先の前編と後編合わせて一つの話にしようかとも思ったのですけど、長すぎましたので一先ず別けたままに出しておきますね。
やはり――か。
まっすぐに俺を見つめながら言い切った会長からの要請に、俺は自分の予測がなに一つ外れることなく的中してしまった現状に、むしろ諦めのような感情を抱かされつつ。
俺としては、微妙な心地にならざるを得ない求めに対して、即答できかねる想いを偽ることは出来そうになかった。
会長からの提案そのものに、怒りはない。
こうなることは、早い時点で予想だけなら出来ていたことではあったし、その役目が可能不可能は別としても、俺にしか『許されない』という状況が、俺にとっても彼女たち執行部メンバーに対しても他の選択肢を奪う一因になっていることではあるのだろう。
だが、中学頃までは構想していた計画が、まったくの無価値とならぬ程度にはリスク・リターンの計算等で自信を有している俺としては、二つ返事で了承して昔の計画を完全に破棄することを意味する選択は容易に選べる問題でもないのだ。
「・・・・・・その要望にお応えする前に、二つほど確認しておきたい事柄があるのですが、お訊きしてもいいでしょうか?」
「ええ、もちろん。私で答えられることなら、何でも」
「では一つ目から。
――予選の残り二試合は明日に延期された形になったとのことでしたが、怪我でプレーが続行不能になった場合でも選手の交代は原則として認められていなかったはずですが?」
「ええ、その通りよ。事情を鑑みてもらっての試合スケジュール変更までは大会規定の枠内に収まりきる範囲だったけど、選手変更の件は少し揉めたみたいね。
でも結局、向こうが折れて事情を勘案しての特例ということで受け入れてくれたみたい」
然もありなん、会長からの返答に俺は率直にそう思った。
そこの許可をもらうより先に、俺への要請がおこなわれるとは到底考えられない。
まして森崎たちの一件を「事故」として処理した運営委員からの許可となれば尚更だろう。
あるいは仮に、彼らの負傷が「事件」だったら話は別になったかもしれない。
事件であれば責任の所在は犯人なり何なりに帰せられるのが妥当となれるが、「事故」としてしまった以上は、選手の負傷は大会運営委員の責任にあるという事になるしかない。
崩れやすい廃ビルをスタート地点に選んでしまったことで、チーム全体が負傷する羽目になってしまったという負い目もある。
「事故の被害者」である一高から強く求められると拒否しづらい立場だったのは事実だが・・・・・・一方で事故だったからこそ、「一高だけ」に特例を許すというのは難しい。
何しろ、それでは「もう一方の事故被害者」である四高の収まりがつかなくなる恐れが出てこざるを得なくなるからだ。
「自分たちのCAD」が起こしてしまった事故ということで、今でこそ彼らも「前例のない悪質なルール違反があった」という大会運営委員による裁定を受け入れて、モノリス・コードからの退場処分に甘んじてはいる。
また滝川が述べていたのと同じ理由で、四高に疑いの目を向ける者も0ではないのが実情でもあり、彼らとしては自分たちにかけられた冤罪疑惑を晴らすためにも「負傷した一高選手とともに不戦敗――そういう処分を容れるしかない立場にあった。
だが、あれは「事故だった」としてしまった以上は、四高もまた被害者なのも事実ではあるのだ。
しかも、この状況で「一高だけ」に競技復帰が認められ、自分たちが許されないというのでは「罰則としての不戦敗」という印象を多くの人たちに抱かせてしまう危険性が出てこざるを得ない。
彼らとしては、「一高が代理出場を許されるなら自分たちも」となるのが当然の流れではあるだろうけれど、そうもいかないのが彼らの厄介な立ち位置でもある。
彼らは一高と違って「正規選手が負傷していない」からだ。おそらく一高が特例を許された理由も、それと関係してのものなのだろう。
「怪我でプレー続行不可能でも選手交代は認められない」という公式ルールが決められた際、「選手全員が負傷退場」という事態まで想定して定められたものではなかったのではないかと予測される。
