偽典の聖杯戦争   作:tuki21

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第20話:二日目⑧ 司の考察-キャスター編

 七公館学園キャンパス内。

 我が子が倒されたことを、キャスターは敏感に感じ取った。

 

「おのれ……!」

 

 辛抱できなかった()()()()()()()を戦場に送りこんだ後悔は一瞬で隅に追いやられた。後悔はあとだってできる。

 だから、まず怒りを燃やす。椅子を倒す勢いで立ち上がったキャスターは、まだ森の中にいるはずのセイバー、アサシンをこの場で始末しようと動き出す。

 本来前衛型ではない魔術師の英霊(キャスター)が、三騎士の一角、セイバーを含んだサーヴァント二騎を相手に真正面から行くというのは自殺行為。

 だが今はセイバーもアサシンも、そしてそのマスターも。今までの戦いで消耗している。今ならキャスター一騎でも討ち取れる。

 怒りの中でも冷静にそこまで考えたキャスター。

 その頭部に、()()が直撃した。

 

 

春日居市某所

 

「…………」

 

 膝立ちの狙撃姿勢を保ったまま、アーチャーは己の弾丸が標的に命中したことを確認した。

 七公館大学の敷地からさらに一キロほど離れた、周囲の建物よりも頭一つ分高いビジネスビルの屋上、その給水塔の上だった。

 マスター、ウィンクルードと別行動で、アーチャーは街の様子を窺っていた。

 弓兵(アーチャー)故の高い視力をもって、彼は場所を変えながら街並みを観察していた。

 それは狩人が狩場の下見をするのにも似ていた。

 基本的に、聖杯戦争は夜行われる。だが中には、昼間のうちから()()を起こすマスターとサーヴァントもいるかもしれない。

 そんな、決して高くない確率を求めていたわけではなかったが、アーチャーの目は昼間の大学内のカフェテリアにサーヴァントの姿を確認した。

 アーチャーがまだ確認していないサーヴァントはセイバーとキャスターのみ。だがセイバーという雰囲気はないので、逆説的にキャスターだと仮定する。

 マスターらしき姿は見えなかった。アーチャーは知らぬことだが、彼がキャスターを発見する直前に、キャスターのマスターはその場から立ち去っていた。

 ほかに不審な人物の影はない。これもアーチャーは知らぬことだが、キャスターの近くの森では現在、セイバーとアサシンチーム、そして乱入した怪物(オルトロス)の死闘が繰り広げられたいた。

 前後関係は分からぬが、千載一遇のチャンスと見て、アーチャーは愛用のマスケット銃を実体化し、狙撃の体勢に入った。

 理由は不明だが標的が殺気をまき散らし始め、席を立った瞬間を狙って、引き金を引いた。

 アーチャーの宝具、魔弾の射手(デア・フライシュッツ)によって宝具の属性を付与され、魔弾となった弾丸は多少の空気抵抗やコリオリの力を無視して突き進む。

 そして、アーチャーが直前に思い描いたものと寸分たがわぬ映像を現実にした。即ち、キャスターの頭部に魔弾が命中した様を、だ。

 着弾の衝撃で標的の身体が浮き、地面を転がった。

 間髪入れずに引き金を引く。『弾丸生成』スキルで銃身の中に直接出現した弾丸が嬉々として発射される。

 続けて銃身内に生成された弾丸。引き金を引く。三発目が発射される。

 だが敵は地面に背中が付き、一回小さくバウンドした時にはもう背筋と手足のバネを使って飛び起きていた。

 魔術師の英霊(キャスター)のイメージからはかけ離れた敏捷性。立ち上がった女に第二第三の魔弾が喰らいつく。

 が、それらは防御された。「強化」の魔術でも施したのか、敵はこちらの宝具化した弾丸を両腕ではじいた。

 火花が散った。

 『千里眼』スキルを持ち、遠方を余すことなく見渡せるアーチャーの視力が捕捉した。キャスターの姿、その一部が変わっていた。

 まず両腕だが、何か鱗のようなものが生えており、五指からは鉄さえやすやすと切り裂けそうな鋭い爪が生えている。どう考えても狙撃直前までなかったものだ。

 どうやら鱗は相当な硬度のようで、あれで弾丸を弾いたと思われる。

 そして頭部、というよりも顔だ。

 最初の一発はダメージを与えていた。着弾した左頬は裂け、歯茎が剥き出しだ。さらに裂傷は左眼球近くまで広がっており、皮膚の下、筋肉に隠されている眼球が一部露出してしまっている。

