二日目、昼。
その森に入った瞬間、セイバーはここがすでに異界であることを肌で感じ取った。
空気が違う、というべきか。森の中と、外。その境界線が、そのまま日常と異常を隔てていた。
瞬時に武装を行う。簡素な衣服は消え、肌の露出の多い鎧姿へと変化する。
白い肌を縛るように、戒めの黒茨の痣がセイバーの身体をはい回っている。
武装状態から、さらに一歩、踏み込む。
「結界、ですね……」
おそらく、こちらを誘い込んだサーヴァントのマスターが仕掛けたのだろう。真昼間から仕掛けるのは聖杯戦争の常識から外れているが、こうして結界を張り、内と外を隔てたのは、神秘の秘匿という、魔術師の大前提を順守するつもりがある為か。
これで、一般人は誰もこの森には入るまい。そして、おそらく出ることも容易ではないだろう。
セイバーは魔術に明るくないが、この結界が実に見事に張られていることは分かる。
そして、魔術師の間で通説となっていることだが、異常を、異常と認識させない異常。結界の最上位は
秋という季節柄、人間にとっては涼しげで、過ごしやすい気候なのだろうが、この場所は涼しいなどという生易しいものではない。
さらに一歩、前に踏み出してみる。
するりと、どこからともなくセイバーの前後左右に無銘の剣が現れた。
飾り気のない、実用性一点張りの剣。名剣の類ではなく、大量生産された量産品に過ぎないのは、見るものが見ればはっきりわかるだろう。
「…………」
サーヴァントの気配は感じない。あまりの気配の希薄さに、セイバーは敵がアサシンであると見抜いていた。
アサシンのサーヴァントが持つクラススキル、『気配遮断』、完全に隠れられれば発見するのは不可能に近い。少なくとも、セイバーには無理だ。
だが『気配遮断』スキルは攻撃の瞬間に大きくランクが下がる。敵が攻撃に移った瞬間にそれを察知、迎撃すれば、そのままカウンターでアサシンを補足できるかもしれない。
さらに一歩。次の瞬間には跳躍しようと、膝を屈め、力をため込んだ。
セイバーは気付かなかった。己のすぐそばまで迫っていた暗殺者の存在に。
彼女の背後、周囲を警戒しながらだったが、通り抜け、踏み越えた地面から、唐突に現れる
黒い腕、ゆるりと蠢くそれに、セイバーは気付かない。
指先が、何かを探るように蠢き、前を行くセイバーの背中を
セイバーが跳躍の前動作として、両膝を屈めた一瞬の無防備を狙って、心臓を抉り取る魔手が迫った。
セイバーが森の暗がりに入ってきた時、アサシンは表情には出さず、内心でほくそ笑んだ。
アサシンの宝具、
生前はただの物質潜航能力だった。サーヴァントとなった今は、生前にはできないことができるようになった。
己が本質的には霊体の存在となったからだと思う。自身の魂の一部を切り離し、自在に操作できるというもの。
設置型のトラップにもできるし、死角から直死の一撃を叩き込むこともできる。事実、アサシンはこの宝具によってバーサーカーのマスター、アーノルドを殺害している。
次は
地面から、アサシンの右手が
狙いが定まる。攻撃は、セイバーがアクションに移る直前。セイバーが攻撃に移る直前の、最も無防備なところを狙う。
その瞬間が来た。セイバーが、跳躍のために膝を屈めた。
今。アサシンは設置しておいた右手を遠隔操作。地面から毒蛇のようにアサシンの黒い手が跳ぶ。
取った。アサシンはそう確信した。確かに、セイバーだけならば、そうだったかもしれない。
だが現実はそうはならなかった。セイバーの背後、今にも彼女の心臓を抉り取ろうとしていた黒い魔手は、頭上から降ってきた銀の光によって、手首から断ち切られた。
「!?」
驚愕はアサシンだけではなく、セイバーも。完全に意識の外から突然降り落ちた剣にびくりとし、その剣が今しも己を狙っていた手を斬り落としたと知り、表情を引き締める。
