北山雫は魔法科高校の劣等生   作:ひきがやもとまち

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超久しぶりの更新となります。遅れて申し訳ない…。
しかも久々なのに主人公の出番が超少ない
原作だと丁度、雫の回の辺りなんですけど今作の雫は選手じゃないため…出番が作りづらい次第。ご容赦頂ければ幸いです。


36話「北山雫はクリムゾン・プリンスに宣戦布告・・・・・・する?」

 魔法競技は一応、非魔法スポーツほど性差の影響は大きくないと言われている。

 とは言え、バトル・ボードやクラウド・ボールのように身体能力が勝敗に影響する競技も存在しているため、今年から新人戦も男女別におこなわれるよう九校戦にルール改正が行われていた。

 

 裏を返せば、本戦では今まで男女別にやっていた競技を新人戦でも同じにしたのは今年になって、ようやくという事になる。

 

 そうなると自然に一部の例外を除いて、男子選手は身体能力が影響しやすい競技に、女子選手たちは影響が小さい競技に偏りやすくなる傾向が生まれる。

 そして本戦では例年、一般客は女子の競技に、男子の競技には軍・警察・消防・大学などの関係者たちが集まりやすくなっていた。

 

 ・・・・・・魔法師にとって卒業後の就職先関係者が、意図的に棲み分けられちゃう男女分けは本当に男女平等の現れなのかしらね・・・?

 表面的には平等を謳いながら、こういった国家規模のスポーツ競技大会運営委員会が、男尊女卑的な方針でやり続けたがる人を重鎮として迎え入れてしまう日本の伝統はホントどうなんだろう・・・。

 

「――まるで人がゴミのようだわ」

「真由美・・・・・・お前、また北山から古いマンガか何かを借りて読みふけってないか・・・?」

「なんのことかしら、麻利。試合開始前におかしな話はやめてちょうだい、不謹慎だわ」

 

 キリッとした態度で、キッと強めの眼差しで見つめ返しながら言い返して、相方でもある風紀委員長の渡辺麻利を不満そうに黙らせながら私は再び真面目な態度で前を向く。

 

 まぁ、相手の指摘は当たってたんだけれども。間違ってたのはマンガじゃなくて映画って部分だけなんだけれども。

 当たってたからこそ、間違ってると断言しなきゃいけないことが組織の長ってあるものなのよ。組織の理屈って割とそんなもの、権威は大事(キリッ!)

 

 ま、まぁそれはそれとして置いておくとして。今大事なのは、眼下の光景なのよ光景。

 

「すごい人ねぇ・・・・・・随分と、大学や軍の関係者まで多い気がするし」

「仕方があるまい? 昨日のアレを見せられて記録映像だけで満足できる者が、大学や軍の魔法関係部署にいるとも思えんし。

 ・・・その分、男子の方は悲惨な状況を呈しているようなのは問題だがな・・・」

「そうなのよね・・・改めて見に来ちゃってる私たちが言える事じゃないんだけど、本当にどうなのかしらね。来年からの第一高校の九校戦って・・・」

 

 一般客席にぎっしり詰まった満員御礼状態の女子ピラーズ・ブレイク新人戦三回戦の観客席を見下ろしながら、私たちとしては揃って溜息を吐かざるを得ない。

 急激に増えた観客たちの目当ては、言うまでもなく予選で超絶魔法を披露した“2人の美少女たち”

 

 司波深雪さんと、アンジェリーナ・クドウ・シールズさんの一年生最強美少女コンビ。

 彼女たちが衆目の前で見せつけたA級魔法が耳目を集めすぎてしまって、新たにやってきた観客たちもプラスされて大変な混雑になってしまった結果が私の目の前には広がってるわけで・・・。

 

 去年までは男女混合だったから、男子選手向けのクラウド・ボールや女子向きのスピード・ブレイクみたいな感じで競技ごとの観客棲み分け現象が起きこそすれ、男女の選手ごとに成績差が開きすぎても同時開催される試合会場に距離があるのも手伝って、それなりの集客数は維持できてたかもしれなかったんだけど・・・・・・今年からは、そうじゃなくなってるのよね・・・。

 

