北山雫は魔法科高校の劣等生   作:ひきがやもとまち

16 / 44
前回お伝えした「講堂事件直後の雫×達也×深雪のデート回」が出来ましたので投稿いたします。
ストーリー全体としては何の影響も与えない内容ですので、今回も番外編扱いにさせていただいてます。ご承知おきください。

サブタイトルからわかる通り、今話の内容は5巻『夏休み編プラス』より『メモリーズ・オブ・ザ・サマー』を元ネタに使ってます。


「北山雫のゴールデンウィーク+1編」

 この前起きた『“行動”事件』で学校の一部が壊れたか、ら直すため、に今日はおやす、み。日曜日とおんな、じ。お昼まで寝てても怒られな、い。

 

 ・・・そのはずだったの、に・・・・・・

 

 

「あ、ふ・・・眠、い・・・・・・なんで朝早くか、ら町をお散歩しようなんて誘った、の・・・?」

「雫、あそこに見える柱時計の針を見なさい。もう11時半よ? 朝はもうすぐ終わって昼になろうとしている時間だわ」

「加えて言うなら、お前を起こす手間暇時間を考えて35分ほど早めにスケジュールを立てていたはずが、現時点で50分以上遅れが出ている。この原因が誰のせいによるものなのか、分かるか雫?」

「あ・・・ふ・・・ねむね、む・・・・・・ぐ、ぅー・・・・・・」

「ーー許してくれ深雪・・・っ! 俺はまたしてもお前の前で言っても無駄だと分かり切っている愚問を発してしまうという愚かな行為をしてしまったぁ・・・っ!!」

「お兄様! 落ち着いてくださいませ! いつものこととは言え雫に関してお兄様は真面目に考えすぎるのです! この子に関してのみ気楽に適当に考えることを覚えましょう! ね!? そうするべきですわお兄様!

 でないと深雪は、そろそろ本気でお体が心配になってきそうですから!」

 

 なんだ、か隣が騒がし、い・・・。

 今日の町も平和だ、なー・・・・・・ぐ、ぅ。

 

 

 

 

 

 ーー西暦二〇九五年五月七日。全国の魔法科高校の生徒にとってはゴールデンウィークの長期休暇が終わって登校が再開される当日になるが、我らが第一高校だけは休みが始まる前に『臨時休校』が言い渡されている。「先日の一件で受けた傷の修復作業が完了していないため危険である」とするのが表向きの理由だ。

 

 無論、一つの事実には複数の真実を内包しているのが常であるので今回もそのセオリーは遵守されている。

 学校運営側の真なる目的は『完全な偽装工作のために修復箇所を総取っ換えすること』だ。

 

 あの事件の渦中で俺たちは色々と司直の目に触れるのは好ましくない行為を連発しており(ほのかの《イビル・アイ》とかな)それらは監視カメラなどの物理監視手段を潰してしまえば法的には責任回避が可能にできるものの、魔法がかつて超能力と呼ばれていた過去を鑑みると油断はできない。

 マインドリーディング等の証拠能力を持たないものでもイチャモンを付ける口実ぐらいには使えるのだから、警戒レベルは高く見積もるに越したことはないのだ。

 

 幸いなことに今回の一件で執行部は、現在の学園防衛マニュアルが平和な日本の学校を基準とした「平時向け」のものであることを自覚してくれたらしく、段階的にではあるが今までより数段階高い自衛能力を学校施設にも付与していく方向へ方針を固めたのだそうだ。

 

 まぁ、公立の学校施設と違って魔法科高校は国立だからな。しかも俺たちが通っている第一高校の所在地は東京。国会もあれば永田町もあり・・・早い話が、退職後の豊かな老後を送るためにも節約できるところはしておきたいと言う話だ。・・・俺が言うのもなんなのだが、本当に俗っぽい・・・。

 

 そのような事情により、現在魔法科第一高校は教職員を含むすべての関係者を立ち入り禁止にして大規模な修復工事という名の証拠隠滅作業中だ。

 証拠があろうと無かろうと現場が消滅させられた後では、何ほどのこともないので徹底的におこなっている。そのため生徒一同は休日を一日増やしてもらい、想定外の休みで俺は暇を持て余すことになったというわけだった。

 

 仕事のスケジュールは一週間前から確認できるが、新たな社内スケジュールを休み前にいきなり言い渡されても予定に組み込めることは多くない。それほど安い立場でないことぐらいは、さすがの俺でも自覚している。

