北山雫は魔法科高校の劣等生   作:ひきがやもとまち

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更新です。今回は「魔法科高校の優等生」6巻の番外編『雫の熱闘九校戦』を下敷きにして書いたお話です。
本当だったらバスでの移動を書く予定だったのですが、参考までに優等生読んだら愛梨とかの第三校少女たちが可愛かったものですからつい・・・(赤面)
次話は普通に九校戦編描かせてもらいます。


お詫び:
最近、主人公がチート化してきてしまってて誠に申し訳ございません。
原作の展開上、完全な劣等生のままではオリジナルストーリーに移行する以外の策が思い浮かばず、『頭の良さとは別の才能』を付与せざるを得なくなった作者の未熟さゆえの欠陥です。タイトル詐欺を連発しまって本当にすみません。


第17話「雫の熱闘九校戦は始まらなかった」

 2094年、夏。

 今年もついにこの時が来た。

 

「お嬢様、お車の用意ができております」

「ありがとう。じゃあ、行ってくるわね」

 

 

 家の屋敷から自家用車に乗り込み、専属運転手も兼ねた執事の安全運転で目的地へと向かう私。

 高速道路でリムジンを走らせながら窓外に映る光景を眺めつつ、私『一色愛梨』は魔法師としての在り方に深い悩みを抱えていた。

 

 

 ・・・後に『魔法師にとって自己対面の時代』と評されることになる時代が始まったばかりの頃、多くの魔法師にとって未来は不透明で不安定なものにしか写らなくなっていた。

 

 一昨年に発表された『超簡易魔法式』によって「魔法が使えるだけでは特別待遇が得られない」事実を、魔法グッズ販売で高所得者になった多数の一般人という目に見える形で証明されたことにより世間一般から魔法師に対する偏見と盲信が同時に揺らぎ始め、根拠としていた拠り所を給金という身近で具体的な数字によって否定されてしまったことから自分たち魔法師の存在意義は失われたのだと誤解する者が増えていたからだ。

 

 

 今さら確認するまでもないけれど、超簡易魔法式の登場で私たち魔法師の存在価値が下がることは“有り得ない”。

 超簡易魔法式が世に出た後も、私たち魔法師の需要は些かも目減りしていないのは当たり前の事実なのだ。

 

 もともと魔法師が優遇されていたのは、社会に必要とされる希少スキルを有していた一部の者たちだけであって、一部の高所得者が全体の総収入を底上げしていただけに過ぎない。

 平均すれば確かに魔法師の収入は一般人より高くなるけど、絶対数で圧倒的に劣る相手と同じ分野で比べ合っても意味がない。比率と絶対数は=ではないのだから。

 

 社会維持に求められる魔法師の技能は極めて高水準なもので、これは簡単な魔法であれば機械で複写できるけど、複雑な魔法になると複数の機械をつなぎ合わせないと再現できない簡易魔法式では真似することが決して出来ない。

 

 あるいは、“コストに見合わない再現に意味は無い”と言うべきかも知れない。

 優秀な魔法師一人いれば済む作業を、複数の高級簡易魔法式製品を繋げ合わせて再現したのでは本末転倒になってしまう。

 

 今も昔も魔法師に求められるのは弛まぬ修練と、奢らずに上を目指し続ける向上心だけなのだ。

 そのことを承知していた私にとって超簡易魔法式の登場は、驚きでこそあれ自分が寄って立つ地面を揺るがすほどには全く至らず、今までもこれからも私は私で在り続けることに何らの不審も抱いてはいない。

 

 

 ・・・ただ、皆が皆私のようになれないのだという事実を再確認させられる日々を送っているのも事実ではあった。

 

 

 

「・・・『魔法師による犯罪相次ぐ。今度はナンバーズに連なる末席の犯行?』・・・か」

 

 外の景色を眺めるだけに飽きた私は端末を起動し、今朝のトップニュースに視線を落として溜息と共につぶやいた。

 最近、溜息の回数が増えていることを自分でも自覚させられている。

 

 

 簡易魔法式の登場によって一般人と魔法との距離は縮まり、より身近になった魔法に興味を持った人たちが増えてきたことで魔法師への偏見や差別は減少する傾向にある。

 

