なんかいつもより(?)ギリギリでした。まさかの月末投稿っていう。
お盆にでも完成できたらいいなと思っていたら帰省失敗しましたよ。
まあまあ、とりあえず一読を。
ゆっくんと暮らすようになってから、彼の頭を撫でることに抵抗がなくなってきた。
手持ち無沙汰だからってのもあるし、個人病室っていう非日常空間の効果とか、私の気持ちとか、原因に心当たりが沢山ある。……ありすぎる気がする。ここしばらくドタバタしてたからなぁ。それまでは恥ずかしくて怖くて出来なかったのに、なんか吹っ切れたかも。あの海未ちゃんも躊躇なくゆっくんをナデナデしとったし。
「お、ゆっくん眠たそうやね」
半目になったり目を瞑ったり忙しい彼の頭のてっぺんにそっと手のひらを乗せる。
こういう時の彼の顔って、とろんってしてて、全然怖くなくて、むしろおいしそうで(?)、何もかも委ねてくれている感じがして好き。ずっと傍にいたくなっちゃうし甘やかしたくなっちゃう。
「……くぁ」
お、欠伸した。とろとろ具合が可愛いから撫でよ。
「きょーもひまやんな」
「んー? 暇なの嫌?」
「よなかにらーめんとしめのごはんたべるくらいのざいあくかん」
「んふっ」
ゆっくんは真面目なんやねぇ。何もしないことに意味はないって
偉いからもっと撫でたろ。……馬鹿にしてる訳じゃないよ?
「なしてみなしてあたまなでるがじゃ」
「どこの日本語なん?」
「とうきょう」
「んふっ」
撫でる手はそのままに、彼の顔を見つめる。
今にも寝落ちしそうな程のぷわぷわ感。蕩けた目。呂律の回らない口。胸がぽかぽかするって話、本当にあるんやねって今の彼を見てて思ったわ。
「それはね、ゆっくんにしたかったからなんよ。みんなゆっくんの頭を撫でたかったんよ」
「さよーでか……」
そうして彼は目を瞑り、
「まあ……い、か」
静かな息を立て始めた。……おでこのとこ汗で前髪がくっついとる。
髪をめくりあげ、持ってきたハンカチでおでこを拭う。
そしてそのおでこにキスをした。
今夜からはどうか幸せな夢が見られますように。
「おやすみなさい」
彼の額から手を離す。思考のスイッチを切り替えて、彼からミューズの皆に目を向けた。
「ゆっくん寝たよ」
誰かさんたちが羨ましそうにしとるやんと思うけれどそれはさておき、えりちが舵を取るように口を開く。
「ありがとう希。じゃあ昨日の続きにしましょうか」
そう、昨日の続き。海未ちゃんが寝ているゆっくんの腕にちゅーした後にした話の続き。
昨晩、
『高坂穂乃果を使い倒した夕下純行を許さない』
海未ちゃんとことりちゃんが見つけた、くしゃくしゃの一枚の紙。その内容が今挙げたものになる。ことりちゃんの留学の件で相談するため部室を使っていたときに発見したのだそう。
それから同じ状態のものがもう二枚。
『ミューズを誑かした罪は重い』
『ミューズに夕下純行はいらない』
上は同じく海未ちゃんとことりちゃんが部室で見つけた後にそれぞれ持っておこうと決めて、ことりちゃんが預かっているもの。下は花陽ちゃんが公園でゆっくんを見つけた時に拾ったもの。
どれもパソコンで打ち込んで作ったような代物で、筆跡による人物推理は無理だと分かる。
それでも確信できることがあって、それが、
・ゆっくんに悪意を持ったストーカーがいること
・そのストーカーが私たちミューズに執着していること
・ゆっくんが入院するほどの怪我はストーカーによるもの
・これ以外にストーカーに関する情報がほぼないこと
・ゆっくん本人はこれらの件について私たちに話すつもりがないこと
こんな風の内容で、昨晩の話し合いを通してこれらを皆と共有した。それからはゆっくんが目覚めたり寝直したりを繰り返していたから、完全に寝入るまで彼に構っていた。
そして今日。
えりちが集まったミューズに向かって口を開く。
「昨日、純行を襲った人の情報がほとんどないって話を覚えてる?」
「凛と花陽が後姿を見たってくらいでしたよね」
「うん。ゆっきーやにこちゃんと同じ黒い髪で」
「あと、ゆっくんより背が高かったかな」
「それで、凛たちの声に気付いたのかその人が逃げていったと。合ってる?」
