偽典の聖杯戦争   作:tuki21

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第21話:二日目⑨ 夜が来る

 二日目、春日居市(かすがいし)旧地区、如月(きさらぎ)邸前。

 

「…………」

 

 見回りの警官は無言でその屋敷を見上げていた。

 派手さはないが、しっかりとした造りの洋風屋敷。

 広い土地を塀で囲み、土地の中心部に屋敷を構え、さらにその屋敷を囲むように、塀と屋敷の間に広がるのは庭。

 否、木々が並び、小さいながらも丘を配し、池を広げるその様は、小さな森だ。

 静かながらも住宅のある区画に、大きく構える屋敷は古くからの存在感を伺わせる。

 それでいながら塀を構え、森を構える様はある種の異界を思わせる。

 正面門前で、警官は乗っていた自転車を降りて、ここだけは妙に庶民的なインターホンを押す。

 いっそ違和感さえ覚えさせる電子音が鳴り、しばらく無言が返っていた。

 

『……何か?』

 

 かすれた男の声。聞いた話によると、この家には主人の如月雷葉(らいは)が一人で住んでいるという。六十を超える高齢とのことなので、かすれた声でもおかしくない。

 

「はい。このところ物騒なので、夜分の戸締りと、不急不要の外出を控えるようにと。近所にふれて回っているのです」

『……分かりました。気を付けます』

 

 ガシャンという音がした。インターフォンが切られたようだ。要件は伝え終えたので、もう一度インターフォンを押す必要はない。

 警官は帽子の鍔元を触って位置を調整、自転車に跨る。

 発車。そのまま塀に沿って自転車を走らせる。一周して、今度は正面門を通り過ぎ、()()()()()()()()()()()()()()

 

「いやはや、参ったね。あれは。何だいあの家は。要塞並みの魔術的防御が固められてるじゃないか」

 

 一般の警官では絶対に口にしないことだった。そのまま警官は口の中だけで呟くような、小さな、余人には聞き取れない声で呟き続ける。

 

「あれは相当堅固だ。まず間違いなくキャスターのクラスが陣取ってるよねぇ。てことはそのマスターも籠城してるわけだ。うーん、これ、複数のサーヴァントが一度にかかっても、正面からだときつくない? ――――僕の宝具以外だと」

 

 春日居駅に到着後、自転車を停車。自転車から降りた後、周囲を確認する。

 自分に聞き耳を立てている気配、見張っている気配、異常な気配がないことを確認し――――

 

「おっと」

 

 何かを思い出したよう指を鳴らし、監視カメラの位置も確認。どれも問題ないと確信してから、自転車をそのままにして歩き出す。

 歩きながら懐からスマホを取り出して発信。しばらく待つと、相手が出た。

 

『なんだ()()()()

 

 電話の向こうからドイツ語が聞こえてきた。警官、否、聖杯戦争に召喚されたサーヴァントの一騎、騎兵の英霊(ライダー)は苦笑する。

 

「いやいや、大した要件じゃないよ。言ったでしょ? ちょっと探索して来るって。で、如月家に行ってきた」

『ほう、どうだった?』

 

 日本語での質問に、ライダーは「いやー、やばいやばい」と笑う。

 

「如月邸は魔術的防御をガッチガチに固めてるね。ちょっと覗いてきた祠堂(しどう)邸の比じゃあない。間違いなくキャスターを召喚してるよ」

 

 言いながら、ライダーは角を曲がる。人通りの少ない、昼間でも薄暗い裏路地に入る。

 と、その姿が()()()()()()。警官から、白いワイシャツに第三ボタンまで外した学ラン姿の学生の姿に。

 にへらと緩んだ笑みを口元に浮かべているが、肩にかけた鞄と合わせて、学校から電車に乗って帰る学生そのままだ。つまり、この場でフラフラしていても何ら怪しまれることはない。

 

「要塞みたいに固められてるから、正面からの力押しは得策じゃないね。ま、僕の宝具を使えば大丈夫だろうけど、その場合間違いなく真名が露呈するし、できればぎりぎりまで僕という存在は隠しておきたいね」