 その一方で、魔法師にとっての魔法から“特別”であることを奪われたと感じて、凡俗に落とされたと解釈した末に自分勝手で虫の良い動機による魔法師の犯罪が増加傾向にあるのもまた事実だった。

 

 どんなに強力な力を持とうと、社会に必要とされない魔法は富も名誉も、もたらしてはくれない。当たり前のことではあったけど、その当たり前を実感する必要性が今までの魔法師社会には存在していなくて、今の社会には至る所で触れさせられてしまう。

 

 事実を事実として認識させられた途端に、“知っていること”と“実感”との間に広がる狭間に飲み込まれてしまう人が後を絶たないのが、今の魔法師たちが置かれている現状だった。

 

 

(私にとっての超簡易魔法式は、一色という家を背負う立場から“降りられない理由を奪う”ものだった。

 魔法師に生まれた者が魔法師として生きることを“義務ではなくした”。ただそれだけの物。・・・そう思えたこと自体、特殊なのだと言われてしまえばその通りなのかも知れないけれど・・・)

 

 幸いなことに、私は新しい時代に無理なく適合することが出来たし、栞や沓子たち周りにいる主立ったメンバーの多くが大なり小なり課題を抱えながらでも乗り越えられた。

 

 でも―――“一人残らず乗り越えられた訳じゃない”。乗り越えられずに過去へ獅噛み付く道を選んだ知り合いや知人、遠戚も大勢いた。

 “生まれた家が優れていても、子供たち全員が成功する訳がない”。子供でもわかる当たり前のことだけど、その当たり前が『当たり前のこととして起きるようになった』今の時代に、私は具体性のない不安に襲われることが多くなっていた。

 

 

「――着きました、お嬢様。会場前でございます」

「・・・ええ、ありがとう。行ってくるわね?」

「はい、行ってらっしゃいませ」

 

 声をかけてねぎらい、外に出る。

 伝統的な魔法師社会が揺らいでいる今の時代になったからこそ、必ず来たいと思えるようになった場所。私も来年は同じ舞台に立つことを目指して日々修練に励んでいる憧れの会場。

 

「全国魔法科高校親善魔法競技大会の会場・・・・・・九校戦の開幕!!」

 

 

 移り変わる世の中にあって、今までと変わらぬ在り方のまま立ち続ける、日本の魔法科高校すべてにとって最重要イベントの一つ、『九校戦』が開催される場所!

 

 今と昔が混在している時代の中で、昔の在り方をそのまま残して今に受け入れられているこの場所こそが、双方をつなぐ橋としての意味を持つのだと今の私は強く確信している一大イベントだった!

 

 

「さて、それじゃあ急いで座席を確保しなければね。去年のこともあるし、今年はきっと座席争奪戦でも熱くなるだろうから・・・っ!!」

 

 毎年優勝候補として挙げられる伝統と格式ある強豪校、第一高校。その一年生たちが一昨年に見せた圧倒的活躍を目当てに例年以上の観客動員数が予想される現状、のんびりしている暇はない。早く会場内に入って座席を確保しないと、良い観戦場所を確保できるわけがないのだから!

 

 その為には多少の誘惑になど惑わされてはいけない。全国から魔法科の学生たちが集う大会の性質上、様々な地方の新商品が並んでいたり、美味しそうなご当地グルメを販売する屋台が軒を連ねていたりもするけれど、魔法師社会の今と昔を繋げる大会を観るという使命を帯びて訪れた私を止めるほどの力を有しているはずがない!!

 

 ・・・・・・あ、クルーザポップコーンの九校戦限定味だわ。ちょっとだけ試食してみたいかも―――って、あら?

