シュレディンガーのゴミ箱   作:テンガロン

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ポケモンの描写なんて出来るだけの文章力がないので
ネットで画像なりを探してくれた方がイメージしやすいと思います……
今回登場のポケモンとかね。




 かんらんちゅうい
         ※


03.死神に魅入られた哀れなる凡人

 

 靴を履きなおし、リュックサックを背負い、モンスターボールが取り付けられたベルトを腰に巻き、家を飛び出す。気分は清清しくも、憂鬱でも、なんともなかった。ただ、虚しい――自分がちっぽけな存在に見えて、自己嫌悪に陥った。

 話題を変えよう。リュックサックの中に仕舞った、赤いポケモン図鑑が記憶を過ぎる。図鑑としての機能だけではなく、所持ポケモンの数値化した強さやデータが見れるというのは、便利な物だ。

 

(ポケモン図鑑で見たステータス……レベル90超えって、やはりチャンピオンって凄いんだなあ)

 

 冬樹が子供の頃から、最高レベルが100とされてきた。1~100という数字の中で、90に位置する……後半も後半だ。彼が今自身の手で殺害した相手に憧れるのも最もな話である。

 朝の日差しが、場違いな程に照り付けていた。雑草が生い茂る庭を確かな足取りで進んでいく。手入れされていないのが丸分かりだが、どちらにせよもう主人が手入れする機会など永遠に来ないだろう。

 

「んー……」

 

 門を出た先で、全身に疲れが訪れる。倦怠感。だが気をとられている場合ではない。現状、一応は順調だ。懸念事項があるとしたら、奪ったバッジの効果が正しく働くかどうか。

 正確な情報など入手出来なかったが、不正に手に入れたバッジが果たして洗脳装置の役目を果たすのか? ――わからない。ただ、これ次第で最強の犯罪者、或いは間抜けな道化師のどちらかに傾く事になる。それははっきりとしていた。

 さて、どう試した物かな――、なんて事を考えていると、静かな住宅街に賑やかな声が響く。ここで初めて冬樹はびくり、と身を震わせたが、既に武力を手に入れた後だ。落ち着いて深呼吸をすると、不安は急激に冷めて消えた。

 

(……あれは)

 

 声の方角に視線を向けると、近づいてくる二つの人影。背後を向いたまま、笑いながら走る少年。それから遅れて、疲れたのか息を切らして笑いながら追いかける少女。

 其れを見た瞬間、どくん、と更に心臓が高鳴る。それから、にぃ……、と自分でも気付かぬ内に、邪悪な笑みを口元に貼り付けている事に気付く。

 

(よりによって、最初に出会うのが『こいつら』ってのは、神様……どう考えても、出来すぎじゃないですかね?)

 

 冬樹のような弱者を苛めて楽しむ人間がいる。

 こいつらはそのカテゴリに属する。

 もし一般の少年が苛められてたら、必ず復讐を決意する程非道な事を仕出かしてきた二人。

 しかし冬樹は、何も思わない。無関心。ただ、どうでもいい存在。道端の小石、あるいはそれ以下。暗闇に広がる黒。それくらいの、風景ですらない、無。

 

「……うわー! 朝から嫌な物見ちまったよ!」

「ほんとー! 絵里、ちょっと吐きそうっ」

 

 こちらを指差し、けたけたと笑う少年。そして、少年に追いつき、彼の横にぴったりと並んだ少女。こちらから見れば少年の左だが、向こう側から見たら右の位置。

 

「あ? お前何笑ってるの? ……気持ち悪ぃな……」

 

 そう言って、いつものようにモンスターボールを取り出し、地面へと投げつける。その動作で、球体からポケモンは姿を現し、冬樹を威圧するかのように、意地の悪い笑みを浮かべた。

 最も、このポケモンが冬樹を攻撃する事は無い。この少年が命令する事も無い。もしそうなれば、冬樹のようにトレーナーとしての資格を剥奪されるからだ。

 苛める側だからこそ、苛められる側に回る事を嫌がる。だから、この少年はポケモンを出し、威圧するだけ。苛めるのは、少年自体。

 

 

 ただ、この条件には、あくまでもトレーナー有利に働いている。

 もし冬樹が少年に反撃をした場合、トレーナーによりポケモンの使役が正当防衛として許可されているのだ。――生身のトレーナーに、軽い反撃を、だ。

 

 

(意味がわからない 何故平等じゃないんだ?)

