イェーガーズの下請け部隊   作:薩摩芋

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4話 警備隊員を忙殺する!

 

「ずみまぜんでじだぁ~」

 

「いや、もういいから、別に怒ってないから」

 

 

「で、でも、わだしこのままじゃクビになっちゃいます」

 

「ならないから……」

 

 

「だっで~っ!宮殿勤めの士官なんて私達からすれば隊長よりも偉いんでずよ!それを無視したどころかお手間をかけてしまうなんて……」

 

「だから気にしてないって」

 

 

「すみませんオーガさん、私はもうダメみたいです」

 

「君、少しは人の話を聞いた方が良いと思うぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4話 警備隊員を忙殺する!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあセリュー、次はこのファイルナンバーAの11~15を持ってきてくれ、ちなみにこれは独り言だが、取りに行くついでに、今まで見た1~10の資料を置いてくると後々片付ける手間が省けてとてもスマートだと、私は思う」

 

「はい!つまり自分の任務は資料の返納と拝借ですね!了解しました!」

 

 

それだけ言うと、物凄い早さで資料を抱えたセリューは本部の会議室を後にした、廊下を全力疾走することはあまり関心しないが、何も役に立たない他の隊員に比べれば遥かにマシだ

 

私は今警備隊本部の会議室にいる、本当は資料室の中で調べようと思ったのだが、ここの職員がサボっていたのか部屋のなかはかなり埃っぽくなっていおり、とてもではないが調べものを出来る環境ではなかった、また一通り情報が集まったらやろうと思っているが、ここの隊員の何名かにオーガの人物像を聞こうと思っている、別に取り調べをするわけではないので、こうゆう場合はなるべくストレスのかからない場所でやるのが一番効率的に情報を引き出せるのだ

 

しかし、そのせいでセリューを使い走りにしてしまった、彼女は特に気にした様子はないが、自分の部下でもない人をこき使うのは、なんだか自身の権力を傘に強いているようで居心地が悪い

 

資料漁りは少々早めに切り上げて、とっとと面談に移りたい

 

 

「それにしても、オーガとは随分働き者だったんだな」

 

 

資料でここ最近のオーガの逮捕履歴を見ると、大体三日に一回くらいのペースで犯罪者を逮捕している、しかもその殆どが現行犯だ、多分日頃からマメに帝都の見回りでもしているのだろう、今回の事件も、もしかしたら見回り中に襲われてしまったのかもしれない

 

本当に今時の帝都では珍しい程仕事熱心な人だ、これならセリューのあの取り乱し様も少しは納得のできる、きっと多くの部下に慕われていたのだろう、そうゆう人材が喪われてしまった事は、私は素直に残念に思う

 

まぁそれはそれ、死んでしまったからには既にどうでも良い話だ、今は兎に角オーガの死の背景を探らなくては

 

これだけ人を逮捕していれば、やはり同じだけ怨みを買う、今回の事件のきっかけも恐らくは、その買った怨みの一つか、それとも幾つかが同時に発動した結果なのかは分からないが、それもこれも、セリューが資料を持ってくるまで進むことはない、気長に待つさ、どうせやることはたくさんあるんだから、一つずつ慎重に、ミスなくこなして行くのが一番手っ取り早い

 

 

「お待たせしました!ナンバー11~15しっかり持ってきましたよ!!」

 

 

おっと、どうやらセリューが資料を持ってきてくれたようだ

 

「うむ、ご苦労様」

 

「手伝いますよ!」

 

「大丈夫だ」

 

だって、お前読んだ資料グチャグチャにしちゃうだろ、とは言わない、私はアホだがそこまでデリカシーが無いわけではないのだよ、それよりも

 

 

「そろそろ休憩するか?」

 

ちらりと時計を見れば調度12時、お昼時だと私は思う

 

「いえ!自分はまだまだ元気です!」

 

「そうだな、じゃあご飯にするか?」

 

「食事などしている場合ではありません!」

 

「そのとうりだ、よし!出掛ける準備をしろセリュー!食堂に向かうぞ!」

 

「はい!え?、えぇっと?」

 

「今日の献立はなんだ!?セリュー!」

 

