ハッピーシュガーラブライブ!   作:夕霞之

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 あれ? お盆には更新するって話は……?

 そう、またギリギリの投稿です。うっかり興に乗りました。

 もうこれお盆投稿とか帰省投稿とか無理ですね。「八月中に投稿する」が限界です。

 ともかく本題です。召し上がれ。


三日目午前の部 巣立ちか帰巣か。

 気持ちよく起きるというのは随分久しく怠さや汗の不快感がないことに違和感を覚えた今日未明。窓の外が白みがかっているのを見てつい癖で上半身を起こしてしまった。ここに来る以前は朝の四時半くらいに起きて一日の準備と教科とかアイドル関係とかの自主勉強をしていたものだ。だからうっかり怪我をしていることを忘れてしまっていた。

 

 右の掌は相変わらず痛むが昨日ほどではない。体中の至るところに傷があるものの、深いものは右手を除いて上半身にはない。避けに避けまくったおかげで大体の傷は浅く、加えてそういった痛みには慣れていたことから特に問題なしと判断した。

 

 真姫に見られたら冗談抜きで殺されるかなと壁際で寝袋に包まれている真姫を見やり、口角が上がるのを覚える。普段はあんなつっけんどんな顔でも可愛いし頭がいいし優しいし気が利くし何より寝顔が可愛い。それでいながら冗談を言えるような面白さもあるのだから以下略。キリがないので自重。

 

 ふと気になって自身の腕を枕にして突っ伏し寝している希を眺める。呼吸に乱れはなく、苦しそうにしているわけでもない。ただの少女と女性が入り混じったあどけない寝顔であって、見ていて可愛らしいなとか綺麗だなとかの当たり前の感想を抱かせるだけのものだ。

 

 それを見て俺は柄にもなく安堵を覚え、動かせなくもない左手を彼女の頭に乗せようと操作した。乗せずに元の位置に戻す操作をした。

 

「ぬかったな」

 

 砂糖が水に溶けるように、独り言が静寂に消える。

 

 よもやというかなんというか、数多あるトラウマで構築した自分ルールを自分の手で破ろうとするなんて俺は一体どうなってしまったんだと嘲笑する。海未のときもそうだった。痛みのせいで実行できなかったとよく思えたものだ。それはつまるところ、痛むことがなければ俺は彼女を触っていたということになるのだから。

 

 本当に、甘くなっているよな、俺。自分にも他人にも。

 

 変に目が冴えてしまったので自責を続ける。

 そもそも昨日の取り乱しぶりは情けないことこの上なかった。いくら初めての貫通した傷で慣れない痛みでもあんなに痛がることはなかっただろうし、痛みのショックを利用して気絶しようとしたのも逃げているようで情けなかった。希に宥められたのも(嬉しかったとはいえ)まるで子どもみたいな迷惑と心配のかけた結果だ。この有様だと俺は弱い存在であるため彼女たちに庇護されていなければならないという雰囲気が出来てしまう。そうなれば俺の行動に何かと制限がかかる上、何よりミューズは解散したままで復活は望めないものになる。俺としてはそういった努力も苦労も泡と消える事態だけは避けたい。

 

 ならば今後はどう振る舞うべきか。対策は既に練り上がっている。とはいえいつもの誤魔化しや話題逸らしを昨日のようなことに陥っても出来るようにするってなだけなんですけどね。だから痛みに慣れる訓練をする必要があるのですよ。

 

 試しに右手を見ながら開閉してみる。午後のあれは調子に乗って動かし続けてしまっていたから、今回はどのように動かせばどのくらい痛むのかを確かめながらやっていく。

 

 指を少しずつ開かせ、最後は思い切り指を伸ばす。指が開くごとに傷は少しずつ痛み、全開にした時点で痛みがピークに達する。右の掌が中指と薬指を境に真っ二つになってしまいそうなほどの痛みで思わず握りしめたくなる。

 

 それでも構わず声を押し殺し歯を食いしばって痛覚に慣れていく。と、掌からの妙な温かみが包帯を伝って広がる感覚を覚えた。

 

「やべ」

 

 見るとトマトジュースが包帯に染みだしていることに気付いた。

 

 こりゃ真姫にバレたらいよいよ本当に殺されるかなと笑いを漏らしつつ、訓練を中止にして横になる。

 

 天井を見上げていると眠気がじんわり襲ってきた。目を瞑り、二つ物思いに耽る。

 

 明日彼女たちに聞きたいことがあるから、今のうちにその内容を、話題の触れ方を考えつつまとめておきたい。

 