今回のような事態でも起きない限りは、あり得る状況でもないからだ。運営委員も四高を宥めるため、同じ理屈を持ち出して説き伏せる腹積もりではなかろうか。
どちらにしろ、この件については完全に予想通りの回答だったと言っていい。
問題となるのは、むしろ次の本題に纏わる確認への答えだが――
「・・・・・・なぜ、自分に白羽の矢が立ったのでしょう?」
「達也くんが最も代役に相応しいと思ったからなんだけど・・・・・・こういう在り来たりな答えだけだと納得できない人の質問よね? 今のって・・・・・・」
「まぁ、質問の形式的にはそうなるのでしょうね」
困り顔に愛想笑いを浮かべながら、逆に確認の言葉を投げかけてくる会長に、俺はやや曖昧な言いようで上級生に対する礼儀から「肯定」を返すのを避けさせる。
会長としても、らしくなく凡庸な理由説明を返してきたのは、俺からの返しを半ば予想しながらも適切な説得の言葉を思いつけなかった故の、やむを得ない処置ではあったのだろう。
これもまた、然もありなんと言うところだ。
彼女たちの立場として、「本当の人選理由」は言いたくても言えるものではないだろうから――
「私からも頼む、達也くん。実技の成績はともかく、実戦の腕なら君は多分、一年生でもナンバーワンだろうからな。
たとえモノリス・コードが厳密には実戦ではなく、肉体的な攻撃を禁止された魔法競技で、君が今日まで示してきた戦闘能力の多くが封じられる縛りがあるとしても、やはり君は一年生の中でズバ抜けた能力の持ち主だと、我われ風紀委員全体でも考えている。
一条のプリンスに勝つことを考えれば、やはり候補は君しか考えられない」
「高く評価して頂けていることには、ありがたく思います。しかし仮にそうだとしても、自分は選手ではありません。
一競技にしか出場していない正規選手が何人かは残っている状態で、代役として技術スタッフを立てるというのは些か問題行為の度が過ぎるのではないでしょうか?」
「それは・・・・・・」
今度の言葉に反論はなかった。反論しようとはしたらしいが、続く言葉を思いつくことが出来なかったからだろう。
実際に俺が言った内容そのものは尤もな正論であり、論理的な矛盾は一切無いものではあった。正規の選手が残っている状態で、補欠ですらない備品の整備係が代理で試合に出るなど普通のスポーツ大会で考えればあり得ないことだからな。
とは言え、言っている言葉が正しく正論だったとしても。
言っている当人が、正しい主張を語っている理由と目的は、必ずしも綺麗である必要が無いのが「正論」という名の道具でしかない、言葉の一つなのも事実ではあるのだが――。
「このさい一科生たちのプライドは考慮に入れないとしても、代わりの『選手』がいる状態で『スタッフ』から代役を選ぶことは後々しこりとして、一年男子生徒たちの精神に悪影響を及ぼす原因になるかもしれません。その点にも考慮して頂ければと存じま――」
「甘えるな、司波」
丁度そんな時でのことだった。
ズッシリとした重みのある声で、今まで沈黙を保ってきていた十文字会頭が短い言葉で、だが逃げを許さぬ重々しさを持った口調で俺に自分の意見と想いを伝えてこられたのは・・・
「確かに、お前の言うことには理がある。正しくもあり、正論でもあるだろう。
だがお前は既に、代表チームの一員だ。選手であるとかスタッフであるとかに関わりなく、お前は一年生二百名の中から選ばれた二十一人の内の一人。
そして今回の非常事態に際して、チームリーダーである七草は、お前を代役として選んだ。チームの一員である以上、リーダーの決断に逆らうことは許されない。
まして、その勤めを受諾した身であるなら尚更だ。それが最も正しい正論というもの、違うか?」
「それは・・・・・・確かに、そうですね」
その言葉に、今度は俺が反論すべき言葉を失って、沈黙と肯定を返すことしかできなくなるしかない。
会頭の言うとおり、先程まで俺が語っていた理屈は正しくはあっても逃げ口上でしかなく、逃げ口上である以上は「正しいのが当然の言葉」でもある代物に過ぎないものだった。