 

 

「え。あれってもしかして・・・・・・子供?」

 

 

 小学生くらいの背丈をした女の子と、高校生ぐらいの身長を持つ少年の二人連れが屋台の前で、何を注文するかで揉めている姿を見つけた私は少しだけ意外そうな声を上げてしまっていた。

 

 

「・・・どうだ、雫。どちらにするか決まったか? そろそろ悩み始めてから二十分近く経つのだが・・・」

「う、ん・・・。後ちょっとだけ待っ、て。今どっちかに絞ったと、こ・・・」

「――いや、絞るもなにも食わず嫌いのお前には最初から、選択肢は二つしか存在しないだろう?」

「あ、うぅぅ~・・・」

 

 

 場には似つかわしくない、と言うほどではないのだけれど、高校生のスポーツ大会ではなかなか見かけ難い取り合わせに意外さを感じて黙ってみていたところ、悩んでいる料理の名前二つが聞こえてきた。

 

 

「うぅー・・・でもやっぱ、り決められな、い・・・。

 『モノリス・コード大木剣』と、『アイス・ピラージ・ブレイク羽織』。どっちをお父さんのお土産に買っていけば喜ぶの、か分からなく、て選べな、い・・・」

 

「あれ!? 選んでるの料理じゃなくてお土産なの!? だって、あれ? 今って開催日当日で最終日なんかじゃ・・・あれぇーーーっ!?」

 

 背が小さい子の方が言った言葉に、私は大いに慌てふためき狼狽え騒ぐ!

 だって日程おかしいし! 今時旅行先でお土産屋に行くときでも帰る当日か前日が基本だし! どんなに早くても、十二日から十日と長丁場になりやすい九校戦の開催当日に買おうとするのはおかしすぎるし!

 

 

 あまりにも非合理的で計算の合わない行動と思考に、軽いパニックを誘発されていた私は、二人が自分の声に気づいて振り返っていた事に気づくのがおくれて、顔を上げたときには目が合ってしまった。

 

 

「う・・・」

「「・・・??」」

 

 

 二人が黙って見てきたのに対して、私はあからさまに声を上げてしまって不思議そうな顔して見られてしまった。

 別に特別何かがあったという訳ではなくて、こういう場で相手の素性が分からない状態での対応方法がすぐさま頭に浮かんでこなくて困っただけ。

 

 ・・・簡易魔法式登場前から、ずっと家柄と能力と容姿で見るのが基本だったものねぇ。

 いきなりの不意打ちで目が合った一般人なのか、九校戦に参加する選手の一人が応援にきた実家の妹を案内してあげてるだけなのかさえ判然としない相手と軽妙な会話が繰り広げられるほど私の普通の対人経験は豊富ではなくてよ?

 

「え、えーと、その、えーっと・・・・・・」

 

 適切な言葉が思い浮かばずに意味の無い単語をつぶやいてしまっていた私の内心を察してくれたのか、男の子の方が声をかけてきてくれた。

 

「??? ・・・ああ、これは失礼を。連れがあなたの注文を遮ってしまっていたようですね」

「え」

「ほら、雫。早く選んで退いて上げろ。他のお客さんに迷惑になってるぞ?」

「わ。ほ、本当、に? じゃ、じゃあ早く退、く。選ぶのは後回、し」

「そうした方が良い。もともと俺たちの来た目的は別にあるのだし、急ぐ理由はまったくないのだからな」

「え。いや、あの、えっと・・・」

 

 なんだか誤解に基づく気遣いをされてしまっているらしい。

 相手の間違いをときたいと思いこそすれ、相応しい言葉が出てきてくれない。コミュニケーション不足は魔法の修行だけでは補えないのだという事実を私は今知ることができた。・・・今知っても今役に立たないのなら何の役にも立たない気がするのだけどね!

 

「お嬢様ーっ! 達也様ーっ! どちらに御座すのですか!? 返事をして下さいませーっ!!」

 

 どこか近くからお爺さんの声で、誰かと誰かを探している叫びのようなものが聞こえてきたのは丁度その時だった。

 

「ほら、雫。お迎えだぞ。早く戻って勉強の続きをするよう叱ってもらうといい、黒沢さんをこれ以上怒らせないうちにな」

「うぅぅ・・・サボってた訳じゃないも、ん・・・。ちょっとだ、け息抜きに逃げ出して、ただけだも、ん・・・」

「同じだ馬鹿者。だいたい同じ部屋でばかり勉強していると捗らなくなる等と不用意な発言をしてしまったから、会長が気を利かせてお前が受験勉強に集中し易いようにと九校戦の特別観戦チケットを購入してくるなんてバカな展開を招いてしまっているのだぞ? 少しは反省して真面目に勉学にも打ち込むように」

