テンションに左右される作品は意外に難しかったみたいです(謝罪)
魔法――それは情報体を改変して、事象を変化させる技術。世界を・・・変える力だ。
人を癒やして命を救うことも出来れば、術者よっては国すら破壊することも不可能ではないかもしれない、既成概念を崩す時代の変革者。
しかし、魔法を使う者が魔法師と呼ばれるようになってから一世紀近くが経った現在では、魔法師の血族は様々なしがらみに囚われるようになっている。
それは、全国に9つしかない魔法科高校に入学を許された優等生だけでなく、劣等生もまた例外ではない―――
「なぁ、達也・・・・・・マジ?」
「七草会長ならともかく、十文字会頭がこんな手の込んだ嘘に随行してくるはずがないだろう?
気持ちは分かるが・・・・・・もう諦めろ。決まったことを愚痴っていても仕方がない」
「はぁ・・・・・・」
西城くん――いや、レオが何度目かになる確認のための同じ質問をまた繰り返して、いい加減面倒になってきたのか達也からの返答が突き放したような感じになったのを受けて、僕は思わず溜息を吐くことしか出来なくなっていた・・・。
僕、古式魔法の名家として知られている吉田家の一員ではある吉田幹比古は、頭を抱えたい衝動に駆られずにはいられなくなってきていたからだ・・・。
昼間に《モノリス・コード》の事故が起きて、森崎たちが負傷したという話を聞かされた時にも驚かされたけど・・・・・・その後は何事もなく夜になって《ミラージ・バット》新人戦の決勝がおこなわれて、三井さんたち同じ一科生の女子選手陣がまたしても上位独占という快挙がイメージを払拭してくれた事で、僕たちは試合の興奮を胸にホテルへと戻って思い思いに過ごすことが可能になっていた。
―――そこまでは良かったんだ。
その時までは、僕にとっても有意義な時間だったと言っていいほどに・・・・・・。
だけど途中から急激に、風向きが変わってきてしまった。
慌てた様子の中条先輩が、僕とレオだけを呼びに来て、「会頭が話があるから」と言うのでは首をかしげながら二人だってついて行くと・・・・・・そこには会頭だけじゃなく会長までいて、他にも風紀委員長をはじめとして第一高校幹部総出の凄いメンバーが勢揃いして待ち構えており、僕たちに事情を説明した上で『九校戦のモノリス・コードに負傷した選手の代役として出場しろ』と要求されてしまったのである・・・。
・・・・・・断れないって、あんな状況では誰だって・・・!!
「いや、会長さんならともかくってのは、オレにはよく分からんのだが・・・・・・生徒会役員でもなければ、あんま親しくできる相手でもないしな。
でもよぉ・・・俺も幹比古も、なーんも準備してないぜ? CADはおろか試合で着てく服すら自分用のを持ってねぇんだけど・・・」
「安心しろ。CADは俺が一人一時間で準備してやるし、試合用の服は俺も準備されていない。中条先輩が今、全員分のを急ぎ準備してくれている最中だそうだ」
「いやそれ、不安材料にしかなりようがねぇ説明だと思うんだが・・・・・・」
「安心しろ。それが無理なら、心配するな」
「やっ、それ同じだから。言い方変えただけで、言ってる内容同じだから」
「・・・・・・一応、文句がある場合には十文字会頭が聞いてやるから言いに来いとは仰られておられたが・・・」
「いや、一番言えねぇよなそれ!? あの人に引き受けたことで文句言いに行ける勇者じゃねぇんだけどオレたちって!?」
最後にレオが放った悲鳴じみた絶叫に、僕は心の底から同意しながら、それ故に選択肢のない状況へと叩き込まれて逃げられなくなった現実を思い知らされて、激しく絶望して胃が痛い思いを味わうことしか出来なくなりつつなっていく・・・。
・・・・・・だって、十師族の直系二人から頼まれて、そのうちの片方は次期当主になる人なんだぞ!?
うちみたいな古式魔法の名家ではあっても、数ある内の一つでしかない魔法師家系で後継者になれるかすら危うくなってる程度の奴に、拒否権なんてある訳ないだろう!?
血筋が違うんだよ血筋が! 実家の時点で差がありすぎるんだ! ウィードのレオだけじゃなく、一応はブルームの僕でも無理だって!! 血族の格が違いすぎるー!?