「は、はい!素麺とお冷やです!」

 

「それは素晴らしいな!さぁ行くぞセリュー!早くしないと折角の食事が冷めてしまう!」

 

「素麺もお冷やも最初から冷めてます!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、話の舞台は変わり、警備隊本部から帝都のメインストリート、から少し脇にそれた薄暗い路地にあるストリップバー、それなりの広さがある店内だが、今はカウンターに一人、そしてまるテーブルの四人席に二人の男女が座っているのみ、ここも夜にはさぞ賑わうのだろうが、流石に昼間は大人しくしている、そこにあるのはバーテンダーのグラスを磨く音と、男女の話し声だけ

 

 

「それじゃあオーガの町での評判はクソだったと言うことか?」

 

「えぇそうね、酷いものよ、酒に酔った勢いで人を切り殺したり、町中で処刑したり、少なくとも優しいおまわりさんじゃなかったわ」

 

 

女の言葉に男は唸る

 

 

「それでは殺されても文句は言えないな、警備隊長までこんなザマじゃこの国もおしまいだ」

 

「あら?貴方に国を想う気持ちがあったなんて驚きね」

 

「何を馬鹿な事を、俺にそんなものあるわけないだろ?この国の先なんて次の日の天気程度の関心しかない」

 

「宮殿勤めのエリート軍人が言うことではないわね」

 

「そうだな」

 

話を早々に切り上げて、男は考えに浸る、が、すぐにやめて再び女に視線を移す

 

「何かしら?そんなに熱い視線で見られたら妊娠しちゃうんだけど、責任とってくれるの?」

 

 

「お前オーガ殺しの犯人知っているか?」

 

女は軽口にも男はまったく動じない、坊主頭に仏頂面、半袖に長ズボンの飾り気のない武骨な普段着、見ればすぐに分かる、この男は冗談が好きではないのだろう、まぁ女の方はそんなことをわかりきっているのか「相変わらず真面目ねぇ」と言って、一度溜め息をつくだけだった

 

 

「知ってるわ、本当はここから先は有料だけど、お互い死線を潜り抜けた仲だし、お酒で舌が滑ったと思って聞き流してちょうだい」

 

そう言って女はグラスに入った液体を一気に喉に流し込んだ、その豪快な動作に似合わず、女の容姿は色白で線の細い、儚くも美しい女性だった、それでも何処か強かなのが、この女の魅力なのだろう

 

 

「飲み込んだのか牛乳でなければの話だがな」

 

「う、うるさいわね!真っ昼間から酔っぱらったら仕事にならないでしょ」

 

別に牛乳である必要はどこにもないのだが、それは言わぬが華だろう

 

「別に牛乳である必要はないだろ、お茶とか」

 

どうやら男にはわからなかったようだ

 

 

「まぁ良い、兎に角情報をくれるのはありがたい、それと金なら断られても払うからな、他の奴なら知らないが、少なくともお前とは俺は対等でいたいと思ってる、一方的な施しなんていらん」

 

「はぁ~相変わらず真面目ねぇ」

 

またこの流れか、と、男は内心溜め息をついた、別に男とてこの女性との会話にうんざりしているわけではない、寧ろかつての戦友との会話は純粋に楽しいとさえ思っている、だが今は仕事を優先しなければならない

 

そんな男の複雑な内心を察したのか、女はハキハキした声で話し出す、今回の事件の真相を

 

だが男にはこの事件の概要というか背景が、何となくだが掴めていた‘どうせ何時もどうりのつまらない復讐記なのだろう’と、それはつまり 人を呪わば穴二つ と言うことだ 

 

まぁ一応女の話も聞いてみる、概要は大体予想がつくが詳細な事は分からない、状況とは詳しく知れば知るほど良い、男はその事を良く理解している、それに、今目の前で話している女があんまりにも楽しそうにしているから、自分から頼んどいて今さら「もういい」とは言えなかった

 

