日曜の昼下がり、買い物に出た俺はとある本屋に立ち寄った。
たしか金曜にファッション誌の今月号が出てるはずだ。そう思いながら店内をフラりと歩く。
広い店内には医学関係の雑誌もありそうだけど買う予定はない。きっと伊達川なら買うか何かするんだろうけど。
その手の雑誌は休憩室にもあるし。ショッピング中にわざわざ買うもんじゃないからな。
そう思いながら目的の場所へ向かおうとした。すぐ目の前には今月号のファッション誌が陳列された棚がある。
けど俺は立ち止まったまま通路の奥を見つめてしまう。
医学コーナーでひとりガラの悪そうな男が真面目な顔で立ち読みしてる。
さっさと目的の雑誌を買って次の店に行きたいのに足が動かない。
ネクタイを締めてるのは学会帰りなのか。これからの予定は空いてるのか。いろいろ聞きたいことは頭をよぎるけど、うまく聞ける自信がない。
むしろ声をかけて良いのかすら悩むのは、あいつの服がいつもと違うせいだ。
シャツの袖をまくるな。人はそういうところを見るんだよ。ネクタイを緩めてボタンをはずすのもやめろ。その手の服は崩したら油断してるように見えるだろ。
逆ナンされたらどうすんだヨ!
言いたいことが頭を駆け巡って目的地にたどり着けない。欲しい雑誌はあと少しなのに、あいつのことが気になりすぎて向かえない。
「何やってんだよ」
激しい葛藤をしてるうちに俺のことがバレてたらしい。いつの間にかそばにいた明紫波は余裕綽々な憎たらしい顔で笑ってた。
「……雑誌、買いにきたんだヨ」
「へー、珍しいな」
いつもの雑誌を買いにきたのに何が珍しいんだ? そう思っていたら明紫波が一瞬だけ悩んだような顔を見せた。
「まぁいいや。これ最後の一冊だからおまえにやるわ」
いきなりの事に呆然としてる俺に明紫波が雑誌を押し付ける。それは目的の雑誌じゃなく、買う予定のない医学雑誌だった。
「あー、そろそろ休憩終わるわ。じゃあな」
困惑する俺をよそに明紫波は腕時計で時間を確認して行ってしまう。
なんだこの後も予定があったのか。
ちょっと残念な思いと譲ってもらった雑誌を手にして俺はレジに向かうことにする。これ以上買ったら重くなるからファッション誌は諦める。
それにショッピングももう終わりだ。
今すぐ帰ってこの雑誌を読まないといけないからな。
寮に戻った俺は全力で雑誌を読破した。俺だって医者なんだからこの手の雑誌くらい簡単に読める。
ただやる気がないだけだからな。
雑誌を読み終えた俺はなんとなく夕食作りを始めた。
もちろん俺が食べるんじゃない。
手術の時よりも緊張しながら作った料理を弁当箱に入れる。たいしたもんじゃないけど、腹の足しになれば……それでいいし。