偽典の聖杯戦争   作:tuki21

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第48話:四日目⑦ 霧晴れたのち

 早朝から春日居市(かすがいし)を覆っていた霧は、発生と同じく、急速かつ唐突に消えていった。

 まるで潮が退くように、或いは、霧自体が蜃気楼であったかのように。何の前触れもなく、まるで意志ある物のごとく退いて行った。

 ()()()()()()()()()霧の中を歩くことを嫌い、建物の中に籠っていた人々も、窓の外の景色が明瞭になっていくにつれ、安堵の息を吐いた。

 そして、一般人とは違う種類の安堵の息を吐いた者たちもいた。

 無論、聖杯戦争の参加者たちと、参加枠から漏れたものの、何とか自分を聖杯戦争にねじ込めないものかと、春日居市に潜伏し、虎視眈々と機会を狙っている外野の魔術師たちだった。

 彼らは、気付いていた。この霧が自然のものではなく、魔術による結界だということを。

 そしてその中で繰り広げられたサーヴァントたちの戦いに。

 街一つを覆いつくす霧の結界。それだけで実力の違いは理解できたし、やはりサーヴァントは規格外だ。

 だからだろうか、何人かの魔術師はサーヴァントと、マスターの魔術師に対する実力差を痛感し、聖杯戦争に介入することを諦めて街を出ようとする者もいた。

 だが、そう言った逃げ出した魔術師たちは、結果的に春日居市を脱出することは叶わなかった。

 

 

 壮年の男が一人、周囲を気にしながら走っていた。

 霧が退いてまだ間もなく、人通りはほとんどない。

 だから今は監視の目だって緩んでいるはず。男はそう信じてひた走る。

 男は魔術師で、この偽りの聖杯戦争に参加しようと、意気揚々と現地入りした。

 だが男の身体に令呪は現れず、さりとて聖杯戦争参加の望みを捨てきれなかった。

 なので、何とかして既存のマスターから令呪を奪い、今この街で暴れまわっているサーヴァントと契約し、聖杯戦争に参加しようと画策していた。

 だが甘かった。間違いだった。

 怪物染みていたのはサーヴァントだけではなかった。

 そのサーヴァントを率いているマスターもまた、規格外だった。

 街一つ覆うこの霧が、それを確信させた。

 だから逃げた。出し抜くなんてとんでもない。あんな化け物たちがいる戦場に、自分なんかが介入できるわけがなかったのだ。

 所詮、ほとんどが静観を決め込んでいる時計塔への意地で現地入りしたようなものだ。意地で死んでたまる物か。

 そう思い、男は街の境界線上まで急いだ。

 急いで、急いで――――――

 

 

 そして唐突に、抗いがたい力に囚われた。

 

 

「ッ!?」

 

 なのが起こったのか分からなかった。突然地に足がつかなくなり、浮遊感と、何かに捕まれているという閉塞感が身を襲い、そして、恐ろしい力でどこかに引きずり込まれた。

 ここまでが魔術師が知覚できた全て。ここから先の彼に希望はない。ただ怪物の巣穴に連れ込まれた哀れな犠牲者だ。

 そして、こういった犠牲者は今後も増えるだろう。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()モノは、こうして魔術師を拉致し、()()に連れ帰り、()()へと堕とすのだ。

 新たな怪物を生み出すために。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 霧の中、ランサーとそのマスターを名乗る女はセイバーとそのマスターと交戦。途中、アーチャーの狙撃による乱入があり、ランサーは対戦相手をセイバーからアーチャーにシフト。アーチャーと接敵、好戦するも、アーチャーには逃げられた。

 そしてその際、建築途中のビルが一棟崩壊。現場は立ち入り禁止となり、午後から警察の現場検証が入るという。

 さらにランサーのマスターとセイバーのマスターが接敵。霧が満ちる春日居駅内部にて交戦。戦闘の途中でセイバーとランサーが互いのマスターに合流。それを機に互いに退く形になり、勝負はつかなかった。

