「ダリィ…」
夏の暑さから逃げるように休憩室へやってきた俺は机に突っ伏して冷風を浴びる。今は午後の回診の時間だから外科部はみんな院内をうろついてるはずだ。
だからこの時間はだいたい俺が休憩室を独占してる。
だらけながらお菓子を食べて、雑誌を枕にまどろんだりして。ここでの時間はわりと一日の中で至福の時だったりする。
だけど俺の至福の時間を破壊するように扉の開く音が聞こえた。
もし来たのが伊達川ならうるさそうだから寝たふりをしておくか。でも徳川なら怒りもしないからいいか。そう思いながらとりあえず寝たふりを決め込んで耳を澄ませる。
音の主は椅子を引いて座ると音を立てなくなった。もしかしたらこれは浅日が論文か何かしに来たのかもしれない。あいつなら気を使って音を立てないようにくらいしてそうだ。
ああでも甘いものたくさん食べたし、エアコンは涼しいし。このまま普通に寝ても良さそうだな。
どれだけ寝ていたのか、気づいたら周囲がかなりうるさくなっていた。
伊達川の笑い声が聞こえて目を覚ました俺は頭を持ち上げる。
すると正面の椅子に浅日がいて、いつもの笑顔を向けてきた。
「おそようございます」
「おはようじゃないのか?」
浅日の変な挨拶に徳川が真顔で問いかける。すると浅日は時間が遅いからと笑顔で言いやがった。こいつらほんと天然コンビだな。
「ユキちゃん」
ふたりの少し抜けた会話を眺めていると伊達川に呼ばれた。まさかここから説教タイムかよ。
「その上着、返して来なければならんぞ」
だけど伊達川は俺の肩を指差して言う。何の話だと目を向けたら俺の肩に見覚えのある羽織がかかっていた。
「あいつここに来たのかヨ」
「あの、俺がここに来たときに、入れ違いになりました」
いつの間にと疑念を抱いた俺に浅日が教えてくれた。
………ってことは、最初に来たあれは浅日じゃなかったのか。
「ユキちゃん、冷房の風が当たるところで寝てはいかんと……」
開始された伊達川の説教を無視して立ち上がった俺は逃げるように休憩室を出た。
廊下はエアコンの効きがゆるいから少し暑い。でも俺の顔が熱いのはこの暑さのせいじゃない。持ち主と離れたこの上着のせいだ。
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