魔法少女リリカルなのはAnswerS  ~共に歩んだキミの答え~   作:アチャコチャ

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なんか説明回みたいに…


転生者と黒猫の異世界らいふ そのいち

 陽が昇り、人々が動き出そうとする時間。―より、僅かに早く。

 まだ街を染めあげる光の色合いに青が混じっているその時間。

 オレはアリシアを伴ってある児童公園に来ていた。

 朝早いこの時間に、もちろん人はいなく突然の訪問者に驚いた小鳥が数羽、飛び去っていった。

 そんな光景を横目にオレは準備運動を始めた。

 海が近く自然が周りに多いせいか、この規模の街にしては濃い朝霧がひんやりと肌を刺激する。

 その朝霧を含んだ空気を大きく吸い込む。一回、二回。

 肺を通り、全身を巡った冷気が最後に脳を覚醒させた。

「よし」

 パチリと目を開け、全身の状態を確認する。

 入念に行ったストレッチが身体をしっかりと解しているのを確認すると、オレはもう一度深呼吸し目を閉じた。

 そのまま、意識を内側に持っていく。程なく、オレの頭の中にとあるイメージが浮かんでくる。

 綺麗に等間隔に刻まれた何かの設計図の一部のようにも思える、複数のライン。

 それをしっかりと思い浮かべたオレは呟くように言葉を発した。

「強化開始(トレース・オン)」

 ガチン、と硬い金属が叩き落とされたような音が聞こえた気がした。

 同時に思い浮かべたラインの一本に光が走るイメージ。

「ッ……」

 ぐにゃり、と立ち眩みがして身体がふらつく。

 一瞬の意識の空白の後、視界が正常に戻る。同時に感じる、身体に一本、芯が通ったようなむず痒い感覚に成功の手応えを得る。

 ここまでは上出来。問題はここからである。

 トントン、と何度か小さく跳びはねながら身体と意識の調子を上げていく。

 そうしながら、踏破すべき対象を見据えていたオレは調子を十分に上がったのを感じると跳ねるのを止め、今度は腰を落として身構える。

 そのまま、しばらく。 

 チチチッ、と鳴いた鳥が飛び立つのを合図にオレはスタートを切った。

 常人を越えた速さのままに、公園の入口から半ばまで一気に駆け抜ける。

 そのオレの前方、進路上にジャングルジムが見えた。

 このまま行けば追突コースだが、オレはスピードを落とさずにその数メートル手前でダン、と力一杯に地を踏み込み大きく跳んだ。

 身体に強く浮遊感を感じ、そして、滞空し続ける不慣れな感覚に僅かばかり戸惑うが、思考がそれをしっかりと認識する前にオレはジャングルジムの天辺に着地する。

 無事に着地したが、まだ終わらない。

 着地した時の反動を利用して、もう一度跳躍。ジャングルジムの奥にあったシーソーに着地すると、加わった重さによって傾き始めた台が完全に地につく前に再び跳躍する。今度の着地点はブランコ。着地の衝撃でぐらぐら揺れるブランコの上で上手くバランスを取り、次の目標の鉄棒に向かって跳んだ。