 幸い、駅内部の破壊はせいぜい床や柱の一部が傷ついただけで、駅のシステム面に大きな損傷はなし。なので損傷個所を立ち入り禁止にしたうえで一般人から隠す覆いを使用。一両日中には外面だけでも補修を行い、一般人の目には修復されたと認識させる必要がある。

 それらが、部下たちから上がってきた報告だった。

 

「まさか早朝から白昼堂々と……」

 

 明らかに疲れを滲ませて、彼女は愚痴るように呟いた。

 時はセイバー達が霧の中での死闘を終えた頃、場所は春日居教会の一室。

 尼僧用の聖職衣(カソック)姿、首から下がった銀色のロザリオ、赤みがかった、少しウェーブのかかった茶色の髪、同じ色の瞳。

 この偽りの聖杯戦争の監督役にして、ランサーのマスター、シスター・キャロルだった。

 キャロルは頭痛を感じながら状況をまとめる。

 早朝から起こったサーヴァント戦、崩壊した工事現場、破壊された駅内部。

 駅の破壊こそ小規模だが工事現場は多少強引でも即刻カバーストーリーをでっちあげなければならない。

 霧はマスターが張った人よけを兼ねた目隠しの結界、その中でサーヴァントを戦わせることで、聖杯戦争は夜に行われるものという、敵マスターの精神的弛緩部分を狙ったものか。考えているようで大胆な。

 不幸中の幸いなのが、霧を発生させた相手も魔術師の不文律は守っていたことか。

 神秘の隠匿。それは果たされ、一般人の目撃者はいないだろうこと。記憶処理などはする必要がなさそうだ。

 そして霧の中、戦ったのがセイバー組であること。これはまずい。下手をすれば、セイバー組はこちらが裏切った、あるいは自分が殺されて、ランサーのマスター権を奪われたと思うだろう。

 だとすれば同盟は解消、セイバーという戦力を失ったこちらは、この偽りの聖杯戦争の真相に迫ることが難しくなる。

 即刻祠堂司(しどうつかさ)にコンタクトを取り、説明しつつ何が起こったのか聞き出す必要がある。

 キャロルはスマホを手に取り、司の番号にアクセスした。

 

『……もしもし?』

 

 電話はすぐに繋がった。ただし、電話口の向こうにいるだろう司の声音には警戒心がありありと浮かんでいた。

 キャロルはスマホをスピーカーモードに変えて、

 

「今朝のことについて、こちらから言いたいことがありまして」

『…………』

 

 帰ってきたのは沈黙。やはりこちらを警戒しているのか。だが真実を語るしかない。

 若干前のめりになって口を開きか開けたキャロルを押し留める様に、司が先んじて声を放った。

 

『とりあえず、シスター・キャロルが殺されて、ランサーのマスター権を奪われたわけじゃないんですね?』

 

 先にそれを指摘、いや、心配してくれるのか。

 魔術師の家系の次男坊ということを差し引いても、好感が持てることを言ってくれる。

 そして、キャロルが自分が司の誤解を解こうと前のめりになっていることを自覚し、一端深呼吸。

 

「はい。そして断っておきますが、わたしはあなた方との同盟を破棄したつもりもありません」

『俺達を襲ってきたのは、ランサーのサーヴァントでしたが?』

「こちらとしては真実を語って釈明とするしかありませんね。今朝から、ランサーは片時もわたしのそばを離れていません」

『それを信じろと?』

 

 まぁ無理だろう。何しろ実際にランサーの姿をしたサーヴァントに襲われているのだ。何の物証もなしに自分たちは無実だといっても信じはしないだろう。自分だって同じ立場ならそうだ。

 

「ですが、こちらは誠実に真実を話し、信じてもらうしかありません」

 

 これはランサーが言葉を挟んだ。ランサーも、己のマスターがあらぬ疑いをかけられることは望まない。

 

「それに、我々があなた方を裏切る理由がありません。こちらから同盟を持ち掛けておきながら、理由もなく一方的に破棄することはない」

 

 ランサーの言うことは正論だが、やはり司の視点から考えるとこちらを信じる理由にはならない。裏切りの理由などいくらでも出せるだろう。

 

