今回はモモンガ視点
満月の月明かりのみが、あたりを照らす丑三つ時。
私は自由気ままに、外の散歩をしていた。
いや、自由気ままというよりは逃走するため。そういったほうが良いだろう。
みんな大げさなのだ。ただ一つの人形を壊して玩具を持って行った程度でここまで大騒ぎするなんて、煩わしいったらありゃしない。
――まぁ糞兄貴の戸惑った顔を考えるだけで、満足するからどうでもいいが。
最後に人形を完全に壊した。壊れかけの人形なら完全に壊したほうが、本人の為だろう。
しかし、その所為なのか、風花聖典に付きまとわれる羽目になった。
だが、圧倒的強者である私に敵うものなど、そうそう居ない。
すべてなぎ倒し、遊んでやった。
それはとてもとても楽しい事だった。
そうやって遊んでいたが、それはもう潮時だ。
いい加減、法国が黙ってはいない。
おそらく次か、その次あたりで漆黒聖典の化物共が投入される。
隊長や糞兄貴が相手だと、さすがの私でも厳しい。というよりは確実に殺される。
だから、この叡者の額冠を手土産にして、ズーラーノーンに大きな事を起こしてもらい、監視の目を振り切る。
そう思いつつ、エランテルに向けて歩いていた私だが、一つ今まで見慣れないものに遭遇してしまう。
「なにこれ?」
――――
時間は少し前に遡る。
今はパルパルが、外を見に行くために部屋に戻ったあと。
モモンガの元には元からいた、アウラ、マーレの他にナザリック一の武人コキュートス、ナザリック一の知恵者デミウルゴス、領域守護者内最強シャルティア、その5人が揃っていた。
ちなみに、モモンガの命じたパルパルの世話。これをする権利の争奪戦がプレアデスで行われていた事は、ここにいる全員の知らない事だ。
シャルティアがアウラ相手に微笑ましい喧嘩をしていると、最後の一人もやってきた。
「私が最後でしたか」
純白の白のドレスに山羊の角、そして本人の美しさを強調するような黒い、まるで堕天使の翼が生えた絶世の美女ともいえる存在――アルベドが来た。
普通ならば、見た瞬間に見惚れて声も出なくなってしまうであろう存在を目の当たりにしても、ナザリックの階層守護者達は少しも見惚れることはなかった。
それどころか、デミウルゴスはその遅い到着に少し思うところがあったのか、少々、本当に注意深く聞かないとわからない程度に声に怒気を含みながら質問をする。
「少々、遅い到着じゃないですか?」
「ガルガンチュアの起動確認に手間取ってしまったの」
「それならば、仕方ないですね」
だが、アルベドの答えに納得がいったのかすぐに引き下がった。
それを確認したのち、アルベドはみんなより一歩前、モモンガの目の前に行き、跪いた。
「遅れてしまい、大変申し訳ございません」
「よい、私が命令したのだ。それを怒る主人などいない」
「寛大なお心遣い、感謝いたします」
アルベドはモモンガに再び深く頭を下げたあと、音を立てずに跪いていた領域守護者達を一瞥したあと、その美しい顔をモモンガに向けながら言う。
「ヴィクティム、ガルガンチュアを除く各守護者、御身の前に平伏し奉る」
全員が頭を深く下げる。
それを見ていたモモンガは、社会人生活でさえ一度も味わったことがないような重圧に、胃を痛めたような感覚を受けたが、幻覚なのはわかっているため何とか耐え、一言言うことができた。
「うむ」
モモンガは上位者はへりくだらず、堂々としている方がいいと何かで見たことを覚えているので、先ほどまでのような偉そうな演技を無いはずの胃を意識しながらしてみる。
アルベドは、主人がもう喋らないのを確認したあと続ける。
「ご命令を。至高なる御方々。我らの忠義の全てを捧げます」
その言葉に続くように、全員が宣言をするように「誓います」と言った。
モモンガはその様子に少し、具体的には一度精神安定が働くほどには動揺したが、それでも持ち前の社会人スキルを使い、それらしく話し始める。