 少々勢いが足りなかったが何とか鉄棒の上に着地できたオレはその細い棒の上を全力で走り、四度めの跳躍を行う。

 跳んだ先にあるのは、公園に植えられている木の一本。その幹に垂直に着地する。

 ガサリ、と木が震える音が耳に届き、慣性を失った身体が重力に従い始める。それらを感じながらオレは両足に魔力を集中する。

「せーぇ、…のッ!」

 そう掛け声と共に木の幹を両足で蹴り出す。

 全力で蹴り出した反動により、オレの身体は放たれた矢のように真っ直ぐ飛んでいく。

 着地点は最初に跳んだジャングルジム。

 障害物を跳び回るうちに、かなりの距離が空いていたはずだが、みるみるその距離が縮まっていく。

 このスピードでジャングルジムにぶつかれば、今のオレでは大怪我は免れない。思わず瞑りそうになる目を気力で開きつつ、身体の動きに神経を集中する。

 身体を包む慣性に逆らわず、その力を利用して前転宙返り。足の向きを着地点に向けて、鉄枠の一本を注視する。そして―。

「~~~~~ッ!!」

 足の裏から、もの凄い衝撃が這い上がってくる。

 鉄枠に着地したその衝撃は、礼装でも強化された物でもない、ただの平凡な靴が受け止められる許容を遥かに越える。

 ハンマーでぶっ叩かれたように骨にまで響く衝撃に思わず涙目になるが、歯を喰いしばってやり過ごす。

 痛みで乱れそうになった集中力を整え、次の―フィニッシュのアクションに入る。

 衝撃で感覚が鈍い両足に力を籠め、背中を反らすようにして後ろに跳ぶ。

 後方宙返り。

 天と地がひっくり反った逆さまの世界がオレの視界に入ってきた。

 そんな中でオレの意識は再び自身の内へ。

 

「投影開始(トレース・オン)」

 

 トリガーワードを口にすると同時に、待機中だった魔術回路に魔力が迸る。

 魔術の行使により、まるで両腕の神経や血管が熱を帯びたかのようにチリチリする。

 そして、その先。

 僅かに開いた掌の中で魔力が電気のようにスパークした。

 バリバリッと音を出しながら、その掌を刺す魔力の感覚の中で少しずつ感じ始める物質の質感。

 やがて、それは確かなものになり、オレの両手に納まったが、その時には既にオレの身体は落下を始めていたため、その出来を確認することもなく投擲の姿勢を取る。

 狙いは左と右。タイヤと、ベンチの上にそれぞれある空き缶。

 身体を独楽のように回転させながら、それぞれに狙いを定め、オレは両手のものを投げ放った。

 オレが投影し、投げたのはダークと呼ばれる真アサシンが使っていたあの投擲剣だ。

 ヒュ、と鋭く風を裂く音がした。

 投擲の威力は充分。速度も申し分ない。

 後は命中精度だが……。

「しょっ…、と」

 空中で切り揉み状態になった体勢を何とか整え、無事に地面に降り立つ。

 そのオレの耳に届く二つの音。カン、ザクッ、という二種類の音だ。

 顔を上げてみれば、オレが投げた2本のダークのうち、タイヤの方へ投擲したものは何とか空き缶に当たっていたが、ベンチの方へ投げたものはその狙いを外れて後ろの樹に刺さっていた。

