前半は達也さん視点で真面目なノリ。後半はポヤポヤ雫ちゃん視点での構成です♪
賊が夜襲をかけてきた翌日から始まった九校戦は、順調に推移していた。
襲撃が失敗した直後でもあったし、風間少佐等一〇一が影から警備していたことも大きかったのだろう。
一日目の『スピード・シューティング』本戦は七草会長が優勝。渡辺先輩の出場した『バトル・ボード』予選も問題なく突破した。二日目の女子『ピラーズ・ブレイク』も圧勝である。
俺の担当した、二日目の女子『クラウド・ボール』では会長が出た訳だが、高校生の大会に十師族の直系を出すならハンデぐらい付けるべきではないかと思えるほどの快勝。ハッキリ言って俺がいてもいなくても大差なく勝っただろうなと言い切れるほどには勝負にならない実力差だった。苦言を呈する点などどこにもない。
二日目の男子クラウド・ボールでこそ振るわなかったが、これは桐原先輩のクジ運が悪かったことが最大の要因であり、運を計算に入れて予測した作戦などあり得ない以上、致し方なかったと割り切るべき事柄だ。
『勝負は時の運』。人事を尽くさず最初から運任せにしたのならいざしらず、出来ることを全てやった後の運に見放された結果まで実力のせいにしていたのではスポーツ選手などやっていられまい。翌日以降に他の者が挽回して、先輩には来年度優勝のため悔しさをバネに更なる努力を積んでもらう。これがベストと言うより、一番マシな対処法と呼べるだろう。
――ここまでは良かった。
男子の不調も“運”のせいにしてよい程度の些事で済む自体でしかなかった。
だが、三日目。計算違いの番狂わせはいきなり齎されることになる。
朝一番目におこなわれた渡辺先輩による『バトル・ボード』準決勝。そのレース中、事故が起きて渡辺先輩が大怪我。選手続行は不可能となる。
これだけならまだ、お悔やみ申し上げるだけで済んだかもしれない。事故ならば、これ以降おなじような自体が起きる可能性は天文学的数値になるからだ。
だが、違う。俺の目と頭脳と経験則が『そうではない』と言っている。
調査してみる必要を感じて調べてみたら案の定、異常な点がいくつも散見された。どれも一つ一つは小さな異変だが、つなげて使えば恐ろしい脅威となりかねない魔法の使い方。・・・発想だけ見た場合、敵の戦術は超簡易魔法式に近いと言える。
明らかに魔法の専門家ではない、工作のプロが施した細工が大会実行委員にまで及んでいる可能性が見つかったと言うことである。自分たち以外は皆、信用できるかどうか分からなくなってしまったのだった。
――油断していた訳ではないが、結果的に俺は守ることに失敗させられた訳だ。二度同じヘマをするようなら、俺は自分を無能と決めつけざるをえなくなるだろう。
二度はしない。次は負けない。
その覚悟を持って、俺は九校戦四日目の朝を迎えていた・・・・・・。
「・・・え、と・・・どうした、の? 達也さ、ん・・・。なんだか疲れてるけ、ど大丈、夫・・・?」
「大丈夫だ。問題ない」
「え、と・・・あの、ね? 達也さ、ん・・・それ大丈夫じゃないときのセリ、フ・・・」
「大丈夫だ。問題ない」
「・・・・・・あう・・・(ビクビク)」
控え室、の中でしーえーでぃーの整備してた、ら達也さんが駆け込んでき、て、「ゼー、ゼー・・・」言いながら息切らしてるように見えたけ、ど、今日もすぐ治っちゃった。
達也さん、は、細マッチョなブロリーさんだと私は思いま、す。
「雫、分かっていると思うが、お前が今チェックをしているCADは俺のハンドメイド品であって、必ずしも正規品ほど安全性は考慮されてない。予選で使わせるよう指示した機種とは全くの別物だ。少しでも違和感を見つけたらすぐに言え。俺の方で時間が許す限り調整し直してやるからな」
「う、うん・・・ありが、とう・・・?」
嬉しいけど達也さ、ん? それだと私が今日の整備をやる必要ないんじゃないか、なぁ・・・。変わってくれるのが一番嬉しく、てありがとうだ、よ?
