ただ…久々だったせいか上手く書けたのか自信が持てない内容です。どーにも最近の思いつけるアイデアに偏りを感じる今日この頃。
《モノリス・コード》は広大な富士演習場を、様々に条件付けされた野外ステージとして用いる競技だ。
広大とは言え、富士の樹海すべてをと言うわけでは無論なく、森林、岩場、平原、渓谷、市街地という五種類の条件に適した一部のみを試合会場として使用する。
だが人工的に調整された限定的環境とはいえ、普段は国防軍が訓練に使うため造ったフィールド。防諜のため、外部からの見晴らしがいいはずもない。
このため試合中の状況は、ルール違反監視用のカメラが追いかけた映像が、客席前の大型ディスプレイに映し出されるという仕組みだ。
これが障害物の多いステージでは、会場全体を俯瞰できるはずもない観客にとって唯一頼れる目としての役目を果たしてくれる。
そう。今の俺たちが見上げ、そこに映し出された映像に、不敵な笑みを浮かべ合っているのと同じように・・・・・・。
「やはり、選手として出てきたね。彼が」
俺の隣に立って、ディスプレイに表示されている同じ人物を見上げている相棒――カーディナル・ジョージの言葉に頷きながら、俺も納得の思いを共有させられる。
そこに映し出されていた三人の“代理”選手たち。
通常であれば残り二試合が不戦敗となっていたところを、大会本部の裁定によって代理チームの出場という形で試合順延が認められた第一高校の新たなメンバーが、画面の中で初めて観客たちに姿を現している。
先日の段階ですでに本人から直々の『優勝宣言』を告げられていた俺たちと違って、事情を知るはずのない者が大半の観客席からは困惑の空気が色濃く漂いながらの開幕になってしまっていたが・・・・・・まぁ無理もない。
なにしろ、前日には花形競技である《モノリス・コード》で事故が発生し、被害に遭った選手たち全員が負傷し、入院を余儀なくされている。
大会運営側からは『前例のない悪質なルール違反があった』と発表されているが、それ以上の説明はなく、事故のときの対戦相手だった第四高校は棄権扱いにはなったものの、次の競技からの参加は許されている。罰則とは呼べない待遇だった。
『ルール違反があった』というからには、普通は対戦相手チームか、それ以外のチームのいずこからの違反行為があったことは確実だろうに、この半端すぎる処遇と対応。
いや、それだけではない。
大会開始2日目にも事故は起きており、《バトル・ボード》のエース渡辺摩利選手が負傷して棄権している。
これらの事故による被害者が『第一高校の選手たちだけ』で占められていて、しかも『事件性は認められない事故』として処理されている。
・・・・・・ここまで条件がそろって、『偶然の一致でしかない第一高校の不幸』と信じれるのは、余程に気楽な人間だけだろうな・・・・・・とジョージには頭の出来で遠く及ばない俺でさえ思えるほどなのだから、一般の観客たちが賢しらに噂し合って困惑するのは流石に仕方がない状況だったからな・・・。
いくら実戦でも通用する魔法師育成が目的のスポーツ大会とはいえ、一つの高校にここまで事故と重傷者が相次ぐことは過去にもあまり例がないのでは無いか?
それを考えれば第三高校の俺でさえ、運営側の対応に思うところがなくはない。
多分“ヤツ”はそこを突いたのだろう。それで今回の特例措置というわけだ。
「そうだな。正直、選手として参加する手段までは分からなかったが・・・・・・アイツが言った言葉である以上、伊達やハッタリであるはずもない。
もっとも、こういう形でとは思わなかったのも事実ではあるがな」
「確かに、だね。モノリス・コードでは原則として、選手の途中交代は認められてない競技だけど、最初から出ていた選手たちが出れなくなった時のため、隠し球として自分が控えていた――という形でだったなら不可能じゃない。やってくれるよ、流石は司波くんだ」
ジョージから、賞賛と共に呆れも混じった声で評されるのを聞かされて、俺も全く同感の想いで画面に映っている相手を見つめる。
プロテクション・スーツとヘルメットという、他校と同じオーソドックスな服装を纏いながら、腰の左右のレッグホルスターに特化型CADのロングタイプを差した二丁拳銃スタイルに加えて、右腕にはブレスレット型の汎用タイプという、同時に三つのデバイスを使いこなすことが必要な異色の戦闘準備を整えて姿を現した男。
魔法科第一高校の司波達也!!