 

 そうなると、何をして休日を過ごすかが問題になっていた。

 読書もライブラリの閲覧も、高校生が休日の自宅で一日中やるのはどうかと思うし、かといって代わりになりそうな趣味があるかと言えば特にはない。・・・今更ながら自分がワーカーホリック気味になっていた事実を自覚させられた俺は気分転換の必要性を覚え、深雪を誘って街へ出ることにした。

 

 どこかのバカの受験勉強につきあっていたせいで、深雪が誕生日プレゼントとしてお願いしてくれた休日のお出かけを中途で切り上げなくてはならなくなった近い過去の失態を思い出したのだ。

 

 良くできた妹の深雪は当時のことなど「気にしていない」と言ってくれたが、それでは俺の気が収まらないと強く勧めた結果、今に結びついている。

 

 

「あふ・・・わかったけ、ど、二人の兄弟デート、になんで私が付き合わされてるのか、が分からない、よ・・・?」

「おまえを目の届かないところで放し飼いにしたまま、安心して買い物を楽しめる人間などいると思うのか?」

「・・・・・・(こくこくこく!)」

 

 隣を歩いている深雪が、お淑やかに静かに激しく首を振って同意するという意外なまでの器用さを発揮しながら俺たちは、昼の都心でショッピングを楽しんでいた。

 

 女性が買い物好きというのは今も昔も変わらない常識といえる傾向で、特に若い女の子は二十一世紀最後の十年を迎えてもショッピングが大好きだ。

 最初に俺から誘ったときには遠慮していた深雪も、街中に着く頃にはすっかり乗り気になっており、引っ張られるように連れて行かれたファッションビルのブティック内で生き生きと品定めに勤しんでくれている。

 

 連れてきた側の男にとって、これほど報われた気持ちになる光景も珍しいだろうな・・・そう思いながら俺は、今一人の今時女子へと視線を落としてジト目になる。

 

「・・・雫。おまえも行っていいんだぞ・・・?」

「え? ・・・ん。わかっ、た・・・」

 

 声をかけてやるまでボーッと店内を眺めているだけだった雫はようやく起動し、店内をチョコチョコ動き回りながら見て回ってくる。

 

 ウロウロ。きょろきょろ。ジーっ・・・。

 スタスタスターーー。

 

 

「行ってき、た」

「・・・早すぎるだろう・・・・・・見終わるまでの時間が・・・」

 

 思わず頭を抱えたくなるほど早すぎる、雫の「見るだけウィンドウショッピング」ぶりだった。本当に「見るだけ」で「見ている」事すらしてこない・・・。

 

 一般に女の子のショッピング時における行動パターンは三種類に分けられると聞かされている。

 

 一つ目は、本命の買い物を真っ先に済ませるパターン。

 二つ目は、本命の買い物を最後に取っておくパターン。

 三つ目は、多分これが一番多いと俺も思っているが、本命がありながらあちこちに目移りして行きつ戻りつするパターン。

 

 この三つが女子の買い物行動のスタンダートだと聞かされていたし、現に深雪は普段であるなら一つ目のパターンで合致している。

 今日は不意打ちに俺から誘って「遊ぶこと自体」を目的とした外出だったから、店内を物色して回ることが今日の彼女の主目的を満たすことにつながっている。

 

 問題はこのアホは恐らく、三種類の行動パターンのどれにも当てはまっていないのだろうなぁと、感情が失われた俺でさえハッキリと分かってしまうほど読みやすい部分があるということだけだろう。

 

「・・・?? ちゃん、と言われたとおり見てきた、よ・・・?」

「・・・一瞥しては次にいく流し見をされた店の人たちも、泣きそうにしてきているがな・・・」

 

 値札も見るし品物も見るが、全て一瞥。歩きながら「ジーッ・・・」と見つめるぐらいが関の山で、じっくり吟味しているという言葉は雫の辞書にあるのかと疑問に思えるほどの完全スルー・・・。

 はたして、これ程までに連れてきた苦労が報われない瞬間が他にあるだろうか・・・。感情がない俺でさえ、泣きたくなる気持ちが理解できそうな心地にさせられる。

 

「念のために聞いておくが雫。お前は普段、欲しい物ができたときにドコでどうやって買っている? 後学のため是非とも確認しておきたい」

「え・・・? えっ、と・・・お父さんに言、う・・・?」

 

