、その魔戒騎士さん達は…ISに乗れるの? さっきの話だと男の人しか魔戒騎士にはなれないのに…?」

 

「ああ、ISのコアを魔導力でコントロールする事ができるのさ…【鎧】と同じ感覚でね」

 

「なるほどぉ…凄いんだね、魔戒騎士って」

 

「彼は魔戒騎士の最高位【黄金騎士 牙狼】の系譜から独立した【迅雷騎士 狼我】の系譜を最年少で受け継いでるからね、いわゆるエリートね、エリート」

 

「やめてくださいって…それに魔戒騎士の仕事は他人に誇れる【ヒーロー】みたいな仕事ではないですから」

 

 

苦笑した後に真剣な表情になる凌牙に楯無は浮かべていた笑みを消す。

先程の彼の話の中で出ていたのだ――ホラーを討滅すると言うことは、憑依された【人間】を殺すことなのだと。

 

 

(…凌牙君)

 

 

その話を聞いて、自分を助けてくれた彼が――自身と同年代の彼が【守りし者】として凄まじい覚悟を背負って戦っていることを本音は理解したのだ。

そしてそれと同時に――彼の支えになりたい――と言う思いが生まれていた。

 

 

「…さて、俺の話はここでおしまいです、現状については大丈夫か? 本音さん」

 

「…うん、だいじょーぶだよ、【がりょー】」

 

 

本音が微笑みつつ、あだ名の様なモノを口にして思わず凌牙の目が点になってしまった。

 

 

「【がりょー】って…あだ名?」

 

「うん、凌牙君だから【がりょー】…ぴったりっ!」

 

「…すいません、凌牙君、本音はこういうあだ名で人を呼ぶんです」

 

 

ため息をつきつつ、虚が答える。

 

 

「駄目?」

 

「えっ、いや…別にいいけど…そういうの呼ばれたの初めてだったからさ」

 

 

本音の上目遣いの視線に少々困惑しつつも、彼女にOKの意を示す。

 

 

「…青春ねー、本音ちゃん」

 

「はっ、いやっ、まさかそんなことは…っ!」

 

 

なにやら楯無と虚がこちらを見て呟いているがそれは無視する。

 

 

「さて、今日はもう遅いわ…織斑先生には私から言っておくから、本音ちゃんはもう学生寮に戻りなさいな」

 

「えっ、でも…がりょーは?」

 

「俺、明日から転入の予定なんだ、今日は【指令】があったから来たのさ…この格好は怪しまれないように着てたんだ」

 

 

今日は近くのホテルで休む予定さと彼は続ける。

 

 

「なるほどぉ…明日からよろしくね、がりょー」

 

「…ああ、こちらこそ」

 

 

本音の笑みに凌牙も笑みで返した。

 

 

―――――――――――――――

翌日 1年1組

 

 

「初めまして、2人目の男性搭乗者の【桐咲凌牙】と言います。色々とご迷惑をかけるかもしれないですが、これからよろしくお願いします」

 

 

男子制服姿の凌牙が軽く頭を下げる――2人目の男性搭乗者としての自己紹介を行ったのだ。

彼の容姿は整っているためクラスの女子生徒たちは目を輝かせながら自己紹介を聞いていた。

 

クラスメイトを見回す――1人目の男性搭乗者である織斑一夏が目を見開いて驚いていた。

どうやら凌牙の存在が信じられないようだ――頬を抓って状況を確かめた一夏はグッとガッツポーズを取っていた。

その心境は凌牙としてもよく分かる――【魔戒騎士】としても女の園に1人は精神的にキツイので一夏の存在はありがたいのだ。

 

そして本音と目が合う――彼女は声を出さずに口を開き、手を振る。

その動きから「やっほー」と言っているのが読み取れた。

それに微笑んで返すと、教室が爆発するかのような歓声に包まれた。

 

 

「よっしゃあああ、イケメンよ、1組勝ち組っ!」

 

「しかも織斑君と同じタイプの優しそうなイケメンっ!」

 

「ちょっとぉ、夏コミ間に合わないじゃないのぉ! でもこれで桐咲×織斑で決まりねっ!」

 

 

なにやら不穏な言葉が聞こえると共に、頭の中に声が響く。

左腕の腕輪、魔導輪【ラルヴァ】からの念話である。

 

 

『ここの女達はホラーになりそうもないわね』

 

『はは…いいことじゃないか、ラルヴァ』

 

