偽典の聖杯戦争   作:tuki21

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第34話:三日目⑥ 如月邸にてⅡ

 春日居市旧地区、如月邸。

 静かだ、とアサシンは思った。

 如月邸を囲む森の中、ネメアーの獅子を撃破したアサシンはすぐさま地面を潜航しながらその場を後にした。

 地響きと土煙は、他の怪物を呼び寄せるだろう。所詮自分はアサシン。シャイターンの心臓を移植したおかげで、白兵戦でもある程度は戦えるが、本質は暗殺者だ。怪物相手に正面から戦うのは分が悪すぎる。

 それに、こうして怪物たちが一か所に集まってくれれば、その分は他の場所が手薄になる。

 

「――――――――――――」

 

 音もなく、しかし決して遅くなく、()()()と地面から現れるアサシン。

 眼前には如月邸。すでに森は抜け、あとは屋敷の内部に入るだけだ。

 敵地に侵入し、誰にも気づかれることなく奥深く進み、標的の心臓を握り潰す。

 キャスターは危険なサーヴァントだ。アサシンはアサシンらしく、静かに殺すだけだ。

 アサシンの姿が消える。アサシンは霊体化と気配遮断の合わせ技で、魔術的な防御機構を欺き、時には宝具を駆使することで、屋敷の攻略に乗り出した。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 男はゆっくりと、安楽椅子に腰かけていた。

 ゆっくりと、ゆっくりと、椅子が前後に揺れる。

 ゆっくりと、ゆっくりと。

 男は微動だにしなかった。後ろから見れば眠っているようにしか見えないだろう。

 如月邸の書斎。そこで男は安楽椅子に腰かけたまま、ゆっくりと揺られていた。

 瞼は閉じられ、微動だにしない。

 薄暗い室内に、木々の隙間からほんのわずかに届いた木漏れ日が一筋、まるで薄闇を引き裂くように光が差している。

 静かな、とても静かな室内。光が通ったことで、埃が舞っているのがよく見える。

 男は動かない。今己の外界で起こっていることなど、全て些末事であるかのように、ゆっくりと、ゆっくりと、安楽椅子に座って揺られていた。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 アサシンの肌に感じられるのは、屋敷内のひんやりとした空気。

 冬に近づいている暦だからだろう、暖房器具の無い室内は冷たく、とても無機質だ。

 人の気配がしない。そのことにアサシンは眉をひそめた。

 この場所に、マスターとキャスターのサーヴァントがいるはずだ。怪物の存在からもそれは間違いない。

 だというのにこの静けさは何だ? 少なくとも、キャスターはあの獅子の怪物は倒されたことには気づているはず……。

 言葉にできない不気味さを感じながら、アサシンは慎重にその場から音もなく跳躍した。

 浮遊するような軽やかな跳躍のまま手足を伸ばして、壁と天井の角地に体を固定される。周囲を窺うも巡回の動きや監視の目はない。

 

「――――――」

 

 アサシンの身体がするりと天井に埋没する。

 屋敷の森に張り巡らされた結界や、外壁にかけられた術式。それらに対して、屋敷の内部には魔術的な防御は薄い。あまりガチガチに固めてしまえば自陣のサーヴァントにとっても足かせになるし、拠点としてアナグマを決め込むことにも支障をきたしそうなので、屋敷の内部に至る前に敵を迎撃する方針で、内部の防御は固めていないのかもしれない。

