北山雫は魔法科高校の劣等生   作:ひきがやもとまち

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けっこう久しぶりになってしまいましたね。「雫」更新です。
久しぶりに更新なのに主人公の出番は少ないです。最後ら辺に少しだけ。
今回は作者お気に入りの七草会長をはじめとする一校三年生メンバーによる悲喜こもごもな会話をお楽しみいただけたら光栄です。

*今気付いたのですけど、タグに「女オリ主」って付けちゃってましたけど全然オリジナルじゃなかったですね。ごめんなさい、先ほど消しておきました。


30話「魔法科第一高校の優等生たちの話し合い」

 運動競技のスポーツでも盤面遊戯のチェスでも、ヤル気がない人は勝利しづらい。それは魔法競技の九校戦でも同じことが言える。

 チームメイトの活躍を見て「今度は自分がやぁってやるぜー!」と意気込むことができた人はヤル気が出て実力以上の結果が出せるのは旧世紀から続くスポーツ競技共通のシステムであり、だからこそ味方の勝利は士気を高める特効薬と昔から言われているのは誰もが知る一般的なこと。

 

 ――なんだけれども・・・・・・

 

 

「森崎君が準優勝して、後の二人は予選落ち、か・・・・・・」

 

 私、七草真由美は一高の幹部三年生たちの見ている前で溜息をつく。

 新人戦一日目が終了して順位表が発表され、男子スピード・シューティングの結果が思っていた以上に芳しくないことに一高の将来が不安になってきてしまったから・・・。

 

「男子と女子で逆の成績になっちゃったわね・・・・・・」

 

 ため息を誤魔化すための苦笑いを浮かべながら、私はそう言って今日の総評を口にする。

 

 キツいことを言うようだけど、十師族の本家に生まれて一応は生徒会長をやってきた私の経験則から言わせてもらうなら、「ヤル気」はともかく「気負い」ではじめた事業というのはたいていの場合は失敗して終わってる。

 もちろん、気負いにもいろいろあって成功する新規プロジェクトのほとんどが一部の担当部署の熱意から始まっているという事実も知ってはいるんだけど・・・。

 

 でも、「気負う」理由には「見栄」が混じりやすい。見栄は「気負い」を「プライド」に直結させて視野を狭くして「空回り」という結果を容易に導き出させてしまう様になる。

 勝ち負けがある勝負である以上、どんなに頑張っても負けるときは必ず負けるのは仕方のないことで、負けが確定した勝負は損切りして、次のための糧にするか余力を残しておいた方が賢明なのに「今この勝負に勝てなければ全て終わりだ!」みたいな思考に人を錯覚させてしまいやすい。

 

「まぁ、こんなご時世だからな。九校戦初参加の一年一科生に、力を抜いて競技に挑めというのも考えてみれば無理があったか」

 

 風紀委員長として後輩たちに感じた失望を隠すためか、摩利がそんなセリフを私と同じような口調で続けてくる。

 

 超簡易魔法式の急速な普及によって、優秀な魔法師というだけでは特別な地位と特権を維持できなくなってしまった現代魔法師社会の中で九校戦は、純粋な魔法力を競い合う伝統的で権威ある魔法競技大会として残された数少ない一大イベント。

 地位の復権と、二科生たちへ実力差を結果によって知らしめたいと願っている人たちが多い一科生の中には、どうしても“そういう気分”は醸成されやすい時代背景が心理面に影響しちゃう。

 

 ・・・しかも、技術スタッフとはいえ初っ端から“あんなモノ”を見せられちゃった側としてはねぇ~・・・。まぁ、気持ち的にはわからなくもないからキツいこといいたくても正直言えないわ私としては。

 本当にもう、“あの二人”は本当にまったく、本当に・・・・・・ああもう!!

 

 

「そうとまでは言えません。三校は一位と四位ですから、女子の上位独占で稼いだ貯金がまだまだ有効です。

 男子の方も今日の結果を事実として受け止め、明日の競技へ活かすことさえできればよい結果を導き出すことも可能でしょうし、これについて当人たちの自助努力だけに掛かっている問題でもあります。

 所詮、個人的な気持ちの問題は自分自身でどうにかするしかない以上、終わってしまったことを今更言ったところでどうにもなりませんし、損切りして考える方が賢い選択なのではないでしょうか?」

「うん、リンちゃん。それは正しいものの見方だけど、それ言っちゃうと終わっちゃうから。今日の競技に参加した一科生みんなが終わっちゃうから。

 精神的に終わりを迎えさせられて死んじゃうから、本気でやめてあげて言わないであげてマジメにお願い。

 貴女の十師族直系で生徒会長相手にも率直すぎる意見を言ってくれるところは大好きで高評価してるんだけど、こういう時にはオブラートに包んだ言葉を言ってあげてください。お願いします」

 

 私、みんなの見ている前で生徒たちを(精神的に)守るために部下に対して土下座を(気持ち的に)敢行。

 まったくリンちゃんは! 本当にまったくもう・・・ッ! 正直なのはいいけど、少しは社交辞令という言葉を覚えてほしいわね!