 今年から始まった新人戦の男女別開催で、いきなりの格差はさすがにキツい。

 実際の実力的には、深雪さんやクドウさんみたいな例外を除いて女子選手たちに見劣りしない成績を収められる生徒を男子メンバーにも選んでいるのだけれど、見ている側のイメージというものがある。

 

 人体は、眼球から得られる情報を重視する要素は多くないって学者もいるけれど、人が意識して行ってる認識だと、やっぱり自分が見たものを基準に考えちゃう人の方が多いのが現実だろうと私は思う。

 

 昨晩の森崎君みたいな人もいるしね・・・・・・。

 悪い子では決してないし、クドウさんがフォローしに後を追ってくれたみたいだったけど・・・・・・今日の状況で台無しになっちゃったら流石に可哀想なのよねぇ・・・。

 

「まぁ、特にクドウが使っていた魔法は明らかに軍事利用に向いているように私にも見えた。

 噂でだけは聞いた事のある、十三使徒の戦略魔法《ヘビィ・メタル・バースト》も斯くやといった程だ。軍や魔法大学の関係者としては大会中の使用は二度ないと分かってはいても、期待したくなるのは当然だろう」

「USNAのアンジー・シリウスが使うっていうアレのこと?

 たしかに噂だけで判断するなら似ていなくもないけど、戦略級と呼ぶには効果範囲が狭すぎたし、そこまでのモノではないとは思うけど・・・・・・まぁでも似てるってだけでも無視できなくなるのは分かるしね。仕方ないか・・・」

 

 もう一度だけ溜息を吐いて、私は今回の件を全面的に諦めて受け入れることを覚悟した。

 どーせ私に今更できることなんて何もないし、深雪さんやクドウさんだけじゃなく明智さんだってプレッシャーの中で頑張ってくれている。男子だけがキツいという訳じゃない。

 生徒会長としては彼女たちの努力と成果をこそ喜んで、賞賛してあげるべき業績を立てているんだと自分自身を納得くさせ、私は改めて前を向く。

 

 ・・・・・・ただまぁ、とりあえずは細やかな願いとして。

 

「深雪さんとクドウさんの二人共、あまり派手にやり過ぎないでくれると生徒会長的に助かるんだけど・・・・・・」

「気持ちは分かるが、無理じゃないのか? あの二人が戦える九校戦唯一の競技でぶつかり合って、やり過ぎないで済ませられる姿など想像できんな」

 

 無情にも、負傷して参加選手からリタイアしている麻利からの他人事だからこそな正確すぎる指摘に、私は午後の決勝戦後を思い煩わずにはいられない立場に追い込まれて頭を抱えさせられる。

 

 まだ午前中の部が始まってもいないのに、もう午後の部で勝って優勝した後のことを気にして悩むだなんて、選手としては先走りすぎた懸念を叱責すべきなのが正しいはずなのに、あの二人の場合は悩んでおくのが正しい行動になっちゃうからイヤなのよー、もう!

 

 

 

 こうして、私が麻利と二人で『現時点では取らぬ狸の皮算用』な、的中確率99パーセントの未来予測に対処する方法で頭を悩ませ議論していた中。

 私たちは知らない間に、私たちとは違う場所で、九校戦にまつわる別の話し合いが行われていたことを、私たちは気づいていなかった。

 

 それは試合開始よりも、更に少し時間を遡り、試合会場へと続く廊下を司波君と深雪さんが並んで歩いていた時のこと、二人の人物が眼前に立ち塞がって宣戦布告をしにきていたイベントがあったそうなのよ―――。

 

 

 

 

 

 

 ――九校戦六日目にして新人戦としては三日目にあたる、ピラーズ・ブレイク三回戦第一試合が行われる会場に続く通路を、俺と深雪は並んで歩きながら最後の精神的コンディション調整を行っていた。

 

 もともと俺の担当はミラージ・バットとピラーズ・ブレイクの二種目であり、仮に今日は一日中こちら側に専念したとしても問題はないのだ。

 まぁ、第一高校女子選手のピラーズ・ブレイク担当とは文字通り、ピラーズ・ブレイクの選手たち全体の担当ということでもある以上は、妹の深雪一人だけを贔屓することは立場的にも不適切な行動ではあるのだが・・・・・・。

