牙狼 機戒ノ翼   作:バイル77

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第四話 「汚泥」

 

凌牙が一夏と箒に魔戒騎士について説明をした数日後

 

IS学園1年1組には新たに2名の転校生が編入されていた。

1人はフランスの代表候補生であり3人目の男性搭乗者である金髪の美少年【シャルル・デュノア】

1人はドイツ軍に所属している現役の軍人、銀髪の少女である【ラウラ・ボーディヴィッヒ】

 

両名の自己紹介の際にシャルルについては黄色い声で歓迎されたが、ラウラについては一悶着が発生してしまった。

その理由として、ラウラが突如一夏に歩み寄り頬を叩いたからだ。

被害者でもあり、突然の彼女の行動を理解できなかった一夏は当然彼女に反発し一色触発の雰囲気となってしまったが担任である千冬の鶴の一声でその場は収まったのだ。

ちなみにそのHRには凌牙は出席しておらず、1時間目の授業にも表れなかった。

 

 

「成程ね、俺がいなかった間にそんなことになってたのか」

 

 

1時限目の授業の休憩時間に今まで教室にいなかった凌牙が現れ、自席で本音に返答する。

 

 

「うん……と言うかがりょーはどこにいたの? サボり?」

 

「いや、エレメントの浄化、魔戒騎士としての仕事をしてたのさ……てか起こしたのに覚えてないのね」

 

 

本音の質問に苦笑して凌牙が返す。

本音は朝がとても弱いと彼女の姉である虚から聞かされていたため、一度部屋に戻って彼女を起こしている。目覚まし時計を意識のない状態で止めており、そのままでは寝過ごすところであったがどうやら彼女は覚えていないらしい。

 

生徒として編入された凌牙であるが、学園内に陰我のゲートとなるエレメントが連日複数発生する為、それを浄化して回っているのだ。

エレメントを浄化していればホラーが出現する頻度は激減し、通常ならば2か月に1体程度の頻度である。

それだけ連日ホラーが現れる現在は異常事態なのだ。

 

 

「魔戒剣でエレメントを切ると、エレメントの陰我を浄化できるのさ……本来これをしてればホラーは数ヵ月に1体くらいなんだけどね」

 

「なるほどぉ……」

 

「しかし……雰囲気悪いな」

 

 

ちらりと横目で転校生の1人、ラウラを見る。

完全に我関せずの態度を取っており、興味を持って近づいたクラスメートを無視している。

 

 

『一荒れきそうね』

 

「……ああ」

 

 

本音と凌牙にしか聞こえない程度の音量で喋ったラルヴァの言葉に凌牙が頷く。

 

 

――――――――――――――――――

同時刻 第3アリーナ 整備室

 

 

アリーナではISの訓練や模擬戦等を行う関係上、機体のメンテナンスを行う為の整備室が設けられている。

その整備室の一画に基本フレームがむき出しになった機体が鎮座しているメンテナンスベッドがあった。

その近くで空間に投影されたディスプレイを無言で操作し続ける眼鏡をかけた水色の髪の少女がいた。

 

彼女の名は【更識簪】――更識楯無の妹である。

 

 

「……ふう」

 

 

一度身体を伸ばしてから彼女が息をつく。

すると目の前にコーヒー牛乳が差し出されている事に気付いた。

 

 

「簪ちゃん、お疲れ様」

 

 

黒のコートに紅を基調とした魔戒騎士の戦闘服。

黒の髪の一部に炎の様に紅くメッシュが入った青年、陽神陽一がいつの間にか隣にいたのだ。

 

 

「……いつの間にいたんですか?」

 

 

正直かなり驚いたが、差し出された飲料を受け取りつつ簪が答える。

 

簪は更識の家の人間であるため【魔戒騎士】についてはよく知っているし実際に助けられたのだ。

 

ほんの数ヵ月前まで姉である楯無とは些細なすれ違いによって不仲となっていたが、ホラーに襲われるという異常事態に見舞われた結果、不仲は解消されている。

その時ホラーを討滅したのが凌牙と陽一であるため、彼等とは顔見知りなのだ。

 

閑話休題

 

 

「んー、3分くらい前からかな……あ、敬語は苦手だからいいよ」

 