義務の遂行を求める相手に「逃げを認めさせたい」と願っている以上は、その為に語られる言葉は綺麗で正しいものばかりが選ばれるのは、許可を得たい側にとって当然のチョイスでしかない。・・・・・・雫の言い分けに付き合わされ続けてきた今の俺には、それがよく分かっている・・・。
それに、どのみち「叶うと思って言っていた拒絶“ではない”」ことでもあったしな。
「メンバーの一員である以上、チームリーダーの決定に従って義務を果たせ。
その決定と決断に問題があると判断した時には、リーダーを補佐して過ちを修正する義務を負った我々が止める。
そして、それ故に我々以外のメンバーに異議を唱えることは許されない。本人であろうと当事者であろうと、誰であったとしてもだ。
まして、メンバーに選ばれながら義務を果たせず、勝つために下された決断にまで疑義を申し立てる権利だけを主張するなど論外だ」
「いやあの、十文字くん? そこまで言い切っちゃうと、他の子たちが色々と立つ瀬なくなっちゃうと思うんだけど・・・」
「事実だ。仕方があるまい。選手に選ばれた者が負うべき一番の責務は“勝つこと”だ。
『兵家に勝敗は付きもの』であり、全力を尽くして敗れた者にまで責を問う気はいささかもないが、義務を果たせなかった者が、務めを果たしている者を自己満足のため貶める行為にまで寛容でいてやる気は無い。司波の件で言いたいことがある者は、俺に言いに来いと伝えておけ」
「うん、それ絶対に言いに来ない人続出するだけよね絶対に。・・・・・・ハァ~、ほんっとたまーにだけど摩利よりキッツいこと言う時あるのよね十文字くんって・・・」
「いやいや待て待て、真由美。今のは流石に私も、少しだが引いたぞ? 私はそこまでキツすぎることは言ったことはないはずだ。そうだろう?」
「・・・・・・」
十文字会頭の言葉に、生徒会長として配慮すべき相手が多い七草会長が苦言を呈そうとしてブッた切られ、別件によって渡辺先輩に向け恨みがましい目つきで睨み付ける。
どうやら場に、いつも通りの雰囲気が戻ってきたようだった。・・・・・・そんな中。
十文字会頭だけは、変わることなく生真面目な表情で俺を見つめたまま、重々しい口調のままで―――決定的な一言を俺に突きつけてくることになる。
「逃げるな、司波。今日までのお前は、義務と勤めを完全に果たし続けてきた。何人からも後ろ指さされる要素はなにもない。
ならば最後まで己の正しさは貫徹されるべきものだ。今さら口先の詭弁で正しさを装う必要はお前には無い。
例え補欠であろうと、選ばれた一員として務めを果たせ」
・・・・・・参った、と思わざるを得ない一言だった。
存外に見た目よりずっと、人を乗せるのが上手い人だと思い知らされる。
果たして中学時代の俺が、今の言葉を聞かされたとき、当時の計画を現状維持し続けていられたかどうか自信が持てなくなるほどに、今の言葉は俺にとって響きすぎる言だった。
様々な意味合いを多く含められた言葉だったからだ。
ここまで言われて、俺もリスクリターンを優先した過去の計画に固執し続けるつもりは流石になかった。過去を割り切り、損切りすべき時が遂に来たのだ。
そう、決断する理由として十分なほどに――
そして・・・・・・
「それにだ。司波。―――お前は自分が選ばれた本当の理由に、既に気づいているのだろう?」
「え? ――えぇぇっ!?」
表情を変えないまま十文字会頭が付け足した言葉を耳にし、七草会長が驚いたように大声で叫んでから「キッ!」とした瞳で俺の方を睨み付けられてしまった。
その表情は明らかに『気付いていたのなら配慮しろ』と言いたがっている本心が丸見えであり、彼女としては当然の反応でもあったのだが・・・・・・まぁ、周囲に聞かせていい話ではあまりなく、慮って言葉を選んでいたのは彼女たちも同様ではあったようでもある。
喧嘩両成敗なり自業自得とでも思って、割り切って頂くより他ない問題だろうな。
「・・・申し訳ありません。俺の立場では自分から話題に出せる話ではなかったので」