 会長・・・娘がかわいいのは一万歩譲って絶対に認めないわけでもありませんが、せめて『はじめてのお使い』ぐらいはさせておいて頂きたかったです・・・。

 

「普段、着ている服はどこで買っているんだ・・・?」

「・・・?? えっ、と・・・・・・元スタイリストのメイドさ、ん・・・?」

「・・・・・・もういい」

 

 コイツに期待してしまった俺がバカすぎたんだと自戒しつつ、自罰しつつ。

 深雪が目を留めて気にしている商品を目測だけで値段を予測し、ついでとばかりに隣のマネキンが着せられているのも含めて二着分のサマードレスの代金を支払うことを決意した俺は、深雪にも値段は気にしなくていい旨を伝えて喜ばせるとバカの方にも声をかけておいてやる。

 

「お前もこれを期に深雪からファッションについて学ぶようになって置いた方がいい。今後、立場的に必要になってくる事態も多くなってくるだろうからな」

「・・・??? う、ん。わかっ、た・・・」

 

 いつも通り雫は『訳が分からないけど、達也さんが言うなら従う』といった風情で、あっさりと了承する。

 ――ほのかと雫が対極なようでいて似ていると感じさせられるのは、こう言うときだ。二人とも、俺の言葉を理解していないのが一目瞭然な反応を見せるにも関わらず、疑問を抱くことは素振りすら見せたことがない。依存されているとハッキリと自覚させられる状況に、俺は中学生の頃から晒されてきたのだ。

 

 それは重荷と呼べるほど大した重量のある年頃ではない二人だったが(親がいる健全な家庭の子供に俺ごときが与える影響など微々たるものでしかない)それでも二人の将来を考えるなら、早い内に切れてしまった方がいい関係なのは間違いない。

 何しろ当時の俺は四葉のガーディアン。

 何時どこで何が起きるか予想できなければ、家の都合でいつどこに飛ばされたとしても然程おかしくはない微妙な立ち位置。(後半については深雪のおかげで俺の杞憂だったのだが・・・)そんな男にふつうの家庭で育つべき子供が依存し続けて良い道理がない。

 

 俺は遠回しな表現と直接的表現とを織り交ぜながら、二人に何度も『俺から離れていった方がいい』事を伝えた。伝え続けた。

 それでも二人は俺から離れていくことはなく側に居続けた。共に過ごし続けてきた。

 そして今もこうして、一緒に居続けている。

 

(・・・結局のところ、それが一番の理由なんだろうな・・・)

 

 自覚したくなくとも自覚せざるを得ない事実。

 当時から感情を失っていたはずの俺が、深雪以外のことで感情がもてなくなっていたはずの俺が、理性と計算だけで考えるなら無理矢理にでも離れさせるべきだった二人を離れさせることなく一緒に居続けた。

 

 ・・・それが嘘偽り虚構無き、俺の歩んできた現実なのだから・・・・・・。

 

 

「このワンピースと、二番目と十七番目のドレスを。・・・それから、そこのクラシックなドレスも一着包んでいただけますか?」

「畏まりました。・・・ところでお客様にチョッとご相談が・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても、まさか三着も買っていただけるとは思っておりませんでした。雫の分もありましたし、結構なお値段だったのでは?」

「言ったろう、深雪? 遠慮はいらないと。それに、男の方から女性に誘いをかけてたのだから俺にもそれなりに見栄を張ってみたくなる時ぐらいあるさ」

「まぁ! お兄様ったら。うふふふ♪」

 

 となり、でラブコメラノベみたいなやり取りが交わされて、る。達也さんと深雪、はとっても仲良、し。

 ・・・でも。これ、は・・・・・・

 

「さぶ、い・・・・・・(ガタガタ、ぶるぶる)」

「・・・まさか女の子にドレスをプレゼントして、そういう反応を返される日がくるとは想像していなかったな・・・」

「・・・本当ですわよね・・・。店の方が仰っていたとおり、見た目は真珠のようで、とても似合っていますのに・・・」

 

 私はい、ま達也さんがプレゼントしてくれ、たドレスを着て歩いて、る。

 ユーエスエヌエーで流行ってるドレスを参考にし、て作ったらしいんだけ、ど。肩とか背中、が寒い・・・。ガタガタぶるぶる・・・。

 

「達也さ、ん・・・どこかのお店、に暖かいもの食べに入ろ、う・・・(ガタガタガタ)」

「お前の辞書に情緒という文字はないのか?」

 

 常しょ、う? 私、はラインハルト様じゃないから必ず勝てない、よ・・・?