 その人にとって言われたくない事実を突いた言葉は、ときに人を自殺させて殺せるんだってことを知りなさい!

 

「ま、まぁ、市原の言うことにも前半と終わりの部分には一理ある。悲観的に考えすぎるのはよくないし、こぼしたミルクを今更嘆いても意味はない。元々、女子の成績ができ過ぎだったんだ。今日のところはリードを奪ったことで良しとしておかないのは、考えてみると欲が深かったからな、うむ」

「そ、そうね! 摩利の言うとおりだわ! 大事なのは今日の日記帳よりも明日の予定表だものね! さすがは摩利! 最強の剣術バカップルと三流ゴシップ誌にパパラッチされたことがある女! 言うことが違うわね!!」

「はっはっは――後で屋上にくるんだ真由美。お前となら久しぶりに本気が出せそうなくらい切れてしまってもよさそうだからな・・・・・・」

「しかし、男子の不振は『早撃ち』だけではない。『波乗り』でも同様だ。何かしらの対応策を話し合っておくのが一高首脳陣としての義務というものだろう」

 

 私と摩利が言い訳しない性格のリンちゃんのために、問題発言になりそうな事実への指摘をごまかすため意味のないと分かりきってる会話をしている横から、険しい表情で正論とともに異を唱えてきたのは十文字克人くん。

 マジメすぎるほどマジメすぎて責任感のありすぎる性格が裏目に出る結果になっちゃったわね・・・ええい! この高校生にはとても見えない体育会系のスポーツマンめ! 雫ちゃんが貸してくれたスポ根漫画の世界に帰っちゃいなさいよ!まったくもう!

 

「・・・今、なにか失礼なことを思っていなかったか? 七草・・・」

「いいえ、そんなことはないわ。気のせいよ克人君」

「・・・・・・そうか。まあいい・・・。それよりも男子の不振についての問題だ。

 予選上位独占の女子に対して男子一名。このままズルズルと不振が続くことはないと思いたいが、最悪の場合も想定して備えておく義務と責任が俺たちにはあると考える。

 今年は良くても来年以降に差し障りがあるようでは、一高生徒数百人の中から選ばれた九校戦選手団の代表として義務を果たしたとは到底言えまい」

「それは負け癖が付く、ということか?」

「その恐れがあるということだ。たとえ現実にはまだ起きていなくとも、未来の危険性について考えて対応策を準備だけでも済ませておくのは責任者の義務というものだろう。

 最悪、多少強引な梃子入れをする必要があることは承知しておいてもらいたい」

「しかし、十文字。梃子入れと言っても今更何ができるというのだ?」

 

 十文字君の責任者として尤もな意見に対して、摩利もまた現場責任者として尤もな反論を口にする。

 実際、どっちもどっちで双方共に正しい意見なのは間違いない。

 十文字君の意見は責任者として事前準備をおろそかにしない義務感と責任感に満ちあふれたものだし、摩利の意見は動き出した事態の中である物をやり繰りするしかないという臨機応変の柔軟性に富んだ彼女らしい意見だと言えるから。

 

 それにまぁ、大会が始まってる以上は男子がどれだけ不調になろうと責任者がしてあげられることなんて限られてるのが現実だしねぇ~。

 ルール上、今からでは私たちに選手やスタッフを入れ替えることは認められてないし、せいぜいが「気にするなよ」的な内容の説教とか、偉人たちの名言とか格言とか、成功者の成功例を引き合いに出して語ってあげるとかの学園ドラマ的な詭弁で論理をすり替えて、根本的問題は放置したまま別の目標を与えてそっちに気分を持って行かせてあげて一時的に悩みから解放してあげるぐらいが関の山。

 

 その程度のことで満足して、生き生きと前に進んでいける人も多いのだけど、その逆に対処療法にもならない人だって結構いるし、放っておくことだけが立ち直れる手段になってる人もいたりして、やっぱり本人次第の自己責任になっちゃうしかないのが現実における気持ちの問題。

 

 と言うかまぁ、ぶっちゃけちゃうと九校戦って『モノリス・コード』以外は個人競技だけの魔法競技大会だから、『本人の気持ち次第』になっちゃうのはどうしようもないのよね・・・。

 コートの上にいるのは、自分と相手だけ。自分を支えてくれるのは、自分の心の中にいる誰かと自分を信じる心だけ。一対一の実力勝負で順位を競い合うっていうのは、そういうこと。勝っても負けても自分の問題は自分の問題。誰もとるべき責任を代わってくれることなんてできはしない。

 

 それを承知で参加するのがスポーツ大会ってものなんだから仕方ないんだけど・・・・・・やっぱり厳しいものよね、勝ち負けがすべての世界っていうものは・・・・・・。

 

「・・・・・・フッ」

 

 ――それにも関わらず、なぜだか克人くんは摩利からの疑問に対して自信満々なふてぶてしい笑顔を浮かべるだけで、視線による再度の回答要求にも再反論なし。

 

 まったく・・・この人はこの人で何を考えているのか分からないときがあ―――はっ!? 

