リアルが忙しくて、不定期更新ですが、月一くらいのペースでは上げれるように頑張っていきたいです。
コートで隠した瑞々しい肢体をチラつかせながら、顎に手を置きながら私は目の前の建築物について考えていた。
ここら辺は数日前に、法国の人間が森の生物を間引く目的でやってきたはず。その時にこれに類似したような建築物は、報告をされていない。
されていたら、漆黒聖典まで絶対に話が回ってくる案件だ。
「一体なんだ?」
悩みを声に出してみるが、何も変わるわけでは無い。
少し見渡しても、辺りには人はもちろん、モンスターの影すらない。
近づき、壁に手を当てて感触を調べる。
外の温度に合わせて、壁はヒンヤリしていて、感触は非常にサラサラしている。こんな上質な素材は法国の最重要施設でも使われてないだろう。
そしてそうやって調べていけばいくほど、疑問は募っていく。
一体誰がこれほどまでの、建造物を二、三日で作り上げたのか?
考えても、該当するような奴はいない。
漆黒聖典の力を用いても、こんな事はできない。
帝国の全兵力を導入しても無理だし、王国は論外。
なら、もしやモンスター?
そう考えるのが、最悪の結果だがまだ納得はいく。
狭い人類の生存圏の中にいるような、私たちの知っている奴らなんてたかが知れてる。生存圏外の生物なんて数え切れないほどいるのだから。
だがそんな奴がなんでこんな場所に拠点を作る?
――侵略のため?
頭の中で最悪の考えが紡ぎ出される。
だが、この可能性が無い。そう言い切る事ができるはずがない。
漆黒聖典第十一席次が占った結果判明した事実。
私には関係が無い。そう思い無視してきた事だが、まさか直面する羽目になるとは思ってもいなかった。
よしんば違ったとしても、こんな大きさのものを二、三日でかつ誰にも悟られずに作成できる者がいるであろう。ここに居るのは化け物と言ってもいい奴らだ。そうに違い無い。
私は、すぐに踵を返して走り出そうとする。
ここからなら全力で行けば、法国まで1日あれば帰れる。
それにガゼフ暗殺のため、ニグンがこちらに来ているはず。
馬を拝借すればもっと帰るのが早まる。
今までの自分の所業を鑑みれば、帰ったところでどんな目にあうかあまり想像したくは無い。
だが、だからと言ってここから王国に逃げて騒ぎを起こすのはもっとまずい。
そんな事をして、法国がここを発見するのを遅らせてしまえば、下手すると人類の生存圏がなくなる。
そうなれば、私だって死ぬ。それだけはやだ。絶対に嫌だ。
「<疾風走破>」
迷いを振り切るよう、口で武技の発動を宣言しながら、脱兎の如く駆け出す。
そして立て続けに<能力向上>と<能力超向上>も使う。
そうすると、今まで目の前にあった謎の建築物から、すぐに離れる事ができた。
目一杯広がっていたものは、もう手のひらサイズにまで小さく写っている――はずだった。
「お嬢様。少しよろしいでしょうか?」
――――
『そういう訳で、そこは来てるやつに任せてこっちに戻ってください』
『ういー、了解です』
少し時間が経った後、外の警備を《八肢刀の暗殺蟲/エイトエッジ・アサシン》に任せて、俺が兵士と少し話をしているとモモンガさんから侵入者が来たから戻って欲しいと言われた。
この世界の住人での侵入者なら盗賊みたいなやつだろうか?
