――最近、夜寝ないで書いてるせいでストックが多くなってまして、消化しときませんとね?
『今年も定期試験の時期が終わり、九校戦の季節がやってきた!』
最近、マホーカ高校の校舎、に、こんなポスターをよく見かけ、る。
「達也さ、ん、達也さ、ん(クイ、クイ)」
「なんだ雫。深雪が直したそうな目で見つめてくるから袖を引っ張る癖はやめろ。・・・で? 何か分からないことでもあったのか?」
「う、ん・・・」
テーキ試験の時にも分からないことだらけだったけ、ど、今度のは多分べつも、の。
「ふぅ。まぁ、いいだろう。どうせ定期試験の前にはさんざん受け答えしてやったんだ。いまさら一問や二問、質問される回数が増えたぐらいなら端数として切り捨てられる。ーーで?」
「う、ん。前からずっと気になってたんだけ、ど・・・この『キュウコン戦』って、なんのこ、と?」
ごちん。
「・・・痛、い・・・。達也さ、んさっき端数として切り捨てられる、って言ったの、に・・・(サスサス、ぐすん)」
「切り捨てられるとは言ったが、怒らないとも殴らないとも言った覚えはない」
「うう、ぅ・・・達也さんはウソツキ、でイジワ、ル・・・(シクシク、ずずーっ!)」
達也さんは、いつも一回ブってからじゃないと説明をはじめてくれな、い。ブつのは痛く、てイケないことだと思いま、す。
「て言うか、この子。これでも一応、国立魔法科第一高校の定期試験を通れてはいるのよね。不思議だわ・・・人のこと言う資格は微塵もないんだけど」
「むしろ、国立校で定期試験だから通れたんじゃねぇか? 常識知ってりゃ分かる問題だす教師なんざ魔法科高校にいないだろうし、テスト合格に特化した勉強法なら存在するんだし。って言うか俺たちもやらせてもらったばかりだし。だから俺も言う資格ないんだけどさ・・・」
・・・なんだか周りから見てくる目、が、いつもよりちょっとだけ・・・白いか、も?
九校戦編・前哨回「司波達也の九校戦開幕?」
『全国魔法科高校親善魔法競技大会』
それは政府が、全国に九校しか存在しない魔法科高校の人員で如何に効率よく人材を育成するかを突き詰めた結果の一つとして企画、実行されたイベントのひとつだ。
国内に点在し各々の特色を活かして成果を上げている魔法科高校ではあるが、実際には人手がまったく足りていない。
教員を雇う金はあっても雇える人材に心当たりはないと言うのが、全国すべての魔法科高校運営者にとって常態化している悩みでもあった。
その問題を解消しつつ、エリート思考故に秘匿しがちな技術の開陳場所として一石何鳥ものリターンを狙って実施されるようになったのが九校戦だ。
全国から魔法科高校の精鋭生徒たちを一カ所に集めて競争させ、交流と競い合いにより生徒たちの向上心を煽ろうという一挙両得を目論んだ都合のいいイベントではあったが、政府の都合が国民にとって必ず害になるわけでもないのは言うまでもない。
九校戦は、珍しく政府が大成功を納めさせた国策だったと言えるだろう。
ーー俺が定期試験の結果に絡んで教師から呼び出しを受けたのは、丁度その一大イベントが差し迫ってきていた七月中旬におきた出来事だった。
「達也」
「レオ・・・どうしたんだ、皆揃って」
生徒指導室で簡単な事情説明を答えさせられてから短時間で解放されて外に出た俺を待っていたのは、クラスメイトではないが友人の西城レオンハルトと千葉エリカ、柴田美月などいつもの面々から心配顔で見つめられると言う、よく分からない現状だった。
・・・本気でこれはいったい、どういうことなんだ・・・? わからん・・・。
「どうした、ってのはこっちのセリフだぜ。指導室に呼ばれるなんて、いったいどうしたんだよ」
レオの答えに俺は、ああなるほどな、と納得させられた。どうやらこの友人たちは俺の身を案じて集まってきてくれたようだな。
その点には感謝するし、多少面倒であっても説明の手間を惜しむ気はないのだが・・・さすがにこの人数でくるのは多すぎないだろうか? 国立校とは言え、日本の学校の廊下は横幅も縦幅も法律で決められた明確な基準のもとで作られているから、この人数で横に並んでしまうと子共一人通り抜ける隙間さえなくなってしまうのだが・・・まぁ、いいか。何かあったら一緒に怒られて連帯責任を取れば済むことだ。
「実技試験のことで尋問を受けていた」
「・・・尋問とは穏やかじゃねえな」
「要約すると、手を抜いてるんじゃないか、と疑われていたようだな」