 ことりの留学の件。それからミューズの通学の件。

 

 ことりは本来、今この時期だと既に海外にいる頃合のはずだった。彼女は元々海外留学の誘いを受けていて、それを俺や海未に相談していた。穂乃果には余計な心配をかけたくないという意向のため一切関与させていない。

 

 しかしことりは留学に行かず入院中の俺に付き添っているのが現状。もしかすると既に誘いを断っているのかもしれない。だとしたら一体どんな理由を言って折角の機会を棒に振ったんだろう? きっと彼女は後悔しているだろうから、付き添ってくれていることを労いつつ優しく聞いてみよう。勿体ないは禁句だ。

 

 次に通学の話。

 俺がここで最初に目覚めてからかれこれ二日は過ぎているが、彼女たちは学校へ行く様子を全く見せない。見せないというか見えないの間違いだわこれ。上半身起こせてなかったんだから。ただここでも勉強や仕事をしているような声は聞こえるから、ずっとここにいるとはいえ学生生活を一応は送れていることが分かる。

 

 ……いや待て。ずっとここにいるのに学生生活を送る意味あるか? そもそも彼女たちに将来設計があるのか? 

 

 加えてよくよく考えてみれば監禁してその後をどうするのか具体的には聞いてなかった。それに完治したらどうするのかも知らない。なんせ駄弁って寝るを繰り返しては、時たま点滴を交換したり尿瓶を使った羞恥プレイに励んだりするだけで一日一日を潰しているからな。

 

 今後のことを考えて、もし学校へ行かせられそうならそうするように誘導するといいか。晴れてミューズが復帰したときに無断欠席の連続で何らかのペナルティを受けたら不便だしな。

 

 だとするとこう聞いた方がいいかな。

 

 学校行かんの? 

 

 うん、この一言で収まるならもっと早く言えばよかったな。ただの雑談すぎる。

 

 もういいや、寝よ。

 

 

 〇

 

 

「あ、すみくんおはよう」

 

「おはようことり」

 

 奇しくも運のいいことに、目覚めたら噂の彼女が覗き込んでいた。

 

 にっこりした笑顔にツヤのあるトサカ。肌も唇もカサつきが見られないから調子がいいと分かる。声もいつも通り鈴の音のようで可愛らしい。

 

「昨日はよく眠れたみたいだね」

 

「目覚めもばっちりですよことりさん」

 

「みたいだね。すみくんいい顔してるもん」

 

 それもこれも悪夢を見なかったゆえの幸せな二度寝の賜物である。まあどうして悪夢にうなされることがなくなったのかは皆目見当も付かないがね。

 

 二度寝と言えばと、ふと時間が気になったので(さりげなく右手のシミを隠しつつ)ことりに聞いてみる。

 

「今何時よ?」

 

「朝の六時だよ」

 

「まだそんな時間か。他のみんなはまだ寝てるやんな?」

 

「うん」

 

 まあそうよなあと自分の中で結論づけて納得している横で、突然ことりが俺の左耳元に口を寄せてきた。

 

「ことりはね、すみくんの寝顔を独り占めしたかったから早起きしちゃったの」

 

 傷の痛みは無視しつつびくんと体が軽く跳ねる。咄嗟に冗句を吐けていないのをいいことにことりは大量の砂糖が少量の水に溶けたような甘い声で続ける。

 

「そうしたら昨日の希ちゃんみたいなことできるかなって思って。でもね、どこにしようかなって考えてたら遅かったみたい」

 

「希が昨日何かしたのか?」

 

 思い返すに、彼女が目立ったことをしていた記憶は俺の右手を包んでくれたことを除いて特にない。とはいえ俺が起きているときはの話だからおそらく寝ているときのことを言っているのだろう。

 

「うん。えっとね……」

 

 声音に変化が訪れる。ねっとりした湿度はなく、さらりと流れていくような甘さだ。まあつまるところ途端に早口になったような気がしたから、

 

「口では言えないこと?」

 

 と踏み込んでみた。

 

 するとことりがこれまた急に黙ったので、左耳のそばにあるだろう彼女の顔へ首を捻った。

 

 目と鼻の先にあることりの顔。

 

 ベージュ色の髪に細い眉。

 

 金色の瞳に長いまつ毛。

 

 薄橙色の肌に薄い唇。

 

 そして(あか)い頬。

 

 返答に困ったり恥ずかしがったりして、視線をあらゆる方向へ泳がせては手で覆わんばかりに伏せる顔も口がもにょもにょしてて困り眉で可愛いなぁ

 

