「ようこそ、われらがナザリックへ!」
モモンガさんはラスボスじみた尊大なポーズをとる。その様子は昔奮発して買っていた、特殊エフェクトと相まってなかなか様になっていた。
俺はそんなモモンガを傍目に、後ろに控えていたアウラに向けて≪メッセージ/伝言≫を使う。
『アウラ、こいつのステータスはどの程度でしたか?』
『だいたい35レベル程度のステータスでしたが、スピードだけは一瞬40レベル程度まで上がっていました。
しかしそれ以上に特筆する事もありません。武器、防具共にゴミです。御身に危害を加えることはまずあり得ませんが、隠蔽系アイテムで偽装している可能性も捨てきれません。もっとも武器の質から言って殆どないかと。偽装するにもランクが低過ぎます』
『そうでしたか。詳しいところまでありがとうございます』
『そ、そんなお礼だなんて』
≪メッセージ/伝言≫を切ったあと、適当に受け答えをしているモモンガさんにもこのことを伝えるか考えるが、やめる。
隠蔽系アイテムで偽装している可能性が少しでもある今の状況で、変に緊張を緩めるのも駄目だろう。
そう判断をつけた後、俺は隣にいる黒騎士に指示をするために目を向ける。
すると黒騎士はそれに答えるかのように、何も言っていないのにすり足で一歩前に出た。
そこは自分が頼もうとしていた「モモンガさんの護衛」に最適な位置だった。
……もしかして思考全部筒抜けになってる?
こちらが何も言わずとも、黒騎士がこちらの言わんとした行動を取った。ということは今考えていることが筒抜けになっているのではないだろうか?
いや、ゲームの時と仕様が似ているのであればあり得ない。
確かにユグドラシルでも最初期は召喚獣への指示は思考操作のみですることが出来た。しかし、その後対PK戦で余りにも強すぎるとの苦情が殺到したためコンソールで指示を出す形式に調整をされた。
この何処かシステマチックな現実ではコンソール操作に似た行動――大方声で指示するなどになっているだろう。
さっきのはただ察しが良かっただけ。おそらくそうだ。
それにもし筒抜けだとしたら、まぁその時はその時だ。
この様子見てる限り裏切って刺してくる。なんてこともなさそうだし恥ずかしさ以外問題はないだろう。
とりあえず頭を切り替えて周りを見てみる。
周りはさっきと変わらず、モモンガさんは今来た女性と話していて、守護者達はそこから少し離れた場所にいるが、誰もがすぐに動ける姿勢をさりげなく取っている。
そしてモモンガさんに跪きながら会話をしている女性は、よく見ると全身が震えていた。
「ならば、おまえは法国出身者なのか?」
「はい。ですが私には国を思う気持ちはありません」
「ふむ」
どうやらこの女性は法国出身者らしい。
特殊技能でも怯えが見えてる以上、嘘は言っていないだろう。
しかし法国か。
あの村の村長の話によれば、あそこは、人族至上主義。
人外の巣窟であるナザリックを見せた今、このまま返せば密告される可能性も十分にある。
防衛戦なら基本負ける気がしないが、資源の確保ができるかわからない今の状況で、国との消耗戦をするなんて悪夢とも言えるだろう。
確か魔法のなかに記憶の操作ができるやつが確かあったはずだ。ゲームでは抵抗されなければ相手を一時行動不能にするという微妙なものだったが、フレーバーがそのまま実装されているこの世界なら期待どうりの働きをしてくれるはず。それを使えば上手くごまかしが効くのではないだろうか?
だが、何も聞かずに実行するのは些か短絡的とも言える。
俺はモモンガさんの横に立ちながら、表情のない顔で自分なりの笑顔を作りながら話しかける。
「すみません。少し宜しいですか?」
「は、はい!何でしょうか?」
今まで黙っていた奴が突然質問して来たのに驚いたのか、少し目を見開きながら此方を見てくるのを無視しながら、俺は質問を続ける。
「私たちはここら辺の地形に実は詳しくありません。宜しければ教えてくれませんか?」
「分かりました―――」
この女性――クレマンティーヌが伝えてくれたことをまとめると、ここは王国の領土内で近くには何個か村がある。
そしてその近くには三匹の主がいて三すくみ状態になっているドブの大森林がある。
さらにその近くにはアンデッドの湧きやすいカッチェ平原がある。
だいたいそんなことを言っていた。
村長から聞いた話と照らし合わせても違うことは言っていないし、感情にも変化はない。嘘は言っていない。
重ねてもう一つ尋ねる。
「ならばもう一つ。貴方、なぜ一人でここへ?」
その瞬間、相手の感情は一気光った。
ここでの回答次第では、この後不慮の事故を起こせる。
クレマンティーヌの今の心情はランプが何回も点滅するようなものになっている。焦り、だろうか?
