北山雫は魔法科高校の劣等生   作:ひきがやもとまち

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暑さで頭がゆだっているのと、他の作品の更新も急がねばとか複数のこと考えながらのせいで理屈っぽい思考が上手くできず、とりあえずアイデアだけ形にして理屈面がおざなりになってしまった状態ですけど一応は更新となります。

もし理屈が必要になった場合には、後ほど付け足して書きますね。


34話「北山雫の来訪者な友人も、ある意味では劣等生」

 いささかドーピング気味ではあったが何とか勝ち抜いた、九校戦ピラーズ・ブレイク新人戦第一試合が終わり、一高女子にとっての二試合目が始まる前の控え室。

 ・・・そこで俺は同じようなことを、つい先ほど思って口にしたばかりだと記憶してはいたものの、やはり同じ言葉を言いたくなる欲求をやめる気にはなれなかった・・・。

 

 

「リーナは、本当にあの格好で出ることにしたんだな・・・・・・」

「・・・? そうみたいだけ、ど、それだと何かおかしい、の? 達也さ、ん?」

 

 それでも、事の大本原因が隣に立っている俺としては頭を抱えずにはいられない・・・。

 試合会場が映し出されている小型モニターの中では、舞台の下からせり上がってきたUSNAからの帰国子女ということになっている元世界最強の魔法師の一人で十三使徒でもあった金髪碧眼美少女の姿を前に観客たちが、画面の外側でざわめく光景が雰囲気だけで伝わってきてウンザリさせられずにはいられなかったのだ・・・・・・。

 

 選手を中心に映される九校戦のテレビ映像に、観客たちの姿は当然のように映されないが、エレメンタル・サイトを使うまでもなく見える範囲と聞こえてくる雑音だけで周囲の反応の変化していく流れがハッキリと読み取れてしまって脱力せざるを得ない・・・。

 当初は今までの定石を無視した、型破りな衣装に大きなどよめきの声が聞こえてきていた会場内からの雑音が、徐々に妙な感じの歓声へと変わっていくのを見れば誰でも理解せずにはいられないだろう・・・。

 

 まるで、お気に入りの子供向けアニメを録画されたビデオプログラムに群がる子供のような勢いで、席替えをし始める観客たちの姿まで映されているレベルである。

 もはやこの時点で、来年以降の九校戦ピラーズ・ブレイクの服飾関係が別物になることは避けられまい・・・。

 

「わ、あぁ・・・♪ リーナ格好い、い・・・♪♪」

 

 そう、たとえば俺の横に立ってモニターを見上げているプレイヤー本人のCADを調整したサポートスタッフ本人が今しているのと全く同じような反応をである。

 世間はコイツほど子供でもなくバカでもなく、同じことをする理由はコイツと違って幼稚極まりないものにはならないとは思うが、やってることが同じであるなら気持ちの違いにはあまり意味はない。

 何かをやる気持ちというのは、言い換えれば『動機』である。動機が幼稚な精神年齢によるものか流行や周囲に合わせたものかで行動への評価が変わるわけがないし、変えていいものでもない。

 

「・・・まぁ、俺はあくまで整備スタッフで、リーナの担当は雫だからな。俺は自分の担当するプレイヤーにとって最適な道具と、それを活かす作戦を提供するだけでいい。

 ・・・そういう立場だと受け入れるしかないんだ・・・」

 

 心の中で折り合いをつけるため、敢えて声に出さざるを得なくなるほど世界に向けて俺の幼馴染みが与える影響がバカすぎる・・・。

 大は小を兼ねるとは言うが、世界規模の大きな変化をもたらしてしまったコイツの発明品は、小さなところにまで巡り巡って悪影響を与えてしまうバタフライ効果まであるらしい。

 

 今までファッション・ショー会場でもあったピラーズ・ブレイクは、来年からコスチューム・プレイ会場を兼ねるものへと変わっていくことになる訳である・・・・・・これも時代の変化と言ってしまえば、それまでなのかもしれないが・・・・・・正直うれしくない変化だったのが俺の正直な本心だ。つくづく変われることが良いことなのかどうなのか・・・疑問を深めずにはいられない。

 

「あ。試合、が始まるみた、い。あい“ぬ”・ぶれいくって、楽しいか、ら好き・・・♪」

「・・・・・・」

 

 なんの自覚もなく、なに一つ意図して行っておらず、大半の変化は俺がコイツの思いつきを実用化した結果でしかないとはいえ、コイツなしでは不可能だった変化の大本が、悪気がない故に自覚もなく反省もしない気楽そうな声で言うのを聞かされながら。

 

 俺は理不尽と知りつつ殴りたくなってきた気持ちを頭の隅に懐きながら、無言のままモニター機器のピントを合わせてバカのやるべき作業を補填してやる。

 