 そんなことを考えながら、アサシンは再び廊下に音もなく着地する。探索する以上、常に壁や床の中に潜んでいるわけにもいかない。

 やはり気配はない。胸の中で膨れ上がる嫌な予感を務めて無視して、目の前の扉に手をかけた。

 開けない。そのまま潜航し、すり抜ける。

 やはり、事前に探った通り誰もいない。

 中は寝室のようだった。

 床に敷かれたのは高級そうな絨毯で、歩いても足音はしない。

 カーテンの閉められた窓、埃の浮いた机。そして使われた形跡の無いベッド。

 空き部屋だろうか? そう思ったが、部屋の内部を見渡したアサシンの目に留まったのは、一冊の手帳だった。

 罠の可能性はなさそうなので、手に取って開いてみると、如月雷葉の名前があった。

 アサシンの記憶を刺激する名前だった。かつてマスターから聞いた、この街の管理者(セカンドオーナー)、如月家の現当主の名前だ。

 どうやら簡易の日記帳のようだった。

 書かれていることに魔術に関することは少ない。おそらく、日常的に書き留めておくものだったのだろう。

 ターゲットの人間性を知る必要はないとアサシンは考える。手帳を閉じようとも思ったが、ターゲット当人が見つからない現状、何でもいいから情報が欲しい。アサシンは周囲への警戒を怠らずにページをめくった。

 内容は自らの家系に関すること。

 魔術的な記述はごく少数で、家族を中心にした日記。そこには凡庸だが魔術の師として、また父親として、夫として、妻や息子を愛している男の姿があった。

 だが現実は苦い。唐突に悲劇は訪れる。

 まず妻が死んだ。第一子が生まれてすぐのことだった。末期の癌。よその家から嫁いできた妻には、魔術刻印もなく、気付いた時にはもう手遅れで、延命することしかできなかった。

 科学の手に身を委ねることを嫌った妻は治療を拒否し、死んだ。痛みは魔術で緩和していたため、眠るような死に顔だったという。

 次に息子が死んだ。事故だったらしい。魔術刻印の移植を始める前の段階だったので、治療の甲斐なく死亡。

 日記には魔術師として後継を失った嘆きと、父として息子を失った絶望が克明に描かれていた。

 年遅く得た子供だったので、そのショックは大きかろう。

 異国、異教の、それも魔術師とはいえ、子を失って悲嘆にくれる様は同じか。その悲しみには理解を示す一方、やはりこの男の魔術師としての顔は日記からでは伺えないようなので、日記を閉じ、文机の上に置いた。

 この場にマスターもサーヴァントもいない。だとすれば工房か?

 アサシンは静かにその身を床に沈めた。マスターも気にかかるが、ここは敵地。迅速に、そして静かに事を成す。

 

 

 その部屋は他と同じくやはり薄暗かった。

 周囲の森が陽光を遮り、それでいて電灯をはじめとした光源を灯していないため、一見しただけではそこがどんな部屋なのか分からない。

 屋敷の一階、間取りで言うならおそらくは角部屋だ。見まわしてみても工房という感じはしない。

 が、人影があった。

 

「――――――」

 

 こちらに背を向け、前後に揺れる安楽椅子に座った男。

 初老らしく、黒い髪には白いものが所々混じっている。

 男物の着流しらしき着物の上にカーディガンを羽織ったちぐはぐな格好。背もたれに体を預け、完全に脱力した状態で椅子の動きに合わせて前後に揺れていた。

 男は椅子の動きに身を任せ、微動だにしない。

 決して感知を疎かにはしなかった。それは間違いない。

 だが現実に、アサシンはその男の存在に気づくことが遅れた。

 アサシンの行動は迅速だった。

 男はまだ振り向いていない。つまりこちらに気づいていないと判断し、床を蹴った。

 音もなく疾駆し、男との距離を急激に零に近づける。

 右腕を一閃。遅滞なく放たれた一撃が椅子の背もたれと男の背を貫通し、内部に侵入。心臓を鷲掴みにした。

 右手のみに宝具を用いた、傷も破壊もない静かな一撃。男の身体が生理反応のようにびくりと震えた。

 後は右手に掴んだ心臓を握り締めるなり、引き抜くなりすればいい。

 だがそこで、アサシンの動きが止まった。

 アサシンの右手に捕まれた男の心臓。普段は必ず伝わってくる心臓の鼓動が、今はない。

 

「――――――この、男は」

「ああ、すでに死んでいる。魔術を使って腐敗とミイラ化を防ぎ、保存しているだけだ」

 

 背後からの声。振り返る愚を犯さず、アサシンは即座に床を蹴った。

 一瞬後に背後から繰り出された牙の群が男と安楽椅子に食らいつき、柔らかいものと硬いものを一度に噛み砕くあまり耳にしたくない音が響き、血と骨、椅子の破片が床にぶちまけられる。

