シュレディンガーのゴミ箱   作:テンガロン

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02.永劫に刻まれた悲劇の序幕

 

 それから数十分程の短い時間――されど、冬樹の体感時間的にはとても長い――が経過し、一通り家の中を歩き回った冬樹は、ようやくお目当ての物を発見したのであった。

 

「普通にリュックサックの中にあったのか……、ま、飾ったりはしないよな……これ重要な物だし」

 

 先程まで血で濡れていた指先で愛しい物を撫でる様に、その感触を確かめる。すぐに手は洗ったが、中々落ちずに苦労した。結局妥協し、ある程度の赤みは許容範囲としたのであった。何事も妥協が大切である。少なくとも、ここにいる冬樹はそう考えて日々行動をしている。

 銀色のケースの側面に設置されたボタンを指先で押す。それだけの動作で、ケースは簡単に開き、中に収められた物体が姿を晒した。両腕で掻き集め、じゃらじゃらと手先でこねくり回して弄る。

 

「……これが、バッジ……ね」

 

 冬樹が欲していた物――それは、ポケモンジムと呼ばれる施設を勝ち抜いた者にのみ贈られる、ジムバッジと呼ばれる物であった。最も、この小説を読んでいる者で存在を知らない者はいないと思われるので存在は端折るが、要するに実力者のみに与えられる認定証。

 そしてそれは――悪用すれば、恐ろしい機能を秘めている。

 

「……こんな鉄屑一つで兵器を自在に操れるなんて、さながらミサイルの発射ボタンみたいな物かな」

 

 苦笑する。じゃらり、と手の上で音を立てる、8個の塊。

 ここで、この塊についての解説を挟もう。

 ポケモンは、基本的にモンスターボールを投げて捕まえたトレーナーにしか懐かない。つまり、他人と交換したポケモンは懐かないのだ。……至極当然とも言える。

 例を挙げよう。今まで相棒のように扱われてたポケモンが、ある日突然主人に別れを言い渡され、そのまま他人の下へと譲渡されたら。……新しい主人に、懐くか? ――否。

 最も、トレーナー自身のレベルが高ければ別だが、ポケモン自身のレベルを数値化して、50を超えるポケモンを懐かせられるトレーナーなど、数える程しかいないだろう。ましてや、レベルが80を超えたらどうだ? 最早、人の及ぶ範囲ではない。

 

「えーと、『全てのポケモンが命令を聞くようになる』ってバッジがあるんだっけか……はは、最早洗脳だな」

 

 そういった事態に対し、開発されたのがこのバッジ。実力を認めたトレーナーに対して与えられ、人と交換した高レベルのポケモンに命令を与える事が可能になる。

 

 

 忠実な兵隊の完成だ。

 

 

「あっけないな。そんなに一目を気にする必要も無かったかな? ……いや、バッジ手に入れる前に見つかってたらそこで終了だし……ま、結果オーライ」

 

 

 少年は、チャンピオンを包丁で殺害した。

 高レベルのポケモンを奪った。

 それを使役する為のバッジを手に入れた。

 

 

 最早、何も恐れる事はない。

 自分の手に握られた武力を、ただ思うがまま振るうだけ。

 

 

 

「リュックの中に色々入ってて助かったよ」

 

 

 ポケモンの技やステータスなどが判別できる、ポケモン図鑑やら、各種回復アイテムやら、地図やら、携帯食糧やら、色々なアイテムが収められたチャンピオン仕様のリュックサック。

 決して危険思想を持った人間には渡してはいけないような、恐ろしい兵器と便利なアイテムは……今ここに渡ってしまったのだ。

 

「そんじゃ、そろそろ行きますね。……この街を、壊さなきゃならないんだ」

 

 家主を失った家に挨拶し、バッジをズボンのポケットにしまう。持ってるだけで効果があるらしいので、これで大丈夫だろう。

 ベルトに収められた6個のモンスターボールの中には、高レベルのポケモン達。ダイヤというトレーナーが使役していたそれは、戦いの道具から破壊の道具へと変容していた。

 2Fから階段を降り、廊下をとてとてと歩く。

 

「貴方に罪があるとしたなら――」

 

 

 それは過去の記憶。

 数日、いや数週間前か。時間の感覚は、もう曖昧だ。

 街に買い物に来ていた冬樹に、投げられる重い物体。

 子供たちは嘲笑い、大人たちは冷ややかな目を送る。

 慣れた。痛みにも、傷にも、誰も助けてくれない事にも。

 何も悪くない。でも、悪い? 皆死んでしまえばいい。

 そこでばったりと途切れた石の飛来。

 歓声が上がる。冬樹の目には、かつて憧れた存在。

 テレビジョンで眺めた、チャンピオンの姿。

 

 

 

 彼は――

 

 

 

「僕を助けなかった事だ」

 

 

 冬樹を一瞥し、何事も無かったかのように人々に視線を戻した。

 彼には力があった。この無意味な迫害を止められるだけの。

 けれど、それはしなかった。

 人々に嫌われるのが怖いから。

 自分を慕い、尊敬する者達が一人の少年を庇う事で幻滅する事を避けたかったから。

 だから見過ごした。何も見なかった。たった一人の無力な存在を。

 

 

 ダイヤ。

 殿堂入りを果たした強い男は――少年の中で、かつて尊敬していた存在から、無価値な人々の仲間入りをした。

 

 

「恨みはないよ。僕だって、同じ立場ならやり過ごしたさ。助けたら、御礼が出るわけでもない。合理的さ。だって、街にいっぱいいるファンが消えるなんて、耐えられないもんね」

 

 

  彼は何も言わない。

 

 

「そんじゃ、貴方のポケモンで貴方の育った街を、貴方と過ごした人々を、貴方を愛した人々を――」

 

 

 

 

 

  彼は何も言えない。

 

 

 

 

 

「     殺します    」

 

 

 

 

 

  彼は何も知らない。

 

 

 





あとがががががががががき


今回の話はあまり内容進みませんでしたねー
次回からさくっと急展開になりますので見捨てないでくださいな。

 ついでに一言。



 彼は何も悪くない。



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