ある晴れた 昼下がり
市場へ続く道 荷馬車が
ゴトゴト子牛を乗せていく
可愛い子牛売られてゆくよ
哀しい瞳で見ているよ
ドナドナド~ナド~ナ
子牛を乗せて
ドナドナド~ナド~ナ
荷馬車が揺れる~ 」
「なぁあんた、その歌止めてくれないか、聞いてると何か哀しくなってくるんだよ」
1話 田舎者を忙殺する!
ガタガタと揺れる馬車の中で、私の目の前にいる茶髪の少年が何やらそんなことを言ってくる、まったくもって心外だ、この歌は私が南部戦線に駆り出されたとき仲間とともに輸送中ずっと歌っていた懐かしの一曲であると言うのに、あの時はドナドナの部分はアドナイ アドナイ(神よ 神よ)であったかな?昔の事だからよく覚えてない
あ、ちなみに目の前にいる少年の名前はタツミ君というらしい、ついさっきこの馬車に乗り合わせたらしいのだが、その時私は寝ていたため詳しい事はよく分からない、その為まだ会って二時間程度しか話していないのだが、何故だろう、タツミ君の口調が急激に砕けていっている、砕け散っていく、私の記憶が正しければ彼は最初敬語だった気がする
「黙れタツミ、私は長旅で疲労とストレスが貯まっているんだ、見ろ私の髪を、真っ白になってしまっているではないか」
「あんたの髪は最初から白かったよ!」
「そうだったな」
タツミ君のキレのあるツッコミをよそに私は頭を働かせる、お題はもちろん‘これから如何に帝都に着くまでの暇を潰すか’である、私とタツミ君が乗っている荷馬車はお世辞にも早い速度とは言えない、その分揺れも少なく快適なのだが、如何せん暇だ、この速度では目算帝都に着くまであと半日と言ったところだろう、何もしないには長すぎる、考えただけでキノコが生えてしまいそうだ
「何?」
と、そこまで思考して私の目の前にいるタツミ君を見て思った、そう言えば私はこの子の事を何も知らない、折角同じ馬車に乗り合わせたのだ、これも何かの縁だろう、旅は道連れ世は情けと言うし、いや、違ったか、人の出会いは一期一会だ、ならばこの出会いにも意味はある、これを期に互いを知るのも面白いだろう
「タツミ」
「……何だよ?」
なんだかタツミ君が激しく私を警戒している、何で?まぁ良いか
「私は暇だ」
「うん、だから?」
「だから私は暇なんだ」
「だからそれがどうしたんだよ!」
「察しが悪いな、暇だと言っているだろうッ!!」
「えぇ!?俺が悪いのか?」
「はぁ……これだから童貞は」
「やかましいわ」
「私は退屈しのぎに君の話を聞かせろといってるんだよ」
「最初からそう言えよ!」
「あ、やっぱりいいや、童貞の話を聞いても愉しくないからな」
「こ、コイツっ!」
「はははっ!たのしー」
「おいお前ちょっと表出ろ」
ついに‘あんた’から‘お前’になった
さて、途中からつい面白くなってタツミ君を必要以上にからかってしまったが、これではとてもじゃないが互いの事を話すような空気ではない、さてどうするか、私は頭を働かせる
自分でぶち壊しておいて今度はそれを修復するのに苦心する、私と言う人間はつくづく無駄が多い、しかしまぁこんなのもたまには悪くない、仕事に戻れば一切の無駄を省いたような生活が待っている
つまるところ人が生きるに於いて楽しみとは皆総じて無駄なことである、心さえ強く持てば、それらは決して必要なものではないからだ
要するに私が何を言いたいのかというと、こうして無駄な事をしている私はとても楽しくて、そして、それは君のおかげということだ、タツミ君
「君はキングダムの主人公か?」
私は今思った感想を率直に述べた
あれからなんとかタツミ君の機嫌を直した私は、さっそくタツミ君に聞いてみた
『君は何しに帝都に行くのか?』と
そしたらタツミ君はこう答えた
『軍に入って将軍になる』