「うう、ぅ・・・達也さん、のアルキメデ、ス・・・」

 

 うん、なんだかよく分からない会話内容だったけど、一つだけ分かったことがあるわね。

 それは、私の家も結構な資産家で、だからこそ簡易魔法式の登場後も性質と得手不得手が読み取れるようになったんだと理解していた昨日までの自分自身が恐ろしく小さい中堅企業の社長令嬢に思えてくるぐらいに、この子のお父さん物スッゴいお金持ちだわ確実に。

 

 九校戦の特別観戦チケットなんて、大枚はたいただけじゃ手に入らないのよ絶対に!? コネとか縁故とか色々な物をつなぎ合わせて併用することでやっと一枚だけ手に入れられるかもしれないと言われている伝説のチケットなんだから!

 

「お嬢様ーっ! 達也様ーっ!?」

「ふむ、タイムリミットのようだな・・・。では、行くぞ雫。これ以上は時間の無駄だ。中学生にとって受験勉強の時間は一秒たりとも無駄にする訳にはいかんのだ」

「あー、う~・・・・・・(木刀に伸ばすけど、届かないで空を切る手)」

 

 訳の分からない二人組は、最初から最後まで訳が分からない会話をしたまま去って行こうとし、男の子の方が横を通り過ぎるときに「・・・ああ、そうだ」と、渋い声音で言うのが側で聞こえてドキリとさせられてしまう。

 

 なんと言えば良いのかしら・・・。全ての感情を削り取られて空虚になってしまった心の中に、誰か特定の個人に対する熱い感情だけが満たされ尽くしていて、若い男性の体に成熟して渋みと冷静さを兼ね備えた大人の精神を複雑に溶け合わせてブレンドしたような、飲めば飲むほど苦み走って旨味を増していく一種独特の色を持つ男声。

 

「よろしければ、こちらをどうぞ。急いでいるところを自分たちに付き合って頂くために遅れさせてしまったお詫びの品です」

「は、はぁ・・・。ってぇ、九校戦の特別観戦チケットじゃないの!」

 

 持ってるだけで事実上の顔パスなんていう無双チケットを軽い仕草で手渡され、私は何が何だか分からなくなってる精神のまま。

 

「構いません。もともと俺もコイツも、九校戦には碌な知識を持ってはいませんからね。

 知りもしないで見ていて楽しいと言う人よりも、好きなスポーツを楽しむために使ってもらった方がチケットも喜ぶのではないかと、そう思っただけだけですので。他意はありません」

「で、でも・・・」

 

 正直、今から走ったところで席取りには絶対間に合わないと断言できる状況の私にとっては、願ったり叶ったりな好待遇ではある。

 とは言え、物の受け渡しはwin₋winであるのが理想だし、最低限相手の欲しがっている物のどれかを返礼として返しておくのが負い目を感じないで済むから都合がいいし、気持ち的にもいい!

 

「なら、せめてものお詫びとして『コレ』をどうぞ。先ほど横に立つカワイイ妹さんが欲しがっていた物だから、きっと喜んでもらえると思います」

 

 

つづく

 

 

おまけ「大木剣と達也さん」

 

「ほう。コレは以外と使えそうだな・・・あとで牛山さんに渡して、後で何かしらの際に役立てられるかどうか検討だけでもしておいてもらうとしようか」

 

 *後にレオが使うぶっとい木刀に、達也さんが着想を得た瞬間でした。

 

 

おまけ2「愛梨は熱闘九校戦に立ちたいと願った」

 

「この鳥肌の立つ感じ・・・たまらない・・・っ!

 私は今抱えている苦悩を乗り越えて、必ず立ちたい・・・・・・あの場所に!!」

 

*こうして愛梨は心の問題を乗り越えて強敵となった。




注:現時点において愛梨他の第三校美少女三人が大活躍する展開は考えておりません。あくまでギャグとして今話は出演していただきました。

世界観が原作と違う中で愛梨たちにも色々あった末に九校戦までやってきている・・・そういうテーマも一応ながら込められている今話でした。

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