『…………なら一つ聞きたいのですが、俺達を襲ってきたランサーは何だと思いますか?』

 

 司の声音からはやはり疑念が伝わってくる。それでも一方的に切らないのは司とキャロルの付き合いが決して短くない故の情か、彼が想像を超えて理性的なのか。

 両方ありそうですね、というのはキャロルの感想だった。

 

「これは推測というよりも、消去法ですが、構いませんか?」

『勿論。シスター・キャロル、貴方たちの見解を聞きたい』

 

 キャロルは一瞬ランサーに目を向けた。

 

「消去法ですが、ライダーではないでしょうか」

 

 推理、推測と言うほどのことでもない。

 セイバー、ランサーについては言うまでもなく、アサシンは脱落している。キャスターとアーチャーはほとんど確定で真名が割れている。バーサーカーに姿かたちを変えるような器用なことができると思えないし、よしんばできたとして、ランサーのような、技術のいる戦闘を行えるとは思えない。

 ならば残るは、アーチャーに狙撃され、バーサーカーの一撃を受けて消滅したはずのライダー。霊基盤にライダーの反応が残ったままなことから、何らかのスキルか宝具で脱落を装ったライダーは、他のマスターの警戒を掻い潜り、こうして暗躍しているではないだろうか。

 そう言ったことを話すと、司は沈黙した。

 

『変装スキルを持ったライダー……』

 

 沈鬱な感情が漏れたような、ため息が聞こえる。司も考えることが多く、脳が疲れているのかもしれない。自分も聖杯戦争の事後処理に忙殺されているので、お互い様だが。

 

「司君、わたしは貴方方を裏切っていない。それは間違いありません。信用できないかもしれませんが、それでもわたしたちは信じてくれと言うしかないのです」

 

 視線を向けると、ランサーも神妙な表情だ。

 今司たちとの同盟が破棄されるのはまずい。何しろアーチャーの狙撃にライダーの変装からの奇襲。そして搦め手。それらの相手をしながら、監督役の仕事もこなすのはキャパシティを超える。

 何より実際に戦場に立っているマスターからの証言という、貴重な情報を得られなくなるのは痛い。

 虫のいい話だが、他のマスターが信用できず、保護したアサシンのマスターがまだ目覚めていない以上、司との間に繋いだパイプが切れるのは痛すぎる。

 

『…………分かりました。信じますよ』

 

 果たして、帰ってきた答えはキャロルからすればこの上ないものだった。

 

「自分で言うのもなんですが、我々が裏切っていないという物的証拠も出せないのに、よく信じられますね」

『その証拠がないって言うのが、信じる決め手ですかね。もしもシスター・キャロルが本気で俺たちと手を切るのなら、水面下では裏切っておきながら、自分たちは裏切っていないと、こちらに信じさせる情報や物的証拠を出してくると思うんです。それこそ、電話越しでも。

 だから、逆説的に、信じてくれの一辺倒ならば、シスター・キャロルたちは裏切っていなくて、推定ライダー組の離間作戦に翻弄されていることになります』

 

 だから信じますと、司は言い切った。

 

「感謝します。司殿」

「こちらからも感謝します。司君」

 

 電話越しに頭を下げるランサー。聖人にさせておいて自分が顔を上げたままというのも恐れ多いので、見えはしないのを承知の上でキャロルも頭を下げた。

 

『いいえ。それよりシスター・キャロルが暗殺されたわけじゃないなら、こちらも聞きたいことがあります。―――――アサシンのマスターは、目が覚めましたか?』

「いいえ。それがまだです。治療はうまくいきましたが、傷が深く、昏睡状態でしたので思ったよりも肉体の回復が遅い。……これは、もしかしたらホムンクルスとしての耐用年数、寿命が近いか、それを過ぎてしまっているのかもしれませんね」

『寿命……。だから、回復が遅い?』

「推測ですが。とにかく、目覚めたらこちらから連絡します」

 