『そりゃあ、そうだ。じゃ、戻って来い。いくらオメェさんの『変装』スキルがサーヴァントの気配さえ隠そうが、『直感』スキルを持ったサーヴァントがいたら違和感を持たれるんだろう?』

「そうだね。宝具についてはタイミングを考えておいてよ。使うときは絶対に派手になるから」

『おうよ。その時は弟子も使って、神秘の秘匿に気を使うぜ』

 

 英語の返答にライダーは「頼もしいね」と微笑する。

 

「それじゃあ戻るよ、マスター。お土産でもいる?」

『今のが土産話だよ。物がいいなら水気のある食いもんと、酒買ってきてくれ』

 

 フランス語で話されたリクエストに苦笑を浮かべて、「了解」と告げる。

 そしてライダーのマスター、アルフレット・ウォーラーは通話を終えた。

 ライダーはそのまま悠々と歩きだした。駅前広場まで戻った時、バッグを手渡されながら相手に謝っている青年を見て首をひねった。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 春日居市新地区、春日居駅前広場。

 祠堂(つかさ)と彼のサーヴァント、セイバーは今日はもう部屋を取ったビジネスホテルで一泊する方針を決めていた。

 屋敷の場所はほかの参加者にもバレているだろうし、あの屋敷は今防御の面ではひどいものだ。万全の状態でもアサシンの潜入を許してしまうし、ランサーが襲撃してきて防御機構も軒並み使用不能、あるいはサーヴァントには効果がないと証明されてしまった。

 特にアサシンがまだ生きているのが痛い。彼女の宝具、そして固有スキルの『気配遮断』を知っていながら祠堂の屋敷で暢気に寝ていられるほど、司は豪胆ではないし、その場合は一晩中セイバーに警戒を強いることになる。

 すでに昼間一戦している以上、無意味は負担をかけたくはない。

 ただそれとは別にもう一う問題があった。

 

「まさか荷物を回収することができなかったなんてね……」

 

 仕方がないといえば仕方がない。敵の存在が明らかになったのは急にだったし、戦場に礼装以外の余計な荷物は邪魔になるので持っていきたくなかった。

 結果、荷物は大学の講義を受けていた教室の隅の席に置きっぱなしにしてしまったのだ。

 しかも間の抜けたことに置きっぱなしの荷物について気付いたのは、ビジネスホテルについた後。ある程度怪我の治療が終わり、スマホの電源を入れた時。

 メールでメッセージが届いていたので見てみたら、中園(なかぞの)さんからだった。

 内容は荷物忘れと、今の所在を確認するもの。司はどうしようと思ったが、無視するわけにもいかず、連絡を入れ、春日居駅前で彼女と合流、荷物を返してもらうことになった。

 

(あの、(わたくし)は姿を見せなくてよろしいのですか?)

 

 傍らで、霊体化したセイバーが問いかけてくる。司の返答は苦笑。呟くような声で返す。

 

「いいんだ。一人で行くからって言ってあるし」

(ほかのマスターに気づかれたら……)

「その時はセイバーにお願いするよ。まぁ、まだ夜にもなってない時間帯で、結界も張らずに襲ってくるマスターはいないと思うけどね」

 

 そんなことを話していると、司のバッグを持って知ってる影がやってきた。

 栗色のショートカットの髪と、灰色がかった瞳。活発そうな雰囲気を出す少女。中園さんだった。

 彼女は不機嫌そうな表情を浮かべて、自分のバッグとは別に、司のバッグも肩に担いでいた、

 

「やぁ、中園さん」

「やぁ、じゃないわよ」

 

 彼女の不機嫌さの原因は、どうやら余分な荷物を運ぶことになったことだけではなさそうだ。

 

「えーと、何かあった? 大槻(おおつき)君が何かバカやったとか……」

「友達が授業中にどこかに消えたわね。連絡もつかなくて心配してたら能天気な電話がかかってきたの。そしてそいつは今、目の前でひきつった笑みを浮かべているわね」

 

 自分が原因だった。司は追い詰められていくのを感じた。額に汗が浮く。

 