こくりと頷く凛ちゃんと花陽ちゃん。
えりちが人差し指を顎に当てながら言葉と思考を続ける。
「どこに行ったのかも分からないし、顔も名前も知らないのよね」
「学院の関係者なのかも分からないんやし、捕まえるにも骨が折れそうとちゃう?」
「そうなのよね。かといって放置すると……」
「ゆきくんがまた襲われちゃうってことだよね」
ふと聞こえた方へ振り向く。
穂乃果ちゃんだ。俯いているせいで顔つきが分からないけれど──
「その襲った人、ここを見つけて、またゆきくんを殺そうとしてくるよ。ゆきくんのこと嫌がらせしてたんだもん。悪いのは穂乃果なのに、ゆきくんが傷つくなんて……」
──両手で顔を覆っても、むしろどんな気持ちかははっきり分かる。
ことりちゃんと海未ちゃんが穂乃果ちゃんに寄り添って抱きしめる。
悪いのは穂乃果なのに。
学園祭でのライブで穂乃果ちゃんが風邪で倒れたことと、紙に名指しで書かれたこと。穂乃果ちゃんはきっと、今回の出来事は自分が無茶したことによる罰だと考えている。
本当なら人の好い(はずの)ゆっくんがそれを許す形でフォローできればいいんだろうけど、多分しばらくは叶いそうにない。失血死手前の状態で励まされても説得力がないし、何より彼女はこれとは別の要因でも揺らいでいる。
ゆっくんがフォローするのは後々できるからいいとして、今はミューズのリーダーである穂乃果ちゃんをフリだけでも立ち直らせなきゃ。
でも、どうやって?
ゆっくんが起きている間は彼に心配させないようにいつもの態度でいるけれど、彼が眠りにつくと決まって落ち込む。意外な切り替えに最初は内心驚いたけど、まっすぐな穂乃果ちゃんらしく、中々立ち直ってくれない。
「馬鹿ねぇ。そうならないようにわたしたちがいるんじゃない。方法なんていくらでもあるのよ?」
胸を張るにこっち。対して凛ちゃんが、
「例えば?」
「そう、例えば……例えば……」
と詰まるにこっちに、
「何もないじゃん」
と変な口調。
「うるっさいわねぇ! ……あっ、しーっ」
「なんか注意されたにゃ。にこちゃんが悪いのに」
ここでウチが考えているのがいくつか。
ミューズが解散したことによって、九人が
つまり、こちらから情報を出すことはなくなった。だからしばらくの間ここが割れることはないはず。
ただ問題なのは、彼を安静にさせなければならないということ。居場所が知られる前に転々と寝泊まり……というようなことは今の段階ではできない。怪我の状態がよくなればあるいは……といったところ。まあ、両腕の包帯しか交換できてないからまだ時間がかかりそうだけど。
あとは……正直な話、なぜ警察に頼っていないのかが気になる。真姫ちゃんのお父さんが提案した時にゆっくんが何も言わなかったのもある。私たちもそうなんだけど。かといってはっきりと話題にするのも
ここは一つ、私が踏み込んでみる。
「警察には言わんの?」
……。
…………。
………………。
みんなが一様にして押し黙っている。ゆっくんが寝だした時点で静かな方だったんだけど、今は全くの無音。誰も口を開かない。
彼の安全を確かなものにするには必要なのにね。おかしいね。まあ私もおかしいんだけどね。
みんなおかしいから話題を逸らすのだ。
「そういえば、結局ことりちゃんの留学の話はどうなったん?」
昨晩はそのことで相談していたとしか聞いてなかったから、とりあえず。
……いや流石にこの話題はダメな気がする。穂乃果ちゃんが二人から体を離してことりちゃんを見てるし。あーあ。こうなるんだったら転校するって分かっててももっとちゃんといろんな子とおしゃべりすればよかったなぁ。
「え、えっとね……一回帰った時にお母さんには行かないって伝えてあるから大丈夫だよ。すみくんのことが心配だし……」
「本当……? ことりちゃんもいなくならない?」
「うん。……ごめんね穂乃果ちゃん。心配かけちゃって」
改めて二人が抱き合って、それを見た海未ちゃんが安堵の息をつく。ウチも結果的に穂乃果ちゃんを元気づけられたことやし安心。海未ちゃんとことりちゃんにもそうだけど凛ちゃんとにこっちにも感謝せんとね?