『…けど、若さが有り余ってるってのはめんどくさいものよ? 色々とね』

 

『…気をつけるさ』

 

 

苦笑しつつ、ラルヴァの念話に返す凌牙であった。

 

―――――――――――――――

休憩時間――

 

「よう、桐咲凌牙…でいいんだよな?」

 

 

席で目を閉じていた凌牙に一夏が話しかけてくる。

彼の背後ではポニーテールの少女や金髪ロールの少女がこちらを見ていたがそれは無視する。

 

 

「ああ、えっと…織斑だよな?」

 

「かたっくるしいから一夏でいいよ、俺も凌牙でいいか?」

 

「ああ、分かったよ一夏」

 

 

その言葉に一夏が笑みを浮かべる。

 

 

「しっかし良かった…俺1人だと確実に潰れてたって」

 

「はは…まあ、よくわかるよ」

 

 

凌牙としても全くの同意見であった。

 

 

「男2人だけだけどこれからよろしくな」

 

 

優しい笑みを浮かべる一夏が握手のため手を差し出す。

 

 

「ああ、こちらこそよろしく」

 

 

彼の手に答えて、凌牙も笑みを浮かべる。

その姿を見ていた一部女子達が悶えていたようだがそれも無視した凌牙であった。

 

―――――――――――――――

放課後――学生寮

 

本日の授業が全て終了した後、凌牙は教員である山田真耶につれられ、学生寮を訪れていた。

そして自室の部屋の鍵を渡されたのだが――

 

 

「えへへー、よろしくね、がりょー」

 

「…まさかの同室かよ…」

 

 

そう、女子との同室であったのだ。

ただ、その相手が【布仏本音】であったのは幸運であったとは思う。

 

 

「まあ、本音さんでよかったよ、相手」

 

「えっ!?」

 

 

凌牙の言葉を聞いて笑みを浮かべていた本音の頬に朱の色が指す。

だがそれに凌牙は気づいていない。

 

 

「本音さん、どうした?」

 

「いっ、いや、なんでもないよーっ!?」

 

『全くこの子ときたら…』

 

 

頬の火照りを隠すようにぶんぶんと手を振って本音が答える。

それに首を傾げる――そして自室の窓に【赤い封筒】が置かれていることに気づいた。

 

 

「…【指令】か」

 

「えっ?」

 

『まさか2日連続とはね』

 

 

窓際まで移動して、封筒を拾い上げる。

そして懐から【ライター】を取り出して、【鮮やかな緑色】の炎で封筒を炙る。

 

すると封筒が燃え上がり、空中に文字が浮かび上がる――本音にはまったく読めない文字であったが、凌牙はそれを見て顔を顰めていた。

 

 

「…今宵嫉妬に身を焦がす魔獣が現れる、名は【レヴィタ】、魔獣を討滅せよ…か」

 

「…また出るの」

 

「ああ…みたいだな」

 

『凌牙、お話はあとよ、ホラーの気配が近いわ、どんどんこの学園に近づいてくるっ!』

 

「なんだとっ!? 場所はどこだっ!?」

 

『ここからすぐ近く…場所は剣道場ね』

 

「分かったっ!」

 

 

ラルヴァの口の中から魔法衣を取り出し、身につけ、自室の窓を開けて飛び出す。

余談だがラルヴァのこの能力は、先代狼我であった彼の父が【元老院付きの魔戒法師】のとある天才法師と交流が深かったため、付与された力である。

 

 

「ちょっ、がりょー、待ってよーっ!?」

 

 

本音も自室を飛び出していく――彼を支えるために。

 

―――――――――――――――

同時刻――剣道場

 

 

すでに日は暮れて辺りは夜の闇に包まれている。

 

 

「…はあ…」

 

 

剣道場に1人で防具をつけた姿で正座している人影が一つ――天災【篠ノ之束】の妹である【篠ノ之箒】であった。

彼女がすでに部活が終わった後も自主練している理由は少し前に行われた【クラス対抗戦】にあった。

 

1組の代表である【織斑一夏】と2組の代表である【凰 鈴音】のISバトルの際に【無人機】が乱入し、対抗戦は混乱に陥ったのだ。

その際に箒は、避難誘導を無視してアリーナ中継室に向かい一夏を激励したのだ――その行為が彼女自身の命を脅かす行為であったことを理解せずに。

結果としては一夏に助けられたため一大事にはいたらなかったが、箒としては1つの想いが残る結果となった。

 