「そう、か……。ごめん」

「なんでまたいきなり消えたの?」

「あー」

 

 何といえばいいのか、司は答えに窮した。

 不意に、司の脳裏の、冷静な魔術師の思考が、暗示をかけろと囁きかける。

 確かにそれが一番波風が立たないだろう。少なくとも、今この場では。

 だが司の中の、一般人よりの感性が囁く。やめろと。

 言葉を尽くせ。いいわけでも何でも、使ってもいい。だが暗示を使って彼女の意識を歪めることはするな。これからも、彼女や、いつもの皆と友人でいたいなら。司は後者の声に従った。

 

「ちょっと、親戚筋の方で面倒ごとが起こったみたいで。ちょっとそっちに顔を出さなきゃならなくなったもんだから。でももう大丈夫。用事は終わったよ」

 

 祠堂家は春日居の土地に根付いてから長い。西園さんの家よりも歴史があるし、旧家として煩わしい親戚付き合いもあるのだと、周囲の者は勝手に納得している。

 実際、当主と長男が家を空けているのも、その関係だと近所には説明されていた。次男の司は学業があるので実家に残っている、とも。

 

「あぁ、そういえば祠堂君のお父さんもお兄さんも、それで出かけているんだっけ?」

「そう。二週間くらい帰らない。代わりにセイバーをホームステイでこっちによこしたんだよ」

 

 嘘は言っていない。冬木での例を鑑みて、聖杯戦争の期間は最長でも二週間ほどだと予測されている。真実を告げていないだけで、嘘で塗り固めたわけではない。

 

「ふーん……」

 

 半目で司の顔を見ていた中園さんは、周囲を見回した。

 

「どうしたの?」

「……セイバーさんは、いないの?」

 

 実は後ろにいます、とはいえず、司はいないと答えた。嘘をついたことのちょっとした罪悪感がシミのように浮かんできた。

 

「あの人って何者なのかな?」

 

 ドキリとした。まさか一般人の中園さんが、サーヴァントの存在を知覚したり、認識してはいないだろうが、彼女はいつも勘が鋭いところがあるので油断できない。

 

「何者って……、言ったろ? 父さんの知り合いで――――」

「ううん。そういう立ち位置的なことを言っているんじゃなくて」

 

 自分の中の考えを、うまく言葉にできないようで、中園さんはちょっと言いよどむ。うーんと唸った後、結局ありきたりな表現が口から出てきた。

 

「なんか、凄い気品があるっていうか……。あたしたちとはちょっと違い生い立ちっていうか……。貴族とか、王族みたい」

(!)

 

 中園さんの言葉を聞いて反応したのは、霊体化したセイバーだった。

 彼女は霊体化したままだったが、確かに息を飲んだ。

 声らしい声は出なかったが、もしも今の彼女の姿を見る者がいれば、それは驚きに目を見開き、口元に手を当てたセイバーの姿が見えただろう。

 そして、セイバーを背後に置いていた司はそんな彼女の様子に気づかなかった。

 

「あー、言われてみればそうかもね。でもごめん、セイバーについては実はよく知らないんだ。父さんから一方的に言われたことだから」

「そう、なんだ……」

 

 目を伏せ、中園さんは口の中だけで「実際前にすると決意って薄れるなー」と呟き、さっぱりした笑顔を見せた。

 

「まっ。とにかく鞄は渡したから。また明日、学校で!」

「うん。中園さんも、気を付けて。本当に最近は物騒だから」

「あはっ。それ昨日も言ったね」

「繰り返し言うもんだよ、注意事項っていうのは。何なら送っていこうか? バイクで来たし。二人乗りになっちゃうけど」

「うぇ!? あー、いいっていいって。それに警官も見回ってるみたいだし。さっきもこの辺で見たから。二人乗りなんてしたら大変」

「それもそう、だね。じゃあ、気を付けて」

「ええ。それじゃあまた明日」

 

 そう言って、中園さんは去っていった。あのままバスで家まで帰るのだろう。

 とにかく用事は終わった。だがまだ夜まで少し時間がある。(バイク)もある。なら、少し気になっていたところに足を運んでみよう。

 