なんでも、彼の故郷は北の端っこにある辺境の村で、過酷な環境と高い税金に苦しめられて最早後がないのだと言う、そこでタツミ君はこう思った‘自分が帝都で名をあげて高い地位を得られればその分故郷の村が楽になるかもしれない’と、かもしれないというかそのとうりなんだが、そこで将軍を目指すところが流石男の子と言ったところだろう、きっとタツミ君を主人公にしたマンガを描けばジャンプ辺りで連載されているだろう
「それにしても将軍か、大きく出たなタツミ」
私が素直にそう思って感心していると、タツミ君が怪訝な目で私を見ている、まぁ大体言いたい事は分かるぞ、二十歳にも充たないガキンチョが‘帝国の将軍に俺はなる!’なんて到底不可能な話だ、いっそ海賊王とかの方が余程現実味がある、そしておそらくタツミ君の次の言葉はこれだ‘なぁあんた笑わないのか’
「なぁあんた笑わないのか」
そらきた
「なぜ笑う?全然面白くないだろう、それにエスデスという前例もある、君の実力が未知数な現状、完全に不可能だなんて私には言えない」
本音を言わせて貰えば、笑わないのではなく、笑えない
今帝国は慢性的な将軍不足だ、有能な軍人は先のない帝国を見限って皆革命軍に行ってしまうし、抜けた穴を埋めるために軍事の事などまるで分からない文官がその席に座る、私の知る限りまともな将軍なんてエスデス(ドS)ノウケン(全身チン○野郎)ブドー大将軍の三人しか知らない、お陰で中間管理職たる私は大忙しだ、見ろ私の髪を、真っ白になってしまっているではないか、だからタツミ君、将軍を目指すなら定員が割れている今だ、早く将軍になってくれ、そして可及的速やかに私に楽させてくれ
「あんた案外良いヤツなんだな!」
「そのとうりだ」
さて、私の本音を知らないタツミ君はキラキラした純水無垢な瞳で此方を見ている、が、下心がまったくないでもない私としては、ほんの少しだけ罪悪感がくすぐられた
「ふむ、私が君に聞きたいことは概ね終った、それでは攻守交代といこう、今度は君が私に質問をしたまえ、私に答えられる範囲で教えよう」
その為、というわけではないが、今度は私が受けに回ろうと思う
「え、良いのか?俺まだ1つしか答えてないけど」
「良いのだ良いのだ、もともと私が知りたかったのはその一つだけだからな」
「そうは言ってもな……」
「ほら遠慮するな!今の私は機嫌が良い、今回だけ特別に私のスリーサイズまで答えてやろう!さぁドンと来なさい!と言っても、私に人に聞かせるほどのスタイルなど何一つ無いがな!」
「あんたソレ自分で言ってて悲しくないのか?」
「悲しい!」
「何でこの人こんなテンション高いの?」
タツミ君に引かれてしまった、悲しい
しかしまぁ自分でもビックリだ、これほど気分が良いのは久しぶりだろう、これはたぶんあれだ、タツミ君がイケメンだからかもしれない、男子だって可愛い女の子と面と向かって話したら何かテンションおかしくなるだろう?それと同じだ、いや、待てよ
「割りと何時もこんな感じのテンションだった」
「これがデフォルトかよ!」
そんなこんなで私とタツミ君を乗せた馬車は進む、帝都への旅は、まだ始まったばかり
「帝都よ!私は帰ってきたぁ~~~ッ!」
両手を大きく広げなが叫ぶ私からタツミ君が3歩程離れる
「何故離れる?」
「知り合いって思われたくないから」
ふむ、タツミ君は随分私に対して遠慮が無くなった気がする、まぁそれだけ私が親しみの持ちやすい魅力的な女性ということだろう、あぁ私とは一体なんて罪な女なのだ、出会って半日も経たないイケメンのハートをキャッチしてしまうとは
と、そんな下らない事を考えていると、タツミ君からこう、何とも言いがたい複雑な視線を感じる、例えるならアレだ、残念な子を見るような目だ
「おいそんな目で見るなよ、つい嬉しくなってしまうではないか」
たとて含みのある視線だろうが、イケメンに見つめられて嬉しくない女などいるのだろうか、いや、いない
「あんた最強だな」
「そう誉めるなよ、つい嬉しくなってしまうではないか」
あ、また離れた
