北山雫は魔法科高校の劣等生   作:ひきがやもとまち

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気が付いたら最後に更新した日から大分過ぎてたことに驚き、慌てて完成させたので投稿しました。
ただ、プロローグだけに使う予定だったネタが予想外に長くなり過ぎてしまったため、先に番外編として投稿する形と相成りました。

本編じゃない上に、予想外にできてしまった話のため、御不快に思う方もおられるかもしれません。その点は申し訳なく思っております…。
次は当初の予定通りの内容で次話を書くつもりですので、どうかお許しくださいませ。

アニメ版やマンガ版に影響されて途中からネタに組み込もうとすれば失敗する…教訓として活かすつもりです…。


番外話「北山雫は魔法科高校の劣等生 優等生編」

 九校戦の食事は参加者総数の関係から、朝食はバイキング形式、昼食は仕出し弁当か各校事に用意した場所で食べ、夕食だけがホテルの食堂に自校のメンバー全員が集まって利用できるという決まりになっていた。

 その日の試合が全て終わった後、その日の戦績に喜びと悔しさを分かち合えるようにと配慮されたシステムになっている。

 

 

 その夕食が始まるには大分早い、まだ空が青い色を残している時間帯ではあるけれど、その日の最終ゲームを見終わった私たちは会場を後にして宿泊用の施設へと続いている道を歩んでいる最中だった。

 

 ・・・・・・激しい敗北感と畏怖、そして次の試合での必勝の確信を保つことが出来なくなった傷だらけの心を抱えながら・・・・・・。

 

「いやー、ええもん見たのう!」

 

 大切な友人の一人である四十九院沓子が大きく伸びをしながら、私たち『一色愛梨』と復活したばかりの十四夜栞に向けて朗らかに笑って見せて、「お茶でも行くか?」とスポーツ観戦で好ゲームを見終えた直後のファンのような誘いをかけてくる。

 

 思わず沓子自身は『彼女』と対決することになる競技には参加していないからこそ、気楽に言えているだけではないのかと、邪推してしまいそうになる自分を抑えられなくなっていたのは・・・・・・きっと私の弱さ故のもの。

 彼女の圧倒的な魔法力を見せつけられて、やはり強い魔法師には勝てないのだという固定概念に囚われかけることで自己を守ろうとした私自身の弱気が招いた過ちの想い。

 

 そういう思いを抱いてしまうほど、先ほど見たばかりの試合は圧巻だったから―――

 

 

(・・・司波深雪・・・・・・彼女はいったい、何者なの・・・?)

 

 

 大会が始まる前の懇親会で初めて会って挨拶を交わした相手が見せた、あの恐るべき魔法《インフェルノ》・・・。

 A級魔法師ライセンスの受験者用課題として時折出題されることがあると言われ、多くの受講者たちに涙を流させていると、師補十八家のツテで聞いたことがある国家資格取得レベルの大魔法を彼女は学生の身で完璧に使いこなして見せたのだから・・・っ!

 これで何の萎縮もせずにいられるほどには、私は決して自分の実力を過大評価できていない!

 

 まるで“見ている者たち全てを恫喝せん”とばかりの想いと覚悟が込められていた、格の差を示すような大魔法を、他の二人よりも一層強く肌で感じさせられてしまった私には、そう思うことしか出来なかったから!

 

 ――そう思っていた。思ってしまってたのだ。けれど――

 

「はぁ・・・沓子はマイペースね」

「ん? そういや栞も愛梨も、あの選手と当たるかもしれんのじゃったのう。

 二人はええのぅ。アヤツと対戦できるかもしれんのじゃから」

 

 栞と彼女が交わしたその会話内容が耳に入った瞬間、私はハッとさせられて顔を上げ、彼女たち二人の言葉を聞いて間違いかけていた自分の思いをハッキリと理解させられる。

 

「対戦・・・したいの?」

「そりゃそうじゃろう! あれくらい高位の魔法師と思いっきりぶっ放せる環境で相対することなど、多分もう二度とないぞ!」 

「・・・・・・そうね」

 

 彼女の言葉で、「ああ・・・」とようやく間違いを理解させられながら、私もまた自分自身に自嘲の思いを禁じ得なかった。

 何のことはなかった。私は司波深雪と自分との間に広がる魔法力の差を見せつけられて、こう思ってしまっていただけだったのだと気づかされたのだ。

 

