牙狼 機戒ノ翼   作:バイル77

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第三話 「烈火」

凌牙がホラー【レヴィタ】を討滅したのとほぼ同時刻――

 

ネオンライトの電燈に明かりが灯る。

営業時間になったバーに【黒いコートの男】が入店し、扉につけられた客の入店を知らせるベルが鳴る。

薄暗い店内には軽快なジャズが流れており、日ごろの労働の疲れを癒す人間が数人、酒を飲みつつ思い思いの事を話しているようだ。

 

黒いコートを着た青年、年齢は凌牙とそう変わらないように見える。

ちらりと見えるコートの下には紅を基調とした一見ビジュアル系にも見えるような服を身につけている。

顔つきは凌牙と同じく整っているが髪の色が特徴的であった。

ボサボサの癖毛、前髪の一部はまるで【炎】の様に紅くメッシュが入っていた。

 

彼はカウンターまで歩いて行き、椅子に腰かける。

 

 

「坊主、ここは餓鬼の来るところじゃねえぞ」

 

 

店主であろう初老の男性が青年に睨みを利かせながら告げる。

 

 

「ん、分かってるさ、俺も【仕事】じゃなきゃこんな酒臭えところなんか来ないさ」

 

 

青年はニヘラと笑みを浮かべつつ、素早く懐から【魔導火ライター】を取り出し、腕を振るう。

すると点火した魔導火は8つの小さな【紅い火球】となり、店主と客たちの目の前に浮遊していた。

 

魔導火を見た青年を除く店内全ての人間の瞳に【魔導文字】が浮かび上がった。

 

 

「貴様、魔戒騎……っ!?」

 

 

狼狽した店主が青年から離れようとするが、次の瞬間には店主の顔面は【魔戒剣】によって穿たれていた。

数度痙攣すると黒い靄のようになって店主の体は消滅していく。

 

 

「……残り7匹……多いなぁ」

 

『近頃は本当に異常だわ……陽一、気をつけなさい』

 

 

店主の頭を貫通し、壁に突き刺さった魔戒剣を引き抜く。

彼の右腕に付けられている【鎖で巻きつけられた髑髏の腕輪】から落ち着いた女性の声が届く。

彫り込まれた髑髏の口部分が動いて声を出している――魔導輪である。

 

 

「分かってるって、【ファルヴァ】……はあ……」

 

 

魔導輪【ファルヴァ】の声に返すと同時に、正体を現したホラー7体が陽一に襲いかかる。

ホラー達は所謂【素体ホラー】と呼ばれる形態であるが数では圧倒的に不利な状況である。

 

しかし陽一の顔に焦りの感情は見えない、むしろ逆であった。

ひたすら気怠そうな表情から一遍し、まるで氷の様に殺気を込めた表情に変化していた。

 

左右からホラーの爪が振われる、左のホラーの攻撃の方が速いことを確認して魔戒剣で受け止める。

同時に右のホラーの腕を蹴り上げ無力化、追撃の蹴りで右のホラーを吹き飛ばす。

 

 

「そらよっ!」

 

 

左のホラーの爪を押し返し、その反動で距離を取る。

 

魔戒剣を頭上に掲げ、円を描く。

空間が円状に割け、光が降り注ぐ――

 

 

『俺の名は【陽神陽一(ひのかみよういち)】……【烈火騎士 牙煉(ガレン)】、お前らを狩る魔戒騎士だっ!』

 

 

そして高い金属音と共に、彼は【紅と金によって彩られた鎧】を身に纏っていた。

その鎧の胸部には【太陽】の様な紋章が刻まれており、鎧から溢れる高熱により陽炎が起こっている。

手に持った魔戒剣も鎧の召喚と共に、柄に胸部と同じ紋章を持つ片刃の大剣へと変化していた。

 

 

『うぉおおっ!!』

 

 

咆哮と共に大剣【烈火剣】を振るう。

凄まじい剣圧と共に、2体のホラーが横一文字に両断される。

 

剣圧によって残り5体のホラーが体勢を崩す。

 

 

『はぁっ!』

 

 

気合の咆哮と共に鎧から【紅い炎】が突如として発生し、鎧を包み込み燃え盛る。

烈火剣を再度振るう、すると剣の軌跡状に燃え上がる炎の刃が形成された。

 

優秀な魔戒騎士のみが扱うことができる戦闘術。

魔界の炎をその身に纏い、戦闘力を増大させる高等技術――その名は【烈火炎装】

 