 はぁ、失敗に溜め息が漏れる。またも、上手くいかなかったことに自然と肩が落ちてしまう。

 貫通の衝撃で跳ね上がった空き缶も、よく見ると上の方にギリギリ当たったって感じだ。

 気落ちしながら、クルクル回りながら落下し始めた空き缶をボンヤリ見つめる。

 そして、拾いにいかないとな、そう思った時だった。

 横合いから、飛んできた黒色の弾丸が落下中の空き缶に直撃した。

 2発、3発と続いて飛んでくる弾丸が甲高い音をたてながら、空き缶を何度も跳ねあげる。

 それを何とも言えない気持ちで見ていると、別方向でもカン、と音がした。

 視線をやれば、オレが外したベンチの方の空き缶が同じように空中で踊っていた。

 そして、それ等は同じタイミングで同じ方向に綺麗な放物線を描きながら飛んでいき――。

 カコン。

 最後に小さな音を立ててゴミ箱に納まった。

「…………アリシア」

「てへ☆」

「イラッ」

 やるせない気持ちになりながら、アリシアの名前を呼ぶも本人はイタズラ成功とばかりに尻尾をふりふりしていながら、そんなことを言うもんだから思わずイラッとした。

 だが、それも一瞬だけで再び気持ちが落ち込んでいく。

 はぁ~、と大きく息を吐いて滅入った気分を少しでも吐き出そうとしたが、それもあまり上手くいかなかった。

 それでも、意識を切り替えることには成功したオレは先程投げて樹に刺さったままになっているダークの元まで歩いていく。

 狙いが外れはしたが、やはり結構な速度と威力はあったようでダークは刀身の半ば程まで樹に食い込んでいた。

 だが、とりあえず、引き抜こうとダークに手を伸ばし触れた瞬間、ガラスが割れるような軽い音を立てて粉々に砕け散ってしまった。

「あ……」

「割れちゃったね~」

 割れて千々に砕けた贋作は、粉雪のように僅かばかり輝くと空気に溶けて消えていった。

「投影の強度もまだまだ、と…」

 口のなかでそう呟く。樹に刺さったくらいで砕けるならとても実戦レベルでは使えない。

「それで、採点は?」

 再び洩れた溜め息と共に足下のアリシアに問いかける。

 聞かれたアリシアは、むむむ…と少しうねった後にオレを見上げながら口を開いた。

「43点、…てとこかな?」

「……まぁ、そんなところか」

 少々辛口な採点結果に感じなくもないが、オレの自己評価も50点くらいだから、似たり寄ったりだ。

「で、でも、訓練始めて一週間も経ってないし」

 さすがに気が引けたのか、アリシアがしどろもどろになりながらフォローを入れてくる。最後に突き落としてくれた犯人ではあるが、その気持ちは有り難かったので素直に受け取っておくことにした。

「っと、もうこんな時間か」

 ふと、公園の時計を見上げれば屋敷を出てから、随分な時間が経過していた。帰る時間も考えればそろそろ切り上げ時だろう。

「そろそろ帰ろう、朝食に遅れるとアリサが怒る」

「そだね。それじゃあ、…………」

 口の中で小さくアリシアが何かを呟き、軽く尻尾をふると僅かに空気が弛む感じがした。

 同時にチリンという自転車のベルの音や、ザッザッと箒を振るう音、挨拶を交わしながらランニングする人たちの姿などが『静かすぎた』公園に溶け始めた。

 アリシアがかけた認識阻害の結界が解けた証拠である。

「もう何度も見てるし、役に立つからありがたいんだが、やっぱへこむな」

 難しいものではないとはいえ、もう使いこなし始めているアリシアと、てんで駄目なオレ。

 これが魔法なら、ここまで気落ちしなかったかもしれないがアリシアが使った結界は魔術に分類される。

 スタート地点は同じなのに、あっという間に水を開けられてしまっている。

「もぉ、何度も言ってるでしょ? 似たり寄ったりな技術のある世界で生きていた経験が活きているだけだって」

 もう少し慣れれば、すぐに追いつく。とアリシアは言うが、正直半信半疑なオレである。

「まぁ、他ならぬ相棒の言だからな。信じて頑張りますか」

「うむ。信じて頑張って下さい」

 猫面なので分からないが恐らくドヤ顔で言っているだろう台詞ではあるが、その声質は柔らかい。

 まだ僅かな期間ではあるが、そこに多少なりとも築き上げることが出来た信頼を感じ、オレの頬も知らず緩まった。

 

 不幸中の幸いと言うべきか。

 特典能力の分割が良い方に働いたのか。はたまた、運営(かみさま)のお詫びか。

 ただの一般人でしかなかったオレと、生前云々はともかく肉体を失っていたアリシアであるが。

 どうやら、いつの間にか魔術師&魔導師としてデビューしていたらしい。

 思えば、兆候はあった。

 異相体に襲われながらアリシアと合流したとき、子供の足でアレから逃げれていたこと。

 戦闘の最後に常人なら即死レベルの攻撃を受けて、重傷とはいえ命を繋いだこと。

 どうやら、これらはオレが無意識に魔術や魔法を使っていたことによるらしい。

 自分では気付いていなかったが、あれだけ痛めつけられた身体の治りが目に見えて速かったのと、何だか最近身体が軽いな~と思っていたら、同じことを感じたアリシアに軽く身体を調べてもらい、判明に至ったわけである。

