とある日曜日。天気が良好だからと理由をつけて寮を出た幸村はその足で光秀のマンションを訪れた。今日は光秀も休みだと昨日のうちに真琴から聞いている。
それならデートとまでいかなくてもふたりきりで過ごすことはできるだろう。
そう淡い期待を抱いていた幸村だが、到着早々その期待は崩れ去る。
幸村がほのかに想いを抱いている相手は、休日に休むことをしない男だったのだ。
玄関で出迎えてくれた光秀だがすぐにリビングに戻りパソコンと向き合う。そのため幸村は到着してすぐに手持ち無沙汰になっていた。
最初は仕事の資料を読むなどしていたが、すぐに飽きて別のことを始める。テレビを見て本を読み、観葉植物を眺めながら窓際に寝転がった。ベランダに面したそこは冬の弱い日差しが差し込み心地よい暖かさとなっていた。
ぼんやりと転がりながらパソコンのキーを打つ音に耳を傾ける。たまにキーを打つ音が途切れるが、書類をめくる音に変わるだけで止まることはない。しばらくその音を聞いていた幸村はふと思い付いたように起き上がった。
「明紫波、腹減った」
「適当に食ってろ」
「お菓子とジュースある?」
「前にてめぇが置いてったろ」
話しかければ返事をくれる光秀だが、その目はパソコンの画面から動かない。幸村は仕事の手を休めるつもりのない家主の横を抜けて台所に入った。
勝手に冷蔵庫を開けてジュースを探すが、上段に見知った箱を見つけて取り出す。
「明紫波! アルベルティーのケーキがある!」
見間違えることのないその包装とつけられた店名シール。それを確認した上で声をあげた幸村は箱を手にリビングへ戻った。
「これ、ケーキだよナ?」
「あー…俺はいらねぇから、おまえが食え」
「けどこれ誰かのだろ? ここに客が来る予定とかじゃないのかヨ。それで買っておいたとか…」
「だから食えって言ってんだろ」
仕事中の光秀は素っ気ないを通り越して愛想がゼロだ。それでも話しかければ無視することなく返事をくれる。
「ホントに食っていいのかヨ。手に入れるの難しいのに」
「おまえが食わないなら捨てるだけだ」
「もったいないからやめろ」
捨てるという単語が出たため幸村はケーキを食べることにした。そっと箱をテーブルに置くとフォークと皿を運んでくる。
箱を開かせると数種類のケーキが隙間なく並べられていた。そのどれもが芸術品と言えるほどキレイで甘い香りを漂わせている。
ケーキをひとつ皿に移してフォークを差し込む。ケーキを一口食べただけで幸せな気分に包まれた。
「明紫波もケーキ食えたらいいのにナ」
笑顔で告げながら光秀を見やる。するといつの間にか光秀の視線が幸村に向けられていた。
光秀はじっと幸村を見つめていたかと思えば口の端を緩めて小さく笑う。
「良かったな」
光秀の微笑を前にした幸村は急速に溢れる気恥ずかしさに包まれた。大人げなくケーキにはしゃいでしまった自分の単純さを悔やみたくなる。
しかし入手困難と言われる店のケーキはとても美味しくフォークを持つ手も止まらない。これでは笑われても仕方ないかと思いながら幸村はケーキの上に乗った栗を食べた。