一人というあたり、ただの偶然というよりも盗賊みたいな窃盗目当てや、プレイヤーのような気がする。
まぁそこらへんは行って見なけれわからない。
そう結論をつけて、兵士に話しかける。
「いまから、ナザリックに戻るので、その間の留守をお願いします。朝まで戻ってこなかったら、再び旅に出ると言って戻ってきてください」
「了解しました」
俺は兵士と話を終えると、額に手を当てるようにして、スキルの解除を宣言する。
「精神連結、解除」
――――
「おかえりなさいませ。パルパル様」
意識を無事、自分の体に戻すと、ユリからの歓迎の声が聞こえた。
それを話半分に聞き流しながら、立ち上がり体を確認する。
先ほどまでの立派な肢体ではない、ただ8本だらりと伸びた軟体動物のような足、そしてどこぞの日本妖怪みたいに出っ張ったブヨブヨの頭。どこにも自然なところはない。転移後の自分の体だ。
最低でも二時間以上は体勢を変えることなくソファーに座っていたが、どこも痛いところはない。なかなかにハイスペックな体だ。
足を一本ビッタンビッタンと振り回して遊んでいたいが、そんなことしてたら、モモンガさんから『はよこい』と叱られてしまう。
なので、確認を終えたら闘技場に早く行ったほうがいいのだろう。
すこしめんどくさいが。
そんな俺に、ユリの追い打ちがかかる。
「行ってらっしゃいませ。パルパル様」
「はい、行ってきます」
退路は断たれるものらしい。
――――
「あっ来ましたか」
「きましたよー」
闘技場に転移すると、目の前にいた骸骨が朗らかに話しかけてくる。
普通に考えなくても恐怖映像である。
「それで、外はどうでしたか?」
「良いものでしたよ、リアルの狂った環境しか知らない者からすると、本当新鮮なものしかありませんでした」
「それは羨ましい」
リアルの人口肺やガスマスク、防護服がないと生きていけない環境にいた、俺にとってここの光景は本当に新鮮なものだった。
ガスで見えなかった月。映像でしか見たことのなかった草原。そして今ではすぐに腐ってしまう関係でどこにもなかった、畑に森。
何を見ても新しいものばかりで楽しかった。
そう思いにふけっていたが、頭を振る。
今は一応侵入者とやらが来るらしいし、こんな浮ついた気持ちでは、もしもの時対処ができないかもしれない。
モモンガもこちらの雰囲気を感じ取ったのか、切り替えて話しかけてくる。
「取り敢えず、私が認識阻害を併用してバフをかけておくので、パルパルさんは護衛と身代わりを用意してくれませんか?」
「あっ了解です。」
俺は藁人形を二つと、黒騎士、そしてカースドゾンビを五体召喚する。
「《サモン:ダークネスパラディン/召喚:黒騎士》《ダークコーリング/外法召喚》《ピティドール/身代わり》」
目の前には、赤黒い鎧を着た男と、全身が紫色のゾンビが五体跪いている。
「再びお目通りできること、光栄の至りでございます。して、今回はどんな御用でしょうか?」
「これから来るものからの護衛です。黒騎士は目の前でヘイト管理をしてもらい、カースドゾンビは目の前の地面で待機して下さい」
「――は」
そう言うと、カースドゾンビ達が地面へと潜り始める。
カースドゾンビ。こいつらは地面に潜み、上を通った瞬間にデバフをかけまくったうえで、そのまま地面に引っ張り込み動けないところをタコ殴りにするという、害悪モンスターの一匹だ。
しかし、耐性の暴力で普通に突破できてしまうので、召喚士系のスキルで強化しないとそこまで使えるやつではない。
だが、強化ができるのならかなり強い。
こいつらの使えるデバフのステータスダウン、行動不能。その二種類に完全耐性をつけられる奴は中々いない。
だから見えないこいつに強襲をされると、pvpなどでは即死する危険性がかなり高い。
まぁ、レベルの暴力でゴリ押せるので、足枷以上の働きは期待できない。
そして目の前にいる黒騎士。こいつは兵士をタンク特化にした者だ。こいつが相手を阻んで、その隙にカースドゾンビでデバフをかけまくる。