 

『はぁっ!』

 

 

再度気合の咆哮を轟かす。

すると宙に形成された炎の刃が凄まじい速度で放たれ、ホラー達を薙ぐ。

断ち切られた断末魔すらあげられず、魔導火によってホラー達は消滅していく。

 

 

「……ふぅ」

 

 

鎧を魔界に送還した陽一が一息ついて、魔戒剣を黒鞘に収める。

 

 

『お疲れ様、陽一』

 

「おう、番犬所へ報告に行くか」

 

 

魔戒剣を魔法衣にしまい、店を後にする。

 

 

――――――――――――

2時間後――

 

IS学園 生徒会室

 

 

ホラーに襲われた箒と一夏は凌牙に連れられて生徒会室に連れて来られていた。

その理由は事情の説明だ。

 

以前本音に話したホラーと魔戒騎士についての説明を行うことで、2人を協力者として取り込む算段だ。

戦力として戦わせるわけではない。ホラーを滅することができるのは魔戒騎士や法師達のみ。

ISを使ってもその関係は変わらない。

 

しかしISの普及により、陰我が増加しているのか、現状魔戒騎士と法師は人手がまるで足りていないのである。

今回の様や本音のときの様にホラーが学園内に現れることがないわけではない。

この学園は広く、いくら教師の一部や楯無達が協力してくれているとはいえ限度がある。

なのである程度生徒の協力者は必須になるのだ。

もちろん、魔戒騎士である凌牙や実力者である楯無が彼らを守ることが前提であるが。

 

 

「……とそういう訳だ」

 

 

魔戒騎士とホラーの関係や協力者の話について、凌牙は目の前に座っている一夏と箒に説明し終え、一息ついてテーブルに置かれている紅茶を口に含む。

 

 

「……あれは夢ではないのだな」

 

 

ホラーに狙われた箒は剣道用の防具を身につけていたのが幸いしたのか、打撲程度の軽傷で済んでいた。

それでも包帯を足に巻いているが。

 

 

「ああ、奴は君を狙ってたホラーだ」

 

「……あのような化物がいるだなんて……信じられないが……襲われたのは事実か……」

 

 

自分が狙われていた恐怖からか箒の顔が暗くなる。

 

 

「……ISならアイツ等と戦えるのか?」

 

 

腕のガントレットに一瞬視線を移した一夏が口を開く。

襲われたときは相手が人間態であったため、ISを展開することはなかった。

ホラーとしての本性が現れた際は驚愕で動けなかったが、正体を知った今ならばと。

 

だが凌牙は首を横に振る。

 

 

「いくらISが最先端の兵器とはいえ、ホラーを討滅することはできない……牽制や足止め程度なら充分できるだろうけど」

 

 

手に持っていた紅茶のカップを置いて、一夏の目を見て言う。

 

 

「だから俺が斬る……守りし者としてな」

 

 

その目はホラーを狩る際の魔戒騎士の目。

気圧された一夏だが、彼も凌牙の目を見て答える。

 

 

「……分かったよ、俺にできることがあるなら手伝う」

 

「……私もだ、この事実を知ってしまったからには、できることをしよう」

 

 

一夏と箒の言葉に凌牙は笑みを浮かべて、懐から【宝玉が付いた首飾り】を2つ取り出す。

一夏達には読めない文字が宝玉に彫られており、2人はそれを受け取る。

 

 

「これは知り合いの魔戒法師さんから預かってた魔導具、首飾りのしか残ってないけど身に着けていてくれ」

 

 

凌牙が魔導具について説明をする。

この魔導具の名は【魔導坎】

【魔界八卦札】の【坎の札】と同じ効果を持ち、方角などに左右されずトランシーバの様に言葉を同じ魔導坎を持つ人間に伝える機能を持っている。

通信範囲はIS学園がある人工島の敷地とほぼ同等、つまりはどこからでも通信が可能である。

ちなみに凌牙へ通信を行う場合は、魔導輪ラルヴァを介して通信が行われる。

また2つをあわせることで簡単な結界を張ることが可能でもある。

 

 

「ペアルックみたいだな」

 

「ペッ、ペアっ!?」

 

 

受け取った魔導坎を早速身に着けた一夏がポロリと零した言葉に箒が真っ赤になって反応する。

 

 

「本音さんは指輪のを渡したよね?」

 

「うん、ほらー」

 

 