 そして覗いた歯ぐきからさらに見えたのは、ずらりと並ぶ、魔獣のような牙。これも狙撃直前まではなかったものだ。

 自らの肉体を変質させた。『変化』のようなスキルか宝具を持っているということだ。

 その視線が、まっすぐアーチャーの方を見据えていた。

 見つかった。ならばここにいるのは危険になるだけだ。アーチャーは追撃の誘惑をあっさりと切り捨てて、立ち上がり、跳躍。離脱した。

 

 

 無礼にも急襲をかけてきた敵、即ちアーチャーが離脱したことを、キャスターはその目で確認していた。

 キャスターの両眼は、瞳孔が収縮し、まるで遠くを見据える鳥類のような雰囲気だった。

 が、それも少しの間だけ。キャスターは手で両目を覆い、手をどけた時には、瞳はもう元に戻っていた。

 そればかりか、魔弾によって損壊した顔も、防御のための鱗の生えた腕も、すべて元に戻っていた。

 元の、美しい女の姿。だが今変化(へんげ)したその姿こそが、彼女の本質かもしれない。

 悍ましく、恐ろしい、怪物たちの母。

 森に視線を送る。見れば、上がったの火の手は広がることはないが消えることもない。煙がどんどん天に昇っていく。

 じきに人が来るのは間違いない。最早セイバーもアサシンも、この場から離脱しているだろう。とどまる理由がないからだ。

 

「我が子の痛み……、恨み……。忘れぬぞ……」

 

 地の底から響くような声を吐き、キャスターは踵を返し、見た目だけは優雅にその場を去った。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 春日居市新地区、ビジネスホテル“山茶花”102号室。

 

「ふぅ……」

 

 ベッドに腰かけて、上半身裸の(つかさ)は一息ついた。彼は両手を掲げた。

 掲げられた両腕に、セイバーが微妙に視線をそらしながら包帯を巻いていく。

 アサシンが去った後、司とセイバーも森から立ち去り、さらに今日はほかの講義を自主休講し、目立たぬようにしながらこの場にやってきた。

 ちなみに、両腕が怪我で使い物にならない司の代わりに、バイクはセイバーが運転した。セイバーは初めてバイクに乗るといっていたが、そこはセイバークラスのサーヴァントが持つクラススキル、『騎乗』が十全に効果を発揮、危なげなく、むしろ腕を怪我した司を気遣うような安全運転で、この場所までやってこれた。

 そしてセイバーに包帯などの医療品を買いに行ってもらい、その間に司は治癒の魔術を使って簡単に傷を治療する。

 神経をやられていなかったことが幸いした。完全治癒とはいかないが、傷が塞がってきて、小さくなった。あとは今、セイバーに包帯を巻いてもらって、止血するだけだ。

 

「ああ、ありがとう、セイバー」

「い、いいえ。大したことじゃありませんから」

 

 そう言いながらもセイバーは目をそらしている。そしてそれは何も司が治療のため、上半身裸になっているからではなく、腕に巻いている包帯が原因だった。

 血が滲んでいる両腕。セイバーは司の血を見てから湧き上がってくる喉の渇きに抗っているのだ。

 吸血衝動というほど深刻ではない。だが意識せずにいるとつい、血が滲んでいるマスターの腕に視線がいってしまう。

 『無辜の怪物』スキルのせいだ。生前はなかった衝動、死後、人々の空想によって歪められた己の在り方。

 それに思うところがないわけではないが、仕方のないこともであると、セイバーは思っていた。

 火のない所に煙は立たぬ。この聖杯戦争の舞台、日本にある言葉だ。

 セイバーは、生前確かにしているのだ。血を求める怪物と、後世にそう歪められてしまうようなことを。

 そしてそれをマスターに言えないでいる。己の所業を知られて、どんな態度をとられるのか、真名を明かせない理由として口に出してはいるが、内心いつも不安だった。

 この聖杯戦争中、おそらく己は()()()()を開放するだろう。その時に真名が明らかになるかもしれない。

 そうなった時、この少年はどんな反応をするのだろうか。

 それを考えると不安だった。

 