 少なくとも今日の時点では、ピラーズ・ブレイク参加の第一高校女子選手は一人ずつが他校の選手と対戦して、3人の内2人が勝利して準決勝に駒を進めない限りは参加選手の試合に寄り添っても職務の範疇なので問題はなかろう。

 

 やや言い訳がましいと自分でも自覚しないでもない思いではあったが、事実でもある認識と共に試合会場へと続く通路を歩いていた俺たちだったが、その途上で今は足を止めていた。

 いや、止めさせられていたと、言うべきなのだろう。

 通路の先から歩いてきた2人の第三校生徒たちを前にして、向かい合っていたからである。

 その目は真っ直ぐに俺の方を見ており、第一高校の出場選手である深雪の方には向けられていない。

 

「第三高校一年、一条将輝だ」

 

 俺とよく似た体格を持ち、肩幅もほとんど変わらない様に見える大柄な男子生徒の方が口火を切る。

 初対面の相手に対するものとしては横柄な口調と言うべきだったが、不思議と不快感を覚えさせない相手だった。

 同じ一年生でありながら、リーダーとして振る舞うことが自然だと周囲に思わせる風格が、その二つの両立を可能にしていたのだろう。

 

 あるいは、俺よりだいぶ甘いマスクを持つルックスが、居丈高な印象を緩和しているのかも知れない。

 それはそれで人の上に立つ者として生まれ持った美徳であろうし、彼の綽名に似合ってもいた。

 

「同じく、第三高校一年の吉祥寺真紅朗です」

 

 一条の隣に立つ、やや小柄な方からも丁重な物腰で、だが挑発的な眼差しを向けられながら古風な名前を名乗られる。

 小柄な体格ながら、ひ弱な印象は受けない姿も、その名を聞けば納得するしかない。

 

「第一高校一年、司波達也だ。

 それで、《クリムゾン・プリンス》と《カーディナル・ジョージ》が試合前になんの用だ?」

 

 害意は感じない。敵意とも、少し違う。

 だが、友好的という訳では無論ない。

 しいて言えば、剥き出しの闘志。

 

 そこから察せられる相手の目的に対応するため、俺は敢えて上辺だけ取り繕った礼儀で返さず、少々乱暴にも聞こえる普段通りの言葉遣いで応えを返し、

 

「ほう・・・俺のことだけでなく、ジョージのことまで知っているとは話が早いな」

 

 案の定と言うべきか、俺の対応に逆上している気配を見せることなく、一方で歯に衣着せるつもりを感じさせない答えを大柄な男の方が返してくる。

 

 一条将輝。3年前の大亜連合による沖縄侵攻に同調して行われた新ソ連の佐渡侵攻作戦に対して若干13歳で義勇兵として防衛戦に加わり、一条家の現当主と共に《爆裂》の魔法を以て数々の敵兵を葬った実戦経験済みの魔法師。

 戦闘そのものは小規模だったが、彼はこの戦いでの実績によって《一条のクリムゾン・プリンス》と称されることになる。

 

 そして吉祥寺真紅朗もまた、仮説上の存在だった基本コードの一つを13歳で発見した英才だ。

 彼が発見したコードの名である《カーディナル・コード》からつけられた『カーディナル・ジョージ』の異称は、魔法式の原理論方面の研究者なら知らぬ者はいないと言われているほど注目されている。

 

 どちらも共に俺たちと同じ年齢でありながらも、魔法師の社会において既に確固たる名声を確立している二人の天才少年たち。

 彼らならば、俺如き劣等生相手に横柄な態度を取ってきたとしても、それを非礼と称するのは適切ではなくなるだろう。

 

 なにしろ、この二人が同じ学校の同じ学年に在籍しているというのは、もはや反則級の偶然なのだから。

 七草会長たち最強世代を要する一高の生徒が言うことではないかも知れないが、逆に会長たちという前例がいるからこそ、次代の後継者とも称すべき彼ら二人にはハンデぐらい付けてやらねば一般生徒が哀れだろうとさえ思えるほどの若き天才たち二人組・・・・・・。

 

 

 ――が、しかし。

 その天才の片割れは、俺の名を聞くと一つ頷き姿勢を正すと、挑戦的な眼差しは変えないままではあったが、俺に対して一礼し、

 