アサシンは己の宝具を展開。前後左右上下、全てに己の
「これは!」
セイバーは眼前に光景に愕然とした。
背後から心臓を抉ろうと迫った腕、それと同じ黒い右手と左手が無数に生えていた。
手に手に
「……セイバー」
森全体から、声が響いてきた。女の声。セイバーの知らない声。
「アサシン、ですか?」
誰何の声に対する応えは目の前に来た。
地面から生えていた手の群が一斉に動く。セイバーは身を固め、剣を展開させて身構えたが、手の群は彼女を無視して、その視線の先、一層と生い茂った森の一角に集まった。
手の群が集まり、固まり、組み合わさってできたのは、無数の手を使ってできた台座。いくつもの掌が上を向いている。
そこに、黒い影が出現した。
染み出るような出現は、霊体化を解除したのだろうと判断。セイバーの視界中央に、
漆黒が形を成したような人型。体にぴったりと張り付く、ベリーダンス風の服装。スレンダーな体つきは無駄な肉がなく、しかしやせ細っている印象は全くない。
漆黒で、影を思わせるヒトガタ。その中で、白い髑髏の仮面だけが異様に目立つ。
ただし、半分だけ。黒衣の人型は、顔の右半分にだけ、髑髏の仮面をつけていた。
露わになっている左半面。黒曜石のような瞳は美しいが、全ての光を吸い込み、脱出を許さぬような有無を言わせぬ意志があった。
意志の名を、殺意といった。
「
セイバーは警戒の念もあらわに、確信を込めてそう言った。アサシンは答えない。だがセイバーの頬には額から流れ落ちた汗が垂れた。緊張の汗だ。
影に紛れ、闇からマスターを奇襲することに特化したアサシンが、鬱蒼とした森の中とはいえ日の光の下に出て、最優と謳われる
むしろ危険を感じてさえいた。暗殺者がわざわざ姿を見せるということは、それは、
「――――セイバー、ここは私の領域、私の意図の中心地。その命を、屠ります」
瞬間、アサシンが跳躍した。彼女の動きに合わせて、彼女の台座となっていた手群が一斉にばらけた。
「ッ!」
セイバーも跳躍する。いつの間にか、全ての手はそれぞれ短剣を握り締めていた。
空気を割く音が連続する。手首のスナップだけで、手群がセイバーに向かって短剣を投擲する。
セイバーの前面に剣が展開された。
剣の腹が盾となって短剣を弾く。火花が散り、短剣があらぬ方向に飛んでいく。
同時、セイバーは左手を横に払う。その動きに合わせて、彼女の身体を拘束するように這い回っていた茨の痣が移動。平面から三次元的干渉能力――立体化――を果たし、疾走。近くの木の幹に巻き付いた。
茨が木の幹に食い込む。次の瞬間、茨が伸縮を開始。セイバーの身体を幹に向かって巻き取った。
直後、無数の短剣が嵐となって、先ほどまでセイバーがいた空中の空間を通り過ぎていった。
初撃は躱した。だが安心できない。セイバーは幹に両足をつけた瞬間に再跳躍。地面に着地し、前転。その背中を短剣が空気を割く音がかすめていった。
アサシンの姿はいつの間にか見えない。
「霊体化!?」
セイバーの推測は外れだ。アサシンは自らの宝具によって、この森の木、地面、それらに潜航している。
しかしセイバーはそれを知らない。当然だ。自らの宝具の詳細を告げる英霊などいるはずもない。
大地を蹴り、走り出すセイバー。彼女の足元から爆発が起こり、腐葉土が噴水のように飛び散る。
サーヴァントの戦闘能力、その真価。人間の域を大きく超えた速度で木々をかける。
アサシンの姿は見えない。しかし彼女の腕は無数に生えていた。
それぞれが短剣を投げてくる。それを剣でいなし、弾き、防ぎながら、セイバーは周囲を見渡した。