 ・・・こうなっては日本人が持つと言われる、熱しやすく冷めやすい民族性に未来を委ね、一過性のブームで終わってくれることを期待するしかない。

 ディスト・ディパージョンを使っても日本中に生放送されてしまった映像と、それを見てしまった者たちが受けた心理的影響までは『無かったこと』には出来ないのだから、受け入れるしかないのだ・・・。

 

 

 モニターに映された映像の中では、フィールドの両サイドに立つポールに赤い光が灯っていた。

 光の色が黄色に変わり、更に青へと変わった瞬間。

 リーナの腕が、特化型CADを持ったままゆっくりと持ち上がっていき、そして。

 

 

 

 ビシュゥゥゥゥゥゥゥッン!!!!!!!

 

 

 

 拳銃のような形をしたCADの先端に光条が煌めいた。

 

 

 

 ・・・・・・そして、煌めいたと思った時には、相手選手側の陣内に立つ十二本の氷の柱が、一瞬にして蒸発されて消滅してしまっていたのだった・・・・・・。

 

 

 

『――――――――――――――――――はぁっ!?』

 

 

 思わず、と言った感じで観客たちの誰もが唖然とした驚愕の念が伝わってくる。

 あるいは、全く訳が分からない、というような感情だろうか・・・?

 俺自身は魔法で感情を消されていることと、理屈の上でだけでも今の現象を知ってはいたため、彼らと同じ驚愕の念までは共有できなかったが・・・・・・思いは同じである。

 

 今のは・・・まさか・・・まさかとは思うが、まさかとは思いたいのだが・・・・・・それでも。

 魔法師は事象をあるがままに冷静に、論理的に認識できなければならず、身内に対する贔屓目で目を曇らせることがないよう心掛けねばならず・・・・・・チィッ!!

 かつて副会長相手に使った毒が、巡り巡って自分に戻ってきたか! つくづく魔法師とは因果な商売だな! 兵器として発展してしまった魔法文化の弊害はこれだから・・・!

 

 

「さて、そういうことだ雫。・・・・・・弁明を聞こう。

 どうしてお前が、FAE理論を応用できるレベルまで知っている・・・・・・?(ゴゴゴ・・・)」

 

「・・・あ、あう、あうあうあ、う・・・・・・(ガクガクぶるぶるメソメソびくんびくん・・・)」

 

 

 

 

 

 

 ―――そして、所変わってバカが自業自得の屍晒してた頃。

 アイス・ピラーズ・ブレイクの会場内は重苦しい沈黙に包まれていた。

 

『『『・・・・・・・・・・・・・・・』』』

 

 相手選手は、ブレスレット型のCADに指をかけたばかりの姿勢で止まったまま再起動できておらず、実行委員会は目の前で今起きたばかりの現実が受け入れられず、魔法ド素人の一般人観客たちには何が起きたのかそもそも分からない。

 

 無理もない・・・・・・ピラーズ・ブレイクは本来、高さ12メートル四方の敵陣に立つ十二本の氷柱を遠隔魔法だけで影響を与え合い、先に全ての柱を倒し尽くした方が勝ちとなる魔法競技だ。

 このため、攻めだけでなく情報強化により氷柱の硬度を上げ、防御にも魔法力を割かねばならず、それによる攻防こそが最大の見せ場となっているスポーツ競技だったのだから。

 

 それが最初の一撃で、一瞬にして氷柱だけを防御する暇も与えられずに全て蒸発され尽くして消滅させれる魔法なんて使われてしまったら勝負にならん以前に試合が成立できなくなってしまう。

 

 ルール無視と言うより、【前提破壊】とでも言う方が正しいレベルの超絶レベル魔法で敵選手を倒した一高女子、アンジェリーナ・クドウ・シールズの勝利が確定するのは、敵陣の氷柱が全て消滅させられてから一瞬以上経ってからようやく勝利者を告げるブザーが鳴った後の事である。

 

 ジャッジ用の機械ですら、一瞬の出来事すぎて誤審の可能性を精査するまでに僅かながら時間を必要としてしまうほど、圧倒的すぎて次の試合からは絶対に使えないし、使うこと許したら大会委員会が全員辞職を免れないトンデモ魔法を使った勝利者だけが、想定内の光景を前にして驚く理由もなく「フッ・・・」と笑うだけで選手用の台を降り。

 

 選手控え室へと戻る途中・・・・・・不意に上方を見上げて一人の少女の姿を探し出し。

 一般観客用ではなく、選手・スタッフ用の席にいた美しすぎる彼女の姿を見つけると「ニコリ」と満面の笑顔を浮かべて相手を見つめ。

 

 

「バキューンッ☆」

 

 

 と、右手で指鉄砲を作り、相手に向かって撃ってみせる仕草をして見せてから右目をつむる。

 まるで、拳銃タイプの特化型CADを敵に向けて撃ち放ち、全ての不可能を可能にする最強の魔法科高校生は自分よ、と宣言するかのように・・・・・・。

 

 

 

 

 

 そして、それを見せつけられた瞬間。

 相手の方はといえば。

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

 ゴォォォォォッ!!!!