(せっかく、こんな自分を現世に召喚してくれて、願いを叶う機会をくれた方に忌避されるのは、辛いです……)

 

「セイバー?」

 

 気持ちが深刻で暗い方向に向かっていたため、セイバーの表情も俯き加減で暗いものになる。サーヴァントの変化に気づいた司は訝し気に眉をひそめ、目の前の女性の名を呼んだ。

 一方、マスターに名を呼ばれたセイバーは慌てて顔を上げて、ぶんぶんと首を横に振った。

 

「い、いえ! なんでもありません!」

 

 なんでもあることを全身で主張しているセイバーだった。司はどういったものかとちょっと悩んだが、ちょうどそのタイミングで彼のスマホが着信を告げた。

 シスター・キャロルからだった。

 

「…………」

「…………」

 

 沈黙は二人のもの。静寂の部屋の中で、着信音だけが存在を主張していた。

 

「あの、マス……司様?」

 

 やがておずおずとセイバーが口を開いた。

 

「聖杯戦争の監督役というのは、聖杯戦争に関する情報が一般に流れないよう、隠蔽工作もなさるのですよね?」

「……そうだね」

「なら、昼間に起こったサーヴァント同士の戦闘というのは――――」

「隠蔽が大変だろうね。今日は人気(ひとけ)のない森の中だったけど、それでも」

「……シスター様は、司様が通ってらっしゃっている大学については――――」

「知ってるね」

 

 つまり今回の戦闘を、司がらみだと思い、こうして事情を聴くために連絡してきたのだろう。

 着信音は続いている。これは逃げられないなと観念して、通話ボタンを押した。ついでにセイバーにも会話が聞こえるように、スピーカーモードにした。

 

「はい」

『事情を説明していただきますか?』

 

 第一声からこれである。

 電話の相手は勿論聖杯戦争の監督役にしてサーヴァント・ランサーのマスター。そして司の同盟相手、シスター・キャロルことキャロル・スコット。

 監督役であるキャロルは勿論、事後処理のため、サーヴァント戦が行われた現場に訪れた。

 火の手が上がっているので、消火作業のために現場を封鎖、一般人を遠ざけて、現場の検証と火の手の消火を並行して行う。

 さらに何者かによる放火事件としてカヴァーストーリーをでっちあげ、情報を市民に流しつつ、現場にある戦闘の痕跡を消去。その場に複数人がいたことを、ましては人知を超えた超常存在がいたという事実を別の情報で上塗りし、隠した。

 そして、いつもと変わらずに現場の大学に通うといっていた、どう考えても今回の戦闘に関係があるマスター、つまり司に連絡したのだった。

 

「えーと、事情を言いましても……」

『貴方の大学で起こったサーヴァント戦で、しかも森の火事騒ぎの後、ひそかに姿を消した生徒がいます。貴方です。関係がないと考えるのは無理がありますね』

 

 その通り過ぎる。なので司もこれ以上抗弁することなく、正直に話すことにした。

 

「ことは単純ですよ。偶然です。俺が通ってる大学に面してる森。あそこに聖杯戦争の参加者が潜伏してみたみたいでしてね。なのでこっちのセイバーを発見した敵が、ちょっかいをかけてきた。そして俺は俺の判断で、誘いに乗った。その結果です」

 

 言いながら、詳細を説明する。

 セイバーが敵サーヴァントと接敵したこと。

 罠とわかってはいたが、虎穴に入らざれば虎子を得ずの精神で森の中に踏み込んだこと。

 アサシンと、そのマスターと戦闘したこと。その際に彼らについての情報も得たこと。

 アサシンのマスターは人間ではなく、ホムンクルスらしいこと。その魔術は髪を糸のように操る変幻自在なものであること。

 そして戦闘終盤で、二つの頭部を持つ魔獣、オルトロスの乱入を受けたこと。

 ちなみに、火事の原因を作ったのが司自身であることは黙っていた。

 