アサシンの姿はやはり見えない。短剣が投じられた方向に向けて剣を放っても、結果は幹を貫くか葉枝を斬り落とすだけ。また、アサシンが投じた短剣もまた、セイバーを傷つけることはできない。剣の壁を突破しても、茨の痣が鎧となってセイバーを守る。
と、パターンが変わった。投擲ではなく、目の前でいきなり現れた腕が
セイバーの周囲を浮かぶ剣が反応する。セイバーの足元から生えた腕、それが振るう短剣を剣が弾き、返す刀で情報から射出された剣が腕を斬り落とす。
だが無意味だ。斬り落とされた腕の残骸はそのまま夢幻のように消えていく。
アサシンの一連の攻撃を受けて、セイバーは
間違いない。セイバーは確信を持って言える。あの謎の罠の正体こそ、このアサシンの宝具なのだ。
幸いなのは、祠堂邸に仕掛けられた罠が一つだけだったこと。セイバー召喚後、二人で屋敷の敷地内を徹底的に調べたが、同じ罠が発動することはなかった。
そして、気を付けなければならない。アサシンの宝具は素手でサーヴァントの身体に埋没し、仮初の肉体を抉ることができる。
短剣による斬撃、刺突。そして黒い手による抉り。それら全てに注意を払わなければ、敗北するのは自分だ。セイバーは戦慄とともにそう思った。
◆◆◆◆◆◆
大学構内某所、カフェテリア。
そこは学生たちの憩いの場。昼時や大抵の授業が終わった後など、暇を持て余した学生たちはここに集まり、級友たちと時間を潰したり、あるいは近く迫る試験の勉強をしたりと、思い思いの時間を過ごす。
だが授業時間の今は人もまばらだ。
そんな中、彼女は異彩を放っていた。
座る場所は道路に面した外席。
パラソル下のテーブルにつき、椅子に腰かけたまま、視線は森の方向――一般人は認識できないが、セイバーとアサシンが戦っているという異常が起こっている場所だ――に向けられている。
背筋が凍るほど、美しい女だった。
腰まで届く、ウェーブのかかった黒髪。ファーの付いた、何らかの獣のコートを身にまとい、その下には日中の大学には似つかわしくない、真紅のイブニングドレス。
薄手のドレスと前を開いたコートゆえに、彼女の放漫な胸のシルエットがはっきりと浮き出ており、くびれた腰も、突き出した尻のラインも浮き彫りになっている。
妖艶で、蠱惑的な美女。血を啜ったように赤い唇が笑みの形に吊り上がり、純度最高のルビーを思わせる双眸はひたと森に据えられていた。
人外の美貌を持つ女。だが誰も彼女に声をかけようとしない。どころか、彼女の存在に気づいた様子もない。
もしもここに、認識を操作されぬ人種、即ち魔術師がいたならば、やはり目をむいただろう。
白昼堂々、大学の構内で優雅に
その異常性、異質性。古い考えに凝り固まった典型的な魔術師ならば、その衝撃たるやいかほどのものか。
女はゆっくりと、どこから持ち込んだのか、陶器のカップを持ち上げ、唇をつけた。
中の紅茶の風味を味わいながら口に含む。舌に染み渡らせて、嚥下する。笑みがまた一つ、強くなった。
「さて、アサシンとセイバーがぶつかったか。まともに考えれば、アサシンがセイバーに敵う道理はない。が、あのアサシンは別――――」
ゆえに、勝敗は分からぬ。そう女は呟いた。
グルルルル……と、獣の唸り声がどこからともなく女の耳に届いた。
この偽典の聖杯戦争に参加するサーヴァントの一騎、
「そう慌てるな。お前を連れてきたのは
見えない何かをなだめるように、キャスターは何もいないはずの虚空を撫でた。
安心したような、獣の声。その様子を確認して、キャスターは微笑した。
「上機嫌じゃないか、キャスター」
そんな彼女にかけられる声。
カツカツカツと足音を伴って、男が一人、キャスターの対面の席に歩み寄った。
そのまま乱雑に椅子を引き、どっかと腰を下ろす。
ひどく、特徴に欠けた男だった。