彼らだけが理由じゃない!
あの場には、普段からブルームやウィードの待遇にうるさい服部副会長がいて、『生徒会に入りたければ、この俺を倒してみろっ!!』とか言って模擬戦で勝つことを入部条件にしてる人らしいし!
一緒にいた剣術部の部長も、入学後におこなわれた新入部員勧誘のデモンストレーションで《高周波ブレード》を使用して『これが真剣だ!真剣勝負が望みなら叶えてやるゼェ!』とか叫んで模擬戦に勝った相手に斬りかかってきたっていうし!!
怖いよ!? 断ったら何されるか分からない人たちばかりじゃないか!! そんな人たちから頼まれて断ったり逃げる事なんて出来るわけがない!!
ああ、なんでこんな事になってしまったんだ・・・っ。
あくまで、『雫ちゃんから聞いた話』だった事もあって、今までは半信半疑ぐらいの気持ちで受け止めてたけど・・・・・・まさか、第一高校生徒会『最凶の帝王説』が真実だったとは・・・!!
『幹比古・・・本来、お前が立っているはずだった場所を見てこい』
そう言って僕を九校戦に送り出してくれた父さんだったけど・・・・・・こんな思いを味わう場所だと分からせるために僕を送り出したんですか父さん!? だとしたら十分味わったので戻してください!
父さん! ・・・胃が・・・痛いです・・・・・・ッ。
「まぁ、つまり何度同じことを確認されても、俺には同じことしか言えないと言うことだ。
別に俺が決めた人事というわけではないからな。二人を推薦したのが俺なのは事実だが・・・意見採用したのは十文字会頭で、選手への抜擢を決定したのは七草会長だ。今さら俺がどうこう言って覆せるレベルの人事じゃない。諦めて腹を決めるしかないという訳だ。
――なにしろ、俺もさっき呼ばれて、さっき代役出場することが決定されてしまった側の人間なんだからな。
会頭曰く、自分たち以外に会長の決定に異議を唱えることは、会長自身であっても許されんと・・・」
「OHゥ・・・・・・」
思わずレオと一緒になって異口同音に、古式魔法の継承者らしからぬ絶望のうめきを口にしてしまった・・・・・・。
って言うか、もうこれ僕たちの納得とか了承とか、いらないんじゃないだろうか・・・? どーせ納得しても出来なくても結果は変わりようがない気がしてきた・・・。
いや分かるよ? 失言の責任問題とかだけじゃなく、モチベーションの問題等があるから本人自身が納得することが必要って言うのは、精神集中が重要となる精霊魔法を使う一人として分かってはいるんだ。
ただ・・・・・・どうしても自分の低い立場と、求めてきた相手の大きさのあまり無力さに苛まれてしまって・・・・・・。自分の努力や実力だけじゃどーしようもない、家の血筋問題ってあるんだなって・・・・・・ただそれだけでね・・・?
あとまぁ、そういう気分になる一因として――。
「…ほ、えぇー・・・達也さ、んたち、選手として試合に出るん、だ。スゴいスゴ、い」
『『・・・・・・・・・』』
パチパチと、他人事のように他人事としてベットに座りながら尊敬の視線と拍手を送ってきてる女の子を、僕とレオは胡乱げな瞳で見やることしか出来なかった・・・。
それがどれだけスゴいかとかは全く理解できてないまま、ただ純粋にスゴいと思ったから褒めてくれてるだけの純粋な敬意なんだと、達也を介してそれなりに付き合いのある僕にも分かっていることではあるんだけれども。
・・・なんなんだろう。この格差による差別じみた理不尽感は・・・。
一応でも、この子は九校戦スタッフに選ばれていたメンバーの一人で、達也と同じエンジニアとして勝利に貢献してきてたはずなんだけど・・・・・・こういう他人事として「ガンバレガンバレ」扱いされると、なんだかスゴく腹が立つような気がして仕方ないんだけど・・・!!