『なるほど……。偶発的な遭遇戦だったと?』

「ある意味思惑通りですよ。こっちがサーヴァントを連れていれば、誘いに乗ってくる敵がいる。それを狙って生活サイクルを変えないところもありましたから。でもまさか、その方針にしたその日に敵と遭遇するとは思ってませんでした」

『敵は、どのような?』

「見た目も雰囲気も、ストレートすぎるくらいに、アサシンでしたね。宝具のほかには短剣を使ってました。セイバーからの話と、使い魔の視覚から見ていた限り、昨日ランサーの背中抉ったのは、このアサシンの宝具みたいです」

『なるほど……。ところで、聖杯戦争にアサシンのクラスとして召喚されるのは、通常、暗殺者の語源となった集団の長、ハサン・サッバーハのうちの誰かだという話ですが』

「その通例も、今回は当たっているのかいないのか……。一応、髑髏の仮面をつけていましたが、右半分だけで、残りの半分は普通の顔が出ていましたよ。女のアサシンで、結構美人だったと思います」

『後者はいりません。割れた髑髏面の暗殺者、ですか……。確かに髑髏の仮面はハサン・サッバーハを想起させますが、半分だけというのが引っ掛かりますね』

「アサシンに関してはあとは宝具の詳細くらいでしょうか」

 

 司は使い魔の視界を介してみたセイバーのアサシンの戦いから、アサシンが繰り出した(わざ)を、言語化できるだけ説明した。地面のみならず、あらゆるものから己の身体の一部を――セイバーの補足から、全身のフェイクさえも――出現させる変幻自在の技。

 

『かなり汎用性の高い宝具のようですね。それも、相当暗殺向きで――――』

「多分、本体の魔力を割り振っていると思うので、どこまでもこの“分身”を増やせるわけじゃないと思いますけどね」

 

 

 春日居市内、春日居教会。

 通話を続けながら、シスター・キャロルは思案する。

 伝え聞く限り、アサシンの宝具はかなり厄介だ。この厄介さというのは、宝具の存在を知らない時の奇襲性もさることながら、宝具の詳細を()()()()()()()()嵌る思考の罠もある。

 アサシンの宝具を知っている場合、アサシンが存在する限り、常にその存在を意識しなければならない。

 戦闘中はもとより、聖杯戦争の期間中、ただ何気なく街を歩いているだけでも、いつどこからこちらの心臓を抉り取ってくる手の存在を意識しなければならない。

 常に意識の一部を警戒に割り振らなければならない負担は、時間がたつほどに重い枷となってこちらの思考を縛り付ける。

 

「スタッフも動員して、速やかにアサシンと、そのマスターの潜伏先を突き止めましょう」

『お願いします』

 

 アサシンについて、打てる手は即急に打つべきだ。そしてもう一つ、聞きたいことがあった。

 

「司君。一つ質問してもいいでしょうか?」

『なんですか?』

「戦いの最後に乱入してきた怪物についてです」

 

 これは明らかに第三のサーヴァントが近くにいた証拠だ。ならばそのクラスは――――

 

「間違いなく召喚系の宝具の効果でしょうが、どのサーヴァントが差し向けてきたのだと思いますか?」 

 

 質問してみたら、苦笑が返った来た。

 

『どう考えてもそれ、二択ですよね実質』

「ライダーかキャスター」

『ですね。騎兵の英霊(ライダー)ならまさに騎乗する魔獣とか幻獣、場合によっては神獣を召喚し、使役できるでしょう。同じように、何らかの召喚効果を持つ宝具を持っているなら、あとはキャスターでしょうね。ほかのクラスだと、召喚っていうのは当てはまりそうにない』

 