 

 

 誰が決めたかそんなルール、ぶち壊してしまえばいい。

 全てのトレーナーに報いを。世界を、はじめからやり直せ。

 武器はもう、手に入れたのだから。

 

 

「へっ、いつも通り怯えたらどうだ? この宗次朗様のブーバーンにな!」

「きゃー! 宗くんかっこいいー!」

 

 

 体感温度が5度は上がったように感じる。むわっ、とした熱気が身体を包む。赤と黄色で構成されたデザイン。一言で説明するのなら、巨漢。

 真紅の炎に燃え盛る頭。両肩からはキャンプファイアーのようにごうごうとやはり炎が輝いており、そこから腕へと進むと、大砲の筒のような、奇妙な両腕が見える。赤と対比するような見事な黄色のそれの真ん中には、手錠のような黒い輪が填められている。

 卵のような胴体に赤と黄色のコントラストが斜めに塗られており、ピンク色の足は細くは無い物、太い胴体を支えるのには力不足な気がしてならない。よく支えられる物だ、と冬樹はいつも感心した。

 ブビィ、ブーバーの進化形、ブーバーン。炎タイプ最強候補の一角と呼ばれるだけはあって、十メートルは距離があるというのに、その熱気は収まる事を知らない。

 宗次朗を庇うかのように前方に現れたそれは、不愉快その物な顔で冬樹を威圧していた。

 

 

「……で?」

 

 

「あ? 何か言ったか?」

「はっきり言いなさいよ、あんたの声なんて聞きたくないけどね! くすくすくす……」

 

 

 宗次朗という少年は、若干14歳ながらこの街では相当な実力者だ。ブーバーン一体を育て上げた彼は、いつかはチャンピオンになると将来を期待されていた。

 その宗次朗を――自分に石を投げ、泥を投げ、嫌がらせと暴力を繰り返した存在を――冬樹は心の奥底で憎んでいた。当たり前だ。いくらどうでもいい存在と言い訳しても、人間の持つ最も重要な感情――負の感情を抑えられる訳も無い。

 

 

  今、冬樹の思考のほぼ全てを占めていたのは

  どうやって、この男に復讐をしてやるかという一点

  一番苦しむような方法で、復讐の心を抱かせてやる

  そう考えが浮かんだ時には、彼の脳細胞は動き出していた

 

 

「何時までも調子に乗れると思うなよ」

 

 

 だから笑った。

 そこで初めて、冬樹は歳相応の、屈託の無い笑みを見せた。

 

 

 腰に巻きつけたボールの一つを手に取り、空高く、投げつける。回転が加わり、ふわり、と宙に舞う球体。

 宗次朗、絵里の両名は勿論口をあんぐりと開けて驚いていた。今までポケモンを持たず、苛められていた存在が……、ポケモンを持っている? ――それだけで、驚くのは充分だった。

 

 

(それじゃあ――)

 

 

「なっ お、おまえ――」

「そ、それってダイヤさんの――」

 

 

 

 言葉なんて、喋らせない。

 

 

 

       「お前はまず死ね」

 

 

 

 

  微かに風がうなるような音が鼓膜を通過した。

  擬音で表すのなら、ごぉ、とかぶわ、とかそんな音。

  頬を伝う風圧は、秋の到来を感じさせてくれるような、不気味な程にひんやりとした風。

  前方のブーバーンの熱気に当てられた体温が、下がっていくのが感じられた。

  唐突。あまりにも唐突に、そして違和感無く放たれたそれが自然現象などではなく攻撃だと気付いたのは――何か、液体のような物が宗次朗の右横から飛来してきてからだった。

  右横。右横。右横。

 

 

「……え?」

 

  

 右横。右横。右横。右横。右横。右横。右横。右横。右横。右横。右横。右横。右横。

 右横。右横。右横。右横。右横。右横。右横。右横。右横。右横。右横。右横。右横。

 

 

「……え?」

 

 

 右横右横右横右横右横右横右横右横右横右横右横右横右横右横右横右横右横右横右横右横

 右横右横右横右横右横右横右横右横右横右横右横右横右横右横右横右横右横右横右横右横

 右横右横右横右横右横右横右横右横右横右横右横右横右横右横右横右横右横右横右横右横

 右横右横右横右横右横右横右横右横右横右横右横右横右横右横右横右横右横右横右横右横

 

 

 

    そこには――

 

 

 

              ――何が"居た"?

 

 

 

「エアスラッシュ」

 

 

 

 冬樹の口から技名が宣言されたと同時に――

 

 

 

「あ、ああ。あ、あああああ? ――ッ!! 

 

 

  あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 頭から股先まで、文字通り、縦一文字に真っ二つに切り裂かれた絵里という少女が、宗次朗という少年の絶叫を合図としたかのように、血と臓物を撒き散らして崩れ落ちた。

 

 

 




00~03
甲:マーマレード・パレード
おわり


04~07
乙:ハイテンション・ジャンクション
つづくよ
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