凌牙が確認の為に背後にいる本音にたずねる。

彼女は右手薬指に指輪の魔導坎を身に着けていた。

 

 

「本音ちゃん、乙女してるわね」

 

「おっ、お嬢様……!」

 

 

その様子を見ていた楯無が本音の様子を見てそっと呟く。

彼女の手に持っている扇子には【青春キター】と表示されている。

余談だが、楯無や虚、教員でもある千冬にも同じように魔導坎は渡されている。

 

そんな時であった、生徒会室の扉が開かれた。

室内の全員の視線が集まる。

 

 

「おー、ここにいたんだな、凌牙」

 

「陽一……っ!?」

 

 

扉を開いて生徒会室に現れたのは陽神陽一であった。

ずかずかと空いていた椅子に座り込む。

 

 

「いやー、千冬さんに聞いたらここだってさ、相変わらず綺麗だったなー、千冬さん」

 

「お前、何でここに?」

 

「んあ、そんなモン決まってんだろ、指令だよ指令」

 

 

魔法衣から饅頭を取り出して口に含む。

 

 

「凌牙、コイツは?」

 

 

陽一の登場にぽかんとしていた一夏が凌牙にたずねる。

 

 

「コイツも俺と同じ魔戒騎士さ、【烈火騎士 牙錬】、同じ管轄の同僚って訳だ」

 

「コイツ呼ばわりは酷くね? 一応お前より3つ年上だぞ、俺」

 

「あー、はいはい」

 

 

ニヘラと笑いながらの陽一の抗議の声を凌牙は適当に流す。

 

 

「久しぶりね、陽一君」

 

「おー、刀……楯無ちゃん、おひさー。 相変わらず綺麗だねぇ」

 

 

咄嗟に言い直して陽一が緩んだ笑顔で楯無に告げる。

 

 

「今度食事でもどう? 虚ちゃんも一緒にさ?」

 

「魅力的だけれど最近はあまり暇がなくてね、またの機会にするわ」

 

 

笑みを浮かべる楯無の返答にそっかーとがっくりと肩を落とし、再び饅頭を口に含む。

 

 

「陽一、指令って何だよ?」

 

「ん、おっと言い忘れてた……IS学園内を守ってるお前に協力しろだとさ」

 

「……増援って訳か」

 

「ああ、人手不足だけど、どうしてもだとさ……ま、俺としては願ったり適ったりなんだけどな」

 

 

陽一は笑みを浮かべてガッツポーズをとっている。

その姿をジト目で凌牙は見つめている。

 

 

「なんたってIS学園は美少女ぞろいの楽園だからな! お前みたいに生徒としてじゃないのは残念だけど、お近づきになりたいと思うのは男として当然だろっ!?」

 

「……お前は相変わらずだな」

 

 

ため息をつきつつ凌牙は陽一を見る。

 

 

「魔戒騎士は一子相伝なんだから相手を見つけることは悪くないだろ? それに俺ももう【18】だし、早めに相手見つけないとさ」

 

 

一瞬だけ真顔になった陽一であったがすぐに緩い表情に戻る。

真顔になった【理由】を知っている凌牙も一瞬顔を顰めるがすぐさま切り替える。

 

 

「……その軽い性格と女癖の悪さを直すのが先だと思うがな」

 

「うぐっ」

 

「美人みると声かける癖、直してないだろ、ファルヴァ?」

 

『ええ、全く……凌牙みたいに落ち着いてほしいと常々思うわ』

 

『お互い、苦労してるみたいね、ファルヴァ?』

 

『ええ、ラルヴァ……手を焼かせられる問題児よ、この子は』

 

 

陽一の魔導輪【ファルヴァ】が呆れたような声を上げる。

指で軽くファルヴァを突きつつ、陽一が一夏と箒に視線を合わせる。

 

 

「まっ、まぁ、そういうわけで……えーと織斑一夏と篠ノ之箒だったよな、よろしくなー」

 

「おっ、おう……よろしく」

 

「あっ、ああ……」

 

 

同じ魔戒騎士でも凌牙と雰囲気が違いすぎると思う一夏と箒であった。

 




オリジナル魔戒騎士2人目登場。
烈火炎装状態の鎧はどれも強そうでたまらないです。


――――――――――――――――

「凌牙の他の転校生……やれやれまた波乱が起きそうね……。待ちなさい、凌牙、あの娘の機体から溢れる気配は……っ!? 次回、「汚泥」、気をつけなさい凌牙、普通じゃないわ」
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