「・・・なに、この意味不明な夫婦漫才・・・新手のジャパニーズコメディアンなのかしら・・・正直言って、今すぐトイレ行って砂糖吐きたい心地なんですけども・・・」
あ、リーナのこと忘れて、た。
「んと、ごめん、ねリーナ。今、最終チェック終わった、よ?」
「ありがと、雫。――う~ん・・・なんでなのかしらねぇ、この絶妙のフィット感。
違和感あるはずなのに、全然違和感と思えないまま使えまくっちゃう理屈不明なこの使い心地の良さは何なのかしらね? 癖になるわ~」
白ーい目で私たちを見て、たリーナだけ、ど、しーえーでぃーを渡してあげたら元気になった。リーナにはケーキよりも、しーえーでぃーを上げたらいいみたいで、す。
「感覚で合わせているらしいからな。正直、俺も同じ事をやれと言われて出来る気がしたことは一度もない。感覚的なものが原因だからなのか、理屈や理論では全く解析することができなかった。
ある種の魔法と言っていいぐらいに、コイツの専用CAD調整は不可思議な現象が続発し続けるんだよ」
「・・・・・・その説明聞いて不安にならない自分が逆に不安なほど馴染んでるのよね、コレが・・・。てゆーか、魔法師が『魔法と言っていいぐらい』にって表現使うレベルの現象って一体・・・・・・」
「だから、『ある種の魔法』と表現したのだ。科学では理解不能な出来事が、まだまだ世の中には沢山あるという生きた実例だろう。俺もまだまだ学ばなければならない事柄が多いと言うことだ」
「・・・科学で魔法を再現して生まれた、魔法師社会って一体・・・・・・」
・・・・・・??? なんだ、か今日はリーナ、も哲学屋さんみたいだ、ね?
「まぁ、いいわ。何はなくとも、私以外の二人は勝ったのよね?」
「ああ、完勝だった」
「オーライ。それだけ教えてもらえれば十分すぎるわ。私のプライドに賭けても勝つ以外に選択肢なくなっちゃったから」
り、リーナ・・・・・・。
「かっこい、い・・・・・・(ぽわぽわ)」
「ありがと、雫。じゃ、ちょっと行って優勝してくるわ。タツヤがお膳立てして、雫が私専用に整えてくれたこのCADを使ってね。楽勝よ。
正直コレがなくても勝てると思うけど、でもコレがあるなら勝ち以外の結末はあり得ないと確信できるから」
ザッ! って、漫画とかなら音が書かれてそう、な歩き方、でリーナは控え室の出入り口を出て行って、出たところで一度止まって、私たちの方を振り向い、て。
「征ってくるわね。――勝利の栄光を、君たちに!」
敬礼してか、ら行っちゃった・・・。
「・・・おい、そう言えば雫。アイツに大会の待ち時間用にといくつか本を貸していたな。後でタイトルをすべて明記して俺の所に持ってきてくれないか? 数と内容を考慮して、大会終了後の説教時間を試算しておきたくなったものでな」
「(ビクビクゥッ!)・・・ひゃ、百から先、は、覚えておりませ、ん・・・・・・(びくんびくん)」
「そうか。百冊ぐらい忘れてしまえる程度の数と言うことか。そうかそうか(バキボギ)」
「あう、あう、あううぅぅ、ぅ・・・・・・(えぐ、えぐ、ぐじぐじ・・・)」
――こうして、後に『九校戦を変えた最初の日』と呼ばれる事になる、大会四日目の『スピード・シューティング』新人戦準々決勝最後の試合が始まるブザーの音が鳴り響くのだった。
つづく