 ―――彼女と戦場で殺し合ったら、絶対に自分は彼女に勝てない・・・・・・という、暗い暗いスポーツとは無縁の世界の思惑に囚われて初心を見失ってしまっていた・・・只それだけ。

 

 今までの魔法師社会で、強い魔法が使える魔法師が弱い魔法しか使えない魔法師たちより優先的に魔法教育を受けさせてもらえて、『ウィード』と『ブルーム』などというスラングまで生まれてしまった原因は、魔法師が【国防の戦力として優遇されてきたから】その一事に尽きるもの。

 それ故に他者より優れた魔法師には、いざというとき他者より先に、他者より前へ出て敵と戦い普通の人たちを守らなければならない義務がある。その義務を果たせないのでは他の人たちより日頃から優遇される資格なんてあるわけがない。・・・・・・そういう義務感という思いが今の私を間違えさせてしまっていたらしい。

 

「確かに司波深雪は、とても高い魔法力を持った選手。

 だからこそ彼女に勝利することには大きな意味があるわ」

 

 そう、これは戦争ではない。九校戦よ。

 全国各地から魔法科高校の生徒たちが集まって腕を競い合うための場所。決して、強いものだけが生き残り、生き残ったものが正しくなってしまう、一度の敗北で全てを失う戦争なんかでは絶対にない。

 

「単なる魔法の力比べではなく、ルールに則った競技である限り、どんな強い魔法師にも勝つことは可能よ。

 そのための訓練を積んできた。だから私たちは絶対に勝てる!」

 

 ここまで整った施設を建設し、もし何か起こっても国の魔法師が全力でサポートしてくれる。

 こんな特殊すぎる環境下でもなければ、司波深雪と私たちのような魔法科高校の生徒が全力でぶつかり合える機会なんて絶対にあり得ないのだから!!

 ここまで多額の資金を費やして用意してくれた環境下に、戦争の理論を持ち込んで萎縮してしまい、折角の機会を棒に振るなんてこと・・・それこそ国に優遇してもらっている十師族に次ぐ師補十八家の一員としてあり得ない考え方じゃないの!

 

 ・・・正直に言えば、怯える心はまだ消えていない。恐れる気持ちもまだ心にしっかりと焼き付けられたまま燻り続けている。

 

 それでも私は師補十八家のひとつ、一色愛理。自分だけのことを考えて物を言っていい立場ではない!

 私だけでなく、沓子にとっても栞にとっても、この九校戦は同じ条件と環境を与えられた特別な機会なのだから、最大限活かせなければ勿体ないのだから!

 

 私たち魔法師は、兵器として用いられるため生み出された者たちだけど、兵器そのものではない。人間よ。・・・そして今の時代に、兵器として生まれた運命から解放されつつある・・・。

 その幸福な環境を自ら放棄してしまったのでは、この環境を【魔法師でもないのに生み出すことができた魔法使い】あの『ルイ』に対して申し訳が立たないわ!

 

 それに何より魔法師に生まれた者として、なんだか負けたみたいでイヤじゃない!

 だったら実際の戦争だったらどうかなんて考えることなく、スポーツの試合をスポーツの試合として勝つことだけ考えて勝利を掴み取ってみせる! それだけよ!!

 

「・・・その通りね」

「そうじゃぞー!」

 

 二人も賛同してくれて笑い合い、綺麗に締まったところで甘い物でも食べに行き、気分を一時だけでもスッキリさせようかと―――そう思っていたところ。

 

 

 ふと、自分たちが向かう先に人の気配を感じて立ち止まり、敵意とか悪意とかは感じさせない自然な足取りで廊下の曲り角から、背中で手を合わせた姿勢で足取り軽く出てきた相手の姿を見つけたとき、私は思わず息を飲んで立ち止まらされ、栞はたまらず声を上げてしまっていた。

 

「――! クドウっ・・・・・・さん」

「ハ~イ、シオリ。一日ぶり」

 

 廊下の角から姿を現したのは、蒼穹の空を思わせるスカイブルーの瞳と、頭の両脇にリボンで纏めた波打つ黄金の髪を持つ、司波深雪とは違うタイプの、けれど決して見劣りしない美しさと魔法力を感じさせる、もう一人の要注意人物!

 

 第一高校一年女子最強の一角、アンジェリーナ・クドウ・シールズ!

 栞の《アリスマティック・チェイン》を破って見せたばかりの相手と、こんなところで再会するなんて・・・!!