「司波・達也・・・やはり日本初の魔法工学科の代表に選ばれた天才魔工技師とは、あなたの事だったのですね。

 そしておそらくは、この九校戦始まって以来の天才技術者としても名を残されることでしょう。

 互いに競い合う敵同士とは言え、同じ魔工技術の分野に携わる者として、あなたの業績に敬意を表します。

 日本魔工技士界の若き偉人に対して、試合前に失礼とは存じましたが、僕たちはあなたの顔を見に来たのです。非礼はご容赦いただきたい」

「・・・・・・若干十三歳にして基本コードの一つを発見した天才少年に『天才』と評価されるだけでも恐縮だが・・・流石にそこまで持ち上げられると、むず痒さを感じてくるな。

 お互い同い年の同学年でしかない身だ、もう少し砕けた態度で話してくれると有り難い」

「分かりました、ではそのように」

 

 直立不動の姿勢を保ったまま今一度頭を下げた後、一歩下がって席を一条将輝へ譲ってみせた吉祥寺真紅朗の節度を守った対応によって、今少し挑発的な返しをする予定だった俺の方でも挑発の言葉は飲み込んで、多少の妥協を余儀なくされた返答へと変更せざるを得なくさせられてしまったていた・・・・・・。

 

 おそらく生来のものなのだろう、敵であっても技術者の先達に対しては敬意を払う節度は、人としても技術者としても賞賛に値するものだと理解してはいるのだが・・・・・・正直この場においては、やりづらい相手だったというのが素直な俺の心情ではあった。

 

 それは相方であるクリムゾン・プリンスにとっても同様であったらしく、見間違えようのない動揺を視線をさまよわせる仕草から見て取れて、俺の方でも一気にやる気を削がれてしまい、先ほどまでする予定でいた挑発合戦は中途半端な心地のままお流れになる・・・。

 

 

 ――自分でも違和感があるため忘れがちではあるのだが・・・・・・俺が公的に与えられている『日本で初めて新設された魔法工学科初の主席入学者兼代表』という地位身分は社会的に決して低いものではないのが、今の俺の公的な立場だった。

 

 極論してしまえば、『カーディナル・ジョージ』というのは魔法式の原理理論研究者たちから将来を期待されている彼に与えられた『名声』だ。

 未来はともかく現時点で、彼の公的身分や社会的に保証されている権限や後ろ盾はない。

 

 対して俺の方は、『“国立”魔法科第一高校』に『政府方針を変換した結果として新設が決定された』魔工科の初代代表という公的な地位身分を、既に与えられてしまった後の状態にある。

 

 超簡易魔法式の世界的普及によって、武力衝突より経済戦争へとリソースを多く割くようになった現在の世界情勢下で、今の地位を与えられている俺は少なくとも、魔法技術分野で成功を目指している学生にとって、プライベートな場だからと無礼講で接するには敷居が高過ぎる立場になっている事実は認めざるを得ない・・・。

 

 

 

 ―――尚、今この場には全く関係のない細やかな余談でしかないことではあるが。

 原理論に限らず魔法式の研究者たちにとって、《カーディナル・ジョージ》以上に注目され、世紀の天才ともてはやされている存在の名は、『超簡易魔法式を造り出して魔法式の歴史を変えた天才』と称されてまでいる魔法技術者『ルイ』なのだが・・・・・・。

 

 その事実と、俺が目の前に立つ二人の天才たちと、現在の自分の立場との違いを失念していたことは全く関係はない。ただ一時的に失念していただけだということを確信している。

 

 

「・・・・・・深雪、もう少し時間がかかりそうだ。先に準備しておいで」

「分かりました、お兄様。――フフッ♪」

 

 カーディナル・ジョージの思わぬ対応によって、完全に予定と想定を狂わされたらしい一条将輝と俺自身とは、互いに言葉を探し合った末に適当なものが見つからず、とりあえず当たり障りのないところで常識的な対応として深雪を先に控え室へ行くよう促したのだったが――当の深雪自身は俺からの言葉に返事をした後、心から嬉しそうな笑顔を浮かべて足取り軽く控え室の中へと入っていった。

 

 ・・・・・・おそらく俺が、名高きカーディナル・ジョージから魔法工学科初の代表として、偉人扱いされたのが嬉しかったんだろう・・・・・・。

 

