偽典の聖杯戦争   作:tuki21

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第25話:二日目⑬ ランサーVSアーチャー

 春日居市新地区、春日居大橋アーチ上。

 アーチャーは膝たちの狙撃姿勢を維持したまま、街並みを見下ろしていた。

 その目に映るのは、槍持つサーヴァントの姿。

 ランサーだ。

 彼はセイバーが戦場に乱入した直後に離脱した。

 バーサーカーの相手を任せ、この自分を潰しに来たのだと、すぐにわかった。

 人目につくことを避けるためか、家の屋根を低く跳躍しながら疾走。弾道からこちらの位置を予測したのだろう。足に迷いがない。

 引き金を引く。高所の風に紛れて発砲。弾丸が夜を切り裂いて飛ぶ。

 狙いはランサーの眉間。だがいかなる手段か、ランサーは自身に迫る弾丸を知覚しているようだ。槍の柄を僅かに当てて、下に落とす。

 火花が散るが、それだけだ。おそらくは宝具だろうランサーの槍には傷どころか汚れ一つつかない。

 彼我の距離が縮まる。近づけさせまいと、アーチャーは引き金を引く。

 発砲。直後に、銃身内に直接『弾丸生成』スキルで魔弾が生成される。

 発砲。一繋ぎの二連射は銃声を一つとしか感じさせない。

 足元狙いの狙撃は短い跳躍で回避された。

 だが屋根を穿ち、屋根に埋まった弾丸に、二発目が衝突。跳弾となってランサーに向かって跳ね返る。

 通用しない。一度喰らった技を二度も喰らうものかと、無造作に見える気軽さで振るわれた槍の柄が跳ね返った弾丸を打ち下ろす。

 ランサーの速度は緩まない。どんどん彼我の距離が縮まっていく。

 立て続けに引き金を引く。狙いはランサーの頭、肩、胸、腹、膝。頭を逸らして躱され、胸と腹は旋回する槍に阻まれ、膝は足さばきで回避された。

 速度は多少鈍ったがすぐに元に戻る。

 跳躍後、近くのビルの陰にランサーの姿が消えた。

 だがアーチャーの目は通常の視覚のほかに、『悪魔の義眼』によってランサーの心臓の位置を赤い光点としてマーキングしている。こうして相対している限り、アーチャーがランサーの位置を見失うことはない。

 ビルの影から姿を現すタイミングを見計らって発砲。やはり躱される。

 ランサーの感知能力は頭抜けている。戦闘中に狙撃するならともかく、こうして一対一の状況になると、アーチャーの狙撃だけでは仕留められない。

 厄介な獲物だ。アーチャーはつくづくそう思った。

 

「――――――――――――」

 

 アーチャーの奥の奥、底の底で、獣とも、機械の軋みともつかない唸り声が響いた。

 分かっている。アーチャーが召喚されると同時に、彼に与えられた七発の真なる魔弾。それらが自分を解き放てと急かしているのだ。

 己の宝具で銃弾カテゴリーを魔弾に変える宝具ではなく、もとより持っている、()()()()()()()()()()()()からもたらされた魔弾。

 アーチャーは召喚された時に、魔弾を使うことを宿命づけられている。

 七発の魔弾のうち、ここで一つを使えとアーチャーの中に潜む悪魔的な機構が声を上げる。

 分かっている。己の宝具だが、悪魔から授かった魔弾は制御が効かない。いよいよとなればここで切る。

 屋根上を疾走していたランサーが大きく跳躍した。

 空中に向けての狙撃はしなかった。無駄だと分かった。市街地であること、己が狩人であることから、()()()での威力はそこまでではない。

 獲物をしとめるのに大掛かりな武具は必要ない。ただ一発の銃弾があればいいと考えていたが、サーヴァント相手ではそんな考えは捨てたほうがよさそうだ。

 ランサーの目が、はっきりとアーチャーを捉えた。

 ランサーの高度が下がっていく。着地と同時に再び疾走。場所は屋根上ではなく、春日居大橋に続く大通り。

 火事の影響もあり車の数こそ減っているが、少しはいるというのに大胆なことだ。

 逆走してくる鎧姿の男という、新しい都市伝説のような光景に驚いたドライバーがハンドル操作を誤り、甲高いブレーキ音とタイヤの擦過音が響き渡ったが、アーチャーの心にはさざ波一つ立たない。