 

「・・・どうして貴女が、こんなところに・・・?」

「ごめんなさい。盗み聞きするつもりはなかったのだけれど、面白い話がきこえたものだからつい。

 ――ワタシも深雪に勝ちたいと思っている一人だったから気になっちゃって」

『・・・・・・っ!?』

 

 その言葉に私たち三人はそろって息を飲む。

 同じ第一高校の選手で、同じチームに属して優勝を目指すチームメンバーに対しての言葉とは思えないほど挑戦的で戦意に満ちあふれた、だけど彼女が口にすれば決して傲慢に聞けないだけの自負と実績を感じさせる強い言葉。

 

 それを聞かされた私たちは、思わず一瞬黙り込み、彼女の話を聞く姿勢を取ってしまっていた。

 

「ミユキは実力を隠してる。理由は知らないし分からないけど、普段は使う力を制御して暴走させないことに意識を集中させている・・・そう見えるわ。

 そんなあの子と本気で競い合える場所なんて、この九校戦以外だと誰も見てない場所で秘密裏に行うリング外戦闘ぐらいしかない。

 だからこそワタシも勝ちを目指し、求めるのよ。たとえ戦えば十中八九負けると分かっていても、彼女との勝負だけはワタシは・・・退くわけにはいかない! そんな気がするの」

「・・・クドウさん」

 

 相手の話を聞いて、不覚にも私は彼女に少しだけ共感を抱いてしまったらしかった。

 何かを耐えるように堅く握りしめた両手を震わせ、感情を抑えようと努力している姿を見ていて分かったからだ。――彼女もまた我慢しているのだと。

 

 司波深雪と互角に近い実力を感じさせられながら、クドウ選手はミラージ・バットの参加選手としてエントリーされていない。

 最初それを映像で見たときには、ただ彼女の実力が司波深雪に及んでいないからだと納得してしまっていたけれど・・・今となっては過小評価していたと考える方が正しいと思える。

 

 選ばれなかった理由は分からないけれど、おそらくは第一高校首脳陣による戦略の一環によるもの。それによって彼女は司波深雪とミラージ・バット本戦で戦える機会を奪われてしまっている。

 このアイス・ピラーズ・ブレイクだけが、クドウ選手にとっても同じチームメイトの司波深雪と全力で戦い合って勝敗を競うことが許された一度だけの機会・・・・・・そういうことなんだと理解したとき。

 

 私は彼女を嫌うことが出来ない自分を自覚させられずにはいられなくなっていた・・・。

 栞には悪いけれど、自分個人の感情を抑えつけ、チーム全体のための戦略を受け入れて、それでもなおチームメイト同士のライバルと競い合える機会で全力を尽くしたいと欲する彼女の姿勢は、とても美しいと思わずにはいられなかったから・・・・・・。

 

「・・・・・・強いのね、あなたって」

 

 不意に栞が声を出すのが聞こえて、そちらを見た。

 彼女は先ほどまでとは違って、まだ引きずってはいるけれど相手に対して率直な敬意を感じている。そういう風にも見える複雑さを持った、いい表情でクドウ選手の顔をまっすぐに見つめながら声を出している。

 

「は? なに突然いきなり」

「たとえ同じチームメイトであっても、仲間であっても、全力を出して競い合うことが出来る。

 相手に敬意を抱きながらも、超えたい勝ちたいと本心から願い求めて、自分こそが一番になりたいと望んでいるのをハッキリ口にすることが出来る。・・・私には出来そうもないことだから、スゴイと思った。それだけよ」

 

 複雑な事情を持つ家に生まれて、家族からの圧力に晒され続けた栞にとって、たしかにクドウ選手のような生き方は出来そうにない。

 だけど、それを理由に逃げようとせず、素直に自分を倒した選手を褒めることが出来るようになれた・・・それが彼女自身の完全復活を意味しているものだと理解して、私は別の意味で嬉しく思い、クドウ選手への感謝の思いを寄り強くしていた。

 

 ・・・・・・・・・そのはずだったのだけれども―――。

 

 

「フッ・・・馬鹿ねシオリ。アイス・ピラーズ・ブレイクもスピード・シューティングも、一対一の試合に勝ち続けて優勝を目指す、トーナメント形式の個人種目よ。つまり――」

「つまり・・・・・・?」

 

 

「つまりトーナメント形式の個人種目っていう競技は要するに―――バトルロイヤルよ!