なお、その時テンパってしまい『絶望のオーラ』を消し忘れていた。
「素晴らしい。面を上げよ、守護者達」
その言葉と同時に全員が顔をおこし、モモンガをまっすぐと見つめる。
「お前達の忠義、今この場にいないパルパルとともに受け取っておく。大儀である」
そう言うと、守護者全員が嬉しそうな、今までの厳格な場所に暖かい雰囲気が漂う。
だが、それももう一度モモンガが口を開けようとした瞬間に切り替える。
「お前達の力があれば、今ナザリックに発生している問題も任せられると確信した!」
その言葉に声は出さないが、守護者全員からの安堵と歓喜の気配が感じ取れる。
「我ら守護者一同、及ばずながらも御方々の補佐をさせて頂きます」
「うむ、問題についてはちょうどいい、セバス皆に説明してくれ」
「はっ」
気配もなく、モモンガの後ろで待機していたセバスが立ち上がり、守護者全員にどこか知らない場所に転移したことや、調査にパルパルが自分の召喚MOBを使っていることを。
「モモンガ様、パルパル様は供に御自身の召喚獣一体のみなのでしょうか?」
「ああそうだ」
「であれば、ナザリックより供を送るべきだと愚考します」
「ふむ」
デミウルゴスに言われたことは確かにそうだ。だが、送った結果何か問題が起きた。何てことが起きないわけでもないだろうから、すぐに決めることはできない。
かなり言い方は悪いが、今のパルパルが死んだところで自分の体に戻るだけで、ペナルティも無い。
しかし、ナザリック内のモンスターを再召喚するための金貨は、腐るほどある。ならば、送った方が確かにいいだろう。それに、友の命はナザリックのモンスターと比べることなんてできない。
「デミウルゴスの言う通りだな。《八肢刀の暗殺蟲/エイトエッジ・アサシン》を五体、パルパルに送ってやろう」
尊大な態度で言ってはいるが、それは体裁上なだけで本心としてはデミウルゴスの提案に全面的に賛成だった。
「ではアルベド、後ほどパルパルの場所に送っといてくれ」
「はっ」
アルベドが返事をしたあと、モモンガは一度全員を見渡したあと、再び話し始める――その瞬間、突然頭になにかつながるような感覚が広がる。
それは先ほど体験したのと同じ、《メッセージ/伝言》を使った時の感覚だ。
『私だ』
『何魔王やってるんですか?』
間違えた。
先ほどまでと同じような口調で、ついパルパルに話しかけてしまったおかげで、短い時間にもかかわらず、かなりからかわれた。それこそ、精神安定が発動するくらいには。
その後も、もう少しからかわれるものだろう。そう思い構えていると、アルベドが話しかけてくる。
「取り込み中のところ、申し訳ございません。一つお伝えしないといけない事が発生しました」
「なんだ?」
「このナザリック大墳墓に侵入者が現れました」
「うぇ!?」
アルベドの突然の知らせにかなり動揺してしまい、念話でも声を出してしまった。それどころか、動揺しすぎてかけ直すことも言わずに切ってしまった。
だが、再び掛けられる雰囲気でも無い。
再びアルベドが話し始める。
「巡回人の情報によると、侵入者は一人の人間です」
「そうか、で今は何階層にいるんだ?」
「大墳墓の門の前で、何やら悩んでいるそぶりをしています」
どうやらまだ中には来てないらしい。
門の前で悩んでいるいうことは、おそらくここに入るかどうするかを悩んでいるところなのだろう。
「まだ内部に侵入していないとはいえ、今にも入ってくるやも知れないので、ご報告をさせていただきました。如何なされますか?」
「まだ中には入ってないのだろう?なら監視をつけろ。隠密性を重視しろ。あとワールドアイテムを保有しているようだったら、私に伝えろ、あと相手のレベルを測れるものに計らせろ。その時は看破系のマジックアイテム、スクロールも使用せよ」
とりあえず、現状維持だ。
全く情報の無い状態で挑むのは、戦術としては下の下だ。
――しかし、相手が話し合いをすることができたら?