その想いとは――

 

 

「…力が欲しい…」

 

 

そう【力への渇望】だ。

こうして自主練を続けているが、その思いは強まる一方であった。

 

 

「…はあ、今日はここまでにしよう」

 

 

そう呟いて立ち上がる――すると剣道場入口に誰か人がいることに気づいた。

箒はその人物に見覚えがあった――中学の同級生、クラスは違ったが何度か見た顔だ。

だが彼女はIS学園の受験に失敗したはず。

 

 

「…篠ノ之箒…見つけたわ…っ!」

 

「お前は…なんでここにいる?」

 

 

箒が質問を飛ばすが、少女は無視しつつ土足で剣道場に上がる。

その行為は箒にとっては許しがたい行為であった。

 

 

「お前、何をっ!?」

 

「五月蝿い五月蝿い五月蝿いっ!」

 

 

少女の叫びと共に、箒の視界が揺れる。

視界から消えた少女の掌底により吹き飛ばされたのだ。

 

 

「がっ!?」

 

 

激痛と困惑に思考が麻痺する――身に着けていた防具のおかげで何とか骨折などはしないで済んでいるが、防具は見事に破壊されていた。

痛みに悶えている箒の姿を見て少女は口角を吊り上げる。

 

 

「ははっ、何よ? 剣道全国1位じゃなかったの? 全然大したことないじゃない」

 

「がっ…お前は…一体…っ!?」

 

「…もう良いわ、私のほうがアナタより優秀だって事がよく分かったし…食べてあげる」

 

 

倒れた箒に歩み寄り、箒の首を掴んで持ち上げる。

 

 

「ぐっ…あっ…!」

 

「それじゃあ…いただきます」

 

 

少女が口を開く――その時であった。

 

 

「やめろぉおおお!!」

 

 

竹刀の一撃が少女の手を打ちぬき、思わず少女は手を離す。

少女の食事を止めたのはこの学園で2人いる【男性搭乗者】の片割れ――

 

 

「一夏…げほっ…」

 

「大丈夫か、箒っ!?」

 

 

倒れる箒の身体を支えて一夏が箒に問いかける。

一夏はルームメイトである箒の帰りが遅いため、剣道場に様子を見に来ていたのだ。

剣道場に来た際に、少女に箒が襲われているのを見かけ、飛び込んだのだ。

 

 

「…何よ何よ何よ、あんたには支えになる男もいるわけっ!? それを私に見せ付けるのっ!?」

 

 

少女が頭をかきむしりつつ、叫ぶ。

掻き毟る頭からは髪の毛が抜け、血が垂れている。

 

 

「なっ、何だよ…こいつ…っ!?」

 

 

睨みつけながら構えを解いていなかった一夏が思わず困惑の声を漏らす。

その時背後――剣道場の入口からもう1人の男の声が聞こえる。

その声――今日あったばかり、もう1人の男性搭乗者――

 

 

「嫉妬に身を焦がしてるわけか…境遇には同情するけどさ」

 

 

黒いロングコートを制服の上から羽織っている凌牙が立っていたのだ。

 

 

「凌牙っ!? 何でここにっ!?」

 

「おりむー、篠ノ之さん、大丈夫っ!?」

 

 

凌牙に遅れること数秒、布仏本音が剣道場に表れる。

いつもののほほんとした雰囲気とは異なり、表情は真剣そのもので動きにも淀みなど一切なかった。

すぐさま身をかがめた一夏と箒に駆け寄り、どこにそんな力があるのか箒を抱え上げ、一夏の手を取る。

 

 

「のほほんさんっ!?」

 

「いいから外にでて、がりょーの邪魔になっちゃうよっ!」

 

 

困惑する一夏が思わず本音の手に抵抗する。

 

 

「あー、一夏に篠ノ之、いいから黙って本音さんに従って外に出てろ、死にたくなかったらな」

 

 

苦笑しつつ、本音が無理やり一夏と箒を剣道場から引っ張り出すのを確認して、魔法衣から【ライター】を取り出す――蓋を開けると【鮮やかな緑色】の炎が上がる。

このライターは【魔導火】と呼ばれる魔界の炎を蓄えたものである。

 

【魔導火】の光に照らされた少女の瞳に【文字】が浮かび上がる――浮かび上がった【魔導文字】を確認して凌牙はライターの蓋を閉じる。

魔導火の力でホラーの検知を行うことができるのだ。

 

 