 味方なんて最初からどこにもいないわ!

 同じチームだろうと敵になったら倒して自分一人で勝利の栄光手にすること目指す情け容赦無用の友情ぶっ壊しスポーツ! それこそがトーナメンツ!!」

 

 

『何言い出してんの貴女!?』

 

 

 ――とんでもない主張を言い出した瞬間に、今まで感じた想いの全てをなかったことにしたくなってしまったわ!

 この人全然スポーツと戦争の区別なんてできてないじゃないの! 完全に戦争の理屈をスポーツの世界に持ち込んできてる人の典型じゃない! むしろ極地と言っていいほどに!?

 

「なんでよ!? ワタシの言ったことの何処が間違ってたっていうのよ! ものすっごく上品に取り繕った日本人らしい建前と方便を上手く使い分けれた言い方だったでしょう!?」

『その言い方が、建前も方便もぜんぜん使い分けれていないんだけど!?

 スポーツって言うのはフェアプレー精神に則って、正々堂々と挑むものでしょう!?』

「フェアプレー精神? ハッ! 正々堂々って言葉は自分が有利な立場にあるときに、有利な条件を維持するために使われる建前でしかない日本語よ。

 卑怯って言葉は自分が不利な状況にあるとき、相手から譲歩を引き出すための方便でしかないのと同じようなものよ。

 純粋な魔法力による力比べで勝てそうにないから、直接ぶつからずに強い魔法師を無力化するのだって戦術としては間違ってないものね!

 ワタシは超簡易魔法式の登場によって、それを学んだわ! 狂気の天才ルイ、ファ―――ック!!」

『だから本気でさっきから何言ってるの貴女って人は!?』

 

 

 流石の沓子までもが加わって、三人がかりで司波深雪と同等の強さを持ち、司波深雪よりもずっと性質の悪い思想まで持ち合わせていた最悪最強の魔法師の暴論を止めようと全力を尽くしているけど、通じない!

 この人、強い! 主に心が! 悪い意味でだけれども!!

 

 栞には今度こそ自由に自分のために力を尽くせるようになって欲しいと願っている私だけど、ここまでフリーダムに自分のことだけ優先できる人間にはなって欲しくないわ! 本当に! 心の底から絶対に!!

 

「だいたい、貴女たち日本人は本音と建て前を使い分けることに恥じなさすぎるのよ! だからあんな卑怯で卑劣で姑息な手法を思いつくことが出来るんだわ! あーもう! 純粋な力比べだったらワタシが勝っていたはずなのにィィィィィッ!!! って、あべひッ!?」

 

 

 と、急に目の前でいきり立って頭をかきむしりながら叫びだしていたクドウ選手の動きが停止し、体から力が抜けていくと思ったときには誰かによって支えられていたのが分かり。

 

「・・・まったく。騒いでいる声が聞こえたから当たりをつけてきてみたら、案の定だったな。雫一人に押しつけて誤魔化して逃げ出した先で、お前はいったい何をやっているんだ・・・」

 

 彼女の後ろから現れた長身の男子生徒によって、冷たい瞳で見下ろされながら、ゆっくりと前のめりに倒れていくところを途中で受け止められて、まるで荷物を運ぶような仕草で持ち上げられ、ちょっと恥ずかしい体勢で担ぎ上げられる最強の一角に見えたクドウ選手・・・。

 

「第三高校一年の一色愛梨さんたちですね? この度は当校の事情で失礼致しました」

「――あ、いえ・・・こちらこそお気遣いなく・・・?」

 

 あまりにもあまりな展開に、エクレール・アイリと言われる私も思うように思考が働かずに、適切なのか不適切なのかよく分からないまま返事だけを答えとして返してしまう・・・。

 

 知覚した情報を脳や神経を介さず、直接精神で認識して肉体に命じる唯一無二の私だけの魔法《稲妻》も、頭が働いてないときにはいまいち役立たないんだなぁー・・・と、なんとなく脳の片隅でボンヤリ思ってしまいながら・・・。

 

「俺は第一高校の技術スタッフの一人で司波達也と言います。一応、魔法工学科の代表という過分な役職にも就いていますが・・・」

「魔法工学科って・・・・・・あの日本初の!? 凄いではないですか!! それに司波って――」

 

