雨はあまり好きじゃない。
屋上で昼寝ができないし、なによりあいつが一服できないから。
でも休みの日の雨は嫌いじゃない。
雨だからって理由であいつの部屋に押し掛けて、エアコンの利いた部屋でゴロゴロできるから。
ソファに背をもたれさせたあいつは、あぐらをかいて片手に書類の束を持ちながらPCを睨み付けてる。
俺がここにきた一時間前からずっとこんなだ。
それじゃあ退屈だと普通は思うんだろうけど、俺はそうでもない。
あいつの膝に頭を乗せて寝転がったら、職場じゃ見えない位置からあいつを眺められるからな。
医大でのあいつは外科部長としていつも動き回ってる。朝も昼も晩もなく忙しない。
休日だってこうして仕事をしてる有り様だからな。普段のこいつの忙しさは異常だと思う。
でもだから普段は近付けないあいつのそばに転がってぼんやり眺めるなんて贅沢な話だと思う。
「おまえそれで何個目だ」
ぼんやり眺めてたらあいつの目がこっちを見た。
こいつ、まつ毛が長いよな。目付きの悪さを無視したらかなり整った顔をしてると思う。
キレイっていうより凛々しいっていうのか。
もちろんこんなのこいつには言ってやらないけどさ。
好きな顔なんだよ
「おい、聞いてんのか」
見とれてる間にあいつの眉間にしわができた。
「聞いてるヨ」
だから返事をしてやる。
たぶん食べてる飴の個数を聞いてるんだろう。でもそんなの数えてねぇよ。
飴の数より重要なのが目の前にあるからな。
「足重てぇし、おまえ邪魔しに来てんのか」
ぶつぶつ文句が始まった。けど職場じゃ実力行使に出るくせに、こういう時は口だけなんだよな。
邪魔してる自覚は俺だってあるよ。でもおまえが拒絶しないから悪い。
その気になれば転がってる俺をどかすことも、座る場所を変えることもできるのにな。
あーあ、けどこのまんまこいつのそばで昼寝ってのもいいかもな。
それでこいつの仕事が終わった頃に起きて一緒になんか食べて、それで……どうしよかな。
「そのまんま寝るなよ」
「んー」
先読みしたように注意されたら、余計に寝たくなるじゃねーか。
けどまあいいか。
まどろんでいるとあいつの不機嫌な声が聞こえた。
「そのまんま寝たら放置しねぇぞ」
「んー……」
別にいいよってつぶやいて、俺はゆっくりと息を吐き出した。雨の音を聞きながら寝るってのも悪くないからさ
……口に何かが触れた気がして、俺は眠い目を開かせる。そしたらすぐ目の前にあいつの顔があった。
「ばーか」
なぜか悪戯が成功したような顔でニヤリと笑う。何の音もない空間で俺はあいつの頭に手を伸ばした。
「なにしたかわからねぇからもう一回やれヨ」
遠くで時計のカチカチという音が聞こえる。
あいつは笑ったままゆっくりと俺に顔を近づけてきて……。
「おい、起きろ」
額をペチリと叩かれて俺は驚きに目を開かせた。雨の音が聞こえる室内で俺はあいつの顔を見上げる。
「夢……」
まさかさっきのあれは全部夢なのか。だとしたら俺はどれだけ鬱憤が溜まってるんだよ。
むしろなんであんな夢なんて見てるんだよ!
外に出せない恥ずかしさを抱えた俺は慌てて起き上がる。
顔が熱い。こんなじゃあいつに顔を向けられねぇよ。
むしろ夢の中であいつに迫ってたとかありえねぇ
「真葉」
ひとりあわてふためいてると名前を呼ばれた。
「何だヨ」
人の気も知らないで呼びやがって。そう思いながら振り向いたその眼前にあいつの顔が迫る。
接触は一瞬
すぐに離れたあいつは何事もないように片付けを始める。けど俺はますます熱くなるのを自覚しながら口を手で押さえてた。