 ……うん。口では言えなくてことりが思わず赤面するようなことを希はしたのね。察したわ。

 

 ことりの気持ちを思うとなんだか微笑ましくなってしまって、つい息を漏らし声を震わせながら口を動かす。

 

「照れるくらいなのに同じことしようと思ったの?」

 

「むーっ、すみくんまたことりをからかってるぅ!」

 

「あっ、しーっ。皆起きるって。からかったのは謝るから」

 

 膨れることりを宥めて顔を改めて突き合わす。思えば初対面の頃は女性の目を見るのに抵抗などの他意はなかったのだが、今ではすっかり照れくささが生じてしまっている。

 

 そんな部分も甘くなっているなと自嘲しつつ、いい加減本題に入らなければならないと判断して、しかし急にそれらの話をしたら警戒されて下手すると紆余曲折を経て詰むかもという懸念もあるので致し方なくもう少し回り道することにした。よくよく考えてみたらただの雑談という結論は深夜テンションの副産物そのものだわ。計画を修正修正っと。

 

 ひとまず今はことりにしか聞けない状況なので留学の件だけを訊ねてみるか。もちろん、

 

うっかりいきなり地雷を踏む

 ↓

 ことりが曇る

 ↓

 ことりの中で何らかの決意がされる

 ↓

 それがミューズ内で共有される

 ↓

 監禁・解散の事実はより強固なものになり、脱出・復活の目論見はより困難なものになる

 

 ような事態を避けつつだ。

 

 そのためには……そうさな、何でも話せるような雰囲気を作っていくかな。

 

「まあそれもこれもことりが可愛いからやってしまったんだけどな」

 

「そ、そんなこと言ったって今回は許さないもんっ。いつもことりをからかって楽しそうなすみくんのこと今日こそ怒るもんっ」

 

「そうやってプリプリ怒るところも可愛いいよな」

 

「むーっ! またそうやってぇ!」

 

「うんうん、もうちょい声を落としてな。ことりってば普段は穂乃果と海未の仲裁役をやってくれているから自分の気持ちをつい抑えちゃうもんな。ただでさえ勉強にスクールアイドルと衣装作りで忙しいのに、お菓子を作ってくれたり他の子たちに気を配ってくれたりしてるもんな。そりゃ余計に自分の気持ちを抑えちゃうよな」

 

「う、えっと……そんなことは……」

 

「なかったらさ、俺にそんな怒らないだろ? 本当に自分を抑えてなくてそうだって言うなら俺がからかってもきっと軽くあしらってたさ」

 

 だから、とまで言葉を止めて、ことりの視線ブレブレな目をじっと見つめる。金色の瞳は俺を捉えず、忙しなく揺れるばかりだ。

 

「いいんだよ、怒ったって。むしろ存分に怒ってほしいな」

 

 久々の作り笑顔の出来具合に若干の不安を抱えながらことりを眺める。

 

 目線がゆっくりとこちらへ修正され、ブレがなくなり安定していく。

 

 そして俺と目が合い、ことりは言葉を絞り出す。

 

「……本当? 本当に怒ってもいいの?」

 

「もちろん。というかできればもっといろんな顔を見せてほしいかなって」

 

 ことりは控えめな方だが感情表現は少なくとも俺よりできているし、むしろ実は穂乃果や海未に劣らず表情豊かではないかと思う。確かに初対面のときは笑顔を崩さないタイプのポーカーフェイスだなとは印象付けていたけど。

 

 まあそれもハリボテに過ぎず結局はただの素敵な女の子だ。己を殺すにはまだ早い。アイドルの観点でも人生の観点でもこれだけは確かだ。

 

「なんならもっとわがままとかお願いとか言ってもいいし、困らせてくれてもいいぜ。それを聞いて、困って、それでも何とかするのが俺の仕事だからな」

 

 そうしてアイドルとしての資質を高めて、俺のために働いてくれればいい。

 

 なるべく柔和な印象を持ってもらうべく作り笑顔に気合いを入れる。具体的には口端の角度と目の細目具合の調整。眠いときに浮かべる笑顔をイメージするのを忘れずに。

 

 さて肝心の彼女の反応なんだが……。

 

 安心したんだか困ったんだかで曖昧な表情をとっている。分かりやすい八の字眉なのに唇がなだらかなUの字になっているからいまいち感情が読み取れない。

 

 そして沈黙がやってきて、時計の秒針が時間を刻む音が響くことおおよそ三十秒。

 