「それはまぁ・・・そうなんだけどぉ・・・・・・なんだかなぁもう・・・」
「あのー、どういう事なんでしょう? 司波くんが選ばれた本当の理由って一体・・・?」
俺と七草会長と十文字会頭だけが顔を見合わせながら進め始めた会話内容に、付いてくることが出来なかったらしい周囲の人々が困った顔でざわめき始め、それらを代表する形で中条先輩から出された質問に七草会長が「あー・・・」と言い辛そうな表情で顔をそらす。
諦めたように溜息をつくと、今回の人事の裏側にあった本当の理由について語り始める。
「あんまり人に知られていい話でもなかったし、現実にあり得る可能性も低い話だったから皆にはナイショにしてたんだけど・・・・・・。
実は私たちが新人戦が始まる前まで、『総合優勝のため新人戦でポイントを引き離されない』っていうのも目標にして、それで十分って思ってたのには、もう一つ理由があるのよ。
それは絶対って訳じゃないし、必ずしも負担を被るって決まってるものでもないんだけど、そうなる危険性があるから一般生徒の子たちに余計な負担を負わせないため避けてただけのものだったんだけど・・・・・・でも、そうならないで済みそうな“例外事項”があってくれるなら賭けてみたくなって、それで――」
「一条将輝は一条家の御曹司であり、十師族の一員。それが、理由だ」
『『『・・・・・・・・・???』』』
・・・・・・言葉少なく、言葉不足な感が否めない十文字会頭の説明になっているのかいないのか、俺でさえ判断が微妙にならざるを得ない発言によって、中条先輩を含めた多数派は困惑を深めただけといった表情で顔を見合わせ合うことになる。
ただ、渡辺委員長などの察しが良い先輩方の何人かは、「ああ、成る程な・・・」と短い言葉だけで大凡の事情を察することが出来たのか頷きを返しつつ、一方でやや呆れたような色をも表情に浮かべているのは・・・・・・まぁ理由が理由だからな。俺としても理解できないわけでもない。
とはいえ、分かっているのは全体の内の半数以下のまま。――この場は本来、末席であるはずの俺が語った方が一番角が立ちづらくていいと割り切るべき問題か。
「十師族は、この国の魔法師たちにとって頂点に立つ存在です。十師族の名を背負う魔法師は、この国の魔法師の中で最強の存在でなければならない。・・・少なくとも世間一般では、そういうことになっています。
今回の場合、それが問題になっている訳でして・・・・・・」
「?? どういう事ですか? 司波くん、十師族の魔法師が最強だって言うのは会長を見てても分かることですし、別に今さら何か問題になると思えませんけど・・・」
「そういう意味ではありませんよ、中条先輩。
十師族が事実として国内最強の魔法師一族であるか否かが問題なのではなく、国内最強の魔法師一族の一員が、国内最強“以外の魔法師”に敗れる可能性があること――その可能性が問題というわけです」
そこまで説明すれば、一高内でも選ばれたスタッフがそろえられている幹部陣の面々だ。
即座に状況を理解したのか、先ほどまでとは表情が一変しており、服部副会長などは普段通りの謹厳すぎるものへと激変している。
「・・・つまり、もし一条に我が校の生徒の一年生が勝利してしまっていた場合には、十師族から圧力がかけられる・・・・・・そういう恐れがあると言うことか? 司波。
最悪の場合、その生徒の身に危険が迫る恐れすらあったから、会長たちは勝利を望んでまではいなかった。そういう事か・・・?」
「そんな!? それじゃ、あんまりにも―――っ」
服部副会長の言葉に、中条先輩がおびえの色を見せながら悲鳴じみた声を上げる。
まぁ、そういう危険性も0ではないのだろうが、それは確率論に0はないという程度の可能性であって事実上はあり得ないと言って良い程度の懸念ではあるのだろう。
「いえ、流石にそこまで直裁的なことをしてくる可能性はないでしょう。
彼らからすれば、高校生同士の遊びに等しいスポーツ大会で負けたというだけで格下の魔法科学校生徒に、そこまでしてしまっては十師族として鼎の軽重が問われる羽目になり、デメリットが大きすぎますからね。