「セイバー、少し行きたいところがあるんだけど、いいかな?」

(……ええ、司様。構いません)

 

 セイバーの了承は得た。ならその場に向かおう。司はバイクに跨って移動を開始した。

 

 

 春日居市旧地区、如月邸。

 司たちが移動したのは、如月邸の前。正面門前で、二人は足を止めていた。

 司はバイクから降り、手で押した状態で塀を回って門扉まで。その隣を実体化したセイバーが歩く。

 

「ここが……此度の聖杯戦争のマスターの屋敷、ですか?」

「シスター・キャロルが言うにはね。でもこれは確定だなぁ」

 

 司の、魔術師としての目で見れば、如月邸の防備は異常の一言に尽きた。

 確かに工房なら大抵侵入者に対するセキュリティがある。当然だ。今はもうあまり意味をなさなくなってしまったが、祠堂の家にもそれはあった。

 熱を使った蜃気楼、炎の灯篭、虎の子のゴーレム。魔術的な警報装置、結界。工房を、ひいてはその中にある己の研究成果、神秘を漏えいさせず、盗まれないための手段。

 だがこれは常軌を逸している。祠堂家や、ほかの魔術師の工房に比べて、重ねられた結界、防護は桁違いだ。

 ざっと見ただけでも、侵入を拒む結界、入ったものを外に出さない結界が十重二十重と張り巡らされている。侵入者を惑わせるその様は外からは何の異変もないが、一歩敷地内に足を踏み入れればたちまち異界と化すだろう。

 魔術的な要塞。その名がふさわしい。

 

「シスター・キャロルが言うにはさ、如月の現当主、雷葉の爺さんが召喚したサーヴァントは、キャスターらしい。それも納得のガチガチの守り具合だ。セイバー、『対魔力』スキルを持つ君ならどうだろう? 強引に突破できるかな?」

 

 司はとなりで難しい顔をしているセイバーに水を向けた。セイバーはやはり険しい表情を崩さず、

 

「申し訳ございません。難しいと思います」

 

 セイバーは申し訳なさそうに目を伏せて、首を横に振った。その仕草が本当に済まなそうなので、司は軽い気持ちで話を振ったことにちょっと罪悪感を抱いた。

 

「私の『対魔力』スキルのランクはBランクですので、ほとんどの魔術は弾くことができます。ですが、魔術的効果によって生み出された物理現象は防げませんし、もしもキャスターなら、Bランク程度の『対魔力』を撃ち抜く魔術も行使できるかもしれません。それに――――」

「昼間こっちに襲ってきた怪物、ああいうのがまだいると思う?」

 

 セイバーの言葉の続きを拾い上げる司。セイバーは黙って頷いた。

 

「重ねて申し訳ありません、マスター。複数の怪物に加えて、罠などを考えると、私一人で正面から切り込み、中枢にいるであろうキャスターとマスターを打倒すことは困難を極めるかと……」

「そっか。まぁでも謝ることはないよ。キャスターの陣地内ってのはそれだけ厄介で危険なんだから……」

 

 すまなそうなセイバーに、司は苦笑する。

 とはいえこれは実際厄介な問題だ。

 魔術的な罠だけならば、セイバーを含め、『対魔力』スキルを持つ三騎士やライダーのサーヴァントなら強引に突破できるかもしれない。

 だが怪物たちも相手にしなければならないなら話は別だ。

 一体一体ならば、セイバーでも打倒できるだろう。

 だが必ず()()()()。連戦で消耗すれば、仮にキャスターの許にまでたどり着けても、戦えるかは分からない。そうなればただ嬲り殺されるだけだ。

 勝算がないなら戦わない。なにも聖杯戦争は全てのサーヴァントを相手にしなければならないわけじゃない。バトルロイヤルなのだから、先にほかのチームがキャスターを倒してくれることを祈ることもできる。

 それに、現在司とキャロルがしているように、ほかのマスターと同盟を組むことだってできる。

 キャスターがあまりにも危険ならそうするべきだ。利が互いにあるなら、できる。

 

「まぁいいや、そろそろ日が暮れる。帰ろうか」

 

 そう言って、司は屋敷に背を向けた。無防備な背中に何か仕掛けてくるかもと思ったが、如月邸からは何のアクションもなかった。敵は、こちらが屋敷の敷地内に侵入しない限り、手を出してこないのだろうか?