「・・・って言うか、達也君。たしかシズクも一緒に生徒会メンバーから呼び出されて、お褒めの言葉をもらってたって話だったんじゃ・・・?」
「ああ、もらっていたぞ。もっとも、その時には立ちながら眠っていたから記憶に残ってはいないかもしれんが」
「なんでコイツ呼んでんだよ・・・そして、なんで呼ばれてんだよ。功績あるのは分かるけど、なんか世の中理不尽だ・・・」
「まぁ、夜の9時を回る頃合いだったからな。眠くなってきていたのだろう」
『『『子供かッ!?』』』
「…ふ、ふぇッ!? な、なに・・・!? 何があった、の・・・? なんで私、怒られ、て・・・・・・あう、あうあ、う・・・(ビクビクッ、びっくん・・・)」
今度ばかりはエリカの奴まで一緒に加わって盛大にツッコミを入れ―――それでようやく腹を決めることが出来たようだった。
もう決まってしまったことは、どうしようもない事は分かった。受け入れたくはない気持ちはあるけど理解したし、大声出したことで腹も決まった。
もうこうなったら自棄だ。むしろ、この機に思い切りやってしまった方が、勝つにしろ負けるにしろ踏ん切りもつく。
いつまでもウジウジして怖じ気づいている――なんて誤解をされたら吉田家の恥でもあるし、エリカにまた何を言われるか分からない。
性格はともかくその・・・み、見た目がかわいい女の子に色々言われるのは男としてイヤだからね。この際、彼女たちにも僕の男を見せつけてやるまでさ!ふんっ!!
「まぁまぁ、ミキ。ちょっと落ち着いて。男らしくないわよ?」
「僕の名前は幹比古だ。・・・・・・でもまぁ、分かったよ。達也。エリカの言葉に従うわけじゃないけどね」
「ま、そうだな。誰に決められたことだろうと、変えられねぇってんなら、やってやるだけさ」
「よし、そうと決まったなら明日からの作戦会議だ――と言いたいところだが、時間が無い。
何せ俺にとってさえ急な話だったせいで、綿密な作戦を立てたところで練習する時間なんてあるはずもないし、大雑把な段取りだけつけた後は、ぶっつけ本番での出たとこ勝負な作戦もどきによって、力ずくでの勝利をもぎ取るぐらいの事しか出来ない。
悪いが二人には、俺が即興で考えついた作戦に従ってもらうしかないから、その打ち合わせだけを今夜は行わせてもらう。それでいいな?
もっとも、ダメだと言われたところで他に方法はないんだが・・・」
「・・・いや、だからこそ言い方変えてるだけで内容同じ――ハァ。もういいわ、それでいいそれで。どーせオレには細かい作戦なんか説明されても実行できる自信ねぇしな」
「・・・・・・僕もレオと同意見だ、達也にすべての下駄を預けて、その指示に従うよ。少なくとも僕たちがやるよりかはマシだとは信じられるし、それでいい・・・」
ああ・・・胃が痛い。
達也の口から出た弱音なのか愚痴なのか、実はたんに開き直っただけという可能性が一番高いんじゃないかとしか思えないような、僕たちと大差ない押しつけられただけな立場の説明に、先程よりもっと胃が痛くなってきた気がしてする・・・・・・。
「ねぇ、ミキ。大丈夫なの? 顔色悪いわよ? 達也君の言うとおり作戦なんか立てる時間なかったんだし、一応はあるだけマシでしょ。ほら、せっかく選手になったんだし気張って気張って」
「エリカちゃん・・・・・・せめて今ぐらい、達也さんや吉田君たちの邪魔するのは止めようよ」
「ひどっ! 美月、あたしはこの重た~い空気をどうにかしてあげようと思って親切心で言ってあげてただけで――」
「ハーイはい、シャラップよエリカ。ここはミヅキの言うことが正しい場面だってことぐらい、アナタだって理解してるんでしょ? ここは少し静かにしてあげましょ。
――そ・れ・に♪ 気になってるボーイフレンドのカッコいい姿を見たいっていうミヅキの気持ちも理解できないわけじゃないデスしね~♡」
「なっ!? なっ!? なななに言ってるのリーナさん! わわ、私は別にそんなつもりで言ってなんてないんだからね! 吉田君も勘違いしないで下さいね!? 恥ずかしいですから!」
「…おぉ、ぉ~・・・・・・これが噂に聞、くツンデレ・・・?」
「雫ちゃんまで!? って言うか、『つんでれ』って何!? 何なの!? どーいう意味か分からないけど、なんだかスゴく恥ずかしいこと言われてる気が――」