日本初の魔法工学科初代代表にして、この大会でも担当競技でことごとく上位を独占し、さらには担当した以外の競技にさえヤツの影響が及んだと思しき事例を多発させている、人間業とは思えない技術を可能にし続けてきた神の腕を持つ超スーパーエンジニア。
公開されているプロフィールによれば、第一高校で彼の成績は『二科生』だとのことだが・・・・・・そんな理由でヤツを見下し、侮る愚か者はすでに各校からいなくなって久しいことは明らかな強敵だ。
ヤツを意識しているのは俺たちだけではなく、各校メンバーのほぼ全員が彼の経歴と、この大会における実績から警戒度を何段階も高めているのが感じられるほどの存在。
あの司波達也ならば、何があってもおかしくはない。そういう思いが俺にも、そしておそらくジョージや他校の選手達にもあるのだろう。
観客達と違って俺たちの中に困惑する者は多くなく、強敵の情報収集のため撮影機材の確認を急ぐヤツの方が多い程だったが・・・・・・そこでふと俺は疑問を感じて首をかしげる。
「・・・・・・だが、今回の措置がヤツの予測通りだったとすれば、昨日の事故と森崎選手達の負傷も、ヤツは予測済みで敢えて警告しなかったということになるのか・・・?」
「流石にそれはないよ、将輝」
俺の呟きに反応して、ジョージが苦笑交じりに小さく頭を振ってくる。
長年の経験から、その仕草が空いても同じ推測をした結果として、『無い』と判断した故でのものだということも伝わってきたが、その理由までは分からなかった俺に対し、相手もまた以心伝心。
「彼はそこまで非道な人柄ではないように感じられたし、第一それをして彼にメリットが何もない。昨日の事故による負傷は、彼にとっても計算外のことではあったんだと思う」
「ふむ・・・・・・まぁ、そうだな。自分が出たければ最初から選手登録しておけば済む話でもある。
だが、それなら先日、俺たちに告げた言葉の意味合いは何だったのか・・・・・・?」
「多分・・・・・・それもまた、彼の“策略”の一部だったんだと思う・・・」
重々しい口調で告げられた先日と同じ単語に、俺は再び表情を硬くして相方を顔を見下ろす。
他の者が同じ反応を返してこられたら、俺はただの言い訳と思って相手にしなかったろうが、ジョージに限ってそれは絶対にないと断言できる。彼が策略というからには、確実に相応の根拠があるはずだ。だがそれは一体・・・?
「今になったから分かることだけど・・・・・・彼にとって、あの発言は、“どちらに取られてもいい言葉”として言ってた言葉だったんだと思う。
何事もなく順調にいっていれば、たとえモノリス・コードを落としても、次のミラージ・バット本戦かモノリス・コード本戦で、隠し球になるような『新技術』を見せつけてくるつもりだったんじゃないかな?