 よろしくお願いします。それを最後に通話は終わった。何があったか、細かく聞き出せなかったことに気づいたのはそれからしばらくしてだった。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 春日居市、新地区。

 コツコツと硬質な足音を響かせて、女は目的地に向かっていた。

 背中まで長い金の髪、赤い瞳を覆うフレームレスの眼鏡、白いシャツに薄青色のスラックス。真冬の空の下で鍛えられた氷の短剣の風情。

 霧煙る春日居駅の中で、司と魔術戦を繰り広げた女だった。

 女は霧を晴らし、戦場から離脱した後、いったん駅から離れたものの、また戻ってきていた。

 駅構内のカフェで簡単な食事をとりながら戦闘の会った場所を観察していると、監督役の手のものと思われる者たちが現れ、てきぱきと戦闘で破損した部分を一般人の目から隠し、修復中を伝える知らせを立てた。

 その手際の良さはさすがと言うべきか。とにかく、監督役は滞りなく自らの役割を果たしていることを確認して、店を出た。

 そのまま女は駅を行き交う人々に紛れ、外に出た。

 迷うことなく目的地を目指す。

 女の容姿は人目を惹く。にもかかわらず、街を行き交う人々は彼女に目も向けない。

 女の足がいったん止まった。春日居市新地区にある、カスガイ・グランド・ホテル。

 エントランスに入り、フロントを通さずにエレベーターへ。

 迷うことなく最上階のボタンを押す。

 このホテルの最上階は現在、全フロアのスイートルームが貸切られている。

 女はかすかな浮遊感を得ながら待つ。

 沈黙の時間は短く、エレベーターが最上階に到着したことを知らせ、扉が開いた。

 貸切られた、二つしかないスイートルームのうち、一つの扉をノック。

 

「空いてるぜ」

 

 英語で帰ってきた。女は「失礼します」と一言断ってから中に入った。

 

「よう、アイリーン。無事だったか?」

 

 部屋の向こうで、ふてぶてしい笑みを浮かべた男。

 短めにそろえた灰色の髪、落ち着いた緑の瞳、アルマーニの三つ揃いのスーツ姿。その鎖骨の左側に、三匹の蛇が絡みついたような令呪。

 時計塔から春日居市に渡り、この地の聖杯戦争でライダーのマスターとなった男、アルフレット・ウォーラーであった。

 アイリーンを呼ばれた、彼の一番弟子は恭し気に一礼し、

 

「ただいま戻りました。師匠。ですが申し訳ありません。セイバーのマスターを仕留め損ないました」

「まぁ仕方ねぇさ。魔術師として、お前はどんなマスターにも負けやしない。が、魔術戦の優劣が実戦の優劣に結び付かないことは、冬木(ふゆき)で行われた四回目の聖杯戦争が証明してるさ」

 

 日本語で笑い、しかしアルフレットはその笑いをひっこめた。

 

「ライダーはどうした?」

「ランサーに変装していただき、セイバー、アーチャーと交戦後、今少し情報を収集していくといっておりました」

「いや、今戻ったよ」

 

 返答は第三者の声。さっきまで何もなく、誰もいなかった場所に人影が浮かび上がるように現れた。

 逞しい体つきと、稚気にとんだ茶色の瞳、金の髪、緑と茶色を基調にした革鎧。どれほどの暴風にあって揺れても決して折れぬ柳の風情。

 

「よぉライダー。仕事熱心だな」

「気になるなら、すぐに裏を取りたいのさ」

 

 肩をすくめるライダー。それはそうと、と真顔で告げる。

 

「多分、マスターの、セイバーとライダーの同盟を破綻させようという試みは十全には機能していないと思うよ。

 監督役の部下に変装して教会を探ったけど、その監督役のシスターがマスターで、サーヴァントはランサーだった。で、ランサーのマスターはセイバーのマスターと連絡を取り合って、自分の無実を訴えていたよ。セイバーのマスターもそれを受け入れていた」

「ふーむ……。少なくとも表面上はそう来たか……」

 

 顎に手を当てて、イタリア語で一人呟くアルフレット。。

 