 

陽一の年齢が自分より上であるため一応敬語で話していたが、彼からそう言われれば遠慮はしない。

 

 

「……別に声くらいかけてくれてもいいのに」

 

「俺も最初はそう思ったけど、すげー集中してたからなぁ……その顔もいいなーと思いつつ見てました」

 

 

ニヘラと陽一が笑う。

女性には老若問わずに声をかけると言う女癖が悪い点を除けば、気さくな年上の男性だと思う。

簪から見ても顔立ちは整っているし、魔戒騎士として鍛えているため逞しい身体付きであると思う。

だが絶えずユルく笑っている為、どうしてもユルい印象を与えてしまうのがマイナスであろう。

 

 

「はぁ……集中切れちゃった」

 

 

受け取ったコーヒー牛乳の封を切る。

2口ほど口に含むと陽一が質問を投げかけてきた。

 

 

「てかいいのか、授業始まってんじゃ?」

 

「……今はこっちに集中したいから……大丈夫、授業にはついていける」

 

 

そう言ってメンテナンスベッドに鎮座しているフレーム剥き出しのIS【打鉄弐式】に目をやる。

そして陽一に目を向ける。

 

 

「と言うかそっちこそ……生徒じゃないのにいても大丈夫なの?」

 

「ん、そこは問題ないさ。許可貰ってるし、認識阻害効果が魔法衣にはあるからさ、魔戒騎士を知らない連中が今この状況を見ても簪ちゃんが誰かと話してたって認識されるだけだよ」

 

「もしかして……エレメントの浄化をしてたの?」

 

「ん、さっきまで凌牙と一緒にね、今んとこ学園内にあるエレメントは全部浄化した。まあ、何日持つかもわからないけど」

 

 

緩んでいた目じりが上がり陽一は真顔になる。

がすぐにその真剣な表情は霧散し、いつもの緩い表情に変わる。

 

 

「という訳で手持無沙汰になったから簪ちゃんのIS製作を見学しようかなって」

 

「……ISの知識ほとんどないでしょ?」

 

「おう」

 

 

どういう訳か誇らしげに胸を張る陽一にため息をつく。

 

 

「まあ、邪魔しないのなら……いいけど」

 

「よっしゃ、ありがとう!」

 

 

大げさにガッツポーズを取ってからメンテナンスベッドから少し離れた場所に座る。

すでに魔法衣から饅頭を取り出して食べ始めている。

 

 

『全く……悪いわね、簪』

 

 

彼の右腕に付けられた魔導輪【ファルヴァ】も少々呆れた様な声色で、簪に礼を述べる。

 

 

「あ、うん、別に大丈夫だよ、ファルヴァ」

 

『ならよかったわ、迷惑にはならないようにしておくわね』

 

「うん、ありがとう」

 

 

ファルヴァの言葉に笑みを浮かべた簪は、よしと気合を入れてISの空間投影ディスプレイを操作しだす。

それをいつものユルい笑みを浮かべつつ陽一は見ていた。

 

 

(……ISの製作が中止になったとか聞いてたけど、無理はしてないみたいだな)

 

(体調は問題なさそうね、中々に強い子よ、彼女は)

 

 

互いに念話で会話しつつ、作業を再開した彼女を見つめている。

 

 

(ならよかった、知り合いに倒れられるのはキツイ)

 

(……そうね、でも私はむしろ貴方が心配よ、陽一)

 

(俺? 別に体調は問題ないぜ?)

 

(貴方の……【烈火騎士】の身体は確かに【特別】よ、だけどそれにはとても重い【代償】があるのを忘れてはいないでしょう?)