年齢は二十代後半から四十代前半のどれにも見える。中肉中背。痩せ過ぎているわけでもなく、かといって太りすぎているわけでもない。目鼻立ちも、一つ一つはそれなりに整っているはずなのだが、全体を見るとその印象がぼやけ、結局後に残ったのは平凡の一言。
清潔に切り揃えられた黒髪、僅かに細まった黒い瞳、黒のシングルスーツに白のワイシャツ、黒のネクタイ、銀のネクタイピン。
全体的に清潔に保たれているが、だからこそ、小奇麗な身なり以上の印象を得ない。
平坦でのっぺりとして、平凡すぎるがゆえに、何よりも異形、異常めいて見える無貌の男。
不機嫌そうな表情を浮かべていても、なお印象に残らない。
「マスターか。こうして顔を合わせるのは久しぶりに思うぞ」
くつくつとキャスターが喉を鳴らして笑う。マスターと呼ばれた男は憮然とした表情のまま、
「キャスターは『陣地作成』のスキルを持っていたな。そこに陣取っていることこそが勝利するためのパターンのはずだ。なのになぜここにいる? 陣地から出て、戦場近くに」
キャスターのマスターは詰問口調だ。だがそもそもその口調事態に感情が乗っているかも怪しい。
「軽率だとは思わないのか?」
問い詰める形式だがやはり怒りはない。憮然とした表情も、こうしてみると薄っぺらだ。ただ、怒った顔のテクスチャを貼り付けただけのように思える。
「そうでもないぞ、マスター。妾は妾で考えている。実質、護衛もおるしな」
そう言ってキャスターは何もない空間に向かって手を差し伸べた。グルルルと獣の唸り声が聞こえてきた。
「それに、妾はキャスターのクラスで現界したが、同時に
『二重召喚』、というスキルがある。基本の三騎士、即ちセイバー、アーチャー、ランサー以外の、自分本来の召喚されたクラス以外に、もう一つクラスを持つレアスキルだ。
女はキャスターのサーヴァントとして召喚されながらも、ライダーの特性も有していた。
キャスターは嫣然と笑い、紅茶を口に含む。
じっくり嚥下してから、告げた。
「それよりマスター。セイバーめは罠に嵌りながらも、なかなか頑張っている。それに、この女のマスターもまたいじらしい。セイバーが心配なのか、わき目も降らずに死地に飛び込んでいったぞ」
◆◆◆◆◆◆
「ッ!」
セイバーの身体が跳ねる。足首を刈り取るように振るわれた刃を跳躍で回避。だがそれこそが罠。空中で身動きの取れないセイバーに対して、七つの短剣が投じられた。
セイバーが無手の左手を、近くの木に向けて伸ばした。
遠すぎる。届くはずがない。
だが届く。セイバーの左手首から、影が伸びたからだ。
それはセイバーの体を覆う茨の刻印。影絵の茨が、今は平面の世界を脱し、三次元的立体を伴って出現。木の幹に巻き付いた。
セイバーの身体が、木に向かって引き寄せられる。茨が引き寄せている。ゆえに、七つの短剣を回避。反撃に、セイバーは短剣が飛んできた方向それぞれに、七つの剣を放つ。
手応えはない。しかし残念だとは思わない。敵はアサシンだ。しかもこの得体のしれない手数による攻め。そう簡単に攻撃が当たるとは思わない。
木の幹に着地。次の瞬間、その幹から黒い左手が飛び出した。
無手の左手。だが油断などできるはずがない。安心などもっとできない。物質潜航、設置型トラップ。その恐ろしさは今絶賛味わい中だ。
セイバーは幹を蹴って再び跳躍した。弾かれたように、木の表皮が剥がれて舞う。
黒手がセイバーの左足、腿辺りを掠めた。
「ッ!」
鋭い痛みが走る。そしてセイバーははっきりと見た。アサシンの手指が確かに、セイバーの腿を触り、その内部に潜り込んだのを。
自分の身体に異物が入り込んだような不快感が、一瞬だが確かにあった。
