ハッピーシュガーラブライブ!   作:夕霞之

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 初めまして、夕霞之といいます。
 突然ですが本作のオリ主を紹介したいと思います。

 夕下(ゆうか)純行(すみゆき)
 音ノ木坂学院(共学)三年。アイドル研究部、生徒会に所属。役職は庶務。
 ミューズの雑用係として彼女たちを支えている。
 感受性が狂っている変人である。


一日目午前の部 女神に救われ、心は巣食われ。

 ……知らない天井だ。

 

 なんて言葉を使うのは……初めてか。

 

 真っ白に塗装された天井と、そこに貼り付いたままボーッとしているような棒型の蛍光灯とを見つめ合っているうちに、意識が完全に覚醒したようで、この空間での違和感に気付いた。

 

 少女たちの声が聞こえる。それも聞き慣れた声だ。

 

 俺を囲って談笑でもしているのだろう、しかしどこか真剣味が含まれているような声音だということが分かる。

 

 声自体は聞き慣れたものだが、醸している雰囲気には慣れていない。これを最後に体感したのはいつだったか。

 

 そうやって記憶を巡らせていると、視界の右端から少女の顔がニュッと出てきて、

 

「ゆきくんが起きた!!」

 

 と青い目を大きくして声を上げた。同時に勢いよく顔を上げたため、オレンジ色のサイドテールが派手に舞い上がる。

 

 次の瞬間、視界の両端から八人分の顔が追加で生えてきた。オレンジサイドの少女も釣られてまた出てくる。

 

「……何君ら。ちょっと怖いぞ?」

 

 切羽詰ったような表情で出てくるものだから少し苦笑してしまう。

 

 一旦離れさせようと手で払うつもりが、動かした途端、肝心の右手に切られて刺されたような激痛が走った。

 

 思わず顔をしかめたせいか、またオレンジが声を大きくして、

 

「ゆきくん動いちゃダメ!」

 

 なんて叱られてしまった。

 

 その間に上げたまま悶えている包帯で巻かれた右腕が、誰かに優しく下ろされて寝かしつけられた。

 

 誰が、なんて思って目だけで辿ってみると、どうやらベージュ色の少女がしてくれたらしい。

 

「大丈夫? 無理しないでね、すみくん」

 

 そう言って彼女は微笑んだ。どことなくもの悲しそうな、そんな笑みであったが。

 

 一体どうしてそんな顔をしてるんだと尋ねたくなったが、口を開く前に今度は青の少女がこう言った。

 

「よかったです。すみゆきが、めをさましてくれて、よかったよぉ……」

 

 彼女の赤く腫れた目に涙が浮かぶ。

 

 悲願が叶ったように震える青を撫でようと……出来ないか。さっきの熱い物に触ったような痛みを思い出して断念した。今の俺に出来るのは、

 

「心配かけてごめんな?」

 

 と声を掛けるくらいだ。もっと他に言うべきことがあるんじゃないかと思えるが、そういうのは今言うべきではないだろうな。

 

 いや、一つ言うべきことがあったな。

 

 今、ここはどこで、俺はどうなっているのか。

 

 その疑念は赤の少女によって晴らされた。

 

「ユキ。あなた、入院はしたことないかしら?」

 

「ないな。うん、ない」

 

「じゃあ、これが初めてになるのね。……――キの、――めて……」

 

 遠回しな彼女の言から察するに、どうやらここは病室らしい。それも、俺以外に他の患者がいないから、もしかすると個人病室なのかもしれないな。

 

「なあ真姫、俺はどうなったんだ?」

 

「……身体の数ヶ所に切り傷と刺し傷で失血死手前。何とか縫い合わせて輸血して間に合わせたってところよ。急所とか致命傷がないのはあなたの悪運ね」

 

 淡々と告げる彼女に「そうか」とだけ返し、

 

「でもしばらくは絶対安静だからね。深いのがあるんだから」

 

 とも厳しく警告され、俺は苦く笑った。

 

 すかさず今度は緑の少女と黄色の少女が語りかけた。

 

「ゆっくんがあの時、血をたくさん流してたから、花陽たちすごく心配したんだよ?」

 

「誰もいない公園で、ベンチの上で、今にも死んじゃいそうなゆっきーの顔を、今でも覚えてるにゃ」

 

 俺もきっと彼女たちの今の顔を忘れることはないだろうなと思いながら、二人の悲痛な――緑の方はどことなく恍惚を孕んだような――目を見つめる。

 

「花陽、凛、助けてくれてありがとな?」

 

 そう言うと、二人はこの意味を察したらしく、

 

「……もう、一人には、させません」

 

「勝手に一人になって、勝手に死んじゃいそうになって……ゆっきーはきっと本物の猫ちゃんなんだよ。救急車の中でも、青くなってるだけでフツーに眠ってるみたいだったもん」

 

 なんてことを言い出して、迷惑を掛けてしまったと罪悪感を持たずにはいられなかった。

 

 それはすぐにベージュ色によって和らいだが。

 

「ことりなんか、すみくんが倒れてるって聞いて慌てて外に行こうとしたら足の小指をぶつけちゃったんだからね?」

 