相手が一人ならこれで十分だろう。突破してきても、100レベルNPCが六人いるのだ。絶対に負けるはずがない。
「こんなんで良いですか?」
「はい、大丈夫です。これなら三人くらいまでなら対処できるでしょう」
「まぁそうですね。ほい」
モモンガに藁人形を投げ渡す。
この人形には、持っている者がクリティカルを被弾した時に、肩代わりしてくれるもの。これで万全の構えになっただろう。
「そう言えば、モモンガさんは侵入者とやらの格好は知ってるんですか?」
「いや、奇抜な格好をしてることしか」
「ユグドラシルの初心者並みだったら腹抱えて笑う自信あります」
「流石にそのレベルではないでしょう。たぶん」
こんなガチプレイヤーでさえはめ殺し可能な布陣を作っておいて、その程度の実力なら、すこし、いやかなりやるせない。
「そういや、村でちょっとここら辺の話を聞いてきたんですけど、来るまでに話しますか?」
「あ、お願いします」
俺は、周辺国家の大まかな概要、位置を教えた。
「こんな感じです。これからどうします?」
「そうですねぇ、取り敢えず一番近い王国にでも行きますか?」
「それでいいと思いますよ、少なくとも法国よりはマシですし」
「法国にこの格好で行ったら、全面戦争不可避じゃないですかやだー」
法国は当分関わらないほうがいいだろう。そう二人で結論を出す。
「じゃあ、ここを隠蔽する必要も出てきますねぇ」
「隠蔽するんですか?」
「もちろんですよ、なにか起きてからでは遅いですし」
「えー、なんか隠蔽系のアイテム使うんですか?」
「いや、それに合わせて地面をいじって視覚的な隠蔽もする気です」
「そこまでするんですか?」
「しますよ」
モモンガは「いいですか?」と前置きをする。
「そもそも、ここは未知の世界です。右も左もまだまだわからない今。何が起こるかわからない状況にいるんですよ?なら最善を尽くしていかなければ、後々のことで泣きを見るかもしれないじゃないですか」
「まあ、そうですけど」
言っていることは、理解することはできる。
こんな状況で、そんな小さなこだわりなんて捨てたほうがいい。自分の命よりも大切なものではないのだから。
だが、理解はできても納得ができない。
みんなと作り上げた、ナザリック地下大墳墓。ここを視覚的に見えなくするのは、なんか隠れるみたいで嫌だ。そう思ってしまうのだ。
子供らしい理由と言えばそれで終わる。
だが、なぜかこの考えを捨てることはできなかった。
諦めきれない俺は、なんとかモモンガを説得しようと試みた。
しかし、暖簾に腕押し。ギルドマスターとして、それは出来ないと幾度と首を横に振られた。
そこで俺は業を切らしたように、大声を上げる。
「じゃあ、擬似pvpで決着をつけましょう!」
「はぁ、じゃあいいですよ。私が勝ったら、隠蔽アイテムを使いつつ、視界的にも隠す。パルパルさんが勝ったら、隠蔽アイテムのみ。これ以上は認められません」
モモンガは呆れたように、条件を言った。
それに俺はうなづく。
「はい、それでいきましょう」
「今回だけですからね?」
「迷惑かけてすみません」
「気にしないでください。気持ちはわかりますので」
「そうですか。じゃあ、来るまでpvpのルールでも確認しません?」
「いいですよ」
二人でルール確認をしようとした時、二人同時に《メッセージ/伝言》がかかってきた。
『アルベドです。件の女を捕獲しました。今から闘技場に向かっても宜しいでしょうか?』
『あぁ、問題ない』
『大丈夫ですよ』
『かしこまりました』
その後、目の前に黒い門のようなものが出現し、中から記憶にない人間種の女が一人と、守護者が出てきた。
女はひどく怯えている様子でこちらを見てきていた。
俺は申し訳ない気持ちを抑えつつみていると、モモンガさんが藁人形を後ろに隠しながら、尊大な声で話し出した。
「ようこそ、我らのナザリック地下大墳墓へ」