ヴァンパイ・アーン発生から終息までは約一ヶ月間。その間に院内で感染したものは速やかに隔離され治療が施された。
しかしその時誰よりも終息に尽力した光秀が終息直後に罹患してしまう。けれど三成が開発した特効薬は既に他の病院へまわされ手元にない。
そのため新たな薬が手に入るまでの二日間、光秀は幸村が実家が所有する別荘へ隔離されることになった。
もちろん俺、徳川真琴は光秀と共に行くことはできない。終息したはずの病がまだどこかで広がっている可能性があるためだ。
それに三成と政宗が外科部長不在の穴埋めをするにしても手が足りない。
俺は光秀のように人と関わったりはできないが、それでもできる事はある。
だから働かせ過ぎている外科部長は、恋人なのか恋人未満なのかわからない幸村に任せた。
ちなみに秀吉はもう恋人だと言うが、信長は恋人未満だと言う。この争いもいい加減うるさいから結論を出してほしいものだと思う。
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隔離処置をする前に石黒から管理ノートを渡された。
一日三回熱を測って、明紫波の喉が乾いた時間を書いて、食事内容も記入する。そういう管理は麻酔医として慣れてるから苦にならない。
石黒もそれをわかってるから、いつもより記入事項は少ないです、なんて言ってた。
確かに熱と食事と渇きだけなら素人でもできるよな。血圧や心拍もないし、これ以上なにかしろとも言われてないし。
勤務もないし、うるさい伊達川もいないし。二日間はお菓子食べながらだらけられるんだから最高じゃないか。
そう最初は思ってたんだけどな。
別荘に到着して早々に喉が乾いたとか言われた。
荷物を玄関に投げたまま、俺はリビングであいつに噛まれてる。
ここに来るまでは、石黒の説明を聞いてた時は献血みたいなもんだと思ってたんだ。
噛まれるんだから痛みはあるだろうと言われた。
傷を処置するための道具も持たされた。そう深い部分までは噛まれないし、すぐ終わるからって言われたはずだよな。
けど実際はなんか違う。
噛まれた箇所は最初こそ痛かったけど、そんなのすぐにどこかへ消えてしまった。
血を吸われる感覚が、何かを持っていかれるようなんだけど、気持ち良くておかしい。
噛まれた部分も歯を突き立てられた感覚が痛みじゃない何かを引き出そうとしてる。
わかってるんだ。
これは渇きを癒すための処置で治療で……だけどあいつに触られた場所が熱くて困る。
ちがう、あいつの手が熱いのか?
「っ………いっ………んぅ」
意識が首に集中しすぎてどこを触られてるのかなんてわからなくて。
暑すぎて服を脱ぎたいって言ったらあいつ笑いやがった。
しかも噛まれただけでイったのかって言うけど、知らねェし。
もうなんか噛まれたいって気持ちしかなくて、自然とあいつの服をつかんでた。
「もっと噛め…ヨ」
あいつに頼むなんて嫌だけど、して欲しいからしかたない。俺は甘いものが好きなのに、あいつの苦いキスも欲しいし好きでどうしようもない。
ホントはもっと素直に欲しいって言いたいのに、言えない自分が歯がゆくてたまらない。
もっと欲しいもっと噛んで、もっとずっと。
二日間はあっという間だった。
お菓子を食べてだらだらする予定だったし、荷物もほとんどお菓子だった。
なのに医大に帰った時、そのお菓子はひとつも減ってなかった。
いつもはうるさい伊達川が珍しいななんて驚いてた。きちんとした食事を取っていたのだな、なんて言うんだけどさ。
二日間の記憶がないから、伊達川に何も返せなくて困る。しかたないからウゼェって言っとくけど。
あー、それより管理ノートはどうすればいいんだよ。
石黒から預かって荷物に入れて、そこから見た記憶がない。
慌てて荷物をさばくって、休憩室にお菓子をばらまいてノートを探す。
伊達川がどうしたのだと言うからノートを探してるんだって話した。
そしたらそばにいた前木も手伝うっていうから、三人で探したんだけど見つからない。
しばらくして伊達川が落胆したように言う。
「これは…石黒にあやまらねばな」
結局見つからなくて、伊達川も不甲斐なくてすまないと肩を落としている。
「明紫波さん問題なく治ったんだから、みっちゃんも許してくれるよ」
悪気はないんだからと前木も慰めてくれるけどさ。あの石黒が許してくれるとは思えねェよ。
それでも黙ってるわけにはいかないから、研究室に行ってノート紛失をあやまった。
そしたらなぜか石黒がこれですかとノートを出してきて見せてくれる。
「事情は聞いていますから大丈夫ですよ」
「事情ってなんだヨ」
そもそもなんでここにノートがあるんだよ。そこから説明しろよと言いたくて、俺は石黒に質問をぶつけてやった。
もしかしてこいつ俺にノート渡すの忘れてたのか?
でも確かに俺はノートを受け取って荷物に入れたよな。
「明紫波から聞いています。あなたは二日間貧血で寝込んでいたそうですね」
覚えのないことをいきなり言われても驚くしかない。
けど石黒はそんな俺を気にするでもなくノートを開いて見せた。
「本人は何も言っていませんが、これは貴方の字ではありませんね」
性格や外見と似合わないきれいで整った文字の羅列と明確な文章。体調の記入も簡潔でわかりやすい。
こんなのあいつ以外に書けるもんじゃないだろ。
ああ、あとは徳川くらいだ。
あいつもこういう簡潔な文体でオペの報告書を書いてる。
「現地到着直後に例の症状が出たため、貴方の血を飲んだと。その際の症状は他の患者よりも重く、思いの外貴方から血液を奪ったそうですね」
石黒が話す部分は今も鮮明に覚えてる。それだけに恥ずかしくていたたまれない気持ちになった。
噛まれることがあんなに気持ちいいなんて知らなかったし。
「そういうことですから、状態をみて貴方に休みを与えなければと明紫波が……」
わけわかんねェけど、いたたまれなくて石黒の話も聞かずに逃げてやった。
逃げるっていうか、あいつに話を聞かないといけない気がする。
それで本当に貧血で寝込んでたならあやまらないといけないだろ。せっかく付き添ったのに何もしてやれなかったし。
だけど地下から一階へ上がったところで足が止まった。
話を聞くってのも、ダメだろ。
だって最初にあんなにあいつにいろいろ欲しがったし…その、ダメだよな。
ダメっていうか、俺が耐えられねェよ。