顔は全くのポーカーフェイスでそんなに変化はしてないが、内心では少なからず動揺しているのだろう。
「聞いたところによると、ここはアンデッドの出るカッチェ平原の近郊。討伐目的でも一人はおかしいし、王国に行くにしても一人で行くのはもっとおかしい。その理由を聞かせてもらえませんか?」
「そ、それは...」
さらに点滅が激しくなる。
何か言いにくいことがあるのは確定だが、それは一体なんだろうか。
王国領であるここに単独でくる理由は一体何か?……いや、前提が違う?
――個人ではなく法国としてここにきている?
「!?」
『なんか動揺してますけど、大丈夫ですか』
『ダメです。考えまとまったら話します』
『え?』
≪メッセージ/伝言≫を無理やり切りながら、目線でモモンガさんに謝っておく。
そうしていると、今まで焦っていた感情が無理やり抑えられていくことが自覚できる。2度目の発動になるアンデット種族特有の能力だ。
邪魔なものだと思っていたが、今だけは感謝できる。
だが、気持ちが落ち着いたとしても、現状が変わるわけではない。もしこの考えが当たっていて、クレマンティーヌが法国の指令でここにきていたとすれば、今このまま送り返すと確実にここの場所が知らされてしまう。
いや、もしかしたら今もう知らされてるかもしれない。
先ほどはただのレベル35の雑魚と思っていたが、味方との連絡に特化したビルドをしているかもしれない。それなら育ちが遅くても納得できるし、今単独で動いていることも納得できる。35程度のレベルでビルドが完成させられるのであれば、捨て駒として使うにはかなり便利だ。国という大きな枠組みでの考えとなればそう思うのだろう。
だが幸いなことに、このギルドに入れた時点で出るまでは阻害効果が掛かっているから、こいつから知らされることはないが、それはあくまでこいつからだけだ。
もしかしたら今もう外で探索してるであろう、他の奴に発見されている可能性は大いにある。そう考えると、すこしでも発見の可能性を減らすために、こいつを少なくともこのままの状態で返す選択肢はほぼなくなる。
だが、返さないとなると国が不審に思いこいつの捜索範囲内。つまりこのナザリックを見つけにくる。
他の国――王国や帝国ならまだ融和の道はあるかもしれないが、人類至上主義の法国にそんなことは期待できない。
考えろ。
どうすればいける?
このまま戻してもダメ。記憶操作をしても、何らかの拍子に解けてしまえばその時点でダメ。そもそも記憶を誤魔化せるかが今の状況ではわからない。
……いや、少し待て。
――ここ、確か王国領の中だっけか。
それならば、全部王国が悪いことにすることができる……?
シナリオとしては偶然王国の兵士が巡回中に発見。そして戦闘になり打ち取ってしまう。こいつは50にすらいってない雑魚だ。戦闘になれば確実に打ち取られるはずだ。
そしてそうなれば当然だが全部王国のせいになって、俺たちがやったことにはならないし、全部闇の中に消える。
そんな風に偶然が重なって起きた国家間の対立もあるとぷにっと萌えさんから聞いたこともある。
おそらくこれが一番いい。だが、あくまで個人の考え。相談をしなければ。
目の前のやつは……取り敢えず黙っててもらおう。
「あの……どうかしましたか?」
「――カーストゾンビ」
俺が合図をすると待ちわびていたように、カーストゾンビが一斉にクレマンティーヌの足を掴み、地面へ引きずり込んだ。
「は!?な、なんで!」
「デバフかけながら眠らせてください。そしてそのまま拘束をお願いします。……デミウルゴス。細かいところはあなたに任せます」
「はい。このデミウルゴスにお任せを」
「はい。……モモンガさん」
「は、はぁ」
俺は困惑するモモンガさんと共に、円卓の間に転移した。
♦︎
「それで、どうしてあんなことをしたんですか?」
俺とモモンガさんは今円卓の間にいる。
モモンガさんは俺がいきなり交渉相手を手酷く扱ったことに対して、怒りというよりも困惑を感じているように見えた。
「突然やってしまってすみません。でも、あれが法国からの者だと考えるとああやるのが一番だと思ってやって見ました」