「――ドキッ☆」

 

 そして、花の妖精のように可憐な笑みを咲き誇らせながら、春の野を駆けるような足取りで控え室へと入っていった深雪の笑顔を、クリムゾン・プリンスこと一条将輝は間近で目撃してしまい、擬音のような言葉を声に出して発して深雪の背中を目で追おうとしてしまった自分自身の未練を振り切り、動揺を隠しきれないまでも視線だけでも戻そうとして。

 

 ・・・・・・完全に失敗してしまっていた。

 その姿は既に挙動不審としか言えない域に達してしまっており、仮にも十氏族の御曹司が人前で見せた仕草としては具体的に描写したくないと俺にさえ思わせられてしまうほど・・・・・・これは少し以上に酷すぎる・・・。

 

「・・・・・・『プリンス』、そっちもそろそろ試合じゃないのか?」

 

 もはやここまで来ると、やる気を削がれるとか呆れるどころの話ではなく、馬鹿馬鹿しさが湧き上がってくる程になってしまっていたため、この場はとっとと終わらせたくなってしまった俺は、敢えてぶっきらぼうな口調で事実だけを指摘してやった。

 

「僕たちは明日のモノリス・コードに出場する予定でいます。

 司波達也さん、あなたが担当する選手の中に参加予定の方はおられるのでしょうか?

 差し支えなければ、お教えいただきたい」

 

 そして一条将輝とは逆に、吉祥寺真紅朗の方はブレることなく、礼儀正しく挑戦的に俺に向かって最後の問いを投げかけてきていた。

 あの深雪の笑顔を直視させられながら、一切揺らぐことなく節度と礼節を保ったまま技術者らしい対応を維持できるあたり、もしかしたら一条将輝を超えるレベルで凄まじい精神力の持ち主なのかも知れないな・・・・・・。

 

 まぁ、そもそも場の雰囲気を激変させてしまった原因となったのも、彼のこの態度から始まってはいるのだが。

 学校から与えられている役職的には一般生徒が、他校の代表の一人に対して礼儀を守って質問してきているのを、目上の地位に立ってしまっている俺の方だけがおざなりに返すわけにもいかない。

 面倒ではあったし、必要以上に過剰な形式的儀礼にもなりすぎているとも思うのだが・・・・・・社会的立場を悪用した特権乱用と受け取られるのも面倒ではある。

 

 仕方ないかと思い、教えてしまって差し障りがない範囲で伝える情報を予定より多めにしてやるか。そう考えた俺は口を開くと、

 

「そっちは担当しない」

 

 と返答し。

 続けて、「俺が担当する残る競技はミラージパッドだけだ」と補足して付け足そうとしていた。その時だった。

 

 ここまで混沌とした状況を、更に悪化しかしそうにない奴の声が聞こえてしまったのは・・・!!

 

 

 

「・・・・・・あ、達也さんい、た。リーナが“しーえーでぃー”を好きに改造させちゃ、っていいのか聞いてくるよう言われ、たから探してた、の。

 しーえーでぃーに何かするときに、は達也さんに確認するよう言われてたか――」

 

 

 

 突然、俺の背後の廊下の奥からトテトテと、独特の走り方で近づいてきながら声をかけてきた俺の、もう一人の妹分のような幼馴染みから、なにかまたリーナが無茶しようとしている事はわかり、振り返ろうとしたその直後のことだった。

 

 

「あっ!? あの時のバカな女の子ッ!?」

 

 

「ふっ、ふぇッ!?」

 

 

 今し方まで、沈着冷静に敵対する者同士でも表面的儀礼を守り合っていた吉祥寺真紅朗が突然に大声を上げ、雫の顔を指さしながら驚愕の表情に顔を歪めさせたのは。

 カーディナル・ジョージに指を突きつけられながら、驚愕の表情を浮かべられつつ、大声を出して自分のことを罵倒してきた相手の顔を見返しながら―――涙目になって救いを求めるようにキョロキョロ辺りを見渡すだけだった・・・。

 

 そして恐る恐ると言った体で、カーディナル・ジョージに涙の堪った相貌を向けさせる。

 ・・・・・・おそらくは、大声を出されたから怖かったから泣いているだけなんだろう・・・。

 