 

(……分かってるさ、肝に銘じてる)

 

 

ファルヴァの言葉に笑みを消して真剣な表情になるが、すぐにまた陽一は笑みを浮かべた。

 

 

「俺は命が尽きるその時まで守りし者だ、それは変わらない……だけど今はこうさせてくれ、俺達が守ってるモノの輝きを見ていたいんだ」

 

 

小さく、簪に聞こえない程度に呟き一口かじっただけであった饅頭に再び口をつけた。

 

 

――――――――――――――――――

同日 休憩時間 IS学園 応接室前

 

 

「はぁ、手洗い遠いのは勘弁してほしいぜ……」

 

「そうだな」

 

 

凌牙が男性用お手洗いから出てきた一夏に返す。

IS学園は元々女子高であるため、男性用の設備が少ない。

特に手洗いを利用する場合は来賓用のものを使うしかないのだが、1組から距離があるのだ。

 

 

「まぁ、設備としてあるだけマシだろ、なかったら一々寮まで戻らないといけないしな」

 

「そう考えるとそうだなぁ……」

 

「……ん?」

 

 

凌牙が突然立ち止まったため、ハンカチを懐にしまった一夏が振り返る。

 

 

「どうした?」

 

「話し声が聞こえたんだ、織斑先生の」

 

「え、千冬姉の?」

 

「ああ」

 

 

凌牙の返しに一夏も耳を澄ますが、全く聞こえない。

 

 

「あっちだな」

 

「どんな耳してるんだよ、魔戒騎士って……」

 

 

20mは離れている廊下の突き当たりを指さして凌牙が歩いていく。

廊下の突き当たりから様子をうかがうと、確かに織斑千冬がいた。

 

 

「何故ですか、教官っ!」

 

「教官ではない、織斑先生だ、ラウラ」

 

 

彼女が会話している人物は転校生のラウラであった。

だがあまりいい雰囲気ではなく、ラウラの言葉には焦りと困惑の感情が多分に込められていた。

 

 

「ここの生徒達はISのファッションとしか考えていませんっ! 教官はこんなところにいていい人間じゃ……っ!?」

 

「ほう、私に意見するまで偉くなったか小娘」

 

 

語気が荒くなり、怒気が一瞬だけ溢れた。

それにラウラは怯む様に言葉を噤んだ。

 

 

「ファッション、確かにお前の言う事にも一理ある……が、全員がそうではないしこの学園はその意識をただす場所でもある。 分かったならさっさと教室に戻れ、休憩時間はもう終わるぞ」

 

「……っ、失礼しますっ」

 

 

脱兎の様に小走りでラウラは教室に戻っていく。

その様子を見てはぁとため息をついた千冬であったが、すぐに表情を正して振り向く。

 

 

「……盗み聞きとは趣味が悪いな、出てこい」

 

「……千冬姉、アイツと話してたのか」

 

 

一夏がつきあたりから顔を出して千冬に尋ねる。

 

 

「……もう1人も出てこい、誰かはわかっているが」

 

「……別に隠れてたわけじゃないですよ」

 

 

凌牙が一夏に続いて顔を出す。

別段気配を消していたわけではないが、世界最強と呼ばれているがあくまで一般人の範疇である千冬が魔戒騎士である自身の気配を察知していた事に内心驚いていた。

 

 

「どこから聞いていた?」

 

「ファッションがどうのこうのってことろですね」

 

 

凌牙の返答にはぁと千冬はため息をついてから続ける。

 

 

「……ラウラとは、とある事情からドイツ軍に協力していた時からの間柄でな……アイツは私をまるで神の様に崇めているんだ」

 

「千冬姉を?」

 

「……ああ、奴には特に私が力を入れて指導したんだが、そのためかアイツの価値観は全てが私を基準となってしまっているんだ、不出来な教師として笑ってくれて構わん」

 

「……笑ったりはしないですよ」

 

 

凌牙の返しにすまんなと苦笑する。

 

 

「アイツについてはそのうち手は打つ……それまで見ていてくれないか?」

 

「千冬姉がそういうなら……そうするけど」

 

 

渋々と言った感じで一夏が返す。

 

 

「……俺は魔戒騎士です、そこまで深入りはできません」

 

 

対する凌牙はあくまで淡々とした口調で返す。

魔戒騎士はあくまでホラーから人間を守る存在であり、表の人間の生活に深入りする事は忌避されているからだ。

 

 

「……ですが、桐咲凌牙個人としてなら……まぁ、出来る限りはやりますよ」

 

 

だが今はIS学園の生徒 桐咲凌牙でもある。

他の魔戒騎士達には甘いと言われるような選択だが、出来る限りのことはしようと凌牙は考えていたのだ。

 

 

「すまんな、2人とも……さて、休憩時間はもう終わる、教室に向かえ」

 

 

千冬が苦笑と共に感謝の言葉を告げ、教室へと2人を促す。

それにしたがって凌牙と一夏は教室に向かう。

 

 

(甘いわね、凌牙)

 

 

教室に向かい歩いていると【魔導輪ラルヴァ】からの念話が頭に響く。

 

 

(魔戒騎士は人知れずホラーを狩り人を守る者、人間の生活、しかも子供の我儘に付き合う必要はないんじゃないかしら?)