むしろ彼らなら、敗北に勝るほどの圧倒的力による成果を見せつけることで、イメージを上書きする手段を選ぶのではないでしょうか?」
俺はそう語って、服部副会長の言それ自体は否定する。
それが可能なほどの力ある存在だからこそ、国内最強魔法師一族たる十師族であり、彼らの真骨頂であるとも言える部分がそれなのだろうと。
・・・・・・ただ反面、「十師族が圧力をかけてくる」という点については否定できるのだが、「圧力がかけられること」を否定できる根拠にはなり得ないのが、今回の状況の厄介さでもあるのだが。
「・・・ですが、十師族関係者の誰もが彼らほど圧倒的自信と魔法力に基づく潔さを持っているわけではありません。
中には彼らの歓心を買うため、頼まれもしないのに忠勤に励もうとする輩が現れないとも限りません。
まして十師族が敗北を上回るほどの力の差を見せつけてイメージの上書きを狙うほどの事態を招いた人物となれば、好きこのんで重用して彼らの不興を買うリスクを背負いたい相手にはなれんでしょう」
「・・・なるほどな。確かにイヤな話ではあるという訳だ。会頭や会長たちが言い出せなかった気持ちも理解できる」
桐原先輩が良いタイミングで言ってくれた感想によって、同意を示すように室内では頷きを返す姿が何人か見られた。
俺は彼に頭を下げて謝意を示すと同時に、説明の最後である―――『俺にだけは許されている理由』について解説を付け加える。
「勝てる勝てないの話は別になりますが、それらの事情により一条家の御曹司である一条将輝に一般生徒が勝つことは、勝利者自身にとって後々の禍根になりかねない危険な要素を孕むことを同時に意味します。
――ですが今回、たった一つだけというか、一人だけ例外事項が発生していたという事情がありまして・・・・・・」
「それが君、というわけだな? 二科生にして第一高校主席合格者の魔法工学科初代代表、司波達也くん」
「・・・・・・そういうことになりますね。自分としては不本意極まることでもありますが・・・」
肩をすくめながら俺は、わざわざ肩書きと共に名を呼んでくれた渡辺委員長に向かって、多少わざとらしく溜息を吐く。
彼女の言うとおり、今の俺は一種の『常識外な存在』として、魔法師社会における世間一般では認知される存在になってしまっていた。
二科生でありながらも、日本初の魔法工学科代表でもある新入生・・・・・・もはやこの時点で、『実技ができなければ理論も十分には理解できない』という現代魔法師の常識からは逸脱している。
『感覚的に分からなければ理論的にも理解が難しい概念が多数存在している』それが現代魔法における常識的な認識でもあるわけだが、それが俺には完全には適用されていない。
理論と実技は別物とはいっても、一般の魔法科教師たちの許容できる範囲にも限度というものがあり、九校戦のはじまる前に俺が生徒指導室へと呼び出しを食らっていたことも含めて、やはり一般的な魔法師の常識からは今の俺という存在は理解しがたいものとして映っている人は少なくないのが現実なのだろうな・・・・・・あまり認めたくない話でもあったが。
「そうなのよね・・・私が言うのも何だとは思うけど、達也くんって普通の魔法師の子たちから見たら、ちょっとアレ――コホンコホン。
――特別なところが幾つかあるから。全部負けてるって訳じゃないけど、私たち十師族の直系から見ても部分的に劣ってるところを持っている。
これで普通の魔法科高校生として入学してきてたなら、存在が広く知られるまでに時間がかかっちゃって、今回みたいな話にはならなかったかもしれないけど・・・・・・」
「だが、現実に今のお前は既にして、『規格外の存在』として他校の生徒たちだけでなく周囲から見られている。
仮に一条家のクリムゾン・プリンスを司波が倒したとしても、その理由付けぐらいは十分に可能な程度にはな。少なくとも森崎たちが勝てたときに起こりうるリスクは、貴様には存在していない」
一文字会頭によって断定され、それがこの会合における結論にも直結することとなった。