そして、“何かあった時には自分が出る”という意味も込めて。
実際その言葉を言われただけで、僕たち二人は彼を意識せざるを得なくなって、心理的に圧迫されてたわけだから意味は大きかったんだ」
「なん・・・だと・・・・・・? そこまで計算して俺たちはヤツの戯れ言一つで踊らされてたって、そう言いたいのかジョージは!?」
「将輝には悪いけど・・・・・・多分ね。そうじゃないと現状への、説明が付かない。
代理チームとしての出場だけならともかく、選ばれた選手の他2人は登録選手外から新たに招集して、その内の1人は精霊魔法の名家『吉田家の神童』で、もう1人は“あの”武装だよ。これでただの偶然って見る方が不自然だ」
「く・・・! それは・・・確かにそうだが・・・っ」
悔しい気持ちを抑えきれずに、俺はディスプレイに写されている司波達也とは異なる2人の代理選手達に視線を移す。
背は高いがヒョロリとしている方は、俺は知らなかったがジョージが言うところに寄ると、『数年前までBS魔法界の若き逸材』として期待されていた『吉田幹比古』という人物らしい。
博識なジョージだからこそ知っていた名前でもあるらしく、数年前の事故以来とんと噂が絶えていた人物だったとかで、その後に第一高校へと入学していたことも今になって初めて知ることになった存在。
だが、それでも急きょ調べさせた情報によれば第一高校の一科生として入学し、司波達也とも懇意にしている仲だという・・・・・・油断はできない。
今1人の『西城レオンハルト』は完全に無名の選手らしく、第一高校でも二科生で、情報網に引っかかる要素は何もなかったが・・・・・・しかし彼の場合、注目すべきは腰に差している妙な武装。
一見すると鞘に収まった「剣」にも見えるそれが、『武装一体型CAD』という特殊な装備であることを俺は知っていたし、ジョージの理解度は俺の比ではないだろう。
そして数少ない彼に纏わる情報として得られたものの中に、『司波達也との友人関係にある』という話が存在していたのだ!
日本初の魔法工学科代表として入学した一年生と、知名度の低いマイナーCADで武装した平凡な二科生の一年生の組み合わせ・・・・・・確かにジョージの言う通り、偶然で済ませるには無理がある。
ましてや、吉田も西城も言うなれば司波のシンパにある二人組だ。
そんな連中が大会関係者用に貸し切られているはずのホテルに、臨時の従業員という名目で宿泊している――それも口利きしたのは“あの千葉家”の令嬢だという。
やたらと家の権限を多く使って便宜を図っていたから分かったことだと聞かされたが・・・・・・それほどの大物一族たちが司波に協力している結果として、この状況が出来ていたとするならば・・・・・・これを偶然の一言で片付けれるなんてこと、俺には不可能とならざるを得ない・・・・・・ッ!!
だが――だが、しかし! それでもヤツには!
“あの人の兄”という、俺にとっては認めがたい事情を持っている事情持ちなのは事実でもある・・・!!
「――将輝は、先月のニュースを覚えてる? “第一高校で謎の爆発があった”っていう、あの事件を・・・」
「第一高校にテロリストが侵入したって言う、アレか? 覚えているが、それがどうかしたのか? 負傷者もいたらしいが事件自体は、もう解決したことなんだろう?」
「うん。事件の方はね。警察の発表だと組織も壊滅したらしいし・・・・・・けど、今回の大会中に起き続けてきた第一高校の事故による負傷と、九校戦が始まる直前にも起きて“未遂”で終わったっていう交通事故・・・・・・これらは本当に無関係な出来事だったと将輝には思えるかい?」
「!! まさか・・・・・・今回のことはソイツらが意図的にやった事件!?」
思わずガバッと大きく動いてしまう自分を俺は抑えることが出来なくなる情報だったッ。
・・・・・・だが、考えてみれば無いとは言い切れない。
最近では超簡易魔法式の普及で支持を失って大人しくなっているが、反魔法テロたちの組織そのものが消滅したわけではなく、ただ勢力が弱体化しすぎて動くに動けなくなっているだけの過激派連中は今の時代にも多く残っている。
そして追い詰められた者は昔から、窮鼠と化して噛みつきやすいものでもある。
その危険性に警戒心を抱くような出来事なり情報が、九校戦が始まる前の司波達也のもとへもたらされていたとすれば・・・・・・全ての辻褄はかみ合うことになる。
「・・・つまりヤツは、こういう事態になる“かもしれない危険性”は察知できていたが、具体的に何が起きて、誰が被害を受けるかまでは感知することまでは不可能だった。
だから自分が最初から矢面に立たず、正規メンバーでも優勝が狙える者たちに任せて、いざという時には自分と、対応可能な仲間たちを側に呼び寄せておくことで、有事に備えていた・・・・・・と言うことか。用意万端といったところだな、周到なことだ」
「本当にね。彼の危機管理能力には頭が下がる想いだよ。
――けど、これで彼が出てきた以上、少なくともモノリス・コードでこれ以上の“事故”を心配する必要はなくなったという訳でもある」
そこまで言って、急にジョージの口調と表情が一変するのを、俺は感じた。
先程まで穏やかな中に鋭さを持った分析を語っていた『優れた研究者』としてのジョージから、仮説とされてきた基本コードを発見して自ら使いこなす『優れた実行者』でもあるカーディナル・ジョージとして、好戦的で挑戦的な自信にあふれた戦士としての表情と口調に・・・!!