「じゃあすみくん、ことりのお願いを聞いてくれる?」

 

 奇妙なにらめっこを終わらせて口を切ったことりがこれまた恥ずかしそうな不安そうな感情の入り混じった面持ちでそう訊ねる。

 

 頷いて続きを促す。

 

「あのね、早く元気になってほしいの」

 

「…………………………それだけ?」

 

「うん」

 

「まじか」まじか。

 

 まじか。

 

「てっきり無理難題が来るかと……えー……まじかー……」

 

 ことりから顔を逸らし天井を見上げる。天を仰ぐとはよく言うが天井に阻まれては神に願うことすら叶いやしない。やることがないんじゃあミューズ復活の手掛かりも掴めないし誘導もできやしないじゃんか。

 

「こうでもしないとすみくん無茶するでしょ? だからまず怪我を治さないと。保健委員命令ですっ」

 

 ビシッと俺に指を指すことりはそのまま俺の左頬を「えいえいっ」とつつきだした。

 

 仕方がないので拗ねたくなる気持ちを抑えていよいよ本題に入る。楽しそうにしている今のことりなら留学の話題になっても下手なことにならないだろう。

 

「ところでこひょり」頬挟むなや。

 

「んふふ、なぁーに?」

 

「留゛学゛の゛こ゛と゛な゛ん゛だ゛け゛ど゛」鼻つまむなや。

 

「うん、やめにしたよ? ふふふっ」

 

「悩んだr」「それ以上はだーめ。すみくんを連れて行きたくなっちゃう」

 

 頬をつついていた指が俺の唇に触れる。これ以上喋らせないために念入りに押し付けて。

 

「そうなるとみんな困っちゃうから。だからこの話はもうしないで、すみくん。……お願い」

 

 ことりが望まないのであればということで頷き、指を退けてもらう。知りたい答えの目星はついたからこれ以上の言及は必要ないだろう。

 

 俺が訊こうとしたこと。なぜことりは留学に行かなかったのか。ここでまた俺が絡んでいる。

 

 相談を受けたときに俺は彼女に行っても行かなくてもいいと伝えてある。ことりのミューズ所属はそのままに彼女単独でのアイドル活動を始めればいいし、音声収録はデータさえ送ってくれれば問題ないからだ。九人揃ってのイベントや動画撮影などは流石に難しいがそれ以外なら俺や裏方三人娘の方で処理できる。

 

 ゆえに留学に行くかどうかはことり自身の感情にかかっていた。夢を追いかけたいのか、それとも仲間と共にありたいのか。

 

 そこで、俺を連れていきたくなるという言葉から推測するに俺が大怪我を負ったことで気持ちが決まったのだと思う。

 

 まあ恋慕の情が留学断念の原因なんだろう。彼女は後悔しているだろうが俺としては結果オーライではある。

 

 我ながら最低だなと自嘲していると、ことりがおもむろに俺の唇に当てていた指を自分の唇に押し付けだした。つまるところ間接キスですね。

 

「それがことりのしたかった口では言えないこと?」

 

「え!? すみくん見てたのぉ!?」

 

「目の前でやったらそら見るわな」

 

「んー……、ことりちゃん、どうしたん?」

 

「おはよう希。ことりがな? かんs」

 

「関節技って痛いよねって話をしてたの! ほんとだよ!」

 

「いやどんな盛り上がり方やねん……」

 

 さて、聞きたいことは本人から聞けたし、もう一つは全員起きているときに確認しようかね。

 

 そうしてミューズは一人、また一人と目を覚ましていくのでした。




 お粗末様でした。

 さて、この後は次回予告とおまけを用意しなければならないのですがそれはおいおい追加する予定です。

 ところで今回のことりちゃんは次のようなものを意識しました。

・主人公にいたずらやいじわるをしてみたい
・主人公にいたずらやいじわるをされてみたい
・主人公に親切や奉仕をしてみたい
・主人公に親切や奉仕をされてみたい

 ことりたそ欲張りセットです。というか意識したからと言ってそれが全部反映しているわけではないのでご愛嬌。これからですよこれから。

 それではまた来年!

 次回予告!

 午前では聞きそびれた通学の話、ミューズが全員起きているはずの午後ならできるだろう。

 かと言ってことりのときのようなことは可能な限り避けたい。今にして思えばあれだけで済んだのは奇跡なのだ。午前よりももっと慎重に話さなければならない。下手すると復活は望めなくなるからな。

 さて、ことりとふざけ合いながら話の段取りを考えますかね。
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