 コイツの心臓は生命力こそ強くて頑健だが、防御力や吸収性・柔軟性といった分野ではノミよりも尚弱すぎる奴だからな。

 なぜ大声を出されたのか分からなくとも、とりあえず近くで大声を出されたら泣き出すだろう。遺憾ながら雫との付き合いがそれなりには長い俺には、よく分かる。

 だが、それは無論のこと誰にでも分かるというものでもない。

 

 

「わ、私、はバカじゃない、よ・・・・・・? バカじゃない、もん・・・・・・。

 バカじゃな、い・・・バカじゃないはずだ、もん・・・・・・(グスッ、えぐ・・・っ)」

「あ、いや、えっとその・・・・・・すまない。別に君のことを罵倒したわけではなかったんだ。

 ただ似ている子に見覚えがあったから驚いてしまって。別人だったと今話して気づいてるんだ、許してくれると有り難い」

 

 そして、取り繕った感はあったものの前言を撤回して、印象緩和の理由説明を始める彼。

 ・・・・・・おそらく、自分の罵倒で泣かせてしまったと解釈したのだろう。

 

 女の子を泣かせる言葉を言ってしまったと思ったのか、見間違えようのない動揺を瞳にも視線にも宿していた彼は、

 

「ああ、その・・・えっとぉ・・・・・・そ、そうです! 司波達也さん、いずれあなたの選手と戦ってみたいものですね。

 無論、勝つのは僕たちですけど、あなたが試合を担当しない以上は絵に描いた餅にしかなれませんし、僕たちはここらで試合に向かおうと思います。時間を取らせて済みませんでした、次を楽しみにしています。では」

 

 そう早口で言って、一条将輝を引っ張るようにしながら足早に場を去って行くカーディナル・ジョージこと吉祥寺真紅朗。

 

 

 

「?? 達也さ、ん。あの人たちと何のお話してるところだった、の・・・?」

「・・・・・・分からん」

 

 頭上に疑問符を浮かべている幻覚がハッキリと見える雫からの疑問に対して俺は、一応は説明のために頭をひねって考えて、始まりから今に至るまでの流れを総括しつつ。出した答えがそれだった。

 

 最初は偵察かと思っていたのだが、途中から意味のない話題の方が数の上で多数派を占めるようになり、最後の辺りは意味不明になりかけていたからな・・・。

 一条将輝に至っては、ただ深雪に自己紹介と笑顔を見に来ただけだったと言われても納得してしまいそうなレベルで、何をしに来た訳でもなかったし・・・・・・本当にサッパリ目的が分からん連中だった。

 

「・・・・・・まぁいい。大した話をした訳でもない以上は、そう大した目的で会いに来た訳ではなかったと言うことなのだろう。

 ところで雫、なにか俺に用があるようだったがリーナのCADがどうかしたのか?」

「あ、うん。なんだか、ね。リーナがこの前使ったの、をスペック下げていいから同じの使えるようにしてって言われたか、らしてあげたんだけど良かったかな、って達也さんに確認しに来―――な、なに? なん、で怒ってる、の・・・?

 私ちゃんと聞きに来た、よ? “変えるときは確認しに来い”って言われたの覚えてた、から確認しに来たのに、なん・・・・・・っ!?(ガクガク、ブルブル、びくんびくん・・・)」

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・結局、彼女は何をしに来ていたのだと思う? ジョージ」

 

 俺は深雪さんが入っていった更衣室から遠ざかり、未練を感じなくもなかったものの今重要視すべきは別にあるのだと自分自身へと言い聞かせ、先程の一幕について信頼する相方の親友へと尋ねていた。

 

「――策略、だと思うよ。そうじゃなければ意味がない」

 

 そして、首をかしげて悩むような素振りすら見せることなく簡明に、意味ありげな笑顔の中に挑戦的な気配を宿しながら親友は即答し、その応えに俺もまた納得する。

 

 やはりか、と。

 

「彼女は、クドウ選手が十七夜と戦ったときに、固定概念を植え付けるための役割を与えられていた子と同じ生徒だった。

 そして彼女がクドウ選手を担当していたのはスピード・シューティングであって、モノリス・コードの試合前にこんな場所へ来る理由はなにもない。

 何かの策を弄するためのエキストラとして司波達也自身が呼んでおいて、偶然を装って出てこさせたと考える方が自然というもの・・・・・・待てよ」

 