現実問題として、俺以外に《モノリス・コード》で一条将輝に勝つことを許されている生徒が他にいない。勝つこと自体が可能だったとしても、生徒のその後が危険を背負い込む恐れがあるからだ。
その危険に対して、『日本初の魔法工学科初代代表』という肩書きを与えられた俺だけが、勝利によって負わされかねないリスクを軽減することが可能になる。
・・・・・・というのが俺が選ばれた最大の人選理由であり、俺自身が自分の選ばれてしまう可能性を考慮せざるを得なかった最大の理由だったのだ。
まったく、数年前には想像すらしていなかった事態の連続と立場の激変による結果だったが・・・・・・今からどうにか出来るという問題でもないのは事実でもある。
部屋に呼び出しを受けた時点で、腹を決めざるを得ない立場に、俺自身は入学の時から立たされていたという訳だったのだ。
「それで、俺以外のメンバーは誰が選ばれているのでしょう?」
先ほどまで続いた会合によって話は決まり、俺の《アイス・ピラーズ・ブレイク》への急な出場と選手登録などが決定されて、そちらの手続きは生徒会の方でやってくれるとのことだったので、話題はさっさと実務的なものへと切り替わらざるを得ない。
何しろ時間がないのだ。今から選手一人一人の特性を調べ上げて作戦を練るなど不可能に近い。与えられた選択肢の中から可能なメンツを選ぶしかない。・・・そう思っていたのだが・・・
「それは決めていない。お前が決めろ」
「はっ・・・?」
「残り2名の人選は、お前に任せる」
短い一言によって、アッサリとチームメンバー選考の権限を、魔法工学科の代表とは言え下級生でしかない俺に与えて平然としている十文字会頭。
その割り切りの良さは、相変わらずとしか言い様がない。
先月に『ブランシュ』の拠点に突入した時と同様に、決定権を下級生に与えることに躊躇いがまるでなく、それでいて『信じて任せた責任』を下級生に押しつける気だけは一切ないのが彼の特徴なのだろうと言うのがよく分かる一言だった。
失敗した時の責任を俺に押しつけるため、俺に選手まで選ばせたいというなら、そもそも技術スタッフでしかない俺を選手として担ぎ出してまで、他校からの反感を買う必要が些かもないからだ。
まして今の今まで委員会との折衝を担当していたのは会頭自身なのだから、今さら言い訳のしようもない。それを承知で下級生でしかない俺に選べと言い切れるのだから、頭が下がる思いとはこういうものを言うのだろう。
「いえ、選ぶだけなら時間をいただく必要はありませんが・・・・・・相手が了承するかどうか」
「説得には我々も立ち会うし、責任も持つ。我々以外のメンバーに、異議を唱えることは許されないのは、お前だけの話ではない」
つまり、拒否権を与える気はないという訳だった。
強引と言えば強引だが・・・それだけ会頭たちにも余裕がないという実情を意味してもいるのだろう。
試合は明日からだ。たしかに相手の納得を得るため悠長に説得している時間的余裕は全くなかった。
――ただ反面、会頭が今言ったのは、あくまで『メンバーとして選ばれた責任がある選手たち』の話であって、その責任がない者たちまで守備範囲に加わっているのか否か・・・・・・不謹慎ながら俺は些か楽しさを覚えてきた自分を自覚していた。
妙に気分が沸き立つ。こういう感覚は子供の時に感情を失われて以来、久しい。
「本当に誰でも選んで良いのでしょうか? たとえば、チームメンバー以外から選んでも?」
「えっ!? ちょ、達也くんっ、それはチョっと――」
「構わん。どうせ例外に例外を積み重ねているのだ。あと一つや二つ、例外が増えても今更だ」
「じゅ、十文字くん・・・・・・あのねぇ・・・・・・
呆れ顔で七草会長が非難がましい目を向けられたが、十文字会頭は無言の批判に顔面筋ひとつ揺るがすことはなく、また根拠と理由があっての不動な決断でもあったらしい。
「それに正規メンバーの選手では、急きょ選手に抜擢された司波が使いこなせるとは思えん。むしろ反感を募らせ、作戦や指示に従わずサボタージュする恐れすらある。