 空中で素早く身を反転させたアサシンは、そのまま天井を蹴って彼女から見た前方に跳躍した。

 上下さかさまの視界で見たのは、一組の男女、ウェーブのかかった黒髪に、血を固めて宝石にしたような赤い瞳の妖艶な空気纏う女と、彼女に庇われるように一歩後ろにいる顔の造形も背格好も一切の特徴のない、映画のエキストラのような男。

 男は気配が希薄で、女にはサーヴァントの気配。この女こそがキャスターだと確信したアサシンは、女に向かって短剣(ダーク)を投擲した。

 数は四。頭部、首、胸、腹を狙った一撃はしかし見えない何かに阻まれた。

 ガキンガキンと金属同士を打ち鳴らしたような音が響き、見えたのはトカゲのような頭部と鋭く硬い牙。

 竜種だと理解するが、多くの首を持つ竜の、胴体部がない。

 これが昨夜セイバーとバーサーカーの戦いに乱入した、エキドナの子供の一体、ラードーンであることをアサシンは知らない。

 だが目の前の怪物が容易ならざる相手であることは理解した。

 

「さっきの男は如月雷葉。この如月家の当主だったそうだ。まぁ、どうでもいいがな」

 

 無数の牙――正確にはそれを操る首長の竜種――から逃れるアサシンの耳に、男の平淡声が届く。外見からの予想通り、記憶にに凝らないような特徴を欠いた声だった。

 だが、如月雷葉はすでに死んでいるというなら、この男は何者だ? 仮にも管理者を殺し、その屋敷に住まう。黒幕なのは間違いないだろうが、得体が知れなさ過ぎた。

 と同時に、戦闘の場とは思えぬ、世間話でもするかのような声音と内容に、アサシンは己が相手にされていない屈辱を強く感じた。

 それにおかしい。この場所は書斎。決して広くない角部屋で、本来ならば自分はすぐさま追い詰められてもおかしくない。

 なのに今もまだ縦横無尽に迫る竜種の牙を回避できている。

 空間が拡張されているのだ。魔術によるものかは分からないが、そうとしか思えない。

 アサシンの視線はキャスターではなく、その後ろの男に向かう。

 サーヴァントに庇われている以上、あれがキャスターのマスターなのは間違いない。マスターが姿を現したのは、暗殺者である自分を相手にする以上、別行動をとるよりも一緒にいた方が守りやすいと思ったためか。

 その防衛意識を利用しない手はない。己の宝具ならば、たとえすぐ近くでサーヴァントが守っていようとも、己の宝具ならば裏をかいてマスターを暗殺できる。

 

「――――――殺す」

 

 アサシンは地を蹴ってキャスターに肉薄した。

 軽やかな跳躍でありながら、その速度は弾丸もかくやという代物で、迎撃するラードーンの首が迂回して上下左右のみならず、前方後方から襲ってきた。

 アサシンはキャスターに向けて疾走しながら、両手を翼のように広げた。その動作によって短剣が投じられた。

 

「甘い」

 

 弾丸を凌駕する速度で放たれたナイフの群に対して、キャスターは嫣然と微笑んだ。

 新たな怪物を召喚し、盾にするか。そう思った瞬間、キャスターの両腕が霞んだ。

 一体何事か、アサシンは理解できなかった。ただ、先端が視認困難になるほどの速度でキャスターの両腕が振るわれ、アサシンが投じた短剣は悉く金属音を響かせて弾かれた。

 そしてアサシンは見た。キャスターの両腕、肘から先が、竜種を思わせる鱗、即ち竜鱗のようなものでびっしりと覆われていたのを。

 さらにアサシンは気付かなかったが、キャスターの両眼は猛禽類を思わせる瞳孔に変化していた。

 高ランクの『変化』スキルを思わせる形態変化。さらにキャスターは向かってくるアサシンに向かって赤黒い光弾を放った。

 一工程(シングルアクション)だろうが込められた魔力が莫大ならばサーヴァントにも脅威となる。ましてアサシンは『対魔力』スキルを保有していない。

 身を翻し、ひねり、時には速度を落としてでも身を沈めて回避する。

 が、その回避行動こそがキャスターが誘ったものだった。

 