 当初、その事実を知った時は素直に喜んだ。

 本来の特典である英霊能力に使用時間、使用宝具に制限が設けられている状態で、それに頼らずに戦える力があることは充分にありがたいと、そう思った。

 だが、実際はそうは問屋が卸してくれなかった。

 まず、魔術師、魔導師になったといっても取って付けたくらいに微々たるもので、しかもその微々たる力ですらもて余す状態なのである。

 完全に後付けされた才能に、常人でしかないオレの感覚が付いてこれないのである。

 例え、絶対に切れないロープをつけているとわかっていてもバンジージャンプするのが怖いのと変わらない。

 ほんの少しの、常人を越える身体能力ですら活かしきれないのが今の現状だ。

 なので、今は強化された身体能力とその感覚の慣らしを主軸に戦闘技術と魔術・魔法の訓練を平行で行っているのだが。

 ここでも問題が。戦闘訓練って、どうやればいいのでしょうか? という根本的な問題が浮上した。

 そも、この世界に来る前は運動そのものをあまりやらない完全なインドアなオレである。

 そんなオレが、プロフェッショナルな戦闘技術を修得するためのノウハウなんぞ持っている訳もなく。

 結果、独学で訓練を行ってみるも結果はあまりよろしくない。

 もちろん、こういった技術が一朝一夕で物に出来るとは思っていないが、あまりに手応えが感じられないのだ。

 一週間近く、四苦八苦しながら特訓しているが主観的にも客観的にも子供がヤンチャしているようにしか見えない、―要は素人臭さが全く抜けないのだ。

 アリシアともその辺り話し合い、特典能力でアーチャーになり、そのときの動きを覚えてトレースしたり、時間を見つけて街の本屋に繰り出して、空手やら剣道やらの教本を立読みしてみたりと色々試してみたが、やはりしっくり来ないのだ。

 戦闘のスタイルが合わないのか、訓練方法の問題なのか。それとも、もっと違う何かがあるのか。

 今のオレ達では、それも判断できない。

 誰かに教えを請うことが出来れば、まぁ、一番良いのだろうが、こんな子供が実戦向きの剣術を教わりたいなんていっても怪しい奴と思われるだけだろうし、そもそもそんな人物がいるのか? という話である。

 まさか、『二刀流の実戦向きの剣術を扱う流派が道場を開いている』なんて都合の良い話があるわけでもないだろうし。

「この件に関しては、もっと違うアプローチを考えないといけないか」

「なに? 何か言った?」

 ポツリと溢した呟きにアリシアが反応して、声をかけてきた。何でもないと言いながら、手を振るとアリシアもそれ以上追及してこなかった。

 とりあえず、戦闘技術に関しては今はこれ以上考えても意味はないので考えるのをやめよう。

 そう思いながら、斜め横をトテトテと歩く黒猫の姿をみる。

 ちなみに、魔術・魔法に関しては戦闘技術程の心配はなかった。

 というのも、全てアリシアのおかげであるのだが。

 アリシアが生前、魔法がある世界にいたのは聞き及んでいたし、先の戦闘の最中にも使えるみたいなことを言っていたのを聞いている。だが、やり方を知っているだけみたいな自信のない言い方だったし、アリシアの容姿から長く知識に触れられる機会があったように思えなかった。