「いや待て、相手はどんななりをしている?」
「少々奇抜な服装をしていますが、知性的な面も見受けられ、すぐに襲ってくるようなものでは無いそうです」
「ふむ、ならばここに呼ぼう」
「よろしいのですか?」
「ああ、今のこの状況。少しでも情報がほしい」
相手は血気盛んでは無いらしいし、話し合いをした方が建設的だろう。
それに、万一暴れることがあってもギミックも使えるナザリック内なら、カンストプレイヤーであったとしても、一人ならばなんら問題は無い。
それにいまはとにかく情報だ。
この近辺の土地、情勢の把握ができなければ動くのも一苦労だ。
その為なら、多少のリスクは負うべきだ。
――だが襲ってきた場合は殺す。
現段階では少し迂闊な行動ではあるが、ワールドアイテムをもし持っていた場合や純粋にカンストプレイヤー、またはそれに準ずるレベルの者だった場合、そんなものに逃げ帰らせる猶予を与えるわけにはいけない。
話し合いが決裂した場合、絶対に殺すか捕獲しなければならない。
そのためには、この大墳墓の資源を使うのも辞さない。
「とりあえず、アウラは隠密性の高いやつを連れて、マーレは後衛用、戦闘にシャルティアとコキュートス。そして交渉役はセバスに、そして全体の指揮はアルベド。守護者統括であるお前に任せよう。だが戦闘は向こうから仕掛けて来ないのなら絶対にするな。いいな?」
全員が了解の意を返してくる。
たっち・みーさんの作成したNPCにして、ナザリック内でトップレベルで人間に近い容姿をした家令のセバス。
人間と対話するのにここまで最適な者は、たぶんいないだろう。
メイド達は、レベル的に今回は不採用だ。
そしてモモンガはふと思った。
――パルパルさんの召喚MOBに頼めばもっと安全じゃね?
だが気付いた時には遅く、デミウルゴス以外の全員がいなくなったあとだった。
――まあ、もしもの時はギルド内に逃げれば問題無いか。
それでも危なそうなら、自分が出ればいい。
モモンガは心の中でそう結論付ける。
「デミウルゴス、お前はガルガンチュアの起動準備を頼む。よいな?」
「はっ!」
モモンガは、マントをはためかせながら、後ろを向く。
「私もこれから準備をしなければならない。後のことは、お前たちに任せる」
全部任せた。遠回しにそう言い残したあと、指輪の力を使い自室に戻っていった
―――
目の前が一瞬暗くなった後に、反転。
少し懐かしい自室に転移をした。
ここの来るのは久しぶりだが、実際に感触はある今と無い昔では、全く別の部屋に見える。
今までで一番ふかふかなベッドに身を投げ、すこしゴロゴロする。
右へ、左へ、数分の間ゴロゴロした後、ようやく考えが纏まり始める。
とりあえず、パルパルさんには行くと言った手前があるが、《八肢刀の暗殺蟲/エイトエッジ・アサシン》にその場を任して、帰って来てもらおう。できれば万全の状態で事に挑みたい。
考えを整理しながら、今回の事を頭の中で組み立てていく。
今回の侵入者は門の前で、何もアクションを起こさず悩んでいるという。偶然通りかかっただけだろか?
いきなりこの大墳墓ができれば、そりゃ誰でも悩む。
しかし、知っていて悩んでいたら?
もしも偶然でなかったら?――いや、この考えはやめよう。
もしそうであったなら、中々にめんどくさい。
100レベルNPC五人による圧殺で普通に勝てるだろう。しかし連携が取れるかがまだわからない守護者達では、もしかしたら被害が出るかもしれない。
守護者達は100レベル。よって一人頭金貨五億枚が必要になる。
宝物庫にはまだまだ金貨はあるが、それでも五億枚は少々大きい額で、金貨が獲得する手段の確立ができない今、それは避けたい。
だがこれはほとんど最悪のパターン。
外に行ってるパルパルからそのような情報が、まだ来ないし、まず無い事だと思ってもいいだろう。
それにあの子達は、俺たちの子供のような存在だが、子供では無い。自分でものを考えることの出来る、れっきとした大人だ。
そう思いつつも、立ち上がり装備棚を漁り始める。
調べている棚に入っている装備は、バフの効果時間を延ばす能力がある物や支援系のスキルの使える物が入っている。
「大丈夫かなぁ」
言い訳をしても、やっぱり不安だった。