 うすら寒いものを感じながら、司とセイバーはその場を後にした。

 

 

 バイクのエンジン音が遠ざかっていく。二人乗りで去っていく背中を、彼はじっと見ていた。

 一見するとただの高校生に見える。ただ、緩んだ口元や、それに反して鋭い視線は高校生という印象を裏切っている。

 勿論普通の高校生ではない。彼、変装したライダーは、駅前で見かけた青年、司を監視していたのだ。

 彼の傍らにサーヴァントの気配を感じたからで、バイクでの移動もサーヴァントの脚力なら苦も無く補足できる。

 そしてセイバーが実体化し、マスターである確証を得た。

 今なら襲撃できるだろうか? ライダーの『変装』スキルはサーヴァントとしての気配も隠すが、攻撃すればさすがに通用しなくなる。初撃を外せばライダーが生きていることが敵にばれる。

 そこまで考えて、ライダーは結局二人を追うことをやめた。この街には一人、厄介な狙撃手がいる。アーチャーたちが目を光らせている時に下手に派手なことはできない。何しろ、自分はそれで一回痛い目にあっているのだから。

 

「まぁ、それで結果的に存在感をなくせてるんだから、重畳だよね」

 

 言って、ライダーは踵を返した。

 時期によるが来る。焦らなくとも、聖杯戦争は続けられる。

 二日目、今度はどこで、誰が殺し合うのか。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 春日居市新地区、ウィンクルードのセーフハウス。

 ウィンクルードが春日居入りする前に、事前に購入していた空き家のうちの一つ。赤い屋根と白い壁色をした民家の中には、三人の人影がいた。

 一人は所有者のウィンクルード、一人は彼のサーヴァント、アーチャー。最後の一人は先ほどこの家を訪れた、ウィンクルードの協力者にして大統領(プレジデント)の子飼いの一人、エクソダス。

 ウィンクルードは入ってきたエクソダスに対して手を振り、

 

「よう客人。何か飲むかい?」

「不要」

「そう言うなよ。オレたちはもうコーヒーを頂いてるんだ。それに、これから作戦会議と報告会だろ? 飲み物でも飲んで、喉を潤そうぜ?」

「結構。わたしにはすでにこれがある」

 

 そう言ってエクソダスが懐から取り出したのは、近くのコンビニで買ってきたと思われる飲料水。「失礼」と一言告げて、棚の中に入っていたカップに中身を注ぐ。

 

「さて、情報を共有することがあるかな?」

「こっちはアーチャーが新しいサーヴァントを見つけたらしいぜ」

 

 ほう、とエクソダスの眉がかすかに上がった。アーチャーは椅子に座らず、壁に背をもたらせた状態でカップの中身――湯気を立てたコーヒー――を飲み干し、

 

「キャスターだ。腰まで届く、ウェーブのかかった黒髪、何らかの獣のコートを羽織って、下にはイブニングドレス。このまま夜会にでも出るつもりかといいたくなる、馬鹿げた格好だ。ただ、明らかに人外、それも魔性の気配を放っていた。もっと近ければ、匂いもわかったかもな」

「ふむ……。キャスターについて分かったことは?」

「ある。唇を呼んだ。そして気配を感じた。キャスターは何らかの召喚系のスキルか宝具を持っている。傍らの気配――こちらはもっと獣臭かった――に語り掛けていた。そして、隙ができたので一発撃ってみたが、防がれた」

「防いだ?」

 

 今まで黙ってアーチャーの話を聞いてたエクソダスが、ここで口を挟んだ。

 アーチャーは特に表情は変えずに頷いて、

「まず一発、頭部に撃ち込んだ。当たったし、倒れたがそこで終わらず、奴はキャスターらしからぬ敏捷性ですぐさま起き上がった。そして二発、三発と撃ったが、こちらは弾かれた。魔術的な標的ではない、体を怪物の一部に変化させ、その硬度でこちらの魔弾を弾いた。しかも一発目もおそらく、歯か何かで止めたのだろう。ダメージはあったが、大したことはない」