 その通りだ。だが敢えて問いかけてみる。相手がどれだけ冷静に、戦略的にものを見ているのか、敵の思考を追跡(トレース)できているのか知るために。

 ついさっきのことが頭をよぎる。正体不明の男を検死した時に現れた大鷲の怪物のことを。

 あれはおそらくキャスターの仕業だとキャロルトランサーは考えている。

 

『キャスターでしょうね』

 

 はたして、司はあっさりと答えた。

 

『ライダーはせっかく死亡を演出できたんですから、もしも宝具の怪物を差し向けるなら必殺を狙うでしょう。乗り物だけ差し向けて本人が出てこないなんてありえない。しかもオルトロスは倒されている。宝具を無駄に失うようなことをするはずがない』

「残りはキャスターしかいないと」

『ええ。そしてその場合、一つ嫌な推測が立ちます』

「なんでしょう?」

『怪物はまだたくさんいます』

 

 そこも同じ意見だった。キャロルはそこで手札を開示する。自分もまた、大鷲の怪物に襲われたという事実を。

 

『そんなことが……』

「こうなると、この街に入り込んだ魔術師たちや、住民が目撃したという怪物の影も、俄然信憑性が増してきましたね。キャスターの宝具で召喚された怪物だったのでしょう」

『そんな噂まであったんですね。荒唐無稽だけど、もしも本当にキャスターの宝具が召喚系なら、逆に納得です。そして逆説的に、怪物を召喚するという特性が、そのままキャスターの真名に結び付きそうですね』

 

 その言葉は見過ごせない。キャロルは冷静を装いながら問いかけた。

 

「貴方は、キャスターの真名が分かったのですか?」

『確定ではありません。でも結構高い確率だと思います。これでも、令呪が浮かび上がってから、各地の伝承、神話について調べたので。

 出没する怪物の影、こちらに襲い掛かってきたオルトロス、そしてシスター・キャロルを襲った臓物から出現した鷲。怪物たちの召喚者、ではなく、母としてなら、一体、当てはまりそうな英霊、いや、怪物を知っています』

 

 キャロルにも察しがついた。

 そうだ、オルトロスは特定の英霊とのエピソードが少ない。

 強いて上げるならヘラクレスだが、その場合、やはり本人が出てこない理由が分からないし、ヘラクレスでは自分を襲った鷲や、ほかの怪物たちとの繋がりが見えない。

 だが、怪物たちの母であり、多くの怪物を生み、その怪物たちが高い知名度を持っているあの英霊ならば、キャスターのクラスで召喚されるのも納得だ。

 怪物の出産という生前の逸話そのものが宝具となりえる。

 

『エキドナ。ギリシャ神話に出てくる、怪物たちの母。ギリシャ神話で、英雄たちと戦う怪物は、ほとんど彼女が生みの親だ。この怪物の母という側面が人類史に刻まれたなら、怪物の母という逸話自体を召喚系の宝具にして、キャスターとして召喚されたとしても不思議じゃない』

 

 その可能性は高そうだ。そしてキャスターが本当にエキドナならば、

 

「わたしたちがキャスターと戦う場合、その子供たちも相手にしなければならない、ということですね。サーヴァント二騎で足りると思いますか?」

『…………正直、分かりませんね。少なくとも対軍宝具レベルの攻撃力と、一気にキャスターに肉薄できる速度。それとやはりBランク以上の『対魔力』スキルが欲しい。キャスターが如月の爺さんが召喚したなら、『陣地作成』スキルで強化された工房も突破しなきゃいけない』

「如月家の屋敷の敷地内ですが、もはや魔術的な要塞ですね。怪物の母でも魔術師(キャスター)のクラスで召喚されたのなら、怪物を産むのとは別の宝具を合わせて、元々ある工房を要塞並みに強化できるのかもしれません」

 

 難題だ。ただ解決策はある。司が口にした。

 

『ほかのマスターとコンタクトを取って、一時的な同盟を組めませんか? キャスターという障害を取り除けるなら、協力してくれるマスターもいるかもしれない』

「…………実は、聖堂教会に残された第四次聖杯戦争の資料で、監督役からの申し出で、キャスターの討伐命令が下されたことがあります。結果、複数のサーヴァントが協力し、キャスターを討ち取ったらしいのです」