 相手の仕掛けてきた策を見破ろうと、いつもの冴え渡る頭脳をフル回転させ始めた親友の横顔を頼もしく感じながら眺めていた俺の前で、だがジョージは急に表情を強張らせ、何かを畏怖するように恐れおののき

 

「今回のコレが司波達也の策略で、あの子が彼が情報戦を仕掛けるための役割を幾度も任せている人物なのだとしたら・・・・・・十七夜さんの試合でクドウ選手が仕掛けてきた戦法も、彼が考案して授けていた可能性が高いということにもなる・・・!!」

「!! あの軍人じみた策略の黒幕は、あの司波達也だったのか!? やはり・・・仮にも深雪さ――コホン。司波さんの兄である以上は凡人であるはずもないと思っていたが・・・それにしても悪辣な!」

「それだけじゃないよ、将輝。本来なら、こんな役割を彼女みたいな―――言っては悪いけれど機転の利くタイプとは思えない人材に任せようとは思わないし、なにより意味が薄くなる。

 それが分かり切っている子を、わざわざ使ってきたと言うことは・・・・・・」

 

 その言葉で俺は、ジョージが戦慄させられた顔を浮かべたわけを知る。

 なんと言うことだ・・・・・・策略だなどと思っていたが、とんだ誤りだった。これはそんなレベルのものじゃない。

 奴は・・・司波達也は、そんな小狡い手段で俺たちを倒そうと考えるほど甘い男では全くなかったと言うことか!!

 

「宣戦布告、だったと言うことなのか・・・・・・」

「・・・・・・信じられないほど、念入りに前振りを仕込んできている。

 わざとヒントを随所随所に散らばらせて、止めとして僕たち二人の前に場違いな少女を晒して見せて、気づけるか否かを試してきたんだ。

 “この程度も看破できなければ、自分の相手には役不足だ”と」

「くっ! なんて横柄な挑戦の仕方を・・・! やはり日本初の魔法工学科代表の名は、伊達ではなかったと言うことか!

 ・・・・・・しかし、ここまで挑戦的なことを仕掛けてきたなら、ただ自分が担当する選手をぶつけてくるだけとは思えないが・・・・・・まさかっ。まさか奴は!?」

 

 その結論に至った俺は相方を見下ろして、相手もまた俺を見上げていた瞳と視線が交わり合い、同じ答えを相手も共有していることを俺たちは互いに正しく理解した。

 

 

「あのとき彼は僕たちに向かって、こう言っていた。

 そっちは“担当しない”――と。

 あの言葉が文字通り、システムエンジニアとして選手たちの“担当はしない”という意味だったとしたら・・・・・・全ての辻褄は合うことになる・・・!」

 

 

 司波達也・・・・・・なんと恐ろしい男。

 奴は初出場の新人でしかない身でありながら、九校戦始まって以来の天才技術者として名を残すだけでなく・・・・・・俺とジョージを相手に魔法師として直接戦って、モノリス・コードでも初出場初優勝の栄光を勝ち取ろうとしている!!

 

 なんという・・・・・・壮大な野心!! その野望は俺が必ず打ち砕いてみせる! 

 

 ――そして出来れば、天才の兄と互角に戦って勝った男として深雪さんにも覚えてもらいた・・・・・・いや、あくまで出来たらの話でいいんだけどな!!

 

 

 

 

 

 

 そして、それら悲喜こもごもの色々あった末の結果として。

 

 

 

「も、森崎・・・無理だ。不可能だよ・・・・・・。

 クドウさんと司波さんが、あんな大魔法をぶつけ合う女子ピラーズ・ブレイク見せられた後で俺たちの試合も見にきた観客たちから、比較された目で見下されながら全力で試合できるほど、俺たちの心は強くないんだよ!? 分かってくれよ!!」

 

 

「諦めるな! まだ勝負は決まってない!  明日のモノリス・コードでは絶対に俺たちが優勝するんだ!!

 女子ブルームだけじゃなく俺たち男子ブルームも、ウィードより上だってことを証明してやるためにぃぃぃぃッッ!!!」

 

 

 

つづく

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