 

 

「熱っ!? ちょ、ちょっと深雪! どうしたの!? なんで静かに燃えだしてるの!? 熱い!熱い!熱いわよ深雪!温度上げて!? 超低温で温度下がり過ぎても火はつくからね!? 低すぎる温度は熱いんだからね!?」

 

 

 明らかすぎる挑発を前に、戦意が上がりまくって静かなる態度に超高温の闘気を宿した一人の美少女戦士を爆誕させてしまい、その隣に座っていた恋には燃えるけど戦いにはそれほどでもない友人の少女を、炎に当てられた一般人よろしく涙目で暑がらせまくる結果を招いてしまっていた。

 

 

「・・・そう、リーナ。この試合は貴女からわたしへの宣戦布告だったという訳ね・・・。いいでしょう。

 わたしは貴女のことをライバルで友人だとも思っているけれど、貴女がお兄様より自分が上だと示してきた挑戦を、たとえそれが仕草だけのものだったとしても断じて許せることではないわ!

 貴女には私の手で、その罪を思い知らせてあげる・・・・・・安心しなさい、殺しはしないから・・・(ズモモモォォ・・・・・・)」

 

 

「熱ッ! 熱ッ!? 死ぬ! 死ぬから!? このままだと焼け死ぬから!? 焼死じゃなくて暑さで死ぬからぁ!? 温度上げるか押さえて深雪!! クドウさんより先に私が死ぬ! 死んじゃう!? 熱いィィィィッ!!!」

 

 

 

 

 混沌が混沌を呼び、変なところまで文字通り飛び火する。

 リーナが天才バカの友人を上手くだまして、『理屈は訳分からなくても、結果的に同じ現象起こさせることだけは可能にできてしまうトンデモ能力』を利用して、自分が過去に使っていて、過去に壊してから逃げてきた戦略級魔法の超簡易劣化版型を使ってライバル少女を挑発してしまったことから余計に状況を悪化させ続けながら。

 

 九校戦は、彼女にとって唯一のライバルと対決できる可能性を持った決勝戦へと突き進んでいくことになる。なってしまっていく・・・・・・。

 

 

 

「来なさい、ミユキ。あなたと敵として戦うのじゃなく、本気で競い合うことのできる機会なんて、この先何回あるか分からない・・・・・・。

 ならワタシは、この機会を貴女が全力で挑んで来たくなるよう仕向けるのに利用するだけよ・・・っ!!」

 

 

 決意を新たに、選手用の控え室へと進んでいくUSNA軍からの脱走兵にして、元汚れ仕事担当だった統合作戦本部直属魔法師部隊スターズ総隊長だったアンジー・シリウスの二つ名を持っていた少女は、諜報向きではない実戦向きの能力を全力でぶつけれる相手との戦いに今の時点から心躍らせずにはいられなくなる・・・・・・!

 

 

 ――とは言え。

 

 

「まぁでも、このCADは二度と使えそうにないから破棄するしかないか~。

 修理も無理そうだし、やっぱり大会規定内に収まるスペックで《ブリオネイク》再現させちゃったら一発でオジャンは避けられないのよねぇー。

 あ~あ、元から射程距離短めだったのを、距離12メートルまでに限定して機能特化させる超簡易魔法式の理屈でだったら、相手選手には絶対届かないから威力押さえる必要なくて遠慮なくぶっ放せて楽だと思ったんだけど読みが甘かったかチェ~。・・・・・・って、あら?

 どうしたのシズク? そんな泣きそうな顔して控え室の扉の前で立ったままワタシを待っていて、ひょっとして忠犬ハチコウごっことか?

 ・・・・・・でも、それなら両手にバケツ持ってる理由が分からないし一体何があって・・・・・・ヒッ!? ちょ、ちょっと待ってタツヤ落ち着いて! 話し合いましょう!

 話せば分かる! 話せば分かるわ!! アメリカ人は世界平和のために戦うラブ&ピースの世界警さ、ってギャァァァァァァァァァァッ!!!???」

 

 

 

 

 ・・・・・・世界規模の大きな変化でなくても、小さな変化だろうと変えてしまった代償は大きくて痛いのが、超簡易魔法式によって変わってしまった世界の法則である事実に変わりはない・・・・・・。

 

 

つづく


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