 引き金を引く。狙いはランサーではなく、彼の前方方向に走る車。

 タイヤを撃ち抜き、車の運転を操作不能にさせる。

 不規則に揺れる乗用車のタイヤをさらに打ち抜き軌道を修正。道路わきに乗り上げるはずだった車の先をランサーがいる位置に誘導する。

 ランサーの速度が緩み、足を使って地面に踏ん張ると、左手を突き出した。

 拳の形を作っておらず、掌が車に接触するや否や、その運動エネルギーを受け止め、迷走しかけた車を止める。

 そこが狙い。エアバッグが作動して目を回している運転手のことは一顧だにせず、アーチャーは再び引き金を引いた。

 アーチャーの発砲を察知したのだろう、ランサーは血相を変えて俊足で自動車のそばを回り、槍を振るう。

 火花が散り、アーチャーが放った弾丸が地面を穿つ。アーチャーが車のエンジン部を狙って発砲したことを、ランサーは察知。運転手を守るために槍で受けたのだ。

 それでいい。敵の動きが止まった。

 アーチャーは引き金を引き続ける。勿論車のエンジン部に向けてだ。

 ランサーは完全に足を止めて防御の姿勢に。魔弾を受け止め続ける。

 その、ランサーが足を止める時間が欲しかった。

 アーチャーの全身が駆動する。()()()()()()()()()()()

 

「宝具装填。完了」

 

 ()()()。宝具が装填されたことが、全身で感じられた。

 引き金に指を駆けた状態で、止まる。

 一瞬の間。銃撃が途絶えたことを知覚したランサーが、槍の柄頭を自動車のバンパー下に引っ掛け、軽く振り上げる。

 大して力を入れているとは思えない動作だったが、自動車は張りぼてのように軽々と浮き上がった。

 運転手は相変わらず気絶しているので騒ぎはない。ガンと音を立てて、離れた道路真ん中に車が着地。衝撃で窓ガラスが割れた。

 そこも予想できたことだった。ランサーの性格は善性だ。ならばこちらが連射を止めれば、その隙に巻き込まれたドライバーを逃がそうとするだろう。

 それでいい。その隙が欲しかった。一瞬でもこちらから、ほんのわずか意識を逸らしてくれる瞬間が。

 

「穿て。我が魔弾は遍く総てを逃がしはしない(ブレット・オブ・ザミエル)

 

 引き金を引く。音はなかった。ただ、銃口から自分の魂、否、存在の一部が飛び出したような、冷たくて言いようのない喪失感があった。

 

 

 ()()の飛来を、ランサーは感知しえなかった。

 ただ、敵であるアーチャーから漏れてくる殺気のみに反応した。

 飛来してくるものが敵の宝具、即ち銃弾だとは分かった。

 だが、速い。風や気流の影響を一切受けず、まっすぐにこちらを狙ってくる様は優秀な猟犬を思わせる。

 回避が間に合うか? 頭に浮かんだ小さな疑念を振り辛い、ランサーは全身のバネをフルに使った。

 膝を僅かに曲げて、横に跳躍。ドライバーを逃がせてよかったと思いながら、弾丸の軌道を見て取る。

 夜闇をさらに吸い込み、硬め、凝縮したような黒の弾丸。

 だが弾丸である以上、一度放たれれば軌道の修正はできないはずだ。

 あれがただの銃弾ではなく、宝具の属性を吹かされた魔弾だといううことは分かるが、今まで見る限り、その効能は誰でも――それこそマスターでも――サーヴァントのダメージを与えられるようになったことと、風やコリオリ力の影響を受けず、軌道がぶれにくいことだけだ。

 そこまで考えて、ランサーは即座に疾走を開始。狙いはアーチャー。最早足は止めぬと急ぐ。

 

 

 ランサーの判断は、手持ちの材料から下されたものである以上、彼を責めるのは酷と言えた。

 ズン、と何かが突き刺さったような感触が、腰の右後ろ側から来た。

 

「か……!」

 

 衝撃に、肺の中の空気が一気に押し出された。ランサーは疾走できず、たまらずその場に膝を付いた。

 疾走の勢いを殺しきれず、白い槍兵の身体がアスファルトの上を滑った。

 ランサーは気付かなかったが。まっすぐ飛んでくるはずの銃弾が、まさしく獲物に飛び掛かる猟犬のように急激に軌道を変化させ、ランサーの喰らいついたのだった。

 

「なに、が……」

 