そうそう。今思い出したんやけど、考えていることというか、気になることがあるんよ。
「ねえねえ希ちゃん」
とまた思考モードに入ろうとしたタイミングで凛ちゃんが小声でやってきた。
「ああ凛ちゃん。穂乃果ちゃんを励まそうとしてくれてありがとうねぇ」
「えへへ。それで、ゆっきーが言ってたことで気になることがあって──」
「真面目に話すまでもない、やろ?」
そう、これ。自分のことになると必ず誤魔化して話すゆっくんが初めて口にした本音。厳密にいえば本音じゃないかもしれないけど、それに近しい嘘みたいなものだと確信している。自分のことは話したくない、ていうのをウチらががっかりしないために加工したのかも。
「やっぱり希ちゃんも気になるよね? もしかして凛たちには言えない秘密があるのかにゃ?」
「ストーカーのこともそうやもんねぇ。見つけた紙見せても自分で作ったって言い張るよきっと」
「言いそー。今回の怪我なんかも、派手にすっ転んだーって嘘ついてそうにゃ」
「向こうには殺意があったって言ってたのにねぇ」
「ほんと、ゆっきーは凛たちがいないとダメダメだにゃ」
それこそ、守るだけじゃなく、お互いのために。
彼のことを知るために。彼と添い遂げるために。
私たちは、彼と生きるためにアイドルを辞めた。
「だから何でもしてあげたくなる。そうやろ?」
「うん!」
思えば彼と知り合ってからもう二年も経ってるんやねぇ。何でも、それこそちゅーとか裸を見せる以上のこととかをしてあげたいってのは最初の頃は考えられんかったっけ。
ゆっくんも今とその時とじゃすっかり変わった気がするなぁ。真面目で優しくて面白くて、でもやけに他人行儀で。それが今じゃ他人行儀から秘密主義になっとる。……よくよく考えたらそんな変わってないやんな? 彼がアイドル研究部に入ってから他人行儀禁止令が出るまでの間ミューズ全員に敬語を使っていたことがあったけど、それは気になるほどやなかったし。生徒会に入った時からそんな感じやったからね。
「凛ちゃん、ゆっくんが元気になったら何してあげたい?」
「えっとね、美味しいラーメンを一緒に食べたいにゃ!」
「お、ええやん。ゆっくん絶対に喜ぶよ」
「今から楽しみだにゃ! 希ちゃんは?」
「ウチ? ウチは……願いを何でも叶えてあげたいかなぁ」
「おー。希ちゃんなんか神様みたい」
「のぞみん女神様やもん」
「んふっ。ゆっきーみたいなデタラメ言ってるにゃ」
「そりゃ好きな人の真似くらいしたくなるやん?」
分かるーと賛同を得たところでゆっくんに目を向ける。
穏やかな表情で眠っているからして、どうやら悪い夢を見ているわけではなさそう。……うん。よかった。
そのまま彼の顔を見つめる。目蓋。鼻。口。口。口。
海未ちゃんもきっと口の方に目がいって悩んだんやろなぁ。何にって、そりゃあ、男の子と女の子の口のことといったら一つしかないやん。
……まあ、そういうのはゆっくんの同意を得てからがええね。ウチがしたいことであっても彼のためになるかは分からないんやし。むしろ起きているときの方がドキドキしてくれそうで楽しみやったり。
それでもたまらないものがあるので、おまじないを兼ねてもう一度彼のおでこに口づけた。
それを見た凛ちゃんがまた騒ぎだしたけどそこはまあ、わしわしでお口チャックしてもらうとして。
……結局、これからどうするかちゃんと決められんかったなぁ。
はい。お粗末様でした。
のんたんや凛ちゃんの口調が迷子気味なのって、中々のギャップだと思うんですよね。のんたんはただの優しい美少女と化しているし、凛ちゃんは年相応の素直な女の子だしで。ギャップの話しかしてないなこの作者。
いやほら、非常時の対応とか気持ちとかはその人の本性の表れだっていう話をよく聞くのでね、素敵な女の子たちであってほしいなという願望を込めて書きました。
素敵であればあるほどドロドロにデレさせ甲斐がありますからね。
それではまた来年、お会いしましょう。次こそお盆に間に合わせたいものです。
次回予告は来月あたりにでもします。おまけは今日中にでも。
次回予告ですよ。
暇だ。暇すぎる。いい加減寝たきりから卒業したい。仕事したい。勉強もしたい。美味いもの食いたい。しかし動けない。まだ動けない。心が折れそうだ。
そんな雑念が胸の内に蔓延る中、そういえばと思い出すことがある。
こいつらってさ、学校行かんのかね? それだけじゃない。俺、昨日一日でとんでもない失言を口にしたかもだ。ふむ、もしかしてこの二つ、つながるのでは……?
学校に行かないのか問題は今日の担当にそれとなく聞くとして、なんとか対策を練らないとな。