「暑い……」
外の気温が何度だなんだとテレビで騒ぐそばで俺は内輪を手に自分をあおいでいた。
「伊達川、ゴム貸して」
「うむ。俺が結ってやろう」
暑すぎてだれた俺にいつもとなにも変わらない伊達川が動いてくれた。
おれがこんなに暑がってるのに着物を着込んだ伊達川が平気ってのはなんでだろ
伊達川に髪を結い上げてもらいながらおれはため息をはきだす。
「ここのエアコンいつ直るんだヨ」
「修理業者は明日の夕方に来ると聞いたぞ」
「うわ……」
明日もこの暑さかよとつぶやいた俺の後ろで伊達川が「出来たぞ」と声をかけてくれる。
「ありがと」
長い髪を頭の上で団子にした伊達川は満足そうな顔を見せてる。俺も首元が涼しくなって気分が良い。
「お礼にその書類だしてきてやるヨ。おまえこの後も忙しいだろ」
例の代わりに俺は伊達川の書類を手に立ち上がった。
職員室に行って部長の机に置いてくるだけの簡単な役目だ。そのついでにあいつが俺の髪型についてなんか言ってくれたらもうけものだな……なんてな。
けどおれの予想に反して外科部長は職員室にいなかった。部長室にいると聞いた俺は面倒な気分で移動する。
部長室もエアコンが効いていて涼しかった。PCを睨み付けてる外科部長を眺めながら書類を机に置く。
けどやっぱり外科部長はこっちを見ようともしない。
「おい」
「んー?」
髪型が違うとか、持ってきてご苦労とか、言うことないのか。
そう言いたいけど、この鈍感外科部長はPCから目を離さなかった。
つまんねー奴だな。
舌打ちした俺はくるりときびすを返して部長室を出ようとした。
けどドアに手をかけたところで俺の横に伸びた手がドアを押さえる。
気づいたらあいつが俺の背後に迫ってた。
髪を結い上げてるから、後ろ首にあいつの吐息がかかって……って、何なんだよこの体勢!
「なにやってんだヨ」
「おまえのうなじって白いよな」
「はっ!?」
なんなんなんなんだ!?俺はすっかり混乱してしまってあいつにうまく声がかけられない。
その間に後ろ首を強く吸われて鈍い痛みが走った。慌てて後ろ首に手を当てて背後を振り向く。
そしたらこいつの悪魔みたいな笑顔があった。
「髪をおろしたほうが良いんじゃねぇの?」
悪戯ぽい顔で言いながらこいつは俺に顔を近づけて小声でささやいた。
「俺のもんだって印、他人に見せびらかすのも良いけどな」
うぜぇ何やってんだこいつ
そう言いたいのに赤らんだ顔はパクパクと口を開けただけで言葉が出せない。
「これに懲りたら、そんな色っぽい格好で院内歩くなよ」
まったくわけわかんねーけど、俺は髪を下ろして部長室を出た。
もちろんエアコンの修理が終わるまでの間も、死ぬほど暑かったけど髪を縛ることだけはしなかった。