そして、セイバー自身の移動に追随できず、指は離れた。その瞬間、腿にあった異物感と不快感は嘘の様に消え去った。
着地と同時に跳躍する。とにかく動き回らなければならない。補足されては、今度は心臓を抜き取られかねない。
あの手に物理的な防御は無意味。ゆえに剣の射出もさして意味はあるまい。
可能性があるとすれば――――
『セイバー!』
その時、セイバーの脳裏にマスター、祠堂司からの念話が届いた。
『マスター!?』
驚愕に、返信の念話が僅かに乱れる。そして戦闘の集中が切れた瞬間を狙い、アサシン本体が地面から現れ、抜き手を放った。
「あっ!」
セイバーの右手から茨が伸び、木枝を掴んだ。セイバーの身体が右手に引っ張られるように上に飛ぶ。同時、剣が置き土産とばかりにアサシンめがけて射出されたが、アサシンはその場から飛びのいて回避。着地と同時に、再び地面に沈み込んだ。
『セイバー?』
心配げな念話が届いてくる。いけない、何という失態だ。マスターを気遣わせるなど、サーヴァントにあるまじきこと。
『な、何でもありませんマスター。それと、敵の正体が判明しました。アサシンです』
地面から出現したアサシンが肉薄してくる。
右、左、上下前。変幻自在に繰り出される短剣を、セイバーは右手一本で剣を手にして対応する。
受け、払い、弾き、時に叩き落とす。
刺突を、短剣を打ち払って下に落とす。アサシンの身体が下に流れた。
金属音を響かせながら、セイバーは右手の剣を跳ね上げる。
一瞬、剣と短剣のぶつかりから火花が上がる。カウンターとして切上げられた一閃を、アサシンは地を蹴って回避。バック転のように宙返りし、セイバーの剣の軌道に沿って躱し、さらにそれがそのまま逃走経路になる。
セイバーによる追撃はない。なぜなら、彼女の肩から奇妙なものが生えていたからだ。
セイバーの左肩に深々と突き刺さったアサシンの短剣。剣も茨も反応できない、完全に意識の外から放たれた一撃。
しかも本来、サーヴァント戦では後れを取るはずのアサシンが、セイバーを白兵戦で相手取っても全く引けを取らない。宝具による奇襲性といい、厄介で、危険な敵であることは間違いなかった。
攻防は一瞬。しかし司は不振がったようだ。念話で、見えないパスで繋がった司から何があったのかと問いかけられた。
『申し訳ありません、マスター。戦闘中ですので、その――――
『――――分かった。だったら、俺も行く。森の中だろう?』
マスターからの申し出に、セイバーはびくりと震えた。
「いけませんマスター!」
つい声に出てしまい、それでは届かないと思って改めて念話で説得にかかる。
『森の中は結界が張ってあります。これは、外から一般人に異常を気付かせないだけでなく、中に入ったものを出さないものです。ここは罠の巣窟です!』
セイバーの言っていることは正しい。アサシンと、そのマスターの住処にして罠。この森はそういう場所だ。ならばここはサーヴァント単独で切り抜け、マスターは安全地帯で待機しているべきだ。
セイバーの主張は全く正しい。
だから司はこう返した。
『いや、
「マスター!?」
またしても声に出てしまった。しかし司はもう何も答えない。セイバーが何を言っても、応答はなかった。
白兵戦でセイバーと互角に戦うアサシン、そして強力な結界を張ったアサシン。このコンビは強力だ。
そんな相手に、司はどう対応するのか? 策はあるのか? セイバーの胸中を混乱が駆け巡った。
サーヴァントの混乱などつゆ知らず、司は森の入り口に立っていた。
事前に連絡してあった。セイバーは森に入る前に、自分が入った場所の地面に、小さく×印を書いていた。
司はそこを避ける。
迂回し、サーヴァント戦に遭遇しないだろう位置を見定めた。
「よし、行くか」
気負いなく、司は森へと足を踏み入れた。