さて、このままふざけているのも楽しいが、そろそろ真面目な話をしよう、お互い目的地である帝都に無事到着できたのだ、途中たしか土竜(‘もぐら’ではなく‘どりゅう’と読むらしい)に襲われた気がするがイケメン、間違えた、タツミ君が一瞬で倒してくれたから何も問題はない、いゃ~あの時のタツミ君はイケメンだった、え?私は何をしてたかって?当然一生懸命応援していたさ、帝国陸軍兵士は声援だけは惜しまない
「それにしてもタツミ君、本当に良いのか?今日くらい、とゆうか何かアテが見つかるまでなら、私の家に滞在させても構わんぞ?帝都の夜は冷えるからな」
「良いって良いって、てめぇの世話くらいてめぇで焼ける、気持ちだけ貰っておくよ」
「そうか」
残念だ、自分でも何とか出来たとは言え、土竜を殺す手間を省いてくれたお礼をしたかったこともそうだが、何よりも残念なのは、この純水無垢なイケメンと会うのはこれで最期かもしれないのだ、今の内に出来る限りの忠告くらいはしておこう
「ではなタツミ、良いか?例え親切そうに見えても知らない人にはホイホイついて行くんじゃないぞ、不審な人に声をかけられてら大声出して周りの大人に助けを求めるのだ、分かったか?」
「あ~はいはい、わかりましたわかりました」
「何だその適当な返事は、油断してると悪い人に連れていかれてしまうからな!」
「だぁ~ッもう!しつこいな!あんた帝都ついてからずっとそんな調子だろ!いい加減しつこいわ!」
「しかしだなぁ~」
「大丈夫だって!俺の実力みただろう?大抵のことは自分でどうにかできるからさ」
う~ん、タツミ君も多少腕に自信があるようだが、それだけで生き残れる程この帝都は甘くない
まぁそんなことはきっと口で言っても伝わらないだろう、彼とて生半可な覚悟で来てはいないだろうし、そもそももし最悪なことになってしまえば、そんな覚悟でカスみたいなものだ
私がタツミ君に出来ることは全てした、後はあの子の運次第だ、生きるも 死ぬもな、私としてはあの子がその中間に位置しないように願うばかりである
おっと大事な事を忘れていた
「タツミ」
既に帝都の検問所に向かって足を進めているタツミ君を声で呼び止め、私は若干の駆け足で彼に近付き、自分の両手を彼に向かって差し出した
「何だよ、まだなんかあるのか?」
「握手をしよう」
「は?」
「だから握手だ、お別れの握手をしようと言ってるんだよ」
はて、私は何かおかしな事を言っただろうか?確かに握手は出会いにするのが一般的であるか、べつに別れ際にするのもおかしくはないと思うのだが、それともタツミ君のような田舎っぺには無い文化なのだろうか、成る程、これがカルチャーショックというやつなのか
「どうしたタツミはやく手を出せ、ただの握手だぞ?何も難しい事ではないと思うのだが」
「お、おぅ」
そう言うとタツミ君はおずおずと自分の片手を私に差し出す、何だ?この子、もしかして私と手を繋ぐ事に緊張しているのか?たかが握手に、童貞かよ……童貞だった(笑)
そうと決まれば、俄然この子と握手をしなければ
「あ~もうっじれったい!握手とはこうするのだ!」
「お、おい!ちょっ」
私は無理矢理タツミ君の両手を取る、ぎょっとするタツミ君だが顔はしっかり赤くなっているぞ少年
そして私は掴んだ手を上下に激しく振るのだった
「頑張れよタツミ!」
「お、おう!」
「ご飯はしっかり食べるんだぞ!」
「あ、あぁ!」
「悪い人に騙されるなよ!」
「分かったからはやく手を放してくれよ!」
ふふふ、可愛いんだから
「あまり関心しませんね」
「ん?どうした軍曹」
「ですから、あまりあの少年に執心するのが感心しないと言ったのです、中尉」
タツミ君と別れ、帝都の検問所にて荷物のチェックを済ませている最中、私の隣にいる男、すなわち先程まで私とタツミ君が乗っていた馬車の御者、イェン軍曹が渋いイケボイスでそう言った
「私は執心していたか?」
「えぇ客観的に見れば」