 攻撃を受けたのは分かる。起き上がろうにも腰から下の感覚がない。

 苦労して視線を向けると、腰から下はちゃんと繋がっていた。

 何が起こったのだろうか? 周囲に破壊の様子はない。今までの狙撃と同じく、あくまで自分だけを狙い、討ち果たす最小の威力で最大の戦果を挙げる狩人の攻撃そのもの。

 着弾地点に視線を向ける。目を見張った。

 腰のあたりからランサーの身体にひび割れが走っている。罅は加速度的に広がっていき、その度に激痛がランサーの身体を襲い、体の稼働を難しいものにさせていた。

 それでも感覚は鈍っていない。それがランサーにとっては不幸だった。

 自分を狙う死の視線。狙撃手の銃口がこちらを向いていることを、はっきりと知覚した。

 

 

 仕留めた、とアーチャーは思った。

 自分の宝具、『我が魔弾は遍く総てを逃がしはしない(ブレット・オブ・ザミエル)』は相手に当たれば必ずしも急所を貫く必要はない。

 被弾個所から対象の肉体――サーヴァントの場合は霊基――に罅が入る。罅は加速度的に広がり、やがて霊核や心臓を破壊する。

 逃れられない死がやってくるのだ。

 だが油断はできない。自身の状態を解呪(キャンセル)する宝具を、相手が持っていないとも限らない。

 ダメージは与えた。敵は動けない。

 アーチャーは無言で銃口をランサーに向けた。

 照準完了。引き金に指を駆ける。

 後はほんの少し力を加えるだけで、銃口から弾丸が嬉々として吐き出され、ランサーの頭部をスイカの様に砕くだろう。

 引き金を引く。だがその瞬間とほぼ同時に、ありえざる光景がアーチャーの眼前にあった。

 先ほどまで地に伏せ、動くことさえままならなかったランサーの姿が消えていたのだ。

 

「――――――」

 

 何が起こったのか。考えられるのはサーヴァントの危機を何らかの方法で察知したマスターが、令呪を使って空間転移を行い、サーヴァントを避難させたか。

 だとすればここに敵はいない。セイバーがバーサーカーともども向かったと思われる場所に向かうか。

 そう考えた刹那、アーチャーは風の流れの変化を感じた。

 なんだこれは? 頭で考えるよりも早く、狩人としての直感故か、体が反応した。

 足場を蹴りつけ、アーチから躊躇なく跳躍する。

 遅かった。激痛が腹部から来た。

 

「ぐ……ッ!」

 

 口内に血の味が広がる。無視して視線を送る。

 へそのあたりにを中心に、深々と刺さっているのは長い棒のように見える。

 白い色をした棒。いや違う。槍だ。この穢れ無き色の槍には見覚えがあった。

 ランサーの槍。

 

「なん、だと……?」

 

 槍からそれが向かってきた先に視線を向けると、そこにいたのは必死の形相で柄を短めに持ったランサーの姿。

 左の脇腹から腿にかけて硝子のように砕け散り、逆袈裟に切り裂かれたように左わき腹から右肩に掛けても罅が広がり、それは心臓がある左胸に届こうとしている。

 そんな半死人の有様で、それでもランサーはアーチャーの喉元に食らいついた。

 そしてアーチャーは、ランサーの身体に走っている罅がこれ以上広がっていないことも気づいた。己の魔弾を受けたならば、罅は止まらないはずだ。

 何らかの宝具を使われたと思われる。だが今はそこの考察をしている場合ではない。

 アーチャーとランサー、二騎の身体がアーチから完全に離れ、重力に捕まった。

 あとは落ちていくだけだ。ランサーはさらに槍を押し込んでくる。アーチャーの口端から大量の血が零れる。

 アーチャーは自らの得物であるマスケット銃を捨てた。

 両腕が後ろ越しに回る。

 十全な状態からすれば呆れるほど遅い速度――とアーチャーは思っているがそれでも神速だ――で取り出したのは二丁の自動式拳銃。

 グロック17と名付けられた、現代に生きる人々が作り上げた大量生産品の銃。

 アーチャーが生きていた時代にはまだ存在しなかった銃器。しかしアーチャーのスキル、『銃身の調べ』によってその構造は完璧に把握でき、使い方も勿論達人のように熟知している。