 

(……この選択が魔戒騎士として甘いってことくらい分かってるさ)

 

 

苦笑を浮かべつつ、ラルヴァに返す。

 

 

(それでも知り合いが困っているなら助けたいって思うんだよ、本音さんや一夏達は俺が協力者として巻き込んだわけだしな、だからできる限りのことはしたい)

 

(……あなたのその甘さ、本来なら弱点になるわよって忠告するのが筋なんでしょうが……私は好きよ、凌牙)

 

(ありがとう、ラルヴァ)

 

 

ラルヴァの言葉に笑みを浮かべ、凌牙は一夏と共に教室へと向かう。

 

――――――――――――――――――

翌日 放課後 第2アリーナ

 

 

第2アリーナでは現在模擬戦が行われている――いや正確には模擬戦と言えるものではなかった。

 

【黒のIS】が2機のISをまるでリンチするかのように痛めつけているのだ。

黒のISに搭乗するのはドイツからの転校生である【ラウラ・ボーディヴィッヒ】が搭乗する【シュヴァルツァ・レーゲン】

 

2機のISの片割れは、英国の代表候補生である【セシリア・オルコット】が搭乗するIS【ブルー・ティアーズ】

もう片方は中国の代表候補生の【鳳鈴音】が駆る【甲龍】である。

 

 

すでにセシリアと鈴の機体は少なくないダメージを受けていた。

装甲部分も破損していない部分は少なく、搭乗者の身体にもダメージがるように見える。

 

 

『ふん、英国と中国の代表候補生がどれほどのものかと思えば……この程度か』

 

『こんなはずでは……っ!』

 

 

ラウラは失望したという表情で大型レールカノンをすでに戦闘機動が取れないセシリアに向ける。

 

 

『所詮貴様らはその程度だ、消えろ』

 

 

レールカノンから弾丸が射出される。

電磁加速した弾丸であり、今のセシリアに避けれる代物ではない。

そして直撃を受けてしまえば間違いなく機体は大破、ないしは大きなダメージを受け今後の活動にすら支障が出る事は容易に想像できた。

 

だが、彼女に弾頭は届かなかった。

何故ならば、発射された弾頭を命中寸前で斬り落とした者と彼女を庇った者がいたからだ。

 

彼女を庇ったのは白きIS【白式】を纏った1人目の男性搭乗者【織斑一夏】

弾頭を切り落としたのは人物は量産型の【打鉄】を纏った2人目の男性搭乗者【桐咲凌牙】

 

 

『やりすぎだろ、お前。 大丈夫か、オルコット、鳳』

 

『セシリア、鈴、2人とも大丈夫かっ!?』

 

 

凌牙は打鉄のブレードを担ぎ、一夏はセシリアを庇うように凌牙は浮遊していた。

本音やほかの1組の生徒からISを用いた私闘を止めてほしいと言われた一夏と凌牙が

アリーナに駆け付けて戦闘に割り込んだのだ。

 

 

『一夏さん……っ!』

 

『一夏……っ!』

 

 

一夏に庇われているセシリアとそれを若干羨ましそうにしている鈴を見て凌牙は苦笑しつつ告げる。

 

 

『……大丈夫そうだな、一夏、さっさと2人を連れて離脱しろ』

 

『凌牙、お前1人でやるつもりかっ!?』

 

『さっさとしろ、一夏。 彼女達は代表候補生だ、こんな私闘でそれ以上専用機を壊されたら評価が落ちて最悪候補生の資格さえ失うことになるかもしれないんだぞ』

 

 

代表候補生のISは専用機であるが、その所有権は彼女達の祖国、国家のものである。

そしてまだ彼女達は代表ではなくあくまで候補生。

こんな私闘でISを大破させてしまえば、最悪の場合、責任能力を問われて代表候補の資格さえ失いかねない。

国家にとっては彼女達以外にも代表候補生は存在しているのだから、そちらを優先すればいいのだ。

 