 なので、多少なりともアドバイスが貰えれば御の字と思っていたのだが、アリシアは良い意味でオレの予想の斜め上を行ってくれた。 

 魔法の基礎知識、運用方法、基礎の訓練方法。それらをアリシアは完璧に披露してみせたのだ。

 さらには、オレと違い特典能力でキャスターになった時に上手いことその知識の吸い上げに成功しており、そこから魔術の使い方やノウハウの構築も行っている。

 そこまで完璧にこなされてしまえば、もう脱帽するしかない。

 素直にアリシアを褒めながら、一方で自分の駄目っぷりにへこみまくる。

 その度になんやかんや言いながら、気配りの出来るアリシアにフォローされる日々に、もうこれアリシアが主人公じゃね? と思ったりしなくもなかったりしている。

 何か最終話のエンドロールで三番目くらいにオレの名前が来そうな勢いでこわい。

 ……話がズレた。

 まぁ、何はともあれ、アリシアがいてくれたおかげでせっかく手にいれた魔術・魔法を使えないという事態は避けることができた。例え、微々たるものでしかないにしても手元に戦力というカードがあるだけで精神的にも安程してくる。

 それにしても、と思いながら目を瞑る。

 その脳裏に思い浮かべたのは、人間状態のアリシアの姿だ。

 アリシアは謙虚に色々言っていたが、紛れもなく彼女は天才だ。

 死後、どれだけの時間が経っているのかはわからないが、彼女が合法ロリでない限り、アリシアの生きた時間は恐らくとても短い。普通なら専門知識はもとより、一般教養を学べていたかどうかすら怪しい年齢だろう。

 にもかかわらず、これだけのことをやってのけてみせたのだ。天才、と呼ぶ以外に他に呼び方を知らない。

「――――」

 ふと、自分の過去が脳裏をよぎった。

 かつて、自分も天才と呼ばれていた頃があった。

 人より多くを学び、人より速く理解し、人より先の発想をした。

 それが果たして、正しく天才と呼ばれるに相応しいものだったのか。

 その時は、どうでも良かったし興味もなかった。

 だが、今、こうして『本物』を前にすれば考える必要もなく理解できる。……ちがう、と。

 そして、だからこそ、本物の天才を知ってしまったからこそ疼く想いもあった。

 もし、自分が『本物』だったら。アリシアであれば。

 彼女を――――、

「……訳ないか」

 頭に浮かんだ馬鹿な考えを首を振って否定する。

 今まで、どれだけ同じようなことを考えたとおもっている。そして、どれだけ無意味なことだと思ってきた。

 たれ、れば、と言い続けたところで何も変わらない。過去が覆る訳でもない。過去を省みようとしないような思考はただの感傷だ。

 大体、その『本物』のアリシアだって何でも出来た訳じゃない。だがら、こうして幽霊になってここにいるんだろうに。

 

 ――『助けたい人がいるの』――

 