「あー、そう言えば美月は知らなかったわね。うちの倉から発掘してきた本によると『ツンデレ』っていうのは、日本の伝統の恋愛用語で――」
・・・・・・しかも謎な流れによって、部屋の隅に集まって女子陣たちは謎な議題で話し合いを始めてしまったし・・・・・・今この部屋で明日からの試合を本気で気にして胃を痛めているのは僕だけになってる状況みたいだし・・・。
やっぱり僕は、もの凄く苦労性な気質の持ち主だったのかもしれない・・・。
最近まで一度も考えてこなかった事だけれど、達也と知り合ってからフリーダム過ぎる人たちが周囲に増えたせいかな? 魔法科高校入学以来そういう風に思うことが自分でも多くなっていってる気がする。スゴくする。
もう少し真面目なノリで話してくれることが多かったら、そこまでは思わなかったのかもしれないけど・・・・・・こんなのばっかりになっちゃってたからな。ここ最近の達也がらみで誰かと話してる時の雰囲気って毎回のように・・・。そうなると流石に・・・・・・ハァ。
「よし、女子たちは女子たちで気を遣って、自分たちの話題に花を咲かせてくれているみたいだし、今のうちに作戦概要と役割を説明しておく。まずはフォーメーションからだ」
そして何事もなかったかのように平然と話を戻して、今まで通りの会話を進めていく日本初の魔法工学科代表に選ばれた同級生男子の司波達也。
この中では一番真面目で、真剣に問題と向き合ってるように見えるけど・・・・・・ひょっとしたら一番フリーダムなのは彼なんじゃないかと時々思う時がある。
雫ちゃんとの付き合いが長いせいで、こーいう展開に慣れてしまったらしいけれど・・・・・・それはもう、周囲の空気に関係なく自分を貫けるフリーダムな人間になったのと同義だと僕は思うんだ達也・・・・・・。
―――まぁ、そういう友人に対する僕個人の見解や感想は一先ずおいておくとして。
魔法師として、事象をあるがままに冷静に、私情に流されず論理的に認識して、明日からのモノリス・コードで勝利するための作戦という方法論に耳を傾ける。
とはいえ、本人が時間がない中で即興で考えたと言ってた通り、達也が語った作戦そのものは単純なものだった。
まず『オフェンス』は、達也が担うらしい。
これは作戦そのものを立案したのが彼で、内容を詳しく知っているのも彼だけなのが一番の理由だろう。
僕やレオは、与えられた役目を果たすことだけに集中できて、説明するための時間が短くて済む、今みたいな時には有効な戦法だ。作戦の細かいところは試合を経験して余裕ができる、次の試合までの空き時間にやればいい。まずは1試合目を勝てることが重要なのが今だから。
次に僕が担当するのは、『遊撃』ということだった。
オフェンスとディフェンスの両方を側面支援する役割ってことらしいけど・・・あまりモノリス・コードだと聞かない単語のような気もするし、具体的にはどういう意味なんだろう?
それに・・・・・・
「達也。君は・・・・・・前に言っていたね。“吉田家の術式に無駄が多い”って。そして、“その所為で僕は魔法が思うように使えていない”・・・・・・そのことと今回の件は関係があるとみていいんだね?」
「ああ。学校では触りがあるから言いづらい話題だったがな、状況が状況でもある。今ここでなら言ってしまっても、問題はないだろう」
「・・・たしかに僕が使う吉田家の術式には、術の正体が分かりにくくする偽装が施されている・・・」
自分で自分が使っている魔法を細かく思い出しながら、僕は言葉を選びながら確認するように紡いでいくよう意識して話していく。
「うちの先祖が、術の弱点を衝かれないようにするために世代を重ねながら工夫し続けてきた偽装だ。
・・・・・・けれど、その分たしかに術式の中でリソースを割り振っているのも事実ではあるんだ。それが達也の言う、無駄につながっているって事なのか・・・?」
「正解だ。吉田家の先祖たちが工夫を重ねていた、長い呪文を必要としていた頃なら、施術の途中で妨害される可能性に対する備えは有効だった。
その時には複雑と行程を多くし、その中で至れる最高速度を、という方針は間違っていない。