 

『そんなことあるのかよっ!?』

 

『ある。 だから後腐れない俺の方が適してるんだよ、さっさとしろっ!』

 

 

そう言って打鉄のブレードを構えると、瞬時加速による圧倒的なスピードで攻撃を仕掛けてきたラウラのプラズマ手刀を受け止める。

その隙に一夏はセシリアと鈴を連れて離脱していく。

 

 

『何のつもりだっ!』

 

『それはこっちのセリフだ、彼女達はもう動けなかった。 なのに何で止めを刺そうとした』

 

 

激高したラウラの叫びに淡々と返す。

 

 

『ふん、奴等の挑発に乗ってやったまでの事だ……それに丁度いい、織斑一夏の前哨戦だ、2人目、貴様の力を見せてみろっ!』

 

 

不敵に笑うラウラの言葉は凌牙には届いていなかった。

ただ冷たい視線で彼女を見据えていただけだった。

 

 

『……悪いが人を斬るつもりはないんでな』

 

 

そうつぶやき鍔迫り合いの状態を力任せに押し返す。

同時に打鉄のブレードが根元から砕け、レーゲンの装甲にも大きく罅が入り、シールドエネルギーが減少する。

 

 

『なっ、何だとっ!?』

 

 

相手は量産機であり、こちらは専用機。

パワーでも既存の打鉄を上回っている事は確認していたため、ラウラから動揺の声が漏れる。

 

 

『ちっ、脆い……っ!』

 

 

舌打ちと共に砕けたブレードを放り棄てる。

この打鉄と武装は【とある人物】に改良を受けた代物であるのだが、やはり魔戒剣並みの強度は望めないようだ。

最も破邪の超鋼である【ソウルメタル】と比べるのは酷であろう。

 

ラウラが知る由もないが、魔戒騎士はホラーと戦うためにその身体を極限まで鍛え上げている。

凌牙も例外ではなく、幼い頃よりホラーと戦う為に魔戒騎士として鍛錬を続けている。

極限まで鍛え上げた肉体でなければ、ホラーと戦うことなど自殺行為と等しいからだ。

 

腕力だけでレーゲンを弾き飛ばした凌牙は、まるで拳法の様な独特な構えを取る。

この構えは魔戒騎士の体術のうちの一つ、【守りの型】

攻撃に比重を置いた【攻めの型】と対をなす防御を重視した型である。

 

攻撃してラウラを止めることは容易い、だがそれを実行できない理由が魔戒騎士には存在している。

 

 

(凌牙、分かってるでしょうけど人間を傷つけては駄目よ?)

 

『分かってる……っ!』

 

 

魔戒騎士には、いくつかの守るべき【掟】が存在している。

そのうちの1つが、【守るべき対象である人間に刃を向けてはならない】というものだ。

この掟は魔戒騎士や法師にとっては絶対のものである。

 

故に彼が選択するのは彼女の攻撃を受け流してやり過ごすことだ。

守りの型は決して防御だけではなくカウンター等の要素も込められたものだが、攻撃を受け流して動作を止めれば、彼女を傷つけることなく教員が来るまで持ちこたえることも可能である。

 

余談ではあるが、あまりに絶対であるために魔戒騎士や法師にも大きな被害を出したこともあった。

記録に残っている中では中世ヨーロッパ、ヴァリアンテ王国での魔女狩りが有名である。

闇に堕ちた法師の手によって、魔戒騎士、魔戒法師は異端とされ魔女狩りが行われたのだ。

ホラーには無敵に近い魔戒騎士でも人間には反撃すら許されないため、多くの騎士と法師が犠牲となった。

当時の【牙狼】や現在も系譜が続く【絶影騎士 ゾロ】、【堅陣騎士 ガイア】等の活躍によって魔女狩りは止められたがその数は激減してしまったのだ。

 

――閑話休題。

 

 

『どうやらイギリスや中国の代表候補よりはできるようだが……舐めるなぁっ!』

 

 