「“事故を装っている”ということは、これで終わりにする気はない証拠でもある。終わらせてよければ事件でも別に構わないのだから。
偶然を装っての攻撃を続けるつもりなら、アレだけの事故を同じ競技内で2度も起こす愚は犯さないさ。次があるとしてもミラージ・バッドまで余裕があるはずだ。
つまり――将輝が司波達也くんと戦って決着を付けるための障害に彼らはならない、と言うことでもある」
「・・・成る程。なら安心して、お手並み拝見といこう。
優れた研究者が、優れた実行者であるとは限らないのが、俺たち魔法師の現実。
日本初の魔法工学科初代代表の力、とくと披露して頂くとしよう――」
・・・・・・盛大な過大評価に基づく勘違いに、微妙な真実やら他者の予測と同じものなんかがゴチャ混ぜになりながら。
司波達也率いる第一高校代理チームにとって、最初の試合はスタートしていた。
対戦チームは『第八高校』
ステージとして選ばれたのは『森林』
全国に九つある魔法科高校の中で、第八高校は最も野外実習に力を入れている学校であり、現時点でのポイント合計では三校に続く2番手の順位を確保している。
・・・・・・要するに、昨日の事故で第一高校がそのまま棄権していれば、戦わずして決勝トーナメント進出が確定していたチームが彼らであった。
このため、ステージ選定はランダムプログラムで選ばれる仕組みにはなっているものの、特例を受け入れさせるため本来なら不戦勝で勝ってたチームに有利なステージが意図的に選ばれたのではないか?・・・・・・という疑惑が疑われる立場となっていた。
もっとも、別のステージが選ばれていた場合には、その違い毎に『作為の介在』を疑われて、単語と言い方だけが異なる内容は同じ疑惑を噂されてただけの違いしかなかった可能性が高い立場ではあったので・・・・・・有利な戦場が得られただけマシと思うのが一番前向きになる。
そんな微妙すぎる立場を押しつけられてしまってた学校が、第八高校の選手陣であった。
本人たちにとっては迷惑の極みと言えたが、第一高校だって犯罪結社のトトカルチョ出来レースに巻き込まれて迷惑してるのは同じ立場だったので仕方がないとしか言いようもない。
・・・・・・本当に微妙な立場の者たち同士で争われる、微妙な試合がこの戦いになっていた・・・。
そんな微妙な試合の中、第八高校のオフェンス選手は、全速力で第一高校のモノリスへと到達していた。
他のメンバー2人は、どうなったかは彼にも分からない。
ディフェンスの選手は当然ながら後方のモノリス前に残してきたままなので、正反対の位置に立つ敵チームのモノリス前まで来ると流石に状況を正確には把握しようがなく。
今1人のオフェンスは、自分とは少し離れた位置から敵陣へと接近して連係攻撃を放つ予定だったのだが・・・・・・どういう訳か姿がまったく見当たらない。
森林エリアとはいえ試合会場で迷子になるはずもないし、野外実習に最も力を入れている第八高校の最精鋭がそんな無様を晒すわけもない。
だが現実に、敵モノリス前には自分だけしか来ていない。
自分しか来ていない以上、一人で何とかするしかないのが現実というものだった。
(チッ! 予定を狂わせやがって、後で一発ぐらい殴らせてもらわねぇと気が済ませねぇ!