「何それ? そんなことしたって達也くんには何のメリットも無いじゃない。バッカみたい」
友情からくるエリカの憤慨には感謝しかないが・・・それでも俺は、肩をすくめて返すしかない。裏事情に詳しいというのはこう言うときに厄介なものだ。
「実際、呼び出した張本人である先生自身もそう思っていたらしい。かなり気まずそうな顔をしっぱなしで呼び出された俺の方が居たたまれなくなるほどだったよ」
「「「はぁ?」」」
その場にいる全員が(゜д゜)ポカーンとした顔で唖然としたまま硬直して、俺の言葉の続きの答えを欲している。出し惜しみする趣味もメリットもない俺としては即答することに異存はない。
「ふつうに考えるなら実技ができなければ理論も十分理解することはできない。感覚的に分からなければ理論的にも理解が難しい概念が魔法には多数存在しているからだが・・・」
「だが?」
「・・・そもそも俺は新設されたばかりの魔法工学科主席入学者だからな。実績という名の証拠を既に提示してしまってあるから、今さら学校側に出さなければならない証拠も証言も必要とされていないんだよ。今さら呼び出すまでもなく、自分たちでデータから成績表をプリントアウトして手渡せば済んでしまう問題だからな」
「あ、ああぁー・・・・・・なるほど。そういうことねぇ・・・」
何となく白けた雰囲気が場を満たし、俺は再び居心地の悪いいたたまれなさに悩まされる羽目になる。
実際のところ、今回のコレは本当の意味で『形式的な呼び出し儀式』でしかなかった。工学科は新しい学科であるため敵も多く、新設に反対した教師というのも少ない数ではない。
とは言え、魔法科高校は国立であり、国が運営する機関だ。教師陣がいくら不満を持とうともお上が下した決定にNoと言える権利も地位も彼らにはない以上、後は感情の問題となる。
そして上から押しつけられた命令を実行すればいいだけの現場にとっては、感情の問題こそが一番の難題だ。なるべくなら穏便に済ませたいし、後顧の憂いは残したくない。
感情的対立が元で滅びた軍や国家はいくらでもあることだし、形式を守りさえすれば一先ずは矛を収めてくれる相手ならそれをやる。
どうせ相手が守ろうとしているのは面子やプライドだからと甘く見た対処療法ではあっても、人同士の感情的対立が短期間で解決できた例は古今存在していないのだと、北山会長からキツく教え込まれている俺としては、合わせるべき時は大人しく腹話術用の木偶人形を演じているより他にない。
言えと言われた実技の成績が悪い理由と、答えろと言われた質問に短く簡潔に当たり前の内容を返すだけ。
サラリーマンのような作業だったが、ふつうの学生生活というのも実際にはこんなものなのかもしれないと割り切って切り抜けた。以上である。これ以外に今回の件で話すことはない。
・・・ん? あ、いやあったな。忘れていた。大事なことがもう一つだけ存在していた。
「それに問題視するにしても時期が悪い。もうすぐ九校戦がはじまるという時期に、本気で自分の学校の生徒の処分を検討し出す無能教師だったら、学校側もそれなりの対処をしていたと思うよ? どう考えても学校にとって不利益しかもたらさないのは明白なのだから」
「「ああー、そういえばあったなー(あったわねー)そんなイベントが」」
・・・おい? エリカとレオには後でもう一回試験用とは別の家庭教師教育が必要かもしれないな。
そんなことを考えていながらため息をついたときに、ふと気づく。・・・一人、足りないことに。
「深雪。雫は来てないのか? アイツのことだから意味も理由も分からなくても、身内が動けば本能的に後ろついてくるものだとばかり思っていたんだが・・・」
「・・・達也君? 雫はあれでも一応、アヒルの赤ん坊ではないんだけど?」
「ーー似たようなモンに見えることは多々あるけどな・・・」
レオとエリカがなにやら言っているのを聞き流しつつ、俺は自分が質問した相手である深雪の顔をジッと見つめて答えを待っていると、彼女は頬を赤らめながらも(なぜだ?)困ったような苦笑を浮かべながらこう答えを返してきてくれた。
「わたしも不思議に思いましたのでエリカたちに詳しい事情を聞いてみたところ・・・」
「見たところ?」
「『五月病がヒドいので病欠します』という連絡が朝のうちに職員室へ届けられていたとの事でしたので・・・・・・」
俺が今さっき出てきたばかりの生徒指導室へと逆戻りして、先生方からあのバカを迎えにいく許可を取り付ける事にしたのは言うまでもない。
つづく