 

「ま、まさか克人君・・・っ、あなた、あの手を使うつもりじゃ・・・・・・っ!?」

「ほう・・・。さすがだな、七草。お前もどうやら俺と同じ腹案を考えついていたようだな」

「な、なんて九校戦の伝統を無視するような方法を・・・・・・っ」

 

 私はあまりの衝撃に立ちくらみを覚えて、逞しくて野太い笑みを浮かべている目の前の男の子の決断力と行動力と柔軟すぎる発想に驚きを通り越して恐怖心さえ抱いてしまいそうになってしまっていた・・・・・・。

 

 

「普段から使っている魔法力とは別に、もう一つの魔法力として存在している潜在能力を引き出して使えるようにする十文字家秘伝の魔法を使うつもりなのね十文字君・・・ッ。

 でも、あの魔法は潜在能力を引き出せるようになるため一晩中激痛にもだえ苦しみ抜かなければ使えるようにはならないものなのに・・・・・・ッ、それを限られた時間内で勝てるようになるため生徒たち相手に使用するなんて・・・・・・!!

 克人くん、あなた・・・・・・なんて恐ろしい人ッ!?」

「・・・・・・・・・・・・七草。お前はいったい、何の話について語っているのだ・・・・・・?」

「え? 違うの? 雫ちゃんから借りた漫画に出てきた魔法スポーツ大会には、そういう風な魔法でパワーアップしてたわよ? 残された少ない時間だけで」

「・・・・・・・・・・・・」

「ちなみにだがな、十文字。私が北山に借りた剣術マンガによると『自分もまた所詮は一人の人間に過ぎないという事実』を認めさせることで一晩だけでも劇的なパワーアップが可能だと書かれていたのだが・・・・・・」

「・・・・・・・・・おい、市原。北山を呼んできてくれないか。一年男子をてこ入れするより先にコイツらには説教が必要だ・・・」

「はい、かしこまりました十文字会頭。―――四十秒で行って参ります(ボソッと)」

「頼む。―――って、え? 今お前なにか余計な一言を言ってなか――――」

 

 

 バタン。

 

 

 

 

 

 そんな会話があったのと同じ日の夜。

 達也に与えられていた客室前の入り口にて。

 

「こら、深雪。何時だと思っているんだ?」

「・・・・・・っ(ビクッ!)」

「睡眠不足は集中力を低下させる。いくらお前でも、思わぬミスが敗北につながらないとも限らないんだぞ」

「申し訳ございません!」

「・・・・・・いや、分かってくれれば良いんだ。さあ、もう部屋へお帰り。送っていくから――」

「・・・・・・お兄様、少しだけ、本当に少しだけ、お時間をいただけませんか? 少しだけで構いませんから・・・」

「え。・・・い、いや、今はその、あれでな・・・・・・先ほどまでCADの最終調整をしていたせいで部屋が散らかっていて、とてもお前を入れてあげられるような状態ではなく、それでだな・・・」

「・・・・・・??? あの、お兄様。どうなされたのですか? なにやらお加減の調子がよろしくないようにお見受けしますが―――はっ!? 室内に不審な侵入者の気配が! おのれ曲者め! お兄様の部屋に忍び込むとはよい度胸です! 思い知らせてあげましょ・・・・・・ッ」

 

 

「・・・・・・オシッ、コぉ・・・・・・ZZZZ(ふらふら、ボ~~ンヤリ・・・・・・)」

 

 

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・お兄様」

「・・・なんだい、深雪・・・」

「今夜は寝かせて差し上げません! 説教のお時間です!!」

「くっ・・・・・・(正論でごまかしきれなかったか!!)」

 

 

「・・・オシッ、コ~~~・・・・・・ZZZZ(-.-)」

 

 

 

 寝ぼけて押しかけてきただけの幼馴染みを叩き起こす決意がつかずに悩んでいたところを妹に見つかってしまった優しすぎる達也さんの疲労と寝不足を引き継ぎながら九校戦は、新人戦二日目を後数時間で迎えようとしている・・・・・・。

 

つづく


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