・・・・・・だが、それよりアイツは何やってんだ? 祈りを捧げてでもいるのか・・・?)
第一高校のモノリス近くまで接近することに成功し、木の陰に潜んでいた第八高校のオフェンス選手がいぶかしんだのは、第一高校ディフェンス選手が取ったままの『変なポーズ』が原因によるものだった。
―――剣の柄だけを、天に向かって掲げたまま、さっきから動いていない。・・・・・・のである。
何というか、こう・・・・・・映画の中で『あの星を見よ』とかのセリフを言いながら剣で指し示してるシーンを、そのまま現実でも再現してるみたいな格好で停止していてピクリともしない。どこ見てるのかもよく分からない。
今までの試合結果から見て、第一高校が今年に限って妙なクセして凄まじい技術を持ったCADを多用してきているのは身を以て知っている立場だったからこそ、警戒に警戒を重ねて不用意な攻撃をすべきか逡巡してきたが・・・・・・それも流石に限界だった。
もともと第一高校が妙に高性能すぎるCADで上位独占を連発していたのは女子チーム陣であって、男子チームはむしろ例年より不調だったと言ってよい。
それが、ここに来て突然対応を迫られたのは、代理出場することになったメンバーの中に“あの司波達也”がいた―――というだけではない。
他の2人にしても、選手登録されてすらいない、新たに招集されたメンバーで占められており、『事前のデータが全くない敵チーム』へと変貌されてしまっていたのが、一番の要因。
翻って、コッチの情報は既に見せた範囲は調べ尽くされた後と見ていい。
ステージの地形的にはともかく、情報面では圧倒的に不利な立場に立たされていたのが第八高校ではあったため、彼としても慎重にならざるを得ないのも仕方ない部分はあったのだが。
待てど暮らせど変化がない以上は、やるしかない。
(ええい! ままよッ!!)
ガササッ!!
彼は隠れていた木の後ろから飛び出しながら、敵ディフェンスに向けてCADを構える!
声は出さず、最小限の音しか立てずに、最小の動作と移動だけで一連の動作をやり遂げた彼の腕前は、さすがに野外実習に力を入れてきた第八高校の精鋭だった。
彼らにとって森林ステージは、ホームグラウンドに等しい。自分のホーム内を移動するのに足下をいちいち確認する必要などないのと同じように、彼らは我が家にいるも同然の感覚で初めて訪れた森の中での効率的な移動を可能にしている!!
ただ、彼にとって不幸だったのは、敵選手である西城レオンハルトが所属する部活動が『山岳部』で、山にも森は大量にあるのが普通だったこと。
そして何より、不幸の源が敵の手元には“無かった”ということ。それだけだったろう。
あるいは彼は、忘れていたのかも知れない。
往々にして災厄というものは遠くには存在せず。
・・・・・・いつでも災厄は、自分の“すぐ近く”にあるものだという現実を・・・・・・
「―――っ!! うおりゃぁぁぁぁッッ!!」
一瞬遅れて、相手選手が自分の方へと向けて身体の向きと、手にしている武装一体型CADの方向とを合わせてくるが―――手遅れだった。
既に自分が放つための遠隔攻撃用の魔法式は完成寸前にあり、どう足掻いても今からでは相手には防ぐことも阻止することも避けることすら出来はしない。
だいたい、手に持っている剣のような武装一体型CADを、未だ天に向けたまま同じ角度を保っていて何が出来るというのだろう?