 悟空みたい、に強敵ばっかりと戦いたがるの、は達也さんの悪い癖だと思いま、す・・・(ガタぶるガタぶる)

 

 

 

 

「邪魔をして申し訳ない。ボクはこういうものですがーー」

「・・・?」

 

 カレーをはふはふしながら食べ、て体を暖めてた、ら声をかけられ、た。

 

「とある芸能プロダクションで社長を務めさせてもらっている者なのですが、そこにおられる大粒のダイヤモンドが如きお嬢さんの美しさを前に、一目で心奪われてしまいまして・・・単刀直入に聞くけどキミ、映画に興味はない? キミにピッタリの役があるんだけど・・・」

 

 ・・・ああ、深雪のスカウト、か。昔からよくあったことだか、ら別にいい、や。

 

「ねっ、名前を教えてもらえないかな」

 

 はふはふ、パクパク。

 

「キミだったら今直ぐにでもトップアイドルに・・・いや、世界的大スターになるのだって夢じゃない! 大丈夫! ボクが保証してあげる! ボクの手を取ってくれたら、どんな女の子だってデビューは確実!

 なんたって、アイドルは芸能事務所が作る時代だからね!」

 

 パクパク、はふはふ、アチチ・・・舌、を火傷しちゃ、った・・・。

 

「なんなら証拠をお見せしようか!? たとえばキミの隣でカレーを食べてる、そこそこ可愛い女の子だってボクの手でデビューさせてあげれば一瞬にして―――――」

 

 

「――失礼、店員さん。一つ伝言を頼まれていただけませんでしょうか?」

「・・・はい、畏まりました。

 ――お客様。これは伝言でございます」

 

「は? なんだよ、お前なんかにボクは用無い―――ぶべぇっ!?」

 

「お客様は神様です。ですので、他の神様方にご迷惑しかお掛けしないあなた様は只の人です。

 人と神様とを同格に接客してしまうのは店舗経営者として許されざる背信ですので、相応の対応をさせて頂きましたことをご了承いただけたら幸いに存じます」

 

 はふはふはふ。

 

 

「この度は店員の対応が遅れた為、ご不快な思いをさせてしまい申し訳ございません。お詫びの印といたしまして、当店の料理を無料でお楽しみいただきたいと思っているのですが如何でしょう? お客様方」

「いえ、お詫びなどととんでもない。こちらこそ騒ぎをお任せしてしまってご迷惑をお掛けしました。お代はきちんと払って食べていきますからお気になさらずに」

「そう仰らないでくださいませ、お客様。・・・正直、雫様の周りにあんなの近づけたこと知られたら俺たちのクビが飛ばされかねんのです。

 ここは俺と妻と生まれたばかりの子供の将来を助けると思って何卒・・・」

「・・・・・・わかりました。じゃあ遠慮なく・・・」

「感謝いたします、未来の御当主様――いえ、達也様。

 ギャルソン! この店で出せる最高級パフェをご用意しろ! 今すぐにだ! もしあるなら『お似合いの彼氏彼女の未来を祝福する甘い一時パフェ』とかをな!

 お代は気にするな。言い値を即金現ナマだ! ・・・よもや異論はあるまいな?」

 

「ははぁっ! 早速に!! より多くの利益をもたらしてくれるお客様は大神様でございます!!」

 

「・・・・・・(こうなるから受け取りたくなかったんだがな・・・・・・)」

 

「・・・・・・(嫉妬の炎、ゴゴゴゴゴゴ・・・)」

 

 

 はふはふ、パクパク・・・ごっくん。うん、美味しか、った。

 ごちそうさ、までした♪(*⌒▽⌒*)

 

 

 

 ――こうして“雫の”平和な日常は守られています・・・・・・

 

つづく




注:
雫が今回買ってもらったドレスは原作10巻『来訪者編《中》に出てくるものと微妙に異なり、あちらだと当たり前でも日本だとクラシックすぎるデザインのため日本風に合わせて調整してあります。

ただし元は同じで、メーカーも同じ。
平和になって経済開発に方針転換したUSNAは以前よりも開放的にはなってきてますので『提携を組んだばかり』みたいな感じをイメージしていただけたら助かります。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。