「捕まえた」

 

 微笑み交じりでキャスターが言った。次の瞬間、背後から迫っていたラードーンの(アギト)がついにアサシンを捕えた。

 

「―――――――――」

 

 暗殺者らしく、衝撃を受け、傷を負っても彼女は無言だった。

 怪物の牙が次々に暗殺者の身体に食い込んでいく。

 首、腹、足、肩、腕、頭部、次々に噛みつかれ、血が噴き出し、書斎の絨毯を汚した。

 ラードーンがアサシンに噛みついた首を別々の方向に広げると、食いつかれたパーツごとにアサシンの身体が引き裂けた。

 さらに大量の血が飛び散って部屋を汚す。

 

「アサシンの最後か。これで枕を高くして眠れるな」

 

 マスターの男はそう呟いた。その体が弛緩し、緊張を解いたことがキャスターには分かった。

 が、次の瞬間、マスターの後ろの床から黒いものが隆起した。

 それが先程バラバラにされたはずのアサシンであったことに、男が気付いたかは分からない。

 アサシンの宝具、仮想体廊(サバーニーヤ)の真骨頂。自分の全身を分身として作成し、それを囮に、自身は床に潜航。キャスターのマスターがアサシンを倒したと安堵した瞬間を狙う。

 一番警戒心の薄れるタイミングからの完璧な奇襲。キャスター自身はマスターの身体が邪魔でフォローに入れない。

 ()った。アサシンはそう確信した。距離が想定よりも近かったがこの位置ならば短剣(ダーク)の投擲よりも抜き手による一撃を見舞った方が早い。

 必殺の距離、タイミング。まっすぐ放たれた右の手刀はキャスターのマスターの心臓を背中側から狙っていた。その狙いは正確で、人間の肉体程度、サーヴァントの膂力をもってすれば貫くことは簡単だった。

 次の瞬間、アサシンの、今まさに手刀を繰り出した右腕に()()()()()()激痛が走った。

 

「――――――!? ぐ、あ――――――」

 

 何が起こったのか、一瞬アサシンは理解できなかった。

 今にもキャスターのマスターの心臓を貫こうとしていた右腕は肘のあたりで断ち切られ、しかも傷口が燃えていた。

 一体何が起こったのか分からなかったアサシンに、衝撃から立ち上がる前にさらなる衝撃が襲った。

 横合いからの衝撃にアサシンの身体が吹っ飛ばされた。

 床に叩きつけられ一回バウンドした後、再度叩きつけられてゴロゴロと転がり、壁に激突した。空間を歪めていると思われるこの書斎内だが、それでも果てはあったらしい。

 見ればそこには、全身から炎を噴き出す黒銀の鎧を身に纏った騎士の姿があった。

 バーサーカー。なぜキャスターと一緒にいるのか、アサシンには分からなかった。

 ただ分かったことは、アサシンの右手を斬り落とし、傷口を燃やし、そして今、蹴りでも入れてアサシンを吹き飛ばし、キャスターのマスターを守ったのはバーサーカーだということだ。

 キャスターのマスターがこちらを向いた。直前、確かに暗殺者に命を狙われていたというのに、その表情に揺らぎは一切なく、汗の一筋もたらしていない。人間というよりも、この上なく人間に近い人形を相手にしているようだ。

 キャスターが嫣然と微笑んだ。

 

「残念だが、外の森までならばともかく、この屋敷の中に入った時点で、貴様は妾の腹の中のようなもの。その奇妙な宝具で壁や床に潜伏し、『気配遮断』スキルを併用しようとも、床や壁に触れている以上、妾にとっては蟲が肌の上を移動するように、貴様がどこにいるのか文字通り手に取るようにわかるわけだ、そして、妾の夫や子供、マスターも妾の腹の中なら出し入れ自由ぞ」

 

 つまり自分の奇襲はこの屋敷に侵入した時点で失敗していた。怪物もバーサーカーも、それどころかキャスターとそのマスターもキャスターの宝具化スキルによって、瞬間的にこの場に現れたのだろう。

 空間転移とはにわかには信じられないが、ここがキャスターの陣地内ならば『陣地作成』スキルと合わせて可能かもしれない。

 アサシンは自らの失策を認め、受け入れた。

 そのうえで焦燥感が彼女を貫く。

 ここで殺されることは仕方がない。だが、令呪を通じて今、ニヒト(マスター)が今、危機に瀕していることが伝わってきた。

 

(―――――マスター? どうしましたマスター!?)