しかしCADの登場で高速化されるようになった現在の現代魔法では、起動式の段階で魔法の種類を判別できない限り、術式が持つ固有の弱点につけ込む手段の方が存在しない。
偽装する必要性があった敵の脅威のほうが、先に現実の敵からいなくなってしまっているのが現代だ。いない敵に備える防衛策は今となっては無駄になるしか無い」
「ハハッ、なるほど・・・納得したよ。たしかにソレなら敵わなくなるのも道理だ」
分かりやすく、かつ僕に受け入れやすくされた言い方は納得がしやすかった。
威力では勝っているはずの古式魔法が、現代魔法に敵わないのは何故なのか?――と、以前から不思議だと思っていたけど、警戒する必要の無い敵に対する備えのためにリソースを裂かなきゃいけなくなってたんだとしたら、それだけ無駄が・・・・・・いや。
「たとえ達也の言う無駄を省いていたとしても、結果は同じだったかもしれない・・・・・・精霊魔法は発動までの時間がどうしても長くて、現代魔法と撃ち合いをしたら確実に敗れる。だとしたら――」
「それは違うぞ、幹比古。長所短所の違いはあっても、現在のところ古式魔法と現代魔法に優劣はつけられていない状態にある」
「・・・・・・え?」
意外な相手からの意外な言葉に、僕は思わず顔を上げて呆然とさせられる。
「もともと優劣という判断基準は、別々のものの同じ部分だけを比べ合って、“この分野でならコチラの方が上”という程度の価値しかない代物のことだ。
発動速度では現代魔法のほうが圧倒的に勝っているから、正面からぶつかり合えば遙かに有利に戦いが展開できるだろう。
だが、知覚外から奇襲されてしまえば、隠密性という面では遙かに劣る現代魔法では、対処できる者のほうが少ないだろう。
要は、自分が有利になれる使い方で勝負を挑めることが重要なのさ。
九島閣下も仰っていたじゃないか。『九校戦は魔法の“使い方を競う場だ”と」
「あ・・・・・・」
その言葉を言われたとき、僕の中でストンと胸に落ちてくるものが感じられた。
錯覚かもしれないけれど、僕の中では確かにそれはあったのだ。
・・・・・・思えば、あの事故があって以来、僕は他の魔法師たちと同じ分野で競い合い、同じ分野での優劣で勝っているか劣っているかに拘るようになってたかもしれない・・・。
いま達也が言ってたように、そして僕自身が言ったように、『威力では現代魔法に勝っている古式魔法』で、わざわざ速度で負けている現代魔法に発動速度の速さでの競い合いに付き合ってやる必要性はまるでなかったんだ。
そのことに今、ようやく気づかされた。
友達の言葉で気づくことができたんだ・・・・・・それだけで僕は、今後の九校戦で達也を信じて、すべてのゲタを預けて優勝を目指すため全力を尽くそうと思うことができた。それほどに僕にとっては『恩ある言葉』だったから・・・。
「それに、この方法論は幹比古だけではなく吉田家全体にとっても役立つ結果をもたらすと俺は考えている。
なぜなら吉田家の当主である幹比古の父親も、この問題と時代にそぐわない欠点には気づいていて修正を望んでいる可能性が高いと睨んでいるからだ」
「父さんが? でも吉田家当主の方針として、そんなこと一度も・・・」
「マルチキャストはともかく、CADが世に出てから相応の時間が経過している。さすがに一族全体の将来を担う家長の地位にある人物が、この問題点に気づかないままだとは考えにくい。
だが反面、古式魔法の名家ともなれば一門が多く、先祖から積み重ねた工夫を変えることへの反発は無視できないものがあるだろう。分家や末席に連なる家柄なら、逆にしがらみも少なくて難易度も高くないんだろうが・・・・・・。
だからこそ、吉田家の次期当主である幹比古が、九校戦という日本の魔法師にとっては大きな意義を持つ場で用いて成果を出すことは、必ず大きな追い風になり得るものだと俺は考えているよ」
「なるほど・・・・・・そういう考え方もあるのか・・・」
僕は達也の言葉に、一介の魔法師としてだけではなく、一族を背負う者の視点から見た考え方を聞かされて、さらに感銘を受けさせられ、自分個人にとっても九校戦の優勝にやる気を出す理由を与えてもらって行き上がっていたッ。
・・・・・・それにしても、達也はどうしてここまで一族全体を束ねる長としての視点に精通しているのだろうか?