瞬時加速を用いて、再度距離を詰める。

上段から振り下ろされる右のプラズマ手刀に、左マニピュレータを横から打ち付ける事で軌道をそらす。

同時に左のプラズマ手刀が横から薙いでくるが、1歩だけ踏み込むことで関節部分に右マニピュレータを押し当て、動きを止め、機体毎押し返す。

 

 

『ぐっ!』

 

 

無理やり押し返されたラウラだったがAMBACによって姿勢を立て直す。

姿勢を立て直したラウラの表情は怒りに溢れていた。

 

 

『貴様ぁ……っ! ふざけているのか、何故攻撃してこないっ!?』

 

 

完全に攻撃を受け流されたのはラウラにもよく分かっていた。

だというのに、相手は攻撃をしてこなかった。

遊ばれていると思ったラウラは激高して叫ぶ。

 

 

『……アンタを斬る理由がないだけだ』

 

『それをふざけているというのだっ!』

 

 

右肩部分に存在する非固定浮遊部位の大型レールカノンから弾頭が発射される。

打鉄はスラスターを全開にして弾頭を避けるが、ラウラから見ればAMBACの動作がぎこちない。

 

 

(何なのだこいつはっ!? 私の攻撃をあれほど簡単に捌いたというのに稼働肢制御による姿勢制御(AMBAC)は粗末……っ!)

 

 

内心苛立っているラウラは凌牙の操作技術を疑問に思うが、それは自身の優位を示している。

 

 

(AMBACが未熟ならば遠距離攻撃で落とすっ!)

 

 

戦術を接近戦から切り替え、射撃戦に移行する。

右肩部のレールカノンから弾丸が次々と発射されて凌牙を襲う。

 

 

『……ちっ!?』

 

 

スラスターを再度全開で吹かせてラウラからの射撃を必死に回避する。

 

凌牙のISの操作技術は並程度である。

AMBACでの機体制御や細かなスラスター調整等は代表候補生に比べればお粗末なものだ。

 

先程の攻防はラウラの方から仕掛けてきたため、戦闘技術で圧倒できただけであり、こうして距離を取られて精密射撃を連続して行われるとなす術がない。

 

 

『凌牙っ、俺もやるっ!』

 

 

それを見かねた一夏が2人を周りで様子路見ていた生徒達に任せて飛び込んでくる。

白く輝く光の刃【零落白夜】を煌めかせて弾頭を切り裂く。

 

 

『織斑……一夏ぁっ!!』

 

 

凌牙を庇うように飛び込んできた一夏を見て、ラウラの表情に狂喜が浮かぶ。

黒く歪んだ意志がその表情に溢れた瞬間であった。

 

 

『……貴様のその執念、利用させてもらうぞ、小娘』

 

 

形容しがたい、人間とは思えないような声がレーゲンのコンソール画面から響き、【魔導文字】が一瞬浮き上がる。

そして機体フレームから【泥】が溢れだした。

 

 

『なっ、何だっ、これはっ!?』

 

 

ラウラの驚愕の声と共に濁流の如くレーゲンから泥が溢れ、一瞬抵抗していたラウラであったが泥になす術なく飲み込まれてしまった。

 

 

『何だあれ……【泥】?』

 

『……あれはまさかっ!?』

 

 

突然発生した【泥】に一夏と凌牙の視線は釘付けになるが、すぐさま状況が動いた。

 

ラウラを飲み込んだ【泥】はまるで粘土細工の様に捏ね回って形を作っていく。

まるで長髪の女性のようにも見える形状に変わった泥の塊は、その手に刀の様な形状の武器を作り出していた。

 

 

『気をつけなさい、凌牙、あれは、あの気配は【ホラー】よっ!』

 

 

ラルヴァの声が凌牙と一夏の耳に響くのと、泥の塊が斬りかかって来たのはほぼ同時であった。

 

 




映画GAROを見てテンションが上がり、絶狼のTVシリーズが始まってさらにテンションが上がりました。


「溢れ出た泥から感じるホラーの気配、一体どういうことなのかしら、凌牙……っ!?
待ちなさいっ、アリーナの地下からホラーの気配が……一体どういうことなのっ!?」

「次回、「魔陣」、まさかこの学園……っ! この状況、切り抜けなさい、凌牙っ!」
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