女は元軍人でかつての同僚だが、今はフリーの情報屋だ、情報屋にとって自身の持つ情報とは宝そのものだ、そんな彼らが一番楽しそうにしているのは、自分の持つ情報を他者に話すこと、彼らは普段は常に仏頂面か必要以上に感情を明るく見せて本性を眩ますような生き物だが、この時だけは皆例外無く何処か楽しそうにしている、その姿はそう、まるで自分の持っている秘密の宝物を自慢する子供のような、そんな無邪気さを感じる

 

そして、それは目の前の女にも同じことが言えた、男はただ女の話に相槌を打っているだけなのに、女の方は聞いてもないことをペラペラと喋ってくれる、無論日頃からそんなわけではないのだろう、あくまで対面しているのが気の許せる相手だからこそ、ここまで口が達者になるのだ

 

そんの女の姿が微笑ましくて、男は本当に久しぶりに口が緩んだ

 

 

 

 

 

一方その頃のユーリィー

 

 

「は、は、……マイケルジャクソンッ!」

 

 

「うひゃっ!ちょ、汚いっ!何でいちいち隣見てくしゃみすんるですか!」

 

「だって、正面向いたら私の食事にくしゃみが直撃してしまうではないか」

 

「私なら良いんですか!?」

 

「うん」

 

「言いきりましたね」

 

「ふ、それにしても我ながらハイセンスなくしゃみをしてしまった」

 

「聞いてないし……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……報告は以上です。」

 

会議室にてイェン軍曹の報告を聞き終った私は、イスのクッションに深々と体を沈めた、控えめに言って最悪の気分である

 

 

「なんだ?つまり警備隊長オーガは町で好き放題やってるクソ野郎で、つもり積もった怨みのツケが回って死んだと?」

 

「まぁ平たく言えばそうですね」

 

「しかもその実行犯はナイトレイド」

 

「彼女の情報が確かなら、そうです」

 

「そうか……クソ!なんてザマだ軍属」

 

 

また、ナイトレイドに先を超された、しかも今回の件は完全にウチ(軍属)の尻拭いをされたようなものだ

 

政府機関が民間企業に賄賂なんてのは今時珍しくない、私もたまに金を贈って情報を入手することもある、しかし罪状の擦り付けまでいけば、それはもう違う、完全に個人がやって良い範疇を越えている、オマケにそれで私腹を肥やしていたなど、どう考えてもアウトだ

 

普通これだけ派手な動きを見せれば気付く者や脚がつくものだが、どうやって今まで隠せとおせたのだろう……知れたこと、大方勘付いた者全て消したのだろう、たしか警備隊員の殉職率が大幅に跳ね上がった時期があったな

 

セリューの父もこの時期に殉職していた筈だ……この場にセリューがいないのが唯一の救いだな、あの子は不器用で大雑把だが決して頭の回らない馬鹿ではない、今の軍曹の話を聞いていたら、きっと自分で警備隊内の闇を見つけてしまうだろう

 

人の闇を見つめるにはあの子はまだ、若くて純粋に過ぎる

 

「何なのだこの国は、中央が腐りきっているのは知っていたが、まさか警備隊までとは」

 

私達が監視しているなかオーガ一人で今での悪事を隠しとおせるわけがない、きっと警備隊内にも共犯者がいる筈だ、そっちも追々調べていかなければ、このまま警備隊の腐敗を放っておけばセリューのような隊員が片身の狭い思いをさせてしまう、いや、最悪消されてしまうかもしれないのだ

 

そんなことはさせない

 

「軍曹、オーガ殺しの下手人がナイトレイドならその暗殺を依頼した人間がいる筈だ、その辺の調べもついているか?」

 

「勿論です、容疑者は現在所持している住所はありませんが、最近までスラムで売春をしていました、行動範囲もおのずと絞り込めます」

 

「外見的な特徴はわかるか?」

 

「辞めた売春宿から売り子をパッケージにした際の似顔絵があります」

 

「十分だ、出掛ける準備をしろ軍曹、念のため武装しておけ」

 

「了解、これか犯人の確保に向かうのですね?」

 

「違うぞ軍曹、私達は犯人の逮捕に向かうのではない」

 

 

 

 

「私達はな、警備隊内の集団不正に関する重要参考人の保護に向かうのだ」




作者はセリューが大好きです、なので、この物語では原作よりはもっとマシ扱いをしたいと思ってます。

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