それぐらいなら、最初から司波に選ばせた非正規メンバーたちの方が勝率は高い」
「それは! ・・・・・・まぁ、一理あるとも思わなくもないんだけどぉ・・・」
そう言い切ることで、七草会長をも不承不承ながらも納得させてしまった会頭の手腕に、俺は些か不敬ではあったものの、思わず彼の交渉術の高さを見直さずにはいられなかった。
たしかに急きょ選手に選ばれただけで、本来は補欠でしかない俺に指示されるというのは一科生のプライドを強く持っている選手たちにとって屈辱以外の何者でもなく、裏切りの根を自ら蒔くぐらいしか効果はないと言っていい。
それどころか正規の選手たちにしてみれば、負傷した森崎たちの代わりに、俺という技術スタッフを試合に出すという判断は、『自分たちに代理を任せても勝てない』と見られている事実を行動によって突きつけるに等しい行為なのだ。
彼らも追い詰められているのは事実であり、挽回を図りたいという想いもある以上は、勝つ算段を持つことが出来ていない状況では俺の判断に従うしかないと思い決めてくれる可能性は高かろうが、逆に勝ちが見えてきた時には勝利の手柄を自分たちだけで独占しようと独断専行に走る恐れが多分に持たざるを得ない。
土壇場で裏切られる危険性を持った、最終局面でこそ信頼できなくなる味方など、どんなに強力だろうといない方がマシである。
それぐらいならスペックでは劣っていても、信頼できる味方の方がチーム戦では遙かに優れていることを二〇二で教わり続けてきた俺にとっては尚更だった。
「膨れるな。苦情の方は俺に回してくれて構わん」
そして会頭は同時に、正規選手たちの押さえまでやるつもりらしい事が、この発言で分かる。
なにしろ《アイス・ピラーズ・ブレイク》に選手として出場するということは、《一条家のクリムゾン・プリンス》と正面切って戦うことを意味している。
一科生たちとしては、森崎たちの代理に俺や選手以外が選ばれて試合に出ることは憤懣やるかたないのだろうが、一方で『お前たち一科生なら一条家のプリンスと戦って勝てる自信はあるか?』と問われれば返答に窮するというのが、彼らの正直な気持ちではあるのだろう。
そして、俺たちが『一条将輝に勝てる』とは誰一人として思っていないことは確実でもある。
十文字会頭は、おそらくそこを突いて他の選手たちを納得させるつもりなのだろう。
彼ら正規選手団としては、俺たち二科生が九校戦という晴れの舞台に選手として出場するのは忌々しい限りだが、一条家のプリンスに手も足も出ずに蹂躙されて敗れるだけの引き立て役を自分たちが担いたいとは思っていない。
その役を俺たちが進んで引き受けたがった――彼らとしては、さぞ溜飲が下がる思いで、一切の邪魔や反対をすることなく俺たちの選手参加を認めてくれることだろう。
下手に反対して、『ならお前がやれ』などと言われたら目も当てられないだろうからな。
そこまで計算した上で言っているとしか思いようがない十文字会頭の言に、リーダー教育の成果というものを思い知らされる。
「では俺は、1-Cの吉田幹比古と、1-Eの西城レオンハルトを、チームメイトとして希望します」
「お、おいっ、司波!?」
「良いだろう。中条、その二人をここへ呼んできてくれ」
「は、はいっ!」
俺の口から出た名前に、思わず慌てた声を発してしまった服部副会長を市原先輩が手振りで制し、全く気にした様子のない十文字会頭はレオたちを呼び寄せるため中条先輩へ指示を出して走らせていく。
これによって人事はほぼ決まってしまったわけだが、だからと言って納得できるかどうかは別問題として残ってしまうものでもある。
「・・・・・・まぁ、決した以上は反対する気まではないのだがな。
達也くん、せめてその人選の理由だけでも訊かせてもらって構わないか?」
「無論です」
説得役を十文字会頭に任せてしまっている以上、渡辺先輩も七草会長も今更それに異議を差し挟むような方たちではなかったが、人選理由に関しては説明ぐらいは求めたくなるのは当然の流れだろう。