「…ホラーだな」

 

「貴様、魔戒騎士かっ!?」

 

「ああ、お前達を狩る魔戒騎士さ」

 

 

その言葉と共に凌牙が跳躍し、少女の懐に潜り込む。

腰をしっかりと入れた拳の連撃が少女を貫く。

――ホラーである少女の目から見ても消えたようにしか見えなかった。

 

 

「がはっ!?」

 

 

拳のあまりの威力にたまらず少女は吹き飛ばされ、剣道場の壁に激突する。

 

 

「すっ、すげぇ…っ!?」

 

「あれは…奴は一体…っ!?」

 

 

剣道場の入口から覗くように状況を見ていた一夏と箒が声を漏らす。

彼らからは突如、凌牙の姿が消え、少女が壁に激突したところまでしか捉えられていなかったのだ。

 

 

「がふっ…私にはまだやることがあるっ! お前なんかにっ!」

 

 

立ち上がった少女が咆哮を上げる――咆哮と共に少女の姿が少しずつ変わっていく。

 

人間の皮が溶けていき、【鮫】の様な頭部を持つ【二足歩行】の化物に姿を変える。

身体の部分は女性の乳房を持っており、鎖などで装飾されていた。

口の部分からは唾液をたらし、殺気の籠もった瞳を2人に向ける。

 

 

『魔戒騎士…お前ごと食ってやる…っ!』

 

「なっ!?」

 

「何が…起こった…っ!?」

 

 

覗いていた一夏達の思考が、突然醜悪な化物に姿を変えたこと少女の姿に停止する。

 

 

凌牙の左腕のラルヴァが【ホラー】を見て口を開く。

 

 

『ホラー【レヴィタ】、人の嫉妬の感情を好物として憑り付くホラーね、気をつけなさい、凌牙』

 

「…ああ、分かってる」

 

 

魔法衣から【日本刀】――【魔戒剣】を取り出してラルヴァの声に返す。

鞘から抜いた日本刀を頭上に掲げ、輪を描く――【輪】が光が溢れ、彼を包んでいく。

次の瞬間には、凌牙は金と黒の鎧――【狼我】の鎧を身に纏っていた。

掲げた日本刀は装飾を施された迅雷剣に変化し、構えを変える。

 

迅雷剣を同じく装飾を施されたように変化した鞘に収め腰に当てる、そのまま腰を深く落とし、【居合い】――かなり前傾の姿勢だが【抜刀術】の様な構えに変わる。

狼我の【蒼い瞳】でホラーを凝視しつつ叫ぶ。

 

 

『ホラー レヴィタよ…嫉妬に身を焦がしてしまったお前の陰我、俺が切り裂くっ!』

 

『ほざぇええっ!』

 

 

レヴィタが跳躍し、その鮫の様な牙で狼我に襲い掛かる――が突如として狼我の姿が視界から消えていた。

視界に残ったのは【金の残像】のみ――まるで暗闇に光る【雷】の様に一瞬だけであったが。

 

そして視界が2つに別れる――レヴィタの身体が斬られ鮮血が舞う。

血を巻き上げつつ倒れるレヴィタの姿は元の少女に戻っていく。

 

 

「あっ…」

 

 

完全に姿が元に戻った少女を背後に回っていた凌牙が受け止める。

 

 

「…ゆっくりとおやすみ」

 

「…あ…と…」

 

 

精一杯の言葉を残して微笑みつつ、少女の身体が霞の様に消えていく――そして凌牙の手の中から消え去る。

 

 

『嫉妬に身を焦がしてホラーに…若いのだからもっと自身を磨けば変わったでしょうに』

 

 

ラルヴァの声に僅かだが悲壮の感情が読み取れる。

 

 

「…他にホラーの気配はあるか?」

 

『いいえ…でもまさか2日続けてホラーが現れるなんて…異常すぎるわ』

 

「だな、これだと俺1人だと手が回らないな…【アイツ】に応援を頼むか」

 

『【烈火騎士 牙煉(ガレン)】ね、後で番犬所に向かいましょう?』

 

「ああ…一夏達に説明したらそうするさ」

 

 

立ち上がって、一度手を合わて目を瞑る――せめて安らかにと。

そして外で待機している本音達の元に向かった。

 




「ホラーの大量発生…人員が全く足らない現状ね、それもこれもISが原因…といってしまうのは簡単だけど…。次回、「烈火」。この指令、あの問題児の力が必要みたいね」
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