「監督役じゃあ、霊基盤でライダー(おめぇさん)が脱落してないってことは察知できるよな?」

「そうだろうね。だから消去法で、ランサーに変装したのがライダー(ぼく)だってのも感づかれただろうね」

 

 それはライダー側のアドバンテージを、一つ潰されたことになる。少なくとも、ランサーとセイバーのマスターはライダーのスキルが一つ判明し、より一層警戒心を強めるだろう。

 前に言った、教会で、気配を漂わせていたサーヴァント、その正体がランサーだということは、まぁ予想できた。

 ほとんど選択肢はないし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、消去法で教会のサーヴァントはランサーだ。

 アルフレットが予め命じていたのはこちらで霧を起こし、春日居市を包み込み、その操作を一番弟子のアイリーンに任せること。

 そしてライダーにはランサーに変装し、セイバーと戦わせた。

 セイバーとランサーが組んでいるのは、二騎の立ち回りからして間違いない。これは使い魔越しサーヴァント同士の戦闘を監視してたアルフレットと、実際にその目で戦場を観察し、考察したライダーとの間で一致した意見だった。

 そしてランサーが監督役のサーヴァントなら、セイバーのマスターは監督役と組んでいることになる。

 この同盟は厄介だ。なのでランサーが裏切ったと見せかけて、セイバーとライダーを戦わせ、偽のマスターとしてアイリーンを立てた。

 結果として、その策は見事に裏目に出たようだが。

 

「真っ先にランサーのマスターの方からセイバーのマスター、祠堂家の次男坊に連絡するか……」

 

 アルフレットの考えた離間作戦は失敗したことになる。

 アイリーンはそう考えたが、彼女の師匠はにやりと悪い顔をした。

 

「つまり、()()()()()()()()()()()?」

「せいぜい五割でしょ」

 

 応じるライダーも力の入っていないにやけ面を浮かべる。一体どういうことか、アイリーンには分からない。

 そんな弟子の反応を察して、アルフレットはフランス語で言った。

 

「口じゃあ何と言っても、セイバーのマスターはランサーのマスターに対する疑念が植え付けられたはずだ。それはここぞって時にその疑念は襲い掛かってくる」

「それに、ぼくが別の誰かに変装できると分かった以上、セイバーとランサーのマスターは見ず知らずの誰かからの奇襲も警戒しないといけない。これは神経を削るよ」

「少なくともサーヴァントはずっと気を張ってねぇとならねぇな」

 

 つまり見せ札にするということだ。見えているから、相手は警戒せざるを得ない。

 あわよくばセイバーとランサーの離間工作を成功させたかったのだろうが、それが失敗しても疑念を与え、かつ相手に渡した情報によって警戒を促し神経を削る。

 どのみち監督役がマスターになっている以上、ライダーの現存は知られること。ならばさらに情報を渡して、相手に対処せざるを得ないようにしている。

 つくづく嫌らしい。

 

「それよかアイリーン。そろそろ休んどきな」

 

 そしてこちらの様子にもすぐに気づく。アイリーンは軽く吐息を吐いて、

 

「はい。失礼します」

 

 一礼して部屋を出ていった。出ていく先は隣のスイートルーム。

 最上階にある二つのスイートルームのうち、一つはアルフレットが、もう一つはアイリーンが実質使っていて、残る弟子たちは各々分散して下の階や別のホテルに宿泊している。彼らは聖杯戦争において、戦いではない部分で重要な役目があるのだ。敵マスターからの襲撃などに巻き込まれやすい最上階とはなるべく離しておく。

 

「じゃ、ぼくも少し席を外すよ」

「ああ、頼む」

 

 ライダーが霊体化したのを確認し、アルフレットは懐からスマホを取り出した。

 古い魔術師はこのような科学技術の産物に難色を示すかもしれないが、アルフレットはそうは思わない。

 使えるものは使えばいいのだ。その分、空いたリソースを魔術に当てられるのだから、こんないいことはない。 

 一人部屋に残って、アルフレットは電話を掛けた。

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