意味が分からず、何かしようとしていると警戒して攻撃は控えていたが、何をするつもりだろうと先に攻撃を当てられ、自分が何かする前に倒されてしまったのでは意味が無い。
今回ばかりは司波達也も人選を誤ったのだ。
第八高校のオフェンスは、ヘルメットの下で勝利の笑みを浮かべながら確信していた。
(もし魔法発動がもっと速い選手を起用していれば、用意していた防御策が役立ったかも知れなかったが―――勝負は非情さ! 運が無かったと思って諦めるんだな司波達也!!)
そう思って引き金の形をした、発動ボタンに指をかける。
その間、木の後ろから出てきてからコンマ数秒の出来事だったが・・・・・・その瞬間のことだった。
――ボゴッッン!!
「なに!? トラップだと・・・っ!」
突然、自分が立っていた場所の地面から小さな爆発が生じたのを感知して、彼は魔法の発動を一旦停止する。
地面から飛び出してきたナニカによる攻撃を避けるため慌てて飛び退きながら、彼はこの攻撃が『最初の一撃目でしかない』という事実を予測して顔を青ざめさせる。
たまたまBS魔法にも知識があった彼は、そういう設置型の遅延発動魔法が存在することを知っていたのが、その理由だった。
第一の発動条件を自分が指定したポイントへと踏み込むことに、術者が声を出して思念を強く注ぐことを第二の発動条件に指定していれば、ある程度のことは可能となりうる!
もっとも、何時間か数日前から仕掛けていた場合には、ほとんど意味ある威力など出せるものではないとも聞かされているが・・・・・・今回の場合はそれこそ意味がない欠点だ! 何故ならステージは当日にランダムで選ばれ、試合が始まってのは先程なのだから!!
(しまった! 見た目に惑わされたが、コイツはBS魔法師だったのか!
先程から動かなかったのは、俺が攻撃のため最適なポイントへと誘い出されるのと、発動が遅い古式の欠点を補わせるため・・・・・・俺としたことがッ!!)
歯がみしながらも、彼は試合を諦める意思は毛頭なかった。
たしかに古式魔法は現代魔法よりも威力が高く、自分でも耐えきるのは難しいだろう・・・・・・だが!
仲間が大急ぎで調べて分かった限りでは、この選手は二科生! 魔法力という点では圧倒的に自分を下回るのは確実!!
単なる威力勝負だけならば、九校戦のメンバーに選ばれた第八高校一科生の自分にこそ利がある!!
一旦この場を退いて防御し、耐えきった上で今度こそ全力で遠隔攻撃魔法を叩き込む!!
図体はデカく、体力はありそうなヤツだが・・・・・・生憎この戦いは実戦じゃない! 物理攻撃禁止のスポーツ競技!
整備された環境下で魔法の技能を競い合う場において、魔法力で劣るウィードが勝てる場所じゃないってことを教えてやる!!!
「舐めるなよウィードが!! ブルームに勝るウィードなど存在しないッ!!!」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッ!!!!」
二人の選手たちの叫びと誇りが火花を散らし、ぶつかり合った!!
まさにその瞬間だった!!