今に始まったことでもないとはいえ、なんだか高校生離れしているというより、大勢力の長になるため帝王学でも学ばせられたみたいに見えるときがあるんだけど・・・・・・まぁ、それは気のせいなんだろうね。
それはそれとして、最後に残ったレオだけれど―――意外にもコレが問題だった。
「そして最後に、レオにはディフェンス任せたいんだが、頼めるか?」
「応、いいぜ。・・・つっても、ディフェンスってどういうポジションなのか知らねぇんだけど、何すりゃ良いんだ? モノリス・コードでのディフェンスって・・・」
「簡単に言えばディフェンスとは、自陣のモノリスを敵の攻撃から守る役目のことだ。
モノリス・コードの勝利条件は知ってるだろ?」
九校戦におけるモノリス・コードの勝利条件、もしくは敗北認定される条件は、相手チーム選手をすべて戦闘続行不能に陥らせるか、モノリスに隠されているコードを端末に打ち込むかされるの2つだけになる。
ただ、このコードは端末に打ち込むためには、まずモノリスの10メートル以内まで近づいて無形等の専用魔法式を撃ち込なきゃならない2段構えになっており、最初の魔法式が撃ち込まれてから、隠されたコードを端末に打ち込まれるまでに妨害することは許可されている。
要するに、ディフェンスの役割は、敵チームを誰一人としてモノリスの10メートル以内に近づけず、近づかれた時には鍵となる魔法式をモノリスに撃ち込ませず、それすら防げなかった時は敵にコードを読み取られるのを阻止すること。・・・・・・距離と状況に合わせた三段階の対応変化が必要ということになっている。
「通常の試合運びでなら、対抗魔法で『鍵』となる魔法式が撃ち込まれるのを阻止するのが一般的なんだが、俺たちは素人だからな。慣れている者達と同じ戦い方をしても不利になるばかりで意味が薄い。
だからルール上では禁止されていない、レオの得意な《硬化魔法》で、割られてしまったモノリスを再びくっつけた事にする防御方法で対処するとしよう。
なに、“皆が同じことをやっているから”というだけで、ルールに明記されていない不文律を絶対視していた方に問題があるのだから気にする必要はないだろう。
むしろ選手に選ばれながら、ルールブックすら読みこなしていない方が問題なのだから」
「いやまぁ・・・オレが仮に選手に選ばれてても読まなかったろうから偉そうなことは言えねぇんだけどさ・・・・・・ただ言いたかないけど達也、それは立派に悪知恵だとは思うぜ・・・?」
「気にするな。それが無理そうなら、流しておけ」
「だからソレ、言い方変えただけで同じだって!?」
立て板に水の要領で、仲の良い男友達二人のやりとりは進んでいき、端で見ている僕としては苦笑するしかなかったんだけど・・・・・・問題が起きたのは、この後だった。
魔法式を撃ち込まれてモノリスが割られてしまった時の対処法はそれでいいとして、敵チームの選手をモノリスに近づけないための撃退法をどうするのか?そこで問題が持ち上がるというか、“持ち上げられる”事になる・・・。
「でもよー、達也。敵が近づいてくるのを撃退する方はどうすりゃいいんだ? 殴るのも蹴るのもルール上でダメみてぇだし、自慢じゃないが遠隔攻撃魔法は苦手だぜ? オレは・・・」
「そこで、先日テストしてもらったオモチャを使おうと思う」
「先日のオモチャって・・・・・・あ! アレかッ!? この前オレが実験台になってやった『不思議ブレード!』」
「・・・・・・一応、『小通連』という固有名詞はつけてあるようだが・・・・・・まぁ、レオに試してもらった後に名付けられたらしいからな。特に重要な部分でもないことだし・・・」
微妙に納得のいっていないようにも見えなくはない達也の表情が珍しかったけど・・・・・・問題だったのはソコじゃない、
彼が『小通連』といった、九校戦が始まってから2日目に彼の部屋へエリカたちと遊びに来たとき『知り合いの工房』から届けられて、レオに性能テストを頼んでいた『柄から刀身が離れた位置で固定される武装デバイス』
たしかにコレを使えば、モノリス・コードにおける『物理的な打撃は禁止する』『だが質量体を魔法で飛ばして相手にぶつける攻撃は有効』というルールには抵触せずにレオの力を使うことが可能になる。