『なら――――』

「ですがその時はキャスターが多くの一般人の洗脳、誘導、殺害を繰り返し、神秘の隠匿の前提から逸脱したイレギュラーであったこと、そしてキャスター討伐の賞品に、過去の聖杯戦争で使われずに持ち込まれた余剰令呪を一画贈呈することが監督役の名のもとに約束されていました。ですが今回は――――」

『今のところ行方不明になっているのは、外から来た魔術師だけだからイレギュラーと言い切れない。そして賞品の余剰令呪もない』

「その通りです。討伐命令については、本当にキャスターが多くの怪物を召喚することができると確定したなら、何とでも難癖付けて出せるかもしれません。ですが賞品は無理です。余剰令呪がないのだから」

『厳しい状況、かもしれませんね』

「ええ。とにかく、これからも連絡は密にしましょう。それでは」

 

 キャスターの真名は判明した。アサシンの宝具の詳細もわかった。

 これ自体は有用な情報で、一歩どころか二歩も三歩も前進した。

 しかし問題も山積みだ。差し当たって、昼間の戦闘の事後処理をさっさと終わらせてしまおう。

 

「エキドナですか……。如月雷葉も、面倒なサーヴァントを召喚したものです」

 

 そう呟いて、キャロルは席を立った。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 春日居市旧地区、如月邸。

 

「キャスターは戻ったか……」

 

 その男の声からは、人となりというものが全く感じられなかった。

 そしてその外見もまた、きわめて平凡だった。

 目の位置も、鼻梁の高さも、耳の位置も、唇の厚さも。どれもが平均的だった。

 それ故に多くの人々の特徴を内包していそうな異形の男でもあった。

 彼は如月邸の書斎の中を歩く。

 手にはハードカバーの本。ページを機械のように規則正しくめくっていく。

 

「ずいぶんとご立腹だな」

 

 口にしたのと同じ内容を、念話でキャスターに送る。返ってきたのは怒りと怨嗟の声。

 怒りは自分を狙撃してきたアーチャーに対して。怨嗟は我が子を殺したセイバーとアサシンに対して。

 

「さすがは英雄。怪物の一体程度、何するものぞということか」

 

 憎悪の声が返ってきた。男は肩をすくめた。

 

「ならばもっと子供を増やせ。産めよ増やせよ地に満ちよ。そのための産道だろう? なぁ、エキドナよ?」

 

 キャスターの真名を告げて、男はピタリと止まった。

 窓の外を見る。警官が屋敷を眺めていた。聖杯戦争が始まる前から、魔術師たちがこの街にやってきている。その直後、召喚したキャスターの宝具によって生み出された怪物たちが夜の街を徘徊し、上質な魔力を持つ魔術師たちを新たな子を産むために攫っていた。

 だから今、この街は物騒だ。巡回だろう。

 屋敷を眺めている警官から目をそらし、男は書斎を出ていった。




現在公開可能なサーヴァントのステータス
キャスター
真名:エキドナ
マスター:如月雷葉
身長:194cm、体重60kg、属性:中立・悪
筋力? 耐久? 敏捷? 魔力? 幸運? 宝具?
クラススキル
???
固有スキル
神性:E-:本来は神霊そのものだが、魔物としてのランクが上がったため、ここまで退化してしまっている。
悠久の血脈:A++:どこまでも残る血統の証。たとえ本人は死しても、多産による一族の延命によって、どの時代どの場所においても自分の出身地および血族たちを含めた知名度補正を得られる。
動物会話:A:動物たちの言葉の意味が解るが動物側の頭が良くなるわけではないのであまり複雑なニュアンスは伝わらない。Aランクならば全ての動物、幻想種の言葉が分かる。
???
宝具
母の愛は尽きることなし(グレート・マザー):A++:対人宝具:レンジ1~100:最大補足100人
他者の魔力や体液を取り込み体内で醸成させることで、新たな怪物を産む。産み落とした子供の能力は“夫”側の能力によって決まる。子供たちは全員がエキドナが消滅するか、自身が致命傷を受けるまで現界し続ける。
???
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