 

 念話を送ってみるがノイズのようなものが響き、唐突に途切れた。

 

(――――――マスター!? 令呪を使ってください、マスター!)

「ああ、必死に念話を送っておるようだが、無駄だ。この屋敷にいる限り、そのような手段でマスターとの会話は妾が許さん」

 

 こちらの念話に介入し、通話を阻害しているのだ。

 

「命を脅かされたが、やはり恐怖を感じないな」

 

 キャスターのマスターが口を開いた。その瞳はやはり無機質だ。特徴のない顔つきといい、ますますマネキンのような印象を抱かせる。

 

「まぁいい、アサシンを落とせるのは重畳だ」

「妾としてはこの者とも子供を成したいが、まぁ、よかろう」

 

 人間の手は瞳に戻っていたキャスターが指を鳴らすと、バーサーカーもアサシンの方を向いた。さらに首と口だけの竜種、ラードーンもまた、こちらに対して牙を剥けた。

 

「やれ」

 

 キャスターの合図を皮切りに、怪物とバーサーカーが同時にアサシンに襲い掛かった。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 春日居市旧地区、町はずれの廃工場。

 アサシンのマスター、ニヒトが一時の休息の場として潜伏し、今は二日目に負った傷を癒すために静養している廃工場。そこを中心とし、乳白色の霧が広がっていた。

 霧は一般人の目を塞ぎ、足を止め、家に引きこらせた。

 いわば結界だ。不要な人間たちに、ここは危険だと知らしめ、自主的に退去させる。何しろ視界の悪い霧だ。まともな判断ならこの場には立ち入らないし、霧とは別に人払いの結界も張らせていた。

 その霧の中に今、いくつもの人影が見えた。

 影は全員スーツ姿で統一されており、全員が黒髪に黒ネクタイ、そして黒のサングラス姿だった。

 そんな、()()()という言葉がしっくりくる人の群れの中で、異彩を放つ二人がいた。

 男と女。

 男の方の外見は四十代か五十代。短めの灰色の髪と落ち着いた緑の瞳。アルマーニの三つ揃いのスーツ、シルクのマフラー、中折帽姿。

 女の方は男より若く、二十代。背中まで伸びた金髪、フレームレス眼鏡。赤い瞳に白いシャツに薄青色のスラックス姿。秋空の下では少々寒々しい、真冬の空の下で鍛えられた氷の短剣の風情。

 ライダーのマスターであるアルフレットと、その第一弟子のアイリーンだった。

 つまりこの場所は今、アルフレットと彼の弟子たちによって包囲されている有様だった。

 

「ここか、糞ったれなアサシンのマスターがいる廃工場ってのは」

 

 日本語でアルフレットは吐き捨てた。

 

「はい。()()()()()()()()()()。銀髪の、端正な顔立ちのホムンクルス。これがアサシンのマスターとみて間違いないでしょう。アサシンの姿は見えません」

「いねぇ可能性は高い。それはオメェもわかってんだろ?」

 

 フランス語でアルフレットはそう言って、アイリーンも頷いた。「まぁいい」と英語で言って、アルフレットは中折れ帽の鍔に指をかけた。

 そしてもう一度に英語で言った。

 

「ここにアサシンのマスターがいる以上、放っておく手はねぇってわけだ。アイリーン、そのまま()と同調し続けろ。周りの監視と感知は任せる。後の奴はついて来い。これからアサシンのマスターを狩る」

 

 冷徹に言い捨てて、アルフレットが一歩を踏み出した。

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