なにしろ幹比古の方はまだしも一科生とはいえ、魔法工学科の新設によって新入生の配分が分かれた故での結果でもある成績なのは一応ながら事実でもある。
そしてレオに至っては、二科生だ。
渡辺先輩をはじめとして、二科生だからと言う理由だけで全てを全否定するような風潮は今の第一高校首脳陣には大分薄くなってきているとは言え、二科生が総合的な魔法技能で一科生に劣るからこそ二科生だというのも事実ではあるのだから。
「最大の理由は、俺が女子メンバー専属の技術スタッフであり、他の男子メンバーの試合も練習もほとんど見てきていない、という問題点です。
俺は彼らの得意魔法も魔法特性も、殆ど何も知りません。いえ、数字や書類上での記述だけでなら知っている者も何人かはおりますが、それをどのように活かして戦いに使えるかは別次元の問題です」
「ふむ・・・・・・なるほど、一理ある。調整だけなら他のエンジニアに手伝わせることで時間は節約できるかもしれんが、何も知らんに等しい相手と組んでチームプレイなど、烏合の衆も同然だからな」
「ええ。俺もそうなるだろうと思われます。それに比べて吉田と西城のことは、良く見知っている間柄でもある。
吉田とは日頃から親しく付き合っており、魔法に関する相談をされたこともある。西城は雫のクラスメイトです。結果的にですが、関連性と繋がりは強くなりやすい間柄ですよ」
「確かに。《モノリス・コード》が肉体的な攻撃ありの実戦だったならいざ知らず、あくまで『魔法競技』である以上は、総合力だけが勝敗を分ける要素とは限らん、か・・・・・・考えたな」
ニヤリと笑って俺の方を見返す渡辺委員長に、俺は「どうも」とだけ返して混ぜっ返すことは避けておく。
面道事を嫌がったというのもあったが、実際問題として時間が少なくなりつつある。できるだけ短い時間内で納得を得て練習に取りかからなければ・・・・・・おそらく、勝てない。あの一条家のプリンスとカーディナル・ジョージの2人組には・・・。
「その点は納得できた。――それで? 最大でない理由は何なのかね? 達也くん」
そして最後の質問にするつもりらしい渡辺委員長から、意味ありげな笑顔を浮かべながらの決定的質問に対して、俺もまた―――決定的な答えを返すことで、今この場において得られる最大限の成果を上げて、この会議は成功裏の内に幕を閉じることとなる―――。
「簡単なことです。実力ですよ。彼らは強い。
九校戦が単なる魔法の力比べならともかく、ルールに則った魔法競技である限り、彼らはどんな強い魔法師にさえ勝てる可能性を秘めた強さを有している精鋭たちですから」
そして―――俺や会長たちが明日から始まる男子《モノリス・コード》新人戦出場に向けて、真剣な討論と整合性を取るための会合を続けていたのと同じ頃。
同じホテル内にある別の部屋では、女子競技の出場に向けて、また別の真剣な討論が行われていたことを、この時の俺はまだ知る由もなかった―――。
「ねぇ、ミユキ。9日から始まるって言う《ミラージ・バット》の本戦で、あなたが纏うコスチュームに“これ”を追加してみないかしら? 絶対似合うと思うんだけど」
「って、リーナ! それ「星」じゃないの! 貴女が普段から制服のスカートにいっぱい付けている星のマークなんて私に付けさせて一体なんの意味があるって言うの!?」
「重要なことよ! 昔からね、空を飛んで戦う正義のヒロインには星がついてるものなのよ! オキナワキャンプに星条旗が翻ったのと同じようなモノよ! 空飛ぶ正義のヒーローとヒロインには☆マークが必須なのはUSNA人の常識!」
「ここは日本で、私は日本人なのだけど!? そしてそれはUSNA人の常識じゃなくて貴女の個人的常識だと思うのだけれど!?」
「う、うぅ~ん・・・・・・むにゃ、む、にゃ・・・・・・犬を溶接するの、は・・・・・・お勧めしない、よ・・・・・・ZZZZ」
「?? 突然なにを訳の分からないことを言っているんだ雫。・・・・・・いや、いつも通りの日常だったか。俺としたことが明日の試合を前に緊張でもしているのか・・・?」
つづく