 アーチャーが、二つの銃口をランサーに落ち着けた。

 ランサーは即座に槍から手を離し、アーチャーの両手首を掴み取った。

 やはり接近戦はランサーに分がある。アーチャーは手首を握り潰さんばかりの激痛に耐えながら引き金を引いた。

 発砲。火花が両者の間で散り、魔弾と化した銃弾が交錯する。

 

「――――――ッ!」

 

 いくつかが命中。だが心臓ではない。ランサーが咄嗟に両手を外側に振るったため、狙いがそれた。

 弾丸はランサーの右わき腹に撃ち込まれ、左の頬を擦過し、右胸に食らいついた。

 しかし心臓には届かない。グロック17の名前通り、十七発×二の弾丸はしかしランサーの腕力に抗しきれずに両腕を開かれたため、あらぬ方向に飛んでいった。

 ランサーの膝が槍の柄を打つ。傷口で槍が暴れる。激痛がアーチャーの身体の内外で跳ねまわる。

 アーチャーの頭突き。ランサーはのけぞったが手を離さない。アーチャーも頭突きをやめない。

 頭突き、頭突き、頭突き、頭突き。

 それは英霊同士の戦いと言うにはあまりに泥臭いものだったが、互いの命を削った殺意と必死さがあった。

 だが二騎の身体は宙に在り、重力に捕まっている以上どんどん落ちていく。

 着水。盛大な水柱が上がり、水面を騒がせた。

 水面が静かになる。それでも、上がってくるものは誰もいなかった。




クラス:アーチャー
真名:マックス
マスター:ウィンクルード・アーマス
性別:男 身長186cm、体重83kg、属性:中立・中庸
筋力C 耐久C 敏捷B 魔力B+ 幸運C 宝具A
クラススキル
対魔力:C:第二節以下の詠唱による魔術を無効化。大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
単独行動:A:現界の維持、戦闘、宝具の使用まで一切をマスターのバックアップなしにこなせる。ただし宝具の使用など膨大な魔力を必要とする場合はマスターのバックアップが必要。
固有スキル
気配遮断:A:サーヴァントとしての気配を絶つ。完全に気配を絶てば発見することは不可能に近い。ただし行動を起こすとこのランクは大きく落ちる。
???
悪魔の義眼:A:対象の心臓の位置を、赤い光点として認識すると同時に、対象に向けて発射する魔弾の弾道を未来予測的に感知することが可能。
 相手が姿を消そうが変えようが、問答無用でマークするため、アーチャーに対してあらゆる物理的、魔術的隠蔽は効果がなく、この目から逃れるならば、アーチャー自身の認識をだますしかない。
千里眼:C+:視力の良さ。遠方の標的の捕捉、動体視力の向上。ランクが高くなると、透視、未来視さえ可能になる。『悪魔の義眼』によって視力の瞬間的な向上が可能。
銃神の調べ:A:同ランクの『射撃』スキルを獲得し、サーヴァントとして召喚された時代に存在するあらゆる銃器のカテゴリーに属するものを自在に操ることのできるスキル。
弾丸作成:D:弾丸精製能力。物体としての材料があれば瞬時に作成可能。また、己の魔力を削るだけでも即座に作成可能。ただし、一度に生成できる数はあまり多くはない。いずれの場合も、作成された弾丸は『魔弾の射手』の効果で魔弾と化している。
宝具
魔弾の射手(デア・フライシュッツ):A:対人宝具:レンジ-:最大補足-
アーチャーが手にした飛び道具のカテゴリーに属するものを魔弾化し、宝具の属性を追加する。これは永続的に効果が継続し、アーチャーの手を離れるどころかアーチャーが消滅した後も対象物は宝具であり続ける。対象物の種類や実際に飛来した時の威力、アーチャーの飛び道具としての認識によってによって「魔弾」の宝具ランクは変化する。

我が魔弾は遍く総てを逃がしはしない(ブレット・オブ・ザミエル):B+:対人宝具:レンジ2~55:最大補足1人
狩りの悪魔によって与えられた真なる魔弾。一度銃より放たれた弾丸は決して失速せず停止しない。また、アーチャーが思い描いたとおりの軌跡を描いて飛来する。対象に着弾した魔弾は着弾位置から対象の身体に罅を広げ、対象の急所に罅が届いた瞬間、対象を抹殺する。この宝具は躱す以外に道はなく、防ぐならば高ランクの防御宝具か、状態を回帰させる回復宝具を使うなど、方法はかなり限られる。弾丸は全部で七発あるが、七発目は必ず自分、またはマスターに命中する。

???
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