第八高校オフェンス選手が回避した、最初の一撃目でしかない、地面から突然に飛び出してきたナニカが―――方向転換して自分が避けた方へと向かってきたのは。
「・・・・・・へっ?」
なんで?・・・という当たり前の疑問を彼が思い浮かべた時には、既に手遅れだった。
彼は初撃を躱すときに、地面に向けて重力軽減魔法を使って木の枝まで大ジャンプして、避けようとしていた。
敵が二科生である以上、遠隔攻撃の間合いこそが自分の戦場だと確信していたからであるが・・・・・・言い方を変えれば彼は今、空中にいる。
地面から出てきたナニカ―――新型小通連『三大合体分離ボウ小通連MK-Ⅱ』の切っ先に当たる部分が、真っ直ぐ上に向かって飛び出してきた鉄の塊が、途中で変化した方向に向かって真っ直ぐに、下方から上に向かって飛んでいく―――その直線上の空中に大ジャンプした姿で。
その結果。
ゴチン。
という、凄くイヤな音がして、オフェンスの動きが止まった。
表情が、物凄く痛そうと言うか、何かに耐えるようにというか、ナニカ大切なものを失ってしまったときの悲しみに満ちた顔というか・・・・・・まぁ、そんな様な表情をした瞬間。
既に彼は意識を失っており、遠くの方でもエイドスが激しく揺れたのが何となく感じ取れたから多分、勝ったのだろう。二科生でそういうの苦手だから正確には分からんかったけれども。
少なくとも、これだけは言える確かな事実として。
この試合内容と結果を、大型ディスプレイで見ていた観客たちと選手たちのほとんどが、
『『『『・・・・・・・・・・・・・・・・・・うわ』』』』
と一言だけ呻き声を発して、男性客と男子選手たちだけは、思わず前屈みの姿勢になって、内股になってしまっていた事を・・・・・・・・・・・・試合会場にいる選手たちは誰も知らない。見えないから知りようがない。
そんな混沌とした試合が行われる前日の夜。
あるいは今日になった午前の初め頃。
二人の仲間たちと達也が交わした会話の中に、こんなやり取りがあったことも、多くの者たちは知りようがない。
「ふむ・・・・・・この――なんだ。《新型小通連『三大合体分離ボウ小通連MK-Ⅱ』》は、どうやら多段式のロケット発射方式で使える仕組みになっているようだな」
「多段式のロケット? 達也、なんなんだ、そりゃ一体?」
「要するに、柄から刀身が切り離された後、更に切っ先が刀身から発射されるという仕組みになっていると言うことさ。
第二段階が刀身で、第一段階が切っ先、柄の部分は発射台、という感じにな。
かけられている魔法式も同じで、硬化魔法で相対位置を固定した後、電流反応型の形状記憶合金に着脱の瞬間だけ電流を流して噛み合わせを外して空に浮かばせている点でも同じ」
「ふぅーん? じゃあ伸びただけで、ほとんど前のと変わってねぇってことかそりゃ?」
「いや、どうやら一番の違いは硬化魔法が段階毎で別けてかけられているらしい部分だ。
切っ先にあたる第一段階の硬化魔法は、刀身の部分から超簡易魔法式を応用して使用され、柄から術者本人が魔力を流して使う硬化魔法は第二段階の刀身までしか効果が及ばないよう造られている」
「つまり、切っ先の部分は刀身に戻ってからしか柄には戻らないし、柄から魔力を流して分離間隔を変更できるのは刀身の部分だけ、という仕様だな。
まぁ調整そのものは可能なようだが、少々手間がかかるし、扱いが難しくなるだけでメリットは少なそうでもあるが・・・・・・」
「ふぅ~ん・・・・・・つまりよ、刀身と切っ先を別々に使うことも可能ってことなんだよな?
だとしたら俺に良いアイデアがあるぜ。これ使って当たれば確実に勝てるっていうグッドアイデアな戦術がな!!」
「・・・・・・使うのはレオ自身なのだから、どういう使い方をするのも自由だが・・・大丈夫なのか?」
「ああ、任せておけ。絶対コレで勝ってみせるぜ!(グッ!!)」
尚、そんな会場の中。
ただ一人だけ男性でも男子選手でもない人物が、彼らと同じ姿勢になって青ざめた表情をしているのを友人が心配して気遣ってくれていたりすることも、試合会場にいる者たちは誰も知らなかった・・・・・・。
「?? どうしたの、雫? そんな変な格好して、おトイレに行きたいの? だったら後ちょっとだけ待っててね、私が達也さんの試合が終わったら連れて行ってあげるから、あと少しだけ・・・・・・せめて達也さんが勝つまで少しだけ!」
「ち、違、う・・・・・・っ、そうじゃ、くて・・・・・・! こ、怖・・・!
こわ、コワ・・・・・・あわ、わわ・・・(ブルブル、びっくんびっくん、ギュムッ)」
下品ながら続く