イェン軍曹は優秀な軍人だ、私の部下でもあるし南部戦線を共に生き抜いた戦友でもある、彼とはそれなりに長い付き合いだ、そんな彼が言うからには、成る程確かに私はタツミ君に執心していたのかもしれない、やはり普段からソフトモヒカンやらジャーヘッドのマッチョばかりに囲まれていると知らぬ内に正統派のイケメンを求めてしまうのだろうか
まぁもう会うこともないだろうから、既にどうでも良いことだ
そんなことより
「最近、帝都で辺境から出稼ぎに来たものが相次いで消息をたっているらしいじゃないか」
私は馬車の移動中に軍曹がボソッと言った独り言を思い出した、あの時は特に興味をそそられなかった為そのまま寝てしまったが、こうして目の前に犯行現場があるとなかなか気になるものだ
「はい、最初は人売りの仕業かと思ったのですが、調査員の資料を見る限り奴隷市場にはこれといって変化はありませんでした」
「だろうな、私はこの案件、革命軍か上級貴族の仕業ではないかと睨んでいる」
辺境の者はやはり遠くはるばる来ただけあって皆有能だ、途中に危険種や野盗などに出くわすこともあっただろうに、それら全てを撃退ないし回避してきたのだ、少なくとも実力に関して言えば兵士としては申し分ない、剣を持たせ、戦術を叩き込めば即席だが完成した兵隊の出来上がりだ、時間も金も大してかけずに戦力が増すのだ、革命軍からすれば欲しい人材だろう
問題は後者だ
「革命軍はともかく上級貴族ですか?何故彼らのような無駄を嫌う生き物がわざわざそんなリスキーなことを?辺境とは言え帝国国民、罪がばれる可能性を踏まえればスラム辺りから拉致していけば良いでしょう」
「さぁな、連中の考える事なんて知らん、前例があったから候補に入れただけだ」
とは言うものの、十中八九犯人は上級貴族なのだろう、根拠は特に無い、強いて言えば勘だが、まぁ実際私からすればどっちでも良い、やることは変わらない、ドアを蹴破り標的の額に風穴を開けて執務室に帰る、それだけの話だ
「軍曹はどっちだと思う?上級貴族か革命軍か」
「自分は革命軍だと思いますが、まぁどちらでも変わりませんよ、迅速に行動し速やかに始末する、これだけです」
どうやら軍曹も私も最終的には同じ結論に至るようだ
「おいお前たち、通って良いぞ」
おっと、どうやら荷物のチェックが済んだようだ、帝国兵の一人がわざわざ報告しに来てくれた
そのまま彼の誘導に従って自分の馬車のあるところまで行く、イェン軍曹が馬の手綱を握り、私も荷台乗ろうとすると
「まて」
先程の帝国兵に制止をかけられる、はて?何か問題でもあるのだろうか、と、考えを巡らせて私はあることに気が付いた、そう言えば荷物のチェックはされたが私達の身体検査はされてない
「あぁ身体検査がまだだったな、イェン降りてこい」
「あ、違っ、結構です、馬車にお戻り下さい!」
どうやら違うようだ、それに目の前の帝国兵も何故か口調が改まっている、頭が疑問でいっぱいだった私だが、その後の彼の行動で全て理解した
「おかえりなさいませ中尉殿、南部戦線の英雄とお会い出来て光栄です」
ビシッとした良い敬礼だ
多分だが、彼は荷物のチェック中に私の制服を見つけたのだろう、肩についた階級も、胸に並んだ勲章も、私としては英雄なんて呼ばれるのはこそばゆいが、敬意には敬意で返すのが礼儀だ
「私も君のような真面目な兵士がいることを嬉しく思う、今後とも職務に励みたまえ」
そう言って私も負けじとビシッとした敬礼を返す、目の前の帝国兵はなにやら感極まった様子だが、私は構わず馬車に乗った、流石に荷台に乗るのはかっこがつかないのでイェン軍曹の隣に座る、私はどうにも彼のような尊敬や憧憬の篭った視線を向けられるのが苦手だ
イェンに馬車を出発させるよう促す
「軍曹早く馬車を出せ」
「おや?ファンサービスはもう良いのですか?」
「うるさいぞ、良いから早く出せ」
「まったく、せっかちな上司だ」
こうして馬車は進む、そして私は帰ってきた、この糞溜めのような都に、さぁ休暇は終わりだ、仕事をしよう、いつ終わるとも分からないゴミ掃除を
主人公の見た目はFF13のライトニングの髪を真っ白にした感じです。