「敏捷性の高いキャスターか、魔術の攻撃じゃなくて、召喚とか、『変化』スキルで戦うタイプかもな……。で、エクソダスさんは何かわかったかい?」

「こちらはバーサーカーのマスターの正体が分かった」

 

 エクソダスの返答に、ウィンクルードは小さく口笛を吹いた。

 

「いいえ、それ。敵マスターの正体が分かったってのは」

「名前はアーノルド。我らの機関の一員だった男だ」

「だった、ね……。抜けたのかい?」

 

 エクソダスは無言で首肯する。

 

「元々合衆国(ステイツ)で始める予定だった聖杯戦争に参加したがっていた。故に、その計画が凍結された事で機関を抜け、この地にやってたようだ」

「どんな魔術を使う?」

「その情報を得る意味はない。機関から情報を得てきた。アーノルドは死亡している。昨日の戦闘後、心臓を抉り取られた状態で発見された」

「何? つまりバーサーカーは……」

「今頃、消滅しているだろう」

 

 エクソダスは重々しく頷いた。実際はアーノルドが残した魔力結晶を貪り食うことで、バーサーカーはいまだ生きながらえているが、神ならぬ彼らにそんなことを知ることはできなかった。

 

「ちなみに個人的好奇心なんだが……、バーサーカーの真名は?」

「不明だ。アーノルドは機関を抜ける際、()()()()()()から何らかの触媒を渡されたらしいので、それを使って召喚したのだろう。現在保管中の触媒から、遺失したものを洗い出している」

「それよかその渡したってやつに聞けばいいじゃねぇか」

「それは無理だ」

 

 エクソダスの顔に苦いものが帯びた。

 

「なぜ?」

 

 ウィンクルードの当然の問いかけにも、しばらく沈黙した。そこからウィンクルードは、エクソダスの忸怩たる思いを感じ取った。

 

「触媒を渡した相手、フランチェスカは我々にとって不可侵(アンタッチャブル)だ。機関設立当初からいる正体不明の魔術師。奴とまともな会話が成立する人間は、機関の中でも少ない」

「……そんなやばい奴がいるのか」

「一度だけ、席を同じにする機会があったが、胃の底に鉛を突っ込まれたような不快感が最後まで消えなかった。()()()()()()()()()()()()()()()()()。生理的嫌悪にも似た感情を抑えるのに必死だった。そしてフランチェスカは、そんなわたしの内面を見抜いたうえで、こちらを嘲弄(ちょうろう)するような言動を繰り返した」

「そんなやばい奴か」

 

 大きく息を吐くエクソダス。その姿に、ウィンクルードはこの男の殻が僅かに罅割れたのを見た。

 ただそのことに追求することはせず、

 

「まぁ、いいか。バーサーカーはマスターが死んだ以上、もう消滅してるだろうし」

 

 それより考える。バーサーカーが消えたのなら、誰から討伐するか。

 ほぼ確実のマスターの如月家当主か、祠堂家の人間か、それとも他の誰かか……。

 じきに夜が来る。ウィンクルードは今夜の行動計画を脳内で立て始めた。




現在公開可能なサーヴァントのステータス
クラス:ライダー
真名:???
マスター:アルフレット・ウォーラー
性別:男  身長:191cm  体重:80kg 属性:秩序・善
筋力B 耐久C 敏捷A+ 魔力B 幸運EX 宝具A++
クラススキル
対魔力:A:A以下の魔術は全てキャンセル。事実上現代の魔術師では傷つけられない。一画ならば令呪の強制さえ食い止める。
騎乗:A:獣であるならば幻獣・神獣まで乗りこなせる。ただし竜種は該当しない。
固有スキル
変装:EX:自分の外見を別物に変える変装術。EXならば正体を明かすまでサーヴァントの気配も消失し、高いランクの「直感」スキルやそれに類するスキルを持たない限り、わずかな違和感も抱かない。
???
宝具
???
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