・・・さっきよりも更に悪どい悪知恵になってしまっている部分もあるけどね・・・。
なんというか、戦時条約での禁止事項を破るため、『戦時条約を決めたときには存在していなかった新兵器』だったら合法だっていう、大昔の世界大戦で使われてたっていう理屈を彷彿させられるほどに・・・。
それもまぁ、問題と言えば問題ではあったんだろうけれど・・・・・・もう一つの問題と比べれば大したことはなかったかもしれない。
達也が床に置いたおいた『小通連』を持ち上げてレオに手渡し、ご機嫌そうな調子で刀身の出し入れ具合を確認していた。・・・・・・そこまでは良かったのかもしれないけれども。
「でもよぉ、達也。確かにコイツを使えば遠隔魔法が苦手なオレでもディフェンスは出来るのかもしれないが・・・・・・増えてないか? このオモチャの数・・・。
なんか前見たとき1本だったケースが、3本になってる気がするんだが・・・・・・」
「・・・・・・気にするなレオ。そこは俺も驚いているからな・・・」
・・・そう、増えているんだ。小通連というオモチャが、最初に見たときより3本も。
最初に来たときに見せられた1本に3本が新たに加わって、計4本の『小通連』が達也の部屋の床には置かれているんだけれども・・・・・・コレって中身は同じものなのかな? なぜだかスゴく嫌な予感がするんだけどコレって・・・。
「・・・レオにテストしてもらった後、問題点を洗い出してデータを送り、改善した1本が送り直されてきたのは良いとしてだ。
なぜだか、その際にセットで3本送られてきてな。一緒に付随してきたマニュアルによると・・・・・・。
“指摘された問題点を改善した物を送っときました。
それとオモチャってことだったんで、お嬢のアイデアを付け足したのも送っときます。
なんかの役に立って、面白がってもらえたら光栄です”・・・・・・とのことだそうだが。
―――言い訳があったら、聞かせてもらおうか雫・・・・・・(ゴゴゴゴゴ・・・)」
「ふ、ふえぇ、ぇぇぇぇぇ、ぇッ!? な、なんでいきな、り私が・・・!? 私はなにもやってな、いよ・・・!?
た、だウシオカさん、に、“お嬢ちゃんだったらどう思う?”って聞かれ、て飴もらっただけ、だよ・・・っ!? ホントだ、よ・・・!? 嘘吐いてな、い・・・・・・ッ!!(ガクガクびくびく)」
・・・・・・なんだかよく分からないけど、また雫ちゃんが達也の知らないところで何かやっていたことが、後になった今になってバレて問題になっているらしい。
面識そのものは多くないけど、達也からはよく苦労話を聞かされていた相手の女の子は、どうやら達也の『知り合いの工房』とも仲が良いみたいだ。
変なところで交友関係が広い子だなぁーと、感心していたところ。
「ふ~む、見た感じ最初の一本目と違いはなさそうに見えるんだが・・・・・・どっか変わってんのかな? とりあえず魔力流して起動してみるか。よっと」
カチリッ。
ガッコン! ガチャンッ!! ガッココン!!
「って、え!? 長――っ」
「ん? なんか分離合体みたいな音がし―――アウチッ!?」
『『『あ――』』』
ばこ―――ッン!!と。
・・・・・・離れた所にいたクドウさんの頭まで飛んでいって停止した刀身を見つめたまま、誰一人として声を出す者がいない室内になる達也の部屋。
柄から離れて飛んでいき、空中に停止した刀身――その先っぽの部分が更に分離して先へと進んで停止している。
そんな、『魔法の重ね掛け』でも出来なければ不可能な荒技を・・・・・・この新型小通連『三大合体分離ボウ小通連MK-Ⅲ』(制作者の年齢を思わせるネーミング)は可能にしているようだった。
魔法としてはスゴく弱い魔法でしかない攻撃ではあるけれど・・・・・・コレを使えば有利に戦える使い方で試合に挑むのは・・・・・・流石に卑怯なんじゃないかと僕は素直にそう思った一日だった。
つづく
*念のため書いておきますが、雫が『牛山さん』を『ウシオカさん』と呼んでいるのは、素で間違えて覚えてるネタです。だからカタカナ読み設定ー。