「そうですか?何も話してないのにいきなりあんな事するのは、流石に短絡的だとしか思えません」
「そんな事ありません。このままおめおめと返して、人類至上主義の法国に知られてでもしたら、きっとここに襲撃の来ます。だから殺してしまうのが一番です」
「……セバス辺りを交渉に出せば問題ないと思いますが?」
「ですけど」
「大体!」
モモンガは俺の話を遮る形で、自分の意見を言う。
「……いきなり殺すだなんて、どう考えても手が早すぎます。そんな事をせずに、比較的人間種に近いものを窓口にしてお互いに歩み寄る事だって出来ます。殺すのは最後の手段である方が良いに違いない」
「確かに、俺も短絡的すぎたところはあります。でも」
「――良い加減にしてください」
モモンガさんは椅子から立ち上がり、真正面にいる俺に向かって叫んでくる。
「いいですか、私たちは人間です!そんな暴力的な手段に出なくとも相手とコミニケーションを取ることのできる、この口があるじゃないですか!……とにかく、殺しは無しです。代案を考えましょう」
「……わかりました。短絡的に言ってしまい、すみません」
「それを言うのなら、こちらこそ遮る形で言ってすいませんでした。さっきの言いかけた話を教えてくれませんか?」
「はい――」
俺たちはこの後、あーでもないこーでもないと言い合っていた。
その際に出て来た問題は、まずクレマンティーヌの処遇。融和を言っていたモモンガさんでも、流石にこのまま返すのはまずいと判断した。そうして出た案としては――
まず一番最初に言った全部王国のせいだ作戦。
だがこれはあくまで最後の手段。殺した後では弁明するのは難しい。
そして二つ目に出た案は、モモンガさんが言っていた徐々に融和して行く人類皆トモダチ作戦。クレマンティーヌをなんとかしながら、人間種に近いものを使い少しづつ歩み寄る。確かにうまくいけば会話だけで終わらせられるが、クレマンティーヌを生きたまま法国に返すのが一体どうなるかわからない怖さがある。
そして三つ目として出たのは、二人での共同案。クレマンティーヌを生きたまま王国に引き渡して、その後この場所をアイテムや地形で隠して引きこもる。ばれにくい、と言う点では一番な気がするが、それをするとほとぼりが冷めるまで隠れなくてはいけなく、資源確保ができるかわからない今の状況では、終わりの見えない潜伏をする余裕は正直ない。
そうなるとやはり……
「じゃあ、私の案で行くことに問題はないですか?」
「はい、それが一番良さそうですね」
大体の二時間くらいであろう時間を尽くして考えて、その結果出た考えだ。これ以上多分ないだろう。
実際、ここにうちのギルドの参謀長ぷにっと萌えさんがいれば……なんて思わない。とは言えないがない人に頼っても仕方ない。
……だが
「……俺の先走りで苦労させてすみません」
一番最初に俺がクレマンティーヌにあんな扱いをしないで丁重に扱っていれば、ここまで事は拗れなかったのが容易に想像できる。
……もし、モモンガさんが一人でここに来ていたとすれば俺よりももっと上手くやっていただろう。
そう思っていたら、モモンガさんが息の吸えない体で少し笑った。
「いいですよ。うちの会社に入って来てた新人の話でもします?条件反射で殴りたくなりましたよ、あっちは――」
モモンガさんはいかにも起こっているかのように、その新人についての不満点を続々と上げていった。
その話は昔オフ会でモモンガさんが話した内容と全く同じだった。
「……なんですかそれ」
「ホントですよ!なんどあいつにイラつかされたか……!!」
モモンガさんはいかにも不快だったとでも言うような態度を取っている。俺はそれを見て少し気が楽になった。
「じゃあ、クレマンティーヌ……でしたっけ?あの人とまず話してみましょう。いい人だったら黙っていてくれるかも知れませんよ?」
「そうですね」
♦︎
「あ、あー、ああぁぁぁぁぁああ!!!」
「これはこれはモモンガ様にパルパル様。全て問題なく準備できています」
「あー……はい、有難うございます」
『どうしましょう!なんかすごいことに!?なんか案を!案を!!』
『そんな案があったら俺が聞きたいよ!!』
なんか大変な事になってました。
報連相マジ大事