 ふと、ここに来る前にアリシアが言っていたことを思い出した。

 アリシアはアリシアで目的を持ってここにきたのだ。

 今の今まで、目の前のことでいっぱいいっぱいだったためにその事について言及する余裕も機会もなかったが、この少女の願いを叶えてやることもここでやるべきことの一つだ。

 丁度良いから、アリシアにその『助けたい人』について聞こうと口を開きかけたところ、前方から声が飛んできた。

「ゼン!」

「アリサ」

 名前を呼ばれて、そちらに視線をやればそこには自称オレの保護者のお嬢様がいた。

 両サイドで括った髪をぴょこぴょこ上下させながら、オレの方へ駆け寄ってくる。

「ちょっと、もう! どこまで行っていたのよ! 遅いから心配したじゃない!」

 駆け寄ってくるやいなや、腰に手を当てて怒り出すアリサ。ぷぅと膨れた頬が愛らしい、…じゃなくて。

「どこまでって、いつもの公園まで、…なんだ、けど……」

 ちなみにこの早朝の訓練については、周りにはリハビリと言って出てきている。実際にリハビリも兼ねている部分もあるから、まったくの嘘というわけではない。

 公園まで訓練をしに行き、朝食の時間に間に合うように切り上げた後、アリシアと反省点やら何やらと話をしながら屋敷まで戻ってくるというのが最近の朝の日課だ。

 今日も同じ時間に訓練を終えて公園を出たから、遅くなったということはないはずだ。

 いや、今日はちょっと思考が深くなりすぎたせいでいつもより足並みが遅かったかもしれないが、それでも僅かな時間でしかないはずだ。

 そう思いながら、視線を怒れる金髪娘から横にずらせば、いつから居たのか、老執事が苦笑しながら控えていた。

「お嬢様は、まだ万全な体調ではないあなたが何処かで倒れてしまっていたらと心配なだけなのですよ。いつも、帰ってくるまではこの御様子なのでお気になさらず」

「ちょっと、鮫島!? 何を言うのよ!」

 瞬間、今までとは違う意味で頬を朱に染めたアリサが老執事に食って掛かかる。ちがうだの、そうじゃないだのと、うにゃうにゃ言っているが老執事はわかっておりますと言いたげな表情でそれらを流していた。

「そっか、心配かけたみたいで悪かった、アリサ」

「だから、そうじゃ……っ! ああっ、もう! 悪かったわねっ、心配してて! 誰かさんが初対面から血塗れで倒れているなんてことをしてくれたせいで、気が気じゃないのよ!」

「いや、だから、ごめんて……」

「別に謝んなくていいわよ、………………ばか」

 尻すぼみに小さくなっていくアリサの言葉に、苦笑して頷く。

 余談ではあるが。

 アリサのことは今は呼び捨てにしている。

 お世話になり始めたころはアリサちゃんときちんと呼んでいたのだが、そこそこ親しくなると女の子をちゃん付けで呼ぶことに慣れていないオレと、同年代の異性からそう呼ばれ慣れてないアリサとの利害が一致し、こういう結果になった。代わりに、バニングスとかと呼ぼうかとも思ったがアリサがあからさまに嫌そうな顔をしたため、ここに落ち着いたのである。

 そのアリサはというと、先程のやり取りが恥ずかしかったのか軽く俯き気味に顔を逸らしている。

 そのせいでアリサの頭がまるで差し出されるようにオレの目の前に来ていた。

 そのふわふわで綺麗な金髪に思わず、手が伸び――、かけたのを踏みとどまる。

 どこぞのラノベ主人公や転生者ならここでホイホイ女の子の頭を撫でて、ぽっ。的な展開があるのかもしれないが、オレのデフォルト装備に撫でポはない。故に自重。

 とはいえ、この日本では滅多に見ない100%天然の金髪を純粋に撫でてみたくはある。

 ……お願いしたら、触らせてくれるだろうか。

「って、何考えてるんだ? オレは……」

 お願いして女の子の髪の毛をさわさわしようとか、変態か! つーか、何気に髪フェチだったりするのか、オレ?

 いや、でも、アリシアの金髪には何も感じなかったし…………、って、また、思考がおかしな方向に!

「ちょ、ちょっと、大丈夫!?」

 何を思ったのか、いきなり首を思いっきり振り始めたオレの奇行に驚いたのか、アリサが声をかけてくる。

「あぁ、大丈夫。多分、……思春期なんだ」

 もしくは、春か。

「は?」

「ごめん、本当気にしないで」

 何だろう、朝からナーバスになりながら頭使ったからか、頭より先に口が動く。

「もぉ、ほんとに大丈夫? …やっぱり、心配だから私も付いていった方が――」

「いやッ、全然、大丈夫だから! ほらッ」

 アリサの発言にオレは慌てて、腕などを大きく振って大袈裟に平気だとアピールする。

 心配してくれるのは有り難いが、一般人のアリサに戦闘訓練を見せることは出来ない。

「それに、アリサは色々と忙しいだろ? 気持ちだけ受け取っとくよ」

 未だ小学生のアリサではあるが。

 このお嬢様、やはり伊達ではないらしい。

 バイオリンなどの習い事から、同年代より1、2ランク上のカリキュラムが組まれた塾やらが、ほぼ毎日、当然のように予定に組み込まれている。

 さらに、それらの予定がないときは大好きな(というと真っ赤になって怒る)友人と遊び倒すという、もはやリア充通り越してどこのエリート社会人よ? と言いたくなるようなパーフェクトお嬢様ライフを邁進しているのがこのアリサである。