 一見すると身長以外は凡庸に見えた相手の予想外すぎる凄まじい肩書きに私は驚愕を隠すことが出来ずに声を上げてしまったけれど、相手の方は如才なく微笑むだけで傲慢さも過剰な謙虚さも一切見せることなく、礼儀正しく正しい対応をしてくるのみ。

 

「はい、司波深雪は俺の妹です。出来のいい妹と違い、不出来な兄で恥ずかしい限りですよ」

「そ、そんなことはありません。凄いことだと思いますよ? 少なくとも、私には真似できそうにありませんから・・・」

「それは買いかぶりですよ。実技試験で評価されるのは速度、規模、強度の三つ。それらで

俺が劣等生なのは事実ですから。

 評価基準というものは用途に適したものを選び出す為のもので、軍に適した魔法師を選び出すならともかく魔法科高校の生徒としては必ずしも間違った評価と、俺自身は思っていません」

 

 慣れた態度で、私たちに向けて丁寧に語ってくれる男子生徒に私は深い敬意と、そして同じくらい激しい罪悪感を覚えさせられてしまう・・・。

 彼を見た瞬間に、家柄や魔法力の上下で判断しようとしてしまった自分が恥ずかしくなってしまったから・・・・・・。

 

 あれほど魔法師として優秀で、見た目まで良すぎる妹を持つ兄として生まれてしまったら、周囲から妹と比較されずにはいられなかったろうに・・・それを乗り越えて全国魔法科高校の中でも他に先んじて新設されたばかりの魔法工学科に代表として入学できた誇るべき業績。

 それを偉ぶりもせず、謙虚に己の出来ること出来ないことを正しく理解した上で適切な対応が出来てしまう学生離れした大人びた対応の仕方。

 

 まるで名門魔法師の家系に次期当主となるため育てられたような、立派すぎる態度に深い感銘を抱かずにはいられなかったから・・・・・・。

 

「この度は他校選手の皆様方に、当校生徒の個人的事情によって不本意ながらご迷惑をおかけしてしまい、当方の遺憾とするところです。

 俺個人としても可能な限り皆さんの不快を解消できるよう努力していく所存ですので、どうかご容赦をお願いします。

 何より選手ではなくとも、九校戦に参加しているスタッフの一人として大会を楽しんでくれている観戦者たちのため、大会運営が阻害されないことが最優先ですから」

 

 その言葉で、私は彼のことを全面的に信頼し、全てを委ねようという気になっていた。

 個人的な感情や、身内の不祥事、ライバル校の選手に頭を下げて非礼を詫び、大会全体の運営をこそ優先して考えられる魔法師として理想的な在り方に、一色家の名を背負う者として深い敬意を抱かずにはいられなかった・・・・・・。

 

「では、失礼いたします。

 これからコイツに説教しなければいけない職務がありますので・・・」

 

 そう言って、頭を下げて去って行く背中を見送った後。

 彼の姿が見えなくなって、しばらく経った頃。私は未だ茫然自失している沓子と栞に向かって、つい。

 

 ・・・・・・私の立場で聞いてはいけない質問を聞いてしまう愚行を犯してしまうのだった・・・・・・。

 

 

「な、なんだったの? さっきの人たちって・・・」

「今年の一高メンバーは本当に凄いのばっかりじゃのぅ。いろいろな意味でじゃが・・・」

「―――ねぇ、栞。沓子。仮にも魔法師として、こういう単語を使った質問はするべきではないと自覚してはいるのだけれど・・・・・・」

 

 

 

「一目惚れや運命って・・・この世に実在してると思う?」

 

『・・・・・・はい?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・まったく。余計な喧噪を起こしてくれるものだ。

 ライバル校に借りを作らないため、一言の謝罪もせず、責任を取ることも明言しないまま、観客と選手に全ての責任を押しつけて場を凌ぐため、必要最低限の気遣い以上の詭弁を弄する羽目になってしまうとは・・・・・・ハァ。

 これで北方会長への借りがまた増えてしまった事になる訳か・・・・・・どうにかならないのか? この《グラム・ディスパージョン》でも分解できそうもない柵という名の束縛という奴は・・・」

 

「ミ・・・認めたくないもの・・・ネ・・・。若さ故の過ちというもの、は・・・・・・ガクリ」

 

 

 

 

 

「・・・グスッ、グ、ス・・・、達也さんとリー、ナ・・・いつ帰ってくる、の・・・・・・? 寂、しい・・・・・・(エグッ、エグッ、)」

 

 

優等生編番・完

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