「こっ、ことりが? ぷっくふふふ……」

 

「もぉーっ、すみくん笑わないでくださいっ」

 

「ごめんごめん。……ぷ」

 

「もぉー!」

 

 涙目で震えるベージュ色が容易に想像できるんだから仕方ないじゃないか。可哀想だから言わないけど。

 

 でも……そっか。助かったんだな、俺。あの時は終わったと、死ねてしまったんだと思ってたしな。

 

 感傷に浸りながら笑っていると、金の少女が、いつかの生徒会長の時と同じような顔つきで、これから真面目な話をするかのように尋ねてきた。

 

「ねえ純行、今からする話を聞いてくれる? 君が起きるまでの間にミューズの皆で決めた、大事な話なの」

 

 水色の瞳が真っ直ぐ俺を見据える。何か覚悟を持っていると見えるのは、気のせいではないだろう。

 

 当然、それを無下にするわけにはいかない。が、何となく気乗りしないこともあってか、

 

「うーん、まあ……いっかね。いいよ。どうぞ」

 

 と渋々承諾してしまった。

 

 それに構わず、金の少女が意を決して口を開いた。

 

「ミューズは今日をもって解散することにしたわ。普通の女の子に戻って、普通の生活を送って、普通の恋愛をするために」

 

「うん? カイサン?」

 

 気乗りしないのはこういうことだったのかと思っているうちに、紫の少女が補足する。

 

「解散はするけど、皆がバラバラになる訳じゃないんよ? 九人と一人が、いつもみたいに、一緒にいる。それがずっとになるだけ」

 

「アイドルは? アイドル活動はどうするのさ?」

 

 その疑問はすぐさま黒の少女によって解消された。

 

 なんてことはない。さも当たり前のように、まるでいつもの他愛のない会話に応えるように。

 

「もちろん続けるわ。あんたが望むなら、いくらでも。あんただけのために歌って、踊ってあげるわよ」

 

 いつもの呆れたような笑みを浮かべて。

 

 でもそれは、何か違うんじゃないのか。

 

 思わずそう否定したくなった。だけど、言葉が胸中から出てこない。むしろ傷はないはずの胸が痛む始末だ。言ってはいけないと、そう誰かが戒めている気がした。

 

 惚けているうちに、俺の頬がオレンジの少女の右手に包まれた。

 

「だからね、ずっと、ずうっと、穂乃果たちのそばに、ここにいてほしいんだ」

 

 そうすればゆきくんを守れるから、そうとも付け足して。

 

 だがそれでも言わなければならない。誰かからの戒めを、彼女の温かさを無視してまで問う必要がある。

 

「なんかそれ男が廃れそうよな。拒否権はあるのかい?」

 

 本気で、それを望んでいるのかを。ミューズがミューズであることを辞めて、たった一人の雑用係(ファン)だけのアイドルになるのが彼女たちの選択なのかを。

 

「拒否権? そんなのあったかなぁ? ねぇことりちゃん?」

 

「もしかしたらあるのかもしれないね。でももしかしたらなかったりしちゃって」

 

「しかし、拒否する理由はあるのでしょうか。外は危険ですし、ずっとここにいた方がいいですよ」

 

「ミューズのみんなでゆっきーをお世話するにゃ!」

 

「何かしてほしいことがあったら、花陽たちにいつでも何でも言ってね?」

 

「入院費用とか治療費とかはこっちが何とかするから、ユキは私たちから離れないこと。良いわね?」

 

「純行が嫌がるのは分かるわ。でも、私たちはもう君を失いたくないの」

 

「だからこうしてゆっくんを監禁することになったんやけどね。……ごめんな? こうすることしか想いを伝えるどころか、安全を確保する手段がなかったから……」

 

「にこのことは心配しなくてもいいわ。アイドルになるって夢は、もうとっくに叶ってるんだから」

 

 当然のごとく、是。それが、彼女たちの総意だった。

 

 だが不思議と嫌とは思えない。むしろその逆で、彼女たちのそんな声を聞けて、何だか胸が透くような気持ちだ。

 

 ミューズのしがない雑用係が女神たちに救われて、それで気分が浮つかない訳がない。だから、つい口走ってしまったのだろうな。

 

「君らがそう言うんなら、まあいっかね」

 

 本当に女神たちに救われたのだろうかと思いながらも。




 そんな訳で第一話でした。
 こんな感じでお話が進みます。基本的にはヤンデレミューズとイチャイチャします。でもたまに修羅場ります。んでもってオリ主がどうしてああなったのかという真相が少しずつ明かされます。いやそれはただ単にオリ主がめんどくさがって語らないだけなんですけれどもね。
 あと彼の感受性が狂っているっていうのは、なんだかんだ「まあいっか」で済ましたり、何かが違うのは分かるけど何が違うのかがさっぱり分からんかったり、極めつけにアホだということです。
 それでは次回予告。
 ミューズに監禁されつつ看護されて、たまに看護師さんが入ってくるけどそれに嫉妬されてナースコスで世話される話です。
 評価が良かったらペース上げて書くかも。

 それではお疲れ様でした。
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