 なので。

 この上、オレに付き合って早起きなんてさせられない。

 本人はこの通り元気いっぱいなのだが、オレのせいで余計な負担は掛けられない。

 只でさえ、色々迷惑をかけているというのに。

「ふーーーん……」

 ジト目でこちらを睨んでくるアリサに、思わず冷や汗が流れる。

 このお嬢様、やけに機微に敏感なところがあるからこちらの考えを見透かされそうでヤダ。

「とにかく、飯にしよう! 遅くなってるなら急いだ方が良いし、オレも腹減った、し………」

 話を逸らそうとしたオレではあるが、アリサのジットリとした視線に勢いをなくし墜落。

 こちらから視線を外そうとしないアリサに気圧されながらどうしようと視線を巡らせれば、微笑ましいものを見るように穏やかな表情の老執事が一人だけ。

 助けてほしいと視線で訴えるも効果がない。駄目だ。

 ちなみにアリシアは鼻先を飛んでいた蝶々を捕らえるのに夢中で役に立たない。

 そうして、右往左往しているとアリサがハァ、と大きくため息をついた。

「まあ、今回はこれで許してあげる。だから、次からはきちんと時間通りに帰ってくること!」

 ピッ、と鼻先に突きつけられた白い指先に思わず頷くとアリサは満足したのか、じゃあ、ご飯にしましょと言って屋敷に戻っていく。

 その姿に、ほっ、と一息ついて後に続こうとして――、あ、と何かを思い出したアリサの声に足が止まる。

「ゼン」

「………………なに?」

 振り向いたアリサの満面の笑みに顔の筋肉が引きつく。

「いつものアレ、よろしくね?」

 ――あれ、やっぱり怒ってね?

 アレって、アレか。まあ、仕事だし拒否る理由はないが、イヤな予感に身体の震えが止まらない。

「了―」

「制服で」

「――――ぇ」

「よろしくね♪」

 それで勘弁してやる、と言いたげなとても素晴らしい笑顔でそう宣うお嬢様。

 完全におちょくってやがる。ふふん、とか鼻で笑ってるし。

 ここは素直に引くのが、一番波風が立たない方法だろう。だが、その先は羞恥プレイという名の地獄だ。

 羞恥に身を震わす敗者オレと、それを見下ろす勝者金髪。そして、ぬこもどき。

 脳内に描き出された最悪の未来を速効で焼却する。

 却下だ。確かに、お世話になっている身で心配をかけたのは悪いとは思うが、そうホイホイ言うことを聞くと思われては困る。

 その先は地獄だぞ、と言われて進むのは赤い人達だけで充分だ。

 そう決断したオレは、徹底抗戦の構えで口を開こうとして――。

「ね♪」

「ハイ」

 追撃の、お嬢の微笑(スマイル・オブ・ザ・アリサ)に屈した。エガオコワイ。

「素直でよろしいっ、あ~、なんか急にお腹すいてきちゃったわ~」

 ぬけぬけとそんなことを言う金髪小悪魔。おのれ。

 色々言ってやりたいが、大人しく口を閉ざす。別に、このロリが怖い訳じゃない。……断じて、ない。

「さて、それじゃ、早く戻って朝食にしましょ?」

「……了解した」

 地獄におちろ、ツンデレ。

 せめてもの抵抗に心のなかでそう呟いて。

 確定した未来にオレは頭を抱えた。




 ゼンとアリシアは補填能力としてリンカーコアと少し特殊な魔術回路が備わっています。
 ちなみにゼンの魔術師の能力のベースは衛宮某で、アリシアはあかいあくまです。
 アリシアがアレだと知った時のゼンの言『解せぬ』
 
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